説明

樹脂の洗浄方法およびその方法により洗浄された樹脂

【課 題】ポリビニルアルコール系樹脂をはじめとする各種の樹脂に含まれる不純物を連続的に洗浄することができ、なおかつ少ない洗浄液量で目標とする不純物量にまで容易に不純物量を低減可能ならしめる、ポリビニルアルコール系樹脂その他の樹脂に適用可能な樹脂の洗浄方法を提供する。
【解決手段】固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを傾斜型スクリューコンベヤ1の樹脂供給口2から供給して上方へ搬送しつつ、洗浄液を該傾斜スクリューコンベヤの洗浄液注入口5から流し入れて下部近傍を経由して洗浄液排出口6から排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状態の樹脂中の不純物を除去するための樹脂の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、未精製の各種合成樹脂には、例えば残留モノマーや、製造の過程で使用される重合開始剤や触媒から副生する不純物が多かれ少なかれ含まれることになる。これら不純物は、樹脂の性能低下や環境衛生上の問題を引き起こす場合が多い
【0003】
例えば、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記する場合がある)系樹脂は、造膜性、接着性、ガスバリア性、粒子分散性、乳化性等に優れた水溶性高分子であるため、繊維加工用の糊剤、紙、木材の接着剤、また、上質紙、板紙や段ボールライナー用紙等の表面強度向上剤や剥離紙のアンダーコート剤として、さらにはフィルム、各種無機材料のバインダー、乳化安定剤、懸濁重合の分散安定剤などの広い分野で幅広く使用されているが、工業的に生産されているポリビニルアルコール系樹脂には、製造の過程で使用される重合開始剤や鹸化触媒から副生する例えば、開始剤分解物や酢酸ナトリウム等の不純物が含まれている。これら不純物はポリビニルアルコール系樹脂の例えば酢酸臭などの不快な臭気の原因となったり、ポリビニルアルコール系樹脂の耐熱性を低下させたり、用途によっては、育苗阻害の原因となったり、皮膚に炎症を起こさせたりと問題視されることがある。
【0004】
そこで、樹脂中の不純物を除去するための洗浄方法や、もともと不純物の少ない樹脂を製造する方法が種々検討されている。
【0005】
もともと不純物の少ない樹脂を製造する方法は、根本的な解決方法として好ましいように思われ、種々提案されているが、製造条件が複雑であったり、装置が大がかりになるという問題がある。例えば、前記のポリビニルアルコール系樹脂の場合、ビニルエステル系重合体をケン化する方法として、アルコールを主成分とする溶媒中、触媒の不存在下において、該溶媒の臨界温度(Tc)〜300℃の温度、該溶媒の臨界圧力(Pc)〜40MPaの圧力、0.1〜0.4g/cm3の反応系流体密度の条件下にてケン化することにて酢酸ナトリウムが存在しないポリビニルアルコールを製造する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)が、装置が非常に大がかりとなるため現実に実施するのは難しい。
【0006】
一方、樹脂の洗浄方法としては、洗浄液中に樹脂チップ等の固体状態の樹脂を投入して攪拌する方法が比較的簡便であるため多く用いられる(例えば、特許文献2参照)。前記したポリビニルアルコール系樹脂の場合においても、通常、ポリビニルアルコール系樹脂中に含まれる酢酸ナトリウム等の不純物を除去する方法としては、水、メタノール、エタノールなどの不純物が溶解する溶媒を洗浄液として回分洗浄する方法が一般的である。しかし、このような方法で不純物量を低減させるには、大量の溶媒を消費するという問題があった。
【特許文献1】特開2001−81128号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2002−102810号公報(段落0016〜0018)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したような事情から、樹脂に含まれる不純物を少ない洗浄液で効率良く低減する方法が求められている現状に鑑み、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂をはじめとする各種の樹脂に含まれる不純物を連続的に洗浄することができ、なおかつ少ない洗浄液量で目標とする不純物量にまで容易に不純物量を低減可能ならしめる、ポリビニルアルコール系樹脂その他の樹脂に適用可能な樹脂の洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂を押し出し流れさせることのできる装置に供給し、押し出し流れ方向とは向流方向から洗浄液を流すことにより、ポリビニルアルコール系樹脂中の不純物を除去できることを見出し、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] 固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを押し出し流れさせつつ、該押し出し流れ方向とは向流方向から洗浄液を流すことにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法;
