説明

標本を切断し、切り分けた標本を採集する方法および装置

【課題】試料を損傷せず、切り分けられたさまざまなサイズの標本を汚染せず、確実、効率的、かつ経費効率よく採集するための方法および装置を提供。
【解決手段】レーザ解剖顕微鏡のスライド上に試料を配置し、スライドはその延在面で平行移動可能とし、粘着性採集装置をその中心を光軸に合わせた状態で試料上まで下降させ、試料に付着させてスライドと共に自由に平行移動しかつ顕微鏡の光軸から外れる。その上昇した状態では、光軸に対して固定し1つ以上の標本を試料から切り分ける。次に切り分ける標本が粘着性採集装置の所定の採集半径の外側にある場合は、粘着性採集装置を上昇させ切り分ける標本の中心を顕微鏡の光軸から外すためにスライドを顕微鏡の光軸に対して所定位置まで平行移動させ、粘着性採集装置を試料上まで下降させ、次の1つ以上の標本を切り分ける。粘着性採集装置を上昇させるごとに、少なくとも1つの所定距離だけ離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の試料から複数の標本を切断し、切り分けた複数の標本を採集する方法と、この方法を実行するのに適したレーザ解剖顕微鏡とに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ顕微解剖、特に組織生検試料などの生体または医学試料のレーザ顕微解剖においては、略5〜10マイクロメートル厚の試料をレーザ解剖顕微鏡のスライド上に配置し、その後、精密に焦点合わせしたIRレーザダイオード(例えば、AlGaAsレーザダイオード)のレーザ光線を用いて、切り分ける複数の標本をその試料から切断する。このために、このレーザダイオードの赤外発光スペクトルを選択的に吸収する透明な熱可塑性プラスチック製トランスファフィルムを試料に被せる。このフィルムは適切に画定された複数の位置で溶融し、切断すべき試料の所望の部分(切り分ける標本)に付着する。切り分ける標本は、例えば、さらなる解析のために試料から抽出する必要がある複数の単独細胞または1群の細胞を含みうる。言い換えると、切り分ける標本は、サイズが約1〜10マイクロメートル台であり、切断後に採集する必要がある。ここで、特に複数の標本を切断し、切り分けた複数の標本を採集する必要がある場合は、いくつかの問題が生じる。さらに、切断に使用されるIRレーザ光線によって熱が試料に伝達するため、試料が熱的に影響を受けるので、この例における細胞などの試料が損傷しうる。
【0003】
切り分けた複数の標本を採集する方法として当該技術分野においていくつかの方法が公知である。ドイツ実用新案登録第20100866号(特許文献1)は、例えば、トランスファフィルムを試料と共に枠内に自由に支持する担持装置について説明している。レーザ光線によって切断されると、そのフィルムは切り分けられた標本と共に担持装置から容器内に落ちる。ただし、この方法には以下の不具合点がある。一方では、切り分けられた標本の参照が不可能である点である。この理由は、切り分けられたすべての標本が無統制に容器内に落ちるため、それぞれの元の位置に関連付けることができないからである。さらに、単に重力による自然落下であるため、特に切り分けられた標本が小さい場合は、静電相互作用によって顕微鏡の部分または容器の壁に引っ掛かると、失われて解析できないこともある。
【0004】
米国特許第5,998,129号(特許文献2)は、レーザ顕微解剖方法について説明している。この方法において、平面スライド上に配置された組織試料の周囲組織から所望の領域、例えば複数の細胞小器官または単独細胞、をレーザ光線を用いて切り取る。切り離された細胞は、スライド上に残っているので、追加のレーザパルスによってレーザ光線に沿って投げ出され、反応容器内に捕捉される。レーザ光線からの勢いが伝わるため、この場合も、切り分けられた標本は無統制に反応容器に飛び込むので、もはや参照は不可能である。また、切り分けられた標本が大きい場合は、投げ出されることがないため、事前に取り分ける必要がある。
【0005】
