説明

検出用カートリッジ及び被検出物質の検出方法

【課題】微量の被検出物質であっても、比較的短時間でかつ高感度で、さらに簡便に検出することを可能とする検出用カートリッジを提供する。
【解決手段】カートリッジ本体2内に第1,第2の貯留部16,17及び検出部18が形成されており、ポート3,4及びポート5,7をつなぐ主流路により、第1の貯留部16、第2の貯留部及び検出部18が接続されており、第1の貯留部16に、被検出物質を濃縮担持する濃縮担持体が収納されており、第2の貯留部17において、PCR増幅を行うための温度調節手段による温度調節が行われ、検出部18において、被検出物質由来のオリゴヌクレオチドの検出が行われる検出用カートリッジ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原もしくは抗体などの生化学物質または様々なアレルゲン物質などを検出することができ、しかも携帯型装置として取り扱うことができる検出用カートリッジ並びに該検出用カートリッジを用いた被検出物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌中の重金属や抗原などの化学物質もしくは生化学物質を検出するために、様々な検出装置及び検出方法が提案されている。
【0003】
下記の特許文献1には、土壌中の重金属のような微量成分を検出するための検出用カートリッジが開示されている。特許文献1に記載の検出用カートリッジは、手で運び得る大きさのカートリッジ本体を有する。このカートリッジ本体内においては、被検出物質を含む被検液がマイクロ流体のボリュームで流される流路が形成されている。また、流路に、貯留部及び検出部が接続されている。貯留部では、被検出物質が濃縮され、濃縮された被検出物質が再度溶出され、検出部に流される。この検出用カートリッジを用いれば、屋外の現場にて、土壌からの溶出水溶液中の重金属のような微量成分を高精度にかつ高感度で検出することができるとされている。
【0004】
また、特許文献1では、上記重金属の他、生化学物質の測定も可能である旨が記載されている。すなわち、貯留部に、抗原または抗体が固定化されたフィルタを設け、標識酵素による還元物質を検出部で測定することができる旨が記載されている。この方法は、従来のELISA法と同様の検出方法であるが、比較的小型の検出用カートリッジを用いることにより、より簡便にかつ迅速に分析を行うことができる。
【0005】
他方、下記の非特許文献1では、イムノPCR法が提案されている。ここでは、抗体試薬にオリゴヌクレオチドによる標識が行われ、イムノアッセイに続いて標識されたオリゴヌクレオチドのPCRによる増幅が行われる。イムノPCR法は、抗原抗体反応の有する特異性と、PCR法の持つ検出感度向上効果とを併せ持つ。従って、微量の抗原等を比較的高い感度で測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006/080186
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.Sano et al., Science, vol. 258,120−122(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ELISA法では、微量成分を測定するために12桁以上の増幅を行うとバックグラウンドノイズが高くなり、S/N比が低くなるという問題があった。これは、酵素反応を利用するため、高精度に増幅を行うことができないことによる。
【0009】
他方、イムノPCR法では、高倍率の増幅を行うことができる。しかしながら、操作が煩雑であり、分析に長時間を必要としていた。
【0010】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、高倍率に増幅を行った場合であっても、S/N比が高く、被検出物質を高精度に測定することができ、しかも簡便にかつ短時間で被検出物質を分析することを可能とする検出用カートリッジ及び該検出用カートリッジを用いた被検出物質の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、被検出物質を含む被検液及び/又はオリゴヌクレオチドで標識された分子認識試薬を流すための主流路と、前記主流路に接続された第1の貯留部と、第1の貯留部に前記主流路を介して接続された第2の貯留部と、第2の貯留部に前記主流路を介して接続された検出部とを備えるカートリッジ本体と、前記カートリッジ本体内の前記第1の貯留部に設けられており、前記被検出物質と前記分子認識試薬の結合体を濃縮担持する濃縮担持手段と、第2の貯留部に供給されてきた液体の温度調節を行い、PCR増幅を行うためのPCR温度調整手段と、前記検出部に設けられており、前記被検出物質の濃度に応じた前記オリゴヌクレオチドの濃度を検出するための検出手段とを備える、検出用カートリッジが提供される。
【0012】
本発明に係る検出用カートリッジのある特定の局面では、前記カートリッジ本体が、前記第1の貯留部と前記検出部との間において前記主流路に接続されており、かつ前記検出部には接続されていない廃液流路を有する。この場合には、廃液流路から未反応の被検液や洗浄液等を、検出部に到達しないように廃棄することができる。そのため、測定感度を高めることができる。
【0013】
また、本発明に係る検出用カートリッジの他の特定の局面では、前記第1の貯留部と前記検出部との間において前記主流路と前記廃液流路とに接続されており、かつ主流路の上流側から移動してきた液体を主流路の下流側または前記廃液流路に移動させるように流路を切り換えるバルブをさらに備える。この場合には、未反応の成分や夾雑物を廃液流路としての第2の流路から廃棄するにあたり、バルブを切り換えるだけで容易にこれらを廃棄することができる。
【0014】
本発明にかかる検出用カートリッジのさらに他の特定の局面では、前記主流路が、被検出物質を含む被検液及び/またはオリゴヌクレオチドで標識された前記分子認識試薬を流すための第1の流路部分と、オリゴヌクレオチド標識を増殖して定量するための第2の流路部分とを有し、前記バルブが上流側に位置する前記第1の流路部分と、下流側に位置する前記第2の流路部分と、前記廃液流路とに接続されている。この場合には、上流側に位置する第1の流路部分から移動してきた液体を、第2の流路部分または廃液流路に移動させるように上記バルブにより切り換えることができる。
【0015】
上記バルブは、好ましくは、光や熱などの外部からの刺激により流路接続状態を切り換えるバルブが用いられ、その場合には、外部から刺激を与えるだけで流路接続状態を切り換えることができる。
【0016】
本発明に係る検出用カートリッジの別の特定の局面では、前記濃縮担持手段が、多孔性材料またはメッシュ状物からなる。多孔性材料では表面積が大きいため、被検出物質と分子認識試薬との結合体をより多く担持させることができる。
【0017】
本発明に係る検出用カートリッジのより限定的な局面によれば、前記多孔性材料が、スポンジ、織布、不織布、繊維、充填された複数の微粒子、多孔性焼結体及びモノリシック多孔質体からなる群から選択した少なくとも1種の多孔質材料からなる。これらの材料は、表面積が大きいため、より多くの上記結合体を担持させることができる。
