説明

樹脂組成物、樹脂付き金属箔及び多層プリント回路板

【課題】 本発明の目的は、誘電特性、耐熱性、難燃性に優れた樹脂組成物、樹脂付き金属箔およびプリント配線板を提供することである。
【解決手段】 本発明の樹脂組成物は、樹脂付き金属箔の絶縁層を構成する樹脂組成物であって、ノボラックシアネート樹脂と、ビスマレイミド化合物とを含むものである。また、本発明の樹脂付き金属箔は、上記の樹脂組成物を金属箔に塗工してなるものである。また、本発明の多層プリント回路板は、上記の樹脂付き金属箔を内層回路板の片面又は両面に重ね合わせて加熱、加圧してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂組成物、樹脂付き金属および多層プリント回路板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、ノート型パーソナルコンピューターや携帯電話等の携帯型電子機器は、より軽量かつ小型化が求められている。そのため電子機器内部のCPUやLSI等を実装するプリント回路板についても、小型軽量化が自ずと求められる。小型軽量化を実現するためには、絶縁樹脂層厚さやプリント配線幅及び配線間距離を小さくすること、スルーホール径を小さくしスルーホールのメッキ厚を薄くすることが必要である。ここで、メッキ厚を薄くすると熱衝撃時にメッキ金属にクラックが発生するおそれがあり、絶縁樹脂に耐熱性や耐クラック性が要求される。また、同時にこれらの情報処理用機器の高速化も要求されており、CPUの高クロック周波数化が進んでいる。このため信号伝搬速度の高速化が要求されており、これを実現するために低誘電率、低誘電正接のプリント回路板が必要とされる。
【0003】耐熱性に優れ、誘電特性に優れた樹脂として、シアネート樹脂が用いられる(例えば特開平8−8501号公報)。シアネート樹脂は硬化反応により水酸基等の分極率の大きな官能基が生じなることがないため、誘電特性が非常に優れている。
【0004】しかし、シアネート樹脂はその骨格構造により吸水率が高いという欠点がある。このため、高温多湿条件下ではシアネート樹脂の吸水により、特にギガヘルツ以上の高周波領域において誘電特性の悪化が生じる。また、シアネート樹脂は難燃性も悪く、これについても問題である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、誘電特性、耐熱性、難燃性に優れた樹脂組成物、樹脂付き金属箔およびプリント配線板を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成できる。
(1)樹脂付き金属箔の絶縁層を構成する樹脂組成物であって、ノボラックシアネート樹脂と、ビスマレイミド化合物とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
(2)前記ノボラックシアネート樹脂は、下記式(I)で示されるものである上記(1)に記載の樹脂組成物。
【化2】


(3)前記ノボラックシアネート樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の20〜80重量%である上記(1)または(2)に記載の樹脂組成物。
(4)前記ビスマレイミド化合物の含有量は、樹脂組成物全体の10〜40重量%である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の樹脂組成物を金属箔に塗工してなる樹脂付き金属箔。
(6)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の樹脂組成物からなる樹脂層が少なくとも2層以上からなることを特徴とする樹脂付き金属箔。
(7)上記(5)または(6)に記載の樹脂付き金属箔を内層回路板の片面又は両面に重ね合わせて加熱、加圧してなることを特徴とする多層プリント回路板。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の樹脂組成物、樹脂付き金属箔および多層プリント回路板について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、樹脂付き金属箔の絶縁層を構成する樹脂組成物であって、ノボラックシアネート樹脂と、ビスマレイミド化合物とを含むことを特徴とするものである。また、本発明の樹脂付き金属箔は、上記の樹脂組成物を金属箔に塗工してなることを特徴とするものである。また、本発明の多層プリント回路板は、上記の樹脂付き金属箔を内層回路板の片面又は両面に重ね合わせて加熱、加圧してなるものである。
【0008】まず、樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、樹脂付き金属箔の絶縁層を構成するものである。樹脂付き金属箔の絶縁層は、誘電特性、耐熱性、難燃性等が要求されるものである。本発明の樹脂組成物は、ノボラックシアネート樹脂を含む。これにより、絶縁層の誘電特性および難燃性を向上することができる。前記ノボラックシアネート樹脂は、特に限定されるものではなく、ノボラックシアネート基を含む樹脂であればよい。これらの中でも一般式(I)で表せられるノボラックシアネート樹脂を含むこと好ましい。これにより、ガラス転移温度が高くでき、硬化後の樹脂特性や難燃性をより向上することができる。
【化3】


