説明

樹脂組成物、成形品、成形品の製造方法

【課題】レーザー溶着特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂を含む組成物を提供する。
【解決手段】(a)チタン化合物を触媒として得られ、かつ、含有チタン濃度がチタン原子として90ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(c)酸化防止剤0.001〜1.5重量部を含む、レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。また、該樹脂組成物を用いた成形品および該成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的性質に優れ、工業用樹脂として広く用いられている。近年、その多様な用途の中には、自動車電装部品(コントロールユニットなど)、各種センサー部品、コネクター部品等のように、電気回路部分を密封する製品にも展開が進んできた。密封する工法としては、接着剤、超音波溶着、熱板溶着などが行われているが、接着剤による工法は、硬化するまでの時間ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題があり、超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージ、摩耗粉やバリの発生による後処理が必要になるなどの問題がある。
一方、レーザーによる溶着は、非接触で摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少ない。しかし、PBT樹脂は、一般にレーザー光の透過率が低いため、薄肉化して対応するしかなく、製品の肉厚設計のマージンが狭かった。このため、レーザー出力を上げると、レーザー入射側の表面での溶融、発煙、接合界面での異常発熱による気泡などの不具合発生の恐れがあった。
【0003】
溶着後の問題としては、耐湿熱下での加水分解性の問題があり、一般に、ポリエステル樹脂は末端カルボキシル基濃度が高いほど耐加水分解性が悪化することが知られている(例えば非特許文献1)。PBT樹脂においても、末端カルボキシル基濃度が高いほど湿熱下での加水分解反応速度が大きく、加水分解による分子量低下、ひいては機械的物性などの低下を招く。特に溶着部は一時的ではあるが、レーザー照射による高温の熱履歴を受けているため、分子量低下が発生し加水分解が進行しやすい。
【0004】
上記の問題を解決するため、溶融重合で得られたPBT樹脂を一旦固化させ、その融点以下の温度で固相重合させることによって、末端カルボキシル基濃度を低減させることが広く行われている(例えば、特許文献1参照)。ところが、通常、溶融重合はPBT樹脂の融点以上で行われるため、固相重合によって末端カルボキシル基濃度を低減させても、成形時に再び末端カルボキシル基濃度の上昇が起こり、成形品になった時点では、固相重合の効果が小さくなってしまうという問題が残る。
【0005】
一方、ポリブチレンテレフタレート系共重合体を用いて、融点をコントロールして溶着条件幅を広くする方法が知られている(特許文献2)。しかしながら、この方法による透過率の向上は小さく、製品の肉厚設計マージンの向上は期待できない。また、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に非晶性樹脂やエラストマーを配合する方法がある(特許文献3および4)。この方法を用いることにより、透過率が向上する場合もあるが、配合や成形条件で透過率が変動しやすいという問題が残る。
【0006】
【非特許文献1】飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(1989年12月22日、日刊工業新聞社発行、第192〜193頁)
【特許文献1】特開平9−316183号公報
【特許文献2】特許第3510817号
【特許文献3】特開2003−292752号公報
【特許文献4】特開2004−315805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、レーザー溶着特性に優れたPBT樹脂を含む組成物(レーザー溶着用PBT樹脂組成物(レーザー溶着剤))、ならびに、該樹脂組成物を用いてなるレーザー溶着により強固に接着した成形品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、特定のPBT樹脂および酸化防止剤を含む組成物を採用することにより、上記の課題を容易に解決し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、要旨は以下の(1)〜(7)の通りである。
(1)(a)チタン化合物を触媒として得られ、かつ、含有チタン濃度がチタン原子として90ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(c)酸化防止剤0.001〜1.5重量部を含む、レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)さらに、(b)強化充填材を含む、(1)に記載の樹脂組成物。
(3)前記(c)酸化防止剤が、(c1)フェノール系酸化防止剤、(c2)イオウ系酸化防止剤および(c3)リン系酸化防止剤から成る群より選ばれる1種以上の酸化防止剤である、(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)前記(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度が40μeq/g以下である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(5)さらに、(d)着色剤を含む、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる部材と、第2の樹脂組成物からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させてなる、成形品。
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる部材と、第2の樹脂組成物からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させる工程を含む、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、熱安定性、耐加水分解性、レーザー透過性等レーザー溶着特性に優れている。従って、本発明の樹脂組成物は、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することができる。さらに、本発明の樹脂組成物を用い、レーザー溶着を行うことにより強固に接着した成形品が提供され、本発明の工業的価値は顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
樹脂組成物
<(a)PBT樹脂>
本発明で用いるPBT樹脂は、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸成分の50mol%以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の50mol%以上が1,4−ブタンジオール単位から成る高分子をいう。全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上、特に好ましくは95mol%以上であり、全ジオール成分中の1,4−ブタンジオール単位の割合は、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上、特に好ましくは95mol%以上である。テレフタル酸単位または1,4−ブタンジオール単位が50mol%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招く。
