説明

極低温格納容器及び極低温装置

【課題】冷凍機の運転が停止した際にも長時間にわたって極低温を保持することができる極低温格納容器を提供する。
【解決手段】極低温格納容器10Aは、冷凍機25によって冷却される固体冷媒を貯蔵する固体冷媒槽12と、液体冷媒を貯留し固体冷媒槽12の外周を一定の間隔を設けて囲むように配置される液体冷媒槽21とを真空容器11の内部に収容された構造を有し、さらに、冷凍機25が停止した際に固体冷媒の融解によって固体冷媒槽12で生じる液体冷媒が液体冷媒槽21へ自然に流れ込み、真空容器11からの輻射侵入熱が液体冷媒槽21での液体冷媒の蒸発潜熱として消費されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の冷媒をその融点以下に保持して格納する極低温格納容器及びこの極低温格納容器を備えた極低温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、超電導現象を利用した装置として、例えば、超電導磁石(コイル、バルク)を用いた核磁気共鳴分析(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置や磁気共鳴画像診断(MRI:Magnetic Resonance Imaging)装置、超電導量子干渉素子(SQUID:Superconducting Quantum Interference Device)を用いた微弱磁気検査装置等が開発されている。これらの装置に用いられる超電導磁石やSQUIDを動作させるためには、その動作温度である極低温を実現するための冷却構造物が必要とされる。
【0003】
そのため、例えば、高温超電導磁石の冷却構造物として、冷凍機によって高温超電導磁石を直接冷却するとともに、冷凍機による冷熱を利用して固体冷媒を生成させる冷却構造物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この冷却構造物では、生成した固体冷媒を高温超電導磁石の周囲に配置し、固体冷媒をヒートシンクとして利用することにより、冷凍機の運転が停電等により停止したり、冷凍機の運転による電磁気の発生や振動を防止するために意図的に冷凍機の運転を停止したりした際にも、高温超電導磁石の温度上昇が抑制される構造となっている。
【特許文献1】特開2002−208512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された冷却構造物では、冷却構造物の外壁と冷却構造物内の極低温部との温度差が大きいため、冷却構造物からその内部の極低温部への輻射侵入熱が大きい。そのため、冷凍機の運転停止時には、この輻射侵入熱によって固体冷媒の融解速度が速くなる。また、運転を停止した冷凍機から直接に熱伝導により超電導磁石の温度が上昇しやすい。そのため、超電導磁石を超電導臨界温度以下の極低温を保持することが可能な時間が短くなる。こうして、この冷却構造物を備えた超電導装置では、冷凍機の運転停止時に、連続して使用が可能な時間が短くなってしまう。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、冷凍機の運転が停止した際にも長時間にわたって極低温を保持することができる冷却構造物としての極低温格納容器及びこの極低温格納容器を備えた極低温装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る極低温格納容器は、冷凍機によって冷却される固体冷媒を貯蔵する固体冷媒槽と、前記固体冷媒槽の外周を所定の間隔を設けて囲むように配置される液体冷媒槽とを真空容器の内部に収容すると共に、前記冷凍機が停止した際に固体冷媒の融解によって前記固体冷媒槽で生じる液体冷媒が前記液体冷媒槽へ流れ込んで、前記真空容器からの輻射侵入熱が前記液体冷媒槽での液体冷媒の蒸発潜熱として消費されるように構成されており、こうして、前記液体冷媒槽の温度上昇を抑制し、ひいては前記固体冷媒槽への侵入熱を小さくして固体冷媒の保持時間を長時間化させるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、冷凍機の運転が停止した際にも、長時間にわたって極低温を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
《第1実施形態》
図1に本発明の第1実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図を示す。この極低温格納容器10Aは、概略、内部が真空に保持される真空容器11と、真空容器11の内部に収容され、固体冷媒を貯蔵する固体冷媒槽12と、冷熱を発生させる冷凍機25と、冷凍機25で発生させた冷熱を固体冷媒槽12に熱伝導するための第1熱伝導部材として用いられる冷凍ステージ26と、冷凍ステージ26からの熱伝導によって固体冷媒槽12に貯蔵された固体冷媒(又は液体冷媒)を冷却する第2熱伝導部材として用いられる上側熱伝導部材15と、液体冷媒を貯留するために固体冷媒槽12の外周(側面)と真空容器11の内周との間に形成された空間に固体冷媒槽12の外周を一定の間隔を設けて囲むように配設された二重円筒状の液体冷媒槽21とを備えており、被冷却体5が固体冷媒槽12の底面板16の外側(下面側)に取り付けられた構造を有している。
【0009】
[被冷却体5とその周辺構造]
被冷却体5は、例えば、超電導磁石のように磁気(磁場)を発生し、又は、SQUIDのように磁気を検出する磁気デバイスである。極低温格納容器10Aの構成部品は、被冷却体5が磁気デバイスであることを前提としてその特性が発揮されるように、選定されているものとする。
【0010】
被冷却体5は熱伝導部材7によって被覆されている。熱伝導部材7には、銅(Cu)やアルミニウム(Al)等の熱伝導率の大きい非磁性金属材料が用いられる。被冷却体5を熱伝導率の大きい熱伝導部材7で被覆することにより、被冷却体5の壁面温度(外周温度)を均一にすることができ、これにより被冷却体5の磁気的特性が安定する。また、CuやAl等の熱放射率の低い材料を用いることで、被冷却体5の周囲からの被冷却体5への侵入熱を小さく抑えることができる。
【0011】
なお、ここでは、被冷却体5が固体冷媒槽12に対して物理的に接触するように固体冷媒槽12に取り付けられている形態としているが、被冷却体5は、固体冷媒槽12に対して熱的に接触していればよく、必ずしも物理的に接触していなくともよい。「熱的に接触している」とは、被冷却体5と固体冷媒槽12との間で熱の伝導が可能な状態をいう。
【0012】
