説明

樹脂成形体及びその製造方法並びに自動車のドア

【課題】 突出部の剛性を適度に高めて軽量でありながら衝撃エネルギーを効率良く吸収し得る樹脂成形体を提供する。
【解決手段】 パネル状のプレート本体17表面に荷重受け部19を一体に突設する。基端側突出部20と、基端側突出部20の頂面20aから起立して突出した先端側突出部22とで荷重受け部19を構成する。基端側突出部20及び先端側突出部22を共に、表面層を構成する樹脂密度の高いスキン層21と、スキン層21で覆われかつ多数の空隙を有しスキン層21に比べて樹脂密度の低い膨張層23a,23bとで構成するとともに、基端側突出部20及び先端側突出部22の各々の膨張層23a,23bを互いに連続して一体にする。先端側突出部22の膨張層23bの膨張率を基端側突出部20の膨張層23aの膨張率よりも大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パネル状の成形体本体表面に突設された突出部の表面にスキン層が形成されるとともに、多数の空隙を有する膨張層が内部に形成された樹脂成形体及びその製造方法並びに自動車のドアの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ドアアウタパネルとドアインナパネルとからなるドア本体の上記ドアインナパネルに取り付けられたキャリアプレートのパネル部材に、側突時の衝撃エネルギーを吸収するために縦リブ及び横リブの組合体からなる荷重受け部を一体に突設したものが開示されている。
【0003】
一方、特許文献2では、スライド型を内蔵した雄型と雌型とを型閉じした状態で、キャビティ内に繊維入り熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記繊維入り熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記スライド型をキャビティ容積が型開き方向に拡大するように後退移動させて繊維入り熱可塑性樹脂を成形型で圧縮されている繊維の弾性復元力(スプリングバック現象)で膨張させることにより、樹脂密度の高いスキン層が表面全体に形成されるとともに、多数の空隙を有し上記スキン層に比べて樹脂密度の低い膨張層が内部に形成された突出部を有する樹脂成形体を得るようにしている。
【特許文献1】特開2001−239834号公報(第4頁、図6)
【特許文献2】特開2000−25057号公報(第5頁、図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のキャリアプレートは、特許文献2のような膨張層がないため重量が嵩む。そこで、特許文献2の突出部のように荷重受け部に膨張層を形成すれば、膨張層によりキャリアプレートの軽量化と衝撃エネルギーの吸収効果とを得ることができるが、荷重受け部が膨張層で剛性が低くなっているため、荷重受け部に作用する衝突荷重が小さくても、膨張層が一気に潰れて衝撃エネルギーを効率良く吸収することができなくなる。
【0005】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、荷重受け部等の突出部の剛性を適度に高めて軽量でありながら衝撃エネルギーを効率良く吸収し得るキャリアプレート等の樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、この発明は、突出部の形状や膨張層の膨張率を工夫したことを特徴とする。
【0007】
具体的には、この発明は、樹脂成形体及びその製造方法並びに自動車のドアを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、請求項1乃至4に記載の発明は、樹脂成形体に関するものであり、そのうち、請求項1に記載の発明は、パネル状の成形体本体表面に突出部が一体に突設され、
該突出部は、基端側突出部と、該基端側突出部の頂面から起立して突出した先端側突出部とからなり、上記基端側突出部及び先端側突出部は共に、表面層を構成する樹脂密度の高いスキン層と、該スキン層で覆われかつ多数の空隙を有し上記スキン層に比べて樹脂密度の低い膨張層とで構成されているとともに、基端側突出部及び先端側突出部の各々の膨張層は互いに連続して一体となっており、上記先端側突出部の膨張層の膨張率は基端側突出部の膨張層の膨張率よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、基端側突出部の膨張層の膨張率は1.8倍以上3.0倍以下に設定され、先端側突出部の膨張層の膨張率は3.3倍以上6.0倍以下に設定されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、突出部は成形体本体表面の少なくとも片面に突設されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、基端側突出部は成形体本体表面から略台形状に突出していることを特徴とする。
