構造物の溶接方法
【課題】実際の溶接を実施する以前に溶接部の近傍を圧縮残留応力にする溶接条件を解析的手法により算出して行う構造物の溶接方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る構造物の溶接方法は、全溶接パス数より少ない複数の溶接施工部を設定し、各溶接施工部の溶接時の熱影響を模擬した解析条件から残留応力解析を行い(ステップS1)、この残留応力解析の結果から各溶接施工部における最適な解析条件を選択し、この選択した解析条件を、各溶接施工部の周囲の溶接パスの解析条件に展開し(ステップS2)、この展開した解析条件に基づく残留応力解析により全パス解析を行い(ステップS3)、この全パス解析より得られる残留応力解析の結果が構造物の溶接部近傍の評定部に生じる残留応力を圧縮残留応力にする解析条件を特定し、この解析条件を実際の溶接条件として設定して(ステップS4)構造物の溶接を行う。
【解決手段】本発明に係る構造物の溶接方法は、全溶接パス数より少ない複数の溶接施工部を設定し、各溶接施工部の溶接時の熱影響を模擬した解析条件から残留応力解析を行い(ステップS1)、この残留応力解析の結果から各溶接施工部における最適な解析条件を選択し、この選択した解析条件を、各溶接施工部の周囲の溶接パスの解析条件に展開し(ステップS2)、この展開した解析条件に基づく残留応力解析により全パス解析を行い(ステップS3)、この全パス解析より得られる残留応力解析の結果が構造物の溶接部近傍の評定部に生じる残留応力を圧縮残留応力にする解析条件を特定し、この解析条件を実際の溶接条件として設定して(ステップS4)構造物の溶接を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の溶接時の溶接熱影響による引張の残留応力を改善する構造物の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接構造物の応力腐食割れ(SCC)の発生や進展、溶接構造物の疲労強度等の低下の原因に溶接による熱膨張と塑性歪みによる残留応力とがある。
【0003】
原子力発電プラントの容器、配管などの構造物の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼材は、溶接により結晶粒界にCr炭化物が析出し易く、結晶粒界近傍にCr欠乏層が形成されて腐食環境下では割れ感受性(材料の鋭敏化)が高くなることが知られている。また、溶接部(溶接金属部および熱影響部)に高い引張残留応力が存在する状態で高温水などの腐食環境に暴露されると、応力腐食割れが発生し易い。
【0004】
この応力腐食割れを防止するためには、材料の鋭敏化、引張残留応力、腐食環境の3因子の中から1つの因子を取り除く必要がある。このため、水などの腐食環境に暴露される溶接部の表面近傍に残留する引張応力を圧縮応力に改善することが強く求められている。
【0005】
この溶接に起因する残留応力を低減する方法として溶接金属の材料や溶接時の入熱条件などを具体化した溶接条件を開示した発明がある。
【特許文献1】特開2006−198657号公報
【特許文献2】特開2007−21516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
構造物の溶接時の熱影響による引張残留応力に起因する応力腐食割れの対策として、溶接部表層部を表面改善処理により表面圧縮応力を形成して応力改善し、応力腐食割れの発生を防止する試みが行われている。
【0007】
ここで表面改善処理とは、構造物の母材および溶接部の表面に例えばショットピーニングやレーザピーニング、ウォータジェットピーニングを個々に施し、母材および溶接部の表面に圧縮応力を付加して残留応力改善を行うことである。ショットピーニングは、母材および溶接部の表面に小さな金属球(ショット)を高速度で当てて残留応力を改善し、また表面の疲労強度や耐磨耗性、耐応力腐食特性を向上させる。レーザピーニングは、母材および溶接部の表面にエネルギの大きなパルスレーザを照射して母材および溶接部を構成する材料の原子のプラズマを表面に発生させ、このプラズマ発生の反力による衝撃波を母材および溶接部の中を伝播させて残留応力を改善させる。また、ウォータジェットピーニングは、母材および溶接部の表面に水流を高速度で当てて残留応力を改善させる。
【0008】
しかし、この表面改善処理では、応力改善される溶接部の深さは表層部に限定され、また製造工数の増加による製造コストの増大、溶接後に接近困難になる溶接部に対する実施の困難性などの問題があり、応力腐食割れの防止に対して信頼性の高い溶接継手をより低コストで提供するための製造方法が求められている。
【0009】
また、上述の特許文献は、溶接金属の材料や溶接時の入熱条件などを具体化した構造物の溶接条件を設定することで応力腐食割れの対策として圧縮残留応力を導入するものである。
【0010】
そこで、溶接熱影響による溶接部の板厚(深さ)方向および平面方向の残留応力の分布を制御することあるいは溶接部へ積極的に圧縮残留応力を導入することにより、応力腐食割れに対して裕度の大きい溶接部を有する溶接構造物を提供することができる。
【0011】
従来技術では、溶接金属のマルテンサイト変態による変態膨張を利用して、溶接部の板厚方向の内部まで引張残留応力を低減する方法が示されているが、原子力発電プラントにおける原子炉圧力容器内の炉内構造物のような腐食環境で使用される溶接構造物では、耐食性等の問題により適用には適さない。
【0012】
本発明はこれらの課題を解決するために実際の溶接工程を実施する以前に溶接部の近傍の残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析的手法により算出して行う構造物の溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するため本発明では、腐食環境に暴露される溶接部を有する構造物の溶接方法において、溶接時の熱影響を模擬した解析条件を設定して前記溶接部近傍の温度分布を求める伝熱解析を行った後、前記温度分布に基づいて熱弾塑性応力解析を行い前記溶接部近傍の残留応力を求め、腐食環境に暴露される溶接部近傍の表面の残留応力が圧縮応力になる前記解析条件を特定し、この特定した前記解析条件を反映した溶接条件を設定して前記構造物を溶接することを特徴とする構造物の溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実際の溶接工程を実施する以前に溶接部の近傍の残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析的手法により算出して行う構造物の溶接方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る構造物の溶接方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
なお、応力は引張応力を正、圧縮応力を負として扱う。
【0017】
[第1の実施形態]
本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態について、図1から図9を参照して説明する。
【0018】
図1および図2は、沸騰水型原子炉の原子炉格納容器に収容される炉心シュラウド1の溶接部周囲の概略を説明する図である。
【0019】
原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウド1は、ステンレス鋼からなる略円筒形状の母材2に開先3が構成され、この開先3が溶接部4により溶接される。
【0020】
この開先3の開先形状は片側開先である。溶接機を炉心シュラウド1の円筒内側に配置して、溶接金属を炉心シュラウド1の円筒外面側から内面側へ溶接して溶接部4が構成される。
【0021】
本実施形態における構造物の溶接方法は、この炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定して溶接する方法である。
【0022】
図3は、構造物の溶接条件を設定する方法を示す図である。
【0023】
図3においてステップS1では、まず原子炉圧力容器の炉内構造物である炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向の開先3位置に実際の溶接工程における全溶接パス数より少ない複数の溶接施工部を設定する。この溶接施工部は全溶接パスを代表する所要の溶接パス位置または複数の溶接パスをグループ化した位置を選択して設定する。つぎに構造物を構成する炉心シュラウド1のそれぞれの溶接施工部の溶接条件による熱影響を模擬した解析条件を作成する。さらにこのそれぞれの溶接施工部の解析条件に基づく伝熱解析と、この伝熱解析より得られた温度分布に基づく熱弾塑性応力解析とから構成される残留応力解析を行う。この残留応力解析の結果から炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接施工部の解析条件を複数設定するパラメータ解析を行う。
【0024】
ステップS2では、まずステップS1のパラメータ解析で得られた複数の溶接施工部の解析条件から所要の解析条件を選択する。つぎにこの選択した溶接施工部の解析条件が反映される溶接施工部の溶接条件を、この溶接施工部の周囲に施工する実際の溶接工程における複数の溶接パス(グループ化した溶接パス)の溶接条件とする。さらにこのグループ化した溶接パスの溶接条件を模擬した解析条件を作成する適正条件選択を行う。
【0025】
ステップS3は、このステップS2で作成した溶接パスの解析条件に基づく伝熱解析と、この伝熱解析より得られた温度分布に基づく熱弾塑性応力解析とから構成される残留応力解析により全パス解析を行う。
【0026】
ステップS4は、このステップS3の全パス解析より得られる残留応力解析の結果が炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にするか否かを判断して最適条件を決定する。満足する場合は、溶接パスの解析条件を反映した実際の溶接工程における溶接パスの溶接条件を設定し、満足しない場合はステップ2へ移行する。
【0027】