【0012】
本発明で用いるPBT樹脂における、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分は特に制限はなく用いることができる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、または、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体として、ポリマー骨格に導入できる。これらのジカルボン酸またはその誘導体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明で用いるPBT樹脂における、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分には特に制限はなく用いることができる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることができる。これらのジオール成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明で用いるPBT樹脂においては、さらに、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、tert−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することができる。
【0015】
本発明で用いるPBT樹脂は、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸(またはテレフタル酸ジアルキル)とのエステル化反応(またはエステル交換反応)の際に触媒としてチタン触媒を使用して得られうるものである。
【0016】
チタン触媒としては、チタン化合物が使用され、その具体例としては、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、テトラブチルチタネートがより好ましい。
【0017】
チタン触媒に併せて、スズ触媒が併用されていてもよい。スズは、スズ化合物として使用され、その具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などが挙げられる。
【0018】
さらに、チタン触媒に併せて、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物の他、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、それらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウムなどの反応助剤を使用してもよい。
【0019】
本発明で用いるPBT樹脂は、チタン化合物を触媒として得られるPBT樹脂であって、含有量がチタン原子として90ppm以下、好ましくは60ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下のPBT樹脂である。チタン含有量は、PBT樹脂に対する原子の重量比である。
上記のチタン含有量の下限は、好ましくは1ppm、より好ましくは3ppm、さらに好ましくは5ppm、特に好ましくは8ppm、一層好ましくは15ppmである。
チタンの含有量が90ppmより多いと、色調、耐加水分解性、透明性、成形性などが悪化し、しかも、異物も増加する。また、チタンの含量を、1ppm以上とすることにより、重合性が良好になる傾向にある。
【0020】
本発明においては、前述の通り、チタン触媒に併せてスズ触媒を使用することができる。一般的に、スズ触媒は、チタン触媒に比べて触媒能が低いため、チタン触媒に比べ添加量を多くする必要がある。しかしながら、スズ触媒の使用量が多過ぎると色調が悪化する傾向にあり、また、スズは毒性もある。従って、スズ触媒の用量は、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下であり、最も好ましくはスズ触媒を使用しないことである。
チタン原子などの含有量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することができる。
【0021】
本発明で用いるPBT樹脂の固有粘度は、好ましくは0.60〜2.00dL/g、より好ましくは0.65〜1.50dL/g、さらに好ましくは0.68〜1.30dL/gである。固有粘度を0.60dL/g以上とすることにより、成形品の機械的強度がより良好なものとなり、2.00dL/g以下とすることにより、溶融粘度が高くなり過ぎて流動性が悪化し、成形性が悪化するのをより効果的に抑止できる傾向にある。上記の固有粘度は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、固有粘度の異なる2種以上のPBT樹脂を含んでいてもよい。この場合、使用する2以上のPBT樹脂の固有粘度は、何れも上記範囲内であることが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物としての固有粘度も上記の範囲内であることが好ましい。例えば、固有粘度が0.6〜0.90dL/gのPBT樹脂と固有粘度が0.91〜1.5dL/gのPBT樹脂とを重量比で5:95〜95:5の割合で混合して使用することが例示される。
【0023】
本発明で用いるPBT樹脂の末端カルボキシル基濃度は、好ましくは、40μeq/g以下、より好ましくは35μeq/g以下、さらに好ましくは33μeq/g以下、特に好ましくは30μeq/g以下とされる。また、下限としては、好ましくは、0.1μeq/g以上、より好ましくは1μeq/g以上である。末端カルボキシル基濃度を40μeq/g以下とすることにより、PBT樹脂の耐加水分解性の悪化を抑止できる傾向にある。末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎮剤を反応させる方法などを適用すればよい。
【0024】
また、PBT樹脂の末端カルボキシル基濃度が低い場合であっても、混練時や成形時の熱により末端カルボキシル基濃度が上昇すると、結果的に成形品(製品)の耐加水分解性を悪化させるだけでなく、混練、成形時の樹脂溶融状態においてテトラヒドロフラン(THF)等のガスの発生を招く。この様な成形品の耐加水分解性の低下や、溶融時のガス発生を抑止するためには、溶融時における末端カルボキシル基濃度の上昇がより少ないPBT樹脂を用いることが好ましい。具体的には、樹脂中の水分を500ppm以下に乾燥させた後、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、245℃で40分間熱処理した際の末端カルボキシル基濃度の上昇が、好ましくは0.1〜30μeq/g、より好ましくは1〜10μeq/g、さらに好ましくは1〜8μeq/gであるPBT樹脂を用いることが好ましい。一般的には、触媒物質の含有量が低い方が、また、分子量が高い方が、熱を加えた際の末端カルボキシル基濃度の上昇が小さい傾向にある。