[真空容器11とその周辺構造]
真空容器11の底面板は被冷却体5と対向しており、被冷却体5が磁気を与え又は磁気を検出する対象物は、真空容器11の底面板を挟んで被冷却体5の位置とは反対側の真空容器11外側(下面側)に配置されるため、真空容器11は、被冷却体5と前記対象物との間で磁気(磁場)に影響を与えない非磁性材料で構成され、例えば、ステンレス等の金属材料や繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)等の非金属材料で構成されていることが好ましい。
【0013】
真空容器11には、真空容器11内を真空引きして真空に保持するための配管と開閉バルブ(図示せず)が設けられている。真空容器11の内側には断熱材18が配置されている。図1では、断熱材18を真空容器11の内側上部にのみ図示しているが、断熱材18は、真空容器11の内周面全体に設けられている。断熱材18は、真空容器11の底面板と被冷却体5との間にも、配置することができる。断熱材18としては、Al蒸着したフィルムと断熱スペーサとを交互に積層した積層断熱材が好適に用いられる。
【0014】
[冷凍機25とその周辺構造]
真空容器11の上面板には穴11aが形成されており、冷凍機25は、この穴11aの上側において真空容器11の上面板に固定されている。冷凍機25としては、スターリング型冷凍機やパルス管型冷凍機、ギフォード・マクマホン型冷凍機等の各種の極低温冷凍機を用いることができ、その選定にあたっては、その冷却性能と固体冷媒(液体冷媒)の凝固点(融点)を考慮すればよい。
【0015】
冷凍機25は、下方向(固体冷媒槽12側)に突出する冷凍ステージ26を有している。冷凍機25で発生させた冷熱を真空容器11に熱伝導させることなく固体冷媒槽12へ熱伝導することができるように、冷凍ステージ26は、穴11aを通って真空容器11内に延びており、その下端面が固体冷媒槽12の上面に取り付けられている。ここでも、冷凍ステージ26は固体冷媒槽12と熱的に接触していればよい。
【0016】
[固体冷媒槽12とその周辺構造]
固体冷媒槽12の構成材料には、ステンレスやCu、Al等の金属材料、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP;Grass Fiber Reinforced Plastics)等の非金属材料が用いられる。なお、被冷却体5がSQUIDである場合には、被冷却体5が取り付けられている固体冷媒槽12の底面板16で渦電流が発生すると、検出精度が低下することから、絶縁材料であるGFRPが好適に用いられる。
【0017】
固体冷媒槽12に貯蔵される固体冷媒としては、水素(H)、ネオン(Ne)、窒素(N)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)等が用いられる。固体冷媒(液体冷媒は同じ物質)の選択は、固体冷媒のコストや凝固点(融点)等に基づいて決定することができる。固体冷媒槽12へは、冷媒配管33を通して外部から液体冷媒を注入することができるようになっている。
【0018】
固体冷媒槽12に貯蔵される固体冷媒は、固体冷媒槽12に注入された液体冷媒を冷凍機25で発生させた冷熱を利用して凝固させたものである。したがって、冷凍機25が正常に運転されている状態では、固体冷媒槽12内は、注入された液体冷媒の当初の液面近傍から下側が固体冷媒で充填された形態となっている。なお、図1には、後記するように、一旦、固体冷媒槽12全体に貯蔵された固体冷媒が、冷凍機25の運転が停止して真空容器11等からの侵入熱によって一部溶解し、さらに液体冷媒槽21から一定量の液体冷媒が蒸発した状態が示されている。
【0019】
冷媒配管33には、逆止弁34が取り付けられている。逆止弁34は、液体冷媒を固体冷媒槽12に注入する際には、取り外すことができる。逆止弁34は、固体冷媒槽12内の圧力が外気圧に対して正圧のときに開き、逆の場合には閉じた状態に維持される。つまり、逆止弁34は、固体冷媒槽12内の温度が低くなって圧力が下がったときに閉じるため、固体冷媒槽12の内部から真空容器11の外部へ放出される冷媒の蒸発ガスは通すが、真空容器11の外部から固体冷媒槽12の内部への空気の侵入を阻止する。こうして、室温の空気による固体冷媒槽12内への熱の侵入を防止することができる。
【0020】
被冷却体5は固体冷媒槽12の底面板16の外側に取り付けられているため、この底面板16は、被冷却体5の冷却効率を高める観点から、熱伝導性に優れた材料で構成されていることが好ましい。
【0021】
固体冷媒槽12の上面板であるフランジ13には、固体冷媒槽12の下方に伸びるように上側熱伝導部材15が取り付けられている。フランジ13を介して冷凍ステージ26から上側熱伝導部材15に伝えられた冷熱により、固体冷媒槽12内に固体冷媒が保持される。フランジ13は、冷凍機25の運転時に冷凍ステージ26とフランジ13の下部との温度差を小さくするために、熱伝導率の大きいCuやAl等の金属で構成されることが好ましい。上側熱伝導部材15にも、また、熱伝導率の大きいCuやAl等の金属が用いられる。フランジ13と上側熱伝導部材15とは一体であってもよい。
【0022】
固体冷媒槽12の底面板16には、上側熱伝導部材15の周囲を所定の隙間を設けて囲むように、筒状の形状を有する下側熱伝導部材17が立設されている。下側熱伝導部材17は、その内側と外側との間で液体冷媒が通過することができるように、多数の図示しない開口部(孔部)を有している。下側熱伝導部材17は、上側熱伝導部材15と同様に、熱伝導率の大きいCuやAl等の金属で構成される。
【0023】
下側熱伝導部材17を配置することにより、冷凍機25を運転させた際の液体冷媒の凝固時間を短縮することができる。すなわち、固体冷媒槽12に液体冷媒が貯蔵されている状態で冷凍機25の運転を開始すると、上側熱伝導部材15の周囲から液体冷媒の凝固が始まり、生成した固体冷媒が下側熱伝導部材17と接触する。下側熱伝導部材17の熱伝導率は固体冷媒の熱伝導率よりも大きいため、生成した固体冷媒から下側熱伝導部材17の外周に速やかに冷熱が移動して下側熱伝導部材17の外周から速やかに液体冷媒の凝固が始まる。
【0024】
下側熱伝導部材17を設けることは、固体冷媒槽12の構成材料の熱伝導率が、上側熱伝導部材15及び下側熱伝導部材17の構成材料の熱伝導率よりも小さい場合に、特に有効である。なお、下側熱伝導部材17の外周に、下側熱伝導部材17の立設方向と直交するように、固体冷媒よりも熱伝導率が大きい金属で構成されるフィンを設けることで、さらに液体冷媒の凝固時間を短縮させることができる。
