説明

樹脂用マスターバッチ

【課題】良好な耐加水分解性を有するポリオレフィン樹脂用マスターバッチの提供。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂と、該樹脂の100重量部当り、(A)の1.5〜100重量部と、(B)又は(C)の0.01〜1重量部を含有するマスターバッチ。(A)酸化防止剤(1)。(B)ハイドロタルサイト系化合物。(C)高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩。


(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂用又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチの製造方法、及び上記の樹脂用マスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリエチレン樹脂100重量部に対し、同一分子内に亜リン酸エステル構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤の0.01〜1重量部、ハイドロタルサイト系化合物の0.01〜1重量部及び/又は高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩の0.01〜1重量部を含有することを特徴とするポリエチレン樹脂組成物が記載されている。
【0003】
また、特許文献2等には、ポリオレフィン又はポリスチレン系樹脂の熱劣化や酸化劣化を防止する安定剤として、分子内に下式(I)、(II)又は(III)で示される部分構造を有する酸化防止剤が記載されている。

[式中、Ph及びPh’はフェニレン基を表し、該フェニレン基の水素原子はフェニル基、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基又は炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。
Xは単結合、硫黄原子又は−CHR6−基を表す。R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を表す。
Ph及びPh’はフェニル基又はビフェニル基を表し、該フェニル基又はビフェニル基の水素原子は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基又は炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。
Phはフェニル基又はビフェニル基を表し、該フェニル基又はビフェニル基の水素原子は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基又は炭素数7〜12のアラルキル基で置換されていてもよい。]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−146121号公報(特許請求の範囲を参照)
【特許文献2】特開平10−273494号公報(特許請求の範囲等を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂を製造する際には、ポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂のペレットに酸化防止剤のマスターバッチを配合し、混練成形する方法が採用されている。
しかし、この比較的高濃度の酸化防止剤を含むポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂用のマスターバッチは、高温多湿の時季等に倉庫で保管されている際に上記の酸化防止剤が加水分解されやすく、長期保管後のマスターバッチをポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂に使用した場合は、酸化防止性能が十分ではなかった。
【0006】
上記問題を解決するために、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂用のマスターバッチを防湿タイプの包材に充填して保管する対策等が採られているが、該方法ではコストアップになるという問題があった。
また、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂用のマスターバッチを防湿タイプの包材に充填して保管しても、一旦開封すると吸湿してしまい、前記酸化防止剤が加水分解されやすいため、上記のマスターバッチを一度に使い切ってしまう必要があった。
【0007】
本発明の目的は、耐加水分解性が改善されたポリオレフィン樹脂用又はポリスチレン系樹脂用のマスターバッチを提供することにある。
また、本発明の目的は、上記の樹脂用マスターバッチの製造法を提供することにある。
さらに、本発明の別の目的は、前記ポリオレフィン樹脂用又はポリスチレン系樹脂用のマスターバッチをポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂へ適用する方法に関する。
本発明者は、耐加水分解性に優れたポリオレフィン樹脂用又はポリスチレン系樹脂用のマスターバッチを提供すべく鋭意検討を重ねた。その結果、下式(1)で示される酸化防止剤を比較的高濃度で含むポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂のマスターバッチに、ハイドロタルサイト系化合物及び高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩から選ばれる1種以上の化合物の特定量を配合したポリオレフィン樹脂用又はポリスチレン系樹脂用のマスターバッチが、該マスターバッチ中の酸化防止剤(1)の耐加水分解性が改善され、このマスターバッチを倉庫に保管後、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂中の酸化防止剤の耐加水分解性が向上することを見出して本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂の100重量部当り、次の(A)の1.5重量部〜100重量部と、次の(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の0.01〜1重量部とを含むことを特徴とするポリオレフィン樹脂用マスターバッチを提供する。
(A) 下式(1)で示される酸化防止剤
(B) ハイドロタルサイト系化合物
(C) 高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩

(1)
