説明

構造物の衝撃緩衝装置

【課題】基礎や支柱等の設置スペースを必要としないでも、防護すべき橋桁に直接添架できることで設置の容易性が実現でき、しかも緩衝部材により防護すべき部位に伝達される荷重を効果的に軽減することができる。
【解決手段】橋桁11等の構造物に、軸方向変形を前提とした小径の中空断面部材による緩衝部材を多数並列させて設けた。小径の中空断面部材は、その側面にノッチ、スリット、リブリング、波形加工など衝撃物体から被衝撃物体に伝達されるピーク荷重と、部材本体の残留変位の調節を行う加工を施す。小径の中空断面部材による緩衝部材は、例えば、飲料缶の空き缶14であり、これを多数並べる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁、トンネル入り口などの構造物への自動車の衝突などで重大な影響を与える衝撃に対して、防護すべき構造物に直接添架することが可能な構造物の衝撃緩衝装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物として橋りょうを例にとると、橋りょうと立体交差する道路交差部においては、橋りょうの橋桁に対する自動車衝撃事故が繰り返して起こされ、このような衝撃事故が発生すると、場合によっては橋桁は交換に至る損傷を受け、さらに、衝撃の際には桁の変形に加え、亀裂を生じる場合には部材交換を余儀なくされ、部材交換までの期間、列車の徐行運転を余儀なくされることもある。
【0003】
従来型の橋桁防護工は、図30に示すように自動車の橋りょう1への進行方向手前に鋼製の門型防護工3を構築し、門型防護工3の水平部分3aを、橋りょう部材である橋桁2の下端よりも低く設置することで、空頭支障する車輛またはその積載物が、橋桁2に衝突することを防止する。
【0004】
しかし、道路が市道などで河川堤防上にある場合では、従来型の橋桁防護工の設置に際しては、河川構造令によって基礎の掘削・構築に制限を受ける。防護工基礎の設置スペースが確保できない箇所も同様である。このため注意喚起表示以外に、具体的な対策を施すことができないのが現状である。
【0005】
なお、橋りょうの橋桁防護工に関する特許文献は存在しないが、下記特許文献には航行船舶が長大橋の橋脚など海上固定構造物と衝突事故を起こしたときの、船舶及び海上固定構造物両者の損害を軽減するための対策が提案されている。
【特許文献1】特許第2692727号 (円筒連結型緩衝材)
【0006】
この特許文献1は、船舶の衝突時の運動エネルギーを有効に吸収し、衝突による損害を軽減するために、長大橋の橋脚など海上固定構造物に装着する構造物(緩衝材と呼ぶ)の一形式で、鋼製の円筒を連結し、それを鋼製の外周板及び内周板の間に組み込んだ円筒連結型緩衝材である。
【0007】
図31に示すように、円筒を連結してそれを外周板6および内周板7に組み込んだ簡単化した構造である。図31において、8は連結円筒1個の範囲、9は緩衝材の防護範囲を示す中心角を示す。
【0008】
内周板7には円筒連結型緩衝材を取り付けるためのボルト孔5が設けられ、内周板7を海上固定構造物の表面に固着する。緩衝材の長さは防護する範囲により決まり、深さは防護する高さにより任意に決めることができる。緩衝材の張出し量は吸収エネルギー量に関係する。
【0009】
衝突船船首4が円筒連結型緩衝材に突入した時、衝突エネルギーは外周板6の変形と円筒(径がα)の変形とにより吸収される。この時、円筒の軸に対する横方向の柔軟性を利用した変形により反力の鋭いピークを緩和すると同時に、外周板6及び円筒の厚みを変えて変形によるエネルギー分担を変化させて、船首突入位置によるエネルギー吸収率の違いを少なくしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1は、鋼製の円筒を連結し、それを鋼製の外周板及び内周板の間に組み込んだ円筒連結型緩衝材であり、これを橋りょうの橋桁防護工に適用しようとしても、前記門型防護工3の従来例と同じく設置に際しては、河川構造令によって基礎の掘削・構築に制限を受け、また、設置スペースが確保できないという問題は解消しない。