【0025】
[液体冷媒槽21とその周辺構造]
液体冷媒槽21は円環状容器であり、液体冷媒槽21には液体冷媒が貯留される。被冷却体5は磁気デバイスであるため、液体冷媒槽21を構成する材料は、ステンレスやAl,Cu等の非磁性金属材料や、FRP等の非磁性・非金属材料が用いられる。
【0026】
液体冷媒槽21へは、冷媒配管31を通して外部から液体冷媒を注入することができるようになっている。冷媒配管31には逆止弁32が取り付けられており、逆止弁32は、液体冷媒を液体冷媒槽21に注入する際には、取り外すことができる。逆止弁32は、逆止弁34と同じ機能を有する。すなわち、逆止弁32は、液体冷媒槽21内の圧力が外気圧に対して正圧のときに開き、逆の場合には閉じた状態で維持され、液体冷媒槽12の内部から真空容器11の外部へ放出される冷媒の蒸発ガスを通すが、真空容器11の外部から液体冷媒槽21の内部への空気の侵入を阻止する。こうして、室温の空気による液体冷媒槽21内への熱の侵入が防止される。
【0027】
液体冷媒槽21と固体冷媒槽12とは、これらの下端近傍に設けられた連絡配管22によって連通しており、連絡配管22を通して液体冷媒が移動可能となっている。なお、連絡配管22は、液体冷媒槽21を固体冷媒槽12に支持させる役割をも担っている。液体冷媒槽21と固体冷媒槽12の両方が空の状態で、液体冷媒槽21に液体冷媒を注入すれば、液体冷媒は連絡配管22を通して固体冷媒槽12へ移動し、液体冷媒槽21と固体冷媒槽12とでは、液体冷媒の液面の高さが同じに維持される。固体冷媒槽12へ液体冷媒を注入した場合も同様である。
【0028】
連絡配管22の材質として、熱伝導率の小さい材料(例えば、ステンレス、FRP等)が好適に用いられる。これは、冷凍機25の運転停止時には、真空容器11は極低温格納容器10Aの使用環境(一般的に大気環境)の温度となっていることから、液体冷媒槽21へは外部(真空容器11)から輻射侵入熱が侵入するため、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への連絡配管22を介した侵入熱を低減することが好ましいからである。図示はしないが、連絡配管22を介した液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への侵入熱を低減するために、連絡配管22に絞りを入れることも有効である。
【0029】
液体冷媒槽21と固体冷媒槽12の上端近傍にこれらを連結する支持体23が設けられている。この支持体23は、熱伝導率の高いCuやAl等の金属で構成されており、固体冷媒槽12側ではフランジ13に接続されている。冷凍機25の運転停止時には、室温の冷凍機25からフランジ13へ熱が侵入する。フランジ13と固体冷媒とは上側熱伝導部材15を介して熱的に接触するため、冷凍機25からの侵入熱はフランジ13から固体冷媒へと熱伝導するが、支持体23をフランジ13に接続することにより、冷凍機25からの侵入熱の一部がフランジ13から支持体23を経由して液体冷媒槽21へ伝えられるようになり、これにより、フランジ13から上側熱伝導部材15へ伝えられる侵入熱が低減され、固体冷媒の融解を抑制することができる。
【0030】
なお、支持体23を、フランジ13に代えて冷凍ステージ26に取り付けても、同様の効果が得られる。このように、極低温格納容器10Aでは、液体冷媒槽21と固体冷媒槽12との間には間隙が設けられ、液体冷媒槽21は連絡配管22及び支持体23以外の部位で固体冷媒槽12とは接していない構造とすることで、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への侵入熱が小さく抑えられている。
【0031】
[極低温格納容器10Aの使用形態]
次に、極低温格納容器10Aの使用形態について説明する。極低温格納容器10Aの最初の運転開始時には、固体冷媒槽12と液体冷媒槽21のいずれにも冷媒は貯蔵されていないため、例えば、冷媒配管31を通して一定量の液体冷媒を液体冷媒槽21に注入する。液体冷媒槽21に注入された液体冷媒は、連絡配管22を通じて固体冷媒槽12へ流入し、固体冷媒槽12内では下側熱伝導部材17の開口部(図示せず)を通じて流通する。こうして、液体冷媒槽21と固体冷媒槽12における液体冷媒の液面の高さは同じとなる。なお、固体冷媒槽12側の冷媒配管33から液体冷媒を注入してもよい。この時点で、被冷却体5は液体冷媒から冷熱が熱伝導されることにより、液体冷媒の沸点近傍の温度に冷却される。
【0032】
続いて、冷凍機25を運転させる。これにより、冷凍機25で発生した冷熱が熱伝導により冷凍ステージ26へ伝えられ、さらにフランジ13を介して上側熱伝導部材15に伝えられ、上側熱伝導部材15に接触した液体冷媒が凝固を始める。固体冷媒槽12において実際に液体冷媒が凝固する形態は、固体冷媒槽12の構成材料を含めた固体冷媒槽12での冷熱の移動のしやすさと外部からの侵入熱の大きさ等に依存する。最終的に、冷凍機25の運転により、固体冷媒槽12に注入された液体冷媒を凝固させ、固体冷媒はその凝固点以下の所定温度で保持される。被冷却体5は固体冷媒の保持温度に向けて冷却され、所定温度で保持される。
【0033】
なお、液体冷媒槽21に貯蔵された液体冷媒が凝固して固体冷媒となるか否かは、冷凍機25の冷凍能力や、支持体23を通じて侵入する冷熱の大きさ、連絡配管22を通じて固体冷媒槽12内の固体冷媒から侵入する冷熱の大きさ、外部からの輻射侵入熱の大きさ等に依存する。液体冷媒槽21に注入された液体冷媒は、凝固させてもよいし、凝固させなくともよい。ここでは、冷凍機25の運転中は、固体冷媒槽12内には固体冷媒が貯蔵され、液体冷媒槽21には液体冷媒が貯留され、連絡配管22内において、液体冷媒と固体冷媒とが共存しているものとする。
【0034】
停電等により冷凍機25への電力供給が停止すると、冷凍機25は運転を停止する。このとき、液体冷媒槽21が固体冷媒槽12の外周を囲んだ構造となっているため、外部からの輻射侵入熱は、液体冷媒槽21に貯留された液体冷媒の蒸発潜熱として消費され、これにより液体冷媒槽21の温度上昇が抑制されて、固体冷媒槽12への侵入熱が小さく抑えられる。こうして、固体冷媒槽12に貯蔵されている固体冷媒の融解を抑制することができ、固体冷媒の保持時間を長時間化することができる。
【0035】