[式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子又は−CHR6−基を表す。R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を表す。
Aは炭素数2〜8のアルキレン基又は*−COR7−基を表す。R7は単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基を表し、*印を付した−COR7−基は式(1)におけるフォスファイト構造の酸素原子と結合していることを表す。上記の炭素数2〜8のアルキレン基における炭素−炭素結合は、酸素原子、硫黄原子、−NH−、−OCO−又は−COO−で中断されていてもよい。
Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、他方が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。但し、Yがヒドロキシル基であるときは、R及びRの一方は炭素数3〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を表す。
また、式(1)における2個のRは互いに同一でもよく、異なってもよい。さらに、式(1)における2個のRは互いに同一でもよく、異なってもよい。そして、式(1)における2個のRは互いに同一でもよく、異なってもよい。]
【0009】
また、本発明は、ポリスチレン系樹脂と、該ポリスチレン系樹脂の100重量部当り、上記(A)の1.5重量部〜100重量部と、上記(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の0.01〜1重量部とを含むことを特徴とするポリスチレン系樹脂用マスターバッチを提供する。
次に、本発明は、ポリオレフィン樹脂と該ポリオレフィン樹脂の100重量部当り、上記(A)の1.5重量部〜100重量部と、上記(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の0.01〜1重量部とを配合し、溶融混練することを特徴とするポリオレフィン樹脂用マスターバッチの製造方法を提供する。また、本発明は、ポリスチレン系樹脂と該ポリスチレン系樹脂の100重量部当り、上記(A)の1.5重量部〜100重量部と、上記(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の0.01〜1重量部とを配合し、溶融混練することを特徴とするポリスチレン系樹脂用マスターバッチの製造方法を提供する。
さらに、本発明は、ポリオレフィン樹脂とポリオレフィン樹脂用マスターバッチを配合し、溶融混練することによって製造されるポリオレフィン樹脂を提供する。そして、本発明は、ポリスチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂樹脂用マスターバッチを配合し、溶融混練することによって製造されるポリスチレン系樹脂を提供する。また、本発明は、上述したマスターバッチを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ及びその製造法や、ポリスチレン系樹脂用マスターバッチ及びその製造法によれば、該マスターバッチ中の酸化防止剤(1)の耐加水分解性が改善され、このマスターバッチを倉庫に保管後、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂中の酸化防止剤の耐加水分解性が向上する。また、酸化防止剤(1)の耐加水分解性が改善される結果、ポリオレフィンとポリオレフィン樹脂用マスターバッチの溶融混練時におけるポリオレフィン樹脂の酸化による劣化が防止される。同様に、ポリスチレン系樹脂とポリスチレン系樹脂用マスターバッチの溶融混練時におけるポリスチレン系樹脂の酸化による劣化が防止される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、α−オレフィンやMMA(メチルメタクリレート)等のホモ重合体;ブロック共重合体;ランダム共重合体や三元以上の共重合体等が挙げられる。
また、本発明におけるポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレンやMMA等のホモ重合体;ブロック共重合体;三元以上の共重合体や、上記重合体の混合物等が挙げられる。
【0012】
本発明においては、ポリエチレン(例えばHD−PE、LD−PEやLLDPE);ポリプロピレン(例えばホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーやターポリマー);EVA樹脂;EMMA樹脂;ABS樹脂;HI−PS樹脂;GP−PS樹脂;SIBS樹脂;SBS樹脂;SIS樹脂;MS樹脂;AS樹脂等が好ましく用いられる。
上記のポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂の製造法は特に限定されず、公知の方法で製造されたもの等が使用できる。
【0013】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ及びポリスチレン系樹脂用マスターバッチにおいては、下記化合物(1)を酸化防止剤として用いる。
【0014】

(1)
上式(1)におけるR、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を表す。
は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子又は−CHR6−基を表す。R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す。Aは炭素数2〜8のアルキレン基又は*−COR7−基を表す。
上記の炭素数2〜8のアルキレン基における炭素−炭素結合は、酸素原子、硫黄原子、−NH−、−OCO−又は−COO−で中断されていてもよい。R7は単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基を表す。上記−COR7−基における*印は、式(1)中のフォスファイト構造の酸素原子に結合していることを示す。
Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、他方が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。
但し、Yがヒドロキシル基であるときは、R及びRの一方は炭素数3〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を表す。
【0015】
