説明

樹脂接合部品とその接合方法

【課題】インナパネルが単品状態で弾性変形による変形量を有している場合でもそれを容認した上で、その影響が形状精度が重要視されるアウタパネル側に接着接合後に表れないようにして、製品の寸法精度の向上を図った方法を提供する。
【解決手段】固定式受け治具を基準にインナパネル3を位置決めする際に、変形をもつ接合フランジ部4が着座することになる受け駒21をその着座フランジ部4に倣わせて変位させた上でロックシリンダ25にてロックする。これにより、押さえ治具16にてインナパネル3とアウタパネル2を接着接合する際に接合フランジ部4を矯正しないようにする。接合後に製品を取り出しても接合フランジ部4は変形に基づく復元力を発生せず、その復元力に基づく製品の精度低下をもたらすことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂接合部品とその接合方法に関し、例えば自動車における樹脂製の開閉体(リッド類)のように形状精度が重要視される主たる樹脂部品としてのアウタパネルとこの主たる樹脂部品を補強する補強用樹脂部品としてのインナパネルを接着剤にて相互に接合することにより構成される樹脂接合部品とその接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つ以上の樹脂部品同士を接着等にて接合して一つの樹脂接合部品として組み立てる技術が特許文献1等で知られている。この特許文献1に記載のものでは、成形金型で成形した複数の樹脂部品をボルトやねじ等の締結部材にて締結結合するにあたり、それぞれの樹脂部品が単品状態で弾性変形等によって変形していることがある点を考慮し、樹脂部品を、それぞれの成形金型の成形面形状に準じた面精度を有する受け治具にセットした後、この樹脂部品を受け治具に密着させて少なくとも締結部位を成形時に近い形状に補正し、この状態で締付機により締結部位を自動締結するようにしている。
【0003】
その一方、自動車のドアフード、トランクリッド等の開閉体として特許文献2に記載のような樹脂製のものが一部で採用されており、この場合には、いわゆる外板パネルとしてそれに隣接する他のパネルとの整合性の観点から特に形状精度が重要視されるアウタパネルとそのアウタパネルの補強機能を主とするインナパネルとを両者の周縁部にて接着接合して、いわゆる閉断面構造の開閉体として組み立てるようにしている。
【特許文献1】特開2000−167729号公報
【特許文献2】特開2002−240568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような樹脂製の開閉体の場合、例えばアウタパネルとの接合面を上にした状態でインナパネルを所定の受け治具で位置決め支持した上で、アウタパネルとの接合面に接着剤を塗布し、次いでその上からインナパネルとの接合面を下にしたアウタパネルを押し付けて接着接合することになるのであるが、下側となるインナパネルが正規寸法通りに成形されているとの前提のもとで当該インナパネルを受け治具にて位置決め支持すると、例えばインナパネルが弾性変形による変形量を有している場合には、アウタパネルを押し付けた際にインナパネル自体が有している変形量を一旦矯正した状態で接着接合してしまうことになる。そして、この状態ではアウタ,インナの双方のパネルの組み合わせからなる開閉体としては正規寸法であるものの、接着接合後にそれまでの押し付け力を解除すると、インナパネルの復元力のためにアウタパネルまでもがその復元方向に引っ張られて、結果として開閉体としての寸法精度がばらついてしまうおそれがあった。これは、開閉体の特殊性として、一般的にはインナパネルの方がその機能よりしてアウタパネルよりも剛性が大きいことに基づいている。
【0005】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、例えば単品状態のインナパネルが弾性変形による変形量を有している場合でもそれを容認した上で、その影響が形状精度が重要視されるアウタパネル側に接着接合後に表れないようにして、製品たる開閉体の寸法精度の向上を図った樹脂接合部品とその接合方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、先に例示したアウタパネルのインナパネルとからなる開閉体のように、形状精度が重要視される主たる樹脂部品とこの主たる樹脂部品を補強する補強用樹脂部品とを接着剤にて接合することにより構成される樹脂接合部品であって、成形後の補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容したままで相手側の主たる樹脂部品と接着接合してあることを特徴とする。
【0007】