また、冷凍機25は室温環境下に配置されているため、冷凍機25が固体冷媒槽12への熱侵入源となり、冷凍機25に接続されている冷凍ステージ26、フランジ13、上側熱伝導部材15が熱侵入経路となる。そのため、固体冷媒において上側熱伝導部材15に接触した部分から融解が始まる。連絡配管22が固体冷媒によって閉塞されていない限り、固体冷媒槽12で生成した液体冷媒は、連絡配管22を通って液体冷媒槽21へと流れ出し、液体冷媒槽21において外部からの輻射侵入熱を蒸発潜熱として消費して蒸発する。こうして、液体冷媒槽21の温度上昇が抑制されて、固体冷媒槽12への侵入熱が小さく抑えられる効果が持続する。
【0036】
このように極低温格納容器10Aでは、冷凍機25の運転が停止しても、固体冷媒槽12においては、長時間にわたって固体冷媒を保持することができ、その間は被冷却体5が所望の温度に保持されるので、連続使用が可能になる。
【0037】
[極低温格納容器10Aにおける熱経路]
前記説明の通り、極低温格納容器10Aでは、冷凍機25の運転が停止しても、固体冷媒槽12に長時間にわたって固体冷媒を保持することができる。この効果について、図1〜3を参照して説明する。図2は従来の極低温格納容器の熱経路を示す模式図であり、図3は極低温格納容器10Aの熱経路を示す模式図である。
【0038】
極低温格納容器10Aにおいて、冷凍機25の運転が停止した際の外部から真空容器11内部への侵入熱(侵入熱量)[W]は、図1に示されているように、『侵入熱[W]=熱伝導侵入熱Qλ[W]+側面輻射侵入熱Qrad[W]+底面輻射侵入熱Qrad′[W]』となる。固体冷媒が固体窒素であり、液体冷媒が液体窒素であるとすると、凝固点〔=63K(融点と同じとする)〕以下にあった固体窒素の温度は凝固点まで上昇し、その後、融解して液体窒素となる。このときの融解速度は、下記式(1)で表される。ここで、『vol』は固体窒素の容積[m]、『hsl』は固体窒素の融解潜熱[J/kg]、『ρ』は固体窒素の密度[kg/m]である。
【0039】
【数1】

【0040】
従来の極低温格納容器(例えば、背景技術の説明の際に取り上げた特許文献1に開示された冷却構造物)の熱経路では、図2に示されるように、侵入熱(Qλ+Qrad+Qrad′)は、固体窒素の融解に使用されるため、式(1)で表される融解速度で固体窒素は融解し続ける。
【0041】
これに対して、本発明の第1実施形態に係る極低温格納容器10Aでは、固体窒素の融解により生成した液体窒素が連絡配管22を通って固体冷媒槽12から液体冷媒槽21へ移動し、液体冷媒槽21内において液体冷媒槽21の周囲からの側面輻射侵入熱Qradを奪って、液体冷媒槽21内で蒸発する。こうして、図3に示されるように、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への側面輻射侵入熱Qradが遮断され、固体冷媒槽12内の固体窒素の融解速度が遅くなる。極低温格納容器10Aでの固体窒素の融解速度は上記式(2)で表され、このとき、長時間化される固体窒素の保持時間t[s]は上記式(3)で表される。さらに、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への侵入熱Qsl[W]は上記式(4)で表される。
【0042】
なお、式(4)において、『A』は断面積[m]、『λ』は熱伝導率[W/(m・K)]、『ε』は液体冷媒槽の構成部材の放射率[無次元]、『ε』は固体冷媒槽の構成部材の放射率[無次元]、『L』は連絡配管22の長さ[m]、添え字の『pipe』は連絡配管22、『LN2』は液体窒素、『side』は固体冷媒槽側面、『l』は連絡配管、をそれぞれ示している。式(4)中の『77』は液体窒素の沸点温度(77K)を、『63』は液体窒素の融点(63K)を意味し、5.67×10−8は、ステファン−ボルツマン定数[W/(m・K)]である。
【0043】
式(3)に基づいて、極低温格納容器10Aについて、固体窒素の保持時間tを、固体窒素が1リットル、側面輻射侵入熱Qradが0.5W、底面輻射侵入熱Qrad′と熱伝導侵入熱Qλの合計が1Wであった場合について求めると、保持時間tは約2時間となる。つまり、極低温格納容器10Aでは、冷凍機25の運転が停止しても、連続運転時間を約2時間引き延ばすことができることがわかる。なお、ここでの計算では、hsl=25750[J/kg]、ρ=950[kg/m]を使用した。
【0044】
《第2実施形態》
図4に本発明の第2実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図を示す。この極低温格納容器10Bが、第1実施形態に係る極低温格納容器10Aと異なる点は、液体冷媒槽21の内面にキャピラリ(毛細管)41が取り付けられている点である。極低温格納容器10Bの他の構成要素は、極低温格納容器10Aの構成要素と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0045】
キャピラリ41は、例えば、ガラスで作られており、その一端が液体冷媒槽21の底面近傍に位置するようにして、その長手方向が鉛直方向と平行となるように、液体冷媒槽21の内面(内径側と外径側の両面)にほぼ隙間無く、取り付けられている。キャピラリ41を配設するメリットは、液体冷媒槽21がFRP等の熱伝導率の小さい材料で構成されている場合に顕著に得られる。
【0046】
例えば、被冷却体5が超電導バルク磁石である場合、金属は磁場を遮蔽するため、液体冷媒槽21が金属で形成されていると、超電導バルク磁石が発生する磁場の影響により液体冷媒槽21に磁場勾配が生じるおそれがある。こうして液体冷媒槽21に渦電流が発生すると、液体冷媒槽21は発熱する。この発熱は、液体冷媒槽21での液体冷媒の蒸発に用いられるため、外部からの侵入熱(特に側面輻射侵入熱Qrad)を遮断する能力を低下させる。
【0047】
そこで、液体冷媒槽21での渦電流の発生を回避するために、液体冷媒槽21の構成材料として、FRP等の非磁性絶縁材料を用いることが好ましいと考えられる。しかしながら、FRPは一般的な金属材料と比較して熱伝導率が小さい材料であるため、液体冷媒槽21において液体冷媒に接している部分とそうでない部分との間に温度勾配が発生する。こうして液体冷媒槽21に温度勾配が生じると、液体冷媒槽21において液体冷媒に接していない部分は液体冷媒の沸点よりも高温となるため、この部分から固体冷媒槽12への輻射侵入熱が大きくなる。
【0048】
そこで、液体冷媒槽21内面にキャピラリ41を配置すると、キャピラリ41の毛細管力により、液体冷媒の重量と表面張力とが釣り合うまで、液体冷媒がキャピラリ41内を上昇する。キャピラリ41を細くすることにより、液体冷媒の液面をより高い位置まで上昇させることができる。キャピラリ41内で液体冷媒が吸い上げられることによって、液体冷媒槽21の高さ方向において、液体冷媒に接している部分の面積が広くなる。こうして、液体冷媒槽21において液体冷媒に接していない部分を少なくすることにより、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への侵入熱を小さく抑えることができる。