【0018】
本発明に係る検出用カートリッジのさらに他の特定の局面では、前記主流路を移動してきた液体が前記濃縮担持手段中を上流側から下流側に向かって通過するように前記主流路及び前記濃縮担持手段が設けられている。この場合には、濃縮担持手段を液体が通過するので、液体と濃縮担持手段との接触面積が非常に大きくなる。そのため、反応場が増大し、被検出物質と分子認識試薬との結合体濃度を高めることができる。また、洗浄液等による夾雑物の洗浄等もより確実に行い得る。よって、測定感度を高めることができる。
【0019】
本発明に係る検出用カートリッジの他の特定の局面によれば、前記第1の貯留部内において、前記被検出物質と特異的に結合する特異結合分子が固定化されている。この場合には、第1の貯留部において、被検出物質が、特異結合分子に特異的に結合するため、第1の貯留部においてサンドイッチイムノアッセイ法により結合体を濃縮担持することができる。
【0020】
本発明に係る検出用カートリッジのさらに他の特定の局面では、前記検出手段が化学電極を備え、前記検出部に前記化学電極が配置された検出区画が備えられる。この場合には、化学電極を用いて電気的に被検出物質由来のオリゴヌクレオチドを定量することができる。
【0021】
本発明に係る被検出物質の検出方法は、本発明に従って構成された検出用カートリッジを用いた被検出物質の検出方法であって、前記検出用カートリッジの前記第1の貯留部に、前記被検出物質と前記分子認識試薬との結合体を濃縮担持する第1の工程と、前記第1の貯留部において、被検液中の前記結合体以外の夾雑物を洗浄する第2の工程と、前記第1の貯留部に濃縮担持されている前記結合体から、分子認識試薬を標識しているオリゴヌクレオチドを切断し、溶出させ、前記第2の貯留部に搬送する第3の工程と、前記第2の貯留部内において、PCR温度調節サイクルにより前記オリゴヌクレオチドの増幅を行う第4の工程と、前記第2の貯留部内において増幅されたオリゴヌクレオチドを前記検出手段で定量する第5の工程とを備える。
【0022】
本発明に係る被検出物質の検出方法のある特定の局面では、前記第1の工程において、被検液中の前記被検出物質と前記分子認識試薬との結合体を濃縮担持した後、残液を検出部に到達させないように廃液する。従って、未反応の成分などが検出部に至らないため、検出感度を高めることができる。
【0023】
本発明に係る被検出物質の検出方法の他の特定の局面では、前記第2の工程において、前記被検液中の前記結合体以外の夾雑物を洗浄液を用いて洗浄するにあたり、洗浄後の洗浄液を検出部に到達させないように廃液する。従って、上記夾雑物が検出部に至らないため、検出部が汚染され難い。よって、測定感度を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る検出用カートリッジを用いた場合、カートリッジ本体内において、被検出物質と分子認識試薬との結合体の濃縮、切り離された標識オリゴヌクレオチドのPCRによる増幅が行われるので、微量の被検出物質を高精度に検出することができる。特に、PCR法による増幅では、S/N比が高く、バックグラウンドノイズが小さいため、微量の被検出物質をより高感度で測定することができる。しかも、PCRによる増幅に先立ち、第1の貯留部において被検出物質が濃縮担持されるため、PCR法による温度調節時間を短くすることができる。よって、本発明によれば、微量の被検出物質を比較的簡便にかつ短時間でしかも高感度で検出することが可能となる。
【0025】
本発明の被検出物質の検出方法は、本発明に係る検出用カートリッジを用い、上記第1の工程〜第5の工程を備えるものであるため、微量の被検出物質を高い感度で簡便にかつ比較的短時間で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態の検出用カートリッジの外観を示す斜視図及び(b)はカートリッジ本体内に構成されている流路と、第1,第2の貯留部及び検出部の関係を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態において、検出用カートリッジ内に構成されている流路と、第1,第2の貯留部、検出部等の関係を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態の検出用カートリッジのカートリッジ本体の分解斜視図である。
【図4】(a),(b)は、本発明の一実施形態の検出用カートリッジを用いた場合のオリゴヌクレオチドの電極検出の原理を説明するための模式図である。
【図5】本発明の具体的な実施例において、リニアスイープボルタンメトリーによるオリゴヌクレオチド検出結果を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態の検出用カートリッジの変形例を説明するための模式図である。
【図7】本発明の他の実施形態の検出用カートリッジの構造を説明するための分解斜視図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態に係る検出用カートリッジを説明するための模式図である。
【図9】(a),(b)は、接続バルブの一例を説明するための各模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態を説明しつつ、本発明の詳細を明らかにする。
【0028】
本発明に係る検出用カートリッジは、主流路と、第1の貯留部と、第2の貯留部と、検出部とを有するカートリッジ本体と、前記第1の貯留部に設けられた濃縮担持手段と、第2の貯留部に設けられた温度調節手段と、検出部に設けられた検出手段とを備える。ここで、カートリッジ本体は、上記第1の貯留部、第2の貯留部、検出部と、これらを結ぶ流路を有する限り、その構造は特に限定されるものではないが、後述する好ましい実施形態のように、カード型のカートリッジ本体が望ましい。カード型であり、手で持ち運びされ得る大きさとすることにより、携帯型の検出用カートリッジを提供することができる。このような大きさとしては、例えば、縦20〜100mm、横40〜200mm及び厚み1〜10mm程度が適当である。
【0029】
本発明において、「検出」なる用語は、被検出物質の有無、濃度、組成またはその他の性質に関連する情報を収集することを意味し、定量分析及び/又は定性分析などを含むものである。また、「被検液」とは、検出対象物質である被検出物質を含む可能性がある限り特に限定されるものではない。被検液としては、例えば、生物学的試料や環境由来試料、食品粉砕物、燃焼残渣などの内の液体のもの、あるいはこれらの抽出物を含む液体を挙げることができる。上記生物学的試料としては、例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙、汗、膿または喀痰などの動物の体液や、例えば尿もしくは糞便のような動物の排泄物、例えば臓器、組織もしくは動植物、または臓器、組織もしくは動植物の乾燥体の抽出液などを挙げることができる。環境由来の試料としては、河川の水、湖沼の水、海水、または土壌から抽出された液体などを挙げることができる。
【0030】
本発明においては、オリゴヌクレオチドで標識された分子認識試薬が用いられる。
【0031】
