説明

植物種子抽出組成物及びその製造方法

インビボで活性を有する有効成分であるセロトニン誘導体を多く含み、且つ、副作用の低減された新規な植物種子抽出組成物、該植物種子抽出組成物を含有する食品、飼料、医薬組成物を提供する。また、該植物種子抽出組成物の製造方法であって食品、飼料、医薬組成物の製造に適した方法を提供する。本発明は、脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた植物種子抽出組成物;p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体の含有量の総量と、2−ハイドロキシアークチインの含有量との重量比が、1:0.01〜0.2である紅花種子抽出組成物;脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出する工程を含む植物種子抽出組成物の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、動脈硬化の予防等に用いることができる新規な植物種子抽出組成物、該植物種子抽出組成物を含有する食品、飼料及び医薬組成物、並びに該植物種子抽出組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
近年のライフスタイルの欧米化に伴い、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などといった動脈硬化性疾患が、ガンとならんで日本人の死因のトップを形成するようになった。動脈硬化巣形成の初期にはLDL(低比重リポタンパク)の酸化が重要な役割を果たしている事はほぼコンセンサスが得られていることから、血中コレステロールレベルを適切な領域に管理するだけでなく、酸化LDLの生成を制御することの重要性が最近指摘されるようになってきた。
食品、特に植物由来のものの中には豊富に抗酸化物質が含まれていることが分かっており、緑茶や赤ワインに含まれる抗酸化物質がLDLに取り込まれて(あるいはその近傍で)ラジカルを消去することにより酸化LDLの生成を防ぐのではないかと考えられている(Fuhrmanら、Am.J.Clin.Nutr.,61:pp549−54,1995)。これらの食品の積極的な摂取がガンや心臓病を抑制するとの疫学的研究もある(Renaudら、Lancet,339:pp1523−26,1992)。
ところで、ゴマ種子リグナン、ブドウ種子ポリフェノールなどの特定の植物種子由来の特定成分が実験動物に対して抗動脈硬化作用を示すとの報告はある(Kangら、J.Nutr.,129:pp1885−90,1999;Yamakoshiら、Atherosclerosis,142:pp139−49,1999)。しかしながら、このように植物種子の成分が動物実験レベルで抗動脈硬化性が明らかにされた例はまだわずかであって、多くの研究は試験管レベルにとどまっているのが実情である。例えば、特開平8−337536号公報には、植物種子を焙煎し、発酵処理したものから抽出した抗活性酸素作用剤が開示されている。この技術では、原料として植物種子を利用しているものの、焙煎、発酵処理などの操作を必要としているため汎用性が低く、実用的な方法ではない。また、動脈硬化抑止に効果を奏することは明確には示されていない。また、Zhangら(Zhangら、Chem.Pharm.Bull.,45:pp1910−14,1997)は、紅花の油粕から各種溶媒の分配操作により抽出した化合物群の構造を示し、それらの中にはインビトロで抗酸化活性を有するものがあることを示している。しかしながら、これらの抗酸化活性を有する化合物が動脈硬化予防に有効であることは現状では明らかではない。インビトロの抗酸化活性がインビボにおける抗動脈硬化活性と必ずしも相関しないことが知られている(Fruebisら、J.Lipid Res.,38:pp2455−64,1997;Fruebisら、Atherosclerosis,117:pp217−24,1995;Mundayら、Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.,18:pp114−19,1998)ことを考慮すると、植物種子中の抗酸化物質が抗動脈硬化性を有するか否かは、少なくとも実験動物レベルで確認される必要があるものと思われる。Moonらは紅花種子の粉末、エタノール抽出物あるいは熱水抽出物にコレステロール負荷食を与えたラットの血中コレステロール上昇を抑制する作用を見出している(Moonら、Nutr.Res.,21:pp895−904,2001)が、このラットへのコレステロール負荷実験結果はコレステロール吸収抑制を評価しているものであり、動脈硬化抑制を評価しているものではない。