【0010】
[2] 固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを傾斜型スクリューコンベヤの下部近傍から供給して上方へ搬送しつつ、洗浄液を該傾斜スクリューコンベヤの上部近傍から流し入れて下部近傍を経由して排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法;
【0011】
[3] 竪型移動層装置と傾斜型スクリューコンベヤとからなり、該竪型移動層装置の下部において該傾斜型スクリューコンベヤの下部近傍と結合してなる装置を用いて、固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを前記竪型移動層装置の上部から供給し、下部を経由させて前記傾斜型スクリューコンベヤの上方へ搬送しつつ、洗浄液を前記傾斜型スクリューコンベヤの上部近傍から流し入れて前記竪型移動層装置の上部近傍から排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法;および
【0012】
[4] 樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする前項[1]〜[3]のいずれか1に記載の樹脂の洗浄方法;ならびに
【0013】
[5] 前項[1]〜[3]のいずれか1に記載の洗浄方法により洗浄して得られた、不純物が除去された樹脂;および
【0014】
[6] 前項[4]に記載の方法により洗浄して得られた、不純物が除去されたポリビニルアルコール系樹脂に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂の洗浄方法は、従来の樹脂の洗浄方法と比較して少ない洗浄液量で不純物の量を目的の不純物量にまで低減させることが出来るため工業的に非常に有利である。また、特に複雑な装置を必要としないため、現在の樹脂の製造工程中に容易に組み込むことが可能である。特に、ポリビニルアルコール系樹脂の洗浄に用いれば、不純物を除去してポリビニルアルコール系樹脂特有の酢酸臭等を低減することができる洗浄方法として好適であり、現在のポリビニルアルコール系樹脂の製造工程中に容易に組み込むことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の樹脂の洗浄方法(以下、「本洗浄方法」ということがある。)は、樹脂中に含まれる不純物を、洗浄液を使用して洗い出し除去する方法として新規なものであり、固体状態の樹脂の集合体を流動させつつ洗浄を行うものである。
【0017】
本発明にいう「固体状態の樹脂」とは、広く固形の状態にある樹脂をいい、例えばその粒子1個を静置したときに、溶融状態のように形が崩れてしまうことなく形状を保っているものであればよい。したがって、含水ゲル、含溶媒ゲルなども「固体状態の樹脂」に該当する。
【0018】
固体状態の樹脂の形状としては、集合体としてもしくはスラリーとして流動しうるものであれば特に限定されるものではなく、例えば角柱状、円柱状、粒状、粉末状、薄片状、繊維状のいずれであってもよい。大きさについても、ごく微細なものから数センチ(cm)程度までの範囲であれば特に限定されず、例えば直径数μmの微粉でも、直径数センチの球や数cm角の角柱でもかまわない。粒のように集合体の状態で流動性があればそのまま洗浄に供すればよく、繊維のように流動しにくいものであれば、適当な分散媒を用いてスラリーとして流動させればよい。
【0019】
本洗浄方法は、合成樹脂一般に適用できるものであり、本洗浄方法で洗浄する樹脂としては、一定の温度範囲で固体状態にあるものであれば特に限定されないが、通常の作業環境下(5℃〜50℃程度)で固体状態にあるものが、温度調整のための特別な装置を要さないので好ましい。
【0020】
本洗浄方法は、特にポリビニアルコール系樹脂の洗浄に好適である。本発明に使用できるポリビニルアルコール系樹脂の重合度、鹸化度、水溶液粘度、重合度分布、残存酢酸基の分布、1,2−グリコール結合量、立体規則性、末端構造等の物性に制限はなく、後述する変性等が行われていてもかまわない。また、洗浄する前のポリビニルアルコール系樹脂の形態としては、ケン化反応が行われた直後のまだケン化溶媒を含んでいる状態でも、乾燥された状態でもよく、必要ならばこれらを所望の大きさに切断もしくは粉砕して用いることができ、特に制限はない。
