説明

樹脂成形品の成形方法

【課題】結晶化度の高い高分子樹脂成形品を、形状の自由度が高く且つ比較的簡素な工程で製造可能な成形方法を提供する。
【解決手段】成形型を構成する固定型12と可動型13とで囲まれたキャビティ15’に結晶性高分子樹脂の融液A’が充填され、該融液に、物理発泡剤と、発生ガスの積算量が経時的に増加する第2の発泡剤とが混入され、該融液の温度が融点以下、結晶化温度以上である状態で、前記可動型を前記固定型から離間する方向にコアバックさせて前記キャビティの容積を増大させ該キャビティ内の前記高分子樹脂を前記物理発泡剤と前記第2の発泡剤とにより発泡させながら成形すると共に、その成形時に、前記融液に臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長ひずみを生じさせて、該融液を配向融液の状態にし、その状態を維持して結晶化させることで、樹脂成形品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部品等の樹脂成形品、特に結晶性高分子樹脂を用いた成形品の成形方法に関し、樹脂成形品の成形技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品の材料として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、或いはポリ塩化ビニルなどの所謂汎用プラスチックは、安価であるとともに成形性に優れているなどの理由で、各種の分野で広く用いられているところであるが、自動車用部品や機械用部品等の工業製品用の材料としては、十分な機械的強度や耐久性等を得られないことがある。
【0003】
そのため、これらの特性が要求される工業製品用材料としては、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート、或いはポリアミドなどのなどの所謂エンジニアリングプラスチックが好適に用いられるが、エンジニアリングプラスチックは高価であるため、材料コストが高騰してしまう欠点がある。
【0004】
このような実情に対処するものとして、特許文献1には、結晶性高分子樹脂融液の成形時における結晶化度を大幅に向上させることにより、ポリプロピレン等の汎用プラスチック材を用いながら、エンジニアリングプラスチックに相当する機械的強度や耐熱性を実現する発明が開示されている。
【0005】
この発明は、結晶性高分子樹脂の融液を、融点以下、結晶化温度以上の状態、換言すれば過冷却状態で、臨界伸長ひずみ速度以上のひずみ速度で所定方向に伸長させることを特徴とするものである。このようにして伸長された融液は、高分子鎖が引き伸ばされて平行に揃えられた配向融液となると共に、結晶化の基点となる核が融液内に多数形成され、その後、短時間で且つ極めて高い割合で結晶化が起こるため、機械的強度や耐熱性に優れた成形品が得られることが期待される。
【0006】
ここで、前記臨界伸長ひずみ速度とは、過冷却状態の融液を伸長させて、その伸長方向のひずみ速度を上げたときに、結晶サイズが不連続的に小さくなるときの速度であり、この速度以上で伸長させることにより、従来の方法で結晶化させた場合に比べて、結晶化度が大幅に向上するのである。
【0007】
そして、前記特許文献1には、臨界速度以上の伸長ひずみ速度を実現するための方法として、上下の板の間にディスク状の高分子樹脂融液のサンプルを挟み、これを過冷却状態に保持して、一方の板を他方の板の方へ一定速度で移動させることにより押しつぶす方法、ダイの吐出口から急冷却しながら高分子樹脂融液を高速で吐出する方法、一対の引き抜きローラにより高分子樹脂融液を急冷却しながらダイから引き抜く方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2008/108251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記特許文献1に記載された上下の板で高分子樹脂融液のサンプルを挟む方法では、予めサンプルを作成する必要があると共に、周囲が不規則な形状となるため、周辺部を機械的に成形するなどの他の工程がさらに必要となる。
【0010】
また、ダイから高分子樹脂融液を吐出する方法も、一定断面形状の長尺物が得られるだけであり、さらに、一対のローラによって高分子樹脂融液を引き抜く方法も、フィルム状のものが得られるだけで、これを積層して製品を得ようとすると再度樹脂を溶融しなければならず、結晶化によって向上させた強度が低下することになる。