別の公知の方法は、粘着性採集装置、いわゆるキャップの使用を含む。最初に、切り分ける複数の標本を試料から切断し、次にキャップをこの試料上に下降させ、切り分けられた標本をこのキャップに付着させる。切り分けられた複数の標本が付着したキャップを顕微鏡内に上昇させ、取り外す。この方法では切り分けられた複数の標本をキャップによって取り上げることができるので、作業の高速化が可能であるが、切り分けられた標本のサイズおよび形状がさまざまであり、キャップの収容面積と付着性とが限られ、付着時にキャップが傾斜しうることから、キャップ表面が十分に使用されず、高価なキャップが無駄に使われるという問題が生じる。他方、切り分けられた複数の標本が別の標本に積み重なると、切り分けられた標本が無統制に落下して失われる危険が生じる。このため、キャップ上の試料の数が著しく制限される。この点は、切り分けられた標本の数が解析に必要な数に満たないことにもなりうるので用途によっては都合が悪い。
【特許文献1】ドイツ実用新案登録第20100866号
【特許文献2】米国特許第5,998,129号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、前述した問題を解決し、試料を損傷せず、または複雑な設計または構造を必要とせずに、切り分けられたさまざまなサイズの標本を汚染せず、確実、効率的、かつ経費効率よく採集するための方法および装置を提供することである。この目的は、以下の請求項1の特徴を有する方法と、請求項12の特徴を有する装置とによって達成される。さらに、好都合な他の実施形態は、従属項によって定義される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
複数の標本を切断し、切り分けられた複数の標本を採集するための本発明の方法は、レーザ解剖顕微鏡のスライド上に生体試料を配置するステップであって、スライドはその延在面で平行移動可能とする、ステップと、粘着性採集装置をその中心を光軸に合わせた状態で生体試料上に下降させるステップであって、粘着性採集装置は、その下降した状態では、試料に付着し、スライドと共に自由に平行移動可能であり、かつ顕微鏡の光軸から外れ、その上昇した状態では、光軸に対して固定されるものとする、ステップと、生体試料から1つ以上の標本を切断するステップとを含み、次に切断する標本が粘着性採集装置の所定の採集半径の外側にある場合は、粘着性採集装置を上昇させるステップと、次に切断する標本の中心を顕微鏡の光軸から外すためにスライドを顕微鏡の光軸に対して所定位置まで平行移動させるステップと、粘着性採集装置を生体試料上まで下降させるステップと、次の1つ以上の標本を切断するステップとが実行され、粘着性採集装置を上昇させるステップの後ごとに、所定位置がそれまでに決定されたすべての位置から少なくとも所定距離だけ離されることを特徴とする。
【0008】
あるいは、複数の標本を切断し、切り分けられた複数の標本を採集するための本発明の方法は、レーザ解剖顕微鏡のスライド上に生体試料を配置するステップであって、スライドはその延在面で平行移動可能とする、ステップと、生体試料から複数の標本を切断するステップと、粘着性採集装置をその中心を光軸に合わせた状態で生体試料上まで下降させることによって、切り分けられた複数の標本を採集するステップであって、粘着性採集装置は、その下降した状態では、試料に付着し、スライドと共に自由に平行移動可能であり、かつ顕微鏡の光軸から外れ、その上昇した状態では、光軸に対して固定されるものとする、ステップと、を含み、次に採集する標本が粘着性採集装置の所定の採集半径の外側にある場合は、粘着性採集装置を上昇させるステップと、次に採集する標本の中心を顕微鏡の光軸から外すためにスライドを顕微鏡の光軸に対して所定位置まで平行移動させるステップと、粘着性採集装置を生体試料上まで下降させるステップと、切り分けられている次の1つ以上の標本を粘着性採集装置に付着させるステップとが実行され、粘着性採集装置を上昇させるステップの後ごとに、所定位置がそれまでに決定されたすべての位置から少なくとも所定の距離だけ離されることを特徴とする。
【0009】
この2つの方法はどちらも、粘着性採集装置の粘着面全体の効率的利用、切り分けられた標本の積み重なりの防止、および総合的な採集効率の向上を可能にする。さらに、これらの方法では、公知の方法の前述した不具合、すなわち、試料への熱応力の印加や切り分けられた標本の無統制な飛翔または落下などが防止される。
【0010】