なお、上記の評価法において水分濃度を規定したのは、水分濃度が高いと加水分解反応が起こって、正確な分解挙動を把握できないからであり、また温度や時間を規定したのは、温度が低すぎたり時間が短すぎたりすると末端カルボキシル基濃度の上昇の速度が小さすぎ、逆の場合は大きすぎて評価が不正確になるためである。また、極端に高い温度で評価すると、末端カルボキシル基が生成する以外の副反応が併発し、評価が不正確になることも理由の1つである。
【0025】
PBT樹脂の末端カルボキシル基濃度は、PBT樹脂を有機溶媒などに溶解し、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を使用して滴定することにより求めることができる。
【0026】
本発明で用いるPBT樹脂の溶液ヘイズは、特に制限されないが、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(重量比3/2)20mLにPBT樹脂2.7gを溶解させて測定した際の溶液ヘイズとして、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下、最も好ましくは0.5%以下とされる。溶液ヘイズを10%以下とすることにより、異物がより減少し、透過率もより良好となる傾向がある。溶液ヘイズは、触媒含有量が多かったり、触媒の失活が大きい場合に上昇する傾向がある。
【0027】
次に、本発明で用いるPBT樹脂の製造方法について説明する。本発明で用いるPBT樹脂は、例えば、特開2004−307794号公報の記載に従って製造することができる。
具体的には、PBT樹脂の製造方法は、原料面から、ジカルボン酸を主原料として使用するいわゆる直接重合法と、ジカルボン酸ジアルキルを主原料として使用するエステル交換法とに大別される。前者は初期のエステル化反応で水が生成し、後者は初期のエステル交換反応でアルコールが生成するという違いがある。
【0028】
また、PBT樹脂の製造方法は、原料供給またはポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0029】
本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、原料の入手安定性、留出物の処理の容易さ、原料コストの高さ、本発明の効果をより顕著に発揮させるという観点から、直接重合法が好ましい。また、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、生産性や製品品質の安定性、本発明による改良効果の観点から、連続的に原料を供給し、連続的にエステル化反応またはエステル交換反応を行う方法を採用することが好ましい。そして、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、エステル化反応またはエステル交換反応に続く重縮合反応も連続的に行ういわゆる連続法を採用することが好ましい。
【0030】
本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、エステル化反応槽にて、チタン触媒の存在下、少なくとも一部の1,4−ブタンジオールをテレフタル酸(またはテレフタル酸ジアルキル)とは独立にエステル化反応槽(またはエステル交換反応槽)に供給しながら、テレフタル酸(またはテレフタル酸ジアルキル)と1,4−ブタンジオールとを連続的にエステル化(またはエステル交換)する工程が好ましく採用される。
【0031】
すなわち、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、触媒に由来するヘイズや異物を低減し、触媒活性を低下させないため、原料スラリーまたは溶液として、テレフタル酸またはテレフタル酸ジアルキルエステルと共に供給される1,4−ブタンジオールとは別に、しかも、テレフタル酸またはテレフタル酸ジアルキルとは独立に1,4−ブタンジオールをエステル化反応槽またはエステル交換反応槽に供給することが好ましい。以後、当該1,4−ブタンジオールを「別供給1,4−ブタンジオール」と称することがある。
【0032】
上記の「別供給1,4−ブタンジオール」には、プロセスとは無関係の新鮮な1,4−ブタンジオールを当てることができる。また、「別供給1,4−ブタンジオール」は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽から留出した1,4−ブタンジオールをコンデンサ等で捕集し、そのまま、または、一時タンク等へ保持して反応槽に還流させたり、不純物を分離、精製して純度を高めた1,4−ブタンジオールとして供給することもできる。以後、コンデンサ等で捕集された1,4−ブタンジオールから構成される「別供給1,4−ブタンジオール」を「再循環1,4−ブタンジオール」と称することがある。資源の有効活用、設備の単純さの観点からは、「再循環1,4−ブタンジオール」を「別供給1,4−ブタンジオール」に当てることが好ましい。
【0033】
また、通常、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽より留出した1,4−ブタンジオールは、1,4−ブタンジオール成分以外に、水、アルコール、THF、ジヒドロフラン等の成分を含んでいる。従って、上記の留出した1,4−ブタンジオールは、コンデンサ等で捕集した後、または、捕集しながら、水、アルコール、テトラヒドロフラン等の成分と分離・精製し、反応槽に戻すことが好ましい。
【0034】
そして、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、「別供給1,4−ブタンジオール」の内、10重量%以上を反応液液相部に直接戻すことが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽中の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接戻すとは、配管などを使用して「別供給1,4−ブタンジオール」が気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接戻す割合は、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。反応液液相部に直接戻す「別供給1,4−ブタンジオール」を30重量%以上とすることにより、異物をより少なくできる傾向にある。
【0035】
また、反応器に戻す際の「別供給1,4−ブタンジオール」の温度は、通常50〜220℃、好ましくは100〜200℃、さらに好ましくは150〜190℃とされる。「別供給1,4−ブタンジオール」の温度が高過ぎる場合はTHFの副生量が多くなる傾向にあり、低過ぎる場合は熱負荷が増すためエネルギーロスを招く傾向がある。
【0036】
また、本発明で用いるPBT樹脂の製造においては、触媒に由来するヘイズや異物を低減し、触媒活性を低下させないため、エステル化反応(またはエステル交換反応)に使用されるチタン触媒の内、10重量%以上をテレフタル酸(またはテレフタル酸ジアルキル)とは独立に反応液液相部に直接供給することが好ましい。ここで、反応液液相部とは、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽中の気液界面の液相側を示し、反応液液相部に直接供給するとは、配管などを使用し、チタン触媒が反応器の気相部を経由せずに直接液相部分に供給されることを表す。反応液液相部に直接供給するチタン触媒の割合は、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。
