説明

検体分析装置および検体分析方法

【課題】検体に含まれる細菌の種類がどのように変化したかの情報を迅速に取得できる検体分析装置および検体分析方法を提供する。
【解決手段】検体分析装置は、検体と試薬とから調製された測定試料に光を照射し、測定試料から生じる散乱光および蛍光を検出する。検出された散乱光情報および蛍光情報を含む測定結果が取得され、取得された測定結果は、記憶部に記憶される。記憶された測定結果に基づき、細菌の情報を示す細菌情報領域406が表示される。また、前回と今回との間で、検体中の細菌の種類に変化があるか否かが判定され、検体中の細菌の種類に変化がある場合には、変化があることを示す変化情報408が表示される。これにより、検体を採取した被験者に対して、適切な治療が行われているかが確認され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体と試薬とから調製された測定試料に光を照射して検体を分析する検体分析装置および検体分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査等において、細菌の検出が行われている。かかる細菌の検出は、たとえば、検体を培養して作られたコロニーを、直接目視して検査する方法により為され得る。この検査方法では、検体中に含まれる細菌の種類や数が同定され得る。しかし、検体が培養されてコロニーが作られるまでに数日を要するため、検査の迅速性に欠けるとの問題がある。
【0003】
これに対し、特許文献1には、スキャッタグラムを用いた細菌の判定方法が開示されている。この方法では、検体に含まれる細菌の大きさ情報と蛍光情報とをパラメータとするスキャッタグラムが作成される。そして、スキャッタグラム上の細菌の分布状態が解析され、その解析結果に基づいて、検体中の細菌の種類が桿菌であるか球菌であるかが判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−305173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の方法では、細菌の種類は判定されるものの、それ以外の情報を、ユーザに提示することはできない。治療・診断において、たとえば、細菌の種類が、以前の状態から変化したことが迅速に提示されると、ユーザは、病状の進行具合や、これまでに行った投薬・治療の有効性を適正に知ることができる。そして、この情報に基づき、当該被験者に対し、より適切な処置を講じることができる。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みて為されたものであり、検体に含まれる細菌の種類がどのように変化したかの情報を迅速に取得できる検体分析装置および検体分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る検体分析装置は、被験者の検体と試薬とから調製された測定試料に光を照射する光源部と、前記光源部からの光により測定試料から生じる散乱光および蛍光を検出する検出部と、記憶部と、前記検出部により検出された散乱光情報および蛍光情報に基づき測定結果を取得し、取得した前記測定結果を前記記憶部に記憶させる制御部と、表示部と、を備える。ここで、前記制御部は、今回取得した前記測定結果と、前記記憶部に記憶された前記被験者の前記測定結果とに基づき、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定し、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化がある場合には、変化があることを示す情報を前記表示部に表示させる。
【0008】
本態様に係る検体分析装置によれば、検体中の細菌の種類に変化がある場合には、表示部にその旨が表示されるため、ユーザは、検体中の細菌の種類に変化があることを容易に知ることができる。これにより、検体を採取した被験者に対して治療が行われている場合、その被験者に対して適切な処置をとることができる。
【0009】
本態様に係る検体分析装置において、前記制御部は、前記散乱光情報と前記蛍光情報とに基づく細菌の特徴値をプロットしたスキャッタグラムを生成し、前記スキャッタグラムに複数の領域を設定し、前記各領域に含まれるプロット数に基づいて前記測定結果を取得する構成とされ得る。
【0010】
また、本態様に係る検体分析装置において、前記制御部は、前記スキャッタグラムの原点を回転中心とした所定の傾斜角毎に前記スキャッタグラムを区分して前記複数の領域を設定する構成とされ得る。
【0011】
また、本態様に係る検体分析装置において、前記制御部は、隣り合う領域よりも前記プロット数が多い前記領域の変化に基づいて、検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定する構成とされ得る。
【0012】
さらに、本態様に係る検体分析装置において、前記制御部は、前記傾斜角と前記プロット数とから生成されたヒストグラムに基づいて、検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定する構成とされ得る。
【0013】
このように、スキャッタグラムを分割した領域内のプロット数に基づいて判定を行うと、比較的簡易な処理により、細菌の種類の変化を、精度良く判定することができる。
【0014】
また、前記制御部は、被験者の検体中の細菌の種類の数に変化があるか否かを判定する構成とされ得る。こうすると、細菌の種類数が変化したかを容易に確認することができ、これにより、検体を採取した被験者に対して適切な処置をとることができる。
【0015】
また、本態様に係る検体分析装置において、前記検体分析装置は、尿検体の分析に用いられ、前記制御部は、今回取得した前記測定結果と、前記記憶部に記憶された前記被験者の前記測定結果とに基づき、被験者の尿路感染症が単純性と複雑性との間で変化したか否かを判定し、変化がある場合には、変化があることを示す情報を前記表示部に表示させる構成とされ得る。こうすると、尿路感染症が単純性と複雑性との間で変化したかを容易に確認できる。これにより、検体を採取した被験者に対して適切な治療を行うことができる。
【0016】
また、本態様に係る検体分析装置において、前記制御部は、被験者の薬の投与履歴を被験者毎に前記記憶部に記憶させる構成とされ得る。こうすると、薬の投与によって、検体中の細菌の種類がどのように変化したかを判断することができるため、より効果的な薬の投与が行われ得る。
【0017】
また、前記制御部は、前記被験者の前記測定結果に関する表示を時系列で行うとともに、前記被験者の薬の投与履歴を併せて表示する構成とされ得る。こうすると、薬の投与によって、検体中の細菌の種類がどのように変化したかを、さらに容易に判断することができるようになる。