本発明の方法の好適な一実施形態において、所定距離は、切り分けられる標本のサイズによって規定される。切り分けられる標本の大半はそれぞれサイズが異なるので、所定距離を、例えば、切断する標本の平均サイズによって規定してもよい。最大サイズも使用しうる。したがって、本発明の方法はあらゆるサイズの試料の切断を可能にする。
【0011】
本発明の方法の好適な一実施形態において、各位置は、螺旋経路に沿って順次位置決めされる。これによって、切り分けられた複数の標本を間違いなく特定できるようになるほか、切り分けられた複数の標本を粘着性採集装置上で高密度化できる。
【0012】
粘着性採集装置は、その下降した状態では、生体試料上に平らに載ることが好ましい。これによって、切り分けられた標本の粘着性採集装置への付着性が向上し、より大きな粘着面が提供されるので、採集容量が増加する。粘着性採集装置は、その下降した状態では、生体試料上に制御された接触圧で載ることが好ましい。これによって、採集性能を向上できると同時に、試料または切り分けられた標本の損傷を防止できる。さらに、試料の平面性が乱されないので、試料が顕微鏡の結像面およびレーザの切断面に留まっている。
【0013】
好適な別の実施形態において、試料をスライド上に配置するステップの後で、切り分ける1つ以上の標本が事前に決定され、粘着性採集装置を上昇させるステップが実行された後はその都度、スライドは粘着性採集装置に対して平行移動され、これによって、スライド上に試料が配置されていない箇所の上方に粘着性採集装置が位置付けられ、その後、切り分けられた標本の数および/または面積を求めるステップと、求めたサイズおよび/または面積と切り分け前に事前に決定した標本の数および/または面積とを比較するステップと、が続く。この試料検査によって、ユーザが事前に決定した試料の標本が実際に切り分けられ(切断され)、採集されたかどうかをユーザが判定しうる。これは、標本が小さい場合、または標本が多数の場合は、特に重要である。この文脈において、「事前に決定する」とは、標本の数、形状、サイズ、面積、位置などのうちの少なくとも1つを、例えばコンピュータによる図式解法によって予め設定または決定することを意味する。
【0014】
この事前に決定するステップは、切り分ける標本の事前に決定した数および/または面積と求めた数および/または面積との差に対する限界値を設定するステップを含むことが好ましい。この限界値を設定するステップは、DANN、RNA、およびたんぱく質の解析において、また法科学の分野において、特に重要である。その理由は、実際に切り分けられた標本の数量、ひいては以降の解析に利用可能な標本の数量は、解析結果に決定的な影響を及ぼしうるからである。
【0015】
比較するステップは、画像解析ソフトウェアを用いて実行されることがさらに好ましい。画像解析ソフトウェアを使用すると、試料検査の完全な自動化が可能であり、切り分けプロセスの信頼性およびプロセスの安全性が向上する。
【0016】
本発明の別の好適な実施形態によると、比較するステップの後に、比較結果に応じて、切り分けられていないかまたは粘着採集装置に正しく付着していない標本を切り分ける(切断する)ために、粘着性採集装置が平行移動されて試料の上方に戻される。
【0017】
さらに、比較するステップの後に、望ましくない試料材料があれば、レーザアブレーションによって粘着性採集装置から取り除くステップを実行することが望ましい。この結果、プロセスの精度および信頼性がさらに向上する。
【0018】
前述した試料検査は、請求項1〜11による複数の標本を切り分け採集する本発明の方法を用いた用途に限られるものではなく、生体試料の切り分けおよび採集が必要な他のレーザ切り分け方法にも適用しうる。
【0019】
本発明によると、複数の標本を切断し、切り分けられた複数の標本を採集するためのレーザ解剖顕微鏡は、生体試料を受け止めるためのスライドであって、その延在面で自由に平行移動可能なスライドと、スライド上の生体試料上まで下降可能であり、かつその生体試料上から上昇可能である粘着性採集装置であって、その下降した状態では、スライドと共に自由に平行移動可能であり、かつ顕微鏡の光軸から外れ、その上昇した状態では、光軸に対して固定される粘着性採集装置と、を備える。
【0020】
粘着性採集装置はその下降した状態で自由に平行移動が可能であることから、この顕微鏡は、試料を載せたスライドに対して粘着性採集装置を協調的に、かつ制御された方法で位置付けることができるため、粘着性採集装置を効率的に利用できる。