【0037】
上記のチタン触媒は、溶媒などに溶解させたり、溶解させずに直接エステル化反応槽またはエステル交換反応槽の反応液液相部に供給することもできるが、供給量を安定化させ、反応器の熱媒ジャケット等からの熱による変性などの悪影響を軽減するためには、1,4−ブタンジオール等の溶媒で希釈することが好ましい。この際の濃度は、溶液全体に対するチタン触媒の濃度として、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.08〜8重量%とされる。また、より異物を低減する観点から、溶液中の水分濃度は、通常0.05〜1.0重量%とされる。溶液調製の際の温度は、失活や凝集を防ぐ観点から、通常20〜150℃、好ましくは30〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃とされる。また、触媒溶液は、劣化防止、析出防止、異物抑制の点から、別供給1,4−ブタンジオールと配管などで混合してエステル化反応槽またはエステル交換反応槽に供給することが好ましい。
【0038】
直接重合法を採用した連続法の一例は、次の通りである。すなわち、テレフタル酸単位を主成分とする前記ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオール単位を主成分とする前記ジオール成分とを原料混合槽で混合してスラリーとし、単数または複数のエステル化反応槽内で、チタン触媒の存在下、通常180〜260℃、好ましくは200〜245℃、さらに好ましくは210〜235℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜101kPa、さらに好ましくは60〜90kPaの圧力下で、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間で、連続的にエステル化反応させ、得られたエステル化反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、単数または複数の重縮合反応槽内で、重縮合触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、さらに好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に、通常2〜10時間、好ましくは2〜5時間で重縮合反応させる。重縮合反応により得られたポリマーは、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながらまたは水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
【0039】
エステル交換法を採用した連続法の一例は、次の通りである。すなわち、単数または複数のエステル交換反応槽内で、チタン触媒の存在下に、通常110〜260℃、好ましくは140〜245℃、さらに好ましくは180〜220℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜120kPa、さらに好ましくは60〜101kPaの圧力下で、通常0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間で、連続的にエステル交換反応させ、得られたエステル交換反応生成物としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送し、単数または複数の重縮合反応槽内で、重縮合反応触媒の存在下に、好ましくは連続的に、通常210〜280℃、好ましくは220〜265℃の温度、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、さらに好ましくは13kPa以下の減圧下で、攪拌下に、通常2〜12時間、好ましくは3〜10時間で重縮合反応させる。
【0040】
<(b)強化充填材>
本発明のPBT樹脂組成物には、強化充填材を配合してもよい。強化充填材としては、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などが挙げられる。これらの強化充填材は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。上記の強化充填材の中では、無機充填材、特にガラス繊維が好適に使用される。
【0041】
(b)強化充填材が無機繊維または有機繊維である場合、その平均繊維径は、特に制限されないが、好ましくは1〜100μm、より好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは3〜30μm、特に好ましくは5〜20μmである。また、平均繊維長は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜20mm、より好ましくは1〜10mmである。
【0042】
(b)強化充填材は、PBT樹脂との界面密着性を向上させるため、収束剤または表面処理剤で表面処理して使用してもよい。収束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。強化充填材は、収束剤または表面処理剤により予め表面処理しておくことができ、または、PBT樹脂組成物の調製の際に、収束剤または表面処理剤を添加して表面処理することもできる。強化充填材の添加量は、PBT樹脂100重量部に対し、好ましくは100重量部以下、より好ましくは5〜70重量部である。
【0043】
本発明のPBT樹脂組成物には、強化充填材と共に他の充填材を配合することができる。配合する他の充填材としては、例えば、板状無機充填材、セラミックビーズ、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。板状無機充填材を配合することにより、成形品の異方性およびソリを低減することができる。板状無機充填材としては、例えば、ガラスフレーク、雲母、金属箔等を挙げることができる。これらの中ではガラスフレークが好適に使用される。
【0044】
<(c)酸化防止剤>
本発明のPBT樹脂組成物には、(c)酸化防止剤を含める。酸化防止剤としては、(c1)フェノール系酸化防止剤、(c2)イオウ系酸化防止剤及び(c3)リン系酸化防止剤から成る群より選ばれる1種以上の酸化防止剤を配合することが好ましい。
酸化防止剤の配合量は、合計配合量が、(a)PBT樹脂100重量部に対し、0.001〜1.5重量部であり、好ましくは0.03〜1重量部である。
【0045】
本発明で用いる(c1)フェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基を有する酸化防止剤をいう。(c1)フェノール系酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、フェノール性ヒドロキシル基が結合した芳香環の炭素原子に隣接する1個または2個の炭素原子が、炭素原子数4以上の置換基により置換されている酸化防止剤をいう。炭素原子数4以上の置換基は、芳香環の炭素原子と炭素−炭素結合により結合していてもよく、炭素以外の原子を介して結合していてもよい。
【0046】