一方、紅花種子にはインビトロで抗酸化活性、抗炎症活性が知られているセロトニン誘導体が含まれていることが知られている(Zhangら、Chem.Pharm.Bull.,44:pp874−876,1996;Kawasakiら、J.Interferon Cytokine Res.,18:pp423−428,1998)。また、紅花種子中には配糖体であるセロトニン誘導体が含まれていることが知られている(Zhangら、Chem.Pharm.Bull.,45:pp1910−14,1997)。さらに、紅花種子にはセロトニン誘導体と下痢誘起性物質としてフェノール性配糖体である2−ハイドロキシアークチイン(2−hydroxyarctiin)が含まれていることが報告されている(Palter.R.ら、Phytochemistry,11:pp2871−2874,1972)。この2−ハイドロキシアークチインはpH5の水で抽出されることが報告されているが、セロトニン誘導体の挙動については調べられていない(Lyon.C.K.ら、J.Amer.Oil Chem.Soc.,56:pp560−564,1979)。
【発明の開示】
本発明の課題は、インビボで活性を有する有効成分を多く含み、且つ、副作用の低減された新規な植物種子抽出組成物、該植物種子抽出組成物を含有する食品、飼料、医薬組成物を提供すること、及び該植物種子抽出組成物の製造方法であって食品、飼料、医薬組成物の製造に適した方法を提供することにある。
本発明者らのうち小山らは脱脂後の植物種子、なかでも紅花種子や菜種種子の有機溶媒抽出物(脱脂種子の含水エタノール抽出液をヘキサンにて洗浄後、酢酸エチルにより抽出された抽出物)がインビトロでヒト血漿中のLDLの酸化を抑制する作用を有することを見出し、さらにインビボで、脱脂後の植物種子の有機溶媒抽出物がマウスの血管内壁に形成する粥状斑(プラーク)の形成を抑制する作用を有し、実験動物で動脈硬化予防に有効であるという知見を得た(PCT/JP03/04607)。また、本発明者らのうち小山らはセロトニン誘導体(p−クマロイルセロトニンとフェルロイルセロトニン)の混合物が実験動物で動脈硬化予防に有効であるという知見を得た(PCT/JP03/04607)。この知見から、これらのセロトニン誘導体と同様に、紅花種子中に含まれていることが知られている配糖体であるセロトニン誘導体がインビボで活性を有し動脈硬化予防に有効であることは容易に類推できる。
ところで動脈硬化予防にとって下痢は有害なものである。そこで本発明者らは、上記の実情及び知見に鑑み、インビボで活性を有し動脈硬化予防に有効であるセロトニン誘導体の含有量が多く、且つ、下痢誘起性物質である2−ハイドロキシアークチインの含有量が少ない植物種子抽出組成物を得ること、且つ、かかる組成物を得るための抽出方法の開発に着目した。
本発明者らは、上記課題を解決するためにさらに鋭意研究した結果、脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出することで、セロトニン誘導体の含有量が多く、且つ、2−ハイドロキシアークチインの含有量が少ない組成物が得られることを初めて見出して本発明を完成するに至った。本発明の方法は、食品、飼料、医薬組成物の製造に通常使用可能な製造用剤を用いて行うことができるので、食品、飼料、医薬組成物の製造に適している。本発明は以下の項目を包含する。
(1)脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた植物種子抽出組成物。
(2)脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた抽出物を濃縮、乾燥して得られたものである植物種子抽出組成物。
(3)植物種子が、紅花の種子である上記(1)または(2)に記載の組成物。
(4)p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体の含有量の総量と、2−ハイドロキシアークチインの含有量との重量比が、1:0.01〜0.2である紅花種子抽出組成物。
(5)脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られたものである上記(4)に記載の組成物。
(6)脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた抽出物を濃縮、乾燥して得られたものである上記(4)に記載の組成物。
(7)有機溶媒が、低級アルコールである上記(1)、(2)、(3)、(5)または(6)に記載の組成物。