【0021】
本発明に使用できるポリビニルアルコール系重合体を製造する際に用いられる脂肪族ビニルエステル類としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどがあげられるが、工業的には酢酸ビニルが望ましい。また、環状カーボネート基を含有する不飽和単量体としてはビニルエチレンカーボネート、ビニレンカーボネーと、メタクリル酸プロピレンカーボネート、アクリル酸プロピレンカーボネート等があげられるがこれに限らない。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で環状カーボネート基を含有する不飽和単量体の他に前記脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体と脂肪族ビニルエステルとの共重合を行ってもよい。脂肪族ビニルエステルと共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等の不飽和二塩基酸モノアルキルエステル類、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン等のアミド基含有単量体、ラウリルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、イソプロペニルアリルアルコール等の水酸基含有単量体、アリルアセテート、ジメチルアリルアセテート、イソプロペニルアリルアセテート等のアセチル基含有単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル、トリメトキシビニルシラン、トリブチルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン等のビニルシラン類等が挙げられるがこれに限らない。
【0022】
前記の共重合の方法は公知のものでよく、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等があげられるが、中でもメチルアルコール等の溶剤中でα,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート等のアゾ系または過酸化物系の開始剤を用いて重合する方法が一般的である。また、未反応の単量体の除去方法及びケン化、乾燥、粉砕方法等も公知の方法でよく、特に制限はない。
【0023】
本発明で樹脂を洗浄するために用いる洗浄液としては、対象となる樹脂中の除去すべき不純物を溶解し得る液であれば特に制限はなく、洗浄中に樹脂自体を完全に溶解してしまうものでなければ、樹脂を多少溶解するものであってもかまわない。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を洗浄する場合であれば、メタノール、エタノール、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、水、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、これらの中から1種を用いても、2種以上を併用してもかまわない。ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる酢酸ナトリウムを除去する場合には、メタノール、エタノールまたはメタノールと酢酸メチルとの混合物、エタノールと酢酸メチルとの混合物を使用することが工業的には好ましい。
【0024】
本洗浄方法では、前記したような樹脂の集合体もしくはスラリーを押し出し流れさせる。押し出し流れとしては、理想的な押し出し流れであるのを要さないことはいうまでもなく、押し出し流れが支配的であると通常認められる程度であればよい。そのような押し出し流れをさせ得ることから本発明に使用できる洗浄装置としては、特に限定されるものではないが、例えばスクリューコンベア、バケットコンベア、ベルトコンベア、自然沈降槽等が挙げられる。特に、傾斜型スクリューコンベアは、押し出し流れと攪拌混合が同時に行えるため、不純物を洗浄液に溶出させやすいので、本発明に好適に用いられる。
【0025】
本洗浄方法では、前記のように樹脂の集合体もしくはスラリーを押し出し流れさせつつ、洗浄液を洗浄装置内の樹脂の流れ方向とは逆方向、いわゆる向流流れを形成する方向から流す。向流方向から洗浄液を流すことにより、樹脂の流れ方向と同じ方向、すなわち併流方向になるように流したり、ポリビニルアルコール系樹脂の流れと垂直に交わる方向に流したりする場合に比べて、大きな洗浄効率が得られる。洗浄液は連続的に流しても、断続的に流してもどちらでもよく、樹脂の流れと向流流れが形成できるのであれば、洗浄液の供給位置は特に制限されない。洗浄に使用した洗浄液は、樹脂から溶出した不純物を蒸留等の操作により分別した後、再度洗浄液として使用することも可能である。なお、必要に応じて洗浄液を水等で洗い流す、すすぎ工程を加えてもよい。