【0018】
また、前記制御部は、前記測定結果に関する表示として、前記被験者の検体から取得した前記散乱光情報と前記蛍光情報をもとに生成したスキャッタグラムを、前記薬の投与履歴の表示に重ねて時系列で表示する構成とされ得る。こうすると、薬の投与によって、検体に含まれる細菌の種類がどのように変化したかを、さらにスキャッタグラムを見ることによって、適切に判断することができるようになる。
【0019】
本発明の第2の態様に係る検体分析方法は、被験者の検体と試薬とから調製された測定
試料に光を照射することにより得られた散乱光情報および蛍光情報に基づき測定結果を取得し、取得した前記測定結果を記憶する検体分析方法であって、今回取得した前記測定結果と、前記被験者の前記測定結果とに基づき、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定し、変化がある場合には、変化があることを示す情報を表示する。
【0020】
本態様に係る検体分析方法によれば、検体中の細菌の種類に変化がある場合には、その旨が表示されるため、ユーザは、検体中の細菌の種類に変化があることを容易に知ることができる。これにより、検体を採取した被験者に対して治療が行われている場合、その被験者に対して適切な処置をとることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のとおり、検体に含まれる細菌の種類がどのように変化したかの情報を迅速に取得できる検体分析装置および検体分析方法を提供することができる。
【0022】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態により何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係る尿検体分析装置の構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図3】実施の形態に係る光学検出部およびアナログ信号回路の構成を示す模式図である。
【図4】実施の形態に係る情報処理装置の構成を示す図である。
【図5】実施の形態に係る検体の測定処理および分析処理を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態に係る分析処理を示すフローチャートである。
【図7】実施の形態に係るスキャッタグラム、スキャッタグラムの分割について説明する図およびスキャッタグラム上で細菌の数を計測するための領域を示す図である。
【図8】実施の形態に係るヒストグラムの例示図である。
【図9】実施の形態に係る変化情報表示を示すフローチャートである。
【図10】実施の形態に係る情報処理装置の表示部に表示される情報表示画面の例示図である。
【図11】実施の形態に係る情報処理装置の表示部に表示される時系列表示画面の例示図である。
【図12】実施の形態に係る情報処理装置の表示部に表示される薬剤投与履歴画面の例示図である。
【図13】実施の形態に係る分析処理を示すフローチャートの変更例である。
【図14】実施の形態に係る変化情報表示を示すフローチャートの変更例である。
【図15】実施の形態に係る情報処理装置の表示部に表示される情報表示画面の変更例の例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施の形態は、尿検体に含まれる細菌について測定を行い、かかる測定結果から得られる尿検体中の細菌の種類を判定する尿検体分析装置に本発明を適用したものである。
【0025】
以下、本実施の形態に係る尿検体分析装置について、図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係る尿検体分析装置1の構成を示す図である。
【0027】
尿検体分析装置1は、測定装置2と情報処理装置3を備える。測定装置2は、尿検体に含まれている細菌をフローサイトメーターにより光学的に測定する。情報処理装置3は、測定装置2による測定結果を分析し、分析結果を表示部320に表示する。
【0028】
図2は、測定装置2の構成を示す図である。
【0029】
測定装置2は、検体分配部201と、試料調製部202と、光学検出部203と、信号処理回路210と、CPU204と、通信インターフェース205と、メモリ206とを有する。信号処理回路210は、アナログ信号処理回路211と、A/Dコンバータ212と、デジタル信号処理回路213と、メモリ214とを有する。
【0030】
検体分配部201は、ピペットとポンプ(図示せず)を備えている。ポンプが駆動されることにより、ピペット内に所定量の検体(尿)が吸引され、ピペット内に吸引された検体が吐出される。かかるピペットとポンプにより、検体分配部201は、検体容器から吸引された所定量の検体を、試料調製部202に供給する。
【0031】
試料調整部202は、試薬容器と、混合容器と、ポンプ(図示せず)を備えている。混合容器では、検体分配部201から供給された検体に対して、試薬容器から供給される希釈液と染色液が混合され、測定試料の調製が行われる。混合容器で調製された測定試料は、ポンプにより、シース液と共に光学検出部203のシースフローセル203c(図3参照)に供給される。
【0032】
光学検出部203は、測定試料に対してレーザ光を照射し、これにより生じた前方散乱光と、側方蛍光と、側方散乱光に基づく電気信号を、アナログ信号処理回路211に出力する。アナログ信号処理回路211は、CPU204の指示に従って、光学検出部203から出力された電気信号を増幅し、A/Dコンバータ212に出力する。
【0033】
A/Dコンバータ212は、アナログ信号処理回路211によって増幅された電気信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号処理回路213に出力する。デジタル信号処理回路213は、CPU204の指示に従って、A/Dコンバータ212から出力されるデジタル信号に対して所定の波形処理を施す。波形処理が施されたデジタル信号はメモリ214に記憶される。ここで、メモリ214に記憶されるデジタル信号は、シースフローセル203cを細菌が通過する度に生じる前方散乱光および側方蛍光のパルス信号に基づく信号を含んでいる。
【0034】
CPU204は、アナログ信号処理回路211とデジタル信号処理回路213を制御する。また、CPU204は、メモリ214に記憶されたデジタル信号から、前方散乱光および側方蛍光のパルス信号の高さを取得する。ここで、前方散乱光のパルス信号の高さは、シースフローセル203cを1つの細菌が通過したことによって生じた前方散乱光の強度を示している。同様に、側方蛍光のパルス信号の高さは、シースフローセル203cを1つの細菌が通過したことによって生じた側方蛍光の強さを示している。なお、前方散乱光のパルス信号の高さは、細菌の大きさを反映しており、側方蛍光のパルス信号の高さは、細菌に含まれる核酸の染色度合いを反映している。