(8)低級アルコールが、エタノールである上記(7)に記載の組成物。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物を含有する食品。
(10)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物を含有する飼料。
(11)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物を含有する医薬組成物。
(12)脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出する工程を含む植物種子抽出組成物の製造方法。
(13)脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた抽出物を濃縮、乾燥する工程を含む植物種子抽出組成物の製造方法。
(14)植物種子が、紅花の種子である上記(12)または(13)に記載の製造方法。
(15)有機溶媒が、低級アルコールである上記(12)、(13)または(14)のいずれかに記載の製造方法。
(16)低級アルコールが、エタノールである上記(15)記載の製造方法。
本発明の植物種子抽出組成物は、有効成分であるセロトニン誘導体の含有量が多く、且つ、下痢誘起性化合物である2−ハイドロキシアークチインの含有量が少ない新規な組成物である。本発明の方法によれば上記植物種子抽出組成物を好適に製造することができ、また、本発明の方法は、一般に食品、飼料等の用途に資するためには製造用剤として用いることが好ましくない酢酸エチルを用いなくても製造することができるので、食品、飼料等の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
図1は、参考例1における、各試料のLDLの被酸化性に及ぼす効果を示すグラフである。
図2は、参考例2において、紅花ミール抽出組成物、菜種ミール抽出組成物がapoE(−/−)マウス〔動脈硬化モデルマウス〕(投与5週目、14週齢)の大動脈での動脈硬化を抑制する効果を有することを示す写真の概略図であり、(a−1)は対照群を(b−1)は紅花群を(c−1)は菜種群を示す。写真は、本来カラー写真であり、赤く染色されている部分が粥状斑である。図2は、該赤く染色されている部分を明確にするために該写真を作図し、赤く染色されている部分を黒く塗りつぶして示した概略図である。
図3は、参考例3における、各試料投与15週目のapoEノックアウトマウス(21週齢、オス)の大動脈起始部病変面積を示すグラフである。図中、SFMは紅花ミール抽出組成物を、CSはp−クマロイルセロトニンを、FSはフェルロイルセロトニンを示す。
発明の詳細な説明
本発明で用いる植物種子は、どの植物の種子でも良く、例えば紅花、菜種、大豆等の種子が挙げられるが、好ましくは紅花の種子である。本発明において植物種子とは、植物種子を構成する全体、あるいはその一部、例えば、種皮、胚乳、胚芽等をとりだしたものでもよく、また、それらの混合物であってもよい。
本発明では脱脂後の植物種子、即ち脱脂物(ミール)を原料として用いる。植物種子の脱脂物は、自体公知の方法により植物種子を脱脂して得ることができるが、例えば種子を圧搾抽出するか又は種子の破砕物にn−ヘキサン等を加えて抽出した後、抽出系から固形分を取り出し、該固形分を乾燥して得ることができる。脱脂程度は通常60重量%以上、好ましくは80重量%以上である。
本発明は、後述の有機溶媒抽出の前に、原料である脱脂後の植物種子を水で洗浄することを特徴とする。
水は、特に限定されず、例えば蒸留水、水道水、工業用水及びこれらの混合水等のいずれも用いることができる。水には、本発明の効果が得られる限り、他の物質、例えば無機塩(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等)、酸(例えば塩化水素、酢酸、炭酸、過酸化水素、リン酸等)、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等)等を含んでいてもよい。洗浄の際のpHは通常2〜9であり、好ましくは5〜7である。
水の使用量は、総量として、原料である脱脂後の植物種子に対して、通常2〜100倍量(水容量/脱脂後の植物種子重量、以下同様)、好ましくは10〜40倍量である。
洗浄は、自体公知の方法で、原料である脱脂後の植物種子と水とを接触させて行うことができる。例えば、脱脂後の植物種子を水に懸濁後、濾過して固形の洗浄処理物を回収する方法等が挙げられる。洗浄は、上記の量の水を、脱脂後の植物種子に一度に又は複数回に分けて、又は連続的に接触させて行ってもよい。接触させる際の温度は通常5〜45℃、好ましくは25〜35℃である。接触させる時間は通常10〜240分であり、好ましくは15〜60分である。
