説明

標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体

【課題】正常細胞の破壊を最小化し、低い抗癌剤の投与及び放射線照射量で高い坑癌治療効果が得られる標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体を提供する。
【解決手段】本発明は、抗癌剤、癌細胞から過多分泌される標的タンパク質分解酵素によって特異的に分解されるペプチド及び癌部位に特異的に蓄積可能な高分子で結合された標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体に関するものであって、非活性形態の抗癌剤前駆体を投与すれば、標的部位に蓄積された後、放射線照射によってペプチドが分解されながら活性型の抗癌剤を標的部位から放出することができるために、正常細胞の破壊を最小化し、低い抗癌剤の投与及び放射線照射量で高い坑癌治療効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常細胞の破壊を最小化し、低い抗癌剤の投与及び放射線照射量で高い坑癌治療効果が得られる標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、現在韓国内で死亡原因1位を占める疾病であって、今後の環境問題、寿命の延長、食生活の西欧化などによって、癌患者の発生はさらに増加するであろう。癌治療において、よく使われている方法として、既存の坑癌治療剤を放射線治療法(radiotherapy)とともに併用する方法がある。
【0003】
多くの坑癌治療剤と放射線治療は、癌細胞の細胞死滅(cell apoptosis)を誘導して癌を治療する原理に基盤を置いている。また、放射線治療法に既存の化学療法に使われた坑癌治療剤を並行して使えば、より増加した治療効果が得られる。
【0004】
しかし、既存の坑癌治療及び放射線治療療法が、癌細胞の成長抑制及び死滅に効果が優秀であるとしても、高い抗癌剤投与量及び放射線照射量に起因して、癌組織のみならず、正常細胞にも高い毒性を表わして、深刻な副作用を引き起こす問題点を有している。
【0005】
これにより、最近新たに脚光を浴びている分野が標的坑癌治療剤(targettherapies)であり、これは既存の化学療法剤、ホルモン療法剤とは異なる作用メカニズムを有する薬物であって、正常細胞には作用せずに腫瘍細胞の細胞成長信号伝逹、受容体及び遺伝的変異を標的にするので、薬物の効能を増加させ、毒性を最小化することができる最適の坑癌治療剤である。
【0006】
最近、非常に早い速度で開発されている分子映像(molecular imaging)技術を利用した正確な目標腫瘍の設定に起因した坑癌治療を並行して使うとしても、抗癌剤投与量と放射線治療時に利用される放射線照射量との最適化は、坑癌治療の効果増進に非常に重要である。
【0007】
あらゆる癌細胞は、十分な抗癌剤投与及び放射線を照射すれば死滅されるが、癌細胞周辺の正常細胞までも損傷されることがあるので、選択的抗癌剤治療と正確な照射部位に効率的な放射線を照射する物理的な方法が活発に研究されている。
【0008】
したがって、正常細胞の被害を最小化できる標的坑癌治療剤利用及び低い放射線照射量で効率的な細胞死滅効果が得られれば、既存の抗癌剤治療及び放射線治療効果を画期的に増進することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記従来技術の問題点を解決するために、本発明者は、薬物伝達技術、ナノ医学技術及び放射線治療技術など多様な革新研究分野を融合して治療効率を極大化して副作用を最小化する未来指向的な標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体を開発することによって、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、正常細胞の破壊を最小化し、低い抗癌剤の投与及び放射線照射量で高い坑癌治療効果が得られる標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を果たすために、本発明は、抗癌剤、ペプチド及び高分子で結合されて構成され、前記ペプチドは、癌細胞から過多分泌される標的タンパク質分解酵素によって特異的に分解され、前記高分子は、癌部位に特異的に蓄積可能なことを特徴とする標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体を提供する。
【0012】
本発明の前駆体は、抗癌剤と結合されたペプチドを高分子と結合させるリンカーをさらに含んで抗癌剤−ペプチド−リンカー−アルブミン複合体であることが望ましい。
【0013】