【0035】
CPU204は、前方散乱光と側方蛍光のパルス信号の高さを取得した後、パルス信号の高さに基づき、シースフローセル203cを通過した各々の細菌についての前方散乱光強度と側方蛍光強度のデータ群(以下、「測定データ」という)を生成する。CPU204は、かかる測定データを通信インターフェース205に出力する。また、CPU204は、通信インターフェース205を介して情報処理装置3から制御信号を受信し、かかる制御信号に従って測定装置2の各部を駆動する。
【0036】
通信インターフェース205は、CPU204から出力される測定データを情報処理装置3に送信し、情報処理装置3から出力される制御信号を受信する。メモリ206は、CPU204の作業領域として用いられる。
【0037】
図3は、測定装置2のうち光学検出部203とアナログ信号処理回路211の構成を示す模式図である。
【0038】
光学検出部203は、発光部203aと、照射レンズユニット203bと、シースフローセル203cと、集光レンズ203dと、ピンホール板203eと、PD(フォトダイオード)203fと、集光レンズ203gと、ダイクロイックミラー203hと、光学フィルタ203iと、ピンホール板203jと、PMT(光電子倍増管)203kと、PD(フォトダイオード)203lとを備えている。アナログ信号処理回路211は、アンプ211a、211b、211cを備えている。
【0039】
発光部203aから出射されるレーザ光は、照射レンズユニット203bにより平行光とされ、シースフローセル203cの内部を通過する測定試料を含む試料流に照射される。なお、シースフローセル203cの内部を通過する測定試料は、測定対象となる検体(尿)に、希釈液と染色液が混合されたものである。
【0040】
集光レンズ203dは、発光部203aから出射されるレーザ光の進行方向に配置されている。シースフローセル203cから生じる前方散乱光は、集光レンズ203dによって収束されて、ピンホール板203eを通り、PD203fによって受光される。
【0041】
集光レンズ203gは、発光部203aから出射されるレーザ光の進行方向と交差する方向に配置されている。シースフローセル203cから生じる側方蛍光と側方散乱光は、集光レンズ203gによって収束されて、ダイクロイックミラー203hに入射する。ダイクロイックミラー203hは、側方蛍光と側方散乱光を分離する。ダイクロイックミラー203hにより分離された側方蛍光は、光学フィルタ203iとピンホール板203jを通り、PMT203kによって受光される。他方、ダイクロイックミラー203hにより分離された側方散乱光は、PD203lによって受光される。
【0042】
PD203f、PMT203k、PD203lは、それぞれ、受光した前方散乱光、側方蛍光、側方散乱光に応じて電気信号を出力する。アンプ211a、211b、211cは、それぞれ、PD203f、PMT203k、PD203lから出力される電気信号を増幅し、A/Dコンバータ212に出力する。なお、アンプ211a、211b、211cは、図2に示すアナログ信号処理回路211を構成する。
【0043】
図4は、情報処理装置3の構成を示す図である。
【0044】
情報処理装置3は、パーソナルコンピュータからなっており、本体300と、入力部310と、表示部320(図1参照)から構成されている。本体300は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308とを有する。
【0045】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302およびハードディスク304に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM303は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、
CPU301の作業領域としても利用される。
【0046】
ハードディスク304には、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムなど、CPU301に実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。また、ハードディスク304には、測定装置2から受信した測定データと、後述する薬剤の投与履歴が記憶されている。
【0047】
さらに、ハードディスク304には、測定データに基づいて検体に含まれる細菌の数を取得し検体についての分析を行うためのプログラムや、分析結果を表示部320上に表示を行う表示プログラムがインストールされている。これらプログラムがインストールされることで、後述の分析処理や表示処理が行われる。すなわち、CPU301は、かかるプログラムにより、後述する図5(b)と、図6と、図9の処理を実行する機能や、図10〜図12の画面を表示する機能が付与されている。
【0048】
読出装置305は、CDドライブまたはDVDドライブ等によって構成されており、記録媒体などの外部記憶に記録されたコンピュータプログラムおよびデータを読み出すことができる。これにより、情報処理装置3で実行されるプログラムは、記録媒体などの外部記憶を介して更新可能となっている。
【0049】
入出力インターフェース306には、マウスやキーボードからなる入力部310が接続されており、ユーザが入力部310を使用することにより、情報処理装置3に対する指示が行われる。画像出力インターフェース307は、ディスプレイ等で構成された表示部320に接続されており、画像データに応じた映像信号を、表示部320に出力する。表示部320は、入力された映像信号をもとに、画像を表示する。
【0050】
また、通信インターフェース308により、測定装置2から送信された測定データの受信が可能となる。かかる測定データは、ハードディスク304に記憶される。
【0051】
図5は、測定装置2のCPU204と情報処理装置3のCPU301の制御を示すフローチャートである。図5(a)は、測定装置2のCPU204による測定処理を示すフローチャートであり、図5(b)は、情報処理装置3のCPU301による分析処理を示すフローチャートである。
【0052】
同図(b)を参照して、CPU301は、入力部310を介してユーザからの測定開始指示があると(S11:YES)、測定装置2に測定開始信号を送信する(S12)。続いて、CPU301は、測定データを受信したかを判定する(S13)。測定データが受信されていないと(S13:NO)、処理が待機される。