上式(1)で示される酸化防止剤(A)の中でも、R、R、R及びRがそれぞれ独立にメチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基又はt−オクチル基である化合物が好ましい。Rは水素原子又はメチル基である化合物が好ましい。Xは単結合、メチレン基又はエチリデン基である化合物が好ましい。Aは炭素数2〜4のアルキレン基又は*−COR7−基である化合物が好ましい。
上記の炭素数2〜8のアルキレン基における炭素−炭素結合が途中で中断されている場合に、該中断基としては、−OCO−又は−COO−であることが好ましい。R7は炭素数1〜4のアルキレン基であることが好ましい。また、Yがヒドロキシル基である場合は、Zが水素原子又はメチル基であり、R及びRの一方がt−ブチル基であることが好ましい。また、Zが、ヒドロキシル基である場合は、Rがメチル基であり、Yが水素原子であり、且つRがt−ブチル基であることが好ましい。
【0016】
上記化合物(1)のうち、特に好ましい化合物を以下に例示する。
6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン[A1]、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。
【0017】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチにおいては、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂100重量部当り、上記酸化防止剤(1)の含有量が1.5重量部〜100重量部の範囲である。前記酸化防止剤(1)の含有量は、1.5重量部〜50重量部の範囲がより好ましく、2重量部〜20重量部の範囲が特に好ましい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の100重量部と、酸化防止剤(1)の1.5重量部より少ない量を含むポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチは、ハイドロタルサイト系化合物(B)や高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩(C)を添加しなくても、上述したマスターバッチ中における酸化防止剤(I)の耐加水分解性が実用上問題のないレベルである。また、このようなマスターバッチにハイドロタルサイト系化合物や高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩を添加することは、経済的に不利である。
【0019】
一方、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の100重量部と酸化防止剤(1)の100重量部を超える量を含むポリオレフィン系樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチは物性が悪化して、ハンドリングに支障をきたすことがある。
【0020】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチに用いられるハイドロタルサイト系化合物としては、例えば特開2002−146121号公報の段落番号0055に記載のハイドロタルサイト系化合物、及び、特開平10−273494号公報の段落番号0050に記載のハイドロタルサイト類等が挙げられる。
本発明において、好ましいハイドロタルサイト系化合物としては、例えば下式で表されるハイドロタルサイト類が挙げられる。
Mg1−XAl(OH)(COX/2・pH
(式中、xは0〜0.5の数値を表し、pは0〜2の数値を表す。)
ハイドロタルサイト系化合物の具体例としては、協和化学工業(株)製の合成ハイドロタルサイトDHT−4A[B1]が挙げられる。
【0021】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチやポリスチレン系樹脂用マスターバッチに用いられる高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩としては、例えばステアリン酸カルシウム[C1]、ステアリン酸亜鉛[C2]、ステアリン酸マグネシウム[C3]やラウリン酸カルシウム[C4]等が挙げられる。
【0022】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチやポリスチレン系樹脂用マスターバッチにおけるハイドロタルサイト系化合物及び高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩は、それぞれ単独で用いてもよく、併用してもよい。
上記のハイドロタルサイト系化合物及び高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩の合計含有量は、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の100重量部当り0.01〜1重量部の範囲である。上記のハイドロタルサイト系化合物及び高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩の好ましい合計含有量は、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の100重量部当り、0.05〜0.5重量部の範囲である。
前記のハイドロタルサイト系化合物及び高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩の合計含有量がポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の100重量部当り0.01重量部未満では、ポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチ中の酸化防止剤(1)の耐加水分解性が充分ではなく、当該マスターバッチを倉庫に保管後、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂に適用した場合は、得られる樹脂組成物の安定化効果が充分ではない。
一方、ハイドロタルサイト系化合物及び高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩の合計使用量がポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の100重量部当り1重量部を超える場合は、酸化防止剤(1)の耐加水分解性が1重量部の場合と比べて、向上は認められず、経済的には不利となる。
【0023】
