説明

極低温容器内の極低温液体の液位を計測する方法

【課題】極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される電流パルスの大きさ及び持続時間のプロファイルを適切に制御することにより、極低温液体の液位の更に信頼性の高い計測を提供することを目的とする。
【解決手段】極低温容器内の極低温液体の液位を計測する方法であって、極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される電流パルスは、抵抗前線がプローブに沿って下方に極低温液体表面の下方にまで伝播することを保証するのに十分な大きさの点火電流パルス部分と、極低温液体の表面下方の超伝導ワイヤの部分が超伝導状態に戻ることができるようにする回復電流パルス部分と、超伝導ワイヤの抵抗値の正確な計測値を計測できるようにするのに十分な大きさ及び持続時間の計測電流パルス部分とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温容器内の極低温液体(以下、クライオゲンともいう。)の液位を計測するべく使用される超伝導クライオゲン液位プローブに関する。既知の極低温液体の液位プローブは、所定長の超伝導ワイヤを利用しており、このワイヤが、極低温容器内に収容された極低温液体中に略垂直に部分的に浸漬される。極低温液体との接触状態にある超伝導ワイヤの部分は、超伝導状態となる一方において、ガス状のクライオゲンは、極低温液体よりも冷媒としての効果が格段に劣るため、ガス状クライオゲン中のワイヤの部分は、電気抵抗を有する状態となる。
【背景技術】
【0002】
図1は、MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴撮像)システム用の磁石コイルを保持するべく使用されるクライオスタットを示している。極低温容器1が極低温液体2を保持している。極低温液体の液位の上方の極低温容器内の空間3は、蒸発したクライオゲンによって充填されることになる。極低温容器は、真空ジャケット4内に収容されており、この真空ジャケットは、極低温容器1の伝導又は対流による加熱の可能性を低減することにより、周辺温度からクライオゲン2に流れる熱の量を低減するべく機能する。極低温容器1と真空ジャケット4の間の真空空間内には、1つ又は複数の熱シールド5を用いることができる。これらの熱シールドは、外部から極低温容器1に到達する放射熱の量を低減するべく機能する。アクセスネック6が設けられており、これにより、外部からの極低温容器へのアクセスが可能である。これを使用して極低温容器を封止することにより、極低温容器内に収容されている超伝導コイルへの電流リード線又はその他の接続に対するアクセスを可能にすると共に蒸発したガス状クライオゲンの逃げ道を付与している。
【0003】
このようなシステムにおいては、システムが依然として動作状態にある際に極低温液体の液位を定期的に監視する必要がある。これは、クライオゲンの異常な大量消費として表れる漏洩を検出するために、且つ、磁石コイル又はその他の物品が極低温液体による十分な冷却状態に維持されるように適切な時間間隔において極低温液体が補給されることを保証するために、必要である。クライオゲンの液位が低下すると、磁石の各部分が極低温液体に浸漬された状態から離脱し、且つ、その温度がクライオゲンの液位が高い時点よりも上昇する。超伝導磁石の場合には、この結果、磁石のクエンチが発生することがあり、クエンチは、危険であると共にシステムの損傷をもたらし、且つ、磁場の崩壊をもたらすことがある。但し、選択される計測プロセスは、システムに対する過度な熱入力をもたらすものであってはならない。一般に、極低温液体の液位は、一日に一回計測することで十分であると見なされている。
【0004】
極低温液体の液位プローブを収容するべく、クライオゲンチャンバの内部には、ガイドチューブ10が設けられている。ガイドチューブ10は、アクセスネック6から極低温容器のほぼ下端にまで延在している。ガイドチューブは、その端部が封止されてはおらず、極低温容器内において、極低温液体の液位まで極低温液体によって充填されている。ガイドチューブ10は、極低温容器1内の極低温液体2の深さを計測する極低温液体の液位プローブを収容すべく設けられている。極低温液体の液位プローブは、プローブの長さにわたって延在する超伝導ワイヤを有する。