【0021】
本発明のレーザ解剖顕微鏡は、粘着性採集装置の接触圧を制御するための磁石をさらに備えることが好ましい。これによって、接触圧の極めて微細な調整を実現しうる。
【0022】
特に好都合な実施形態において、粘着性採集装置と試料との間の相対距離を調整できるように、磁石は自由に調整可能である。したがって、切り分けられ、キャップに採集された標本を、例えばプロセス制御時に、試料の直上まで下降させ、試料に付着させずに目視観察しうる。
【0023】
本発明のレーザ解剖顕微鏡において、粘着性採集装置と試料との間の距離が調整可能であると都合がよい。そうであれば、例えばプロセス制御のために、粘着性採集装置を試料の直上の、試料に接触しない位置まで下降させることが可能になる。次に、観察を妨げる試料との接触なしに、実質的に焦点が合う位置で、顕微鏡によって粘着性採集装置を観察できる。
【0024】
レーザ解剖顕微鏡は、いくつかの粘着性採集装置あるいは粘着性採集装置のアレイを1つ以上備えることがさらに好ましい。これによって、粘着性採集装置の交換のためのユーザ介入によって切り分けが中断されることなく、切り分けられた複数の標本群を順次処理しうる。
【発明の効果】
【0025】
本発明による方法および装置によれば、試料を損傷せず、または複雑な設計または構造を必要とせずに、切り分けられたさまざまなサイズの標本を汚染せず、確実、効率的、かつ経費効率よく採集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1aおよび1bは、本発明の一実施形態によるレーザ解剖顕微鏡を示す。このレーザ解剖顕微鏡は、照明アーム11と、フィルタおよびランプを備えたランプハウジング12と、照明アームに取り付けられ、集光レンズ14を備えた集光装置支持体13とで構成された顕微鏡照明ユニット10を備える。顕微鏡の下部には、試料22を載せたスライド21が固定される、XY面で平行移動可能なテーブル20がある。顕微鏡の光軸は一点鎖線として図に示され、参照符号15で示されている。
【0027】
集光装置支持体13の下に、キャップ昇降機120と、キャップ昇降アーム110と、キャップ111(粘着性採集装置)自体とを基本要素として備えるキャップ昇降モジュールがある。キャップ昇降機120は、キャップ昇降ホルダ130を介して顕微鏡の照明アーム11に取り付けられている。
【0028】
図2a、2b、および2cは、キャップ昇降モジュールの構造を詳細に示す。キャップ昇降機120の内部には高さ調節手段121があり、これによって、XYテーブル20に対するキャップ昇降アーム110の高さを調節しうる。参照符号122は、キャップの中心を顕微鏡の光軸15に合わせるための調節機構を示し、参照符号123は、磁石124の位置を調節する、試料に対するキャップ接触圧の制御装置を示す。
【0029】
キャップ昇降アーム110は、少なくとも2つの異なる位置、すなわち、上昇したときの上方位置と、下降したときの下端位置とを取りうる。さらに、キャップが試料に接触しない1つ以上の浮き位置も取りうる。上方位置においてはキャップ昇降アーム110が顕微鏡の光軸15に対して固定され、下方位置および浮き位置においてはキャップ昇降アーム110の中心が光軸から外れる。この位置において、キャップ昇降アーム110は、X方向およびY方向に自由に移動可能である。これは、切断および平行移動時にキャップ111付きのキャップ昇降アーム110をXYテーブル120と一緒に移動させるために必要である。調整可能な許容範囲(最大可動域)は最大+/−10mmである。この許容範囲内では、キャップ111は常に試料22上に平らに載っているか、または試料22の上方で試料22と平行に浮いている。調整された許容範囲を超えた場合は、制御装置(図示せず)がキャップ111を自動的に上昇させてもよい。
【0030】
次に、本発明による方法の一実施形態を図3のフローチャートを用いて解説する。
【0031】
最初に、この方法の開始時(S100)に、新しい未使用のキャップが使用されているかどうかがチェックされる。未使用のものであれば、切断対象の1つ以上の標本群の中心位置および交線が制御装置に入力される。制御装置は、キャップの採集半径など他のパラメータも知っている。ユーザによって規定された採集半径内では、キャップを上昇させずにすべての試料が切断される。試料上に切り分けるべき標本がさらにあるが、それらの標本の位置が採集半径Sの外側である場合は、キャップ昇降機を上昇させ再配置する必要がある。