オリゴヌクレオチドで標識された分子認識試薬は、少なくとも標識としてのオリゴヌクレオチド部分と、被検出物質に対して特異結合性をもつ分子認識部分とからなる。この両部分の結合は、アダプター部分を介して固定されたものであってもよい。前記アダプター部分としては、例えば、プロテインG、プロテインA、プロテインL、ビオチン−アビジンコンジュゲート、これらの誘導体及び改変体からなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。前記オリゴヌクレオチド部分には、アダプター部分と結合するための領域と、制限酵素による切断を受ける領域と、PCRで増幅可能な領域とが含まれていることが望ましい。
【0032】
標識に用いられるオリゴヌクレオチドとしては、核酸鎖(DNA、RNA)、オリゴペプチド及びオリゴペプチド核酸から選択される一種もしくは複数のものを選択できる。標識に用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、特に限定はされない。例えば、核酸鎖(DNA、RNA)の場合は、例えば、100〜5,000merであることが好ましく、より好ましくは100〜1,000mer、さらに好ましくは100〜500merである。核酸鎖の長さが上記範囲を満たす場合、アダプターとの複合化が容易となり、複合化後の状態を安定化させるとともに、検出感度の向上や検出時間の短縮を図ることができる。オリゴペプチドの場合は、例えば、10〜1,000アミノ酸残基であることが好ましく、より好ましくは10〜500アミノ酸残基、さらに好ましくは10〜100アミノ酸残基である。オリゴペプチドの鎖長が上記範囲を満たす場合、アダプターとの複合化が容易となり、複合化後の状態を安定化させるとともに、オリゴペプチドへの標識処理が容易となる。
【0033】
前記分子認識部分としては、免疫学的検定法(イムノアッセイ)に用いられる抗体が好適に用いられる。特に、モノクローナル抗体は特異性が高いものも多く優れている。前記分子認識部分は、抗体に限られるものではなく、糖鎖、レクチン、セレクチン、DNA、RNA、ペブチド核酸、アプタマー、抗体断片Fabまたは抗体認識部位Fv等の分子特異的結合能をもつ分子認識試薬を用いることができる。
【0034】
上記カートリッジ本体に設けられる「主流路」とは、被検液、マスキング剤、溶離液またはPCR試薬等の種々の試薬の流れを確保し、液体を移送及び/又は貯蔵することができる限り、その形状、長さ、大きさ、数等は特に限定されない。流路は、例えば、数十μm〜数mmのオーダーの幅を有し、数十μm〜数百μmの深さを有する溝により形成されていることが適している。また、流路の断面積は100μm〜1mm程度が適切である。
【0035】
第1の貯留部は、被検液に含まれるであろう被検出物質とオリゴヌクレオチド標識された分子認識試薬との結合体を濃縮して保持する機能を果たす。一方、夾雑物を含む分散媒、マスキング剤及び洗浄液は、第1の貯留部を通過する。第1の貯留部は、被検出物質を貯留及び/又は保持するために、濃縮担持手段を含む。
【0036】
上記濃縮担持手段としては、多孔性材料またはメッシュ状物が好ましく用いられる。多孔性材料では、被検液が接触される表面積が大きいので、被検液中に含まれる被検出物質と上記分子認識試薬との結合体をより多く担持させることができる。このような多孔性材料もしくはメッシュ状物としては、特に限定されないが、好ましくはスポンジ、織布、不織布、充填された微粒子、繊維、多孔性焼結体及びモノリシック多孔質体からなる群から選択される少なくとも1種の材料を好適に用いることができる。また、表面積が大きいため、表面が微細加工された材料も好適に用いられ得る。このような微細加工としては、ナノインプリンティング法やスプレイデポジショニング法などにより表面を粗面とした加工などを挙げることができる。
【0037】
濃縮担持手段としての濃縮担持体を構成する素材としては、例えば、セラミック、ガラス、合成繊維、植物繊維、動物性繊維、合成樹脂、セルロース系材料または金属が用いられる。また、基材の表面に、被検出物質に対して化学反応を行う又は特異的結合能を有する分子や官能基で処理したものを用いてもよい。
【0038】
前記分子認識試薬からオリゴヌクレオチド部分を切り出す方法としては、前記オリゴヌクレオチド部分に制限酵素による切断を受ける領域を設けておいて制限酵素で切り出す方法または前記アダプター部分にタンパク質分解酵素による分解を受ける部分を設けておいてタンパク質分解酵素で切り出す方法等の方法を用いることができる。
【0039】
切り出されたオリゴヌクレオチド部分は、第2の貯留部へと輸送され、ポリメラーゼ チェーン リアクション(PCR)増幅される。
【0040】
オリゴヌクレオチドがDNAである場合には、例えば、耐熱性DNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ)を用いて、初期変性反応(例えば、97℃で2〜3分間)を実施した後、(1)DNAの変性工程(90〜94℃で30秒間)、(2)1本鎖DNAとプライマーとのアニーリング工程(50〜55℃で30秒間)、及び(3)耐熱性DNAポリメラーゼによるDNA合成工程(70〜75℃で1〜2分間)からなる増幅サイクルを繰り返す(例えば、5〜45回)ことにより、PCRを実施することができる。
【0041】
オリゴヌクレオチドがRNAである場合には、例えば、逆転写PCR(RTPCR)法により実施することができる。すなわち、逆転写酵素及びオリゴ(dT)プライマーを用いて、逆転写反応を実施した後、前記DNAの場合と同様に、耐熱性DNAポリメラーゼ(例えば、Taqポリメラーゼ)を用いて、初期変性反応及びそれに続く増幅サイクルを繰り返すことができる。
【0042】
検出部には、検出手段が備えられている。検出手段は、特に限定されることなく、被検出物質を検出することができる方法を実現し得る機構の全てを利用することができる。方法としては、電気化学分析法、光学分析法、液体クロマトグラフィー分析、免疫学的検定法、他の原理を利用した分析、例えば特異的結合反応を利用した分析等が挙げられ、また、これらの2種以上を組み合わせた方法が挙げられる。機構としては、特に限定されず、例えば、電気化学分析のための電極及び電流・電圧を印加又は読取る手段等、光学的分析法における光学セル、光源及び分光器等、液体クロマトグラフィーにおけるクロマトカラムまたはイムノアッセイにおける抗原又は抗体の固定相等が用いられる。
【0043】
本発明の検出方法において用いられる電気化学分析法について、より具体的に記載するならば、例えば、リニア スイープ ボルタンメトリー(LSV)、クーロアンペリメトリー(CA)、クーロクロノメトリー(CC)、又はサイクリックボルタメトリー(CV)などを挙げることができる。
【0044】
なお、本発明の検出用カートリッジおよび検出方法では、第2の貯留部と検出機構とは、別々に備えられていてもよいが、第2の貯留部が検出部を兼ねていてもよい。例えば、第2の貯留部でそのまま電気化学的応答を測定することもできる。検出機構は必ずしも検出用カートリッジに一体化されている必要はないが、検出機構が検出用カートリッジに一体化されている場合には、小型化と制度管理の面において望ましい。更には、検出機構の一部分のみが検出用カートリッジに備えられていてもよい。例えば、光学セル部分が検出用カートリッジ内に、フォトマルチプライアーが後述する測定機内に設けられていてもよい。