前記リンカーとしては、ヒドロキシスクシンイミド(hydroxysuccinimide)またはマレイミド(maleimide)を末端に有しているリンカーであれば、如何なるものでも使用可能であり、例えば、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレ−ト[succinimidyl−4−(N−maleimidomethyl)cyclohexane−1−carboxylate]、ビスN−ヒドロキシスクシンイミド(bis N−hydroxysuccinimide)、ビスマレイミド(bis maleimide)などのような化合物を使うことができる。
【0014】
前記前駆体は、非活性抗癌剤前駆体形態で標的部位に投与されて蓄積され、その後、低い投与量の抗癌剤及び放射線照射によってペプチドが分解されて活性成分である抗癌剤を標的部位から局所的に放出する。
【0015】
前記標的タンパク質分解酵素としては、細胞死滅分解酵素(caspases)、基質タンパク分解酵素(matrix metalloproteinases;MMP)、トロンビン、FXIIIa、カスパーゼ(caspase)、ウロキナーゼプラスミノゲン活性剤(urokinase plasminogen activator、uPA)、HIVプロテアーゼ、DPP−IV及びプロテアソーム(proteasome)からなる群から選択された何れか一つが使われる。
【0016】
前記抗癌剤は、ドキソルビシン、パクリタキセル、アドリアマイシン、シスプラチン、5−フルオロウラシル、マイトマイシン、クロモマイシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ネオカルチノスタチン、エピルビシン、イダルビシンまたはピラルビシンから選択された何れか一つであり得る。
【0017】
また、前記ペプチドは、配列目録1で表示されるペプチドを含んだアセチルオクタペプチドであり、前記タンパク質分解酵素は、カスパーゼ−3タンパク質分解酵素である。
【0018】
前記高分子は、生体適合性を有するあらゆる高分子が使われ、特に、癌組職蓄積効率が高くて抗癌剤の薬物伝達体として使われる生体高分子であるコラーゲン、ゼラチン、デキストラン(dextran)、ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)、ポルアスパラギン酸(poly−aspartic acid)などがあり、合成高分子としては、ポリ(N−2−(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)[poly(N−2−(hydroxypropyl)methacrylamide]、ポリ(ジビニルエーテル−コ−無水マレイン酸)[poly(divinyl ether−co−maleic anhydride)]、ポリ(スチレン−コ−無水マレイン酸)[poly(styrene−co−maleic anhydride)]、ポリ(エチレングリコール)[poly(ethylene glycol)]などがある。
【発明の効果】
【0019】
本発明による抗癌剤前駆体は、標的部位である癌部位に選択的に蓄積される非活性状態の高分子坑癌治療剤が特定タンパク質分解酵素に特異的に反応して活性状態の抗癌剤を放出するので、癌細胞にのみ選択的に坑癌効果を表わすことができて、治療効果の極大化及び坑癌治療の副作用を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の模式図である。
【図2】本発明による標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の作用機作原理に関する模式図である。
【図3】本発明による標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の合成模式図の一例である。
【図4】本発明による標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の非活性細胞毒性を示した図である。
【図5】本発明による標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の坑癌効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明による抗癌剤前駆体は、高分子に抗癌剤が化学的に結合されているので、非活性状態で存在し、高分子ナノ粒子を成しているために、生体内投与時にEPR効果(enhanced permeability retention:腫瘍部位に吸収されるナノ粒子の量とその位置に泊まる時間を向上させる効果)によって癌組職のような炎症性部位に非浸湿的及び選択的に蓄積される。
【0022】
本発明による抗癌剤前駆体投与後、副作用を表わさないが、治療効果が不備な低い投与量の坑癌治療剤を投与及び放射線を照射すれば、これは癌組職部位で不備な細胞死滅効果を誘発する。
【0023】
一般的な状態で誘発された不備な細胞死滅効果としては、明らかな坑癌治療効果を表わすことができないが、癌組職部位に本発明による抗癌剤前駆体が蓄積された状態で誘発された細胞死滅効果は、非活性坑癌治療剤を活性状態で作る。これにより、癌細胞部位で選択的及び段階的に増幅されて活性化された坑癌治療剤は、高い細胞毒性を表わして窮極的に高い標的治療効率を表わす。
【0024】