本発明は、上記のようにして得られた脱脂後の植物種子の洗浄処理物から有機溶媒で抽出して植物種子抽出組成物を得ることを特徴とする。
有機溶媒として、例えば、低級アルコール、アセトン及びそれらの混合溶媒等が挙げられるが、それらに限定されない。有機溶媒は、水を含んでいてもよく、無水物であってもよい。有機溶媒の濃度は、通常20〜95重量%、好ましくは50〜90重量%である。有機溶媒は抽出後の抽出物の濃縮、乾燥及び食品製造の点からは低級アルコールが好ましい。低級アルコールとして、例えば炭素数1〜4のアルコールが挙げられ、具体的には例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、これらに限定されない。低級アルコールは、食品製造の点からは、エタノールが好ましい。エタノールは、エタノール分を50重量%以上含む含水エタノールあるいは無水エタノールが好ましい。
有機溶媒の使用量は、原料である脱脂後の植物種子の通常2〜40倍量(有機溶媒容量/脱脂後の植物種子重量、以下同様)、好ましくは2〜10倍量である。抽出温度は通常20〜75℃、好ましくは50〜70℃である。抽出時間は通常10〜240分、好ましくは60〜120分である。
抽出後、懸濁液より濾過等により固形分を分離して得られた抽出液は、そのまま、又は必要により濃縮、乾燥して本発明の植物種子抽出組成物として用いることができる。濃縮、乾燥は抽出液そのままを濃縮、乾燥してもよく、賦型剤(例えば乳糖、ショ糖、デンプン、サイクロデキストリン等)を添加して実施してもよい。上記の溶媒で抽出された組成物は、その純度で、本発明の植物種子抽出組成物として有用であるが、更に自体公知の方法により精製しても良い。
上記の方法により得られた本発明の植物種子抽出組成物を食品、飼料、医薬組成物(動脈硬化予防剤等)として用いるときは、組成物が生理的に有害な溶媒中に存在する場合には、乾燥させたものか、又はその乾燥物を生理的に許容できる溶媒中に溶解、懸濁又は乳化させた物を用いる。組成物の形態として、水性液などの液状物や、減圧濃縮し乾固させた固体、凍結乾燥品などの固形物を含む。
上記の方法により得られた本発明の植物種子抽出組成物は、セロトニン誘導体(例えばp−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体等)の含有量が総量として多く、且つ、2−ハイドロキシアークチインの含有量が少ないことを特徴とする。ここで含有量とは、賦形剤を添加した場合には、添加した賦形剤を除いて求めた含有量を意味する。上記の方法により得られた本発明の植物種子抽出組成物のうち例えば紅花種子抽出組成物は、組成物の純度等によっても異なるが、p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体を総量として、植物種子抽出組成物総量に対して、通常10〜70重量%、好ましくは20〜50重量%で含み、2−ハイドロキシアークチインの含有量が、植物種子抽出組成物総量に対して、通常20重量%以下、好ましくは5重量%以下である。また、上記の方法により得られた本発明の植物種子抽出組成物のうち例えば紅花種子抽出組成物は、p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体の含有量の総量と、2−ハイドロキシアークチインの含有量との重量比が、通常1:0.05〜0.2であり、好ましくは1:0.01〜0.2である。
本発明は、また、p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体の含有量の総量と、2−ハイドロキシアークチインの含有量との重量比が、1:0.05〜0.2であり、好ましくは1:0.01〜0.2である新規な紅花種子抽出組成物に関する。本発明の新規な紅花種子抽出組成物は、上記した本発明の方法により好適に製造することができる。
本発明において、セロトニン誘導体の含有量は、高速液体クロマトグラフィを用いて、資生堂社製Capcell Pak C18カラムで含水アセトニトリルをリニアグラジエントで展開溶剤として、UV290nmをモニターし、標準試料と比較を行い測定した値をいう。本発明において、2−ハイドロキシアークチインの含有量は、高速液体クロマトグラフィを用いて資生堂社製Capcell Pak C18カラムで含水アセトニトリルをリニアグラジエントで展開溶剤としてUV279nmをモニターし、標準試料と比較を行い測定した値をいう。