【0012】
請求項5乃至7に記載の発明は、樹脂成形体の製造方法に関するものであり、そのうち、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、固定型と可動型とを備え、該固定型及び可動型の少なくとも一方に基端側突出部を成形する第1スライド型及び先端側突出部を成形する第2スライド型が設けられた成形型を用意し、上記成形型を型閉じした状態でキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記第2スライド型の後退量が第1スライド型の後退量よりも多くなるように第1スライド型及び第2スライド型を略同時にキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させて熱可塑性樹脂を膨張させることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、固定型と可動型とを備え、該固定型及び可動型の少なくとも一方に基端側突出部を成形する第1スライド型及び先端側突出部を成形する第2スライド型が設けられた成形型を用意し、上記成形型を型閉じした状態でキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記第1スライド型及び第2スライド型を略同時にキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させた後、第2スライド型をさらにキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させて熱可塑性樹脂を膨張させることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、固定型と可動型とを備え、該固定型及び可動型の少なくとも一方に基端側突出部を成形する第1スライド型及び先端側突出部を成形する第2スライド型が設けられた成形型を用意し、上記成形型を型閉じした状態でキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記第1スライド型及び第2スライド型のいずれか一方のスライド型をキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させた後、他方のスライド型をキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させ、上記第2スライド型の後退移動量を上記第1スライド型よりも多くして熱可塑性樹脂を膨張させることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、自動車のドアに関するものであり、ドアアウタパネルとドアインナパネルとからなるドア本体の上記ドアインナパネルにキャリアプレートが取り付けられ、ドアトリムが上記キャリアプレートを車室側から被うように上記ドアインナパネルに取り付けられた自動車のドアであって、上記キャリアプレートは請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体で成形されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1乃至4に係る発明によれば、成形体本体表面に突設された突出部の表面に樹脂密度の高いスキン層が形成されるとともに、多数の空隙を有し上記スキン層に比べて樹脂密度の低い膨張層が上記スキン層で覆われ、樹脂成形体の軽量化を図ることができる。また、上記突出部を構成する基端側突出部が先端側突出部よりも膨張率が小さくて剛性が適度に高くなっているため、衝撃エネルギーを先端側突出部で吸収する際に該先端側突出部を上記基端側突出部で支え、先端側突出部が潰れた後に基端側突出部が潰れ、よって、突出部に大きな衝突荷重が作用しても一気に潰れず、その衝撃エネルギーを効率良く吸収することができる。特に、請求項2では、スキン層及び膨張層の厚み、弾性等の性状が適正に設定されて衝撃エネルギーの吸収効果を確実に得ることができる。請求項3では、成形体本体の両表面に突出部を突設すれば、突出部が片面の場合に比べて衝撃エネルギーの吸収効果を倍増することができる。請求項4では、突出部が略台形状に突出しているため、自動車のドアにおけるキャリアプレートに適用した場合、ドアアウタパネルやドアトリム等と上記突出部頂面との距離が短くなり、上記ドアアウタパネルやドアトリム等に取り付けられるパッドの厚みを小さくすることができる。
【0017】
請求項5乃至7に係る発明によれば、第1スライド型及び第2スライド型をキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させるだけで、衝撃エネルギーを効率良く吸収し得る軽量な樹脂成形体を簡単に製造することができる。