【0053】
他方、同図(a)を参照して、CPU204は、情報処理装置3から測定開始信号を受信すると(S21:YES)、上述した検体の測定を行う(S22)。検体の測定が終了すると、CPU204は、情報処理装置3に測定データを送信し(S23)、処理がS21に戻される。
【0054】
同図(b)を参照して、CPU301は、測定装置2から測定データを受信すると(S13:YES)、ハードディスク304に測定データを記憶し、かかる測定データに基づいて分析処理を行う(S14)。続いて、CPU301は、S14で取得した分析結果を表示部320に表示し(S15)、かかる分析結果に基づく変化情報を表示部320に表示する(S16)。しかる後、処理がS11に戻される。なお、S14の分析処理は、追って図6を参照して、S16の変化情報表示は、追って図9を参照して説明する。
【0055】
図6は、図5のS14における“分析処理”の処理フローチャートである。
【0056】
まず、CPU301は、ハードディスク304から測定データをRAM303に読み出し、読み出した測定データに基づき、前方散乱光強度を縦軸とし、側方蛍光強度を横軸とする2次元スキャッタグラムを作成する(S101)。この2次元スキャッタグラムには、上記測定データを構成する各々の細菌についての前方散乱光強度と側方蛍光強度のデータがプロットされる。図7(a)は、S101で作成されるスキャッタグラムの例示図である。CPU301は、作成した2次元スキャッタグラムに基づき、測定対象となった検体に含まれる細菌の総数を計測する(S102)。
【0057】
続いて、CPU301は、測定対象となった検体に含まれる細菌の数が所定値以上であるかを判定する(S103)。すなわち、S102で計測した細菌の総数から、1mLの検体に含まれる細菌の数を取得し、かかる細菌の数が所定値以上であるかを判定する。なお、本実施の形態では、S103の判定に用いる所定値は、尿路感染症であるか否かを判定するための細菌の数の閾値であり、例えば、1mLの検体に対して1.0×10^4(個)とされる。
【0058】
測定に用いた検体に含まれる細菌の数が所定値よりも小さいと判定されると(S103:YES)、CPU301は、被験者に尿路感染症の疑いがないと判定し(S104)、処理が終了となる。他方、測定対象となった検体に含まれる細菌の数が所定値以上と判定されると(S103:NO)、処理がS105に進められる。
【0059】
次に、CPU301は、S101で作成した2次元スキャッタグラムを、所定の傾斜角毎に複数の領域に分割する(S105)。CPU301は、S105で分割した2次元スキャッタグラム上の各領域に含まれる細菌の数を計測する(S106)。
【0060】
ここで、スキャッタグラム上の複数の領域について、図7(b)、(c)を参照して説明する。
【0061】
図7(b)は、S105で作成されるスキャッタグラムの模式図である。
【0062】
直線d0、d1、d2、d3、d4、…は、スキャッタグラムの原点Oを中心とする仮想の円Aの径方向の直線である。直線d0は横軸に一致する直線であり、他の直線は、図示の如く、それぞれ隣り合う直線に対してθの角度を有している。領域D0、D1、D2、D3、…は、直線d0、d1、d2、d3、d4、…によって分割された領域である。なお、θは任意に定めることができ、例えば、1°に設定してもよいし、10°に設定しても良い。このようにスキャッタグラムを複数の領域に分割した後、領域D0、D1、D2、D3、…から、さらに原点Oを含む矩形の領域Bが除かれる。
【0063】
図7(c)は、スキャッタグラム上で細菌の数を計測するための各領域を示す図である。図示の如く、細菌の数を計測するための領域E0、E1、E2、E3、…は、図7(b)で示した領域D0、D1、D2、D3、…から領域Bが除かれた領域である。
【0064】
ここで、図7(b)の領域D0、D1、D2、D3、…から領域Bが除かれる理由は、後述する尿路感染症の分類の判定と細菌の種類の判定の精度を高めるためである。すなわち、図7(a)のスキャッタグラムからも分かる通り、原点O付近に細菌の分布が偏り易い。このため、原点O付近の細菌を領域D0、D1、D2、D3、…についてカウントすると、各領域のカウント結果に差が生じ難くなり、細菌の判定を円滑に行えない。加えて、領域Bでは、領域B以外の領域(前方散乱光強度と側方蛍光強度が大きい領域)と比較
して、直線d0、d1、d2、d3、d4、…によって分割される領域が狭い。他方、原点付近では、異なる細菌の分布が互いに重なり合い易い。このため、原点付近で細菌をカウントすると、本来その領域ではカウントすべきでない細菌を多くカウントすることになり、カウント結果に大きな誤差が含まれ易い。
【0065】
このような理由から、後述する尿路感染症の分類の判定と細菌の種類の判定では、原点O付近の細菌の数をカウントしないようにして各領域に含まれる細菌の数の差を顕著なものとするために、領域D0、D1、D2、D3、…から領域Bが除かれる。
【0066】
なお、領域Bの大きさは、領域E0、E1、E2、E3、…に含まれる細菌の数に基づいて判定した細菌の種類が、培養による細菌の測定結果に最も近くなるよう設定されている。
【0067】
図6に戻って、次に、CPU301は、S106で取得した領域E0、E1、E2、E3、…ごとの細菌の数に基づいて、ヒストグラムを作成する(S107)。
【0068】
図8(a)は、S107で作成されるヒストグラムの例示図である。図8(a)において、横軸は、領域E0、E1、E2、E3、…を分割している直線d0、d1、d2、d3、d4、…の直線d0に対する角度を表している。すなわち、横軸は、小さい方から順に、領域E0、E1、E2、E3、…に対応している。縦軸は、領域E0、E1、E2、E3、…に含まれる細菌の数を表している。
【0069】
図6に戻って、次に、CPU301は、S107で作成されたヒストグラムにおいて、細菌の数がピークとなっている領域を選択する(S108)。
【0070】
ここで、細菌の数がピークとなっている領域とは、ヒストグラムが上向きに凸状となっている部分の頂点に対応する領域(角度範囲)である。すなわち、領域E0、E1、E2、E3、…のうち、角度の変化方向に隣接する前後の領域においてカウントされた細菌の数よりも、自身の領域においてカウントされた細菌の数の方が大きい領域が、頂点の領域として選択される。
【0071】
例えば、図8(a)に示すヒストグラムでは、細菌の数のピークは1つ存在しており、ピーク地点での細菌の数はN1である。この場合、CPU301は、ピークに対応する領域En1を選択する。また、図8(b)に示すヒストグラムの例示図では、細菌の数のピークは2つ存在しており、2つのピーク地点での細菌の数はN2、N3である。この場合、CPU301は、左側のピークに対応する領域En2と、右側のピークに対応する領域En3とを選択する。