前記式(I)で示されるノボラック型シアネート樹脂のnは、特に限定されないが、1〜10が好ましく、特に1〜7が好ましい。これより少ないとノボラック型シアネート樹脂は結晶化しやすくなり、汎用溶媒に対する溶解性が比較的低下するため、取り扱いが困難となる場合がある。また、これより多いと架橋密度が高くなりすぎ、耐水性の低下や、硬化物が脆くなるなどの現象を生じる場合がある。ノボラックシアネート樹脂は硬化反応によって水酸基などの分極率の大きな官能基が生じないため、誘電特性が非常に優れている。また、剛直な化学構造を有するため耐熱性に優れている。
【0009】前記ノボラックシアネート樹脂の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の20〜80重量%が好ましく、特に45〜70重量%が好ましい。含有量が前記下限値未満では比誘電率、誘電正接等の誘電特性が向上する効果が不十分な場合があり、前記上限値を越えると吸水率が上がり高周波領域での誘電特性が低下する場合がある。
【0010】本発明の樹脂組成物では、ビスマレイミド化合物を含む。これにより、強靱性を付与することができる。前述したノボラックシアネート樹脂とビスマレイミド化合物との併用により、吸水率や高周波領域における誘電特性の悪化がなく、難燃性、耐熱性の向上が得られる。ノボラック型シアネート樹脂は硬化反応によってトリアジン環を生じるが、トリアジン環は対称性に優れているため分極が小さく誘電特性が優れている。また架橋密度が高いため、ガラス転移温度が高く耐熱性に優れている。しかし、ノボラック型シアネート樹脂は、架橋密度が高いため硬化時にひずみを生じ、未反応シアネート基が残存し高周波での誘電特性が劣る欠点がある。本発明ではこの問題を解決するため、ノボラック型シアネート樹脂にビスマレイミド化合物を併用する。ビスマレイミド化合物は、高周波での誘電特性に優れている。また、マレイミドの二重結合はシアネート基と反応するため樹脂骨格中にとりこむことができ、未反応のシアネート基を完全に反応させることができる。更に、ビスマレイミド化合物は耐熱性に優れるため、ノボラック型シアネート樹脂の耐熱性を低下させない。前記ビスマレイミド化合物としては、例えばN,N‘−(4,4’―ジフェニルメタン)ビスマレイミド、ビス(3―エチル−5−メチル−4マレイミドフェニル)メタン、2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンなどが挙げられる。これらの中でも2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンが好ましい。これにより、特に金属密着性の向上および低吸水化することができる。
【0011】前記ビスマレイミド化合物の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全体の10〜40重量%が好ましく、特に15〜35重量%が好ましい。含有量が前記下限値未満では金属との密着性を向上する効果が低下する場合が有り、前記上限値を越えると樹脂硬化物が脆くなる場合が有る。
【0012】本発明の樹脂組成物は、上述したノボラックシアネート樹脂とビスマレイミド化合物を含有するが、本発明の目的に反しない範囲において、その他の樹脂、難燃剤、硬化促進剤、カップリング剤、UV吸収剤、その他の成分を添加することは差し支えない。
【0013】次に、樹脂付き金属箔について説明する。本発明の樹脂付き金属箔は、上記樹脂組成物を金属箔に塗工してなる樹脂付き金属箔である。樹脂組成物を金属箔に塗工する場合、1層で塗工しても良いが、2層以上に分けて塗工することが好ましい。2層以上塗工する場合、第1層目は、ノボラックシアネート樹脂100重量部に対して、ビスマレイミド化合物を12〜200重量、硬化触媒を0.5〜2重量部添加することが好ましく、第2層目は、ノボラックシアネート樹脂100重量部に対して、ビスマレイミド化合物を12〜200重量、硬化触媒を0.05〜0.3重量部添加することが好ましい。これにより、絶縁樹脂層の厚みバラツキが制御できる。
【0014】前述の樹脂組成物を金属箔に塗工する際には、通常ワニスの形態で行われる。これにより、塗工性を向上することができる。ワニスを調製するのに用いられる溶媒は、樹脂組成物に対して良好な溶解性を示すことが望ましいが、悪影響を及ばさない範囲で貧溶媒を使用しても構わない。良溶媒としては、DMF、MEK、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0015】また、ワニスを調製する場合、樹脂組成物の固形分は、特に限定されないが20〜90重量%が好ましく、特に30〜70重量%が好ましい。前記金属箔を構成する金属は、例えば銅または銅系合金、アルミまたはアルミ系合金等が挙げられる。
【0016】前述のワニスを、金属箔に塗工し80℃以上200℃以下で乾燥することにより樹脂付き金属箔を得ることが出来る。塗工、乾燥後の樹脂厚さは10〜100μmが好ましく、特に20〜80μmが樹脂層の割れ発生が無く裁断時の粉落ちも少ないなどの点で好ましい。