【0011】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、基礎や支柱等の設置スペースを必要としないでも、防護すべき構造物に直接添架できることで設置の容易性が実現でき、しかも緩衝部材により防護すべき部位に伝達される荷重を効果的に軽減することができる構造物の衝撃緩衝装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、請求項1および請求項2記載の本発明は、軸方向変形を前提とした小径の中空断面部材による緩衝部材を多数並列させて設けたこと、および、小径の中空断面部材による緩衝部材は、軸方向にも積み重ねることを要旨とするものである。
【0013】
請求項1記載の本発明によれば、軸方向変形を前提とした小径の中空断面部材による緩衝部材を多数並列させて設けたので、基礎や支柱等の設置スペースを必要としないでも、防護すべき構造物に直接添架できることができる。緩衝部材は、軸方向変形を前提とした中空断面部材であるので、衝撃荷重を軸方法に支持し、部材自体が塑性座屈・変形する過程でエネルギーを吸収し、防護すべき部位に伝達される荷重を軽減することができる。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、軸方向にも積み重ねることで、単独で並列に配置した場合と比較して、エネルギー吸収効率は向上し、また、緩衝材のストローク不足を補うことができる。
【0015】
請求項3記載の本発明は、中空断面部材は、その側面にノッチ、スリット、リブリング、波形加工など衝撃物体から被衝撃物体に伝達されるピーク荷重と、部材本体の荷重変位履歴の調節を行う加工を施すことを要旨とするものである。
【0016】
請求項3記載の本発明によれば、軸方向の荷重に対して側面の加工が弱点となり、ピーク荷重が低減され、エネルギー吸収効率を向上させることができる。
【0017】
請求項4記載の本発明は、小径の中空断面部材による緩衝部材は、飲料缶等の空き缶であることを要旨とするものである。
【0018】
請求項4記載の本発明によれば、緩衝部材は、材料自体も飲料缶の空き缶であり構造用鋼管や非鉄材料など入手し易いというメリットがある。特に清涼飲料等の空き缶は、上下端に蓋を有するが、円形の中空断面を持ち、また、側面にはしぼり加工、ベローズ加工を施したものもあるため、緩衝材としての利用に適した種類のものが数多くあり、コストダウンと同時に、廃品のリサイクルが可能である。しかも、多数並べることで、1個1個は小さいものであっても全体として必要とされるピーク荷重の低減・エネルギー吸収効率を得ることができる。
【0019】
請求項5記載の本発明は、小径の中空断面部材による緩衝部材は、緩衝タイミング調整プレートの背後に配設することを要旨とするものである。
【0020】
請求項5記載の本発明によれば、自動車等の衝突に対してはこの緩衝タイミング調整プレートがまず受けて衝撃を小径の中空断面部材の多くに同時に伝えることができ、衝突部分のみならず、所望の範囲での緩衝作用が可能となる。
【0021】
請求項6記載の本発明は、防護桁の外側に第1次の緩衝部材を取り付け、構造物との間に第2次の緩衝部材を取り付け、防護桁は可動として、第2次の緩衝部材の変形は防護桁の変位により惹起されることを要旨とするものである。
【0022】
請求項6記載の本発明によれば、防護桁に備える緩衝部材を第1次の緩衝部材と第2次の緩衝部材とに分けることで、自動車等の衝突に対しては先に外側にある第1次の緩衝部材が作用して軽度の衝撃を緩衝し、それで吸収しきれない分を第2次の緩衝部材で受けることができる。
【0023】
請求項7記載の本発明は、第2次の緩衝部材は、構造物への防護桁の取付部分に配設することを要旨とするものである。
【0024】
請求項7記載の本発明によれば、構造物への防護桁の取付部分には構造物が橋桁の場合でトラス構造の橋では、全体としての強度が高い部分である格点部分になることが多いが、このような橋桁への防護桁の取付部分に第2次の緩衝部材を配設することで、車輌衝突による水平力が一番作用し易い部分を防護することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように本発明の構造物の衝撃緩衝装置は、自動車等の衝突から構造物を防護するための防護工を設置するのに、基礎や支柱等の設置スペースを必要としないでも、防護すべき構造部に直接添架できることで設置の容易性が実現でき、しかも防護工に備える緩衝部材により防護すべき部位に伝達される荷重を効果的に軽減することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の構造物の衝撃緩衝装置Aの1実施形態を示す側面図、図2は同上正面図で、構造物としては橋りょう10の場合であり図中11は橋桁である。