【0026】
洗浄液の使用量は、除去の対象となる樹脂の種類、形状および量、ならびに除去すべき不純物の種類および量、洗浄後の目標とする不純物量等によって適宜調整すればよく、特に限定されるものではないが、通常は樹脂の質量に対して0.1倍量〜50倍量の範囲が好ましい。洗浄液と樹脂の接触時間についても特に制限はないが、より少量の洗浄液で不純物除去効果を上げる為には、5分以上の接触時間をとることが好ましい。例えばポリビニルアルコール系樹脂の場合、ポリビニルアルコール系樹脂の質量の0.1倍量〜50倍量の洗浄液を用いて、5分以上の接触時間をとることにより好ましい結果が得られる。
【0027】
本洗浄方法による不純物の除去効率が高い理由について、本発明者らは次のように考えている。すなわち、洗浄液を用いて樹脂中の不純物を除去する方法においては、洗浄時に樹脂中の不純物が洗浄液中に溶け出すため、回分洗浄および併行流洗浄では、樹脂内の不純物濃度と洗浄液中の不純物濃度の濃度勾配を高くとることが困難である。これに対し、樹脂の流れ方向と洗浄液の流れ方向が向流となる本洗浄方法では、前記濃度勾配を高くすることができるためであり、換言すれば、樹脂がより新鮮に近い状態の洗浄液と接触できるためである。
【0028】
したがって、本洗浄方法は、少量の洗浄液で効率良く不純物を除去することができる洗浄方法であり、樹脂の洗浄のみならず、ガラス、岩石、木材、パルプおよび繊維(樹脂以外の繊維)等の洗浄にも応用可能である。
【0029】
次に、本洗浄方法の好ましい態様について、図を用いて詳細に説明する。まず、第一の好ましい態様では、図1に示すような傾斜型スクリューコンベヤ1を主体とした洗浄装置を用いる。洗浄すべき固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリー(以下、「樹脂等」ということがある)を、傾斜型スクリューコンベヤ1の下部近傍から供給する。具体的には、傾斜型スクリューコンベヤ1の下部近傍に樹脂等が投入できるように樹脂供給口2を設けて、ここから樹脂等を供給する。供給された樹脂は、搬送スクリュー3によって傾斜型スクリューコンベヤ1内で上方へと搬送される。
【0030】
一方、同じ傾斜型スクリューコンベヤ1の上部近傍から洗浄液を流す。具体的には、傾斜型スクリューコンベヤ1の上部近傍に設けた洗浄液注入口5から、必要に応じて定量ポンプ等を用いて常圧もしくは加圧して洗浄液を注入する。注入した洗浄液は、傾斜型スクリューコンベヤ1の下部近傍を経由して排出する。具体的には、樹脂供給口2と傾斜型スクリューコンベヤ1との間に洗浄液排出口6を設けて排出する。このとき、洗浄液排出口6の高さ位置によって、傾斜型スクリューコンベヤ1内に満たされる洗浄液の液面レベル(図中に水平な点線で表わしている)を調整することができ、特に、洗浄液注入口5の位置より若干下がった高さ位置に洗浄液排出口6を設けると、液面レベルをある程度高い位置に保つことができるとともに、洗浄液を特に加圧する必要もないので好ましい。
【0031】
このようにして傾斜型スクリューコンベヤ1内で上方に搬送される樹脂の流れ方向と、洗浄液の流れ方向とが向流方向となって樹脂が洗浄される。液面レベルより上方に搬送された洗浄後の樹脂は、傾斜スクリューコンベヤ1の上部近傍の樹脂排出口4から装置外に排出される。なお、必要に応じてこの装置を2段以上直列につないで洗浄してもよく、その場合、洗浄液を変えることによって複数の種類の不純物を連続工程で除去することもでき、また、後段の装置により前段の装置で使用した洗浄液をすすぐこともできる。
【0032】
次に、第二の好ましい態様としては、図2に示すような、竪型移動層装置7と傾斜型スクリューコンベヤ1とからなる洗浄装置を用いる。この洗浄装置のおいては、竪型移動層装置7の下部が、傾斜型スクリューコンベヤ1の下部近傍に結合されているため、竪型移動層装置7の上部から下部に移動してきた樹脂が同装置から自動的に傾斜型スクリューコンベヤ1に供給され、搬送スクリュー3によって上方へ搬送される。すなわち、竪型移動層装置7の上部から樹脂等を供給し、同装置の下部を経由させて傾斜型スクリューコンベヤ1の上部へ搬送することになる。この構成により、洗浄装置内に保持される樹脂の量を多くして大量に洗浄できるとともに、樹脂と洗浄液との接触時間を長くすることができるので好ましい
【0033】
