説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】溶着面に光反射膜が存在する場合にも、レーザビームにより溶着を行える樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形品の製造方法は、(a)溶着領域を有する吸光性樹脂部材21と、前記吸光性樹脂部材21の溶着領域に対応する溶着領域を有する透光性樹脂部材23とを準備する工程と、(b)前記吸光性樹脂部材に光反射膜を形成する工程と、(c)ビームスポット径が1.0mm以下となる第1の焦合状態で、レーザビームを前記吸光性樹脂部材の溶着領域に繰り返し照射し、該溶着領域上に形成された光反射膜を除去する工程と、(d)前記吸光性樹脂部材の溶着領域と前記透光性樹脂部材の溶着領域とを加圧接触状態とし、ビームスポット径が1.5mm以上3.5mm以下となる第2の焦合状態で、レーザビームを前記吸光性樹脂部材の溶着領域に繰り返し照射し、前記吸光性樹脂部材21と前記透光性樹脂部材23とを溶着する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用灯具は、アクリロニトリロスチレンアクリレート(ASA)等の吸光性樹脂からなるハウジングと、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート等の透光性樹脂からなるレンズを溶着した樹脂成形品を有することが多い。
【0003】
レンズとハウジングの間に熱板を挟み、熱板によってレンズとハウジングを加熱溶融し、熱板を外してレンズとハウジングを溶着する熱板溶着において、糸引き現象を抑制できるハウジング用樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ハウジングと組み合わせるレンズの表面が曲面である場合を含め、レンズ表面上にレンズ形状に対応可能な弾性導光体と平坦な透明基材を配置し、圧縮加重を加えて弾性導光体とレンズを密着させ、透明基材側からレーザビームを入射し、弾性導光体、レンズを介してレンズとハウジングの接触部を加熱溶融してハウジングとレンズを溶着する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
車両用灯具の場合、ハウジングの内面に光反射膜としてアルミニウム膜を蒸着することが多い。ハウジングの溶着部(シール面)に光反射膜があると、通常のレーザ溶着条件では、レーザビームが反射してしまい、溶着不良となってしまう。そのため、蒸着時にハウジングの溶着面にマスキングを行い、当該溶着面には光反射膜を形成しないようにすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−310676号
【特許文献2】特開2004−349123号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光反射膜の形成時にハウジングの溶着面にマスキングを行う場合には、そのための工程が1つ増えてしまい、製造コストを増加させることになる。また、マスク不良等により、アルミが溶着面に飛散することも考えられる。
【0008】
本発明の目的は、溶着面に光反射膜が存在する場合にも、レーザビームにより溶着を行える樹脂成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、樹脂成形品の製造方法は、(a)溶着領域を有する吸光性樹脂部材と、前記吸光性樹脂部材の溶着領域に対応する溶着領域を有する透光性樹脂部材とを準備する工程と、(b)前記吸光性樹脂部材に光反射膜を形成する工程と、(c)ビームスポット径が1.0mm以下となる第1の焦合状態で、レーザビームを前記吸光性樹脂部材の溶着領域に繰り返し照射し、該溶着領域上に形成された光反射膜を除去する工程と、(d)前記吸光性樹脂部材の溶着領域と前記透光性樹脂部材の溶着領域とを加圧接触状態とし、ビームスポット径が1.5mm以上3.5mm以下となる第2の焦合状態で、レーザビームを前記吸光性樹脂部材の溶着領域に繰り返し照射し、前記吸光性樹脂部材と前記透光性樹脂部材とを溶着する工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶着面に光反射膜が存在する場合にも、レーザビームにより溶着を行える樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ガルバノスキャナを用いたレーザビーム溶着装置の構成を概略的に示すダイアグラムである。