このパラメータ解析は、一例として炉心シュラウド1の外面の開先3位置に溶接施工部5Aが溶接される溶接形態6A(図4(A))、炉心シュラウド1の外面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Bが溶接される溶接形態6B(図4(B))、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向約1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6C(図4(C))、炉心シュラウド1の内面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Dが溶接された溶接形態6D(図4(D))および炉心シュラウド1の内面の開先3位置に溶接施工部5Eが溶接された溶接形態6E(図4(E))の各々の溶接形態について残留応力解析を行う。
【0028】
なお、最終溶接施工部位である炉心シュラウド1の内面の溶接施工部位5Eは化粧盛を行う際などの複数のパスで溶接する実際の溶接工程を模擬するために1パスずつ残留応力解析を行う。
【0029】
この残留応力解析は、溶接施工部5の溶接による加熱を模擬した溶接形態6の伝熱解析と、この伝熱解析より得られる温度分布に基づいた熱弾塑性応力解析とから構成される。この伝熱解析は、溶接施工部5の溶接入熱量H、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sの解析条件を複数組み合わせて行う。
【0030】
また、パラメータ解析における熱弾塑性応力解析は、溶接施工部5Bが溶接される溶接形態6Bの母材2と既溶接部7B、溶接施工部5Cが溶接される溶接形態6Cの母材2と既溶接部7C、溶接施工部5Dが溶接される溶接形態6Dの母材2と既溶接部7D、溶接施工部5Eが溶接される溶接形態6Eの母材2と既溶接部7Eのそれぞれの母材2と既溶接部7には応力が残留していない条件で解析を行う。
【0031】
図5は、図2(C)に示された炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6Cについて、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sを一定とし溶接入熱量Hを所要に選択した残留応力解析の結果の一例であり、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力の周方向成分を示す図である。
【0032】
図5に示された溶接入熱量Hは[数1]の関係がある。
[数1]
溶接入熱量HC1>溶接入熱量HC2>溶接入熱量HC3
【0033】
図5の残留応力解析の結果から、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置を溶接したときに炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力が圧縮残留応力になる溶接入熱量Hの解析条件は溶接入熱量HC1である。
【0034】
図6は、図2(C)に示された炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6Cについて、溶接時の予熱Tおよび溶接入熱量Hを一定とし冷却時間Sを所要に選択した残留応力解析の結果の一例であり、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力の周方向成分を示す図である。
【0035】
図6に示された冷却時間Sは[数2]の関係がある。
[数2]
冷却時間SC1<冷却時間SC2<冷却時間SC3
【0036】
図6の残留応力解析の結果から、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置を溶接したときに炉心シュラウド1の外面の溶接部4近傍に生じる残留応力が圧縮残留応力になる冷却時間Sの解析条件は冷却時間SC1である。
【0037】
図7は、予熱Tを一定とした溶接入熱量Hと冷却時間Sとの残留応力解析の結果の関係を示す図である。
【0038】
図7に示すように、予熱Tを一定とした場合は、溶接入熱量Hが大きく冷却時間Sが小さい解析条件の組み合わせであれば炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力が圧縮残留応力になる。
【0039】
さらに、炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向へ所要の深さの開先3位置に溶接施工部が溶接された他の溶接形態6A、6B、6Dおよび6Eについても、溶接時の予熱Tを一定とし溶接入熱量Hおよび冷却時間Sを所要に選択した残留応力解析を行う。
【0040】
そうすると、炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向へ所要の深さの開先3位置に溶接施工部が溶接された溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eについて溶接時の予熱Tを一定とした溶接入熱量Hと、冷却時間Sを表す指標である熱伝達率αとを変数とする残留応力(評定とする炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面の周方向成分の最大値)との関係を数式化[数3]し、溶接入熱量Hおよび冷却時間Sを組み合わせた適切な解析条件を選択できる。
[数3]
σmax=A・H + B・α + C・H・α
σmax:評定とする炉心シュラウド1の外面の周方向成分の最大残留応力
H:溶接入熱量
α:熱伝達率
A、B、C:溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eについての本実施形態における残留応力解析の結果から求めた定数
【0041】
なお、[数3]は、パラメータ解析で得られた残留応力について溶接入熱量Hと冷却時間Sを表す指標である熱伝達率αとの関係を最小二乗法で近似した一例である。伝熱解析の解析条件である溶接入熱量H、溶接時の予熱T、冷却時間Sを任意に固定または設定した複数の残留応力の解析結果から[数3]のような関係式を得ることで、新たな解析条件を設定する際に残留応力におよぼす影響を概算した有効な予測の下に新たな解析条件を設定することが可能になる。
【0042】
ここで、溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eの伝熱解析の解析条件である溶接入熱量H、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sをそれぞれ溶接形態6AについてHAn、TAm、SAl、溶接形態6BについてHBn、TBm、SBl、溶接形態6CについてHCn、TCm、SCl、溶接形態6DについてHDn、TDm、SDl、溶接形態6EについてHEn、TEm、SElと表す。
【0043】
また、図8に示すように、炉心シュラウド1の外面の開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8A、炉心シュラウド1の外面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8B、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向約1/2の深さの開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8C、炉心シュラウド1の内面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8D、および炉心シュラウド1の内面の開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8Eとする。
【0044】
なお解析条件である溶接入熱量Hは実際の溶接工程において溶接電流、溶接電圧、溶接速度から計算される単位あたりの溶接入熱量である。また解析条件である冷却時間Sは実際の溶接工程において溶接部に水冷や流速を変えた水冷、扇風機や空気噴射による強制空冷、水噴射による水冷、ドライアイス噴射による冷却などの冷却方法により溶接条件に反映する。さらに解析条件である予熱Tは実際の溶接工程において溶接部に高周波加熱やガスバーナーなどによる加熱方法により溶接条件に反映する。
【0045】
適正条件選択は、例えば溶接部分8Aの解析条件としてHAn、TAmおよびSAl、溶接部分8Bの解析条件としてHBn、TBmおよびSBl、溶接部分8Cの解析条件としてHCn、TCmおよびSCl、溶接部分8Dの解析条件としてHDn、TDmおよびSDl、溶接部分8Eの解析条件としてHEn、TEmおよびSElを選択して組み合わせる。
【0046】
全パス解析は、適正条件選択で組み合わせた解析条件に基づいて溶接部分8A、8B、8C、8D、8Eの伝熱解析を行い、この伝熱解析の結果を各溶接部分に対応する実際の溶接工程における溶接パスの熱弾塑性解析の解析条件として全溶接パスの熱弾塑性解析を行う。
【0047】
この全パス解析の結果から、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力が圧縮残留応力か否かを判断して最適条件を決定する。満足する場合は、この解析条件を実際の溶接工程における溶接パスの溶接条件として設定し、満足しない場合は適正条件選択へ戻って全パス解析と炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力の評価が所要になるまで繰り返す。
【0048】
図9は、本実施形態により行う所要の解析条件の組み合わせから得た全パス解析の結果の一例を示す図である。
【0049】
溶接部分8Aの解析条件としてHA1、TA1およびSA1、溶接部分8Bの解析条件としてHB1、TB1およびSB1、溶接部分8Cの解析条件としてHC1、TC1およびSC1、溶接部分8Dの解析条件としてHD1、TD1およびSD1、溶接部分8Eの解析条件としてHE1、TE1およびSE1を選択して組み合わせた結果、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力は周方向成分、軸方向成分とも圧縮残留応力となる。
【0050】