【0005】
動作の際には、このワイヤを通じて電流を流す。極低温液体中に浸漬されたワイヤの部分は、実質的に超伝導状態に留まることになり、ガス状のクライオゲンに露出したワイヤの部分は、電気抵抗を有することになる。ワイヤの電気抵抗を有する部分の両端に生成される電圧により、ワイヤの抵抗値の表示が得られる。そして、この表示により、ガス状のクライオゲン中にあるワイヤの長さが判明し、従って、この結果、極低温容器内の極低温液体の液位の表示が得られる。
【0006】
このような極低温液体の液位プローブは、極低温容器内の極低温液体の液位の信頼性の高い計測という観点において、一貫性を欠いた動作性能を有することが知られている。極低温液体の液位センサの一般的な用途は、MRI撮像システム用の超伝導磁石を収容する極低温容器内の液体ヘリウムの液位を計測するというものである。しかしながら、本発明は、あらゆるタイプの極低温容器内の任意のクライオゲンの計測に適用可能である。
【0007】
通常、極低温液体の液位プローブは、ガイドチューブ10内に配置された、或いは、さもなければ、例えば、非導電性担持部材上に取り付けられるか又は保護メッシュカバー内に封入された状態で極低温容器内に配置された所定長の細い超伝導ワイヤ(通常、直径が0.1mmである)を含む。
【0008】
極低温液体の液位の計測を実施するには、外部の電気制御装置から電力供給される電気ヒーターによって加熱することにより、ガス状のクライオゲン中に位置した超伝導ワイヤの上部部分に対して電気抵抗を付与する。超伝導ワイヤに電流を流すと、超伝導ワイヤの電気抵抗を有する部分から放散される熱により、ワイヤの隣接部分が加熱され、これにより、それらの隣接部分も電気抵抗を有することになる。電気ヒーターは、超伝導体と直列に配線されており、従って、超伝導ワイヤと同一の電流が供給される。既知の構成においては、電気ヒーターは、超伝導ワイヤの周りに巻き付けられると共にワニスによって接着されたワイヤヒーターである。別の既知の変形例においては、超伝導ワイヤは、超伝導ワイヤと電気的に直列接続されたフォイルヒーター上に載置されている。この結果、抵抗の「前線」(resistive ”front”)が、極低温液体の表面に到達するまで、超伝導ワイヤに沿って伝播する。
【0009】
従来、極低温液体との接触状態にあるワイヤの部分は、抵抗前線が極低温液体の表面に到達したら、その伝播が中止されるほどに効率的に冷却されている。この時点における超伝導ワイヤの抵抗値と、従って、所与の印加電流におけるその両端の電圧とにより、極低温容器内におけるクライオゲンの液位の表示が得られる。
【0010】
液体表面よりも下方の液位が計測されることを防止するために過大なエネルギーの印加によって極低温液体の表面下方への抵抗前線の過剰な伝播を防止しつつ、抵抗前線を液体層まで到達させるべく十分なエネルギーをバランス良く導入することが課題となる。特許文献1は、この課題に対処したものであって、極低温液体の液位プローブを使用した極低温液体の液位の計測について記載しており、望ましくない熱損失経路の存在によって抵抗前線の伝播が中断される「スタック(stuck)」プローブに対する可能な解決策を含む。
【0011】
極低温容器は、容器内の熱力学的状態の複雑性に起因して極低温容器内に予測不能に発生し得る、例えば、特にコールドスポットなどの、液位の上方の不均一な温度ゾーンが発生し得る。不十分なエネルギーがプローブの超伝導ワイヤに印加された場合には、これらの低温のゾーンが、これらのエリア内においてワイヤが電気抵抗を有することを妨げることになり、従って、この結果、不正確な液位計測値が得られることになる。通常、超伝導ワイヤの臨界温度は、MRIの用途における予想磁場強度及び通常の動作電流において、8〜10ケルビンである。例えば、4.2Kの温度の液体ヘリウムクライオゲンが使用された場合には、8〜10K以下の温度のガス状クライオゲンの領域が存在する可能性が非常に高い。
【0012】
本発明は、上記の条件が付与された際に、信頼性が高く且つ正確な極低温液体の液位の計測を保証し、これにより、特許文献1に記載されている方法に伴う既知の問題を解消する。