【0045】
また、検出機構を構成する部材として、HPLCカラムのようにワンウェイに適した再生しにくい部材または測定毎に煩雑な再生処理等を要する部材等は、検出カートリッジ側に配置することが好ましい。
【0046】
また、電気化学分析における電極は、測定毎に研磨を必要とするため、カートリッジに搭載するのに適している。
【0047】
一方、発色分析における光学セルは、測定毎に行う処理として比較的簡易な水洗浄でよいため、カートリッジ内に配置してもよく、処理ユニット内に配置してもよい。具体的には、検出機構が電気化学分析の場合は、検出用カートリッジ内の検出区画に、作用電極、対向電極及び参照電極等の電極が設置され、後述する溶離液が電解質溶液を兼ね、処理ユニット内に、電極と接続され、電流・電圧を印加又は読取る手段が設けられる。また、光学分析の場合には、検出用カートリッジ内に光学セルが設けられ、分析装置内に光源や分光器等が設けられる。
【0048】
本発明における好ましい検出機構としては、例えば、(a)溶出された標識オリゴヌクレオチドとしてのDNAを含む可能性のある第2の貯留部でPCRを施しDNA増幅した溶液と、(b)DNAに特異的または選択的に結合することができ、しかも、電気化学的に活性なDNA結合性物質とを混合し、電気化学的応答を測定する電気化学的検出機構が挙げられる。
【0049】
分析用カートリッジと処理ユニットの間で液体輸送がなされる場合には、液体輸送は分析用カードリッジの表面に設けられた複数のポートを介して行なわれる。複数のポートは、被検液又は試薬等を導入及び排出するために用いるものであり、その大きさ及び位置は特に限定されることなく、後述する検出を行うために適所に適宜形成される。例えば、ポートは、貯留部の上流、貯留部と検出機構との間、検出機構の下流等に、適宜配置することができる。ポートの選択/切り換えは、後述するバルブ機構(例えば、電磁バルブ等)により行うことができる。
【0050】
処理ユニットは、検出用カートリッジからの電気信号、光学データ等を読み取り、処理し、被検出物質の濃度に関する情報を生成、測定する処理手段、演算/情報処理手段を含む電子処理手段、電源等を備えていることが適している。処理手段としては、特に限定されるものではなく、上述したような電気化学分析、発色分析法等を実現することができる手段等を含むものであればよく、演算処理手段は、例えば、マイクロコントローラから構成される制御部、A/Dコンバータ等、いずれも周知のものを利用することができる。さらに、処理ユニットは、任意に、検出結果を表示するための表示部を設けることができる。加えて、送液ポンプ、タンク(例えば、水タンク、試薬調製用タンク、溶離液タンク、廃液タンク等)等を備えていることが好ましい。なお、試薬調製用タンクには、流路又は液体流路あるいは試薬部が試薬を収容する場合には、水を充填しておいてもよいし、液体の試薬自体を充填しておいてもよい。なお、処理ユニットは、検出用カートリッジを取外し自在に取り付けることができるカートリッジ取付部を備えることが好ましい。
【0051】
また、第1の貯留部から標識オリゴヌクレオチドを溶離して第2の貯留部に送る溶離液としては、イムノPCRとして知られる当該分野の分析に用いることができる一般的な溶離液のいずれをも用いることができる。例えば、制限酵素、タンパク質消化酵素を含む溶液が用いられる。さらに、電解質液等の本発明の装置を操作するために使用する溶液も用いることができる。
【0052】
本発明の検出用カートリッジ及び検出方法の具体的な実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0053】
図1(a)は本発明の一実施形態に係る検出用カートリッジの外観を示す斜視図であり、(b)はカートリッジ内に形成されている流路、及び第1,第2の貯留部の関係を示す模式的斜視図であり、図2はカートリッジ内に設けられている流路及び第1,第2の貯留部並びに検出部の関係を示す模式図である。また、図3は、本実施形態の検出用カートリッジの内部構造を示す分解斜視図である。
【0054】
図1に示すように、本実施形態の検出用カートリッジ1は、下方から第1〜第3のプレート11〜13を積層してなるカートリッジ本体2を有する。プレート11〜13は、例えば合成樹脂により形成される。各プレート11〜13は、典型的には35mm×50mmの矩形の平面形状を有し、1枚のプレートの厚みは1mm程度とされる。図1(a)では省略されているが、図3に示すように、第1〜第3のプレート11〜13は、粘着シート14,15を介して積層されている。従って、カートリッジ本体2は、約4mm程度の厚みを有する。
【0055】
図3においては、図示を用意とするために、また理解を用意とするために、第1のプレート11及び粘着シート14の向きと、残りの第2,第3のプレート12,13及び粘着シート15の向きを代えて図示している。
【0056】
カートリッジ本体2の下面には、第1〜第5のポート3〜7が形成されている。第1〜第5のポート3〜7は、カートリッジ本体2内に設けられている主流路8に接続されている。
【0057】
なお、主流路とは、被検出物質を含む被検疫及び/またはオリゴヌクレオチドで標識された分子認識試薬を流し、オリゴヌクレオチド標識を増殖して定量する一連の分析方法を実現する流路すなわち分析用流路を意味する。主流路と表現しているのは、後述の変形例で示す廃液流路と区別するためであることを指摘しておく。
【0058】
主流路8は、第1のプレート11,12間及び第2のプレート12及び第3のプレート13間のいずれかの内面に形成された溝及び/または第2のプレート12に設けられた貫通溝により形成されている。また、本発明において必須ではないが、本実施形態では、主流路8は、第1の流路部分9と第2の流路部分10とを有する。第1の流路部分9は、第1,第2のポート3,4を接続している。第1の流路部分9の途中に第1の貯留部16が設けられている。また、第2の流路部分10は、第3のポート5〜第5のポート7を接続している。第2の流路部分10の途中には、第2の貯留部17が設けられている。第2の貯留部17の下流側には、検出部18が設けられている。
【0059】
なお、第1の流路部分9は、被検出物質を含む被検液及び/またはオリゴヌクレオチドで標識された分子認識試薬を流すための流路部分であり、第2の流路部分10は、オリゴヌクレオチド標識を増殖して定量するための流路部分である。
【0060】
また、第2の流路部分10の下流側は図2には示されていない部分において、廃液貯留部19に接続されている。廃液貯留部19は、図3に示すように、第1のプレート11の上面において上方に向かって開いた凹部19a、第2のプレート12に設けられた大きな開口部19b及び第3のプレート13の下面において下方に向かって開いた凹部19cが組合わさって形成されている。
【0061】
他方、第1の貯留部16は、第1のプレート11の上面において上方に向かって開いた凹部16aと、第2のプレート12に設けられた放射状の開口部16bとが積層されて形成されている。なお、第1のプレート11には、上記第1の貯留部16に繋がるように前述した第2のポート4が形成されている。第1の貯留部16内には、図2においては略図的に示すように、濃縮担持手段としての濃縮担持体21が収納されている。濃縮担持体21は、前述した適宜濃縮担持材料により形成されている。
