説明

樹脂組成物、液体吐出ヘッドおよびその製造方法

【課題】 ポリエーテルアミド中で密着性能向上に関与すると考えられる極性基の変化を抑えながら光によるパターニングが可能な樹脂組成物を提供することを目的の一つとする。
【解決手段】 式(1)で表される構造を有する化合物と、
光ラジカル重合開始剤と、
ラジカル重合可能な化合物と、
を有することを特徴とする樹脂組成物。
【化1】


[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および当該樹脂組成物の硬化物を供えた液体吐出ヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドの一例としては、インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録方式に適用されるインクジェット記録ヘッドが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、吐出口、該吐出口へと連通する流路を形成する流路形成部材路及び該流路の一部に設けられる液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を複数備えたインクジェット記録ヘッドが開示されている。
【0004】
特許文献2には、Ta等が表面に形成された基板と、基板上に形成される流路形成部材との密着性を向上させるために、ポリエーテルアミド樹脂からなる密着層を介して、基板と流路形成部材を接合する方法が開示されている。しかしながら、ポリエーテルアミド樹脂は、樹脂自体が感光性を有していないため、ポリエーテルアミド樹脂をパターニングする場合には、フォトレジストをパターニングしてマスク材を形成し、ドライエッチングを行う必要がある。このため製造工程が長くなるとともに、大規模な設備が必要となる。
【0005】
これまでに、ポリエーテルアミドに感光性を付与する方法として、特許文献3では光照射によりポリエーテルアミド樹脂と反応する架橋剤を添加する方法が開示されている。また、特許文献4では、ポリエーテルアミド樹脂中にイオン結合により光重合反応性成分を含有させ感光性を付与する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−286149号公報
【特許文献2】特開平11−348290号公報
【特許文献3】特開2005−8652号公報
【特許文献4】特開2007−38525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献3では添加する架橋剤を、特許文献4ではポリエーテルアミド樹脂の構造を選択する上で材料の限定を受けるという制約があった。また近年では流路の微細化に伴い、流路形成部材と基板との接触面積がますます小さくなるため、密着層にはより基板と流路形成部材との接合性を高めることが求められる。このためには、ポリエーテルアミド中で密着性能向上に関与すると考えられる極性基を反応により減少させずに感光性化する方法が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであって、ポリエーテルアミド中で密着性能向上に関与すると考えられる極性基の変化を抑えながら、光によるパターニングが可能な樹脂組成物を提供することを目的の一つとする。また、流路形成部材と基板との接合性が高い液体吐出ヘッドを提供することを他の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、式(1)で表される構造を有する化合物と、光ラジカル重合開始剤と、ラジカル重合可能な化合物と、を有することを特徴とする樹脂組成物である。
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラジカル重合開始剤とラジカル重合可能な化合物を含有することによりポリエーテルアミドを光によりパターニングすることが可能となる。パターニング時の反応はラジカル反応であるため、ポリエーテルアミド樹脂自身が反応に係って極性基が減少するということがないと考えられるため、部材間の密着性向上という特性を維持しつつパターニングが可能である。このため、本発明による樹脂組成物を用いることにより、基板と流路形成部材との接合強度が高められ、信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る樹脂組成物は、式(1)で表される構造を有する化合物と、光ラジカル重合開始剤と、ラジカル重合可能な化合物と、を有する。
【0015】
【化2】