【0049】
このように、極低温格納容器10Bでも、液体冷媒槽21の温度上昇を抑制し、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12へ侵入熱を小さく抑えることができる。これにより、冷凍機25の運転が停止した際にも、長時間にわたって固体冷媒槽12において固体冷媒を保持することができる。
【0050】
《第3実施形態》
図5に本発明の第3実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図を示す。この極低温格納容器10Cが、第1実施形態に係る極低温格納容器10Aと異なる点は、極低温格納容器10Aが具備する連絡配管22に代えて、蛇行構造を有する蛇行配管42を、固体冷媒槽12と液体冷媒槽21との間での液体冷媒の流通に用いるように構成した点である。極低温格納容器10Cのその他の構成要素は、極低温格納容器10Aの構成要素と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0051】
蛇行配管42を用いた場合、液体冷媒槽21と固体冷媒槽12の間の全長(配管距離)が、蛇行配管42の一端から他端までの直線距離よりも長くなる。配管距離が長くなれば、液体冷媒(例えば、77Kの液体窒素)の蒸発面から固体冷媒(例えば、63Kの固体窒素)の表面までの伝熱距離が長くなる。液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への熱流束は伝熱距離に反比例するため、蛇行配管42を用いることによって熱流速が小さくなり、液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への熱伝導による侵入熱の大きさを小さくすることができる。
【0052】
なお、蛇行配管42の「蛇行」とは、一端と他端とを結ぶ線の長さが、これら2点を結ぶ直線距離(最短距離)よりも長くなっていることをいい、折り返しや旋回等、その形態に限定はない。
【0053】
極低温格納容器10Cによれば、蛇行配管42に起因する液体冷媒槽21から固体冷媒槽12への侵入熱を小さく抑えることができ、これにより固体冷媒槽12における固体冷媒の保持時間を長時間化することができる。
【0054】
《第4実施形態》
図6に本発明の第4実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図を示す。この極低温格納容器10Dが、第1実施形態に係る極低温格納容器10Aと異なる点は、極低温格納容器10Aが具備する液体冷媒槽21が、その下端部に環状のタンク部43を備えている点である。極低温格納容器10Dのその他の構成要素は、極低温格納容器10Aの構成要素と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0055】
タンク部43は、固体冷媒槽12の底面板16の高さよりも下側に突出するように設けられている。ここでは、液体冷媒槽21の下部に、その底面の面積が上面の面積よりも広くなるように鉛直方向の所定位置に段差を形成することで、タンク部43を形成している。タンク部43は、このような形状に限定されず、底面の面積が上面の面積よりも広くなるように、側壁面を傾斜させた断面略台形状のものであってもよい。
【0056】
タンク部43は、液体冷媒槽21の温度を均一にするために液体冷媒槽21を金属で構成した場合に設けられる。冷凍機25の運転の停止時には、固体冷媒槽12から液体冷媒槽21に設けられたタンク部43への液体冷媒の流入が促され、固体冷媒槽12における液体冷媒の液面の高さが、タンク部43を備えていない極低温格納容器10Aの場合よりも下がって、液体冷媒が上側熱伝導部材15と接触しなくなる。これにより、固体冷媒槽12において、上側熱伝導部材15から液体冷媒への熱伝導による侵入熱が小さくなるため、固体冷媒の融解が抑制されて固体冷媒の保持時間を長時間化させることができる。
【0057】
なお、タンク部43を設けることで、液体冷媒槽21の液面の高さは低くなるが、液体冷媒槽21は金属で構成されているために、高さ方向での温度勾配は大きなものにはなりにくい。また、タンク部43に貯留された多量の液体冷媒により、液体冷媒槽21が液体冷媒の蒸発の際に外部からの輻射侵入熱を消費する機能が高められる。よって、固体冷媒槽12への輻射侵入熱の増大は小さく抑えられる。
【0058】
《第5実施形態》
図7(a)に本発明の第5実施形態に係る極低温格納容器の概略構造を表した垂直断面図を示し、(b)に水平断面図を示す。この極低温格納容器10Eが、第1実施形態に係る極低温格納容器10Aと異なる点は、極低温格納容器10Aが具備する輻射侵入熱遮断手段である円環状の液体冷媒槽21に代えて、シールド板45と有底筒状の液体冷媒槽46とを有する輻射侵入熱遮断手段を備えている点である。極低温格納容器10Eのその他の構成要素は、極低温格納容器10Aの構成要素と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0059】
[シールド板45]
シールド板45は、筒状の形状を有し、固体冷媒槽12の外周と真空容器11の内周との間に形成された空間に、固体冷媒槽12の外周を一定の間隔を設けて囲むように配設されている。ここでは、シールド板45は、固体冷媒槽12に接続された液体冷媒槽46に接続されることによって、一定位置で保持されている。シールド板45は、外部からの輻射侵入熱を、液体冷媒槽46へ熱伝導するために設けられる。そのため、シールド板45は、好ましくはAlやCu等の熱伝導率の大きな材料で構成される。
【0060】
[液体冷媒槽46]
液体冷媒槽46は、有底筒状の形状を有し、シールド板45の内側に配置されて、シールド板45を接続保持している。極低温格納容器10Eでは、液体冷媒槽46の配設数を4本としているが、液体冷媒槽46の数は、1本の液体冷媒槽46の大きさ(貯留可能な液体冷媒量)等によって、1本でもよく4本以外の複数本でもよい。
【0061】