【0027】
橋桁11に、これに沿ってH形鋼材による防護桁12を付設する。図示の例は下路トラス構造の橋の例であり、橋桁11は上弦材、下弦材、垂直材、斜材等からなるトラス桁で、防護桁12はこのうち、下弦材に沿ってその外側に設けるものである。なお、橋りょうの構造としては、この他にも、下路プレートガータータイプ、上路ガータータイプ、合成桁タイプなどがあるが、いずれも防護桁12は主桁部分に沿わせて設ける。
【0028】
防護桁12はH形鋼材の以外のもの例えば角形鋼管やその他鋼材でもよく、また、付設方法は種々考えられるが、図示の例では橋りょうを形成するトラス構造の格点17にこれを固定板18a、18bで前後から挟み、長ボルト19で締結することでブラケット13を取り付け、このブラケット13で吊支承した。なお、図示は省略するが、ブラケット13は防護桁12を摺動自在に吊支承することが望ましく、例えばブラケット13に設けた長孔を支承用ボルトがスライドできることによる。図中20は格点17に集合する斜材である。
【0029】
防護桁12には、軸方向変形を前提とした中空断面部材による緩衝部材を設けるが、この緩衝部材としては例えば、飲料缶の空き缶14を多数並べるものとする。
【0030】
図示は省略するが、飲料缶の空き缶14には、しぼりやベローズ等の加工が施されているものもある。これらの加工は中空断面部材として衝撃物体から被衝撃物体に伝達されるピーク荷重と、部材本体の残留変位の調節を行うものとなるが、加工の種類としては、ノッチ、スリット、リブリング、波形加工などから選択できる。
【0031】
空き缶14は、同じ種類の缶を軸方向に積み重ね、さらに、同じ種類の缶を並列配置した。
【0032】
緩衝部材としては飲料缶の空き缶14を選定した理由は以下の通りである。防護すべき構造物の部位に、直接添架するタイプの衝撃緩衝装置として部材軸直角方向の曲げ破壊をもってなる梁部材モデルと軸方向変形をもってなる柱状部材モデルとを比較した。評価項目は以下のとおりである。
(1)テストピースを介して衝撃荷重を支持することによって、どの程度の荷重低減効果があるか…ピーク荷重
(2)衝撃によるテストピースの変位はどの程度か
(3)衝撃下でのテストピースの荷重−変位曲線はどのようであるか、また吸収エネルギーはどの程度か
【0033】
実験では68kgの錘を5.0mの高さから落下させ測定した。梁部材モデルでは落錘を静止できず、相対的にピーク荷重および衝撃吸収エネルギーは小さく、変位は大きく、大変形・破壊を前提とした梁部材モデルでは降伏後の剛性低下が著しく、エネルギーの吸収性能が小さいことを確認した。このため、従来型の防護工のように降伏点までを設計範囲とした場合には梁部材モデルは有効であるが、緩衝材への使用には適していないとの結論を得た。
【0034】
柱状部材モデルについては、改善点はピーク荷重の低減にあり、錘が接触した直後、部材がより小さな荷重で降伏し、その後の荷重−変位曲線が初期降伏荷重の近傍で推移するような履歴特性が望ましいことが判明した。検討の結果、ピーク荷重の低減および荷重−変位履歴を調節する方法として、次のような加工を考案した。
(1)柱状部材の側面にノッチを入れる。
(2)柱状部材の側面にスリットを入れる。
(3)柱状部材の側面にリブリングを入れる。
(4)柱状部材の側面を波形に加工する。
以上4案から、より合理的な緩衝材が得られる可能性が高いとして、数種類の清涼飲料缶に対して落錘衝撃実験を行った結果、空き缶を用いる妥当性とメリットは以下のとおりである。
(1)空き缶は上下に蓋を有するが、中空断面構造である。
(2)空き缶は、側面に絞り加工やベローズ波型加工などを有するものがある。
(3)入手が容易かつ安価である。
(4)空き缶を利用することができれば、大幅なコストダウンならびに廃品のリサイクルが実現できる。
【0035】
さらに、前記空き缶14による緩衝部材は、防護桁12の外側に第1次の緩衝部材15として取り付け、橋桁11との間には第2次の緩衝部材16として取り付ける。
【0036】
このうち、第1次の緩衝部材15は防護桁12の外側に適宜間隔で設け、また、第2次の緩衝部材16は橋桁11の平面トラスの格点17の部分に配設する。第2次の緩衝部材16の変形は防護桁12の変位により惹起される。
【0037】
また、第1次の緩衝部材15の前面には図6に示すようにプレート21aに突起21bを取り付けて緩衝時のタイミングを調整する緩衝タイミング調整プレート21を配置した。