【0062】
図2に示すように、主流路8の第1の流路部分9は、濃縮担持体21の上面と下面に接続されている。言い換えれば、主流路8を移動してきた液体が、濃縮担持体21を上流側から下流側に向かって通過するように第1の流路部分9及び濃縮担持体21が設けられている。従って、濃縮担持体21内を液体を通過するので、液体と濃縮担持体21との接触面積は、メンブラン状のフィルタなどに液体を接触させる場合に比べて非常に大きくなる。そのため、反応場が増大し、被検出物質と分子認識試薬との結合体の絶対数が大きくできるため、後段のPCRにまわすオリゴヌクレオチドの濃度を高めることができる。また、後述の洗浄液等による洗浄に際して生じた残液中の夾雑物の洗浄などもより確実に行い得る。それによって、測定感度を著しく高めることができる。特に、上記濃縮担持体21が、液体との接触面積を高め得る前述の多孔性材料やメッシュ状物からなる場合、接触面積をより一層高めることができるので、測定感度をより一層高めることができる。
【0063】
第1の貯留部16内においては、好ましくは、被検出物質と特異的に結合する特異結合分子が固定される。この場合には、イムノアッセイが固相表面で行われる。この場合には、固相表面の面積が濃縮担持体により大きくされているので、感度を高めることができ、さらにイムノアッセイを行うスペースを小さくすることができるので、イムノアッセイに必要な時間を短縮することができる。
【0064】
第2の流路部分10の途中に設けられた第2の貯留部17は、図3に示すように、第2のプレート12に設けられた貫通孔17aが、第1,第3のプレート11,13で閉成されて設けられている。この第2の貯留部17はPCRチャンバーを構成している。第2の貯留部17の隔壁は周囲に比べて薄くなっており、外部からの温度調節を受けやすくできている。
【0065】
図3では図示を省略しているが、図2に示すように、第2の貯留部17の上下に、アルミニウムやステンレスなどからなる熱溜め部材22,22が配置されている。この熱溜め部材22,22はアルミニウムやステンレス塊からなる。そして、熱溜め部材22,22の外側には、ペルチェ素子23,23が固定され、熱結合されていく。ペルチェ素子23,23の外側表面には、アルミニウムなどからなる放熱フィン24,24が貼りつけられている。ペルチェ素子23に通電することにより、PCRチャンバーとしての第2の貯留部17内を加熱することができる。通電量を制御することにより第2の貯留部17の温度を、PCR法による増幅を行い得るように温度調節する。従って、上記ペルチェ素子23,23を含む第2の貯留部17が設けられている部分が、本発明における温度調節手段を構成している。
【0066】
他方、検出部18においては、化学電極としては、参照電極R、作用電極W及び対極Cが配置されている。ここでは、対極Cと、参照電極Rとの間の電圧及び作用電極Wと対極Cとの間の電圧に基づいて、被検液中の被検出物質由来のオリゴヌクレオチド濃度が検出される。
【0067】
なお、図3に示すように、第1〜第3のプレート11〜13は、粘着シート14,15を介して貼り合わされ、積層されている。粘着シート14,15は、上述した廃液貯留部19などを形成するため貫通孔を有する。また流路を接続するための複数の小さな貫通孔も有する。
【0068】
上記作用電極Wとしては、例えば、3.5mm×8.4mm×0.5mm程度の板状のカーボン電極を好適に用いることができる。対極C及び参照電極Rについても同様の寸法の板状の電極を用いることができ、対極Cは作用電極Wと同様に板状のカーボン電極を用いて作製することができる。また、参照電極Rについてはアルミナ基材上に銀/塩化銀ペーストが塗布された電極を用いることができる。
【0069】
もっとも、上記化学電極の寸法及び構造については特に限定されず、第1のプレート11上に適宜の電極材料を印刷することにより形成されてもよい。
【0070】
本実施形態では、プレート11の上面と化学電極の表面とが面一となるように、第1のプレート11の上面に凹部が形成され、該凹部を埋めるように電極材料が充填されている。
【0071】
従って、参照電極R、作用電極W及び対極Cの上面と、第1のプレート11の上面とは面一とされている。よって、第1のプレート11と第1のプレート12とを隙間を生じさせることなく容易に積層することができる。
【0072】
なお、粘着シート14には、上記参照電極R、作用電極W及び対極Cを露出させるための貫通孔14a〜14cがそれぞれ形成されている。
【0073】
これらの貫通孔14a〜14cを通して液体が参照電極R、作用電極W及び対極Cに接触されることになる。
【0074】
上記第1〜第5のポート3〜7の内、第1のポート3は、被検液や溶離液などを導入するためのポートであり、第1のプレート11に貫通孔として形成されている。なお、第3のプレート13においては、特に図示はしていないが、参照電極Rを活性化するための活性化液としての電解質溶液が貯留された電解質溶液室を設けてもよい。このような電解質溶液を上記第2の流路部分10に接続し、第2の流路部分10に供給することにより、上記参照電極Rの活性化を容易に行うことができる。
【0075】
上記検出手段としては、化学電極を用いることが望ましい。より望ましくは、上記実施形態のように、カートリッジ本体2内に、化学電極としての参照電極R、作用電極Wなどが配置された検出区画が備えられていることが望ましい。化学電極を用いることにより検出手段の小型化を進めることができ、それによってカートリッジ全体の小型化を進めることができる。
【0076】
本実施形態の検出用カートリッジ1を用いれば、被検出物質とオリゴヌクレオチド標識された特異結合試薬との結合体を第1の貯留部により濃縮担持し、第1の貯留部から溶出された上記オリゴヌクレオチドを第2の貯留部でPCR温度調節し増殖し、増殖されたオリゴヌクレオチドの濃度を検出部において測定し、測定されたオリゴヌクレオチド量をもとの被検物質濃度に換算することができる。つまり、本実施形態の検出用カートリッジ1により、被検物質濃度を高感度かつ比較的短い時間で測定することができる。
【0077】
第1の貯留部16では、イムノアッセイに代表される分子特異的結合反応を短時間化することができ、結合体の濃縮及び洗浄を行うことができる。分子特異的結合反応の短時間化を図ることができるのは、この反応は拡散律速であり、反応場がマイクロ化されていることによる。
【0078】
また、第1の貯留部16で濃縮され、洗浄された上記結合体は、適宜の溶離液を導入することにより、標識であるオリゴヌクレオチドを溶出する。溶出したオリゴヌクレオチドは、PCRに必要な試薬と一緒に第2の貯留部に搬送されることになる。
【0079】
第2の貯留部が上記カートリッジ本体内に設けられているため、温度変化を速やかに行うことができる。従って、上記第1の貯留部における濃縮が行われており、さらに、比較的小さな体積の第1の貯留部で温度調節を行えばよいので、PCR法における温度調節時間を短縮することができる。
【0080】