【0032】
次に、グリッド幅Gの仮想グリッドをキャップに重ね合わせる(S101)。それぞれの群に含まれる切断対象(標本)の平均サイズに応じてグリッド定数Gを設定する。グリッド定数Gは、その群において規定された標本の平均直径dave と、各直径の可変要素σd の2倍との合計の倍数Qとして定義される。倍数Qは、ユーザによって選択される。
G=Q・(dave +2σd
【0033】
未使用のキャップの場合は、付着している標本がないので、上昇させたキャップ111の中心を顕微鏡の光軸15に合わせる。すなわち、距離D=(0;0)を設定し、グリッドのセル(0,0)を使用する。言い換えると、最初に切り分けられた標本はキャップの中心に付着する。次に、交線および中心位置に応じて、スライドを標本の位置P(S102ではD=(0;0))に平行移動させる。
【0034】
ただし、位置Pが採集半径Sの外側にある場合は、キャップを再配置する必要がある。この場合、(次の)切断対象を新しいグリッドセル位置P−Dに移動する(S102)。これで、切り分けられた標本の中心はもはや光軸15にはなく、距離D=(Dx;Dy)だけ光軸15から離れている。距離D(グリッド移動量)を求める方法はいくつかあるが、そのうちの1つを以下に説明する。条件は、切り分けられた標本がキャップ111上に既に存在する標本に遭遇しないこと、すなわち新しい位置が旧位置からグリッド定数分だけ離れていることである。キャップの移動量Dは、セルのインデックス(Zx;Zy)に従って計算される。
D=(G・Zx;G・Zy)
【0035】
次に、キャップ111を下方位置に下降させる(S103)。このときだけ、XYテーブル20を移動させることによって、切り分けられた標本の中心を光軸15(レーザ)内に平行移動させ、キャップがその上に載せられた次の対象を切断する(S104)。このようにして、切り分けられた複数の標本の中心からキャップが制御された距離Dだけ離される。
【0036】
次に切り分ける標本がキャップの採集半径の外側にある場合、すなわち|P−D|>Sの場合は(S105)、キャップがまだ一杯でなければ、すなわち|D|+S>CCであり(S106)、また当該群中の最後の標本がまだ切り分けられていなければ(S107)、キャップを上昇させ、次のグリッドセルを使用する(S108)。パラメータCCは、キャップの容量に対応する。このキャップ容量は、キャップの最大可用面積の目安であり、キャップの許容範囲FRとキャップの可用粘着面KFのどちらか小さい方の値によって決められる(CC=min(FR,KF))。言い換えると、グリッド移動を実現するために可用キャップ容量を超えてキャップを平行移動させる必要がある場合は、キャップが一杯であると想定される(S106を参照)。この場合は、キャップを上昇させ、新しいキャップをキャップ昇降アーム110に取り付ける必要がある(S111)。次に、この新しいキャップの中心を光軸に合わせ直す(S112)。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態においては、図3のフローチャートでも想定されているが、複数群の標本を切り分ける。ここで、複数のキャップがキャップ昇降アーム110に同時に保持される、いわゆるマルチキャップシステムを使用してもよい。現在使用中のキャップが一杯であるか(S106)、または当該群中の最後の標本が切り分けられ(S107)、最後の群がまだ未処理である(S109)場合は、使用可能なマルチキャップシステム(S110)が次の切断対象群に対して新しいキャップを使用しうる(S114)。ここで、マルチキャップシステムのすべてのキャップが既に一杯であるかどうかを調べ(S113)、そうであれば、新しいマルチキャップシステムの挿入を要求する(S115)。
【0038】
この方法のこの実施例において、スライドは螺旋経路に沿って各位置(グリッドセル)を横切る。これを図4に例示する。ここで、現在のセルインデックスZ=(Zx,Zy)は次のように計算される。
N=0;Z=(0,0)
do N=N+1
{ increase Zx by one until Zx==N
increase Zy by one until Zy==N
decrease Zx by one until Zx==−N