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチやポリスチレン系樹脂用マスターバッチは、酸化防止剤(1)と、ハイドロタルサイト系化合物や高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩を含むものであるが、必要に応じて、他の中和剤、他の酸化防止剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、顔料やアンチブロッキング剤等を配合して、複合マスターバッチとすることもできる。
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチやポリスチレン系樹脂用マスターバッチを製造するに際しては、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂に酸化防止剤(1)及びハイドロタルサイト系化合物や高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩を配合後、溶融混練すればよく、溶融混練時に使用する装置や溶融混練方法は限定されるものではない。
例えば、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂と、酸化防止剤(1)、ハイドロタルサイト系化合物や周期律表第II族金属塩と、必要に応じて使用される上記以外の酸化防止剤[例えば、ステアリル 3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤];光安定剤;滑剤;帯電防止剤;顔料やアンチブロッキング剤等を例えばタンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー又はスーパーミキサーのような混合機で予め均一に混合した後に単軸押し出し機や多軸の押し出し機で溶融混練造粒する方法やニーダー又はバンバリーミキサー等で溶融混練した後に押し出し機を用いて造粒する方法等が挙げられる。
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン樹脂用マスターバッチは、通常は工場の倉庫等に保管された後、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂製品の生産時期に合わせて、ポリオレフィン又はポリスチレン系樹脂に本発明のポリオレフィン又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチを配合後、溶融混練されて所望のポリオレフィン又はポリスチレン系製品に加工される。
本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチを配合して、所望のポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の製品を製造する方法としては、本発明のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ又はポリスチレン系樹脂用マスターバッチを配合し、溶融混練後、所望の製品に加工できる方法であればよく、装置や方法は特に限定されるものではない。具体的には、ポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂と本発明のマスターバッチとを、必要に応じて、他のマスターバッチ、例えば顔料のマスターバッチや、アンチブロッキング剤のマスターバッチ等とを、例えばタンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー又はスーパーミキサー等の混合機で予め均一に混合後、単軸押し出し機や多軸の押し出し機で溶融混練してTダイフィルムやインフレーションフィルム加工したり、金型成形により成形材料等に加工したりすることができる。
【0024】
本発明のマスターバッチをポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂に配合するに当っては、ポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の(100−X)重量部に対して、本発明のマスターバッチを(X)重量部用いることができる。上述したXは、0.1〜33の範囲であることが好ましく、0.5〜10の範囲であることが特に好ましい。
Xが0.1未満である場合は、得られたポリオレフィン樹脂又はポリスチレン系樹脂の安定化効果が不十分になる場合がある。一方、Xが33よりも大きい場合は、マスターバッチの取扱量が多くなり、経済的に不利である。
【実施例】
【0025】
以下、参考例、比較例及び実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0026】
[ポリオレフィン樹脂用マスターバッチの製造例]
未安定化ポリエチレンの40gに前記酸化防止剤A1(段落番号0016参照)の0.8g、及び前記化合物C1(ステアリン酸カルシウム;段落番号0021参照)の40mgを正確に量りとり、(株)東洋精機製作所製のラボプラストミルC型を用いて窒素気流下に160℃で毎分10回転の速度で3分間混練した。得られた組成物をヘラにより取り出した後、直ちにプレスして厚さ約1mm程度のシート状に引き伸ばした。このシートを裁断してペレット状にし、ポリエチレン樹脂用のマスターバッチを製造した。
【0027】
[保存安定性の評価方法]
前記製造例で得た製造直後の樹脂用マスターバッチと、80%相対湿度の条件下に50℃で保存した後のマスターバッチを、それぞれソックスレー抽出して、酸化防止剤A1を抽出し、液体クロマトグラフィーによりマスターバッチ中の酸化防止剤A1の含有量を分析した。保存前のA1の含有量を100とし、該A1の含有量を経時的に追跡した。
【0028】
[保存後のマスターバッチからの樹脂組成物の製造]
前記製造例で得たマスターバッチを80%相対湿度の条件下に50℃で2週間保存した。保存後のマスターバッチ0.8gを未安定化ポリエチレンの39.2g、前記化合物C1(ステアリン酸カルシウム;段落番号0021参照)の24mg及びB1(ハイドロタルサイト;段落番号0020参照)の24mgを正確に量りとり、(株)東洋精機製作所製ラボプラストミルC型を用い、窒素気流下に160℃で毎分10回転の速度で3分間混練した。得られた組成物をヘラにより取り出した後、直ちにプレスして、厚さ約1mm程度のシート状に引き伸ばした。このシートを裁断して、ペレット状のポリエチレン樹脂組成物を得た。該製造例で得たポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン100重量部に対して、0.06重量部のステアリン酸カルシウム、0.06重量部のハイドロタルサイト及び酸化防止剤A1の0.1重量部を含む。
【0029】
[樹脂組成物の安定性]
DSC(示差走査熱量計;210℃、空気雰囲気下)を用いて、前記製造例で得たポリエチレン樹脂組成物における発熱開始までの時間を測定した。発熱開始までの時間が長いほど、樹脂組成物の熱酸化に対する安定性が高いことを意味する。