【0011】
これに対して、成形型を用いる通常の射出成形方法は、前記各方法に比べて製品形状の自由度は高いが、射出時にせん断ひずみが発生するだけで、成形型内に高速で射出しても臨界伸長ひずみ速度を得ることはできない。
【0012】
以上の問題に鑑みて、成形型を用いつつ、高分子樹脂融液に臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長ひずみを生じさせるように成形する方法として、成形型を構成する可動型と固定型とで囲まれるキャビティ内に発泡剤を含有する高分子樹脂融液を射出して充填した後、該融液が過冷却状態であるときに、可動型を固定型から離間する方向へ高速で移動(以下、「コアバック」ともいう。)させて、高分子樹脂を発泡させながら成形することで、該高分子樹脂融液をコアバック方向に高速で伸長させることが考えられる。また、この場合、発泡剤としては、材料コストが低く均一で小さなセル構造を形成できる物理発泡剤を使用することが望ましいと考えられる。
【0013】
しかしながら、この場合、射出中に、樹脂表面からガス(物理発泡剤)が抜け出ることにより該物理発泡剤の圧力、すなわち発泡圧力は大きく低下し、また、射出が終了してから可動型のコアバックが開始されるまでの間にも、高分子樹脂融液内における物理発泡剤の温度は樹脂の温度と共に低下するとともに、僅かながら発泡が進むことにより体積が増大するため、該物理発泡剤による発泡圧力は大きく低下することが考えられる。そのため、コアバックの際に十分な発泡速度を得ることができないことから、発泡に伴う高分子樹脂融液の伸長は可動型の高速移動に追従し難く、該融液に臨界伸長ひずみ速度以上の速度での伸長ひずみを生じさせることは困難であると考えられる。
【0014】
また、この場合、上記のように射出を開始してからコアバックを開始するまでに生じる発泡圧力の低下分を補うために、射出前に予め多くの物理発泡剤を高分子樹脂融液に混入して発泡圧力を高めておくことも考えられる。しかし、この場合、射出中に抜け出るガス量が増えることから効果的に発泡圧力を高められないと考えられるとともに、樹脂中に粗大な空隙が生じるなどの機能的および品質的な不具合が生じる懸念もある。
【0015】
そこで、本発明は、結晶性高分子樹脂を用い、その結晶化度を向上させる前記の方法を確実に実現しつつ、製品形状の自由度が高く、比較的容易な工程で得られる樹脂成形品の成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明に係る樹脂成形品の成形方法は、次のように構成したことを特徴とする。
【0017】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
成形型を構成する固定型と可動型とで囲まれたキャビティに、物理発泡剤を含有する結晶性高分子樹脂の融液を射出して充填させる射出工程と、
前記キャビティに前記融液が充填された状態で、該キャビティ内の前記高分子樹脂を発泡させながら成形するように、前記可動型を前記固定型から離間する方向にコアバックさせて前記キャビティの容積を増大させるコアバック工程と、
該コアバック工程の前に、前記融液中において発生ガスの積算量が経時的に増加する第2の発泡剤を前記融液に混入させる混入工程とを備え、
前記コアバック工程では、前記融液の温度が融点以下、結晶化温度以上である状態で、前記物理発泡剤と第2の発泡剤とにより前記高分子樹脂を発泡させながら、前記融液に臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長ひずみを生じさせて、該融液を配向融液の状態にし、その状態を維持して結晶化させるようにコアバックすることを特徴とする。
【0018】
なお、請求項1に記載の発明における前記第2の発泡剤は、固体または液体の状態で前記高分子樹脂融液に混入され、この混入後に化学反応または気化等によりガスを発生させる発泡剤である。
【0019】
また、請求項1に記載の発明において、前記混入工程は、前記コアバック工程の前であれば、前記射出工程の前後、又は該射出工程と同時のいずれのタイミングで行ってもよい。すなわち、前記混入工程において、前記高分子樹脂融液への第2の発泡剤の混入は、前記物理発泡剤の混入と同時並行で行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。
【0020】