【0017】次に、多層プリント配線板について説明する。本発明の多層プリント回路板は、上記樹脂付き金属箔を内層回路板の片面又は両面に重ね合わせて加熱、加圧してなる多層プリント回路板である。前述の樹脂付き金属箔を内層回路板の片面又は両面に重ね合わせて加熱、加圧して積層板を得る。加熱する温度は、特に限定されないが、140〜240℃が好ましい。加圧する圧力は、特に限定されないが、10〜40kg/cm2が好ましい。また、内層回路板は、例えば銅張積層版の両面に回路を形成し、黒化処理したものを挙げることができる。
【0018】
【実施例】以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
■ワニスの調製ノボラックシアネート樹脂として、PT−60(ロンザ・ジャパン社製)70重量部、マレイミド化合物として、2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン30重量部をシクロヘキサノンに加え、不揮発分濃度55重量%になるように調整してワニスを得た。
【0019】■銅箔への塗工上述の樹脂ワニスに硬化触媒としてトリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)を1重量部溶解させ調整したワニスを用いて、銅箔(厚さ0.018mm、古河サーキットフォイル株 製)に樹脂ワニスを厚さ0.07mmで塗工し、120℃の乾燥機炉で10分、150℃の乾燥機炉で10分乾燥させ第1層目の樹脂層を形成した。次に、上述の樹脂ワニスに硬化触媒としてトリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)を0.1重量部溶解させ調整したワニスを用いて、第1層の上に樹脂ワニスを厚さ0.07mmで塗工し、120℃の乾燥機炉で10分、150℃の乾燥機炉で10分乾燥させることで樹脂厚さ0.07mmの樹脂付き銅箔を製造した。
【0020】■多層プリント配線板の製造両面銅張積層板の銅箔表面を黒化処理(酸化銅形成)した後、還元したものをコアとして、その両面に上記樹脂付き銅箔を120℃で20分、200℃で90分、加熱加圧接着することにより多層プリント配線板を製造した。
【0021】(実施例2)ノボラックシアネート樹脂を65重量部とし、2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン35重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0022】(実施例3)ノボラックシアネート樹脂を90重量部とし、2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン10重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0023】(実施例4)ノボラックシアネート樹脂を40重量部とし、2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン40重量部とし、臭素化ビスフェノールAエポキシ樹脂(臭素化率50%、エポキシ当量400)20重量部添加した以外は、実施例1と同様にした。
【0024】(実施例5)マレイミド化合物として、2,2‘−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0025】(実施例6)ワニスの銅箔の塗工を下記のように、一回とした以外は実施例1と同様にした。前述の樹脂ワニスに硬化触媒としてトリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)を0.1重量部溶解させ調整したワニスを用いて、銅箔(厚さ0.018mm、古河サーキットフォイル(株)製)に樹脂ワニスを厚さ0.140mmで塗工し、150℃の乾燥機炉で10分、170℃の乾燥機炉で10分乾燥させ、樹脂厚さ0.070mmの樹脂付き金属箔を作成した。
【0026】(比較例1)マレイミド化合物を用いずに、ノボラックシアネート樹脂100重量部とした以外は、実施例1と同様にした。
【0027】(比較例2)マレイミド化合物の代わりに、ポリブタジエン樹脂(JSR社製、分子量100,000)を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0028】実施例および比較例で得られた多層プリント回路板について、以下の評価を行った。なお、各評価の方法を併せて示す。得られた結果を表1に示す。
■誘電特性誘電特性は、1MHzは空隙測定法、1GHzはトリプレート共振器法によってA状態で測定した。
【0029】■成形性成形性は、多層プリント配線板を作成後におけるボイドの発生の有無で評価した。なお、ボイドの有無は目視で判断した。各記号は以下の事項を表す。
◎:ボイド発生なし。
○:ボイド一部発生するが、実用上問題なし。
△:ボイド一部発生して、実用上使用不可。
【0030】■銅箔ピール強度銅箔ピール強度は、JIS C 6481に準じて行った
【0031】■半田耐熱性半田耐熱性は、JIS C 6481に準じて測定し、煮沸2時間の吸湿処理を行った後260℃の半田槽に120秒浸漬した後の外観異常の有無を調べた。各記号は以下の事項を示す。
◎:膨れ、層間剥離無く良好。
×:膨れ、層間剥離ともに有り、実用不可のレベル。
【0032】■難燃性難燃性は、UL94に準じて測定を行った。
【0033】
【表1】