本発明で用いる(c1)フェノール系酸化防止剤としては、p−シクロヘキシルフェノール、3−t−ブチル−4−メトキシフェノール、4,4'−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の非ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、4−ヒドロキシメチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2'−メチレンビス[4−メチル−6−(1,3,5−トリメチルヘキシル)フェノール]、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−3−t−ブチル−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1,3−トリス[2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル]ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス[3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル]ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2'−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、チオビス(β−ナフトール)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、それ自体安定ラジカルとなり易いためにラジカルトラップ剤として好適に使用することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0047】
(c1)フェノール系酸化防止剤の配合量は、(a)PBT樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部、より好ましくは0.03〜1重量部である。フェノール系酸化防止剤の含有量を0.001重量部以上とすることにより、酸化防止効果がより良好に発揮され、1.5重量部以下とすることにより、酸化熱安定性が悪化するのをより抑止する傾向にあるとともに、溶融混練時の樹脂の分解をより起こりにくくすることが可能になる。
【0048】
本発明で用いる(c2)イオウ系酸化防止剤は、イオウ原子を有する酸化防止剤をいい、例えば、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、好適に用いることができる。
イオウ系酸化防止剤の分子量は、通常200以上、好ましくは500以上であり、その上限は通常3000である。
【0049】
本発明で用いる(c3)リン系酸化防止剤は、リン原子を有する酸化防止剤をいい、P(OR)3構造を有する酸化防止剤であることが好ましい。ここで、Rは、アルキル基、アルキレン基、アリール基またはアリーレン基であることが好ましく、3個のRは同一でも異なっていてもよく、任意の2個のRが互いに結合して環構造を形成していてもよい。
(c3)リン系酸化防止剤としては、具体的には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0050】
(c2)イオウ系酸化防止剤及び/又は(c3)リン系酸化防止剤は、本発明のPBT樹脂組成物の耐熱老化性をより効果的に改良し、色調、引張強度、伸度などの保持率をより向上させる効果を有する。本発明のPBT樹脂組成物において、(c2)イオウ系酸化防止剤及び(c3)リン系酸化防止剤の含有量は、それぞれ、(a)PBT樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1.5重量部であり、より好ましくは0.03〜1重量部である。酸化防止剤の含有量を0.001重量部以上とすることにより酸化防止効果がより良好に発揮され、1.5重量部以下とすることにより、酸化熱安定性が悪化するのをより抑止するとともに、溶融混練時の樹脂の分解をより起こりにくくすることが可能になる。
【0051】
<(d)着色剤>
本発明のPBT樹脂組成物には、染料・顔料等の(d)着色剤を配合してもよい。
染料としては、アンスラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、モノアゾ系、メチン系、フタロシアニン系などの油溶性染料や分散染料を好ましく用いることができる。
顔料としては、無機顔料および有機顔料のいずれも好ましく用いることができる。無機顔料としては、酸化物、硫化物、硫酸塩、カーボンブラックなどを挙げることができる。有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系などを挙げることができる。
(d)着色剤の配合量は、(a)PBT樹脂100重量部に対し、好ましくは0.005〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。
【0052】
<その他の添加剤>
本発明のPBT樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、他の添加剤を添加してもよい。
他の添加剤としては、難燃剤、耐熱安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤等を挙げることができる。これらの添加剤は、(a)PBT樹脂の重合途中または重合後に添加することができる。さらに、(a)PBT樹脂に、所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤等を配合してもよい。
【0053】
難燃剤の種類等は、特に制限されないが、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダが挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リンが挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物が挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物が挙げられる。
【0054】
これらの添加剤の配合量は、(a)PBT樹脂100重量部に対し、好ましくは10〜50重量部である。
【0055】
本発明のPBT樹脂組成物には、上記のほか、さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合してもよい。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの樹脂の配合量は、(a)PBT樹脂100重量部に対し、好ましくは0.1〜50重量部である。
【0056】
前記種々の添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給してもよいし、順次供給してもよい。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておいてもよい。
【0057】
本発明のPBT樹脂組成物の成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することが出来る。この場合、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を240〜280℃にコントロールするのが好ましい。
【0058】
本発明のPBT樹脂組成物は、レーザー溶着特性に優れたPBT樹脂部材として用いることができる。特に、PBT樹脂を主成分とする部材同士を強固に接着させることができ、2以上のPBT樹脂部材を有する成形品を製造するのに好ましく用いることができる。