次に、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記物理発泡剤は二酸化炭素または窒素であることを特徴とする。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、前記第2の発泡剤は化学発泡剤であることを特徴とする。
【0022】
またさらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、前記第2の発泡剤は熱膨張性マイクロカプセルであることを特徴とする。
【0023】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記結晶性高分子樹脂は汎用プラスチックであることを特徴とする。
【0024】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の発明において、前記汎用プラスチックはポリプロピレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、先ず、成形型を構成する固定型と可動型とで囲まれたキャビティに、物理発泡剤を含有する結晶性高分子樹脂の融液を射出して充填させ、その後、該融液を過冷却状態(融点以下、結晶化温度以上の状態)とした上で、前記可動型を前記固定型から離間する方向へコアバックさせてキャビティの容積を増大させることで、該キャビティ内の高分子樹脂融液を発泡させながらコアバック方向に伸長させて成形する。このとき、高分子樹脂融液が臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長するように可動型を高速でコアバックさせ、この可動型の高速移動に高分子樹脂融液の伸長を追従させることができれば、該融液は、高分子鎖が引き伸ばされて平行に揃えられた配向融液となると共に、結晶化の基点となる核が融液内に多数形成され、その後、短時間で且つ極めて高い割合で結晶化が起こり、高結晶化度の樹脂成形品を得ることができる。
【0026】
そこで、本発明では、上述の理由により射出が開始されてからコアバックが開始されるまでに発泡圧力が低下しやすい物理発泡剤に加えて、高分子樹脂融液中において発生ガスの積算量が経時的に増加する第2の発泡剤も併用することで、コアバックの際、高い発泡圧力、ひいては高い発泡速度を得ることができるため、該発泡に伴う高分子樹脂融液の伸長を可動型の高速移動に追従させやすくすることができる。よって、前記コアバック工程において、該融液を配向融液の状態にしやすくすることができ、極めて高い割合での結晶化を実現することができる。
【0027】
このように、本発明では、物理発泡剤を使用することで材料コストの低減とセル構造の品質確保とを図りつつ、第2の発泡剤を併用することで高分子樹脂の結晶化を促進することができるため、良質なセル構造を有し且つ結晶化度が高い高分子樹脂発泡体の成形品を低コストで製造することができる。
【0028】
また、本発明では、高分子樹脂の発泡を利用しつつ、該樹脂融液を臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長させるため、軽量性、断熱性および衝撃吸収性等に優れた樹脂発泡体の特性と、機械的強度および耐熱性等に優れた高分子結晶体の特性とを兼ね備えた成形品を得ることができる。
【0029】
さらに、本発明の成形方法には成形型が用いられるため、前記特許文献1に記載の方法に比べて、高い形状の自由度で成形品を得ることができる。
【0030】
またさらに、本発明では、樹脂の発泡、成形および結晶化を1つの工程で達成することができるため、製造作業の簡素化を図ることができる。
【0031】
また、請求項2に記載の発明によれば、物理発泡剤として二酸化炭素または窒素を使用することで、請求項1に記載の発明を効果的に実現することができる。
【0032】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、前記第2の発泡剤として化学発泡剤を使用することで、請求項1または2に記載の発明を効果的に実現することができる。
【0033】
一方、請求項4に記載の発明によれば、前記第2の発泡剤として熱膨張性マイクロカプセルを使用することで、請求項1または2に記載の発明を効果的に実現することができる。
【0034】
請求項5に記載の発明によれば、前記結晶性高分子樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の汎用プラスチックが用いられるため、成形品を安価に製造することができる。