すなわち、本実施形態では、第1の貯留部に濃縮担持された結合体に起因するオリゴヌクレオチドがPCRを行う第2の貯留部に供給されるため、PCR法に移る前に被検出物質の極低濃度が対応する高濃度のオリゴヌクレオチドに変換されている。そのため、必要な最終感度を得るためのPCR増幅段数を10回程度と少なくすることができる。それによって、イムノPCR法を例えば20分以内と、短い時間で完了することができる。
【0081】
また、被検出物質の濃度がmg/mL〜pg/mL以下の非常に低い濃度であっても、短時間で、被検出物質を検出することが可能となる。
【0082】
上記検出用カートリッジ1におけるカートリッジ本体2の構造は、上記第1,第2の貯留部及び検出部と、これらを接続する流路が形成される限り、図1〜図3に図示の構造に限定されるものではない。
【0083】
図6は、上記実施形態の検出用カートリッジ1の変形例を説明するための模式図である。本変形例の検出用カートリッジ41では、ポート4及びポート5は形成されておらず、第2の流路部分10が直接第1の貯留部16に接続されている。従って、第1の流路部分9及び第2の流路部分10が、カートリッジ本体2内で接続されている。ここでは、第1の貯留部16よりも下流側であって、検出部18よりも上流側において、第2の流路部分10に廃液流路42が接続されている。廃液流路42は、廃液ポート43に連ねられている。廃液ポート43は、カートリッジ本体の下面に開口している。第1の流路部分9の下流端と、第2の流路部分10の上流端と、廃液流路42の上流端とに流路切換機構としてバルブ44が接続されている。バルブ44は、主流路8において、上流側すなわち第1の流路部分9側から移動してきた液体を、第2の流路部分10へ流す状態と、廃液流路42に流す状態とを切り換え得るように構成されている。
【0084】
その他の点は、本変形例は、図2に示した上記実施形態と同様に構成されている。本変形例では、上記廃液流路42及びバルブ44が設けられているので、被検出物質と分子認識試薬の結合体を濃縮担持する工程においてバルブ44を廃液流路42に液体を移動させる状態としておけば、濃縮担持されなかった成分や他の成分を含む残液を廃液流路42から廃液することができる。従って、未反応の成分等が検出部18に至らないため、検出部18の未反応の成分等による汚染を防止することができ、それによって測定感度を高めることができる。
【0085】
また、後述の夾雑物の洗浄工程においても、同様に、夾雑物を洗浄するにあたり、洗浄液を第1の貯留部16側に送液するが、この場合においても、上記バルブ44を廃液流路42側に液体を移動する状態に切り換えておけば、洗浄液を廃液ポート43から廃棄することができる。従って、夾雑物を含んだ洗浄液が検出部18に至らないため、検出部18の夾雑物による汚染が生じ難い。それによっても、測定感度を高めることができる。
【0086】
濃縮担持後には、バルブ44を、廃液流路42ではなく、第2の流路部分10に液体を移動させる状態に切り換え、以後の工程を行なえばよい。
【0087】
このようなバルブ44としては、マイクロ流体の移動方向を上記のように切り換え得る適宜のバルブを用いることができる。このようなバルブとしては、三方コック、電磁弁を含む流路切り換え装置、蝋のように熱などの刺激により流路を閉塞した状態から開放した状態に切り換え得る装置など適宜の流路切り換え装置を用いることができる。
【0088】
なお、図2に示した前述の実施形態では、上記バルブ44を必ずしも必要としない。すなわち、被検出物質と分子認識試薬との結合体を濃縮担持する工程や第1の貯留部における洗浄を行なう工程においては、ポート3から廃液し、濃縮担持されている結合体から切断され溶出されたオリゴヌクレオチドを第2の貯留部17に搬送するに際しては、ポート3とポート4とを接続すればよい。もっとも、カートリッジ本体外で上記バルブ44を用いてもよい。
【0089】
図7は、本発明の他の実施形態に係る検出用カートリッジの構造を説明するための分解斜視図である。検出用カートリッジ51では、2枚のプレート52,53を接着剤等を用いて貼り合わすことにより構成されている。すなわち、プレート52,53を貼り合わせることによりカートリッジ本体が構成されている。
【0090】
なお、プレート52,53は、接着剤による貼り合わせに限らず、拡散接合、陽極接合、レーザー接合等の適宜の接合方法によって貼り合わすことができる。
【0091】
プレート52の下面に破線で示す多孔形状の凹部が設けられており、該蛇行形状の凹部により第1の流路部分9が形成されている。また、プレート52には、第1〜第4のポート3〜6を構成するための各貫通孔が形成されている。なお、図2の第5のポート7は記載されていない。
【0092】
プレート53の上面には、上記第1の流路部分9が形成される部分に、プレート52の下面に設けられた蛇行形状の凹部と重ねられ合う蛇行形状の凹部が設けられている。プレート52,53の蛇行形状の凹部が合体し、第1の流路部分9が形成される。また、プレート53の上面には、濃縮担持体21を含む凹部からなる第1の貯留部16が設けられている。第1の流路部分9の一端は第1のポート3に、他端は第2のポート4に接続されている。
【0093】
また、プレート53の上面には、第2の流路部分10が形成されており、第2の流路部分10の途中に、凹部からなる第2の貯留部17が設けられている。また、第2の貯留部17の下流側に、検出部18が設けられている。検出部18は、第1の実施形態と同様に構成されている。
【0094】
図8は、本発明のさらに他の実施形態に係る検出用カートリッジの構造を説明するための模式図である。検出用カートリッジ61では、第1の流路部分9が第1のポート3とバルブ62とに接続されており、廃液流路63が第1の流路部分9の濃縮担持体21よりも下流側部分と、第2のポート4との間に接続されている。また、バルブ62には、第2の流路部分10が接続されている。すなわち、主流路の上流側に位置している第1の流路部分9と、下流側に位置している第2の流路部分10とがバルブ62により接続されている。廃液流路63を流れる流体の流動抵抗は、第2の流路部分10を流れる流体の流動抵抗に比べて高くされている。
【0095】
バルブ62を開閉することにより、第1の流路部分9から流れてきた液体を、廃液流路63または第2の流路部分10に流すことができる。バルブ62が閉状態とされている場合、第1の流路部分9から流れてきた液体が廃液流路63に流れ、ポート4から廃棄され得る。次に、バルブ62を開状態とすることにより、第1の流路部分から流れてきた液体を、第2の流路部分10に導くことができる。
【0096】
上記のように流路を開閉するバルブ62を用い、かつ廃液流路63における流動抵抗を相対的に高くしておけば、バルブ62の開閉により流路接続状態を切り換えることができる。このようなバルブ62は、前述したバルブ44と同様に、電磁気を用いたバルブや熱もしくは光などの刺激を外部から与えることにより流路接続状態を切り換え得る適宜のバルブにより構成することができる。好ましくは、図9(a),(b)に示すように、光を照射することにより流路を開閉し得るバルブが用いられる。
【0097】