【0016】
[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【0017】
式(1)で表される構造をもつ化合物は、式(6)で表される構造(エーテル結合)と式(2)で表される構造(アミド結合)とをもち、ポリエーテルアミドとして知られる高分子化合物である。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【0021】
上記の樹脂組成物は、液体吐出ヘッドの製造のほか、プリント配線板用のソルダーレジストや層間絶縁膜、表面保護膜又は、電子部品の接着層に用いることができる。この樹脂組成物は、フォトリソグラフィーによりパターニングすることが可能であり、ドライエッチング工程によるパターニングよりも、簡便にパターン形成をすることが可能である。また、フォトリソグラフィーによる当該樹脂組成物のパターニングは、ラジカル重合による硬化を利用して行われるため、式(1)の化合部の官能基、特にアミド結合の部分に変化をもたらさず、硬化が行なえる。このため、パターニングによって、式(1)の化合物が有する部材間の接合強度を向上させる性能は実質的に損なわれない。
【0022】
以下、図面を参照して、本発明を具体的に説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中に同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0023】
なお、液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを例えばインクジェット記録ヘッドとして用いると、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。なお、「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0024】
また本発明の液体吐出ヘッドは、記録紙の全幅にわたり同時に記録ができるフルラインタイプの記録ヘッドにも適用可能である。さらに複数の記録ヘッド部を一体的に形成した構成や、別々に形成した記録ヘッドを複数個組み合わせた構成のカラー記録ヘッドにも有効である。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す模式図であり、構成部材の一部を切りとり内部も示している。また、図2は本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す模式的断面図であり、図1中のA−A’に平行で基板に垂直な断面で見た図である。
【0026】
本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギ−発生素子2が所定のピッチで2列に並んで形成されたSiの基板1を有している。基板1には、Siを異方性エッチングすることによって形成された供給口6が、エネルギー発生素子2の2つの列の間に開口されている。基板1上には、流路形成部材4によって、各エネルギー発生素子に対向する位置に設けられた吐出口5と、供給口6から各吐出口に連通する個別の流路7が形成されている。なお、吐出口の位置は、上述のエネルギー発生素子2と対向する位置に限定されるものではない。
【0027】
この液体吐出ヘッドをインクジェット記録ヘッドとして用いる場合には、吐出口5が形成された面が被記録媒体の記録面に対面するように配置される。そして液体吐出ヘッドは、供給口6を介して流路内に充填されたインクに、エネルギー発生素子2によって発生するエネルギーを作用させ、吐出口5からインク液滴を吐出させる。このインク液滴を被記録媒体に付着させることによって記録を行う。エネルギー発生素子としては、熱エネルギーとして電気熱変換素子(所謂ヒーター)等、力学的エネルギーとして、圧電素子等があるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
図2(a)に示されるように、流路形成部材が吐出口を形成する部材となる例の他に、図2(b)に示されるように流路形成部材4は、側壁を形成する部材4aと、吐出口5を形成する吐出口形成部材4bとの別体から形成されてもよい。
【0029】
図2(a)、(b)に示されるように、流路形成部材4と基板1との間には、ラジカル重合可能な化合物の重合物と、式(1)で表される構造をもつ化合物と、を含む層が設けられている。
【0030】
【化5】

【0031】
[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【0032】
この層は、流路形成部材4の基板側の形状に対応した形状を有していることが好適であり、流路形成部材と、基板との接合度合いを高めることに寄与することができる。
【0033】
樹脂硬化物としては、アクリル基、メタクリル基を有する樹脂の硬化物が挙げられ、これらの中にポリエーテルアミドが配合された状態を取る。
【0034】
次いで、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法について図3を参照して説明する。
【0035】
まず図3(a)に示されるように、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子2を備えた基板1を用意する。基板1としてはシリコンが用いられる。エネルギー発生素子2の耐用性の向上を目的として、保護層等(不図示)の各種機能層が設けることが可能である。例えば、表面にはSiN、SiC、Taの膜が設けられる場合がある。
【0036】
次いで図3(b)に示されるように、樹脂組成物の層9をスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法により形成する。この樹脂組成物の層9は、後述する流路形成部材4と基板1との密着性を向上させることが可能である。基板1上に形成されるSiNやSiO2といった無機絶縁層(不図示)と、流路形成部材を形成する例えば有機材料の双方に対して優れた密着力を有することが好適である。また、液体吐出ヘッドの使用時にインクなどの吐出液体に接触する可能性のある部材であることから、アルカリ性条件下においても優れた密着向上性を維持できることが好ましい。
【0037】
樹脂組成物の層9に用いられる材料として、式(1)で表される化合物と、ラジカル重合可能な化合物と、光ラジカル重合開始剤と、を有する樹脂組成物が挙げられる。
【0038】
【化6】