【0035】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、前記汎用プラスチックとして広く用いられているポリプロピレンが採用されるため、価格面及び入手面でさらに有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の方法で成形される成形品の例として示す自動車のドアモジュールキャリヤの正面図である。
【図2】同じくインストルメントパネルコア部材の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る成形方法で使用する成形装置の構成図である。
【図4】図3に示す装置の混入工程中の状態を示す図である。
【図5】同じく射出工程が完了した状態を示す図である。
【図6】同じくコアバック工程中の状態を示す図である。
【図7】樹脂融液内におけるガスの圧力の経時的変化を示すグラフである。
【図8】第2の発泡剤による発生ガス積算量の経時的変化を示すグラフである。
【図9】熱膨張性マイクロカプセルの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0038】
まず、本発明の方法及び装置で形成される樹脂成形品の例を説明すると、図1に示す成形品1は、自動車のドアに内装されるドアモジュールキャリヤであり、該キャリヤ1をドア本体に取り付けるための取付部やパワーウインド用モータ等の各種機器や部材の取付部等が設けられるため、高い機械的強度が要求される。また、ドアモジュールキャリヤ1は、車体全体の軽量化に貢献するために軽量であることが好ましく、車室内の快適性を向上させるために断熱性を有することが好ましく、さらに、乗員の安全性を高めるために衝撃吸収性を有することが好ましい。
【0039】
また、図2に示す成形品2は、自動車のインストルメントパネルコア部材であり、メータ類やエアバッグ等の各種機器や部材が取り付けられるため、高い機械的強度が要求される。さらに、インストルメントパネルコア部材2も、ドアモジュールキャリヤ1と同様の理由により、軽量性、断熱性および衝撃吸収性を有することが好ましい。
【0040】
図3は、本発明の一実施形態に係る成形装置10を示す。この成形装置10は、固定型12と可動型13を有する成形型11と、該成形型11の型締め及び型開きを行う成形型開閉装置14と、固定型12と可動型13とで囲まれたキャビティ15に樹脂の融液を射出する射出装置16とを有する。
【0041】
成形型11の固定型12には、前記キャビティ15を構成する面すなわち成形面12aと外部への露出面12bとに通じる射出通路18が設けられており、該射出通路18を通して、射出装置16から射出された融液がキャビティ15に導かれるようになっている。
【0042】
成形型開閉装置14は、例えば高速油圧シリンダで構成され、例えば該シリンダの伸縮により、可動型13を固定型12に近接する方向へ移動させることで型締めを行い、可動型13を固定型12から離間する方向へ移動させることで型開きを行う。また、成形型開閉装置14は、可動型13を固定型12から離間する方向にコアバックさせることで、キャビティ15の容積を増大させながら該キャビティ15内の樹脂を発泡成形する。
【0043】
射出装置16は、シリンダ16aと、該シリンダ16aの一端部において該シリンダ16a内に樹脂材料を供給するホッパ16bと、供給された樹脂材料を加熱溶融し、該樹脂材料の融液をシリンダ16aの他端部に設けられた吐出口16cに向けて圧送するスクリュー16dとを有する。
【0044】
樹脂材料の種類は特に限定されないが、価格面および入手面において、好ましくは、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の汎用プラスチックが用いられ、それらの中でもポリプロピレンが特に好適に用いられる。
【0045】
シリンダ16aは、成形型11の固定型12に設けられた前記射出通路18の一端に吐出口16cが接続されるように、固定型12に取り付けられている。
【0046】
また、シリンダ16aには、該シリンダ16a内に物理発泡剤を供給する発泡剤供給ユニット20が接続されている。物理発泡剤としては、二酸化炭素または窒素が好適に用いられるが、本発明に用いられる物理発泡剤の種類はこれらに限定されるものでない。
【0047】