すなわち、請求項1に記載の発明では、補強用樹脂部品単独での寸法精度を問題とするよりも、製品たる樹脂接合部品として機能上最も重要な主たる樹脂部品の寸法形状精度さえ維持できれば製品機能の上で何ら支障はないとの観点から、上記のように補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容したままで相手側の主たる樹脂部品と接着接合することを基本としている。
【0008】
なお、上記の樹脂接合部品とは、自動車の樹脂製のドア、フードあるいはトランクリッド等の開閉体を想定している。
【0009】
より具体的には、請求項2,3に記載のように、主たる樹脂部品と補強用樹脂部品は共にパネル状のものであって、両者の周縁部において互いに接着接合してあるものとし、その場合に主たる樹脂部品と補強用樹脂部品とをもって構成される樹脂接合部品が閉断面構造のものであるものとする。
【0010】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、成形後の補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容したままで主たる樹脂部品と接合すると、接着接合後においても復元力は作用しないから、形状精度が重要視される主たる樹脂部品にその復元力が影響することがなくなり、結果として主たる樹脂部品と補強用樹脂部品とを接着接合してなる樹脂接合部品の寸法精度も向上することになる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、先に例示したアウタパネルのインナパネルとからなる開閉体のように、形状精度が重要視される主たる樹脂部品とこの主たる樹脂部品を補強する補強用樹脂部品とを接着剤にて接合する方法として、成形後の補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容したままで相手側の主たる樹脂部品と接着接合することを特徴とする。
【0012】
より具体的には、請求項6に記載のように、補強用樹脂部品のうち主たる樹脂部品と接合される面とは反対側の背面を基準に受け治具で位置決め支持した上でその補強用樹脂部品の接合面に接着剤を塗布するか、もしくは上記位置決め支持に先立って補強用樹脂部品の接合面に接着剤を予め塗布し、主たる樹脂部品の接合面を補強用樹脂部品側の接合面と対面させて樹脂部品同士の相対位置決めを行った上で両者を互いに押し付けて接着接合する方法とし、その場合に上記受け治具による補強用樹脂部品の位置決め支持に際して、主たる樹脂部品との接着接合にあずかる補強用樹脂部品側の接合面での変形を矯正することなくこれを許容したままで当該接合面の背面側を位置決め支持するものとする。
【0013】
したがって、少なくとも請求項4に記載の発明では、受け治具そのものを補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形に倣わせるように位置決め支持した上で主たる樹脂部品との接着接合を行えば、請求項1に記載のものと同様に接着接合後においても復元力は作用しないから、形状精度が重要視される主たる樹脂部品にその復元力が影響することがなくなり、結果として寸法精度に優れた樹脂接合部品を製作することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1,4に記載の発明によれば、主たる樹脂部品と接着接合されることになる補強用樹脂部品がそれ自体の弾性変形に基づく変形を有していたとしても、その変形が接着接合後の樹脂接合部品における主たる樹脂部品に影響することがなくなり、主たる樹脂部品の形状精度ひいいては樹脂接合部品としての寸法精度の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明のより具体的な実施の形態を示す図であり、(A)は樹脂接合部品の一例として自動車の開閉体であるフードを裏面側から見た図を、(B)は同図(A)のa−a線に沿う断面図をそれぞれ示している。
【0016】
図1から明らかなように、樹脂接合部品であるフード1は主たる樹脂部品である外板パネルとして機能する樹脂製のアウタパネル2と、そのアウタパネル2とほぼ同等の大きさを有してこれと重なり合うように配置された同じく補強用樹脂部品としての樹脂製のインナパネル3とから構成してあり、インナパネル3の周縁部にはその全周にアウタパネル2との接合面となる接合フランジ部4を形成してあるとともに、両者はその接合フランジ部4において接着剤5にて接着接合されて閉断面構造のものとして形成されている。
【0017】
そして、アウタパネル2はその機能からして例えば車体組付状態において隣接することになるフロントフェンダ等との表面整合性の上からその形状精度が重要視される一方、インナパネル3はアウタパネル2の面剛性確保等のためにそれを補強する役目を主とすることから、インナパネル3には反アウタパネル2側に向かって凸形状となるエンボス部6を膨出形成してある。