【0013】
その他の従来の構成が以下の文献に記載されている。特許文献2は、ヘリウムプローブの構造を記載しているが、動作の際にプローブに印加される電流パルスの構成には言及していない。特許文献3は、プローブ構造について記載しており、且つ、A−Dコンバータを使用する検出回路にも言及している。特許文献4は、制御よりもむしろ、プローブ構造について記載している。特許文献5は、タップポイントを有する全体長にわたって巻き付けられたヒーターを有するプローブについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】英国特許出願公開第2415512A号(GB2415512A)明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第2401688A号(GB2401688A)明細書
【特許文献3】特開平8−035875号公報(JP8035875−A1)
【特許文献4】特開昭61−031925号公報(JP61031925−A1)
【特許文献5】ソビエト連邦特許出願公開第1272860−A1号(SU1272860−A1)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、極低温液体の液位プローブの物理的な構造に対処するものではない。実際に、本発明は、極低温液体の液位プローブのあらゆる既知の構造に対して適用可能である。むしろ、本発明は、極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される電流パルスの大きさ及び持続時間のプロファイルを適切に制御することにより、極低温液体の液位の更に信頼性の高い計測を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明は、特許請求の範囲添付に記載されている方法を提供する。即ち、「極低温容器内の極低温液体の液位を計測する方法であって、プローブの長さにわたって延在する超伝導ワイヤを有する極低温液体の液位プローブを、極低温液体を収容する極低温容器内に垂直に導入するステップと、前記超伝導ワイヤを通じて電流を流し、抵抗前線を前記超伝導ワイヤに沿って下方に前記極低温液体の表面にまで伝播させるステップと、前記超伝導ワイヤの抵抗値を計測するステップと、を有し、前記超伝導ワイヤを通じて電流を流す前記ステップは、リーディングエッジ部分と、点火パルス部分と、回復パルス部分と、計測パルス部分と、を有するプロファイルを具備した電流パルスを印加するステップを有し、前記リーディングエッジ部分は、第1持続時間にわたって電流の大きさを第1の大きさに増大させて前記点火パルス部分を形成し、前記点火パルス部分は、抵抗前線が前記超伝導ワイヤに沿って下方に前記極低温液体の前記表面下方のレベルにまで伝播することを保証するのに十分な大きさ及び持続時間を有し、前記回復パルス部分は、前記点火パルス部分に後続しており、且つ、前記極低温液体の前記表面下方の前記超伝導ワイヤがその超伝導状態に戻るように、第2持続時間にわたって、前記第1の大きさを下回る第2の大きさの電流を有し、且つ、前記計測パルス部分は、前記回復パルス部分に後続しており、且つ、第3持続時間にわたって、前記第2の大きさを上回るが前記第1の大きさを下回る第3の大きさの電流を有し、前記第3持続時間及び前記第3の大きさは、前記超伝導ワイヤの抵抗値を計測するのに適切なものであって、計測の際に前記抵抗前線の位置が維持される、ことを特徴とする。」
また、「上記方法において、前記超伝導ワイヤを通じて電流を流すステップの結果として前記超伝導ワイヤの両端に生じる電圧を監視するステップと、選択された電圧を検出し、前記抵抗前線の前記伝播が始まったことの表示を提供するステップと、を更に有する。」
さらに、「前記方法において、前記選択された電圧に既定の時間内に到達しなかった場合に、その計測の試みが放棄され、且つ、計測失敗が表示される。」
【0017】
本発明の以上の、並びに、更なる目的、特性、及び効果については、添付の図面との関連において非限定的な例として付与される以下の実施例を参照することにより、更に明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】円筒形の極低温容器の半径方向の断面を示しており、極低温液体の液位プローブの従来の配置が示されている。