発泡剤供給ユニット20は、二酸化炭素または窒素等の不活性ガスを収容するボンベ22と、該ボンベ22から供給される不活性ガスを原料として公知の方法により物理発泡剤を生成する発泡剤生成装置24と、該生成装置24で生成された物理発泡剤をシリンダ16a内に供給する供給ノズル26とを備えている。この供給ノズル26からシリンダ16a内に供給された物理発泡剤は、シリンダ16a内の樹脂融液に溶解される。これにより、シリンダ16a内の樹脂融液は、物理発泡剤を含有した状態で前記成形型11のキャビティ15に射出される。
【0048】
このようにして射出されたキャビティ15内の樹脂は、材料コストが低く且つ均一で小さなセル構造を形成できる物理発泡剤により発泡されるため、良質の樹脂発泡体の成形品を低コストで製造できる。
【0049】
しかしながら、図7の一点鎖線で示すように、仮に物理発泡剤のみを用いて後述の方法で樹脂を発泡成形する場合、射出開始時T1から射出終了時T2までの間に樹脂表面からガスが抜け出ることにより、樹脂融液内におけるガスの圧力、すなわち発泡圧力Qは大きく低下し、射出終了時T2からコアバック開始時T3までの待機中にも、樹脂内のガスは樹脂の冷却に伴い温度が低下するとともに、僅かながら発泡が進むことにより体積が増大するため、発泡圧力Qは大きく低下する。そのため、この場合、コアバック実行時において、本発明の課題である結晶化度の向上を達成するために必要な発泡速度を得ることができない。
【0050】
そこで、本実施形態では、物理発泡剤に加えて、樹脂融液中において発生ガスの積算量が経時的に増加する第2の発泡剤が併用される。この第2の発泡剤は、固体または液体の状態で前記高分子樹脂融液に混入され、この混入後に化学反応または気化等によりガスを発生させる発泡剤である。本実施形態において、第2の発泡剤は、後述するようにキャビティ15への射出前に樹脂融液に混入され、積算発生量が経時的に増加するようにガスを発生させるため、図7の実線で示すように、射出前のシリンダ16a内において、樹脂融液内におけるガスの圧力、すなわち発泡圧力Pは経時的に増加する。よって、射出開始時T1において発泡圧力Pはある程度高い状態となっている。また、射出後のキャビティ15内においても、第2の発泡剤は継続的にガスを発生させるため、発泡圧力Pの低下は抑制される。そのため、物理発泡剤のみを用いる場合に比べて、コアバック実行時T3の発泡圧力Pを高めることができ、これにより、コアバック時の発泡速度を高めることができる。
【0051】
具体的に、第2の発泡剤としては、化学発泡剤または熱膨張性マイクロカプセルが好適に用いられる。
【0052】
第2の発泡剤として化学発泡剤を用いる場合、化学発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等の無機系発泡剤、又はアゾ化合物等の有機系発泡剤が用いられる。第2の発泡剤として化学発泡剤を用いる場合、例えば図8の一点鎖線に示すように、仮にコアバック実行時T3よりも遙かに早い時点で第2の発泡剤によるガスの発生が止まると、その後、コアバック開始までに発泡圧力が大きく低下してしまう。そのため、例えば図8の実線で示すように、第2の発泡剤が樹脂融液に混入されてからコアバックが実行されるまでの間に緩やか且つ継続的にガスを発生させることができるように、第2の発泡剤の種類および量等を調製することが望ましい。
【0053】
一方、熱膨張性マイクロカプセル30は、図9に示すように、球殻状のシェル32と、該シェル32に内包された膨張剤34とを有する発泡剤である。シェル32の材料としては、膨張剤34の膨張時に軟化する材料が用いられ、具体的には、例えば熱可塑性高分子材料が好適に用いられる。また、膨張剤34の材料としては、温度および圧力の変化に応じた気化または化学反応等により膨張可能な材料が用いられ、具体的には、例えば、気化することにより膨張する低沸点の炭化水素が好適に用いられる。
【0054】
次に、上記の成形装置10を用いた樹脂成形品の成形方法について説明する。
【0055】
図4に示すように、先ず、成形型開閉装置14により可動型13を固定型12に当接するように移動させて、成形型11を型締めする。このように成形型11を型締めした状態において、固定型12の成形面12aと可動型13の成形面13aとの間隔は、成形品の厚みよりも小さくなり、成形品の最終形状の容積よりも小さい容積のキャビティ15’が形成されている。
【0056】