図10は、本実施形態の溶接条件を設定する他の方法を示す図である。
【0051】
図10においてステップS1Aでは、まず炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向の開先3位置に実際の溶接工程における溶接パス数より少ない複数の溶接施工部を設定する。つぎにそれぞれの溶接施工部を模擬した模擬試験体を製作する。さらにこのそれぞれの溶接施工部の溶接条件を設定する。この溶接条件に基づきそれぞれの模擬試験体を溶接して溶接前後の残留応力の変化を測定する。この残留応力の変化の測定より得られた結果から炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接施工部の溶接条件を複数取得し、この溶接条件を模擬した解析条件を複数準備する模擬試験体によるパラメータ取得を行う。
【0052】
ステップS2以降のステップは、ステップS1Aの模擬試験体によるパラメータ取得で得られた複数の溶接施工部の解析条件に基づいて、図3に示すステップと同様に炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定する。
【0053】
この模擬試験体によるパラメータ取得では、一例としてまず炉心シュラウド1の外面の開先3位置に溶接施工部5Aが溶接される溶接形態6A(図4(A))、炉心シュラウド1の外面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Bが溶接される溶接形態6B(図4(B))、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向約1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6C(図4(C))、炉心シュラウド1の内面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Dが溶接された溶接形態6D(図4(D))および炉心シュラウド1の内面の開先3位置に溶接施工部5Eが溶接された溶接形態6E(図4(E))の各々の溶接形態について溶接条件に基づく溶接を行い、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を測定する。
【0054】
なお、最終溶接施工部位である炉心シュラウド1の内面の溶接施工部位5Eは複数のパスで溶接する実際の溶接工程を模擬するために1パスずつ残留応力を測定する。
【0055】
この溶接条件は、溶接施工部5の溶接入熱量H、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sの条件を複数組み合わせて設定する。
【0056】
また、残留応力測定は、例えばX線回折法による残留応力測定、切断解放法、穿孔法などの測定方法により行う。
【0057】
切断解放法では、例えば模擬試験体に歪みゲージを貼付し、溶接前の歪みの初期値を測定し、溶接後に歪みゲージ周囲をサイコロ状(10mm×10mm×5mm程度)に切断し、切断後の歪みを測定し、切断前後の歪みの変化から切断による歪みの解放量を求めて、その歪みの開放量から残留応力を算出する。
【0058】
また、穿孔法では、例えば模擬試験体に歪みゲージを貼付し、溶接前の歪みの初期値を測定し、溶接後に歪みゲージ周囲を穿孔し、穿孔前後孔の歪みの変化から切断による歪みの解放量を求め、この歪みの解放量から残留応力を算出する。孔は徐々に深く穿孔させて歪みはその都度測定する。
【0059】
この模擬試験体によるパラメータ取得における残留応力測定の結果から、炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向へ所要の深さの開先3位置に溶接施工部が溶接された溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eについての溶接時の溶接入熱量H、予熱Tおよび冷却時間Sを表す指標である熱伝達率αを変数とする残留応力(評定とする炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面の周方向成分の最大値)との関係を数式化(数3)し、溶接入熱量Hおよび冷却時間Sを組み合わせた適切な解析条件を選択できる。
【0060】
そうすると、模擬試験体によるパラメータ取得により得られた解析条件から、適正条件選択(ステップS2)、全パス解析(ステップS3)を行い、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力とする溶接条件を得る(ステップS4)。
【0061】
また、パラメータ解析とパラメータ取得を併用してパラメータ解析の結果をパラメータ取得によりサーベイすることで、全パス解析の精度向上を図ることができる。
【0062】
本実施形態によれば、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力とすることができ、耐応力腐食割れ感受性が改善される。
【0063】
また、従来の溶接工程で実施されていた表面改善処理による残留応力改善処理を施工することなく炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力とすることができ、工程の短縮とこれに伴うコストダウンの効果を得る。
【0064】
さらに、解析的手法により実際の溶接工程を実施する以前に溶接部、特に溶接後は容易にアクセスすることが困難になる溶接部の近傍の残留応力を圧縮残留応力にすることができる。
【0065】
[第2の実施形態]
本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第2実施形態について、図11から図13を参照して説明する。
【0066】
本実施形態において第1実施形態の構造物の溶接方法と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0067】
本実施形態における構造物の溶接方法は、炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定して溶接する方法である。
【0068】
図11および図12は、本実施形態における炉心シュラウド1Aの溶接部4の概略を説明する断面図である。
【0069】
炉心シュラウド1Aの溶接部4は、一例として実際の溶接工程における開先3の溶接パス数を例えば23パスとして溶接し(図11)、この後に炉心シュラウド1Aの最内周面に施工する最終溶接層10の溶接パス数を例えば15パスとして溶接し(図12)、溶接部4の全体では合計38パスの溶接パスで構成される。また、炉心シュラウド1Aの溶接時の環境は、例えば1パスから3パスまでは大気環境で行い、4パスから38パスまでは炉心シュラウド1Aの外側に水を満たした環境で行う。この1パスから3パスまでのパス数は炉心シュラウド1Aの外側に水を満たす際の水圧を保持できる所要の厚みであればよく、またこの厚みは約5mm程度あれば炉心シュラウド1Aの外側に水を満たすことで溶接条件である溶接入熱量を約30kJ/cmとしても炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面におよぼす熱影響は小さい。
【0070】
すなわち、本実施形態では、炉心シュラウド1Aの外側に水を満たした環境下で溶接する4パスから38パスについて、パラメータ解析および全パス解析における伝熱解析の解析条件である冷却時間Sを小さくする。
【0071】
本実施形態では、まず実施形態1と同様に図2に示された溶接施工部5A、5B、5C、5D、5Eについて各々の溶接形態6A、6B、6C、6D、6Eのパラメータ解析を行いかつ最適条件選択を行う。
【0072】
つぎに全パス解析を行う。なお溶接入熱量Hにより溶接金属の供給量が増える場合を考慮して、図11で示された1パスから20パスまでの溶接パスを略2パス程度毎にグループ化して解析パス数を半分程度にした全パス解析を行うこともできる。
【0073】
また、炉心シュラウド1Aの最内面に施工する最終溶接層10の溶接パス数を、所要に変更することで、炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする最終溶接層10の最適な軸方向溶接部の幅Dを求めることができる。
【0074】
図13は本実施形態における残留応力解析の結果の一例を示す図である。
【0075】
解析の対象とした炉心シュラウド1Aの板厚は約50mm、開先は底が4〜6mm、開口部が10〜15mmの開先形状を有し、炉心シュラウド1Aの母材と溶接金属とはオーステナイト系ステンレス鋼である。
【0076】
解析条件として溶接部4の1パスから3パスの溶接終了後に炉心シュラウド1Aの外面を水で満たした環境にする場合に、4パス以降の溶接パスについて約10kJ/cm以上約30kJ/cm以下(約20kJ/cm以上が望ましい。)の溶接入熱量で溶接することで炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力にできる。さらに炉心シュラウド1Aの最内面に施工する最終溶接層10の軸方向溶接部の幅Dを50mm以上にすることで炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力にできる。
【0077】
本実施形態によれば、炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力とすることができ、耐応力腐食割れ感受性が改善される。
【0078】
また、従来の溶接工程で実施されていた表面改善処理による残留応力改善処理を施工することなく炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力とすることができ、工程の短縮とこれに伴うコストダウンの効果を得る。
【0079】
[第3の実施形態]
本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第3実施形態について、図14から図17を参照して説明する。
【0080】
本実施形態において第1実施形態の構造物の溶接方法と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0081】