【0038】
この緩衝タイミング調整プレート21は、突起21bにより押さえる缶と、押さえない缶を存在させ、缶の上端の高さにズレを持たせるもので、缶上端のズレによってピーク荷重を抑えられることができる。
【0039】
図4、図5は本発明の防護桁12を取り付ける橋りょう10の位置を示すもので、車輌衝突緩衝材として、道路22が交差する部分の橋桁11を覆うものとする。
【0040】
このようにして、道路22を走行する自動車が橋桁11に衝突しようとする場合に、図3に示すように中間断面部材である空き缶14が衝撃荷重を軸方法に支持し、空き缶14自体が塑性座屈・変形する過程でエネルギーを吸収し、防護すべき部位に伝達される荷重を軽減する。
【0041】
橋梁の下弦材フランジ部の60mm変形(静的)のエネルギーは10kNmでその間の最大荷重は250kNである。(利根川橋梁で実際に損傷した下弦材の荷重負荷による変形試験)
【0042】
そこで緩衝装置を構成するエネルギー吸収部材としてはピーク荷重をできるだけ低く押さえながら吸収エネルギーを高めることが必要であるが、そのような部材として空缶を軸圧塊モードで使用することが最適である。種々の空缶の中で樽型スチール缶(ラミネート缶)が上記エネルギー吸収能とピーク荷重低減の観点から好ましい。
【0043】
下記に本発明の効果を確認するためのテストとして、橋桁への自動車衝撃に対して、より現実的な荷重・エネルギーを試算した結果、直径60mm程度の薄肉円筒シェルが妥当と判断して空き缶をテストピースに採用した結果を説明する。
【0044】
シェル側面の加工および配置の効果として、面積、缶の形状、軸方向の積み重ね(直列配置)、水平面への配置個数(並列配置)の影響を取り上げた。なお図7のようにTP(テストピース)の吸収エネルギーに対して入力が過大な場合、錘は缶の高さ内で静止せずにロードセルを叩く。これは変形のストローク不足が原因であり、TPの高さを増すことで解消されるが、このような計測データを一律に比較するため、TPの高さに対して75%までの変位を解析の対象とした。
【0045】
図8にピーク荷重・平均荷重と面積との関係を示す。ピーク荷重のばらつきが目立つが、これには以下に述べる側面の加工の影響等が含まれていると考えられる。2つの荷重はいずれも面積にほぼ比例している。
【0046】
図9、図10は各TPの側面に施された加工をしぼり+ベローズ、しぼり、ストレートの3タイプに分類し、比較した結果である。軸方向の荷重に対して側面の加工が弱点となり、ピーク荷重が低減され、エネルギー吸収効率が向上したと考えられる。図11に各加工の荷重−変位関係を示す。
【0047】
図12に缶を単独で配置した場合と、同じ種類の缶を軸方向に積み重ねた場合との比較を示す、単独の場合よりもエネルギー吸収効率は向上する傾向がみられ、緩衝材のストローク不足は軸方向の缶の積み重ねによって対策が可能であることを確認できる。
【0048】
図13、図14に缶を単独で配置した場合と、同一種類の缶を複数個配置した場合との比較を示す。水平面に置かれた缶の増加によって各ピーク荷重が重複し、缶の本数(面積)に比例して増加する様子が図13から窺われる。図14ではピーク荷重の増加に従いエネルギー吸収効率が低下している。
【0049】
並列配置におけるこのような問題の対策として、前記のごとく、緩衝タイミング調整プレート21により缶の上端の高さにズレを持たせる方法を考案した。図15は単独配置、4本並列配置、単独配置の4倍荷重、単独配置の変位を4缶で各10mmスライド・重ね合せた場合の荷重−変位関係である。缶上端のズレによって荷重の突出が抑えられることが確認できる。エネルギー吸収効率に関しては4本並列の0.223に対して、10mmのズレを持たせた場合には0.532と大幅な改善がみられた。
【0050】
図16は衝撃荷重のフーリエスペクトルである。図17はn=1(49Hz)、n=2(98Hz)におけるスペクトル比とエネルギー吸収効率との関係である。
エネルギー吸収効率は、図17からも明らかなように荷重履歴の平均値に依存するため、n=0(0Hz)のスペクトルは重要な評価指標となるが、図16、図17からは、n=1、n=2程度までがエネルギー吸収効率に影響を与えることが確認された。
【0051】
図16から、しぼり+ベローズのタイプはn=1のスペクトルが相対的に大きいことがわかる。また図11からはn=1とn=2のスペクトル比がエネルギー吸収効率と相関が強い傾向がみられる。