【0018】
このようなアウタパネル2とインナパネル3とからなるフード1は、アウタパネル2とインナパネル3とをそれぞれ射出成形等にて別個に成形した上で、先に述べたように接合フランジ部4を接合面として後工程にて接着剤をもって接着接合されることになる。
【0019】
より詳しくは、図2に示すように、実質的に下型として機能することになるインナセット治具7と上型として機能することになるアウタセット治具8との組み合わせからなる組み付け治具9を用意しておくものとする。
【0020】
インナセット治具7は、図2のほか図7に示すように、インナパネル3の一般面を受けてそのインナパネル3を安定して支持し得るようにベース盤10上の複数箇所に設定した固定式受け治具11と、その固定式受け治具11に突設した位置決めピン12と、ベース盤10から直接立設した複数のロケートピン13と、同じくベース盤10上の固定式受け治具11よりも外側の複数箇所に所定のピッチで配置されていて且つインナパネル3の接合フランジ部4を受けて支持することになる可動式受け治具14とから構成される。なお、上記可動式受け治具14の詳細は後述する。
【0021】
他方、アウタセット治具8は、図2のほか図3に示すように、ベース盤15にアウタパネル2の周縁部全周を押さえるための押さえ治具16を設けたもので、その押さえ面16aはアウタパネル2の外表面形状に合致するように高精度に仕上げてある。
【0022】
そして、インナパネル3の周縁部であって且つアウタパネル2との接合面となるべき領域、すなわち接合フランジ部4に予め接着剤5を塗布し、その接着剤5を塗布したインナパネル3をアウタパネル2との接合面を上にしながら、固定式受け治具11のの位置決め機能のほかロケートピン13および位置決めピン12とインナパネル3側の位置決め穴17(図1の(B)参照)との嵌合をもって三次元方向の位置決めを行って、インナセット治具7上に水平状態でセットする。なお、インナセット治具7に対する位置決めセットの後の接着剤を塗布するようにしてもよい。
【0023】
インナパネル3の位置決めセットが完了したならば、インナセット治具7側に設けた図示外のパネルガイドにてアウタパネル2の位置を規制しつつ双方の接合面同士を対面させるようにインナパネル3の上にアウタパネル2を重ね合わせるようにセットし、さらにアウタセット治具8を下降させてパネル2,3同士の重合部を加圧拘束する。その圧着状態で所定時間放置して、接着剤5の硬化を待ってインナパネル3とアウタパネル2を接着接合し、もって図1に示したような樹脂接合部品であるフード1として組み立てる。そして、フード1としての組み立てが完了したならば、最初にアウタセット治具8を上昇させた上で組立完了後のフード1を取り出す。
【0024】
ここで、図10に示すように、インナパネル3単独の状態でその一部、特にアウタパネル2との接合面となる周縁部の接合フランジ部4が反アウタパネル2側に弾性変形して寸法誤差を有している場合(図10の(A)に仮想線で示す状態)、相手側となるアウタパネル2と組み合わせた上でアウタセット治具8の押さえ治具16にて加圧拘束すると、すなわち例えば固定式治具11の一部と押さえ治具16とで加圧拘束すると、インナパネル3は実線で示すように弾性変形して矯正されて一旦は正規寸法となるものの、押さえ治具16による加圧拘束力を解放すると図10の(B)に示すようにインナパネル3は元の状態に復元しようとすることから、そのインナパネル3に引っ張られるかたちでフード1として組み立てられたアウタパネル2までもが変形し、特にアウタパネル2側の形状精度が低下してしまうおそれがある。ただし、図10ではインナパネル3一部である接合フランジ部4の変形の度合い(同図(A)に仮想線で示す状態)を誇張して描いてある。
【0025】
そこで、本実施の形態では、先に述べたインナセット治具7側の受け治具14を可動式のものとし、仮にインナパネル3が寸法誤差を有している場合でもその寸法誤差に倣わせるようにして可動式受け治具14にて受けて、アウタパネル2と重合させた後にアウタセット治具8にて加圧拘束したとしてもインナパネル3を無理に矯正しないように配慮してある。
【0026】
図4,5は先に述べたインナセット治具7側の可動式受け治具14の詳細を示しており、台座部18にブラケット19を介してスリーブ状のホルダ20を固定するとともに、そのホルダ20内に、先端に接触子としての受け駒21を備えた支持ロッド22を摺動可能に支持させてある。支持ロッド22の向きは位置決めすべきインナパネル3の接合フランジ部4とほぼ面直角となるように設定してあり、ホルダ20内には支持ロッド22をホルダ20からの突出方向に付勢する付勢手段として圧縮コイルスプリング(以下、単にスプリングと称する)23を内蔵させてある。なお、受け駒21はインナパネル3をいわゆる点受けするために先端を半球状のものとしてある。
【0027】