【0018】
請求項8に係る発明によれば、衝撃エネルギーを効率良く吸収し得る軽量なキャリアプレートを備えた自動車のドアとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図2は自動車のサイドドア1の断面図である。該サイドドア1はドアアウタパネル3とドアインナパネル5とからなるドア本体7を備え、該ドア本体7の上記ドアインナパネル5にこの発明の実施の形態1に係る樹脂成形体としての樹脂製キャリアプレート(ドアモジュール)9がシール材11を介して取り付けられ、ドアトリム13が上記キャリアプレート9を車室側から被うように上記ドアインナパネル5に取り付けられている。上記キャリアプレート9は繊維入り熱可塑性樹脂で成形されている。図2中、15はドアアウタパネル3裏面側における乗員の腰部に対応する位置に設けられた発泡ウレタン等の緩衝材からなるパッドである。
【0021】
上記キャリアプレート9は、その主体をなすパネル状の成形体本体としてのプレート本体17を備え、該プレート本体17の上記パッド15に対向する領域A1におけるドアアウタパネル3側及びドアトリム13側の両表面には、図3にも示すように、突出部としての円形状の荷重受け部19が複数個一体に突設されている。この発明の特徴として、図1に示すように、上記荷重受け部19は、基端側突出部20と、該基端側突出部20の頂面20aから起立して突出した先端側突出部22とからなる。また、上記基端側突出部20及び先端側突出部22は共に、表面層を構成する樹脂密度の高いスキン層21と、該スキン層21で覆われかつ多数の空隙を有し上記スキン層21に比べて樹脂密度の低い膨張層23a,23bとで構成されているとともに、基端側突出部20及び先端側突出部22の各々の膨張層23a,23bは互いに連続して一体となっている。さらに、上記先端側突出部22の膨張層23bの膨張率は、基端側突出部20の膨張層23aの膨張率よりも大きく設定され、この膨張率の違いにより、基端側突出部20の頂面20aのスキン層21の厚みt2及び基端側突出部20の側面のスキン層21の厚みは、上記先端側突出部22の頂面22aのスキン層21の厚みt1及び先端側突出部22の側面のスキン層21の厚みよりも大きく設定されている。
【0022】
上記基端側突出部20の膨張層23aの膨張率は1.8倍以上3.0倍以下に設定されている。膨張率を1.8倍以上に設定したのは、これ未満だと基端側突出部20のスキン層21が厚くなり過ぎて膨張層23aが少なくなり、衝撃エネルギーの吸収効果が低下するからである。一方、膨張率を3.0倍以下に設定したのは、これを超えると基端側突出部20のスキン層21が薄くなり過ぎて基端側突出部20の剛性が低下し衝撃荷重に十分抗し得なくなるからである。また、上記先端側突出部22の膨張層23bの膨張率は3.3倍以上6.0倍以下に設定されている。膨張率を3.3倍以上に設定したのは、これ未満だと先端側突出部22のスキン層21が厚くなり過ぎて膨張層23aが少なくなり、衝撃エネルギーの吸収効果が低下するからである。一方、膨張率を6.0倍以下に設定したのは、これを超えると先端側突出部22のスキン層21が薄くなり過ぎるとともに、膨張層23b内部にヒビ割れのような巣が発生して先端側突出部22における衝撃エネルギーの吸収効果が低下するからである。これにより、側突時における衝撃エネルギーの吸収効果を確実に得ることができる。
【0023】
上記荷重受け部19形成箇所の領域A1を除く領域A2及び上記領域A1における荷重受け部19を除くプレート本体17は、樹脂密度の高いソリッド層Sで形成されている。なお、図1中、Fは繊維を示す。
【0024】
このように、表面に樹脂密度の高いスキン層21を形成するとともに、該スキン層21の内側に多数の空隙を有し上記スキン層21に比べて樹脂密度の低い膨張層23a,23bが形成された荷重受け部19をプレート本体17の車外側及び車内側の両表面に膨出するように突設することで、キャリアプレート1の軽量化を図ることができるとともに、荷重受け部19が片面の場合に比べて衝撃エネルギーの吸収効果を倍増することができる。また、上記荷重受け部19を構成する基端側突出部20が先端側突出部22よりも膨張率が小さく、しかも基端側突出部20の頂面20aのスキン層21の厚みt2及び基端側突出部20の側面のスキン層21の厚みが、先端側突出部22の頂面22aのスキン層21の厚みt1及び先端側突出部22の側面のスキン層21の厚みよりも大きくなっていることで基端側突出部20の剛性を適度に高めているため、衝撃エネルギーを先端側突出部22で吸収する際に該先端側突出部22を上記基端側突出部20で支え、先端側突出部22が潰れた後に基端側突出部20が潰れ、これにより、荷重受け部19に大きな衝突荷重が作用しても一気に潰れないようにして、その衝撃エネルギーを効率良く吸収することができる。