竪型移動層装置7としては、通常、筒状、横断面形状としては本体の加工上あるいは層内温度分布の均一化という点で円形が望ましいが、短形、多角形、楕円形等どのような形状でもかまわない。さらに、装置直径が場所により上下方向で変化しないものや下方部に勾配をつけたもの、下方部が絞られたもの等、種々の形状が考えられるが、その型式が竪型であればよく、特に限定されない。竪型移動層装置7の大きさとしては、特に限定されるものではなく、傾斜型スクリューコンベヤ1とのバランスを考慮して適宜の大きさのものを用いればよい。
【0034】
また、竪型移動層装置7としては、機械的攪拌装置を有しないものでもよいが、機械的攪拌装置として攪拌翼8を設けると、ピストンフロー性を高めることができるので好ましい。攪拌翼8としては、ピストンフロー性を高めるために直列に少なくとも2個以上の複数個の翼を取り付けることが好ましく、その形状としては、プロペラ翼やディスク型タービン翼等が有効である。なお、ピストンフロー性を高めるという点だけでみれば、竪型移動層装置7の横断面積ないし内径は可能な範囲で小さいほうが好ましい。
【0035】
図2に示す装置を使用する際には、竪型移動層装置7の上部から、具体的には竪型移動層装置7の上部に設けた樹脂供給口2から樹脂等を供給する。供給された樹脂は前記したとおり、竪型移動層装置7の内部を下方に向かって流れ、同装置の下部を経由して傾斜型スクリューコンベヤ1内に入り、搬送スクリュー3によって傾斜型スクリューコンベヤ1内を上方へと搬送される。
【0036】
一方、傾斜型スクリューコンベヤ1の上部近傍から、具体的には傾斜型スクリューコンベヤ1の上部近傍に設けた洗浄液注入口5から、必要に応じて定量ポンプ等を用いて常圧もしくは加圧して洗浄液を注入する。注入した洗浄液は、傾斜型スクリューコンベヤ1の下方へ向かって流れ、同コンベヤの下部近傍を経由して竪型移動層装置7内に入り、同装置を上方へ向かって流れ、同装置の上部近傍から、具体的には上部近傍の側壁に設けた洗浄液排出口6から排出する。
【0037】
なお、図2に示す装置においても、図1に示す装置と同様、洗浄液排出口6の高さ位置によって、傾斜型スクリューコンベヤ1内および竪型移動層装置7内に満たされる洗浄液の液面レベル(図中に水平な点線で表わしている)を調整することができる。
【0038】
このようにして竪型移動層装置7内を下方へ移動する樹脂の流れ方向および傾斜型スクリューコンベヤ1内で上方に搬送される樹脂の流れ方向と、洗浄液の流れ方向とが、竪型移動層装置7内および傾斜型スクリューコンベヤ1内の両方において向流方向となって樹脂が洗浄される。傾斜型スクリューコンベヤ1内で液面レベルよりも上方に搬送された洗浄後の樹脂は、傾斜スクリューコンベヤ1の上部近傍の樹脂排出口4から装置外に排出される。
【0039】
以上説明したように、本洗浄方法によれば、樹脂の不純物を効率良く除去することができるので、本洗浄方法により洗浄して得られた樹脂は、不純物が除去されてその含有量が小さいものとなるので、製品としての価値が高まる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準を意味する。なお、以下の実施例および比較例に記載のポリビニルアルコール系樹脂の特性は、以下の方法により測定ないし評価したものである。
【0041】
[樹脂特性の測定ないし評価方法]
(1)重合度、鹸化度、酢酸ナトリウム量、揮発分は JISK 6726に従って測定した。
(2)マレイン酸変性ポリビニルアルコールの変性度は、電位差自動滴定装置(京都電子工業社製、「AT-420(商品名)」)を用いて、公知の電位差滴定方法により測定した。
(3)エチレン変性ポリビニルアルコールのエチレン含有量は、核磁気共鳴(NMR)装置(バリアン社製、「UNITY INOVA600(商品名)」)を用いて、公知のNMR分析方法により求めた。
【0042】
また、実施例1、2および比較例1〜3の洗浄用樹脂試料として用いたポリビニルアルコール系樹脂は、次の方法により製造した。
[ポリビニルアルコール系樹脂の製造例]
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、圧力計を備えた反応器を窒素置換した後、脱酸素した酢酸ビニルモノマー2800質量部、メタノール800質量部を仕込み、攪拌下で昇温を開始し内温が60℃となったところで、別途メタノール50質量部に開始剤としての2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1重量部を溶解させて調製した開始剤溶液を添加して重合を開始した。60℃で5時間重合した後、冷却して重合を停止した。このときの重合溶液中の固形分濃度は55.1%であった。得られた重合溶液を、塔内に多孔板を多段数有する脱モノマー塔に供給しつつ、塔下部よりメタノール蒸気を吹き込んで、重合溶液をメタノール蒸気と接触させることにより、未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した。