本実施形態における構造物の溶接方法は、ステンレス鋼からなる配管12の溶接部4近傍の内面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定して溶接する方法である。
【0082】
図14および図15は、原子力発電プラントなどで使用される内面が腐食環境に暴露される配管12の溶接部周囲の概略を説明する図である。
【0083】
配管12は、ステンレス鋼からなる略円筒形状の母材2に開先3が構成され、この開先3が溶接部4により溶接されている。
【0084】
この開先3の開先形状はV型継手である。溶接機を配管12の円筒外側に配置して、溶接金属を配管12の円筒内面側から外面側へ溶接して溶接部4を構成する。なお配管12は母材2の継手にV型継手が使用されているが、突合せ継手、当て金継手または重ね継手などの継手で構成しても良く、また継手の開先形状はI型またはU型などの開先を使用できる。
【0085】
配管12の溶接部4は、一例として実際の溶接工程における溶接パス数を例えば5パスとして溶接し(図15)構成される。また、配管12の溶接時の環境は、例えば1パスから3パスまでは大気環境で行い、4パスから5パスまでは配管12の内部に水を満たした環境で行う。この1パスから3パスまでのパス数は配管12の内部に水を満たす際の水圧を保持できる所要の厚みであればよい。
【0086】
すなわち本実施形態では、配管12の内部に水を満たした環境下で溶接する4パスから5パスについて、パラメータ解析および全パス解析における伝熱解析の解析条件である冷却時間Sを小さくする。さらに、配管12の内部に満たされる水の冷却効果を大きくするために水の流れを考慮した熱伝達率αを反映した冷却時間Sを解析条件にして、この熱伝達率αから配管12の溶接部4近傍の内面に圧縮残留応力が生じる水の流速を求めることができる。
【0087】
本実施形態では、まず実施形態1と同様に図15に示された1パスから5パスまでの溶接パスについて各々の溶接形態のパラメータ解析を行い、つぎに最適条件選択を行い、さらに全パス解析を行う。
【0088】
図16および図17は本実施形態における残留応力解析の結果の一例を示す図である。
【0089】
全パス解析の解析条件として溶接部4の1パスから3パスの溶接終了後に配管12の内部を水で満たした環境にした場合に、4パスから5パスの溶接パスについて配管12の内部を満たす水の流速を0.01m/秒以上とすることで配管12の溶接部4近傍の内面の残留応力を圧縮残留応力にできる。
【0090】
本実施形態によれば、配管12の溶接部4近傍の内面に生じる残留応力を圧縮残留応力とすることができ、耐応力腐食割れ感受性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態を示すもので、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する図。
【図2】前記原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する断面図。
【図3】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法を示す流れ図。
【図4】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、(A)は炉心シュラウドの開先部の外面の位置に溶接施工部が溶接される溶接形態の概略を示す断面図、(B)は炉心シュラウドの開先部の外面から母材の板厚方向約1/4の深さ位置に溶接施工部が溶接される溶接形態の概略を示す断面図、(C)は炉心シュラウドの開先部の外面(内面)から母材の板厚方向約1/2の深さ位置に溶接施工部が溶接された溶接形態の概略を示す断面図、(D)は炉心シュラウドの開先部の内面から母材の板厚方向約1/4の深さ位置に溶接施工部が溶接された溶接形態の概略を示す断面図、(E)は炉心シュラウドの開先部の内面の位置に溶接施工部が溶接された溶接形態の概略を示す断面図。
【図5】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、図4(C)に示された溶接形態について、溶接時の予熱および冷却時間を一定とし溶接入熱量を所要に選択した残留応力解析(周方向成分)の結果の一例を示す図。
【図6】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、図4(C)に示された溶接形態について、溶接時の予熱および溶接入熱量を一定とし冷却時間を所要に選択した残留応力解析(周方向成分)の結果の一例を示す図。
【図7】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、予熱を一定とした溶接入熱量と冷却時間との残留応力解析の結果の関係を示す図。
【図8】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析により得られた解析条件の組み合わせの一例を示す図。
【図9】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果の一例を示す図。
【図10】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法を示す流れ図。
【図11】本発明に係る構造物の溶接方法の第2実施形態により溶接される沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する図。
【図12】本発明に係る構造物の溶接方法の第2実施形態により溶接される沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する図。
【図13】本発明に係る構造物の溶接方法の第2実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果の一例を示す図。
【図14】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態により溶接される配管の溶接部周囲の概略を説明する図。
【図15】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態により溶接される配管の溶接部周囲の概略を説明する断面図。
【図16】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果(残留応力の配管長手軸方向成分)の一例を示す図。
【図17】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果(残留応力の配管周方向成分)の一例を示す図。
【符号の説明】
【0092】
1、1A 炉心シュラウド
2 母材
3 開先
4 溶接部
5A、5B、5C、5D、5E、 溶接施工部
6A、6B、6C、6D、6E、 溶接形態
7B、7C、7D、7E 既溶接部
8A、8B、8C、8D、8E 溶接部分
10 最終溶接層
12 配管
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の溶接時の溶接熱影響による引張の残留応力を改善する構造物の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接構造物の応力腐食割れ(SCC)の発生や進展、溶接構造物の疲労強度等の低下の原因に溶接による熱膨張と塑性歪みによる残留応力とがある。
【0003】
原子力発電プラントの容器、配管などの構造物の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼材は、溶接により結晶粒界にCr炭化物が析出し易く、結晶粒界近傍にCr欠乏層が形成されて腐食環境下では割れ感受性(材料の鋭敏化)が高くなることが知られている。また、溶接部(溶接金属部および熱影響部)に高い引張残留応力が存在する状態で高温水などの腐食環境に暴露されると、応力腐食割れが発生し易い。
【0004】
この応力腐食割れを防止するためには、材料の鋭敏化、引張残留応力、腐食環境の3因子の中から1つの因子を取り除く必要がある。このため、水などの腐食環境に暴露される溶接部の表面近傍に残留する引張応力を圧縮応力に改善することが強く求められている。
【0005】
この溶接に起因する残留応力を低減する方法として溶接金属の材料や溶接時の入熱条件などを具体化した溶接条件を開示した発明がある。
【特許文献1】特開2006−198657号公報
【特許文献2】特開2007−21516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
構造物の溶接時の熱影響による引張残留応力に起因する応力腐食割れの対策として、溶接部表層部を表面改善処理により表面圧縮応力を形成して応力改善し、応力腐食割れの発生を防止する試みが行われている。
【0007】
ここで表面改善処理とは、構造物の母材および溶接部の表面に例えばショットピーニングやレーザピーニング、ウォータジェットピーニングを個々に施し、母材および溶接部の表面に圧縮応力を付加して残留応力改善を行うことである。ショットピーニングは、母材および溶接部の表面に小さな金属球(ショット)を高速度で当てて残留応力を改善し、また表面の疲労強度や耐磨耗性、耐応力腐食特性を向上させる。レーザピーニングは、母材および溶接部の表面にエネルギの大きなパルスレーザを照射して母材および溶接部を構成する材料の原子のプラズマを表面に発生させ、このプラズマ発生の反力による衝撃波を母材および溶接部の中を伝播させて残留応力を改善させる。また、ウォータジェットピーニングは、母材および溶接部の表面に水流を高速度で当てて残留応力を改善させる。
【0008】
しかし、この表面改善処理では、応力改善される溶接部の深さは表層部に限定され、また製造工数の増加による製造コストの増大、溶接後に接近困難になる溶接部に対する実施の困難性などの問題があり、応力腐食割れの防止に対して信頼性の高い溶接継手をより低コストで提供するための製造方法が求められている。
【0009】
また、上述の特許文献は、溶接金属の材料や溶接時の入熱条件などを具体化した構造物の溶接条件を設定することで応力腐食割れの対策として圧縮残留応力を導入するものである。
【0010】