本発明の植物種子抽出組成物、特に紅花種子抽出組成物は、セロトニン誘導体の含有量が多いので、セロトニン誘導体の投与若しくは摂取、又は予防的な投与若しくは摂取が有効な疾患の治療又は予防、例えば動脈硬化の予防等に用いることができる。加えて、本発明の植物種子抽出組成物、特に紅花種子抽出組成物は、下痢誘起性物質である2−ハイドロキシアークチインの含有量が少ないので副作用が少ない。従って、本発明の植物種子抽出組成物、特に紅花種子抽出組成物は、動脈硬化予防剤等の医薬組成物、動脈硬化予防用等の食品、動脈硬化予防用等の飼料として極めて有用である。
本発明の植物種子抽出組成物、特に紅花種子抽出組成物は、動脈硬化を予防する結果、動脈硬化に起因する疾患、例えば狭心症、心筋梗塞、間歇性跛行、脳梗塞等の予防に有用である。
本発明の植物種子抽出組成物は、ヒト、ヒト以外の動物(例えば、ヒト以外の哺乳類(ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ等の家畜)、鳥類(シチメンチョウ、ニワトリ等の家禽)等)等に適用することが有用である。
本発明の「食品」は、食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品をも含むものであり、さらにサプリメントも包含される。
食品、飼料、医薬組成物として、本発明の植物種子抽出組成物そのものを用いることができる。また、本発明の植物種子抽出組成物を、様々な食品、例えば、ドレッシング、マヨネーズ等の一般食品(いわゆる健康食品を含む)に含有させて用いることもできる。更に、本発明の植物種子抽出組成物を、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン等)、場合によっては、香料、色素等と共に、錠剤、丸剤、顆粒、細粒、粉末、ペレット、カプセル、溶液、乳液、懸濁液、シロップ及びトローチ等に製剤化して、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメント、医薬製剤(医薬組成物)(主に経口用)として用いることができる。また、本発明の植物種子抽出組成物は、飼料用途にも適用することができ、家禽や家畜等には、通常の飼料に添加して摂取又は投与することができる。
特に、医薬組成物の場合、医薬として許容できる担体(添加剤も含む)と共に製剤化することができる。医薬として許容できる担体として、当業者公知のように、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デンプン、D−マンニトール等)、結合剤(例えば、セルロース、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の植物種子抽出組成物の摂取量又は投与量は、組成物の純度、対象人の年齢、体重、健康状態、疾患の種類等によって異なるが、例えば動脈硬化予防用として、通常、成人1日当たり10mg〜10g、好ましくは、100mg〜10gを1日1回から数回にわけて摂取又は服用するのが好ましい。
本発明の方法により製造した植物種子抽出組成物は、従来から食用等として用いられてきた植物種子、特に食用油の原料の紅花の種子を用い、且つ、下痢誘起性物質の含有量が少ないため、毒性は極めて低く、副作用は殆ど認められない。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に例示するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
脱脂後の紅花種子(紅花ミール)0.1kgを攪拌機付き容器にとり、水0.5Lを加え、温度30℃で30分間攪拌し、次いで内容物を室温下、遠心濾過機(200g)にかけて固形分と洗浄液分とに分離した。固形分に水0.5Lを加える洗浄を4回繰り返した。次いでこの洗浄済みミール0.17kgに含水エタノール(水:エタノール=1:9重量比)溶液0.5Lを加え、60℃で1時間攪拌し、内容物を遠心濾過機(200g)にかけて固形分と抽出液分とに分離し、0.5Lの抽出液を得た。この抽出液0.5Lを減圧濃縮後、真空乾燥を行い、紅花ミール抽出物2.7gを得た。
[実施例2]
脱脂後の紅花種子(紅花ミール)0.1kgを攪拌機付き容器にとり、水0.5Lを加え、温度30℃で30分間攪拌し、次いで内容物を室温下、遠心濾過機(200g)にかけて固形分と洗浄液分とに分離した。固形分に水0.5Lを加える洗浄を4回繰り返した。洗浄済みミール0.17kgに含水エタノール(水:エタノール=5:5重量比)溶液0.5Lを加え、60℃で1時間攪拌し、内容物を遠心濾過機(200g)にかけて固形分と抽出液分とに分離し、0.5Lの抽出液を得た。この抽出液0.5Lを減圧濃縮後、真空乾燥を行い、紅花ミール抽出物2.4gを得た。