【0025】
このような荷重受け部19を備えたキャリアプレート9の製造方法を以下に3例挙げる。
【0026】
製造に際し、図4〜6に示すように、固定型25と、該固定型25に対して進退可能に対向配置された可動型27を備えた成形型33を用意する。上記可動型27には円筒形の第1スライド型29が進退可能に挿入配置され、該第1スライド型29には円柱形の第2スライド型31が移動可能に挿入配置されている。上記第1スライド型29は荷重受け部19の基端側突出部20の頂面20aを成形する型であり、第2スライド型31は先端側突出部22の頂面22a及び側面を成形する型である。また、固定型25にも同様に、基端側突出部20成形用の第1スライド型29と、先端側突出部22成形用の第2スライド型31が設けられているが、図面では便宜上省略している。以下に説明する製造工程でも図面に現れている型構造に基づいて説明するが、荷重受け部19はプレート本体17の両表面に形成されるものである。
【0027】
<第1製造方法>
まず、図4(a)に示すように、第1スライド型29及び第2スライド型31を共に進出させた状態で成形型33を型閉じする。次いで、キャビティ35内に射出機(図示せず)からガラス繊維等の繊維入り熱可塑性樹脂R(例えば繊維入りポリプロピレン樹脂)を射出充填する。その後、成形型33のキャビティ35内で繊維入り熱可塑性樹脂Rが固化する過程で、すなわち、キャビティ35における成形型33の成形面近傍の上記繊維入り熱可塑性樹脂Rにスキン層21が生成された時点で、図4(b)に示すように、上記第2スライド型31の後退量が第1スライド型29の後退量よりも多くなるように第1スライド型29及び第2スライド型31を略同時にキャビティ容積が拡大する方向B1,B2に後退移動させて繊維入り熱可塑性樹脂Rを膨張させる。つまり第2スライド型31を第1スライド型29よりも例えば約2倍程多く後退移動させる。繊維入り熱可塑性樹脂Rは、成形型33の成形面と接触する部分が型温の影響により早期に冷却されて樹脂密度の高いスキン層21となって荷重受け部19の表面層を構成する。一方、繊維入り熱可塑性樹脂Rの内側部分は型温の影響を受け難く、粘度の高いゲル状態になっている。したがって、キャビティ容積の拡大により、それまで固定型25、第1スライド型29及び第2スライド型31で圧縮されている繊維Fが該圧縮から解放されて弾性的に復元し、この弾性復元力(スプリングバック現象)すなわち膨張圧で上記繊維入り熱可塑性樹脂Rが膨張する。このことにより、荷重受け部19の表面には、樹脂密度の高いスキン層21が形成されるとともに、該スキン層21の内側に多数の空隙を有し上記スキン層21に比べて樹脂密度の低い膨張層23が形成されたキャリアプレート1が得られる。また、上記荷重受け部19は、第1スライド型29により基端側突出部20が成形されるとともに、第2スライド型31により先端側突出部22が成形され、上記基端側突出部20及び先端側突出部22の各々の膨張層23a,23bが互いに連続して一体となっており、先端側突出部22の膨張層23bの膨張率が基端側突出部20の膨張層23aの膨張率よりも大きく設定されている。これにより、基端側突出部20の頂面20aのスキン層21の厚みt2及びその側面のスキン層21の厚みが、先端側突出部22の頂面22aのスキン層21の厚みt1及びその側面のスキン層21の厚みよりも大きくなっている。
【0028】
なお、荷重受け部19形成箇所の上記領域A1を除く上記領域A2は、可動型27が上記第1スライド型29及び第2スライド型31の後退時に図4(b)矢印B1,B2方向に後退せず、キャビティ容積が拡大しないので、樹脂密度の高いソリッド層Sになっている。これにより、プレート本体17が膨張層を有しないソリッド層Sのみからなりかつ本実施形態のプレート本体17と同一肉厚である場合に比べて、キャリアプレート9の軽量化を図ることができる。
【0029】
<第2製造方法>
まず、図5(a)に示すように、第1スライド型29及び第2スライド型31を共に進出させた状態で成形型33を型閉じする。次いで、キャビティ35内に射出機(図示せず)からガラス繊維等の繊維入り熱可塑性樹脂R(例えば繊維入りポリプロピレン樹脂)を射出充填する。その後、成形型33のキャビティ35内で繊維入り熱可塑性樹脂Rが固化する過程で、すなわち、キャビティ35における成形型33の成形面近傍の上記繊維入り熱可塑性樹脂Rにスキン層21が生成された時点で、図5(b)に示すように、上記第1スライド型29及び第2スライド型31を略同時にキャビティ容積が拡大する方向B1,B2に後退移動させる。これにより、基端側突出部20が膨出成形される。その後、図5(c)に示すように、上記第2スライド型31をさらにキャビティ容積が拡大する方向B2に後退移動させて繊維入り熱可塑性樹脂Rを膨張させる。つまり第2スライド型31を第1スライド型29よりも例えば約2倍程多く後退移動させる。これにより、先端側突出部22が膨出成形される。なお、スキン層21及び膨張層23a,23bの形成メカニズムは第1製造方法で述べたので説明を省略する。