【0052】
なお、空き缶14に施す衝撃物体から被衝撃物体に伝達されるピーク荷重と、部材本体の荷重変位履歴の調節を行う加工としては、前記しぼり、ベローズの他にノッチ、スリット、リブリング、波形加工などが有り得る。
【0053】
以上のテストで、金属材料を用いた衝撃緩衝機構として、中空断面部材の軸変形の有効性を確認したが、空き缶を用いた実験ではシェル側面の加工がピーク荷重の低減・エネルギー吸収効率の改善に効果的であることがわかった。また直列配置は機能低下がなく、並列配置では衝撃のタイミングの調節によりピーク荷重の突出を抑える効果が確認された。試算によれば空き缶の直列・並列を組み合わせることで重量1.5ton、速度10m/sec程度の剛体のエネルギー吸収は現実的なオーダーである。
【0054】
前記実施形態では、中空断面部材による緩衝部材として飲料缶の空き缶を用いた例について説明したが、飲料缶以外の空き缶も同等の性能を有すれば、利用できるものである。
【0055】
さらに、中空断面部材であり軸方向変形を生じることができるものであれば、空き缶以外の鋼製、アルミニウム製、その他の金属製の中空体、または、合成樹脂製等金属材料以外の中空断面部材も弾塑性機構として利用することが可能である。
【0056】
以上は本発明の衝撃緩衝装置Aを構造物として橋りょう10に設置した場合を示したが、それ以外でもトンネルその他本発明の適用範囲は広い。
【0057】
その一例を示すと図18、19、20は構造物としてトンネル23の場合、図21は道路22が地下道における桁24の場合、図22は高架の支柱25の場合、図23は道路22脇の建物26の場合、図24は高速道路等の道路22の分離帯27の場合、図25はレースサーキット28の周囲の場合である。
【0058】
これに限定されるものではないが、道路22の上または脇にある構造物であれば、道路22を走行する自動車が衝突しようとする場合の衝撃緩衝を行うものとして設置が可能である。
【0059】
軸方向変形を前提とした小径の中空断面部材による緩衝部材としての飲料缶の空き缶14はこれを多数並べて直接取り付けることも可能であるが、図26、27に示すように、前記橋りょう10の場合と同じく防護桁12を介在させ、防護桁12には、軸方向変形を前提とした中空断面部材による緩衝部材として飲料缶の空き缶14を多数並べるようにしてもよい。
【0060】
固定板18aを介して長ボルト19で締結することでブラケット13を取り付け、このブラケット13で防護桁12を摺動自在に吊支承した。
【0061】
前記橋りょうの場合と同様に、空き缶14による緩衝部材は、防護桁12の外側に第1次の緩衝部材15として取り付け、構造物との間には第2次の緩衝部材16として取り付ける。また、第1次の緩衝部材15の前面にはプレート21aに突起21bを取り付けて緩衝時のタイミングを調整する緩衝タイミング調整プレート21を配置した。
【0062】
第1次の緩衝部材15は防護桁12の外側に適宜間隔で設け、また、第2次の緩衝部材16は構造物の防護桁12の取り付け部分に配設する。
【0063】
このように防護桁12に備える緩衝部材を第1次の緩衝部材15と第2次の緩衝部材16とに分けることで、図28に示すように、自動車等の衝突に対しては先に外側にある第1次の緩衝部材が作用して軽度の衝撃を緩衝し、それで吸収しきれない分を第2次の緩衝部材で受けることができる。図29に示すように第2次の緩衝部材16の変形は防護桁12の変位により惹起される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の構造物の衝撃緩衝装置の1実施形態を示す側面図である。
【図2】本発明の構造物の衝撃緩衝装置の1実施形態を示す正面図である。
【図3】本発明の構造物の衝撃緩衝装置の1実施形態で衝撃を受けた後の状態を示す側面図である。
【図4】本発明の構造物の衝撃緩衝装置の配置を示す側面図である。
【図5】本発明の構造物の衝撃緩衝装置の配置を示す平面図である。
【図6】緩衝タイミング調整プレートの側面図である。
【図7】解析対象とした変位を示すグラフである。
【図8】ピーク荷重および平均荷重と面積の関係を示すグラフである。
【図9】缶の側面に施されたタイプ別のエネルギー吸収効率を示すグラフである。
【図10】缶の側面に施されたタイプ別のピーク荷重の低減を示すグラフである。
【図11】缶の側面の加工による荷重―変位関係の相違を示すグラフである。