【0039】
[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【0040】
ここで、式(1)の化合物であるポリエーテルアミド100に対して、光ラジカル重合開始剤0.01〜50、ラジカル重合可能な化合物0.5〜100の重量割合で配合されることが好ましい。ポリエーテルアミド100に対して、光ラジカル重合開始剤1〜30、ラジカル重合性モノマー10〜80の割合で配合されることがより好ましい。
【0041】
本発明の樹脂組成物に用いられるポリエーテルアミドとしては、例えば式(3)で示される樹脂が好適に用いられる。式(3)で示されるポリエーテルアミド樹脂は、たとえば特開昭63−6112号公報に記載されている方法により合成することができる。
【0042】
【化7】

【0043】
[式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子を示す。RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基を示す。またArは置換または未置換のフェニレン、ビフェニレン、ナフチレンを示す。nは正の整数を示す。]
【0044】
また、本発明に用いられるポリエーテルアミドは、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オキシジ安息香酸、ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸のジクロライドと、ジアミンを重縮合させることにより得られる。ジアミンとしては、2・2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、2・2−ビス{3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン等が挙げられる。これ以外の成分として、耐熱性を向上させる等の目的で、4・4’−ジアミノジフェニルメタン、3・3’−ジアミノジフェニルスルホン等のジアミン類を添加して重縮合させたものを用いても良い。
【0045】
ここで、ポリエーテルアミドは、分子量(Mw)が100000〜5000であることが好ましく、20000〜50000であることがより好ましい。
【0046】
また、式(3)におけるAr1としては、p−フェニレン、m−フェニレンであることが好ましい。
【0047】
本発明においては、後述するラジカル重合開始剤と、ラジカル重合可能な化合物、と共存可能なポリエーテルアミド樹脂であれば、特に限定なく使用することが可能である。
【0048】
また、光ラジカル重合開始剤は、光照射によりフリーラジカルを提供できる化合物である。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系、アルキルフェノン系、アシルフォスフィン系の光ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。特に、ポリエーテルアミドと光ラジカル重合開始剤の吸収帯域が異なるものを用いることがより好ましい。ポリエーテルアミドの吸収帯域と光ラジカル重合開始剤の吸収帯域が重なると、照射された光がポリエーテルアミドと光ラジカル重合開始剤にそれぞれ吸収されるため、ラジカルを発生させる効率が低くなる懸念があるからである。
【0049】
また、ラジカル重合可能な化合物としてはアクリル基、メタクリル基などの重合性の官能基を有する化合物があげられる。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル等の1官能化合物が挙げられる。また、多官能アクリレート化合物として、エチレングリコールジアクリル酸エステル、ジエチレングリコールジアクリル酸エステル、グリセリントリアクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリアクリル酸エステルを使用することができる。また、ジエチレングリコールジメタクリル酸エステル、トリエチレングリコールジメタクリル酸エステル等の多官能アクリレート化合物を挙げることができる。また、ポリ(ビニルアクリレート)、ポリ(4−アクリロイルオキシスチレン)等の側鎖にアクリル基を有する重合体などが挙げられる。特にラジカル重合する際ネットワークを形成する多官能アクリレート化合物、ポリアクリレート化合物、側鎖にアクリル基を有する重合体では、耐溶剤性が良いため好適に用いられる。また、(メタ)アクリレート化合物に、(メタ)アクリル酸を付与したものも用いることができる。
【0050】