【0030】
<第3製造方法>
まず、図6(a)に示すように、第1スライド型29及び第2スライド型31を共に進出させた状態で成形型33を型閉じする。次いで、キャビティ35内に射出機(図示せず)からガラス繊維等の繊維入り熱可塑性樹脂R(例えば繊維入りポリプロピレン樹脂)を射出充填する。その後、成形型33のキャビティ35内で繊維入り熱可塑性樹脂Rが固化する過程で、すなわち、キャビティ35における成形型33の成形面近傍の上記繊維入り熱可塑性樹脂Rにスキン層21が生成された時点で、図6(b)に示すように、上記第1スライド型29をキャビティ容積が拡大する方向B1に後退移動させる。これにより、基端側突出部20の外周部分が膨出成形される。その後、図6(c)に示すように、上記第2スライド型31を上記第1スライド型29の後退移動量よりも約2倍程度多くキャビティ容積が拡大する方向B2に後退移動させて繊維入り熱可塑性樹脂Rを膨張させる。これにより、先端側突出部22が膨出成形される。なお、スキン層21及び膨張層23a,23bの形成メカニズムは第1製造方法で述べたので説明を省略する。
【0031】
このように、第1〜3製造方法では、可動型27に第1スライド型29及び第2スライド型31を設け、該第1スライド型29及び第2スライド型31をキャビティ容積が拡大する方向B1,B2に後退移動させるだけで、衝撃エネルギーを効率良く吸収し得る軽量なキャリアプレート9を簡単に製造することができる。
【0032】
なお、第1製造方法では、基端側突出部20及び先端側突出部22を同時に成形しているため、第2製造方法のように基端側突出部20を成形した後に、つまり基端側突出部20が固まりかけている状態で、第2スライド型31を後退移動させて先端側突出部22を成形する場合に比べてスキン層21及び膨張層23a,23bにヒビ割れ現象が発生するおそれがない。また、第3製造方法では、基端側突出部20の外周部分を成形した後に第2スライド型31を後退移動させて先端側突出部22を成形するので、第2スライド型31を後退移動させる際には上記基端側突出部20の外周部分が固まりかけているので、第1製造方法のように基端側突出部20及び先端側突出部22を同時に成形する場合に比べて基端側突出部20のスキン層21が厚肉となり、基端側突出部20の剛性が大きい。なお、第3製造方法とは逆に、まず、第2スライド型31を後退移動させ、その後、第1スライド型29を後退移動させることも可能である(第4製造方法)。
【0033】
(実施の形態2)
図7は実施の形態2に係るキャリアプレート9の製造方法の製造工程を示し、(a)は成形型33のキャビティ35内に繊維入り熱可塑性樹脂Rを射出充填した状態の製造工程図、(b)は第1スライド型29及び第2スライド型31を後退移動させてキャリアプレート9が成形された状態の製造工程図である。
【0034】
この実施の形態2では、荷重受け部19の基端側突出部20は、プレート本体17表面から傾斜部20bが略台形状に突出している。したがって、成形型33の固定型25には上記先端側突出部22の背面形状に対応してボス部25aが突設され、第1スライド型29のキャビティ35対向面には、上記ボス部25a外面形状に対応して傾斜面29aが形成されている。また、この実施の形態2では、先端側突出部22の膨張層23bの膨張率が基端側突出部20の膨張層23aの膨張率よりも大きく設定され、先端側突出部22の頂面22aのスキン層21の厚みt1と基端側突出部20の傾斜部20bのスキン層21の厚みt3とは略同じである。
【0035】
なお、第1スライド型29及び第2スライド型31の後退移動のタイミングは、実施の形態1において説明した第1〜4製造方法のいずれかを採用すればよい。また、荷重受け部19の内部構造は実施の形態1と同様であるので、同一箇所に同一の符号を付して詳細な説明を省略するとともに、サイドドア1の構造や荷重受け部19成形箇所も実施の形態1と同様であるので、図2及び図3を代用してその説明を省略する。
【0036】
したがって、この実施の形態2では、実施の形態1と同様に、荷重受け部19の剛性を適度に高めて軽量でありながら衝撃エネルギーを効率良く吸収し得るキャリアプレート9を備えた自動車のサイドドア1とすることができる。加えて、荷重受け部19が略台形に突出してプレート本体17の両表面に突設しているので、ドアアウタパネル3やドアトリム13と上記荷重受け部19の頂面22aとの距離が短くなり、上記ドアアウタパネル3側のパッド15厚みを小さくすることができる。また、衝撃エネルギーの吸収効果に優れかつ軽量なキャリアプレート9を簡単に製造することができる。
【0037】
(実施の形態3)
図8は実施の形態3に係るキャリアプレート9の製造方法において第1スライド型37及び第2スライド型39を後退移動させてキャリアプレート9が成形された状態の製造工程図である。