[実施例3]
脱脂後の紅花種子(紅花ミール)0.1kgを攪拌機付き容器にとり、水2Lを加え、温度30℃で30分間攪拌し、次いで内容物を室温下、遠心濾過機(200g)にかけて固形分と洗浄液分とに分離した。洗浄済みミール0.17kgに含水エタノール(水:エタノール=1:9重量比)溶液0.5Lを加え、60℃で1時間攪拌し、内容物を遠心濾過機(200g)にかけて固形分と抽出液分とに分離し、0.5Lの抽出液を得た。この抽出液0.5Lを減圧濃縮後、真空乾燥を行い、紅花ミール抽出物2.4gを得た。
比較例1
脱脂後の紅花種子(紅花ミール)0.1kgに含水エタノール(水:エタノール=1:9重量比)溶液0.5Lを加え、60℃で3時間攪拌し、内容物を吸引濾過にかけて固形分と抽出液分とに分離し、0.5Lの抽出液を得た。第2工程として、この抽出液0.5Lを減圧濃縮後、水0.1Lに溶解した。この水溶液0.1Lをヘキサン0.1Lを添加、洗浄した後、酢酸エチル0.1Lを添加し、混合後、分配を実施し、酢酸エチル層を得た。この酢酸エチル抽出液を減圧濃縮、真空乾燥を行い紅花ミール抽出物1.2gを得た。
[実施例4] 紅花ミール抽出物の分析及び評価
製造した各例の紅花ミール抽出物について、紅花ミール抽出物の分析を下記の方法により行い、p−クマロイルセロトニン(CS)、フェルロイルセロトニン(FS)、p−クマロイルセロトニン配糖体(CS−Glc)、フェルロイルセロトニン配糖体(FS−Glc)、及び、2−ハイドロキシアークチインを分析した。結果を表1〜3に示した。



セロトニン誘導体の分析
紅花ミール抽出物5mgをエタノール50mlに溶解分散した。この分散物を分析試料とした。この分析試料を下記の条件で高速液体クロマトグラフィに供して、セロトニン誘導体を分析した。尚、標準試料としてのp−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニンはセロトニンとtrans−4−クマル酸或いはtrans−4−フェルラ酸との縮合で得たものを使用した。p−クマロイルセロトニン配糖体、フェルロイルセロトニン配糖体はChemical and Pharmaceutical Bulletin 45巻 1910−1914(1997)に記載の方法で得たものを使用した。
高速液体クロマトグラフィの条件
固定相:資生堂Capcell Pak C18 5μm
カラム径:4.6mm、カラム長:250mm
展開溶剤:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液から0.1%トリフルオロ酢酸−40%アセトニトリル水溶液まで、40分間のリニアグラジエント
展開溶剤流量:1ml/分
検出器:UV(290nm)
2−ハイドロキシアークチインの分析
各例の紅花ミール抽出物5mgをエタノール50mlに溶解分散した。この分散物を分析試料とした。この分析試料を下記の条件で高速液体クロマトグラフィに供して、2−ハイドロキシアークチインを分析した。尚、標準試料としての2−ハイドロキシアークチインはJournal of the American oil chemists’ society 35巻560−564(1978)に記載の方法で得たものを使用した。
高速液体クロマトグラフィの条件
固定相:資生堂Capcell Pak C18 5μm
カラム径:4.6mm、カラム長:250mm
展開溶剤:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液から0.1%トリフルオロ酢酸−40%アセトニトリル水溶液まで、40分間のリニアグラジエント
展開溶剤流量:1ml/分
検出器:UV(279nm)
[実施例5]
ラット(SD(IGS)、オス、7週齢)に紅花ミール抽出物(表1組成物、および表3組成物)を単回経口投与(0.5%カルボキシメチルセルロースに懸濁)し、投与後24時間までの下痢、軟便の有無を糞皿上で直接確認した。結果を表4に示した。
表4から明らかなように、比較例1の水洗未実施サンプル(表3組成物)を経口投与したラットにおいては1,000mg/kgで全例に下痢が認められたが、実施例1(本発明)の水洗後抽出サンプル(表1組成物)を経口投与したラットでは、200mg/kgでは無作用、1,000mg/kgの高用量区でも下痢は2/7例にとどまり、瀉下性に改善が認められた。

参考例1 (インビトロの抗酸化性データ)