これは、正常細胞破壊を最小化し、画期的に低い坑癌治療剤投与及び放射線照射量で高い坑癌治療効果が得られ、既存の代表的な抗癌剤及び放射能並行治療の副作用を革新的に低めることができる。また、癌細胞標的性を有し、細胞死滅時にのみ特異的に活性化されて癌細胞に追加的な毒性を表わす新概念の坑癌治療剤開発で既存の放射能治療と並行された化学療法の治療効果を革命的に高めることができる新たな治療技術である。
【0025】
図1は、アルブミンタンパク質に接合されている抗癌剤が、非活性状態である途中に細胞死滅効果によって分泌されたタンパク質分解酵素に特異的に分解されれば、活性化された抗癌剤が放出可能なタンパク質、ペプチド基質及び抗癌剤ナノ粒子からなる本発明の標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の模式図である。
【0026】
また、図2は、本発明の標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の作用機作原理に関する模式図であって、1)のように本発明による抗癌剤前駆体を投与すれば、非活性坑癌治療剤が目標腫瘍に選択的に蓄積される。引き続き2)のように副作用と細胞毒性とが低い坑癌治療剤を投与及び放射線を照射すれば、3)のように癌細胞で細胞死滅を誘導し、細胞死滅に起因してカスパーゼ分解酵素が過多発現される。これにより、発現された分解酵素によってアルブミンに結合された非活性抗癌剤が放出され、結果的に放出されて活性化された抗癌剤が癌細胞を選択的に死滅させる。
【0027】
図3は、本発明による標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の合成例を表わした図であって、モデル抗癌剤であるドキソルビシン(Dox)は、カスパーゼタンパク質分解酵素によって特異的に分解される配列目録1のペプチド(Cys−Asp−Glu−Val−Glu−Ala−Pro−Lys)を含んだアセチルオクタペプチド(Ac−Cys−Asp−Glu−Val−Glu−Ala−Pro−Lys)基質に化学的に結合されてペプチド−Dox複合体(Ac−Cys−Asp−Glu−Val−Glu−Ala−Pro−Lys−Dox)を成す。
【0028】
前記ペプチド−抗癌剤を多様なリンカー(linker)を用いてアルブミンタンパク質に化学的に結合させ、ナノ粒子形態のアルブミン−ペプチド−抗癌剤形態の非活性抗癌剤前駆体を製造する。前記の非活性抗癌剤前駆体は、細胞死滅時に分泌されるカスパーゼ−3タンパク質分解酵素によってペプチド基質のAsp−Glu−Val−Glu部分が特異的に分解されながら活性化されたAla−Pro−Lys−Doxを放出する。
【0029】
また、図4は、アルブミン−ペプチド−Doxの非活性細胞毒性を表わす。
本発明による抗癌剤前駆体を薬学組成物として製造する場合、薬学組成物に通常使う適切な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含みうる。
【0030】
本発明で使用可能な担体、賦形剤または希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギル酸、ゼラチン、燐酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウムまたは鉱物類などが挙げられる。
【0031】
本発明による坑癌治療剤は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤型、外用剤、座剤及び滅菌注射溶液の形態で剤型化して使われる。
【0032】
製剤化する場合には、普通使う充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使って調剤される。経口投与のための固型製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固型製剤は、前記化合物は少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤する。
【0033】
また、単純な賦形剤の以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使われる。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当されるが、よく使われる単純希釈剤である水、リキッドパラフィンの以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれうる。
【0034】
非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、座剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使われる。座剤の基剤としては、ハードファット(witepsol)、マクロゴ−ル、トウイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使われる。
【0035】