【0038】
この実施の形態3では、荷重受け部19が平面視で矩形に形成されており、先端側突出部22が基端側突出部20に対して中心から一方に偏った対置に設けられている。したがって、実施の形態3で用いる成形型33の第1スライド型37は、実施形態1,2の円筒形ではなく、矩形ブロック状である。また、第2スライド型39も、実施形態1,2の円柱形ではなく、矩形ブロック状である。
【0039】
なお、第1スライド型37及び第2スライド型39の後退移動のタイミングは、実施の形態1において説明した第1〜4製造方法のいずれかを採用すればよい。また、荷重受け部19の内部構造は実施の形態1と同様であるので、同一箇所に同一の符号を付して詳細な説明を省略するとともに、サイドドア1の構造や荷重受け部19成形箇所も実施の形態1と同様であるので、図2及び図3を代用してその説明を省略する。
【0040】
したがって、この実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、荷重受け部19の剛性を適度に高めて軽量でありながら衝撃エネルギーを効率良く吸収し得るキャリアプレート9を備えた自動車のサイドドア1とすることができる。また、衝撃エネルギーの吸収効果に優れかつ軽量なキャリアプレート9を簡単に製造することができる。
【0041】
(実施の形態4)
図9は実施の形態4に係るキャリアプレート9の製造方法において第1スライド型29、第2スライド型31及び可動型27を後退移動させてキャリアプレート9が成形された状態の製造工程図である。
【0042】
この実施の形態4では、樹脂密度の高いソリッド層Sからなる断面略台形状の円筒部40がプレート本体17に一体に突設され、該円筒部40の先端に実施の形態1と同様の荷重受け部19が一体に形成されている。また、円筒部40及び該円筒部40の基部近傍を除くプレート本体17全体(領域A1及びA2)にスキン層21と膨張層23cとを形成している。したがって、実施の形態4で用いる成形型33の固定型25には、上記円筒部40の背面形状に対応してボス部25aが突設されている。また、可動型27と第1スライド型29との間には、上記ボス部25aに対応するように固定コア41が配置され、該固定コア41のキャビティ35対向面には、上記ボス部25a外面形状に対応して傾斜面41aが形成されている。
【0043】
なお、第1スライド型29及び第2スライド型31の後退移動のタイミングは、実施の形態1において説明した第1〜4製造方法のいずれかを採用すればよい。また、この実施の形態4では、第1スライド型29及び第2スライド型31の後退移動と略同時又は相前後して可動型27をキャビティ容積が拡大する方向B3に後退移動させ、上記荷重受け部19及び円筒部40を除くプレート本体17全体にスキン層21と膨張層23cとを形成する。また、荷重受け部19の内部構造は実施の形態1と同様であるので、同一箇所に同一の符号を付して詳細な説明を省略するとともに、サイドドア1の構造や荷重受け部19成形箇所も実施の形態1と同様であるので、図2及び図3を代用してその説明を省略する。
【0044】
したがって、この実施の形態4においても、実施の形態1と同様に、荷重受け部19の剛性を適度に高めて軽量でありながら衝撃エネルギーを効率良く吸収し得るキャリアプレート9を備えた自動車のサイドドア1とすることができる。加えて、荷重受け部19が円筒部40の先端に形成されて実施の形態2よりもプレート本体17からの突出量が大きくなっているので、ドアアウタパネル3やドアトリム13と上記荷重受け部19の頂面22aとの距離がさらに短くなり、上記ドアアウタパネル3側のパッド15厚みをさらに小さくすることができる。また、衝撃エネルギーの吸収効果に優れかつ軽量なキャリアプレート9を簡単に製造することができる。
【0045】
この実施の形態4では、円筒部40及び該円筒部40の基部近傍を除くプレート本体17全体(領域A1及びA2)にスキン層21と膨張層23cとを形成したが、上記円筒部40の頂面の荷重受け部19にのみスキン層21と膨張層23a,23bとを形成してもよい。
【0046】
なお、上記の各実施の形態では、荷重受け部19が円形状や矩形状の突出部である場合を示したが、その形状は問わない。また、各実施の形態では、荷重受け部19をプレート本体17表面のドアアウタパネル3側の片面に突設したが、ドアインナパネル5側に突設してもよく、さらにはドアアウタパネル3側及びドアインナパネル5側の両表面に突設してもよい。
【0047】
さらに、実施の形態1〜3において、実施の形態4と同様に、荷重受け部19を除くプレート本体17全体(領域A1及びA2)にスキン層21と膨張層23cとを形成するようにしてもよく、また、上記荷重受け部19を除くプレート本体17の領域A1又は領域A2にスキン層21と膨張層23cとを形成するようにしてもよい。
【0048】