液体冷媒槽46は連絡配管22によって固体冷媒槽12と連通しており、液体冷媒槽46と固体冷媒槽12との間で液体冷媒の流通が可能となっているため、冷凍機25の運転が停止すると、固体冷媒槽12で生成した液体冷媒が液体冷媒槽46へと流れ出る。外部からの侵入熱は、シールド板45を熱伝導して液体冷媒槽46へと伝えられ、液体冷媒槽46に貯留された液体冷媒が蒸発する際の蒸発潜熱として消費される。こうして、シールド板45の温度上昇が抑制されて固体冷媒槽12への侵入熱が小さく抑えられ、固体冷媒槽12において固体冷媒を保持する時間を長時間化することができる。
【0062】
このように、極低温格納容器10Eによれば、極低温格納容器10A〜10Dと同様に、真空容器11からの侵入熱を液体冷媒の蒸発潜熱として用いることにより真空容器11からの輻射侵入熱が小さく抑えられるという効果が得られ、さらに、極低温格納容器10Eでは、シールド板45を用いることによる軽量化が可能であるという利点がある。
【0063】
《第6実施形態》
図8(a)に本発明の第6実施形態に係る極低温格納容器の概略構造を表した垂直断面図を示し、(b)に水平断面図を示す。この極低温格納容器10Fが、第5実施形態に係る極低温格納容器10Eと異なる点は、極低温格納容器10Eでは、有底筒状の液体冷媒槽46の外側にシールド板45が配置されているのに対し、極低温格納容器10Fでは、有底筒状の液体冷媒槽46の内側にシールド板45が配置されている点である。
【0064】
液体冷媒槽46の内側にシールド板45を配置することにより、真空容器11とシールド板45との距離が長くなると共に、シールド板45の外周面積が小さくなるために、真空容器11からシールド板45への輻射侵入熱が減少する。これにより、輻射侵入熱を消費するために必要な液体冷媒の量を低減することができる。また、シールド板45自体の重さが軽くなるため、極低温格納容器10Fは、極低温格納容器10Eと比べて、さらに軽量化が可能になるという利点がある。
【0065】
なお、極低温格納容器10Fのその他の構成要素は、極低温格納容器10Eの構成要素と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0066】
《極低温格納容器を備えた装置の具体例》
以上に説明した第1〜6実施形態に係る極低温格納容器10A〜10Fは、例えば、磁気誘導式DDS(ドラッグデリバリーシステム)に用いられる。磁気誘導式DDSでは、患者の体内に磁性微粒子に薬剤を付加した磁性薬剤を注入し、磁気力を利用して、磁性薬剤を患部に誘導することにより、患部における薬剤濃度を高められて治療効果が高められることが期待される。このような磁性薬剤の誘導には、高磁場又は高磁気勾配を発生する超電導磁石が必要であり、極低温格納容器10A〜10Fにより超電導磁石がその機能を発揮することができる状態に保持される。
【0067】
これに限られず、本発明に係る極低温格納容器は、核磁気共鳴診断(MRI)装置や核磁気共鳴分析(NMR)装置、SQUID装置、電子ビーム源装置等の好適に用いられる。そこで、以下、MRI装置、SQUID装置及び電子ビーム源装置にそれぞれ適用した場合について、具体的に説明する。
【0068】
<MRI装置>
図9にMRI装置の概略構造を表した垂直断面図を示す。MRI装置100では、その中心部に形成されている空間100cに被検査体(例えば、患者等)が載置され、この空間100cに所定の磁場を形成するために、空間100cの上側と下側に、超電導磁石51a,51b,52a,52b,53a,53b(以下「超電導磁石51a等」といい、これらについては後に説明する)が、空間100cに対して左右対称に配置されている。
【0069】
超電導磁石51a等を所定温度に冷却して保持するために、MRI装置100は、外側壁11bと内側壁11cとを有する真空容器11を備えており、外側壁12aと内側壁12bとを有する固体冷媒槽12が、真空容器11内に配置されている。真空容器11内は真空雰囲気に保持され、固体冷媒槽12内に固体冷媒が貯蔵される。真空容器11の外側壁11bの上面には、固体冷媒槽12を冷却する冷凍機25が取り付けられ、冷凍ステージ26が真空容器11の外側壁11bを貫通して固体冷媒槽12の外側壁12aに取り付けられている。冷凍ステージ26は、冷凍機25からの冷熱を固体冷媒槽12に熱伝導して、固体冷媒槽12を冷却する。
【0070】
真空容器11の外側壁11bの内側と、真空容器11の内側壁11cの外側にはそれぞれ、断熱材60a,60bが配設されている。この断熱材60bの外側に熱伝導部材70aが配置され、固体冷媒槽12の外側壁12aの内側に熱伝導部材70bが配置されている。断熱材60aと固体冷媒槽12の外側壁12aとの間の空間に液体冷媒槽21が設けられている。液体冷媒槽21と固体冷媒槽12とは、連絡配管22を通して連通している。
【0071】
被検査体が載置される空間100cの上側に円盤状の超電導磁石51aが配置されており、この超電導磁石51aの上側に超電導磁石52aが配置されている。また、空間100cの下側に円盤状の超電導磁石51bが配置されており、この超電導磁石51bの下側に超電導磁石52bが配置されている。さらに、熱伝導部材70bの内側の上下にそれぞれ、リング状の超電導磁石53a,53bが配置されている。超電導磁石53a,53bは、磁場の均一度を調整し、磁場が外部に漏洩することを防止する。なお、超電導磁石51a等としては、高温超電導バルク磁石を用いることができる。
【0072】
超電導磁石51a,51bと超電導磁石52a,52bは、固体冷媒槽12内の固体冷媒と熱的に接触している。超電導磁石53a,53bは、熱伝導部材70bを介して固体冷媒と熱的に接触している。こうして、超電導磁石51a等は、所望される磁気的特性を発揮することができる状態に保持されている。超電導磁石51a等の構造及び配置位置は、空間100cの中心位置における磁場強度、空間100cにおける磁場均一度、MRI装置100の外側の漏洩磁場強度等が所定値を満足するように決定される。
【0073】
冷凍機25を運転することによって、固体冷媒槽12に貯蔵された固体冷媒を一定温度に冷却して保持することができるが、冷凍機25ではMRI画像の解像度を乱す電磁気が発生するため、冷凍機25を一時的に停止することは、このような電磁気によるMRI画像の外乱を防止することに有効である。また、停電などの緊急時にも冷凍機25は停止する。
【0074】
冷凍機25の運転を意図的に停止させ、又は、停電等により停止したとき、固体冷媒槽12内の固体冷媒は、外部からの侵入熱により温度上昇が始まり、融点に達したときからは融解が始まる。こうして生成した液体冷媒は、連絡配管22を通じて液体冷媒槽21に流入し、蒸発することで外部から液体冷媒槽21への侵入熱を奪い、固体冷媒槽12への侵入熱を小さく抑える。こうして、固体冷媒の融解を抑制して、固体冷媒の保持時間を長時間化することで、冷凍機25の運転停止時におけるMRI装置の可動可能時間を長時間化し、また、良好な解像度でMRI画像を取得することができるようになる。