そこで、溶接熱影響による溶接部の板厚(深さ)方向および平面方向の残留応力の分布を制御することあるいは溶接部へ積極的に圧縮残留応力を導入することにより、応力腐食割れに対して裕度の大きい溶接部を有する溶接構造物を提供することができる。
【0011】
従来技術では、溶接金属のマルテンサイト変態による変態膨張を利用して、溶接部の板厚方向の内部まで引張残留応力を低減する方法が示されているが、原子力発電プラントにおける原子炉圧力容器内の炉内構造物のような腐食環境で使用される溶接構造物では、耐食性等の問題により適用には適さない。
【0012】
本発明はこれらの課題を解決するために実際の溶接工程を実施する以前に溶接部の近傍の残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析的手法により算出して行う構造物の溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するため本発明では、腐食環境に暴露される溶接部を有する構造物の溶接方法において、溶接時の熱影響を模擬した解析条件を設定して前記溶接部近傍の温度分布を求める伝熱解析を行った後、前記温度分布に基づいて熱弾塑性応力解析を行い前記溶接部近傍の残留応力を求め、腐食環境に暴露される溶接部近傍の表面の残留応力が圧縮応力になる前記解析条件を特定し、この特定した前記解析条件を反映した溶接条件を設定して前記構造物を溶接することを特徴とする構造物の溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実際の溶接工程を実施する以前に溶接部の近傍の残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析的手法により算出して行う構造物の溶接方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る構造物の溶接方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
なお、応力は引張応力を正、圧縮応力を負として扱う。
【0017】
[第1の実施形態]
本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態について、図1から図9を参照して説明する。
【0018】
図1および図2は、沸騰水型原子炉の原子炉格納容器に収容される炉心シュラウド1の溶接部周囲の概略を説明する図である。
【0019】
原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウド1は、ステンレス鋼からなる略円筒形状の母材2に開先3が構成され、この開先3が溶接部4により溶接される。
【0020】
この開先3の開先形状は片側開先である。溶接機を炉心シュラウド1の円筒内側に配置して、溶接金属を炉心シュラウド1の円筒外面側から内面側へ溶接して溶接部4が構成される。
【0021】
本実施形態における構造物の溶接方法は、この炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定して溶接する方法である。
【0022】
図3は、構造物の溶接条件を設定する方法を示す図である。
【0023】
図3においてステップS1では、まず原子炉圧力容器の炉内構造物である炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向の開先3位置に実際の溶接工程における全溶接パス数より少ない複数の溶接施工部を設定する。この溶接施工部は全溶接パスを代表する所要の溶接パス位置または複数の溶接パスをグループ化した位置を選択して設定する。つぎに構造物を構成する炉心シュラウド1のそれぞれの溶接施工部の溶接条件による熱影響を模擬した解析条件を作成する。さらにこのそれぞれの溶接施工部の解析条件に基づく伝熱解析と、この伝熱解析より得られた温度分布に基づく熱弾塑性応力解析とから構成される残留応力解析を行う。この残留応力解析の結果から炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接施工部の解析条件を複数設定するパラメータ解析を行う。
【0024】
ステップS2では、まずステップS1のパラメータ解析で得られた複数の溶接施工部の解析条件から所要の解析条件を選択する。つぎにこの選択した溶接施工部の解析条件が反映される溶接施工部の溶接条件を、この溶接施工部の周囲に施工する実際の溶接工程における複数の溶接パス(グループ化した溶接パス)の溶接条件とする。さらにこのグループ化した溶接パスの溶接条件を模擬した解析条件を作成する適正条件選択を行う。
【0025】
ステップS3は、このステップS2で作成した溶接パスの解析条件に基づく伝熱解析と、この伝熱解析より得られた温度分布に基づく熱弾塑性応力解析とから構成される残留応力解析により全パス解析を行う。
【0026】
ステップS4は、このステップS3の全パス解析より得られる残留応力解析の結果が炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にするか否かを判断して最適条件を決定する。満足する場合は、溶接パスの解析条件を反映した実際の溶接工程における溶接パスの溶接条件を設定し、満足しない場合はステップ2へ移行する。
【0027】
このパラメータ解析は、一例として炉心シュラウド1の外面の開先3位置に溶接施工部5Aが溶接される溶接形態6A(図4(A))、炉心シュラウド1の外面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Bが溶接される溶接形態6B(図4(B))、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向約1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6C(図4(C))、炉心シュラウド1の内面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Dが溶接された溶接形態6D(図4(D))および炉心シュラウド1の内面の開先3位置に溶接施工部5Eが溶接された溶接形態6E(図4(E))の各々の溶接形態について残留応力解析を行う。
【0028】
なお、最終溶接施工部位である炉心シュラウド1の内面の溶接施工部位5Eは化粧盛を行う際などの複数のパスで溶接する実際の溶接工程を模擬するために1パスずつ残留応力解析を行う。
【0029】
この残留応力解析は、溶接施工部5の溶接による加熱を模擬した溶接形態6の伝熱解析と、この伝熱解析より得られる温度分布に基づいた熱弾塑性応力解析とから構成される。この伝熱解析は、溶接施工部5の溶接入熱量H、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sの解析条件を複数組み合わせて行う。
【0030】
また、パラメータ解析における熱弾塑性応力解析は、溶接施工部5Bが溶接される溶接形態6Bの母材2と既溶接部7B、溶接施工部5Cが溶接される溶接形態6Cの母材2と既溶接部7C、溶接施工部5Dが溶接される溶接形態6Dの母材2と既溶接部7D、溶接施工部5Eが溶接される溶接形態6Eの母材2と既溶接部7Eのそれぞれの母材2と既溶接部7には応力が残留していない条件で解析を行う。
【0031】
図5は、図2(C)に示された炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6Cについて、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sを一定とし溶接入熱量Hを所要に選択した残留応力解析の結果の一例であり、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力の周方向成分を示す図である。
【0032】
図5に示された溶接入熱量Hは[数1]の関係がある。
[数1]
溶接入熱量HC1>溶接入熱量HC2>溶接入熱量HC3
【0033】
図5の残留応力解析の結果から、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置を溶接したときに炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力が圧縮残留応力になる溶接入熱量Hの解析条件は溶接入熱量HC1である。
【0034】
図6は、図2(C)に示された炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6Cについて、溶接時の予熱Tおよび溶接入熱量Hを一定とし冷却時間Sを所要に選択した残留応力解析の結果の一例であり、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力の周方向成分を示す図である。
【0035】
図6に示された冷却時間Sは[数2]の関係がある。
[数2]
冷却時間SC1<冷却時間SC2<冷却時間SC3
【0036】
図6の残留応力解析の結果から、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向1/2の深さの開先3位置を溶接したときに炉心シュラウド1の外面の溶接部4近傍に生じる残留応力が圧縮残留応力になる冷却時間Sの解析条件は冷却時間SC1である。
【0037】
図7は、予熱Tを一定とした溶接入熱量Hと冷却時間Sとの残留応力解析の結果の関係を示す図である。
【0038】
図7に示すように、予熱Tを一定とした場合は、溶接入熱量Hが大きく冷却時間Sが小さい解析条件の組み合わせであれば炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力が圧縮残留応力になる。
【0039】
さらに、炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向へ所要の深さの開先3位置に溶接施工部が溶接された他の溶接形態6A、6B、6Dおよび6Eについても、溶接時の予熱Tを一定とし溶接入熱量Hおよび冷却時間Sを所要に選択した残留応力解析を行う。
【0040】