【0072】
次に、CPU301は、S108で選択したピークに対応する領域が1つである場合(S109:YES)、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、単純性尿路感染症であると判定する(S110)。他方、ピークに対応する領域が2つ以上ある場合(S109:NO)、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、複雑性尿路感染症であると判定する(S111)。
【0073】
次に、CPU301は、S108で選択された領域に基づいて、この測定データの元となる検体に含まれる細菌の種類を判定する(S112)。すなわち、CPU301は、選択された領域の直線d0に対する角度範囲が、細菌の種類を特定するために予め設定された角度範囲に含まれるかによって、細菌の種類を判定する。たとえば、図7(b)の場合、領域D2の角度範囲は、2θ〜3θである。S108にて選択された領域が領域D2の場合、2θ〜3θの角度範囲が、細菌の種類を特定するために設定された何れの角度範囲
に含まれるかによって、細菌の種類が判定される。
【0074】
本実施形態では、細菌の種類を特定するための角度範囲が、以下のように設定されている。
【0075】
(a)0°〜25° … 桿菌
(b)26°〜44° … 連鎖球菌
(c)45°〜80° … ブドウ球菌
(d)81°〜90° … 該当無し
【0076】
なお、本実施の形態では、S108で選択された領域が3つ以上の場合、カウントされた細菌の数が多いものから2つ目までの領域についてのみ、細菌の種類が判定される。ただし、カウントされた細菌の数が多いものから3つ目までの領域について、細菌の種類を判定しても良く、あるいは、選択された全ての領域について細菌の種類を判定しても良い。
【0077】
次に、CPU301は、上記の如く得られた尿路感染症の分類と細菌の種類とを含む分析結果を、ハードディスク304に記憶し(S113)、処理が終了する。
【0078】
図9は、図5のS16における“変化情報表示”の処理フローチャートである。
【0079】
まず、CPU301は、今回検体を採取した被験者について、前回と今回の分析結果がハードディスク304にあるかを判定する(S201)。前回と今回の分析結果がないと判定されると(S201:NO)、処理が終了する。前回と今回の分析結果があると判定されると(S201:YES)、CPU301は、前回と今回の分析結果をRAM303に読み出し(S202)、前回の分析結果と今回の分析結果を比較する(S203)。
【0080】
次に、S203における比較の結果、CPU301は、前回の分析結果と今回の分析結果との間で尿路感染症の分類に変化があるかを判定する(S204)。変化があると判定されると(S204:YES)、CPU301は尿路感染症フラグに1を代入し(S205)、変化がないと判定されると(S204:NO)、CPU301は尿路感染症フラグに0を代入する(S206)。
【0081】
続いて、S203における比較の結果、CPU301は、前回の細菌の種類と今回の細菌の種類との間で細菌の種類に変化があるかを判定する(S207)。変化があると判定されると(S207:YES)、CPU301は種類フラグに1を代入し(S208)、変化がないと判定されると(S207:NO)、CPU301は種類フラグに0を代入する(S209)。
【0082】
次に、CPU301は、尿路感染症フラグが1または種類フラグが1であるかを判定する(S210)。尿路感染症フラグが1または種類フラグが1であると判定されると(S210:YES)、情報処理装置3の表示部320に、変化がある旨が表示され(S211)、処理が終了する。
【0083】
図10は、情報処理装置3の表示部320に表示される情報表示画面400の例示図である。情報表示画面400は、図5のS15とS16に従って表示される。
【0084】
情報表示画面400は、被験者ID領域401と、測定日時領域402と、スキャッタグラム領域403と、ヒストグラム領域404と、被験者情報領域405と、細菌情報領域406と、区分角度領域407と、変化情報領域408とを含んでいる。細菌情報領域
406は、尿路感染症分類領域406aと種類領域406bを含んでいる。
【0085】
被験者ID領域401には、この分析の元となった検体を採取した被験者を識別する被験者IDが表示される。測定日時領域402には、この測定が行われた測定日時が表示される。スキャッタグラム領域403には、この測定によって得られた図7(a)に対応するスキャッタグラムが表示される。ヒストグラム領域404には、スキャッタグラム403で表示されているスキャッタグラムに基づいて得られた図8(a)、(b)に対応するヒストグラムが表示される。
【0086】
被験者情報領域405には、被験者IDに対応する被験者の名前、担当医、担当医からのコメントなどが表示される。この他、この被験者に対して投与された薬剤に関する情報が、入力部310(図4参照)を介して入力され、被験者情報領域405に表示されるようにしても良い。
【0087】
尿路感染症分類領域406aには、図6で示した分析処理において、S110またはS111で判定された結果が表示される。すなわち、尿路感染症分類領域406aには、この分析の元となった検体の尿路感染症の分類が単純性尿路感染症である場合、“単純性感染症?”と表示され、この分析の元となった検体の尿路感染症の分類が複雑性尿路感染症である場合、“複雑性感染症?”と表示される。
【0088】
なお、尿路感染症分類領域406aの表示内容の末尾に付加される“?”は、この検体が単純性尿路感染症または複雑性尿路感染症に罹患している可能性が高いということを、ユーザに示している。また、尿路感染症の分類が判定されなかった場合や、尿路感染症の分類が判定できなかった場合は、尿路感染症分類領域406aには空白または“UNKNOWN”が表示される。
【0089】
種類領域406bには、図6で示した分析処理において、S112で判定された細菌の種類が表示される。なお、種類領域406bの表示内容の末尾に付加される“?”は、この検体に表示内容の細菌が含まれる可能性が高いということを示している。また、細菌の種類が判定されなかった場合や、細菌の種類が判定できなかった場合は、種類領域406bには空白または“UNKNOWN”が表示される。
【0090】
区分角度領域407には、図7(b)に示した領域D0、D1、D2、D3、…を分割する直線d0、d1、d2、d3、d4、…と、隣り合う直線との角度θが表示される。