【0075】
なお、NMR装置は、MRI装置とほぼ同じ構成を有しているため、NMR装置の場合には、冷凍機25の運転を停止させた状態で稼働させることにより、外乱の少ないNMR信号波形を得ることができる。
【0076】
<SQUID装置>
図10にSQUID装置の概略構造を表した垂直断面図を示す。SQUID装置200は、内部が真空に保持される真空容器11と、真空容器11の内部に収容され、固体冷媒を貯蔵する固体冷媒槽12と、冷熱を発生させる冷凍機25と、冷凍機25で発生させた冷熱を固体冷媒槽12に熱伝導する冷凍ステージ26と、冷凍ステージ26からの熱伝導によって固体冷媒槽12に貯蔵された固体冷媒を冷却する上側熱伝導部材15と、液体冷媒を貯留するために固体冷媒槽12の外周と真空容器11の内周との間に形成された空間に固体冷媒槽12の外周を一定の間隔を設けて囲むように配設された液体冷媒槽21とを備えており、被冷却体としてのSQUID20が固体冷媒槽12の内部底面側に複数(ここでは、4つ)配設された構造を有している。
【0077】
真空容器11、固体冷媒槽12及び液体冷媒槽21には、渦電流の発生を防止して、SQUID20の検出精度を高める観点から、GFRP等の非磁性・非金属材料が用いられる。上側熱伝導部材15もまたSQUID20に近接するため、上側熱伝導部材15は、磁場によって渦電流を発生せず、熱伝導率が比較的大きい非磁性・非金属材料で構成され、具体的には、サファイア(Al)や窒化アルミニウム(AlN)等が用いられる。固体冷媒槽12の上面板であるフランジ13についても、上側熱伝導部材15と同様である。
【0078】
なお、上側熱伝導部材15を金属で構成する場合には、上側熱伝導部材15自体に渦電流が発生しても、また、冷凍機25で発生した渦電流が上側熱伝導部材15に流れても、SQUID20の検出精度を低下させることのない高さを下限位置とすればよい。また、固体冷媒を生成するための時間を短時間化するために、上側熱伝導部材15の周囲に、固体冷媒よりも熱伝導率が大きく、非磁性かつ非金属であるAlやAlN等で構成されるフィンを設けてもよい。
【0079】
SQUID20を固体冷媒槽12の内部に配置することにより、SQUID20を所望する極低温に安定して保持することができる。SQUID20は、超電導磁石の輪や周囲の配線を含むSQUID本体部である。
【0080】
冷凍機25、冷凍ステージ26、固体冷媒槽12と液体冷媒槽21とを連通させる連絡配管22、液体冷媒槽21を固体冷媒槽12に支持させるための支持体23、真空容器11の内側に設けられた断熱材18、固体冷媒槽12に取り付けられた冷媒配管33、冷媒配管33に取り付けられた逆止弁34、液体冷媒槽21に取り付けられた冷媒配管31、冷媒配管31に取り付けられた逆止弁32はそれぞれ、極低温格納容器10A(図1参照)に用いられているものと同じであるので、ここでの説明は省略する。なお、連絡配管22にもGFRPが用いられている。
【0081】
SQUID装置200でも、冷凍機25の運転中には、冷凍機25で電磁気が発生し、この電磁気がSQUID20による磁気計測の外乱となる。そのため、冷凍機25を停止することは、検出精度を高める有効な手段となる。冷凍機25の運転を停止した際のSQUID装置200における固体冷媒槽12での固体冷媒の保持時間は、極低温格納容器10A(図1参照)とほぼ同じである。したがって、冷凍機25の運転停止時におけるSQUID装置200の可動可能時間が長時間化され、また、良好な解像度でSQUID信号を測定することができる。
【0082】
<電子ビーム源装置>
図11に電子ビーム源装置の概略構造を表した垂直断面図を示す。この電子ビーム源装置300は、基本的に、極低温格納容器10A(図1参照)を用いて構成されている。極低温格納容器10Aでは、被冷却体5を固体冷媒槽12の底面板16に取り付けて冷却する構造となっているが、電子ビーム源装置300では、固体冷媒槽12の底面板16に板状の熱伝導部材91を取り付け、この熱伝導部材91に被冷却体としての電子ビーム発振器90を固体冷媒槽12から離れた位置に設置しており、この点で異なっている。
【0083】
被冷却体である電子ビーム発振器90は、冷却温度が低温になるにしたがって電気特性が向上する。しかし、冷凍機25の運転時には、冷凍機25のコンプレッサ部(図示せず)が振動する。そのため、電子ビーム発振器90を直接に固体冷媒槽12に取り付けて冷却すると、冷凍機25で発生した振動が電子ビーム発振器90に伝わり、電子ビーム発振器90の位置制御の精度が低下する。この問題を回避するために、電子ビーム源装置300では、熱伝導部材91を用いて固体冷媒槽12から電子ビーム発振器90へ冷熱を熱伝導させることにより、冷凍機25で発生する振動の電子ビーム発振器90への伝達を抑制しながら、電子ビーム発振器90を冷却する構造を採用している。これにより、冷凍機25の運転中でも、電子ビーム発振器90の位置制御を精度よく行うことができる。
【0084】
極低温格納容器10Aを応用した電子ビーム源装置300では、さらに熱伝導部材91を介して伝わる振動を抑えるために冷凍機25の運転を意図的に停止させた場合、又は、停電等により冷凍機25が停止したときには、固体冷媒槽12内の固体冷媒は、外部からの侵入熱により温度上昇し始め、融点に達したときからは融解が始まる。こうして生成した液体冷媒は、連絡配管22を通じて液体冷媒槽21に流入し、蒸発することで外部から液体冷媒槽21への侵入熱を奪い、固体冷媒槽12への侵入熱を小さく抑える。こうして、固体冷媒の融解を抑制して、固体冷媒の保持時間を長時間化することで、冷凍機25の運転停止時における電子ビーム源装置300の可動可能時間を長時間化し、また、電子ビームの照射位置精度を高めることができる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前記した実施形態に限定されるものではない。例えば、極低温格納容器10A〜10Dでは、固体冷媒槽12の外周(側面)を囲むように液体冷媒槽21を設けたが、真空容器11と固体冷媒槽12の底面板16の間に液体冷媒槽を設ける空間を有する場合(例えば、電子ビーム源装置300の場合)には、液体冷媒槽21を底面板16の下側に延在させてもよい。同様に、シールド板45を底面板16の下側に延在させてもよい。
【0086】
これと同様に、極低温格納容器10E,10Fでは、真空容器11から固体冷媒槽12の底面板16やフランジ13への輻射侵入熱を遮断するために、シールド板45が固体冷媒槽12の底面や上面を覆うように設けられていてもよい。