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面の接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。
レーザー溶着では、レーザー透過性のある部材を透過したレーザー光が、レーザー吸収性のある部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。本発明のPBT樹脂組成物は、レーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部材として、好ましく用いることができる。ここで、該レーザーが透過する部材の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、用途、組成物の組成その他を勘案して適宜定めることができるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
【0059】
本発明のレーザー溶着に用いるレーザー光源としては、例えば、Arレーザ(510nm)、He−Neレーザー(630nm)、CO2レーザー(10600nm)などの気体レーザー、色素レーザー(400〜700nm)などの液体レーザー、YAGレーザー(1064nm)などの固体レーザーや、半導体レーザー(655〜980nm)等が利用できる。ビーム品質、コストの点で、半導体レーザーが好ましく用いられる。また、溶着相手材の種類によって、適宜レーザー種を選択することもできる。
【0060】
より具体的には、例えば、本発明のPBT樹脂組成物からなる部材と第2の樹脂組成物からなる部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、本発明のPBT樹脂組成物からなる部材側からレーザー光を照射(好ましくは接着面に垂直に照射)する。この時、必要によりレンズ系を利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。そのビームは本発明のPBT樹脂組成物からなる部材中を透過し、第2の樹脂組成物からなる部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は 熱伝導によって本発明のPBT樹脂組成物からなる部材側にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして部材同士を溶着させた成形品は、高い接合強度を有する。尚、本発明における成形品とは、少なくとも2以上の部材を溶着させたものをいい、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0061】
第2の樹脂組成物からなる部材は、少なくとも樹脂を含み、かつ、本発明のPBT樹脂組成物からなる部材と溶着可能なものであれば特に制限されない。第2の樹脂組成物に含まれる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などが挙げられ、相溶性が良好な点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく用いられる。また、第2の樹脂組成物は、1種または2種類以上の樹脂から構成されていてもよい。さらに、本発明のPBT樹脂組成物であってもよい。
また、第2の樹脂組成物に含まれる樹脂は、照射するレーザー光波長の範囲内に吸収波長を持つものも好ましい。さらに、第2の樹脂組成物に、光吸収剤、例えば着色顔料等を添加含有させることにより、その吸収特性を発現させてもよい。前記着色顔料としては、例えば、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。中でも無機顔料は、一般に隠ぺい力が強く、レーザー吸収側の第2の樹脂組成物により好ましく用いることができる。これらの光吸収剤は単独でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの光吸収剤の配合量は、樹脂成分100重量部に対し、0.01〜1重量部であることが好ましい。
【0062】
本発明で得られた成形品は、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品などに適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
【0064】
(1)PBT樹脂中のチタン濃度
電子工業用高純度硫酸および硝酸でPBT樹脂を湿式分解し、高分解能ICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer )(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0065】
(2)固有粘度(IV)
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、次式より求めた。
【0066】
[IV]=((1+4KHηsp0.5−1)/(2KHC)
上記式中、ηsp=(η/η0)−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
【0067】
(3)末端カルボキシル基濃度
ベンジルアルコール25mLにPBT樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01mol/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0068】
(4)溶液ヘイズ(溶液Haze)
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合溶媒20mLにPBT樹脂2.70gを110℃で30分間溶解させた後、30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色(株)製濁度計(NDH−300A)を使用し、セル長10mmで測定した。値が低いほど透明性が良好であることを示す。
【0069】
(5)光線透過率
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SE−50D)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で成形した、実施例または比較例の樹脂組成物からなる13×125mm、厚さ2mmtの平板を作製した。この基板について、可視・紫外分光光度計(島津製作所製:UV-3100PC)で光線透過率を測定した。光線透過率は、近赤外領域800〜1100nmの透過光強度と入射光強度の比を100分率で表した。
【0070】
(6)耐熱老化性
射出成形機(住友重機械(株)製:型式SG−75MIII)を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、実施例または比較例の樹脂組成物からなるISO試験片を作製した。さらに、該ISO試験片を150℃熱風オーブン中で500時間処理した。
これらのISO試験片について、色調b値、引張強度、引張破断伸度を測定した。b値(イエローインデックス)は、値が低いほど黄ばみが少なく色調が良好であることを示す。b値の測定は、分光測色計(コニカミノルタ社:CM-3600d)を用いて、ISO試験片チャック部中心部を測定した。次式に従い、Δb(b値の増加)を求めた。
Δb=(処理後のISO試験片のb値)−(処理前のISO試験片のb値)