【0034】表1から明らかなように実施例1〜6は、誘電特性、耐熱性および難燃性に優れていた。また、特に実施例1〜5は、成形性に優れていた。また、特に実施例1および2は、銅箔ピール強度に優れていた。
【0035】
【発明の効果】本発明によれば、誘電特性、耐熱性および難燃性に優れた樹脂組成物、樹脂付き金属箔および多層プリント配線板を得ることができる。また、特定のマレイミド化合物を使用した場合、特に樹脂組成物等の金属密着性を向上することができる。また、樹脂付き金属箔の絶縁層を2層で形成した場合、特に優れた成形性を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹脂付き金属箔の絶縁層を構成する樹脂組成物であって、(A)ノボラックシアネート樹脂と、(B)ビスマレイミド化合物とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】 前記ノボラックシアネート樹脂は、下記式(I)で示されるものである請求項1に記載の樹脂組成物。
【化1】


【請求項3】 前記ノボラックシアネート樹脂の含有量は、樹脂組成物全体の20〜80重量%である請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】 前記ビスマレイミド化合物の含有量は、樹脂組成物全体の10〜40重量%である請求項1ないし3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂組成物を金属箔に塗工してなる樹脂付き金属箔。
【請求項6】 請求項1ないし4のいずれかに記載の樹脂組成物からなる樹脂層が少なくとも2層以上からなることを特徴とする樹脂付き金属箔。
【請求項7】 請求項5または6に記載の樹脂付き金属箔を内層回路板の片面又は両面に重ね合わせて加熱、加圧してなることを特徴とする多層プリント回路板。

【公開番号】特開2003−238767(P2003−238767A)
【公開日】平成15年8月27日(2003.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−41208(P2002−41208)
【出願日】平成14年2月19日(2002.2.19)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】