搾油後の紅花ミール100gに500mlの90容量%エタノール水を加え、60℃の湯浴中で3時間、加温、攪拌した後、ろ過した。ろ過後の固形分に対して同様の操作を1回行い、得られたろ過液を合一し減圧濃縮にて60mlの濃縮液を得た。濃縮液に水を加え200mlとし、内容物を懸濁した後、120mlのn−ヘキサンにて2回洗浄し、洗浄後の水層を酢酸エチル100mlで2回抽出した。酢酸エチル抽出液を飽和食塩水で洗浄後、酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、ろ過後減圧濃縮して固形物1.16gを得た。同時に、それぞれ搾油後の、菜種ミール、大豆ミール、大豆胚芽ミール、大豆種皮についても同様な処理を加えたものを調製し、1/10量の抽出物に1mlのDMSOを加え溶解したものを試料とした。
ヒトボランティアから得た血漿(KBrにて比重=1.21(g/ml)に調整)を不連続密度勾配遠心(417,000xg,40min,4℃)(OptimaTLX;ベックマンコールター)にかけ、LDLのバンドをシリンジで採取した。LDL画分のタンパク含量を測定し(BCAプロテインアッセイキット;ピアース)、終濃度100μgタンパク/mlとなるようにリン酸塩緩衝液(PBS)で希釈したものに上記試料を1/100量添加した後、ラジカル開始剤(V70;2,2’−azobis(4−methoxy−2,4−dimethylvaleronitrile))を終濃度1mM添加し、直ちに過酸化脂質中の共役ジエン構造に基づく234nmの吸収を5時間にわたってモニターした(DU640;ベックマンコールター)。得られた過酸化脂質生成曲線から、近藤ら(J.Nutr.Sci.Vitaminol.,43:pp435−44,1997)の方法に従ってラグタイムを計算し、コントロール(対照)区(溶媒のみ添加)の値を100とした相対値で各試料がLDLの被酸化性に及ぼす影響を評価した(図1)。いずれの試料もLDLの被酸化性を多かれ少なかれ抑制(すなわち、ラグタイムを延長)する傾向が見られたが、菜種ミールと紅花ミールはとりわけ強くLDLの酸化を抑制した。上記の試験で、希釈されたヒトLDLと混ぜる前の段階での各試料の希釈倍率は、菜種ミール、紅花ミールは200倍希釈、他は50倍希釈である。
参考例2 (インビボの動脈硬化予防効果)
菜種ミール、および紅花ミールの抽出物の調製は以下のようにして行った。
搾油後の菜種ミール600gに3000mlの90容量%エタノール水を加え、60℃の湯浴中で3時間、加温、攪拌した後、ろ過した。ろ過後の固形分に対して同様の操作を1回行い、得られたろ過液を合一し減圧濃縮にて500mlの濃縮液を得た。濃縮液に水を加え1000mlとし、内容物を懸濁した後、500mlのn−ヘキサンにて2回洗浄し、洗浄後の水層を酢酸エチル500mlで2回抽出した。酢酸エチル抽出液を無水硫酸マグネシウムで脱水し、ろ過後減圧濃縮して抽出物12.5gを得た。
搾油後の紅花ミール600gに対して上記と同様の操作を実施、10.1gの抽出物を得た。
9週齢の雄性apoEノックアウトマウス(apoE(−/−);ジャクソンラボラトリーより購入)を1群9匹として対照/菜種(菜種ミール抽出物投与群)/紅花(紅花ミール抽出物投与群)の3群に分け、各群ごとにそれぞれ表5に示すような組成の餌を5週間自由摂取させた。2週目(n=6)と5週目(n=3)にマウスを屠殺し、大動脈起始部より大腿動脈分岐部までの大動脈を摘出し、Sudan IVで染色される血管内壁部分に形成された粥状斑(プラーク)の面積を対照群のそれと比較した。2週間の投与で菜種群、紅花群では対照群に比べてプラーク形成が抑制される傾向を示した。その後3週間延長投与された群同士の比較において上記の傾向は更に強まり(プラーク面積:紅花<菜種<対照)、これらの油糧植物ミール抽出物に動脈硬化の初期病変形成を抑制する効果があることが示された(図2)。

参考例3
6〜7週齢の雄性apoEノックアウトマウス(ジャクソンラボラトリーより購入)を1群7〜10匹として、対照(Control)/セロトニン誘導体0.2重量%投与群(p−クマロイルセロトニン(CS)、フェルロイルセロトニン(FS)各0.1%)(CS+FS、0.2%)/セロトニン誘導体0.4重量%投与群(p−クマロイルセロトニン(CS)、フェルロイルセロトニン(FS)各0.2%)(CS+FS、0.4%)/フェルロイルセロトニン(FS)0.4重量%投与群(FS、0.4%)/紅花ミール抽出物(SFM)1重量%投与群(SFM、1%)の計5群に分け、各群ごとにそれぞれ表6に示すような組成の餌を15週間自由摂取させた。なお、本参考例で使用した紅花ミール抽出物(SFM)は、参考例2に示した方法に従い調製されたものである。投与期間終了後、マウスを屠殺し、大動脈起始部の切片を作製して脂質沈着部位(動脈硬化病変)をオイルレッド0で染色した。