また、上記の各実施の形態では、繊維Fのスプリングバック現象を利用してプレート本体17の内部に空隙を形成したが、繊維入り熱可塑性樹脂Rに発泡材を含有させれば、スライド型29,31,37,39及び可動型27の後退移動を大きくしてプレート本体17のスライド型又は可動型の後退方向の肉厚を厚くした場合、スプリングバック現象における繊維Fの復元力(膨張圧)が不足しても、発泡材の発泡力(膨張圧)が繊維Fの復元力を補完して空隙を確実に形成することができて好ましい。また、繊維Fを混入せずに発泡材だけを混入した熱可塑性樹脂を用いて膨張層を形成することも用途目的によっては可能である。これらの場合、発泡材としては、化学反応によりガスを発生させる化学的発泡材や、二酸化炭素ガス及び窒素ガス等の不活性ガスを用いる物理的発泡材等がある
さらに、上記の各実施の形態では、樹脂成形体が自動車のサイドドアのキャリアプレート9である場合を示したが、インストルメントパネル、ドアトリム、ニーパッド等の自動車用パネルにも適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
この発明は、パネル状の成形体本体表面に突設された突出部の表面にスキン層が形成されるとともに、多数の空隙を有する膨張層が内部に形成された樹脂成形体及びその製造方法並びに自動車のドアとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態1に係るキャリアプレートの荷重受け部の拡大断面図である。
【図2】実施の形態1に係るキャリアプレートが適用された自動車のドアの断面図である。
【図3】実施の形態1に係るキャリアプレートの荷重受け部形成箇所をドアアウタパネル側から見た図である。
【図4】実施の形態1に係るキャリアプレートの第1製造方法の製造工程を示し、(a)は成形型のキャビティ内に繊維入り熱可塑性樹脂を射出充填した状態の製造工程図、(b)は第2スライド型の後退量が第1スライド型の後退量よりも多くなるように第1スライド型及び第2スライド型を略同時に後退移動させてキャリアプレートが成形された状態の製造工程図である。
【図5】実施の形態1に係るキャリアプレートの第2製造方法の製造工程を示し、(a)は成形型のキャビティ内に繊維入り熱可塑性樹脂を射出充填した状態の製造工程図、(b)は第1スライド型及び第2スライド型を略同時にキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させた状態の製造工程図、(c)は第2スライド型をさらにキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させてキャリアプレートが成形された状態の製造工程図である。
【図6】実施の形態1に係るキャリアプレートの第3製造方法の製造工程を示し、(a)は成形型のキャビティ内に繊維入り熱可塑性樹脂を射出充填した状態の製造工程図、(b)は第1スライド型をキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させた状態の製造工程図、(c)は第2スライド型を第1スライド型の後退移動量よりも多く後退移動させてキャリアプレートが成形された状態の製造工程図である。
【図7】実施の形態2に係るキャリアプレートの製造方法の製造工程を示し、(a)は成形型のキャビティ内に繊維入り熱可塑性樹脂を射出充填した状態の製造工程図、(b)は第2スライド型の後退量が第1スライド型の後退量よりも多くなるように第1スライド型及び第2スライド型を後退移動させてキャリアプレートが成形された状態の製造工程図である。
【図8】実施の形態3に係るキャリアプレートの製造方法において、第2スライド型の後退量が第1スライド型の後退量よりも多くなるように第1スライド型及び第2スライド型を後退移動させてキャリアプレートが成形された状態の製造工程図である。
【図9】実施の形態4に係るキャリアプレートの製造方法において、第2スライド型の後退量が第1スライド型の後退量よりも多くなるように第1スライド型及び第2スライド型を後退移動させるとともに、可動型を後退移動させてキャリアプレートが成形された状態の製造工程図である。
【符号の説明】
【0051】
1 サイドドア
3 ドアアウタパネル
5 ドアインナパネル
7 ドア本体
9 キャリアプレート(樹脂成形体)
13 ドアトリム
17 プレート本体(成形体本体)
19 荷重受け部(突出部)
20 基端側突出部
20a 頂面
21 スキン層
22 先端側突出部
23a,23b 膨張層
25 固定型
27 可動型
29,37 第1スライド型
31,39 第2スライド型
33 成形型
35 キャビティ
R 繊維入り熱可塑性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル状の成形体本体表面に突出部が一体に突設され、
該突出部は、基端側突出部と、該基端側突出部の頂面から起立して突出した先端側突出部とからなり、