本発明による抗癌剤前駆体を薬学組成物として製造する場合、薬学組成物に含有された抗癌剤−ペプチド−アルブミン複合体の使容量は、患者の年齢、性別、体重によって変わり、一日1回ないし数回投与することができる。そして、その投与量は、投与経路、疾病の程度、性別、体重、年齢などによって増減される。したがって、前記投与量は、如何なる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
前記薬学組成物は、モルモット、マウス、家畜、人間などの哺乳動物に多様な経路に投与されることがある。投与のあらゆる方式は、予想されることがあるが、例えば、経口、直腸または静脈、筋肉、皮下、子宮内硬膜または脳血管内(intracerebroventricular)注射によって投与されることがある。
【0037】
また、本発明の薬学組成物は、従来の安全性データが確保された抗癌剤の新規剤型に関するものであるので、安全に使用可能である。
【実施例】
【0038】
以下、下記実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。但し、このような実施例によって、本発明が限定されるものではない。
【0039】
<合成例1> 標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体の製造
【0040】
ドキソルビシン(Dox)20mgにビス(N−ヒドロキシスクシンイミドエステル[bis(N−hydroxysuccinimide ester;NHS]27mgとN−メチルモルホリン(N−methylmorpholine)、4−ジメチルアミノピリジン(4−dimethylaminopyridin)とをジメチルホルムアミド(dimethylformamide)で反応させてNHS基を有するドキソルビシン(Dox−NHS)を製造した。
【0041】
該製造されたDox−NHS10mgとカスパーゼタンパク質分解酵素によって特異的に分解される配列目録1のペプチドとを含んだアセチルオクタペプチド(Ac−Cys−Asp−Glu−Val−Glu−Ala−Pro−Lys)基質24mgを、N−メチルモルホリン(N−methylmorpholine)とジメチルアミノピリジン(dimethylaminopyridine)とを含んだジメチルホルムアミド(dimethylformamide)で6時間反応させて、化学的に結合されたペプチド−Dox複合体(Ac−Cys−Asp−Glu−Val−Glu−Ala−Pro−Lys−Dox)を製造した。
【0042】
リンカーとして使ったスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレ−ト[succinimidyl−4−(N−maleimidomethyl)cyclohexane−1−carboxylate]とアルブミンとを燐酸緩衝生理食塩水(phosphate buffer saline、pH7.4)で2時間反応させた。
【0043】
ファ−ストタンパク質クロマトグラフィー(Fast Protein Liquid Chromatography)を用いて未反応物を除去してリンカーが結合されたアルブミンを分離した。リンカーが結合されたアルブミン7mgとペプチド−Dox複合体(Ac−Cys−Asp−Glu−Val−Glu−Ala−Pro−Lys−Dox)5mgとをトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン[tris(2−carboxyethyl)phosphine]を含んだ水で12時間反応させ、ナノ粒子形態のアルブミン−ペプチド−抗癌剤形態の非活性抗癌剤前駆体を製造した。
【実施例1】
【0044】
<実施例1>細胞毒性検討
細胞毒性は、HeLa細胞にそれぞれ異なる濃度のドキソルビシン及びアルブミン−ペプチド−Doxを添加した後、MTT([3−(4,5−dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide])測定法を使って測定した。図4のようにドキソルビシン抗癌剤は、濃度に比例して細胞毒性を表わしたが、アルブミン−ペプチド−Dox非活性抗癌剤は、細胞毒性を表わさないということを確認した。
【実施例2】
【0045】
<実施例2>坑癌効果検討
合成例1で製造した抗癌剤前駆体が癌疾患動物モデルに投与した後、放射線照射による細胞死滅誘導の有無による坑癌効果を観察した。
【0046】
癌疾患モデルは、扁平上皮細胞SCC7癌細胞をC3H/HeNマウスに皮下移植して作った。まず、5Gyの放射線を癌部位に照射して細胞死滅を誘導した。その後、2ないし3日に合成例1で製造した抗癌剤前駆体(200μ/マウス)を投与した。これにより、放射線を癌組職に照射した後、合成例1で製造した抗癌剤前駆体の投与の有無による坑癌効果を観察した。
【0047】
前記の細胞毒性試験でのように、放射線照射をしていない合成例1で製造した抗癌剤前駆体は、坑癌効果を表わさなかった。癌組職に5Gyの放射線を照射した結果、坑癌効果を観察することができた。特に、合成例1で製造した抗癌剤前駆体を投与した癌疾患モデルに細胞死滅を誘導することができる放射線を照射した結果、放射線照射のみ施行したものと比べて明らかに増加した坑癌効果を観察することができた。