また、支持ロッド22に近接してロッドサポータ24を配置してあるとともに、支持ロッド22を挟んでそのロッドサポータ24と対向するようにエアシリンダ等のロックシリンダ25を対向配置してある。そして、支持ロッド22を任意の位置に停止させた状態で、ロッドサポータ24に向けてロックシリンダ25のピストンロッド26を伸長動作させることにより、ロッドサポータ24とピストンロッド26とで挟持するかたちでその支持ロッド22を任意に位置に拘束するべくロックすることができるようになっている。
【0028】
ここで、支持ロッド22のアンロック状態においてインナセット治具7上にインナパネル3をセットした場合に、受け駒21にインナパネル3が当接するように支持ロッド22の長さを設定してあることから、その際にインナパネル3の自重によりスプリング23が撓んで支持ロッド22がスムーズに引っ込むように予めスプリング23のばね定数を設定してある。さらに、支持ロッド22がロックシリンダ25にて一旦ロックされたならば、インナパネル3に対してアウタセット治具8による加圧拘束力が作用したとしても支持ロッド22はその加圧拘束力に十分に対抗できるように考慮されている。
【0029】
すなわち、図6に示すように、スプリング23の反力をFsp、インナパネル3の自重をFw、受け駒21にインナパネル3が着座したときにそのインナパネル3の弾性変位がほぼ零となるまげ弾性力をFα、スプリング23の自由長をXFREE、ΔXをスプリング23のストロークとした場合に、下記(1)式を持たすようにスプリング23の弾性力が設定されている。
【0030】
Fsp≦Fw・sinθ+Fα‥‥(1)
ただし、ΔXの大きさは現実性を考慮するものとし、図6のほか図8に示すように例えば基準寸法(図面値)の上下それぞれに5mm程度振り分けて最大でも10mm程度とする。
【0031】
したがって、インナセット治具7側にて上記のような可動式受け治具14を使用することを前提としてインナパネル3を位置決め支持する場合には、図2のほか図4に示すように、可動式受け治具14の支持ロッド22をアンロック状態とした上で、ロケートピン13(図7参照)のほか固定式受け治具11および位置決めピン12を基準としてインナパネル3をインナセット治具7上に位置決めセットする。
【0032】
この場合、支持ロッド22の先端の受け駒21はスプリング23の自由長状態をもって支持ロッド22とともに突出していることから、先に述べたように予め接着剤5が塗布されたインナパネル3をセットすると、インナパネル3のうち接合フランジ部4の背面側が受け駒21に当接してその自重のために支持ロッド22は徐々にホルダ20内に押し込まれる。例えばインナパネル3の接合フランジ部4が寸法誤差のために正規寸法よりも反アウタパネル2側に変形していたとしても、可動式受け治具14の一部として機能すべき受け駒21は、その変形している接合フランジ部4の形状に倣うように支持ロッド22とともに追従変位して、最終的には固定側受け治具11と位置決めピン12とをもってインナパネル3が位置決めされた時点で支持ロッド22の動きも停止する。その時点では、図4,5に示すように、支持ロッド22の先端の受け駒21が、正規寸法に対して反アウタパネル2側への変形を持つインナパネル3の接合フランジ部4の背面に当接していることから、その状態でロックシリンダ25を伸長動作させて、ロッドサポート24とロックシリンダ25のピストンロッド26とをもって支持ロッド22をロックする。
【0033】
すなわち、図10の(A)に基づいて例示したように、インナパネル3側の接合フランジ部4が正規寸法に対して所定量だけ反アウタパネル2側に変形していたとしても、その接合フランジ部4の位置に追従させるかたちで可動式受け治具14側の受け駒21の位置を決めた上で、その位置にて受け駒21を固定する。
【0034】
続いて、インナパネル3に重ね合わせるようにして図3に示すようにアウタパネル2をインナパネル3上に位置決めセットし、さらにアウタセット治具8下降させて押さえ治具16にてアウタパネル2をインナパネル3とともに加圧拘束する。ここに言う加圧拘束力とは、インナパネル3の接合フランジ部4とアウタパネル2との間に介装されている接着剤5を所定量だけ押し潰しながらも、接合フランジ部4がアウタパネル2に直接接触することがないような押圧力である。つまり、アウタセット治具8の押さえ治具16にてアウタパネル2を加圧拘束したとしても、インナパネル3の接合フランジ部4には押し潰されたことによる接着剤5の反力のみが加わるように、アウタセット治具8の加圧拘束力およびその昇降ストロークを設定してある。
【0035】
その際、アウタパネル2はアウタセット治具8の押さえ治具16による加圧拘束力を受けて正規寸法位置に保持されることになるものの、インナパネル3側の接合フランジ部4はなおも従前の変形したままの位置にあり、その変形を矯正することなしに変形状態のままでインナパネル3とアウタパネル2が接着接合される。