上記基端側突出部及び先端側突出部は共に、表面層を構成する樹脂密度の高いスキン層と、該スキン層で覆われかつ多数の空隙を有し上記スキン層に比べて樹脂密度の低い膨張層とで構成されているとともに、基端側突出部及び先端側突出部の各々の膨張層は互いに連続して一体となっており、
上記先端側突出部の膨張層の膨張率は基端側突出部の膨張層の膨張率よりも大きく設定されていることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂成形体において、
基端側突出部の膨張層の膨張率は1.8倍以上3.0倍以下に設定され、先端側突出部の膨張層の膨張率は3.3倍以上6.0倍以下に設定されていることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂成形体において、
突出部は成形体本体表面の少なくとも片面に突設されていることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂成形体において、
基端側突出部は成形体本体表面から略台形状に突出していることを特徴とする樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、
固定型と可動型とを備え、該固定型及び可動型の少なくとも一方に基端側突出部を成形する第1スライド型及び先端側突出部を成形する第2スライド型が設けられた成形型を用意し、
上記成形型を型閉じした状態でキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記第2スライド型の後退量が第1スライド型の後退量よりも多くなるように第1スライド型及び第2スライド型を略同時にキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させて熱可塑性樹脂を膨張させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、
固定型と可動型とを備え、該固定型及び可動型の少なくとも一方に基端側突出部を成形する第1スライド型及び先端側突出部を成形する第2スライド型が設けられた成形型を用意し、
上記成形型を型閉じした状態でキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記第1スライド型及び第2スライド型を略同時にキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させた後、第2スライド型をさらにキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させて熱可塑性樹脂を膨張させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法であって、
固定型と可動型とを備え、該固定型及び可動型の少なくとも一方に基端側突出部を成形する第1スライド型及び先端側突出部を成形する第2スライド型が設けられた成形型を用意し、
上記成形型を型閉じした状態でキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填し、該キャビティ内で上記熱可塑性樹脂が固化する過程で、上記第1スライド型及び第2スライド型のいずれか一方のスライド型をキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させた後、他方のスライド型をキャビティ容積が拡大する方向に後退移動させ、上記第2スライド型の後退移動量を上記第1スライド型よりも多くして熱可塑性樹脂を膨張させることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
ドアアウタパネルとドアインナパネルとからなるドア本体の上記ドアインナパネルにキャリアプレートが取り付けられ、ドアトリムが上記キャリアプレートを車室側から被うように上記ドアインナパネルに取り付けられた自動車のドアであって、
上記キャリアプレートは請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂成形体で成形されていることを特徴とする自動車のドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−38414(P2007−38414A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221736(P2005−221736)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(505142872)ダイキョーニシカワ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】