図9(a)に示すように、カートリッジ本体2内に、第1の流路部分9と第2の流路部分10とが形成されている。ここでは、第1の流路部分9の下流端が第2のポート4に接続されており、第2の流路部分10の上流端が第3のポート5に接続されている。この第2,第3のポート4,5はカートリッジ本体2の下面に開口しており、この開口部分が、カートリッジ本体2の下面に貼付された光剥離性テープ71により閉成されている。光剥離性テープ71は、少なくともカートリッジ本体2に貼付されている面が、粘着性を有し、光の照射により該粘着性が低下し、カートリッジ本体2に貼付されている面から浮きを生じる材料からなる。
【0098】
図9(a)に示す閉状態では、第1の流路部分9と第2の流路部分10とは接続されていない。これに対して、図9(b)に示すように、第2,第3のポート4,5が設けられている部分の下方から例えば発光ダイオードのような光源72を用いて光を照射する。その結果、光が照射された部分では、光剥離性テープ71の粘着力が低下もしくは喪失し、カートリッジ本体2の下面から浮くこととなり、空間Aが形成される。この空間Aが第2,第3のポート4,5を連通し、第1の流路部分9と第2の流路部分10とが接続されることとなる。すなわち、光剥離性テープ71を用いたバルブを開状態とすることができる。
【0099】
上記のような光剥離性テープを構成する材料については特に限定されず、光の照射により粘着力を喪失あるいは大幅に低下させ得る適宜の光硬化性粘着テープ、好ましくは光の照射によりガスを放出し上記空間Aを確実に形成し得る光応答性ガス放出材料からなるテープを用いることができる。なお、光源72の放射強度は、10mW程度でも充分であり、実質的な発熱なく光剥離性テープ71を用いたバルブを開状態とすることができる。
【0100】
本発明の被検出物質の検出方法は、各種アレルゲン、例えば、卵黄、卵白、牛乳、落花生、エビ、カニ、魚、貝、大豆、マンゴーなどの食品、塵ダニ、羽毛、花粉、真菌、細菌、ゴキブリ、犬又は猫の毛が挙げられる。その他、内分泌撹乱物質、農薬、IgEもしくはIgG等の免疫グロブリン、ヒスタミン、遺伝子(RNA)、ストレスマーカー、各種タンパク質、人または動物の血液、血液成分、尿、唾液もしくは体液に含まれる抗原もしくは抗体、特定疾患を示す成分、アスベスト、血中薬物またはその他の抗体により検知可能な物質の検出に用いることができる。
【0101】
次に、上記実施形態の検出用カートリッジ1を用いて、被検出物質を測定する方法をより具体的に説明する。
【0102】
(実施例1)
プレマリンを抗原としたサンドイッチアッセイ可能な2種の抗体、すなわち、第1の抗プレマリンIgGと、第2の抗プレマリンIgGとを用意した。第2の抗プレマリンIgGには、アダプターとしてのプロテインGを介してオリゴヌクレオチドを結合し、オリゴヌクレオチド標識抗体試薬を得た。
【0103】
第1の抗プレマリンIgGは、ニトロセルロースメンブレンに物理感作させ、アルブミンでブロッキングした後乾燥した。このように処理されたニトロセルロースメンブレンを直径4mmの円板の形状に打ち抜き、プレマリンに対する円板状の濃縮担持体を得た。
【0104】
次に、図1に示したプレート11〜13を用意し、第1の貯留部に上記濃縮担持体をセットした。手度、第2の貯留部17の上下には、前述したペルチェ素子23,23を含む温度調節装置を配置した。さらに、検出部については前述した実施形態に従って、化学電極を配置した。
【0105】
第1〜第3のプレート11〜13としては、35mm×50mm×厚み1mmのポリメチルメタクリルプレートからなる樹脂プレートを用い、30μmの厚みの両面粘着テープを粘着シート14,15として用いた。
【0106】
上記のようにして得られた検出用カートリッジ1を用い、プレマリン濃度1μg/mLの標準試料を用意し、10pg/mL、50pg/mL、100pg/mLの各濃度の試料溶液を作製し、検出用カートリッジ1を用いて検量線を作成した。1つの試料溶液についての分析手順は以下の通りとした。
【0107】
まず、第1のポート3から1mLの試料溶液をマイクロシリンジを用いて主流路8の第1の流路部分9に導入し、第1の貯留部16に導いた。
【0108】
次に、カートリッジ本体を測定装置にセットし、マイクロコンピューターで制御された送液システムにより、以下の洗浄液、抗体試薬及び洗浄液(2回目)、及び標識溶質液を第1の貯留部16に順次導いた。すなわち、まず、第1のポート3から第1の流路部分9を介して第1の貯留部16に、洗浄液としてリン酸緩衝液を2mLの量、1mL/min.の速度で導入した。次に、抗体試薬を、第1のポート3から、0.2mLの量、50μL/min.の流速で第1の貯留部16に導いた。しかる後、洗浄液としてのリン酸緩衝液を、第1のポート3から、1mLの量、1mL/min.の速度で、第1の貯留部16に導き、次に、標識溶質液を第1のポート3から、0.2mLの量及び50μL/min.の流速で第1の貯留部16に導いた。
【0109】
次に、上記標識溶質液を導入した後、第1の貯留部16内の溶液を第2の流路部分10に導き、第2の貯留部17において溶質液の温度調節をPCR法に従って行った。すなわち、まず、第2の貯留部17をリン酸水素二ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム二水和物を含有するリン酸緩衝液(pH7)で満たした。DNA合成反応用混合液注入口としてのポート5からポリメラーゼ連鎖反応用混合液[1ユニットTaqポリメラーゼ、15pmolフォワードプライマー、15pmolリバースプライマー、1mmol/L硫酸マグネシウム、0.2mmol/L−dNTPs、5μL−10×buffer]5μLを注入し、続いて、前記リン酸緩衝液5μLを注入することにより、第2の貯留部17にポリメラーゼ連鎖反応用混合液を送液した後、97℃(3分間)の初期変性反応を実施した後、94℃(30秒間)と55℃(30秒間)と74℃(90秒間)とからなるサイクリック温調を10回繰り返して、PCRを実行した。このようにしてサイクリック温度調節により、PCR法を実現した。しかる後、DNA合成反応用混合液注入口としてのポート5からリン酸緩衝液5μLを注入し、第2の貯留部17内における反応液を検出部18に送液した。この場合、遺伝子結合性物質注入口として用いられるポート5から、下記の化学式(1)で表わされる化合物(ヘキスト社製、商品名:ヘキスト33258)100μmol/Lを含有する水溶液(以下、ヘキスト33258水溶液と略す)5μLを注入し、検出部18にヘキスト33258水溶液を送液した。検出部18におけるヘキスト33258の最終濃度は50μモル/Lとした。
【0110】
【化1】

【0111】
次に、検出部18において、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)により、測定を行った。掃引速度は5mV/秒とし、200mVから700mVまで掃引し、電流値を測定した。
【0112】