【図2】本発明の一実施例による極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加可能な例示用の電流パルスを示す。
【図3】本発明の一実施例による極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される回復電流パルス部分の許容可能なパラメータの範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される電流パルスの大きさ及び持続時間のプロファイルを適切に制御することにより、極低温液体の液位の更に信頼性の高い計測を提供することを目的としている。具体的には、本発明は、液体とガスの境界の信頼性の高い検出を保証する極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される電流パルスのプロファイルを提供する。
【0020】
本発明によれば、超伝導ワイヤ内において抵抗前線を極低温液体の表面まで伝播させるのに必要なものを上回る過剰な電流を超伝導ワイヤを通じて印加し、抵抗前線を液体表面の下方にまで意図的に過剰に伝播させることにより、極低温液体表面の液位の信頼性の高い検出が実現される。次いで、この電流を低減することにより、極低温液体との接触冷却によって液体表面の下方の超伝導ワイヤの超伝導特性が回復できるようにする。所定の期間の後に、計測電流を印加し、且つ、これ以外の部分については従来の方法により、極低温容器内の極低温液体の液位を計測可能である。計測電流は、正確な計測値を提供すると共に抵抗前線の位置を極低温液体の表面において維持するために十分ではあるが、超伝導ワイヤ内において抵抗前線の更なる伝播を生成するには不十分である大きさを有する。
【0021】
本発明によれば、極低温容器内におけるガス状クライオゲンの温度環境とは無関係に、極低温液体の液位を確実且つ正確に検出可能である。
【0022】
図2は、本発明の一実施例による極低温液体の液位プローブの超伝導ワイヤに印加される例示用の電流パルス100を示している。これは、リーディングエッジ部分102と、点火パルス部分104と、回復パルス部分106と、計測パルス部分108とから構成されている。各電流パルス部分は、隣接しており、従って、印加電流が各電流パルス部分の間においてゼロに戻ることはない。
【0023】
電流パルスのリーディングエッジ102は、好ましくは、例えば、800mAの値iiに対して、例えば、4A/sという従来の傾斜率dI/dtにおいて、線形傾斜している。現時点においては、傾斜率dI/dtは、1A/s〜10A/sの範囲内から適宜に選択可能であり、点火パルス部分の電流の大きさは、好ましくは、800mAを上回らない。リーディングエッジ102と、後続する点火パルス部分104とが1つの点火パルスを形成している。この点火パルスは、超伝導ワイヤの長さにわたる極低温容器内の極低温液体の表面下方のレベルにまでの抵抗前線の伝播を保証することを意図したものである。
【0024】
傾斜率が大き過ぎると、磁場と変化する電流の大きさの相互作用に起因した大きな力が極低温液体の液位プローブに印加されることになり、この結果、運動に起因して極低温液体の液位プローブが損傷する可能性がある。従って、傾斜率の適切な選択が重要である。逆に、傾斜率が小さ過ぎると、点火パルスの持続時間が増大することになり、この結果、許容不能なレベルの熱が更に導入されることになり、従って、極低温液体の蒸発が増加することになる。
【0025】
従来、特許文献1に記載されているように、超伝導ワイヤの両端の特定の電圧を検出し、抵抗前線の伝播が始まったことを確認可能である。0.5Vの電圧を選択することにより、この表示を提供可能である。超伝導ワイヤの両端の0.5Vの伝播表示電圧に到達するのに必要な時間(dt)及び電流(dI)を記録可能である。選択された電圧に既定の時間内に到達しなければ、その計測の試みを放棄可能であり、且つ、計測失敗を操作者に対して表示可能である。
【0026】