【0091】
変化情報領域408には、図9で示した変化情報表示に従って、細菌の種類に変化がある旨が表示される。ここでの変化情報領域408には、図示の如く、前回と今回との間で変化があったとして“変化あり”が表示される。そして、尿路感染症の分類が単純性から複雑性に変化した場合には、併せて“単純性→複雑性”が表示され、細菌の種類が変化した場合には、併せて“種類”が表示されている。なお、前回の測定時と今回の測定時とで変化がなかった場合と、今回の測定の細菌の数が所定値より少ない場合(S103でNOと判定された場合)、変化情報領域408はブランクとなる。
【0092】
図11は、情報処理装置3の表示部320に表示される時系列表示画面500の例示図である。この表示は、情報処理装置3の入力部310を介して、所定の被験者についての時系列表示操作が入力されることにより行われる。
【0093】
時系列表示画面500は、被験者ID領域501と、測定日時領域511、521、531、541と、スキャッタグラム領域512、522、532、542と、ヒストグラム領域513、523、533、543と、細菌情報領域514、524、534、54
4と、区分角度領域515、525、535、545と、変化情報領域526、536と、投薬情報領域551、552、553とを含んでいる。
【0094】
検体ID501領域には、図10における検体ID401と同様、この分析の元となった検体を採取した被験者を特定する被験者IDが表示される。
【0095】
511〜516と、521〜526と、531〜536と、541〜546の4つの群は、それぞれ、1回の測定から得られた測定結果と分析結果を表している。すなわち、これら4つの群には、同じ被験者から異なる日時に4回に亘って採取された検体の測定データに基づいて、それぞれ、図10の情報表示画面400の対応する領域の情報が表示されている。なお、本実施の形態では、これら4つの群は時系列的に連続している。
【0096】
変化情報領域516〜546には、前回の測定時と今回の測定時とで細菌種類情報に変化があったか、および、変化の内容が表示される。前回の測定時と今回の測定時とで細菌情報に変化がなかった場合と、今回の測定の細菌の数が所定値より少ない場合(S103でNOと判定された場合)、変化情報領域はブランクとなる。
【0097】
図11の例の場合、最左列の測定時から左から2列目の測定時へと移る際に、細菌の種類が“桿菌?”から“連鎖球菌?”に変化したため、変化情報領域526には、細菌の種類が変化したことを示す“種類”が表示されている。
【0098】
同様に、左から3列目の変化情報領域536には、細菌情報が、細菌情報領域524の内容から細菌情報領域534の内容に変化したため、尿路感染症の分類が変化したことと、細菌の種類が変化したことを示す“種類”が表示されている。すなわち、この場合、尿路感染症の分類が“単純性?”から“複雑性?”に変化し、細菌の種類が“連鎖球菌?”から“連鎖球菌?ブドウ球菌?”に変化している。このため、変化情報536には、尿路感染症の分類が単純性尿路感染症から複雑性尿路感染症へ変化したことを示す“単純性→複雑性”と、細菌の種類が変化したことを示す“種類”が、併せて表示されている。
【0099】
投薬情報領域551、552、553には、前回と今回の測定との間に当該被験者に投薬が行われたかの情報が表示される。図11の例では、測定日時領域511で示される測定日時と、測定日時領域521で示される測定日時の間に、この被験者に対して薬剤の投与が行われたことを示す情報(ここでは注射器の絵)が、投薬情報領域551に表示されている。また、同様に、投薬情報領域553にも、測定日時領域531で示される測定日時と、測定日時領域541で示される測定日時の間に、この被験者に対して薬剤の投与が行われたことを示す情報が表示されている。
【0100】
図12は、情報処理装置3の表示部320に表示される薬剤投与履歴画面600の例示図である。
【0101】
薬剤投与履歴画面600は、被験者ID領域601と、薬剤投与履歴領域602と、編集コマンド領域603とを含んでいる。
【0102】
被験者領域ID601には、薬剤投与が行われた被験者を識別する被験者IDが表示される。薬剤投与履歴領域602には、被験者ID領域601で識別される被験者に対して、これまでに行われた薬剤投与の履歴が表示される。
【0103】
薬剤投与履歴領域602には、薬剤が投与された日時と、このときの薬剤投与内容が対応づけて複数表示される。このような薬剤投与履歴は、情報処理装置3のハードディスク304に記憶される。
【0104】
なお、図11に示す画面において、ユーザが、情報処理装置3の入力部310を介して、投薬情報領域551、552、553のうち、情報(注射器の絵)が表示されている投薬情報領域551、553の何れかを押下(例えば、クリック)すると、図12の画面が表示される。このとき、図11の画面において押下された投薬情報領域に対応する薬剤投与日時および薬剤投与内容の行が、図示の如く選択表示される。これにより、ユーザは、投薬の内容を確認することができる。
【0105】
編集コマンド領域603には、薬剤投与履歴領域602の内容を編集するための、追加、編集、削除のボタンが含まれている。ユーザは、入力部310を介して、これらボタンを押下(例えば、クリック)すると、薬剤投与履歴領域602の内容を編集することができる。なお、薬剤投与履歴領域602の内容が変更されると、図11の時系列表示画面500の投薬情報領域551、552、553の表示も、薬剤投与履歴領域602の内容の変更に合わせて変更される。
【0106】
以上、本実施の形態によれば、PD203fとPMT203kによりそれぞれ受光される前方散乱光と側方蛍光に基づき、図6に示すような分析処理を行い、かかる分析処理により得られる分析結果により、図10に示す情報表示画面400が、情報処理装置3の表示部320に表示される。細菌の種類に変化がある場合、この旨を示す変化情報408が表示される。これにより、検体を採取した被験者に対して治療が行われている場合、その被験者に対して効果的な治療が行われているかが確認され得る。
【0107】
また、本実施の形態によれば、図11に示す時系列表示画面500には、同じ被験者から異なる日時に4回に亘って採取された検体の測定データに基づいて、測定結果と分析結果が表示される。これにより、検体を採取した被験者に対して治療が行われている場合、その被験者に対して効果的な治療が行われているかが、時系列的に確認され得る。
【0108】
また、本実施形態によれば、図11に示す時系列表示画面500中の投薬情報領域551〜553に投薬情報が表示される。このように投薬情報が併せて表示されることより、被験者に対して薬剤の投与が行われたことで、検体中の細菌の種類がどのように変化したかが容易に把握され得る。また、被験者に対して効果的な薬剤の投与が行われたかが確認され得る。