そうすると、炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向へ所要の深さの開先3位置に溶接施工部が溶接された溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eについて溶接時の予熱Tを一定とした溶接入熱量Hと、冷却時間Sを表す指標である熱伝達率αとを変数とする残留応力(評定とする炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面の周方向成分の最大値)との関係を数式化[数3]し、溶接入熱量Hおよび冷却時間Sを組み合わせた適切な解析条件を選択できる。
[数3]
σmax=A・H + B・α + C・H・α
σmax:評定とする炉心シュラウド1の外面の周方向成分の最大残留応力
H:溶接入熱量
α:熱伝達率
A、B、C:溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eについての本実施形態における残留応力解析の結果から求めた定数
【0041】
なお、[数3]は、パラメータ解析で得られた残留応力について溶接入熱量Hと冷却時間Sを表す指標である熱伝達率αとの関係を最小二乗法で近似した一例である。伝熱解析の解析条件である溶接入熱量H、溶接時の予熱T、冷却時間Sを任意に固定または設定した複数の残留応力の解析結果から[数3]のような関係式を得ることで、新たな解析条件を設定する際に残留応力におよぼす影響を概算した有効な予測の下に新たな解析条件を設定することが可能になる。
【0042】
ここで、溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eの伝熱解析の解析条件である溶接入熱量H、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sをそれぞれ溶接形態6AについてHAn、TAm、SAl、溶接形態6BについてHBn、TBm、SBl、溶接形態6CについてHCn、TCm、SCl、溶接形態6DについてHDn、TDm、SDl、溶接形態6EについてHEn、TEm、SElと表す。
【0043】
また、図8に示すように、炉心シュラウド1の外面の開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8A、炉心シュラウド1の外面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8B、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向約1/2の深さの開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8C、炉心シュラウド1の内面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8D、および炉心シュラウド1の内面の開先3位置周囲の複数の溶接パスをグループ化して溶接部分8Eとする。
【0044】
なお解析条件である溶接入熱量Hは実際の溶接工程において溶接電流、溶接電圧、溶接速度から計算される単位あたりの溶接入熱量である。また解析条件である冷却時間Sは実際の溶接工程において溶接部に水冷や流速を変えた水冷、扇風機や空気噴射による強制空冷、水噴射による水冷、ドライアイス噴射による冷却などの冷却方法により溶接条件に反映する。さらに解析条件である予熱Tは実際の溶接工程において溶接部に高周波加熱やガスバーナーなどによる加熱方法により溶接条件に反映する。
【0045】
適正条件選択は、例えば溶接部分8Aの解析条件としてHAn、TAmおよびSAl、溶接部分8Bの解析条件としてHBn、TBmおよびSBl、溶接部分8Cの解析条件としてHCn、TCmおよびSCl、溶接部分8Dの解析条件としてHDn、TDmおよびSDl、溶接部分8Eの解析条件としてHEn、TEmおよびSElを選択して組み合わせる。
【0046】
全パス解析は、適正条件選択で組み合わせた解析条件に基づいて溶接部分8A、8B、8C、8D、8Eの伝熱解析を行い、この伝熱解析の結果を各溶接部分に対応する実際の溶接工程における溶接パスの熱弾塑性解析の解析条件として全溶接パスの熱弾塑性解析を行う。
【0047】
この全パス解析の結果から、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力が圧縮残留応力か否かを判断して最適条件を決定する。満足する場合は、この解析条件を実際の溶接工程における溶接パスの溶接条件として設定し、満足しない場合は適正条件選択へ戻って全パス解析と炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力の評価が所要になるまで繰り返す。
【0048】
図9は、本実施形態により行う所要の解析条件の組み合わせから得た全パス解析の結果の一例を示す図である。
【0049】
溶接部分8Aの解析条件としてHA1、TA1およびSA1、溶接部分8Bの解析条件としてHB1、TB1およびSB1、溶接部分8Cの解析条件としてHC1、TC1およびSC1、溶接部分8Dの解析条件としてHD1、TD1およびSD1、溶接部分8Eの解析条件としてHE1、TE1およびSE1を選択して組み合わせた結果、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力は周方向成分、軸方向成分とも圧縮残留応力となる。
【0050】
図10は、本実施形態の溶接条件を設定する他の方法を示す図である。
【0051】
図10においてステップS1Aでは、まず炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向の開先3位置に実際の溶接工程における溶接パス数より少ない複数の溶接施工部を設定する。つぎにそれぞれの溶接施工部を模擬した模擬試験体を製作する。さらにこのそれぞれの溶接施工部の溶接条件を設定する。この溶接条件に基づきそれぞれの模擬試験体を溶接して溶接前後の残留応力の変化を測定する。この残留応力の変化の測定より得られた結果から炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接施工部の溶接条件を複数取得し、この溶接条件を模擬した解析条件を複数準備する模擬試験体によるパラメータ取得を行う。
【0052】
ステップS2以降のステップは、ステップS1Aの模擬試験体によるパラメータ取得で得られた複数の溶接施工部の解析条件に基づいて、図3に示すステップと同様に炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定する。
【0053】
この模擬試験体によるパラメータ取得では、一例としてまず炉心シュラウド1の外面の開先3位置に溶接施工部5Aが溶接される溶接形態6A(図4(A))、炉心シュラウド1の外面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Bが溶接される溶接形態6B(図4(B))、炉心シュラウド1の外面(内面)から母材2の板厚方向約1/2の深さの開先3位置に溶接施工部5Cが溶接された溶接形態6C(図4(C))、炉心シュラウド1の内面から母材2の板厚方向約1/4の深さの開先3位置に溶接施工部5Dが溶接された溶接形態6D(図4(D))および炉心シュラウド1の内面の開先3位置に溶接施工部5Eが溶接された溶接形態6E(図4(E))の各々の溶接形態について溶接条件に基づく溶接を行い、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を測定する。
【0054】
なお、最終溶接施工部位である炉心シュラウド1の内面の溶接施工部位5Eは複数のパスで溶接する実際の溶接工程を模擬するために1パスずつ残留応力を測定する。
【0055】
この溶接条件は、溶接施工部5の溶接入熱量H、溶接時の予熱Tおよび冷却時間Sの条件を複数組み合わせて設定する。
【0056】
また、残留応力測定は、例えばX線回折法による残留応力測定、切断解放法、穿孔法などの測定方法により行う。
【0057】
切断解放法では、例えば模擬試験体に歪みゲージを貼付し、溶接前の歪みの初期値を測定し、溶接後に歪みゲージ周囲をサイコロ状(10mm×10mm×5mm程度)に切断し、切断後の歪みを測定し、切断前後の歪みの変化から切断による歪みの解放量を求めて、その歪みの開放量から残留応力を算出する。
【0058】
また、穿孔法では、例えば模擬試験体に歪みゲージを貼付し、溶接前の歪みの初期値を測定し、溶接後に歪みゲージ周囲を穿孔し、穿孔前後孔の歪みの変化から切断による歪みの解放量を求め、この歪みの解放量から残留応力を算出する。孔は徐々に深く穿孔させて歪みはその都度測定する。
【0059】
この模擬試験体によるパラメータ取得における残留応力測定の結果から、炉心シュラウド1の外面(内面)および母材2の板厚方向へ所要の深さの開先3位置に溶接施工部が溶接された溶接形態6A、6B、6C、6Dおよび6Eについての溶接時の溶接入熱量H、予熱Tおよび冷却時間Sを表す指標である熱伝達率αを変数とする残留応力(評定とする炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面の周方向成分の最大値)との関係を数式化(数3)し、溶接入熱量Hおよび冷却時間Sを組み合わせた適切な解析条件を選択できる。
【0060】
そうすると、模擬試験体によるパラメータ取得により得られた解析条件から、適正条件選択(ステップS2)、全パス解析(ステップS3)を行い、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力とする溶接条件を得る(ステップS4)。
【0061】
また、パラメータ解析とパラメータ取得を併用してパラメータ解析の結果をパラメータ取得によりサーベイすることで、全パス解析の精度向上を図ることができる。
【0062】
本実施形態によれば、炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力とすることができ、耐応力腐食割れ感受性が改善される。
【0063】
また、従来の溶接工程で実施されていた表面改善処理による残留応力改善処理を施工することなく炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力とすることができ、工程の短縮とこれに伴うコストダウンの効果を得る。