【図2】レーザビーム12sの焦点の位置関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例による光反射膜剥離工程及び溶着工程を説明するための加工対象物の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
透光性(透明)樹脂部材と吸光性(光吸収性、不透明)樹脂部材を加圧状態で対向、接触させ、透光性樹脂部材側からレーザビームを照射すると、レーザビームは透光性樹脂部材を透過して、吸光性樹脂部材に到達する。レーザビームが吸光性樹脂部材に吸収されると、吸光性樹脂部材を加熱し、軟化させ、さらには溶融する。透光性樹脂部材は、吸光性樹脂部材に加圧下で接しているので、吸光性樹脂部材の熱が透光性樹脂部材にも伝達される。従って、透光性樹脂部材も軟化し、接触領域が増加し、やがて透光性樹脂部材も溶融する。両部材が溶融状態になり溶着が行なわれる。
【0013】
上記の溶着工程において、吸光性(光吸収性、不透明)樹脂部材の溶着面に光反射膜としてアルミニウム膜(Al膜)が蒸着されていると、通常のレーザ溶着条件ではレーザビームが反射してしまい溶着をすることができない。
【0014】
そこで、本発明者らは、表面にアルミニウム膜(Al膜)等の光反射膜が蒸着された吸光性(光吸収性、不透明)樹脂部材と透光性(透明)樹脂部材とを溶着するにあたり、両部材の溶着工程の前に、Al膜を剥離する剥離工程を、溶着工程と同一の設備で行うことを検討した。
【0015】
図1は、ガルバノスキャナを用いたレーザビーム溶着装置の構成を概略的に示すダイアグラムである。レーザ発振器10から発射するレーザビーム12が光ファイバ11を介してスキャンヘッド31に導入される。スキャンヘッド31は、焦点調整用光学系13、第1のガルバノミラ14、第2のガルバノミラ15、制御装置16を含む構成である。
【0016】
レーザ発振器10に接続された光ファイバ11の先端から出射するレーザビーム12に対して、焦点調整用光学系13が配置される。焦点調整用光学系13は、可動レンズを含み、光路上の焦点位置を調整することができる。焦点調整用光学系13から出射するレーザビームに対し、第1のガルバノミラ14が配置され、例えば加工面内のx方向走査を行なう。第1のガルバノミラ14で反射されたレーザビームに対して第2のガルバノミラ15が配置され、例えば加工面内のy方向走査を行なう。
【0017】
制御装置16は、ガルバノミラ14,15、焦点調整用光学系13の制御を行なう。出射レーザビーム12sは、ガルバノミラ14,15によって、xy面内で2次元走査が行えると共に、焦点調整用光学系13の調整により、焦点距離を制御してz方向に焦点位置を移動することもできる。即ち、レーザビームの焦合位置は3次元走査できる。ガルバノミラは軽量であり、高速走査が可能である。
【0018】
レーザ発振器としては、例えばYAG2倍波ないし3倍波のレーザ発振器、半導体レーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。2次元走査のみであれば、焦点調整光学系の代わりに、fθレンズを備えたスキャンヘッドを用いることもできる。
【0019】
図2は、レーザビーム12sの焦点の位置関係を示す図である。
【0020】
収束するレーザビーム12sの焦点位置よりもスキャンヘッド31(インフォーカス)側にデフォーカスさせることにより、ビーム径をφ1.5〜3.5mmとすることで、溶着領域の広い面積で溶融を生じさせ、強固な接合を得ることができる。なお、デフォーカス点DFは、焦点位置からスキャンヘッド31の反対方向(アウトフォーカス)にしてもよい。
【0021】
本発明の実施例による樹脂成形品の製造方法では、まず、アクリロニトリロスチレンアクリレート(ASA)等の吸光性樹脂からなる所望の形状(例えば、容器形状)のハウジング21と、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート等の透光性樹脂からなる所望の形状のレンズ23とを用意し、ハウジング21の内側表面にアルミ蒸着膜を周知の蒸着方法等で形成する。その後、後述する光反射膜剥離工程及び溶着工程を同一の設備で行う。なお、本実施例では、アルミ(光反射膜)をハウジング21の内側表面に蒸着する際に、ハウジング21の溶着面へのマスキングは必要ない。