decrease Zy by one until Zy==−N

D=(G・Zx,G・Zy)
【0039】
本願明細書で説明した各例から当業者は好都合な他の実施形態を必ず認識できるであろうが、これらの実施形態も本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1a】本発明の一実施形態によるレーザ解剖顕微鏡の側面図である。
【図1b】図1の顕微鏡の正面図である。
【図2a】図1の顕微鏡のキャップ昇降モジュールの上方からの部分断面図である。
【図2b】図2aのキャップ昇降モジュールの横方向の部分断面図である。
【図2c】図2aのキャップ昇降モジュールの正面の部分断面図である。
【図3】本発明による方法の一実施形態を解説するフローチャートである。
【図4】切り分けた標本を収容するためのキャップを細分割するグリッドパターンのレイアウトである。
【符号の説明】
【0041】
10 顕微鏡照明ユニット
11 照明アーム
12 ランプハウジング
13 集光装置支持体
14 集光レンズ
15 光軸
20 XYテーブル
21 スライド
22 試料
110 キャップ昇降アーム
111 キャップ(粘着性採集装置)
120 キャップ昇降機
121 高さ調節手段
122 調節機構
123 キャップ接触圧の制御装置
124 磁石
130 キャップ昇降ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標本を切り分け採集する方法であって、
レーザ解剖顕微鏡のスライド上に試料を配置するステップであって、前記スライドは、その延在面で平行移動可能とする、ステップと、
粘着性採集装置をその中心を光軸に合わせた状態で試料上まで下降させるステップであって、前記粘着性採集装置は、その下降した状態では、前記試料に付着し、前記スライドと共に自由に平行移動可能であり、かつ前記顕微鏡の前記光軸から外れ、その上昇した状態では、前記光軸に対して固定されるものとする、ステップと、
1つ以上の標本を前記試料から切り分けるステップと、を含み、
次に切り分ける標本が前記粘着性採集装置の所定の採集半径の外側にある場合は、
前記粘着性採集装置を上昇させるステップと、
前記切り分ける標本の中心を前記顕微鏡の前記光軸から外すために、前記スライドを前記顕微鏡の前記光軸に対して所定位置まで平行移動させるステップと、
前記粘着性採集装置を前記試料上まで下降させるステップと、
次の1つ以上の標本を切り分けるステップと、が実行され、
前記粘着性採集装置を上昇させるステップの後ごとに、前記所定位置がそれまで決定されたすべての位置から少なくとも1つの所定距離だけ離される方法。
【請求項2】
複数の標本を切り分け採集する方法であって、
レーザ解剖顕微鏡のスライド上に試料を配置するステップであって、前記スライドは、その延在面で平行移動可能とする、ステップと、
前記試料から前記複数の標本を切断するステップと、
粘着性採集装置をその中心を光軸に合わせた状態で前記試料上まで下降させることによって前記切り分けられた複数の標本を採集するステップであって、前記粘着性採集装置は、その下降した状態では、前記試料に付着し、前記スライドと共に自由に平行移動可能であり、かつ前記顕微鏡の前記光軸から外れ、その上昇した状態では、前記光軸に対して固定されるものとする、ステップと、を含み、
次に採集する標本が前記粘着性採集装置の所定の採集半径の外側にある場合は、
前記粘着性採集装置を上昇させるステップと、
前記次に採集する標本の中心を前記顕微鏡の前記光軸から外すために、前記スライドを前記顕微鏡の前記光軸に対して所定位置まで平行移動させるステップと、
前記粘着性採集装置を前記試料上まで下降させるステップと、
次の1つ以上の標本を前記粘着性採集装置に付着させるステップと、が実行され、
前記粘着性採集装置を上昇させるステップの後ごとに、前記所定位置がそれまでに決定されたすべての位置から少なくとも1つの所定距離だけ離される方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法において、
前記所定距離が、前記標本の最大サイズによって規定される方法。
【請求項4】
請求項1,2または3記載の方法において、