さらに、ISO527に従い、処理前後のISO試験片の引張強度および引張破断伸度を測定した。
また、次式に従い、引張強度保持率を求めた。
引張強度保持率(%)=(処理後の引張強度/処理前の引張強度)×100
【0071】
(7)耐加水分解性
上記ISO引張試験片を、121℃、飽和水蒸気中、203kPaで、所定時間湿熱処理した。処理前後のISO引張試験片の引張強度をISO527に従って測定し、強度保持率を求めた。湿熱処理は、強化充填材を含まない樹脂組成物を用いた場合(実施例1〜7、比較例1〜3)、60時間、強化充填材を含む樹脂組成物を用いた場合(実施例8、9、比較例4、5)、100時間とした。
【0072】
(8)レーザー溶着強度評価
図1に示すように、試験片を重ね合わせ、レーザー照射を行った。図1中、(a)は試験片を側面から見た図を、(b)は試験片を上方から見た図をそれぞれ示している。1は実施例または比較例の樹脂組成物からなる試験片を、2は接合する相手材である第2の樹脂組成物からなる試験片を、3はレーザー照射箇所を、それぞれ示している。
光線透過率測定で使用した樹脂組成物からなる試験片1をレーザー透過側、第2の樹脂組成物からなる試験片2をレーザー吸収側として重ね合わせ、透過側からレーザーを照射した。レーザー溶着装置は、ファインデバイス社製 FD−100、レーザー光波長は840nm、焦点スポット径は0.6mmとした。
強化充填材を含まない樹脂組成物の場合(実施例1〜7、比較例1〜3)、レーザー出力15W、走査速度4mm/secで、強化充填材を含む材料の場合(実施例8、9、比較例4、5)、レーザー出力20W、走査速度4mm/secで走査して幅方向(13mm)に照射した。レーザー溶着強度測定は、引張試験機(インストロン社製5544型)を使用し、引張速度は5mm/secで評価した。引張強度は、溶着部の引張せん断破壊強度で示した。
試験片は、射出成形機(住友重機械(株)製:型式SE−50D)を使用し、本発明または実施例の樹脂組成物および第2の樹脂組成物を、それぞれ、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、それぞれ、13×125mm、厚さ2mmtの平板に成形したものを用いた。
【0073】
[原材料]
(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)
(a1)PBT樹脂a1の製造方法
特開2004−307794号公報の段落番号0081〜0083および図1に示されるエステル化工程、ならびに、同公報の段落番号0087および図4に示される重縮合工程に従い、次の要領でPBT樹脂を製造した。
先ず、テレフタル酸1.00molに対して、1,4−ブタンジオール1.80molの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ラインを通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応槽に、41kg/1時間(以下、「h」と示す)となる様に連続的に供給した。
同時に、再循環ラインから185℃の精留塔の塔底成分を17.2kg/hで供給し、触媒供給ラインから触媒として65℃のテトラブチルチタネート6.0重量%含有1,4−ブタンジオール溶液を97g/hで供給した。この供給量は、理論ポリマー収量に対し30ppmである。この溶液中の水分は0.20重量%であった。
【0074】
反応槽の内温は230℃、圧力は78kPaとし、生成する水とテトラヒドロフランおよび余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ラインから留出させ、精留塔で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔の液面が一定になる様に、抜出ラインを通じてその一部を外部に抜き出した。一方、低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサで凝縮させ、タンクの液面が一定になる様に、抜出ラインより外部に抜き出した。
【0075】
反応槽で生成したオリゴマーの一定量は、ポンプを使用し、抜出ラインから抜き出し、反応槽内液の平均滞留時間が3.3時間になる様に液面を制御した。抜出ラインから抜き出したオリゴマーは、第1重縮合反応槽に連続的に供給した。系が安定した後、反応槽の出口で採取したオリゴマーのエステル化率は97.5%であった。
【0076】
第1重縮合反応槽の内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機に接続されたベントラインから、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽に連続的に供給した。
【0077】
第2重縮合反応槽の内温は245℃、圧力130Paとし、滞留時間が90分になる様に液面制御を行い、減圧機に接続されたベントラインから、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、さらに重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプにより抜出ラインを経由し、ダイスヘッドからストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターでカッティングした。
【0078】
得られたポリマーの(2)固有粘度(IV)は0.85、(3)末端カルボキシル基濃度は12.2μeq/gであった。他の分析値はまとめて表1に示した。異物が少なく、色調に優れ、透明性が良好で熱安定性に優れたPBT樹脂が得られた。
【0079】
(a2)PBT樹脂a2の製造方法
(a1)において、特開2004−307794号公報の段落番号0089および図6に示される重縮合工程を採用した以外は(a1)と同様に行った。この際、第2重縮合反応槽までは(a1)と同様の条件で行い、第3重縮合反応槽の内温は240℃、圧力は130Pa、滞留時間は60分とした。異物が少なく、色調に優れ、透明性が良好で熱安定性に優れ、(a1)よりも分子量が高いPBT樹脂が得られた。分析値はまとめて表1に示した。
【0080】
(a3)PBT樹脂a3の製造方法
タービン型攪拌翼を具備した内容積200Lのステンレス製反応容器に、テレフタル酸ジメチル(DMT)272.9mol、1,4−ブタンジオール327.5mol、テトラブチルチタネート0.101mol(チタン量として理論収量ポリマー当たり100ppm)を仕込み十分窒素置換させた。続いて、系を昇温し、60分後に温度210℃、窒素下大気圧で、生成するメタノール、1,4−ブタンジオール、THFを系外に留出させながら、2時間エステル交換反応させた。尚、反応開始時間は、所定温度、所定圧力に達した時点とした。
【0081】
ベント管およびダブルヘリカル型攪拌翼を有する内容積200Lのステンレス製反応器に、上記で得られたオリゴマーを移送した後、温度245℃、圧力100Paまで60分かけて到達させ、その状態のまま2時間重縮合反応を行った。反応終了後、ポリマーをストランド状に抜き出し、ペレット状に切断した。得られたポリマーの(2)固有粘度は1.26、(3)末端カルボキシル基濃度は19.7μeq/gであった。分析値はまとめて表1に示した。
【0082】
(a4)PBT樹脂a4の製造方法(比較例)