この酢酸ビニルモノマーを除去後のポリ酢酸ビニル−メタノール溶液の固形分濃度は42%であった。このポリ酢酸ビニル−メタノール溶液の温度を40℃に保ち、水酸化ナトリウムを添加してケン化反応を行ってポリビニルアルコール樹脂を得た。ケン化反応終了時のポリビニルアルコール樹脂の形態は、溶媒のメタノールおよび副生成物の酢酸メチルを含有した固体状のゲルになっており、鹸化度は88モル%、揮発分は58%であった。また、副生成物である酢酸ナトリウムの含有量は、ポリビニルアルコール樹脂の固形分のうちの0.8%であった。このゲル状ポリビニルアルコール樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料として供した。
【0043】
[実施例1]
図2に示す装置の樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分200gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分50gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に0.8%であったものが0.3%にまで低下していることがわかった。
【0044】
[実施例2]
図1に示す装置の樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分500gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は20分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分500gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に0.8%であったものが0.1%に低下していた。
【0045】
[実施例3]
マレイン酸変性度2.0モル%、重合度1700、ポリビニルアルコール部分のケン化度96モル%、揮発分5%、酢酸ナトリウムの含有量1.1%のポリビニルアルコール系樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料とした。この洗浄用樹脂試料を、実施例1で用いたのと同じ図2に示す装置の樹脂供給口2から毎分100gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分300gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に1.1%であったものが0.1%にまで低下していることがわかった。
【0046】
[実施例4]
エチレンを1モル%共重合した重合度1500、ポリビニルアルコール部分のケン化度99モル%、揮発分4%、酢酸ナトリウムの含有量1.3%のエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料とした。この洗浄用樹脂試料を、実施例1で用いたのと同じ図2に示す装置の樹脂供給口2から毎分150gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は25分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分400gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に1.3%であったものが0.1%にまで低下していることがわかった。
【0047】
[比較例1]
2Lのビーカーに前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料500gを投入し、洗浄液としてのメタノールを500g添加し、タービン翼を有する攪拌機を用いて20分間攪拌(回転数:60回転/分)することにより回分洗浄した。ビーカーから取り出した洗浄後のポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、0.5%であった。
【0048】
[比較例2]
実施例1で用いたのと同じ図2に示す装置の洗浄液排出口6を塞いだ状態で、樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分200gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを樹脂供給口2から毎分50gの流量で流した。このとき、洗浄液排出口6を塞いだ状態であるので、洗浄用樹脂試料および洗浄液は併行流れとなり共に樹脂排出口4から排出された。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、0.7%であった。