1個体につき3枚の切片を作製し、そのうち最も大動脈弁が明瞭に認められる標本について画像解析(WinROOF(三谷商事)使用)を行い、Rajendraらの方法(J.Lipid Res.,36:pp2320−2328,1995)に基づいて病変面積を測定した。得られた病変面積については各群間で分散分析を行い、有意差が認められた場合にScheffe検定で群間の平均値を比較した。インビトロでの抗酸化活性、抗炎症性が知られている紅花ミール中の主要なフェノール性物質であるセロトニン誘導体(Zhangら、Chem.Pharm.Bull.,44:pp874−876,1996、Kawashimaら、J.Interferon Cytokine Res.,18:pp423−428,1998)はapoEノックアウトマウスの病変形成を部分的に抑制したが、紅花ミール抽出物(SFM、セロトニン誘導体を10〜30重量%含有)はそれ以上に強く抑制することが判明した(図3)。

【産業上の利用可能性】
以上述べたことから、本発明により提供される植物種子抽出組成物は、動脈硬化の予防に顕著に有効であることが明らかである。また、本発明の植物種子抽出組成物は天然由来の素材であることから、安全性が高く、副作用がほとんど無いので、本発明の食品、飼料、医薬組成物は、使用上の問題が無く有利である。さらに、本発明の方法は、有効成分の含有量が多く下痢誘起性物質の含有量が少ない本発明の植物種子抽出組成物を得るために有効である。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正および変更も、すべて後記の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2003−352829を基礎としており、それらの内容は本出願にすべて包含されるものである。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた植物種子抽出組成物。
【請求項2】
脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた抽出物を濃縮、乾燥して得られたものである植物種子抽出組成物。
【請求項3】
植物種子が、紅花の種子である請求の範囲1または2に記載の組成物。
【請求項4】
p−クマロイルセロトニン、フェルロイルセロトニン、p−クマロイルセロトニン配糖体及びフェルロイルセロトニン配糖体の含有量の総量と、2−ハイドロキシアークチインの含有量との重量比が、1:0.01〜0.2である紅花種子抽出組成物。
【請求項5】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られたものである請求の範囲4に記載の組成物。
【請求項6】
脱脂後の紅花の種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた抽出物を濃縮、乾燥して得られたものである請求の範囲4に記載の組成物。
【請求項7】
有機溶媒が、低級アルコールである請求の範囲1、2、3、5または6に記載の組成物。
【請求項8】
低級アルコールが、エタノールである請求の範囲7に記載の組成物。
【請求項9】
請求の範囲1〜8のいずれかに記載の組成物を含有する食品。
【請求項10】
請求の範囲1〜8のいずれかに記載の組成物を含有する飼料。
【請求項11】
請求の範囲1〜8のいずれかに記載の組成物を含有する医薬組成物。
【請求項12】
脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出する工程を含む植物種子抽出組成物の製造方法。
【請求項13】
脱脂後の植物種子を水で洗浄し、得られた洗浄処理物から有機溶媒で抽出して得られた抽出物を濃縮、乾燥する工程を含む植物種子抽出組成物の製造方法。
【請求項14】
植物種子が、紅花の種子である請求の範囲12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
有機溶媒が、低級アルコールである請求の範囲12、13または14に記載の製造方法。
【請求項16】
低級アルコールが、エタノールである請求の範囲15記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/034975
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514639(P2005−514639)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015087
【国際出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】