測定原理を図4及び図5に示す。前記遺伝子結合性物質として、電気化学的に活性なDNA活性物質を使用することができる。ヘキスト33258は電気化学的に活性なDNA活性物質の好例である。ヘキスト33258は、DNAが存在する溶液中では、DNAのマイナーグルーブへの結合ならびにDNA二重らせんへの挿入によって、みかけの電気化学活性量が減少する。たとえば、図4(a)に示すように、溶液中にDNAが存在しない場合には、ヘキスト33258はフリーな状態で溶液中に分散し、図5の応答曲線(a)に示すように高い電気化学的応答を示す。他方、図4(b)に示すように、溶液中にDNAが多量に存在する場合には、ヘキスト33258はDNAと凝集して図5の応答曲線(b)に示すようにみかけの電気化学的応答が低下する。この場合、被検試料中に遺伝子が存在すると判定することができる。なお、図5の応答曲線(c)は、溶液中にヘキスト33258が存在しない緩衝溶液のみの場合のリファレンスの電気化学的応答である。本発明において、検出部に至るDNAは全て、被検出物質と分子認識薬の結合体に由来し、PCRによる一定倍率の増幅を経たものであるから、検出部で測定されるDNA量は被検出物質と相関がある。従って、上記リニアスイープボルタンメトリーを用いることにより、被検出物質の濃度を電流値として高精度に検出し得ることがわかる。
【0113】
なお、上記実施例の検出方法では、濃縮担持体に抗体を補填するサンドイッチ法を用いた分析方法につき説明したが、濃縮担持体に被検出物質と同等の標準物質を固定する競合法を用いてもよく、また溶液中で免疫凝集物やラテックス凝集物を形成する凝集法に基づくイムノPCR法を用いてもよい。
【0114】
すなわち、イムノアッセイでは、用いる標識の種類や反応済の抗原もしくは抗体を分離する方法などによって、競合法と非競合法(サンドイッチ法)、あるいは均一法と不均一法などに分類されるが、本発明においては、このように分類される各種の方法PCR法と組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0115】
1…検出用カートリッジ
2…カートリッジ本体
3〜7…第1〜第5のポート
8…主流路
9…第1の流路部分
10…第2の流路部分
11〜13…第1〜第3のプレート
14…粘着シート
14a〜14c…貫通孔
15…粘着シート
16…第1の貯留部
16a…凹部
16b…開口部
17…第2の貯留部
17a…貫通孔
18…検出部
19…廃液貯留部
19a…凹部
19b…開口部
19c…凹部
21…濃縮担持体
22…部材
23…ペルチェ素子
24…放熱フィン
41…検出用カートリッジ
42…廃液流路
43…廃液ポート
44…バルブ
51…検出用カートリッジ
52,53…プレート
61…検出用カートリッジ
62…バルブ
63…廃液流路
71…光剥離性テープ
72…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質を含む被検液及び/又はオリゴヌクレオチドで標識された分子認識試薬を流すための主流路と、前記主流路に接続された第1の貯留部と、第1の貯留部に前記流路を介して接続された第2の貯留部と、第2の貯留部に前記主流路を介して接続された検出部とを備えるカートリッジ本体と、
前記カートリッジ本体内の前記第1の貯留部に設けられており、前記被検出物質と前記分子認識試薬の結合体を濃縮担持する濃縮担持手段と、
第2の貯留部に供給されてきた液体の温度調節を行い、PCR増幅を行うためのPCR温度調整手段と、
前記検出部に設けられており、前記被検出物質の濃度に応じた前記オリゴヌクレオチドの濃度を検出するための検出手段とを備える、検出用カートリッジ。
【請求項2】
前記カートリッジ本体が、前記第1の貯留部と前記検出部との間において前記主流路に接続されており、かつ前記検出部には接続されていない廃液流路を有する、請求項1に記載の検出用カートリッジ。
【請求項3】
前記第1の貯留部と前記検出部との間において前記主流路と前記廃液流路とに接続されており、かつ前記主流路の上流側から移動してきた液体を前記主流路の下流側または前記廃液流路に移動させるように流路を切り換えるバルブをさらに備える、請求項2に記載の検出用カートリッジ。
【請求項4】
前記主流路が、被検出物質を含む被検液及び/またはオリゴヌクレオチドで標識された前記分子認識試薬を流すための第1の流路部分と、オリゴヌクレオチド標識を増殖して定量するための第2の流路部分とを有し、前記バルブが上流側に位置する前記第1の流路部分と、下流側に位置する前記第2の流路部分と、前記廃液流路とに接続されている、請求項3に記載の検出用カートリッジ。
【請求項5】
前記バルブが外部からの刺激により流路接続状態を切り換えるバルブである、請求項3または4に記載の検出用カートリッジ。
【請求項6】
前記濃縮担持手段が、多孔性材料またはメッシュ状物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検出用カートリッジ。
【請求項7】
前記多孔性材料が、スポンジ、織布、不織布、繊維、充填された複数の微粒子、多孔性焼結体及びモノリシック多孔質体からなる群から選択した少なくとも1種の多孔質材料からなる、請求項6に記載の検出用カートリッジ。
【請求項8】
前記主流路を移動してきた液体が前記濃縮担持手段中を上流側から下流側に向かって通過するように前記主流路及び前記濃縮担持手段が設けられている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の検出用カートリッジ。
【請求項9】
前記第1の貯留部内において、前記被検出物質と特異的に結合する特異結合分子が固定化されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の検出用カートリッジ。
【請求項10】
前記検出手段が化学電極を備え、前記検出部に前記化学電極が配置された検出区画が設けられている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の検出用カートリッジ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の検出用カートリッジを用いた被検出物質の検出方法であって、
前記検出用カートリッジの前記第1の貯留部に、前記被検出物質と前記分子認識試薬との結合体を濃縮担持する第1の工程と、
前記第1の貯留部において、被検液中の前記結合体以外の夾雑物を洗浄する第2の工程と、
前記第1の貯留部に濃縮担持されている前記結合体から、分子認識試薬を標識しているオリゴヌクレオチドを切断し、溶出させ、前記第2の貯留部に搬送する第3の工程と、
前記第2の貯留部内において、PCR温度調節サイクルにより前記オリゴヌクレオチドの増幅を行う第4の工程と、
前記第2の貯留部内において増幅されたオリゴヌクレオチドを前記検出手段で定量する第5の工程とを備える、被検出物質の検出方法。
【請求項12】
前記第1の工程において、被検液中の前記被検出物質と前記分子認識試薬との結合体を濃縮担持した後、残液を検出部に到達させないように廃液する、請求項11に記載の被検出物質の検出方法。
【請求項13】
前記第2の工程において、前記被検液中の前記結合体以外の夾雑物を洗浄液を用いて洗浄するにあたり、洗浄後の洗浄液を検出部に到達させないように廃液する、請求項11または12に記載の被検出物質の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−99061(P2010−99061A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219383(P2009−219383)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】