【0049】
[比較例3]
実施例2で用いたのと同じ図1に示す装置の廃洗浄液排出口6を塞いだ状態で、樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分500gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は20分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを樹脂供給口2から毎分500gの流量で流した。このとき、洗浄液排出口6を塞いだ状態であるので、洗浄用樹脂試料および洗浄液は併行流れとなり共に樹脂排出口4から排出された。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後のポリビニルアルコールを採取し酢酸ナトリウム量を測定したところ、0.5%であった。
【0050】
以上の結果から、実施例1〜4の本発明の洗浄方法は、比較例の回分洗浄や併行流洗浄による洗浄方法と比較してポリビニルアルコール中の不純物たる酢酸ナトリウムを効率良く除去できたことがわかる。
【0051】
なお、実施例で用いた竪型移動層装置および傾斜型スクリューコンベヤについて説明を加えると、実施例1で用いた竪型移動層装置の本体は円筒形であり、下方の傾斜部分より上の側長(高さ)が60cm、内径180mm、本体内に貯留される洗浄液の量は15.3Lであった。そして、これと結合して用いた傾斜型スクリューコンベヤの本体の全長は1.6m、内径は50mm、傾斜角は45度であった。
【0052】
また、実施例2で用いた傾斜型スクリューコンベヤの本体の全長は2m、内径は104mm、傾斜角は15度であり、傾斜時の本体内に貯留される洗浄液の量は7Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態において用いられる洗浄装置の概略全体構成を示す縦断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態において用いられる洗浄装置の概略全体構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 傾斜型スクリューコンベヤ
2 樹脂供給口
3 搬送スクリュー
4 樹脂排出口
5 洗浄液注入口
6 洗浄液排出口
7 竪型移動層装置
8 攪拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを押し出し流れさせつつ、該押し出し流れ方向とは向流方向から洗浄液を流すことにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。
【請求項2】
固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを傾斜型スクリューコンベヤの下部近傍から供給して上方へ搬送しつつ、洗浄液を該傾斜スクリューコンベヤの上部近傍から流し入れて下部近傍を経由して排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。
【請求項3】
竪型移動層装置と傾斜型スクリューコンベヤとからなり、該竪型移動層装置の下部において該傾斜型スクリューコンベヤの下部近傍と結合してなる装置を用いて、固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを前記竪型移動層装置の上部から供給し、下部を経由させて前記傾斜型スクリューコンベヤの上方へ搬送しつつ、洗浄液を前記傾斜型スクリューコンベヤの上部近傍から流し入れて前記竪型移動層装置の上部近傍から排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。
【請求項4】
樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1に記載の樹脂の洗浄方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1に記載の洗浄方法により洗浄して得られた、不純物が除去された樹脂。
【請求項6】
請求項4に記載の洗浄方法により洗浄して得られた、不純物が除去されたポリビニルアルコール系樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−245432(P2007−245432A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70006(P2006−70006)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(594146788)日本酢ビ・ポバール株式会社 (18)
【Fターム(参考)】