【0022】
図3(A)は、本発明の実施例による光反射膜剥離工程を説明するための加工対象物の概略断面図である。
【0023】
本発明の実施例では、光反射膜剥離工程と溶着工程とを同一設備で連続して行うので、溶着工程に先駆けて行われる光反射膜剥離工程の段階で、吸光性樹脂で形成された容器形状のハウジング21の上方に、透光性樹脂で形成され、ハウジング21の開口部を塞ぐ、レンズ23が上治具(透光性加圧板)25に固定されて対向配置されている。レンズ23の下面には、溶着用のリブ23aが形成されている場合を示す。なお、リブ23aは必須の構成要件ではない。なお、本実施例では、ハウジング21は、PET−PBTで作製し、レンズ23は、PMMAで作製する。
【0024】
吸光性樹脂で形成された容器形状のハウジング21の内面及び溶着面27a上には、例えば、Al蒸着膜等からなる光反射膜22が形成されている。また、ハウジング21は、上下方向に移動可能な下治具24に固定されている。
【0025】
ハウジング21とレンズ23とが合わさっている状態では、Al膜22を剥離させても剥離したAlを吸引することができないため、図中黒い矢印で示すように、下治具24を下降させてハウジング21とレンズ23を離して吸引を行うスペースを確保する。
【0026】
レーザビーム12sは上治具(透光性加圧板)25、レンズ23を透過し、下方に位置するハウジング21の溶着面27a上のAl膜22上面を照射する。スキャンヘッド31は溶着領域に沿ってレーザビーム12sを走査し、繰り返し照射する。ガルバノミラ14,15によって2次元xy面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系13によって、z方向焦点距離を制御し、Al膜剥離用焦合状態(第1の焦合状態)を保つ。
【0027】
この光反射膜剥離工程における第1の焦合状態では、剥離対象物付近に焦点位置を有する。すなわち、図3(A)に示すように、焦点位置の付近に剥離対象のAl膜22が位置する状態である。なお、本明細書において、「剥離対象物付近に焦点位置を有する」状態とは、レーザビーム12sのビームスポット径が剥離対象物の表面において1.0mm以下となる状態である。
【0028】
本実施例の光反射膜剥離工程では、例えば、レーザ出力300W、走査速度1000mm/sec、周回数100周以下で溶着面27a上の22を昇華させることにより剥離(除去)する。なお、剥離後のAl膜は、昇華するため、例えば、、吸引機で吸引して再付着を防ぐ。
【0029】
図3(B)は、本発明の実施例による溶着工程を説明するための加工対象物の概略断面図である。
【0030】
まず、図3(A)に示すハウジング21の上方にレンズ23が上治具(透光性加圧板)25に固定されて対向配置されている状態から、下治具24を黒い矢印で示すように上昇させて、レンズ23下面の溶着用のリブ23aを、Al膜22を剥離した溶着面27aに圧力Pで加圧接触させ、図3(B)に示す状態とする。レーザビーム12sは、上治具25、レンズ23を透過し、リブ23aに接するハウジング21の溶着面27aを照射する。ガルバノミラの駆動によりリブ(溶着領域)23aに沿って照射位置を走査する。ガルバノミラ14,15によって2次元xy面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系13によって、z方向焦点距離を制御し、溶着用焦合状態(第2の焦合状態)を保つ。
【0031】
この溶着工程における第2の焦合状態では、レーザビーム12sは、図2を参照して説明したデフォーカスの状態であり、加工対象物よりも遠くに焦点位置を有する。すなわち、図3(B)に示すように、照射位置(リブ23aと溶着面27aの接合領域)付近にデフォーカス点DFが来るようにする。すなわち、レーザビーム12sをスキャンヘッド31(インフォーカス)側にデフォーカスさせることにより、ビーム径をφ1.5〜3.5mmとして、溶着領域の広い面積で溶融を生じさせる。
【0032】
本実施例の溶着工程では、例えば、レーザ出力150W〜240W程度、走査速度1000mm/sec〜20000mm/s、周回数10周〜300周程度で照射位置を走査する。例えば、ハウジング21がASAでダークグレーの場合、レーザ出力を200Wとすることで、溶着領域の広い面積で溶融を生じさせることができる。なお、ハウジング21の色によりレーザビーム12sの吸収が変わるため、それに合わせてレーザ出力を調整する必要がある。