【0064】
さらに、解析的手法により実際の溶接工程を実施する以前に溶接部、特に溶接後は容易にアクセスすることが困難になる溶接部の近傍の残留応力を圧縮残留応力にすることができる。
【0065】
[第2の実施形態]
本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第2実施形態について、図11から図13を参照して説明する。
【0066】
本実施形態において第1実施形態の構造物の溶接方法と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0067】
本実施形態における構造物の溶接方法は、炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定して溶接する方法である。
【0068】
図11および図12は、本実施形態における炉心シュラウド1Aの溶接部4の概略を説明する断面図である。
【0069】
炉心シュラウド1Aの溶接部4は、一例として実際の溶接工程における開先3の溶接パス数を例えば23パスとして溶接し(図11)、この後に炉心シュラウド1Aの最内周面に施工する最終溶接層10の溶接パス数を例えば15パスとして溶接し(図12)、溶接部4の全体では合計38パスの溶接パスで構成される。また、炉心シュラウド1Aの溶接時の環境は、例えば1パスから3パスまでは大気環境で行い、4パスから38パスまでは炉心シュラウド1Aの外側に水を満たした環境で行う。この1パスから3パスまでのパス数は炉心シュラウド1Aの外側に水を満たす際の水圧を保持できる所要の厚みであればよく、またこの厚みは約5mm程度あれば炉心シュラウド1Aの外側に水を満たすことで溶接条件である溶接入熱量を約30kJ/cmとしても炉心シュラウド1の溶接部4近傍の外面におよぼす熱影響は小さい。
【0070】
すなわち、本実施形態では、炉心シュラウド1Aの外側に水を満たした環境下で溶接する4パスから38パスについて、パラメータ解析および全パス解析における伝熱解析の解析条件である冷却時間Sを小さくする。
【0071】
本実施形態では、まず実施形態1と同様に図2に示された溶接施工部5A、5B、5C、5D、5Eについて各々の溶接形態6A、6B、6C、6D、6Eのパラメータ解析を行いかつ最適条件選択を行う。
【0072】
つぎに全パス解析を行う。なお溶接入熱量Hにより溶接金属の供給量が増える場合を考慮して、図11で示された1パスから20パスまでの溶接パスを略2パス程度毎にグループ化して解析パス数を半分程度にした全パス解析を行うこともできる。
【0073】
また、炉心シュラウド1Aの最内面に施工する最終溶接層10の溶接パス数を、所要に変更することで、炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする最終溶接層10の最適な軸方向溶接部の幅Dを求めることができる。
【0074】
図13は本実施形態における残留応力解析の結果の一例を示す図である。
【0075】
解析の対象とした炉心シュラウド1Aの板厚は約50mm、開先は底が4〜6mm、開口部が10〜15mmの開先形状を有し、炉心シュラウド1Aの母材と溶接金属とはオーステナイト系ステンレス鋼である。
【0076】
解析条件として溶接部4の1パスから3パスの溶接終了後に炉心シュラウド1Aの外面を水で満たした環境にする場合に、4パス以降の溶接パスについて約10kJ/cm以上約30kJ/cm以下(約20kJ/cm以上が望ましい。)の溶接入熱量で溶接することで炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力にできる。さらに炉心シュラウド1Aの最内面に施工する最終溶接層10の軸方向溶接部の幅Dを50mm以上にすることで炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力にできる。
【0077】
本実施形態によれば、炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面に生じる残留応力を圧縮残留応力とすることができ、耐応力腐食割れ感受性が改善される。
【0078】
また、従来の溶接工程で実施されていた表面改善処理による残留応力改善処理を施工することなく炉心シュラウド1Aの溶接部4近傍の外面の残留応力を圧縮残留応力とすることができ、工程の短縮とこれに伴うコストダウンの効果を得る。
【0079】
[第3の実施形態]
本発明に係る溶接構造物の溶接方法の第3実施形態について、図14から図17を参照して説明する。
【0080】
本実施形態において第1実施形態の構造物の溶接方法と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0081】
本実施形態における構造物の溶接方法は、ステンレス鋼からなる配管12の溶接部4近傍の内面に生じる残留応力を圧縮残留応力にする溶接条件を解析により事前に設定して溶接する方法である。
【0082】
図14および図15は、原子力発電プラントなどで使用される内面が腐食環境に暴露される配管12の溶接部周囲の概略を説明する図である。
【0083】
配管12は、ステンレス鋼からなる略円筒形状の母材2に開先3が構成され、この開先3が溶接部4により溶接されている。
【0084】
この開先3の開先形状はV型継手である。溶接機を配管12の円筒外側に配置して、溶接金属を配管12の円筒内面側から外面側へ溶接して溶接部4を構成する。なお配管12は母材2の継手にV型継手が使用されているが、突合せ継手、当て金継手または重ね継手などの継手で構成しても良く、また継手の開先形状はI型またはU型などの開先を使用できる。
【0085】
配管12の溶接部4は、一例として実際の溶接工程における溶接パス数を例えば5パスとして溶接し(図15)構成される。また、配管12の溶接時の環境は、例えば1パスから3パスまでは大気環境で行い、4パスから5パスまでは配管12の内部に水を満たした環境で行う。この1パスから3パスまでのパス数は配管12の内部に水を満たす際の水圧を保持できる所要の厚みであればよい。
【0086】
すなわち本実施形態では、配管12の内部に水を満たした環境下で溶接する4パスから5パスについて、パラメータ解析および全パス解析における伝熱解析の解析条件である冷却時間Sを小さくする。さらに、配管12の内部に満たされる水の冷却効果を大きくするために水の流れを考慮した熱伝達率αを反映した冷却時間Sを解析条件にして、この熱伝達率αから配管12の溶接部4近傍の内面に圧縮残留応力が生じる水の流速を求めることができる。
【0087】
本実施形態では、まず実施形態1と同様に図15に示された1パスから5パスまでの溶接パスについて各々の溶接形態のパラメータ解析を行い、つぎに最適条件選択を行い、さらに全パス解析を行う。
【0088】
図16および図17は本実施形態における残留応力解析の結果の一例を示す図である。
【0089】
全パス解析の解析条件として溶接部4の1パスから3パスの溶接終了後に配管12の内部を水で満たした環境にした場合に、4パスから5パスの溶接パスについて配管12の内部を満たす水の流速を0.01m/秒以上とすることで配管12の溶接部4近傍の内面の残留応力を圧縮残留応力にできる。
【0090】
本実施形態によれば、配管12の溶接部4近傍の内面に生じる残留応力を圧縮残留応力とすることができ、耐応力腐食割れ感受性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態を示すもので、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する図。
【図2】前記原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する断面図。
【図3】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法を示す流れ図。
【図4】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、(A)は炉心シュラウドの開先部の外面の位置に溶接施工部が溶接される溶接形態の概略を示す断面図、(B)は炉心シュラウドの開先部の外面から母材の板厚方向約1/4の深さ位置に溶接施工部が溶接される溶接形態の概略を示す断面図、(C)は炉心シュラウドの開先部の外面(内面)から母材の板厚方向約1/2の深さ位置に溶接施工部が溶接された溶接形態の概略を示す断面図、(D)は炉心シュラウドの開先部の内面から母材の板厚方向約1/4の深さ位置に溶接施工部が溶接された溶接形態の概略を示す断面図、(E)は炉心シュラウドの開先部の内面の位置に溶接施工部が溶接された溶接形態の概略を示す断面図。
【図5】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、図4(C)に示された溶接形態について、溶接時の予熱および冷却時間を一定とし溶接入熱量を所要に選択した残留応力解析(周方向成分)の結果の一例を示す図。
【図6】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、図4(C)に示された溶接形態について、溶接時の予熱および溶接入熱量を一定とし冷却時間を所要に選択した残留応力解析(周方向成分)の結果の一例を示す図。
【図7】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析の条件を説明する図であり、予熱を一定とした溶接入熱量と冷却時間との残留応力解析の結果の関係を示す図。
【図8】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうちパラメータ解析により得られた解析条件の組み合わせの一例を示す図。
【図9】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果の一例を示す図。
【図10】本発明に係る構造物の溶接方法の第1実施形態における溶接条件を設定する方法を示す流れ図。
【図11】本発明に係る構造物の溶接方法の第2実施形態により溶接される沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する図。