【図12】缶を直列配置した場合のエネルギー吸収効率傾向を示すグラフである。
【図13】缶を並列配置した場合の断面積の総和とピーク荷重の関係を示すグラフである。
【図14】缶を並列配置した場合のエネルギー吸収効率を示すグラフである。
【図15】缶の並列配置の問題と対策(荷重―変位関係)結果を示すグラフである。
【図16】荷重波形の解析として衝撃荷重のフーリエスペクトルを示すグラフである。
【図17】荷重波形の解析としてn=1(49Hz)、n=2(98Hz)におけるスペクトル比とエネルギー吸収効率との関係を示すグラフである。
【図18】構造物として、トンネルの場合の第1例を示す斜視図である。
【図19】構造物として、トンネルの場合の第2例を示す斜視図である。
【図20】構造物として、トンネルの場合の第3例を示す斜視図である。
【図21】構造物として、地下道における桁の場合を示す斜視図である。
【図22】構造物として、高架の支柱の場合を示す斜視図である。
【図23】構造物として、道路脇の建物の場合を示す斜視図である。
【図24】構造物として、高速道路等の道路分離帯の場合を示す斜視図である。
【図25】構造物として、レースサーキットの場合を示す斜視図である。
【図26】取り付けの詳細を示す側面図である。
【図27】取り付けの詳細を示す正面図である。
【図28】一次変形を示す説明図である。
【図29】二次変形を示す側面図である。
【図30】従来例を示す斜視図である。
【図31】従来例として円筒連結型緩衝材の説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1…橋りょう 2…橋桁
3…門型防護工 3a…水平部分
4…衝突船船首 5…ボルト孔
6…外周板 7…内周板
8…連結円筒1個の範囲 9…中心角
10…橋りょう 11…橋桁
12…防護桁 13…ブラケット
14…空き缶 15…第1次の緩衝部材
16…第2次の緩衝部材 17…格点
18a、18b…固定板 19…長ボルト
20…斜材
21…緩衝タイミング調整プレート
21a…プレート 21b…突起
22…道路 23…トンネル
24…桁 25…支柱
26…建物 27…分離帯
28…レースサーキット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向変形を前提とした小径の中空断面部材による緩衝部材を多数並列させて設けたことを特徴とする構造物の衝撃緩衝装置。
【請求項2】
小径の中空断面部材による緩衝部材は、軸方向にも積み重ねる請求項1記載の構造物の衝撃緩衝装置。
【請求項3】
小径の中空断面部材は、その側面にノッチ、スリット、リブリング、波形加工など衝撃物体から被衝撃物体に伝達されるピーク荷重と、部材本体の荷重変位履歴の調節を行う加工を施す請求項1または請求項2記載の構造物の衝撃緩衝装置。
【請求項4】
小径の中空断面部材による緩衝部材は、飲料缶等の空き缶である請求項1ないしは請求項3のいずれかに記載の構造物の衝撃緩衝装置。
【請求項5】
小径の中空断面部材による緩衝部材は、緩衝タイミング調整プレートの背後に配設する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の構造物の衝撃緩衝装置。
【請求項6】
緩衝部材は、防護桁の外側に第1次の緩衝部材を取り付け、構造物との間に第2次の緩衝部材を取り付け、防護桁は可動として、第2次の緩衝部材の変形は防護桁の変位により惹起される請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の構造物の衝撃緩衝装置。
【請求項7】
第2次の緩衝部材は、構造物への防護桁の取付部分に配設する請求項6記載の構造物の衝撃緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2007−205046(P2007−205046A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25376(P2006−25376)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成17年9月7日〜9日 社団法人土木学会主催の「第60回年次学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(596001173)株式会社ビーエムシー (4)
【Fターム(参考)】