【0036】
その結果、接着剤5が硬化した後に、アウタセット治具8の上昇を待ってインナパネル3とアウタパネル2とからなるフード1をインナセット治具7から取り出したとしても、インナパネル3側の接合フランジ部4は当初の変形を矯正することなしに変形状態のままで接着接合してあるために、その接合フランジ部4は復元力を発生せず、当初の変形状態を維持する。
【0037】
その一方、アウタパネル2はアウタセット治具8で正規寸法位置に加圧拘束された上でインナパネル3側の変形を持つ接合フランジ部4と接着接合されていることから、上記のように加圧拘束力を解除したとしても少なくともアウタパネル2はその正規寸法状態を自己保持し、機能上最も重要なアウタパネル2の形状精度を確保することが可能となる。
【0038】
ここで、図7に示すように、可動式受け治具14はインナパネル3の接合フランジ部4に沿って所定のピッチで複数箇所に配置してあることは先に述べた。この場合、隣接する可動式受け治具14,14同士の最大ピッチXpの設定に際しては次の点を考慮するものとする。
【0039】
図9の(A),(B)ように、アウタセット治具8による加圧拘束力をもってインナパネル3とアウタパネル2を圧着する際には、インナパネル3の接合フランジ部4に接着剤5の潰れ変形に伴う反力Pが作用する。接着剤反力Pによるインナパネル3の接合フランジ部4での最大撓みσmaxが所定値以下となるように図7の最大ピッチXpを決定するものとし、その最大撓みσmaxは製品であるフード1の要求精度に応じて決定するものとする。
【0040】
図11は本発明の第2の実施の形態を示す図で、先の第1の実施の形態と共通する部分には同一符号を付してある。
【0041】
この第2の実施の形態では、先端に受け駒21を有する支持ロッド32をインナパネル3側の接合フランジ部4に対してアクチュエータとしてのサーボモータ30にて進退移動させる構成とする一方、支持ロッド32にはその支持ロッド32とともに進退移動する近接センサ31を付設してある。そして、受け駒21がインナパネル3側の接合フランジ部4に当接したタイミングを検知するために受け駒21の先端と近接センサ31の検知面との間には予め所定の検知距離を設定してある。
【0042】
したがって、この第2の実施の形態によれば、図2と同様にインナセット治具7上に固定式受け治具11をもってインナパネル3を位置決めセットしたならば、支持ロッド32の先端の受け駒21を近接センサ31とともにインナパネル3側の接合フランジ部4に向けて前進させる。そして、近接センサ31がインナパネル3側の接合フランジ部4を検知した時点でサーボモータ30による支持ロッド32の動きを停止させる。
【0043】
この第2の実施の形態によってもまた第1の実施の形態と同様の機能を発揮することができる。
【0044】
図12は本発明の第3の実施の形態を示す図で、先の第1の実施の形態と共通する部分には同一符号を付してある。
【0045】
この第3の実施の形態では、インナパネル3単体の状態での接合フランジ部4の初期変形量が微少であると判断される場合に、上記可動式受け治具14に代えて接合フランジ部4の全周に沿って配置した第2の固定式受け治具41を採用するようにしたものである。
【0046】
なお、インナパネル3単体の状態での接合フランジ部4の初期変形量が微少の場合とは、アウタパネル2と接着接合する前のインナパネル3の単品状態において、その接合フランジ部4の初期変形量(精度)がインナパネル3の要求精度内(先に図9に示した最大撓みσmax以下)のものである場合を想定している。
【0047】
この場合には、図12に示すように第2の固定式受け治具41を接合フランジ部4の全周に沿って連続的に配置する一方、その受け面42の位置を接合フランジ部4の基準寸法(図面値)よりもマイナス方向に先の最大撓みσmax分だけオフセットした位置に設定し、微少ではあっても先の接合フランジ部4の初期変形量のばらつきを吸収しようとするものである。
【0048】
この場合には、第2の固定式受け治具41の構造を簡素化できる故にインナセット治具7の構造を一段と簡素化できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る樹脂接合部品の一例として自動車用フードの概略を示す図で、(A)はそのフードを裏面側から見た説明図、(B)は同図(A)のa−a線に沿う断面説明図。
【図2】図1に示すフードのアウタパネルとインナパネルを接着接合する際の工程説明図。
【図3】図2に続く工程説明図。
【図4】図3に示した可動式受け治具の要部拡大説明図。
【図5】図4の要部拡大説明図。
【図6】図4に示した可動式受け治具の特定の機能に関する説明図。
【図7】図2,3に示したインナセット治具の平面説明図。
【図8】図4に示した可動式受け治具の特定の機能に関する説明図。
【図9】図4に示した可動式受け治具の特定の機能に関する説明図。