点火パルス部分104の持続時間tiは、2〜3秒とすることができる。この時間が終了すると点火パルスが終了し、且つ、印加電流は、回復パルス部分106において、例えば、100msの時間trにわたって、例えば、125mA〜175mAの回復電流レベルirに降下する。
【0027】
回復パルス部分106の可変パラメータ(電流の大きさ及び持続時間)が極低温液体の液位の検出の信頼性を決定することから、これらのパラメータは、慎重に選択することを要する。回復電流パルス部分の電流の大きさir及び持続時間trとして選択される値は、抵抗前線が「緩和(relax)」されて極低温液体の液位にまで戻るのに伴う極低温液体の表面下方の超伝導ゾーンの回復期間を決定する。回復電流パルス部分の電流の大きさir及び持続時間trの適切な値は、クライオゲン、極低温容器、及びプローブの任意の特定の組合せについて、経験的に見出すことが可能である。
【0028】
回復パルス部分106の後に、印加電流の大きさを計測電流パルス部分108の計測レベルimに増大させる。計測電流レベルimは、通常、250mA〜1Aであり、且つ、計測パルス部分の持続時間tmは、例えば、6秒とすることができる。
【0029】
計測パルス部分108は、超伝導ワイヤ内の抵抗前線の位置を極低温液体の表面において維持するのに十分であるが、抵抗前線を極低温液体の表面下方にまでは伝播させない大きさimを有する一定の電流を供給する。印加電流パルスのこの部分及び関連する計測は、従来同様に動作する。
【0030】
従って、要すれば、本発明によれば、プローブの長さにわたって延在する超伝導ワイヤを有する極低温液体の液位プローブは、超伝導ワイヤを通じた電流パルス100の印加によって稼働し、この電流パルスは、傾斜したリーディングエッジ102によって始まり、ワイヤを通じた電流は、点火の大きさiiにまで増大する。この電流の大きさは、抵抗前線を超伝導ワイヤに沿って下方に極低温液体の表面下方の液位にまで伝播させる大きさに、点火パルス部分の持続時間tiにわたって、留まる。次いで、電流の大きさを回復持続時間trにわたって回復のための大きさirに低減させる。この結果、抵抗前線が極低温液体の表面にまで戻るように、極低温液体の表面下方の超伝導ワイヤの部分を極低温液体によって冷却することができる。次いで、電流の大きさを計測持続時間tmにわたって計測のための大きさimに増大させる。この計測のための大きさimは、抵抗前線を極低温液体の表面において維持するには、十分であるが、抵抗前線を極低温液体の表面下方にまで伝播させるには、不十分なものである。計測持続時間tmにおいては、従来どおりに、超伝導ワイヤの抵抗値を計測し、且つ、計測した抵抗値を使用して極低温容器内の極低温液体の液位を算出する。
【0031】
前述のように、回復電流パルス部分106の電流の大きさir及び持続時間trは、慎重に選択することを要するが、これは、通常の試行錯誤による実験によって実行可能である。
【0032】
図3は、回復電流パルス部分106の電流の大きさir及び持続時間trの範囲を使用して本発明の方法に従って稼働させた超伝導クライオゲンプローブの性能マージンを例示するプロットを示している。図3の矩形のボックス内に示されている性能マージンは、図示の特定のパラメータir、trによって設定されたプローブが正常に稼働する比率を表している。1.0と記載されているゾーン内においては、これらのパラメータが印加されたプローブの97%〜100%が正しい液位を判読することになる。同様に、0.95と記載されているゾーンは、これらのパラメータが印加されたプローブの90%〜97%が正しい液位を判読することになることを示している。この例においては、点火パルス部分104は、図2に示されている例と同様に、600mAの電流の大きさiiと、2sの持続時間tiと、を有する。図示のように、回復電流パルス部分106の電流の大きさir及び持続時間trの範囲により、0.97〜1.00という好適な性能マージンの範囲を実現可能である。これらのパラメータの値は、望ましい性能マージンを提供する値の範囲の中央部分から選択されることが好ましい。この例においては、図2に示されているように、電流の大きさの値ir=175mAと、持続時間tr=1500msとを回復電流パルス部分106のために選択する。図3には、対応する地点が丸印で示されている。
【0033】