タービン型攪拌翼を具備した内容積200Lのステンレス製反応容器に、テレフタル酸272.9mol、1,4−ブタンジオール491.3mol、テトラブチルチタネート0.126mol(チタン量として理論収量ポリマー当たり100ppm)を仕込み十分窒素置換させた。続いて、系を昇温し、60分後に温度220℃、圧力80kPaに到達させ、生成する水およびTHF、余剰の1,4−ブタンジオールを系外に留出させながら、2.0時間エステル化反応させた。尚、反応開始時間は、所定温度、所定圧力に達した時点とした。この時点で一部試料を採取しエステル化率を測定したところ、99%であった。
【0083】
ベント管およびダブルヘリカル型攪拌翼を有する内容積200Lのステンレス製反応器に、上記で得られたオリゴマーを移送した後、温度245℃、圧力100Paまで60分かけて到達させ、その状態のまま1.5時間重縮合反応を行った。反応終了後、ポリマーをストランド状に抜き出し、ペレット状に切断した。得られたポリマーの(2)固有粘度は0.85、(3)末端カルボキシル基濃度は44.5μeq/gと高く、熱安定性にも劣っていた。分析値はまとめて表1に示した
【0084】
(a5)PBT樹脂a5の製造方法(比較例)
タービン型攪拌翼を具備した内容積200Lのステンレス製反応容器に、テレフタル酸ジメチル(DMT)272.9mol、1,4−ブタンジオール327.5mol、テトラブチルチタネート0.126molを仕込み十分窒素置換させた。尚、チタン量として理論収量ポリマー当たり100ppmとした。続いて、系を昇温し、60分後に温度210℃、窒素下大気圧で、生成するメタノール、1,4−ブタンジオール、THFを系外に留出させながら、2時間エステル交換反応させた。反応開始時間は、所定温度、所定圧力に達した時点とした。
【0085】
ベント管およびダブルヘリカル型攪拌翼を有する内容積200Lのステンレス製反応器に、上記で得られたオリゴマーを移送した後、温度245℃、圧力100Paまで60分かけて到達させ、その状態のまま1.5時間重縮合反応を行った。反応終了後、ポリマーをストランド状に抜き出し、ペレット状に切断した。得られたポリマーの(2)固有粘度は0.85、(3)末端カルボキシル基濃度は37.4μeq/gと高く、熱安定性にも劣っていた。分析値はまとめて表1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
(b)強化充填材:ガラス繊維(日本電気硝子製、T−187、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
【0088】
(c)酸化防止剤
(c1)ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:Irganox1010)
(c2)ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)(シプロ化成(株)製、商品名:SEENOX412S)
(c3)ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業(株)製、商品名:アデカスタブPEP36)
【0089】
(d)着色剤:メチン系の油溶性染料を含む着色剤と、PBT樹脂を配合して製造された熱可塑性樹脂(マスターバッチ)(オリヱント化学工業製eBIND LTW−8950C)
【0090】
第2の樹脂組成物:後述する実施例8のPBT樹脂組成物にカーボンブラックをPBT樹脂100重量部に対し、0.6重量部配合したものを用いた。
【0091】
[実施例1〜7、比較例1〜3]
(a)PBT樹脂および(c)酸化防止剤、さらに、必要に応じて、(d)着色剤を表2に示した比率となるよう配合し、シリンダー温度を250℃に設定したニ軸押出機(日本製鋼所製:TEX30C)により溶融混練した。評価結果も表2に示した。
【0092】
【表2】

【0093】
表2に示したとおり、(1)チタン濃度が90ppm以下であり、(3)末端カルボキシル基濃度が40ppm以下あり、さらに、PBT樹脂の(4)溶液Hazeが10ppm以下のPBT樹脂を使用し、特定の酸化防止剤を配合することによって、レーザー透過率に優れ、耐熱老化性、耐加水分解性に優れた樹脂組成物を得ることができた。この樹脂組成物を使用することにより、他の部材と容易にレーザー溶着が可能であることが確認された。
【0094】
[実施例8、9、比較例4、5]
(a)PBT樹脂、(b)強化充填材、(c)酸化防止剤、必要に応じ(d)着色剤を表3に示した比率となるよう配合し、シリンダー温度を250℃に設定したニ軸押出機(日本製鋼所製:TEX30C)により溶融混練した。評価結果も表3に示した。
【0095】
【表3】

【0096】
表3中、Xは溶着しなかったことを示している。表3に示したとおり、(b)強化充填材を添加しても、(1)チタン濃度が90ppm以下であり、(3)末端カルボキシル基濃度が40ppm以下であり、さらに、PBT樹脂の(4)溶液Hazeが10ppm以下のPBT樹脂を使用し、特定の酸化防止剤を配合することによって、レーザー透過率に優れ、耐熱老化性、耐加水分解性に優れた樹脂組成物を得ることができた。この樹脂組成物を使用することにより、他の部材と容易にレーザー溶着が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、レーザー溶着強度試験における、試験片の重ね合わせおよびレーザーの照射位置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0098】
1 本発明のPBT樹脂組成物からなる試験片
2 第2の樹脂組成物からなる試験片
3 レーザー照射箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)チタン化合物を触媒として得られ、かつ、含有チタン濃度がチタン原子として90ppm以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(c)酸化防止剤0.001〜1.5重量部を含む、レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(b)強化充填材を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)酸化防止剤が、(c1)フェノール系酸化防止剤、(c2)イオウ系酸化防止剤および(c3)リン系酸化防止剤から成る群より選ばれる1種以上の酸化防止剤である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(a)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基濃度が40μeq/g以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(d)着色剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる部材と、第2の樹脂組成物からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させてなる、成形品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる部材と、第2の樹脂組成物からなる部材を、レーザー光を用いて溶着させる工程を含む、成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−186553(P2007−186553A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4143(P2006−4143)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】