また、これと並行して、混入工程として、射出装置16のホッパ16bに、固形の結晶性高分子樹脂材料Aと第2の発泡剤Bとを投入し、シリンダ16a内において、スクリュー16dを作動させて、樹脂材料Aを融点以上まで加熱して溶融させることで、第2の発泡剤Bが混入した融液A’を得るとともに、発泡剤供給ユニット20からシリンダ16a内に物理発泡剤を供給して、該物理発泡剤を前記融液A’に溶解させる。これにより、該融液A’には物理発泡剤と第2の発泡剤とが混入された状態となるため、これらの発泡剤を併用して後述の発泡成形を行うことができる。
【0057】
次に、射出工程として、図5に示すように、射出装置16により、前記融液A’をキャビティ15’内に射出して充填させる。
【0058】
次に、コアバック工程として、キャビティ15’内に充填された結晶性高分子樹脂の融液A’の温度が融点以下で、結晶化温度以上になるまで冷却された時点、即ち、該融液A’が過冷却状態となった時点で、図6に示すように、前記成形型開閉装置14を作動させて可動型13を固定型12から離間する方向へ高速でコアバックさせる。これにより、キャビティ15’の容積は増大し、キャビティ15’内の高分子樹脂は発泡しながら成形される。
【0059】
この発泡成形の際、射出工程が開始されてからコアバック工程が開始されるまでに発泡圧力が低下しやすい物理発泡剤だけでなく、融液A’中において発生ガスの積算量が経時的に増加する第2の発泡剤も併用されるため、高い発泡圧力、ひいては高い発泡速度を得ることができる。そのため、キャビティ15’の容積が可動型13の移動方向に急激に拡大されるとき、該キャビティ15’内の融液A’は、発泡しながら可動型13の高速移動に追従して該移動方向に伸長する。
【0060】
コアバック工程における可動型13の移動速度(コアバック速度)は、該移動方向における融液A’の伸長ひずみ速度が臨界伸長ひずみ速度以上となる速度に設定されている。したがって、コアバック工程において、融液A’は臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長する。
【0061】
よって、コアバック工程において、融液A’は、高分子鎖が引き伸ばされて平行に揃えられた配向融液となると共に、結晶化の基点となる核が融液A’内に多数形成され、その後、短時間で且つ極めて高い割合で結晶化が起こり、高結晶化度の樹脂発泡体が形成される。
【0062】
可動型13のコアバック終了後、成形型開閉装置14により型開きを行い、これにより、高結晶化度の樹脂発泡体からなる成形品を得ることができる。
【0063】
以上の実施形態によれば、物理発泡剤を使用することで材料コストの低減とセル構造の品質確保とを図りつつ、第2の発泡剤を併用することで高分子樹脂の結晶化を促進することができるため、良質なセル構造を有し且つ結晶化度が高い高分子樹脂発泡体の成形品を低コストで製造することができる。
【0064】
また、この実施形態によれば、高分子樹脂融液A’のひずみ伸長に発泡を利用しているため、発泡体でありながら結晶化度の高い成形品が得られる。そのため、軽量性、断熱性および衝撃吸収性等に優れた樹脂発泡体の特性と、機械的強度および耐熱性等に優れた高分子結晶体の特性とを兼ね備えた成形品を得ることができる。また、成形型11を用いて成型するため、高い形状の自由度で成形品を得ることができる。これらのことから、例えば、図1,2に示すドアモジュールキャリヤ1やインストルメントパネルコア部材2、或いは、バンパー、フェンダー又はレインフォースメントなどといった種々の自動車部品に適した成形品を得ることができる。
【0065】
さらに、この実施形態によれば、樹脂の発泡、成形および結晶化を1つの工程(前記コアバック工程)で達成することができるとともに、混入工程、射出工程およびコアバック工程のいずれも単一の成形装置10を用いて連続して実行できるため、製造の作業および設備を簡素化することができる。
【0066】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0067】
例えば、上述の実施形態では、融液A’への第2の発泡剤の混入(前記混入工程)を、射出工程の前に物理発泡剤の混入と同時並行で行う場合について説明したが、本発明において、前記混入工程は、前記コアバック工程の前であれば、前記射出工程の後または該射出工程と同時並行で行ったり、物理発泡剤の混入とは異なるタイミングで行ったりしてもよい。
【実施例】
【0068】
次に、上記実施形態に係る方法による成形を実施した実施例について説明する。
【0069】