クライオゲン、プローブ、及び極低温容器のその他の組合せについて、回復電流パルス部分の電流の大きさir及び持続時間trの類似のチャート及びパラメータの選択肢を実験によって導出することにより、これらのパラメータの適切な値を選択できるようにすることができる。
【0034】
本発明によれば、極低温液体の液位プローブに印加される電流パルスは、抵抗前線がプローブに沿って下方に極低温液体表面の下方にまで伝播することを保証するのに十分な大きさの点火電流パルス部分と、極低温液体の表面下方の超伝導ワイヤの部分が超伝導状態に戻ることができるようにする回復電流パルス部分と、超伝導ワイヤの抵抗値の正確な計測値を計測できるようにするのに十分な大きさ及び持続時間の計測電流パルス部分とを含む。抵抗前線が極低温液体の表面の下方にまで伝播することを保証するのに十分な大きさ及び持続時間の点火パルスを供給することにより、従来技術の問題点が克服される。抵抗前線は、コールドスポットにおいて又は望ましくない熱損失経路上において、抵抗前線の伝播が中断される、いわゆる「スタック状態」とはならない。
【符号の説明】
【0035】
1:極低温容器、2:極低温液体、4:真空ジャケット、100:電流パルス、102:リーディングエッジ部分、104:点火パルス部分、106:回復パルス部分、108:計測パルス部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温容器内の極低温液体の液位を計測する方法であって、
プローブの長さにわたって延在する超伝導ワイヤを有する極低温液体の液位プローブを、極低温液体を収容する極低温容器内に垂直に導入するステップと、
前記超伝導ワイヤを通じて電流を流し、抵抗前線を前記超伝導ワイヤに沿って下方に前記極低温液体の表面にまで伝播させるステップと、
前記超伝導ワイヤの抵抗値を計測するステップと、
を有し、
前記超伝導ワイヤを通じて電流を流す前記ステップは、リーディングエッジ部分(102)と、点火パルス部分(104)と、回復パルス部分(106)と、計測パルス部分(108)と、を有するプロファイルを具備した電流パルス(100)を印加するステップを有し、
前記リーディングエッジ部分は、第1持続時間(ti)にわたって電流の大きさを第1の大きさ(ii)に増大させて前記点火パルス部分を形成し、
前記点火パルス部分は、抵抗前線が前記超伝導ワイヤに沿って下方に前記極低温液体の前記表面下方のレベルにまで伝播することを保証するのに十分な大きさ及び持続時間を有し、
前記回復パルス部分(106)は、前記点火パルス部分に後続しており、且つ、前記極低温液体の前記表面下方の前記超伝導ワイヤがその超伝導状態に戻るように、第2持続時間(tr)にわたって、前記第1の大きさを下回る第2の大きさ(ir)の電流を有し、且つ、
前記計測パルス部分(108)は、前記回復パルス部分に後続しており、且つ、第3持続時間(tm)にわたって、前記第2の大きさを上回るが前記第1の大きさを下回る第3の大きさ(im)の電流を有し、前記第3持続時間及び前記第3の大きさは、前記超伝導ワイヤの抵抗値を計測するのに適切なものであって、計測の際に前記抵抗前線の位置が維持される、ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記超伝導ワイヤを通じて電流を流すステップの結果として前記超伝導ワイヤの両端に生じる電圧を監視するステップと、
選択された電圧を検出し、前記抵抗前線の前記伝播が始まったことの表示を提供するステップと、
を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選択された電圧に既定の時間内に到達しなかった場合に、その計測の試みが放棄され、且つ、計測失敗が表示される請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−63354(P2012−63354A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199550(P2011−199550)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(509272285)シーメンス ピーエルシー (9)
【Fターム(参考)】