前記各位置が、螺旋経路に沿って順次位置決めされる方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の方法において、
前記粘着性採集装置が、その下降した状態では、前記試料上に平らに載る方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の方法において、
前記粘着性採集装置が、その下降した状態では、前記試料上に制御された接触圧で載る方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の方法において、
前記試料を前記スライド上に配置するステップの後で、切り分ける1つ以上の標本が事前に決定され、前記粘着性採集装置を上昇させるステップを実行した後はその都度、前記スライドは前記粘着性採集装置に対して平行移動され、これによって、前記スライド上に試料が配置されていない箇所の上方に前記粘着性採集装置が位置付けられ、その後、切り分けた標本の数および/または面積を求めるステップと、前記求めたサイズおよび/または面積と前記切り分け前に事前に決定した標本の数および/または面積とを比較するステップと、が続く方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、
前記事前に決定するステップが、前記切り分ける標本の事前に決定した数および/または面積と求めた数および/または面積との差に対する限界値を設定するステップを含む方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の方法において、
前記比較するステップが、画像解析ソフトウェアを用いて実行される方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか記載の方法において、
前記比較するステップの後に、前記比較結果に応じて、切り分けられていないかまたは前記粘着採集装置に正しく付着していない標本を切り分けるために、前記粘着性採集装置が平行移動されて前記試料の上方に戻される方法。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか記載の方法において、
前記比較するステップの後に、望ましくない試料材料があれば、レーザアブレーションによって前記粘着性採集装置から取り除くステップが実行される方法。
【請求項12】
複数の標本を切り分け採集するためのレーザ解剖顕微鏡であって、
好ましくは生体試料を収容するためのスライドであって、その延在面で自由に平行移動可能なスライドと、
前記スライド上の前記試料上まで下降可能であり、かつ前記スライド上の前記試料上から上昇可能である粘着性採集装置であって、その下降した状態では、前記スライドと共に自由に平行移動可能であり、かつ前記顕微鏡の光軸から外れ、その上昇した状態では、前記光軸に対して固定される粘着性採集装置と、
を備えるレーザ解剖顕微鏡。
【請求項13】
請求項12記載のレーザ解剖顕微鏡において、
前記粘着性採集装置の接触圧を制御するための磁石をさらに備えるレーザ解剖顕微鏡。
【請求項14】
請求項13記載のレーザ解剖顕微鏡において、
前記粘着性採集装置と前記試料との間の相対距離を調節できるように、前記磁石が自由に調整可能であるレーザ解剖顕微鏡。
【請求項15】
請求項12,13または14記載のレーザ解剖顕微鏡において、
前記粘着性採集装置と前記試料との間の距離が、調整可能であるレーザ解剖顕微鏡。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれか記載のレーザ解剖顕微鏡において、
いくつかの粘着性採集装置あるいは粘着性採集装置のアレイをさらに備えるレーザ解剖顕微鏡。

【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−46135(P2008−46135A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−232058(P2007−232058)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(506413580)モレキュラー マシーンズ アンド インダストリーズ アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】