【図12】本発明に係る構造物の溶接方法の第2実施形態により溶接される沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器に収容される炉心シュラウドの溶接部周囲の概略を説明する図。
【図13】本発明に係る構造物の溶接方法の第2実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果の一例を示す図。
【図14】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態により溶接される配管の溶接部周囲の概略を説明する図。
【図15】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態により溶接される配管の溶接部周囲の概略を説明する断面図。
【図16】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果(残留応力の配管長手軸方向成分)の一例を示す図。
【図17】本発明に係る構造物の溶接方法の第3実施形態における溶接条件を設定する方法のうち全パス解析の結果(残留応力の配管周方向成分)の一例を示す図。
【符号の説明】
【0092】
1、1A 炉心シュラウド
2 母材
3 開先
4 溶接部
5A、5B、5C、5D、5E、 溶接施工部
6A、6B、6C、6D、6E、 溶接形態
7B、7C、7D、7E 既溶接部
8A、8B、8C、8D、8E 溶接部分
10 最終溶接層
12 配管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食環境に暴露される溶接部を有する構造物の溶接方法において、
溶接時の熱影響を模擬した解析条件を設定して前記溶接部近傍の温度分布を求める伝熱解析を行った後、
前記温度分布に基づいて熱弾塑性応力解析を行い前記溶接部近傍の残留応力を求め、
腐食環境に暴露される溶接部近傍の表面の残留応力が圧縮応力になる前記解析条件を特定し、
この特定した前記解析条件を反映した溶接条件を設定して前記構造物を溶接することを特徴とする構造物の溶接方法。
【請求項2】
前記解析条件は、溶接時の溶接電流や溶接電圧、溶接速度から計算される単位あたりの溶接入熱と、冷却方法と、予熱方法と、複数の溶接パスを施工する際の溶接順序と、その溶接位置とを備え、これらの条件を所要に設定し組み合わせて前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1に記載の構造物の溶接方法。
【請求項3】
前記解析条件の設定に際して、溶接時に施工する複数の溶接パスの全数よりも少ない代表溶接パス位置を所要に選択し、
前記代表溶接パス位置の解析条件を所要に設定し組み合わせて前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の溶接方法。
【請求項4】
前記解析条件の設定に際して、溶接時に施工する複数の溶接パスの全数よりも少ない代表溶接パス位置を所要に選択し、
前記代表溶接パス位置を模擬する溶接試験体を準備して前記溶接試験体の溶接条件を所要に設定し組み合わせて溶接し、
この溶接により前記溶接試験体に生じる残留応力を測定した後、前記代表溶接パス位置の溶接条件を所要に組み合わせて模擬した前記解析条件を設定して前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項5】
前記代表溶接パス位置毎の前記構造物の評価対象位置の残留応力の算出結果について前記解析条件を変数とする数式を準備して、新たな解析条件の設定に際し残留応力におよぼす影響を前記数式から概算して解析条件を設定することを特徴とする請求項3または4に記載の構造物の溶接方法。
【請求項6】
前記構造物が配管または容器であって、前記溶接部の開先形状が片側開先であり、全溶接パスのうち最初の溶接パスから所要の溶接パスまでを大気環境下で溶接する際の冷却方法を模擬する第1の解析条件と、前記所要の溶接パスから最終の溶接パスまでを前記最初のの溶接パスの裏面を水環境にする際の冷却方法を模擬する第2の解析条件おとぉ設定して前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項7】
前記最初の溶接パスの裏面の水環境は、水の流速が0.01m/sec以上であることを特徴とする請求項6に記載の構造物の溶接方法。
【請求項8】
前記構造物が配管または容器であって、前記溶接部の開先形状が片側開先であり、前記解析条件の設定に際し、前記溶接部に施工する溶接パスのうち溶接線に略直行する方向の最終溶接層の幅を模擬した溶接パス数を所要に設定して前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項9】
前記溶接線に略直行する方向の最終溶接層の幅を前記溶接線の略中央を中心として50mm以上とすることを特徴とする請求項8に記載の構造物の溶接方法。
【請求項10】
前記溶接部に施工する溶接パスのうち最初に施工する第1の溶接パスから所要の溶接パスまでの厚みが5mm以上に施工された後は、その後の溶接パスの解析条件のうち溶接入熱を溶接入熱量10kJ/cm以上、30kJ/cm以下とすることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項11】
前記構造物はステンレス鋼またはニッケル基合金を材料とする構造物であり、腐食環境に暴露される前記溶接部の表面の溶接境界から10mm以上の範囲の残留応力が圧縮応力になる溶接条件を設定してから構造物を溶接することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項1】
腐食環境に暴露される溶接部を有する構造物の溶接方法において、
溶接時の熱影響を模擬した解析条件を設定して前記溶接部近傍の温度分布を求める伝熱解析を行った後、
前記温度分布に基づいて熱弾塑性応力解析を行い前記溶接部近傍の残留応力を求め、
腐食環境に暴露される溶接部近傍の表面の残留応力が圧縮応力になる前記解析条件を特定し、
この特定した前記解析条件を反映した溶接条件を設定して前記構造物を溶接することを特徴とする構造物の溶接方法。
【請求項2】
前記解析条件は、溶接時の溶接電流や溶接電圧、溶接速度から計算される単位あたりの溶接入熱と、冷却方法と、予熱方法と、複数の溶接パスを施工する際の溶接順序と、その溶接位置とを備え、これらの条件を所要に設定し組み合わせて前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1に記載の構造物の溶接方法。
【請求項3】
前記解析条件の設定に際して、溶接時に施工する複数の溶接パスの全数よりも少ない代表溶接パス位置を所要に選択し、
前記代表溶接パス位置の解析条件を所要に設定し組み合わせて前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の溶接方法。
【請求項4】
前記解析条件の設定に際して、溶接時に施工する複数の溶接パスの全数よりも少ない代表溶接パス位置を所要に選択し、
前記代表溶接パス位置を模擬する溶接試験体を準備して前記溶接試験体の溶接条件を所要に設定し組み合わせて溶接し、
この溶接により前記溶接試験体に生じる残留応力を測定した後、前記代表溶接パス位置の溶接条件を所要に組み合わせて模擬した前記解析条件を設定して前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項5】
前記代表溶接パス位置毎の前記構造物の評価対象位置の残留応力の算出結果について前記解析条件を変数とする数式を準備して、新たな解析条件の設定に際し残留応力におよぼす影響を前記数式から概算して解析条件を設定することを特徴とする請求項3または4に記載の構造物の溶接方法。
【請求項6】
前記構造物が配管または容器であって、前記溶接部の開先形状が片側開先であり、全溶接パスのうち最初の溶接パスから所要の溶接パスまでを大気環境下で溶接する際の冷却方法を模擬する第1の解析条件と、前記所要の溶接パスから最終の溶接パスまでを前記最初のの溶接パスの裏面を水環境にする際の冷却方法を模擬する第2の解析条件おとぉ設定して前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項7】
前記最初の溶接パスの裏面の水環境は、水の流速が0.01m/sec以上であることを特徴とする請求項6に記載の構造物の溶接方法。
【請求項8】
前記構造物が配管または容器であって、前記溶接部の開先形状が片側開先であり、前記解析条件の設定に際し、前記溶接部に施工する溶接パスのうち溶接線に略直行する方向の最終溶接層の幅を模擬した溶接パス数を所要に設定して前記残留応力を求めることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項9】
前記溶接線に略直行する方向の最終溶接層の幅を前記溶接線の略中央を中心として50mm以上とすることを特徴とする請求項8に記載の構造物の溶接方法。
【請求項10】
前記溶接部に施工する溶接パスのうち最初に施工する第1の溶接パスから所要の溶接パスまでの厚みが5mm以上に施工された後は、その後の溶接パスの解析条件のうち溶接入熱を溶接入熱量10kJ/cm以上、30kJ/cm以下とすることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【請求項11】
前記構造物はステンレス鋼またはニッケル基合金を材料とする構造物であり、腐食環境に暴露される前記溶接部の表面の溶接境界から10mm以上の範囲の残留応力が圧縮応力になる溶接条件を設定してから構造物を溶接することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の構造物の溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−284556(P2008−284556A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128976(P2007−128976)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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