この実施例では、株式会社日本製鋼所製、型締力220トンの成形型と射出装置とを備えた成形装置を用い、結晶性高分子樹脂材料として、日本ポリプロ株式会社製のポリプロピレン樹脂材料(商品名:ノバテック)を用いた。
【0070】
そして、射出装置における樹脂材料の溶融温度を180℃、型温度を150℃に設定し、まず、可動型を固定型に当接させた状態、すなわち型締めした状態にして、両型の間に厚み1mmのキャビティを形成した。
【0071】
次に、混入工程として、射出装置のシリンダ内で前記結晶性高分子樹脂材料の融液に、化学発泡剤として永和化成工業株式会社製の炭酸水素ナトリウム(商品名:セルボン)1部と物理発泡剤として窒素ガス2部とを混入した後、射出工程として、該融液をキャビティに3秒間射出して充填させ、その後、該融液の温度が160℃に低下するまで約30秒間待機した。この温度は、該樹脂の融点よりも低く、結晶化温度よりも高い温度であり、これにより、融液は過冷却状態となった。
【0072】
次に、コアバック工程として、成形型の可動型をキャビティの厚みが4mmになるまで150mm/秒でコアバックさせ、前記高分子樹脂を発泡成形した。
【0073】
その後、成形型を50℃になるまで冷却した後、型開きし、成形品を取り出した。
【0074】
これにより、結晶化が促進されたことによる高い機械的強度や耐熱性と、発泡成形されたことによる優れた軽量性、断熱性および衝撃吸収性とを兼ね備えるとともに、均一で且つ小さなセル構造を有する成形品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明により得られる成形品は、機械的強度や耐熱性等に優れた高分子結晶体の特性と、軽量性、断熱性および衝撃吸収性に優れた樹脂発泡体の特性とを兼ね備えるとともに、該成形品が成形型を用いて製造されることにより形状の自由度が確保されることから、それら種々の特性が要求される例えば自動車用部品等の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0076】
1,2 成形品
10 成形装置
11 成形型
12 固定型
13 可動型
14 成形型開閉装置
16 射出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型を構成する固定型と可動型とで囲まれたキャビティに、物理発泡剤を含有する結晶性高分子樹脂の融液を射出して充填させる射出工程と、
前記キャビティに前記融液が充填された状態で、該キャビティ内の前記高分子樹脂を発泡させながら成形するように、前記可動型を前記固定型から離間する方向にコアバックさせて前記キャビティの容積を増大させるコアバック工程と、
該コアバック工程の前に、前記融液中において発生ガスの積算量が経時的に増加する第2の発泡剤を前記融液に混入させる混入工程とを備え、
前記コアバック工程では、前記融液の温度が融点以下、結晶化温度以上である状態で、前記物理発泡剤と第2の発泡剤とにより前記高分子樹脂を発泡させながら、前記融液に臨界伸長ひずみ速度以上の速度で伸長ひずみを生じさせて、該融液を配向融液の状態にし、その状態を維持して結晶化させるようにコアバックすることを特徴とする樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記物理発泡剤は二酸化炭素または窒素であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項3】
前記第2の発泡剤は化学発泡剤であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項4】
前記第2の発泡剤は熱膨張性マイクロカプセルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項5】
前記結晶性高分子樹脂は汎用プラスチックであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂成形品の成形方法。
【請求項6】
前記汎用プラスチックはポリプロピレンであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−101507(P2012−101507A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253668(P2010−253668)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】