【0087】
また、連絡配管22に逆止弁を設けてもよい。逆止弁を設けることで、極低温格納容器10A〜10Fが傾いた際に、液体冷媒槽21(52)から液体冷媒が固体冷媒槽12へと流れ込むことを防止することができる。この構成によれば、液体冷媒から固体冷媒への熱伝導により固体冷媒の融解が進むのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の第1実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図である。
【図2】従来の極低温格納容器の熱経路を説明する図である。
【図3】第1実施形態に係る極低温格納容器の熱経路を説明する図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る極低温格納容器の概略断面図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る極低温格納容器の概略構造を示す鉛直断面図(a)と水平断面図(b)である。
【図8】本発明の第6実施形態に係る極低温格納容器の概略構造を示す鉛直断面図(a)と水平断面図(b)である。
【図9】本発明に係る極低温格納容器を用いたMRI装置の概略断面図である。
【図10】本発明に係る極低温格納容器を用いたSQUID装置の概略断面図である。
【図11】本発明に係る極低温格納容器を用いた電子ビーム源装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0089】
5 被冷却体
7 熱伝導部材
10A,10B,10C,10D,10E,10F 極低温格納容器
11 真空容器
12 固体冷媒槽
15 上側熱伝導部材(第2熱伝導部材)
17 下側熱伝導部材
21 液体冷媒槽
22 連絡配管
23 支持体
25 冷凍機
26 冷凍ステージ(第1熱伝導部材)
31,33 冷媒配管
32,34 逆止弁
41 キャピラリ
42 蛇行配管
43 タンク部
45 シールド板
46 液体冷媒槽
51a,51b,52a,52b 超電導磁石
100 MRI装置
200 SQUID装置
300 電子ビーム源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷熱を発生させる冷凍機と、
所定の固体冷媒を貯蔵し、所定の被冷却体を冷却する固体冷媒槽と、
前記冷凍機で発生させた冷熱を前記固体冷媒槽に熱伝導する第1熱伝導部材と、
前記固体冷媒槽に収容され、前記固体冷媒槽に収容された固体冷媒を前記第1熱伝導部材からの熱伝導によって冷却する第2熱伝導部材と、
前記固体冷媒槽を収容する真空容器と、
前記固体冷媒槽の外周と前記真空容器の内周との間に形成された空間に前記固体冷媒槽の外周を所定の間隔を設けて囲むように配設され、前記固体冷媒槽に貯蔵された固体冷媒の融解により生成する液体冷媒を貯留し、この貯留した液体冷媒が蒸発する際の蒸発潜熱として前記真空容器からの侵入熱を消費することにより前記固体冷媒槽への侵入熱を小さく抑える液体冷媒槽と、
前記固体冷媒槽と前記液体冷媒槽との間での液体冷媒の移動を可能にする連絡配管と、を具備することを特徴とする極低温格納容器。
【請求項2】
前記液体冷媒槽を前記固体冷媒槽に接続して支持する支持体をさらに具備し、
前記支持体は、前記固体冷媒槽側において、前記第1熱伝導部材に、又は、前記固体冷媒槽において前記第1熱伝導部材が取り付けられている部位に、取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の極低温格納容器。
【請求項3】
長さ方向が鉛直方向と略平行となるように前記液体冷媒槽の内面に配設されたキャピラリをさらに具備することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の極低温格納容器。
【請求項4】
前記連絡配管は、その両端間の直線距離よりも全長が長い蛇行配管であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の極低温格納容器。
【請求項5】
前記液体冷媒槽はその底部に、底面の面積が上面の面積よりも広くなるように鉛直方向の所定位置に形成された段差により形成されたタンク部を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の極低温格納容器。
【請求項6】
冷熱を発生させる冷凍機と、
所定の固体冷媒を貯蔵し、所定の被冷却体を冷却する固体冷媒槽と、
前記冷凍機で発生させた冷熱を前記固体冷媒槽に熱伝導する第1熱伝導部材と、
前記固体冷媒槽に収容され、前記固体冷媒槽に収容された固体冷媒を前記第1熱伝導部材からの熱伝導によって冷却する第2熱伝導部材と、
前記固体冷媒槽を収容する真空容器と、
前記固体冷媒槽の外周と前記真空容器の内周との間に形成された空間に前記固体冷媒槽の外周を所定の間隔を設けて囲むように配設されたシールド板と、
有底筒状の形状を有し、前記シールド板と接触するように前記シールド板の内側又は外側に1本又は複数本配設され、前記固体冷媒槽に貯蔵された固体冷媒の融解により生成する液体冷媒を貯留し、この貯留した液体冷媒が蒸発する際の蒸発潜熱として前記シールド板の熱を消費することにより前記シールド板の温度上昇を抑制して前記固体冷媒槽への侵入熱を小さく抑える液体冷媒槽と、
前記固体冷媒槽と前記液体冷媒槽との間での液体冷媒の移動を可能にする連絡配管と、を具備することを特徴とする極低温格納容器。
【請求項7】
前記連絡配管は、ステンレス製又は非金属製であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の極低温格納容器。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の極低温格納容器を備え、
前記極低温格納容器が具備する固体冷媒槽によって冷却される被冷却体が、超電導磁石、SQUID及び電子ビーム発振器のいずれか1種であることを特徴とする極低温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−16081(P2010−16081A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173190(P2008−173190)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】