【0033】
なお、周回数は、走査速度と溶着面27a(溶着ライン)の周長に基づき設定される。周長/走査速度の割合はほぼ一定で、例えば、周長1200mm、走査速度10,000mm/sの場合は、周回数は200周程度が好ましい。また、例えば、周長1200mm、走査速度1,000mm/sの場合は、周回数は20周程度が好ましい。
【0034】
なお、レーザビーム12sの軌跡は各周回ごとに同じ軌跡をたどるようにしてもよいし、徐々に外側にずらしていくようにしてもよい。
【0035】
上述した図3(A)に示す光反射膜剥離工程において、下治具24を下降位置及びレーザビーム12sの焦点位置は、下治具24の下降位置において、レーザビーム12sが上述の第1の焦合状態となり、レンズ23の下面(リブ23a)とハウジング21の上面(溶着面27a)を接触するように下治具24を上昇させた位置(上昇位置)において、レーザビーム12sが上述の第2の焦合状態となるように設定する。
【0036】
なお、本発明の実施例では、下治具24を上下に移動させることができるので、下治具24の下降位置において第1の焦合状態となり、上昇位置において第2の焦合状態となるように焦点位置が予め設定できれば、スキャンヘッド31の焦点調整用光学系13を省略することができる。
【0037】
以上、本発明の実施例によれば、下治具24を上下に移動させることで、レーザビーム12sの焦合状態を変化させることができるので、1つの設備で光反射膜剥離工程と溶着工程を行うことができる。よって、樹脂成形品の加工設備費の低減を図ることができる。
【0038】
また、本発明の実施例によれば、溶着工程の前に光反射膜剥離工程を行うことで、溶着面27aのAl膜22を剥離(除去)することができるので、ハウジング21にAl蒸着を行う際にマスキング等を施す必要がない。したがって、樹脂成形品の製造工程からハウジング21の溶着面27aのマスキング工程を省略可能であり、製造コストを低減することができる。
【0039】
なお、上述の実施例では、ハウジング21に1つのレンズ23を溶着したが、インナーレンズとアウターレンズの2つを1つのハウジング21に同じ工程で溶着するようにしてもよい。
【0040】
以上実施例に沿って説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、透光性樹脂部材と吸光性樹脂部材の組み合わせはレンズとハウジングに限らない。宝石などの小型貴重品用ショーケースなどを作製してもよい。その他種々の用途が可能である。種々の変更、置換、改良、組み合わせなどが可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0041】
10…レーザ発振器、11…光ファイバ、12…レーザビーム、13…焦点調整用光学系、14…第1のガルバノミラ、15…第2のyガルバノミラ、16…制御装置、21…ハウジング、22…Al膜、23…レンズ、23a…リブ、24…下治具、25…上治具(透光性加圧板)、27a…溶着面、31…スキャンヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶着領域を有する吸光性樹脂部材と、前記吸光性樹脂部材の溶着領域に対応する溶着領域を有する透光性樹脂部材とを準備する工程と、
(b)前記吸光性樹脂部材に光反射膜を形成する工程と、
(c)ビームスポット径が1.0mm以下となる第1の焦合状態で、レーザビームを前記吸光性樹脂部材の溶着領域に繰り返し照射し、該溶着領域上に形成された光反射膜を除去する工程と、
(d)前記吸光性樹脂部材の溶着領域と前記透光性樹脂部材の溶着領域とを加圧接触状態とし、ビームスポット径が1.5mm以上3.5mm以下となる第2の焦合状態で、レーザビームを前記吸光性樹脂部材の溶着領域に繰り返し照射し、前記吸光性樹脂部材と前記透光性樹脂部材とを溶着する工程と
を有する樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−35561(P2012−35561A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179349(P2010−179349)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】