【0109】
以上、本発明の実施の形態ついて説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0110】
たとえば、上記実施の形態では、測定対象として尿を例示したが、血液についても測定対象とされ得る。すなわち、血液を検査する検体検査装置にも本発明を適用することができ、さらに、他の検体を検査する検体検査装置に本発明を適用することもできる。
【0111】
また、上記実施の形態では、図6のS109において、ヒストグラムにおける細菌の数のピークが1つであるかが判定され、これにより、測定データの元となった検体の尿路感染症の分類が判定されたが、ピークが1つであるか否かについては、ヒストグラムの歪度を用いて判定しても良い。または、上記実施形態のS109の判定に加えて、ヒストグラムの歪度を用いて、尿路感染症の分類を判定しても良い。
【0112】
以下、ヒストグラムの歪度を用いてピークが1つであるか否かを判定する方法について説明する。
【0113】
上記実施の形態のヒストグラムにおいて、データの個数をn、各角度に対応する細菌の
数をX、細菌の数の平均をX、標準偏差をS(X)とすると、歪度αは以下の式により算出される。
【0114】
【数1】

【0115】
ヒストグラムが正規分布等の左右対称の分布となるとき、歪度αの値は0となる。歪度αが負のとき、分布は負に歪んでおり、ヒストグラムは左に裾が長い形状となる。歪度αが正のとき、分布は正に歪んでおり、ヒストグラムは右に裾が長い形状となる。
【0116】
ヒストグラムが左右対称である場合には、ヒストグラム上にピークが一つしか現われていない可能性が高い。他方、ヒストグラムが正または負の方向に大きく歪んでいる場合には、ヒストグラム上にピークが複数現われているか、あるいは、ヒストグラム上にはピークが一つしか現われていないものの裾の長い部分に他のピークが埋もれている可能性が高い。
【0117】
このことから、歪度αの値が0から正負に所定の範囲内にある場合は、ピークは1つであるとし、他方、歪度αの値がこの範囲外にある場合は、ピークが複数存在すると判定できる。すなわち、ピークが複数であるかを判定するための、歪度αの正負の閾値範囲を調整することにより、歪度αがこの閾値範囲外にあるかによって、ヒストグラムのピークが1つであるか否かを判定することができる。
【0118】
図13(a)は、ピークが1つであるか否かについて、図6のS108とS109の替わりにS121を用いた場合の“分析処理”の処理フローチャートの一部である。S106で作成したヒストグラムの歪度の絶対値が所定値(閾値)以下である場合(S121:YES)、ヒストグラムのピークが一つであるとして、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、単純性尿路感染症であると判定する(S110)。他方、S106で作成したヒストグラムの歪度の絶対値が所定値よりも大きい場合(S121:NO)、ヒストグラムのピークが複数あるとして、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、複雑性尿路感染症であると判定する(S111)。
【0119】
この判定処理によれば、ノイズ等の影響によりピークが複数現われているヒストグラムにおいても、ヒストグラムの形状が略左右対称となっていることで、ピークは一つであるとして、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、単純性尿路感染症と判定される。また、ヒストグラム上にはピークが一つしか現われていないものの裾の長い部分に他のピークが埋もれているような場合に、ピークは複数あるとして、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、複雑性尿路感染症と判定される。
【0120】
図13(b)は、ピークが1つであるか否かについて、図6のS109とS110の間にS121が追加された場合の“分析処理”の処理フローチャートの一部である。この場合、S109でヒストグラムのピークが1つかが判定されることに加えて、S121で歪度によってヒストグラムの形状が判定される。こうすると、ピークが1つと判定された場合でも、ヒストグラムの裾が左右に長い形状の場合、この測定データの元となる検体の尿路感染症の分類は、複雑性尿路感染症であると判定される。
【0121】
また、上記実施の形態において、図11の時系列表示画面500では、4つの測定日時における測定結果と分析結果が同時に表示されたが、4つに限らず、複数の測定日時における測定結果と分析結果が同時に表示されるようにしても良い。なお、測定結果と分析結果が1画面に入りきらない場合には、時系列表示画面500に、表示領域を移動させるスクロールバーが設置されても良いし、ページを切り替えるためのページ切り替えボタンが設置されても良い。
【0122】
また、時系列表示画面500には、時系列に連続する測定データに基づく表示が行われたが、時系列的に連続していない測定データに基づく表示が行われるようにしても良く、例えば、ユーザによって時系列的に並ぶ任意の4つの測定日時が選択されるようにしても良い。
【0123】
また、上記実施の形態では、情報表示画面400の変化情報領域408と、時系列表示画面500の変化情報領域516、526、536、546には、文字が表示されるようにしたが、文字による表示以外に、視覚的に把握しやすいような記号や図形が表示されるようにしても良い。
【0124】
また、上記実施の形態では、時系列表示画面500の投薬情報領域551、552、553には、投薬が行われたことのみが示されたが、これに限らず、投薬日時と投薬内容が表示されるようにしても良い。また、投薬情報領域が押下(たとえば、クリック)されると、この投薬情報に対応する投薬日時と投薬内容がポップアップ表示されるようにしても良い。
【0125】
また、上記実施の形態では、図10の変化情報領域408において、前回と今回の分析結果が比較されて、分析結果に変化があったことを示す変化情報が表示されたが、前回に限らず、今回以前の分析結果と今回の分析結果が比較されるようにしても良い。たとえば、今回以前の任意の日時の測定から得られた分析結果と今回の分析結果とが比較されるようにしても良い。
【0126】
また、上記実施の形態において、変化情報領域408と、変化情報領域516、526、536、546には、分析結果に変化がない場合に、変化情報領域に“変化なし”と表示されるようにしても良いし、変化情報領域自体が表示されないようにしても良い。
【0127】