【0048】
以下、本発明の抗癌剤前駆体を含有する薬学組成物の製剤例を説明するが、本発明は、それを限定しようとすることではなく、単に具体的に説明しようとすることである。
【0049】
<製剤例1>注射剤の製造
合成例1で製造した抗癌剤前駆体3mg、メタ重亜硫酸ナトリウム3.0mg、メチルパラベン0.8mg、プロピルパラベン0.1mg及び注射用滅菌蒸溜水適量を混合して通常の方法で最終体積が2mlになるように製造した後、2ml容量のアンプルに充填して滅菌して注射剤を製造した。
【0050】
<製剤例2>錠剤の製造
合成例1で製造した抗癌剤前駆体20mg、乳糖100mg、澱粉100mg及びステアリン酸マグネシウム適量を混合して通常の錠剤製造方法によって打錠して錠剤を製造した。
【0051】
<製剤例3>カプセル剤の製造
合成例1で製造した抗癌剤前駆体10mg、乳糖50mg、澱粉50mg、タルク2mg及びステアリン酸マグネシウム適量を混合して通常のカプセル剤製造方法によってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体関連の分野に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗癌剤、ペプチド及び高分子で結合されて構成され、前記ペプチドは、癌細胞から過多分泌される標的タンパク質分解酵素によって特異的に分解され、前記高分子は、癌部位に特異的に蓄積可能であることを特徴とする標的タンパク質分解酵素感応型抗癌剤前駆体。
【請求項2】
前記前駆体は、
抗癌剤と結合されたペプチドを高分子と結合させるリンカーをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の抗癌剤前駆体。
【請求項3】
前記前駆体は、
放射線照射によってペプチドが分解されて活性成分である抗癌剤を標的部位から放出することを特徴とする請求項1または2に記載の抗癌剤前駆体。
【請求項4】
前記抗癌剤は、
ドキソルビシン、パクリタキセル、アドリアマイシン、シスプラチン、5−フルオロウラシル、マイトマイシン、クロモマイシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ネオカルチノスタチン、エピルビシン、イダルビシンまたはピラルビシンから選択された何れか一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗癌剤前駆体。
【請求項5】
前記ペプチドは、
配列目録1で表示されるペプチドであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗癌剤前駆体。
【請求項6】
前記高分子は、
コラーゲン、ゼラチン、デキストラン(dextran)、ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)、ポルアスパラギン酸(poly−aspartic acid)、ポリ(N−2−(ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)[poly(N−2−(hydroxypropyl)methacrylamide]、ポリ(ジピニルエーテル−コ−無水マレイン酸)[poly(divinyl ether−co−maleic anhydride)]、ポリ(スチレン−コ−無水マレイン酸)[poly(styrene−co−maleic anhydride)]及びポリ(エチレングリコール)[poly(ethylene glycol)]からなる群から選択された何れか一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗癌剤前駆体。
【請求項7】
前記標的タンパク質分解酵素は、
細胞死滅分解酵素(caspases)、基質タンパク分解酵素(matrix metalloproteinases;MMP)、トロンビン、FXIIIa、カスパーゼ(caspase)、ウロキナーゼプラスミノゲン活性剤(urokinase plasminogen activator、uPA)、HIVプロテアーゼ、DPP−IV及びプロテアソーム(proteasome)からなる群から選択された何れか一つであることを特徴とする請求項1または2に記載の抗癌剤前駆体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−163417(P2010−163417A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183507(P2009−183507)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(509159333)ユニヴァーシティー オブ ウルサン ファウンデイション フォー インダストリー コーオペレイション (3)
【Fターム(参考)】