【0030】
実施例1〜5、比較例1及び参考例1
実施例1〜5、比較例1及び参考例1では、前記製造例に準じて得たマスターバッチを用いた。なお、下記の表1及び表2には耐加水分解性における酸化防止剤(A1)の保持率(%)が記載されている。表1及び表2において、PEはポリエチレンを表し、酸化防止剤(A1)とその他の化合物の添加率は、ポリエチレンを100重量部としたときの部数(重量部)で表した。表1中におけるN.Dは、データを取得していないことを示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例6〜10、比較例2〜3及び参考例2
実施例6〜10、比較例2〜3及び参考例2では、実施例1〜5、比較例1及び参考例1に準じて得たマスターバッチを用いた。また、樹脂組成物の熱酸化に対する安定性については、実施例1〜5、比較例1及び参考例1に準じて行った。
マスターバッチの組成を下表2に示す。また、このマスターバッチと原料ポリエチレン(PE)とから製品ポリエチレンを得た。上記原料ポリエチレンの組成を下表3に示す。
以下、マスターバッチをMBと略称することがある。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
実施例11
前記ポリオレフィン樹脂の製造例におけるポリエチレンをポリスチレン(PS)に変更し、且つラボプラストミルにおける混練温度を200℃に変更した以外は上記の製造例と同様にしてポリスチレン樹脂用のマスターバッチを製造した。該ポリスチレン樹脂用マスターバッチを50℃、相対湿度80%の条件下で2週間保存した。保存後のマスターバッチからの樹脂組成物の製造例におけるラボプラストミルの混練温度を200℃に変更する以外は前述した例と同様にして、ポリスチレン樹脂組成物を製造した。得られたポリスチレン樹脂組成物の安定性を、ポリエチレン樹脂組成物の場合と同様にして測定した。
【0037】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により得られる樹脂用マスターバッチは、酸化防止剤(1)の耐加水分解性が向上したものである。また、上記マスターバッチを用いて得られるポリオレフィン樹脂やポリスチレン系樹脂は、溶融混練時に優れた酸化防止性能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂の100重量部当り、次の(A)の1.5重量部〜100重量部と、次の(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の0.01〜1重量部とを含み、
(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の含有量が、(A)10重量部に対して0.1重量部以上且つ(A)2重量部に対して0.2重量部未満であることを特徴とするポリオレフィン樹脂用マスターバッチ。
(A) 下式(1)で示される酸化防止剤
(B) ハイドロタルサイト系化合物
(C) 高級脂肪酸の周期律表第II族金属塩

(1)
[式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子又は−CHR6−基を表す。R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を表す。
Aは炭素数2〜8のアルキレン基又は*−COR7−基を表す。R7は単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基を表し、*印を付した−COR7−基は式(1)におけるフォスファイト構造の酸素原子と結合していることを表す。上記の炭素数2〜8のアルキレン基における炭素−炭素結合は、酸素原子、硫黄原子、−NH−、−OCO−又は−COO−で中断されていてもよい。
Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、他方が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。但し、Yがヒドロキシル基であるときは、R及びRの一方は炭素数3〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を表す。
また、式(1)における2個のRは互いに同一でもよく、異なってもよい。さらに、式(1)における2個のRは互いに同一でもよく、異なってもよい。そして、式(1)における2個のRは互いに同一でもよく、異なってもよい。]
【請求項2】
式(1)で示される酸化防止剤が、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピンである請求項1に記載のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ。
【請求項3】
(C)が、ステアリン酸カルシウムである請求項1又は2に記載のポリオレフィン樹脂用マスターバッチ。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂と、該ポリオレフィン樹脂の100重量部当り、請求項1記載の(A)の1.5重量部〜100重量部と、請求項1記載の(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の0.01〜1重量部とを配合し(ただし、(B)及び(C)からなる群より選ばれる1種以上の化合物の含有量が、(A)10重量部に対して0.1重量部以上且つ(A)2重量部に対して0.2重量部未満である)、溶融混練することを特徴とするポリオレフィン樹脂用マスターバッチの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法で製造される樹脂用マスターバッチ。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂と請求項1に記載のポリオレフィン樹脂用マスターバッチを配合し、溶融混練することによって製造されるポリオレフィン樹脂。
【請求項7】
ポリオレフィン樹脂100重量部当り、ポリオレフィン樹脂用マスターバッチが0.1〜50重量部の範囲である請求項6に記載のポリオレフィン樹脂。

【公開番号】特開2012−87310(P2012−87310A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264367(P2011−264367)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【分割の表示】特願2005−46663(P2005−46663)の分割
【原出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】