また、上記実施の形態では、分析結果に変化があったかが判定される場合に、図9のS210に示すように、尿路感染症の分類または細菌の種類に変化があったことが判定されたが、これに限らず、さらに細菌の種類の数に変化があったことが判定されるようにしても良い。
【0128】
図14は、この場合の“変化情報表示”の処理フローチャートである。図14では、図9のフローチャートから、S221〜S223が追加され、S210がS224に変更されている。以下、追加部分についてのみ説明する。
【0129】
S203における比較の結果、CPU301は、前回の細菌の種類と今回の細菌の種類との間で細菌の種類の数に変化があるかを判定する(S221)。変化があると判定されると(S221:YES)、CPU301は種類数フラグに1を代入し(S222)、変化がないと判定されると(S221:NO)、CPU301は種類数フラグに0を代入する(S223)。
【0130】
次に、CPU301は、尿路感染症フラグが1、種類フラグが1、または、種類数フラグが1であるかを判定する(S224)。尿路感染症フラグが1、種類フラグが1、また
は、種類数フラグが1であると判定されると(S224:YES)、情報処理装置3の表示部320に、変化がある旨が表示され(S211)、処理が終了する。
【0131】
図15は、この場合に、情報処理装置3の表示部320に表示される情報表示画面400の例示図である。図15では、図10の変化情報領域408に表示される内容が変更されている。
【0132】
変化情報領域411には、図10の変化情報領域408の表示内容に加えて、種類の数が変化したことを示す“種類の数”が表示されている。なお、この場合、図11に示した時系列表示画面500においても、変化情報領域516、526、536、546には、種類の数が変化したことを示す“種類の数”が表示される。
【0133】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0134】
1 … 尿検体分析装置(検体分析装置)
2 … 測定装置
203 … 光学検出部(検出部)
203a … 発光部(光源部)
203f … PD(検出部)
203k … PMT(検出部)
301 … CPU(制御部)
304 … ハードディスク(記憶部)
320 … 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の検体と試薬とから調製された測定試料に光を照射する光源部と、
前記光源部からの光により測定試料から生じる散乱光および蛍光を検出する検出部と、
記憶部と、
前記検出部により検出された散乱光情報および蛍光情報に基づき測定結果を取得し、取得した前記測定結果を前記記憶部に記憶させる制御部と、
表示部と、を備え、
前記制御部は、今回取得した前記測定結果と、前記記憶部に記憶された前記被験者の前記測定結果とに基づき、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定し、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化がある場合には、変化があることを示す情報を前記表示部に表示させる、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記散乱光情報と前記蛍光情報とに基づく細菌の特徴値をプロットしたスキャッタグラムを生成し、前記スキャッタグラムに複数の領域を設定し、前記各領域に含まれるプロット数に基づいて前記測定結果を取得する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記スキャッタグラムの原点を回転中心とした所定の傾斜角毎に前記スキャッタグラムを区分して前記複数の領域を設定する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、隣り合う領域よりも前記プロット数が多い前記領域の変化に基づいて、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記傾斜角と前記プロット数とから生成されたヒストグラムに基づいて、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記被験者の検体中の細菌の種類の数に変化があるか否かを判定する、ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の検体分析装置において、
前記検体分析装置は、被験者の尿検体の分析に用いられ、
前記制御部は、今回取得した前記測定結果と、前記記憶部に記憶された前記被験者の前記測定結果とに基づき、前記被験者の尿路感染症が単純性と複雑性との間で変化したか否かをさらに判定し、変化がある場合には、変化があることを示す情報を前記表示部に表示させる、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、被験者の薬の投与履歴を被験者毎に前記記憶部に記憶させる、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記被験者の前記測定結果に関する表示を時系列で行うとともに、前記被験者の薬の投与履歴を併せて表示する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項10】
請求項9に記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記被験者の前記測定結果に関する表示として、前記被験者の検体から取得した前記散乱光情報と前記蛍光情報をもとに生成したスキャッタグラムを、前記薬の投与履歴の表示に重ねて時系列で表示する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項11】
被験者の検体と試薬とから調製された測定試料に光を照射することにより得られた散乱光情報および蛍光情報に基づき測定結果を取得し、取得した前記測定結果を記憶する検体分析方法であって、
今回取得した前記測定結果と、前記被験者の前記測定結果とに基づき、前記被験者の検体中の細菌の種類に変化があるか否かを判定し、変化がある場合には、変化があることを示す情報を表示する、
ことを特徴とする検体分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−141243(P2011−141243A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3215(P2010−3215)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】