【図10】インナパネル側の接合フランジ部の変形を矯正することを前提として接着接合した場合の説明図。
【図11】本発明の第2の実施の形態を示す要部構成説明図。
【図12】本発明の第3の実施の形態を示す要部構成説明図。
【符号の説明】
【0050】
1…フード(開閉体もしくは樹脂接合部品)
2…インナパネル(補強用樹脂部品)
3…アウタパネル(主たる樹脂部品)
4…接合フランジ部(接合面)
5…接着剤
7…インナセット治具
8…アウタセット治具
11…固定式受け治具
12…位置決めピン
13…ロケートピン
14…可動式受け治具
21…受け駒(接触子)
23…圧縮コイルスプリング(付勢手段)
25…ロックシリンダ
30…モータ(アクチュエータ)
41…第2の固定式受け治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状精度が重要視される主たる樹脂部品とこの主たる樹脂部品を補強する補強用樹脂部品とを接着剤にて接合することにより構成される樹脂接合部品であって、
補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容したままで相手側の主たる樹脂部品と接着接合してあることを特徴とする樹脂接合部品。
【請求項2】
主たる樹脂部品と補強用樹脂部品は共にパネル状のものであって、両者の周縁部において互いに接着接合してあることを特徴とする請求項1に記載の樹脂接合部品。
【請求項3】
主たる樹脂部品と補強用樹脂部品とをもって構成される樹脂接合部品が閉断面構造のものであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂接合部品。
【請求項4】
形状精度が重要視される主たる樹脂部品とこの主たる樹脂部品を補強する補強用樹脂部品とを接着剤にて接合する方法であって、
成形後の補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容したままで相手側の主たる樹脂部品と接着接合することを特徴とする樹脂接合部品の接合方法。
【請求項5】
主たる樹脂部品と補強用樹脂部品は共にパネル状のものであって、両者の周縁部において互いに接着接合することを特徴とする請求項4に記載の樹脂接合部品の接合方法。
【請求項6】
補強用樹脂部品のうち主たる樹脂部品と接合される面とは反対側の背面を基準に受け治具で位置決め支持した上でその補強用樹脂部品の接合面に接着剤を塗布するか、もしくは上記位置決め支持に先立って補強用樹脂部品の接合面に接着剤を予め塗布し、
主たる樹脂部品の接合面を補強用樹脂部品側の接合面と対面させて樹脂部品同士の相対位置決めを行った上で両者を互いに押し付けて接着接合する方法であって、
上記受け治具による補強用樹脂部品の位置決め支持に際して、主たる樹脂部品との接着接合にあずかる補強用樹脂部品側の接合面での変形を矯正することなくこれを許容したままで当該接合面の背面側を位置決め支持することを特徴とする請求項5に記載の樹脂接合部品の接合方法。
【請求項7】
補強用樹脂部品における接合面の背面側の位置決め支持は、受け治具に進退移動可能に配置されるとともに上記接合面の背面側との接触により押圧されて後退する接触子により行うことを特徴とする請求項6に記載の樹脂接合部品の接合方法。
【請求項8】
上記接触子は、補強用樹脂部品における接合面の背面側との接触により後退した位置でその進退移動がロックされるものであることを特徴とする請求項7に記載の樹脂接合部品の接合方法。
【請求項9】
上記接触子は、受け治具から突出しつつ補強用樹脂部品における接合面の背面側に接触する方向に付勢されているものであることを特徴とする請求項8に記載の樹脂接合部品の接合方法。
【請求項10】
上記接触子はアクチュエータにより進退駆動されるものであって、補強用樹脂部品における接合面の背面側に対し非接触状態にある接触子を当該背面側に向けて突出させたときに、接触子が補強用樹脂部品における接合面の背面側に接触した時点でその進退移動がロックされるものであることを特徴とする請求項6に記載の樹脂接合部品の接合方法。
【請求項11】
成形後の補強用樹脂部品の弾性変形に基づく変形を矯正することなくこれを許容する許容変形量は、補強用樹脂部品単品での最大許容寸法誤差以内のものであることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の樹脂接合部品の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−218780(P2006−218780A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35348(P2005−35348)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】