以上の成分から成る感光性樹脂組成物を、N−メチル−2−ピロリドンからなる溶剤に5〜30wt%の割合で希釈して、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法により基板上に塗布して、層9を形成する。層の厚さとしては0.5〜5μmが好ましい。溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン以外にもジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。
【0051】
また、該樹脂組成物は、塗布溶剤の他に、下地との密着性の向上を目的としてシランカップリング剤や、光感度の向上を目的として増感剤を添加して用いても良い。
【0052】
次いで、図3(c)に示されるように、マスクを使用して層9を露光する。ここで樹脂組成物中のラジカル重合開始剤の作用によりフリーラジカルを有する化合物が提供される。提供されたフリーラジカルを有する化合物の作用により、樹脂組成物中のラジカル重合可能な化合物がラジカル重合することにより高分子化し、樹脂組成物が硬化される。このときラジカル重合可能な化合物がラジカル重合することで形成される架橋構造のなかに、ポリエーテルアミドが取り込まれると考えられ、最終的には、ラジカル重合可能な化合物の重合物中にポリエーテルアミドが配合された状態を得ると考えられる。例えば、ラジカル重合可能な化合物がアクリル基をもつものである場合、その高分子化した重合物はアクリル樹脂となる。モノマーをラジカル重合による高分子化させるプロセスは、イオン重合と比較して、ポリエーテルアミド自身の官能基、特にアミド結合の部分に変化をもたらさず、進行させることができると考えられる。さらに、このとき必要に応じて加熱を行うことができる。
【0053】
上述の露光時に非露光部であった部分は、フリーラジカルを有する化合物が提供されず硬化されない。よって、溶媒により溶解除去することができる。以上を言い換えれば、本発明の樹脂組成物はネガ型の感光性樹脂組成物として機能することができる。
【0054】
現像を行い、硬化が行われなかった部分を除去することにより層9をパターニングして、図3(d)に示されるように、感光性樹脂組成物の硬化物からなるパターン層8を得る。
【0055】
次いで、図3(e)に示されるように、基板1上に、溶解可能な樹脂にてインク流路の形状を有する流路パターン3を形成する。最も一般的な手段としては感光性材料にて形成する手段が挙げられる。該流路パターン3は、後工程において溶解除去する必要があるため、ポジ型レジストを使用することが好ましく、特にポリメチルイソプロペニルケトン、ポリビニルケトン等のビニルケトン系あるいはアクリル系の光崩壊型高分子化合物を好適に用いることができる。例えば、膜厚10μmの上記光崩壊型高分子化合物からなる膜を、スピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法で形成する。その後、フォトリソグラフィー法により所望の流路パターン3を形成する。
【0056】
次いで、図3(f)に示されるように流路パターン3を被覆するように、前記パターン層上に流路形成部材4となる被覆層10を設ける。膜厚20μmのインク流路形成部材4を形成するための材料を通常のスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法で形成する。ここで、流路形成部材4となる被覆層10を形成するにおいては、流路パターン3を変形せしめない等の特性が必要となる。すなわち、被覆層をスピンコート、ロールコート等で流路パターン3上に積層する場合、溶解可能な流路パターン3を溶解しないように溶剤を選択する必要がある。また、流路形成部材4を形成するための材料としては、後述するインクの吐出口5をフォトリソグラフィーで容易にかつ精度よく形成できることから、感光性のものが好ましい。被覆樹脂層10の材料としては、構造材料としての高い機械的強度、下地との密着性、耐インク性と、同時にインクの吐出口の微細なパターンをパターニングするための解像性が要求される。これらの特性を満足する材料としては、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0057】
本発明に用いられるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールAとエピクロヒドリンとの反応物のうち分子量がおよそ900以上のもの、含ブロモスフェノールAとエピクロヒドリンとの反応物を挙げることができる。また、フェノールノボラックあるいはo−クレゾールノボラックとエピクロヒドリンとの反応物や、特開平2−140219号公報に記載のオキシシクロヘキサン骨格を有する多官能エポキシ樹脂等があげられるが、これら化合物に限定されるものではない。
【0058】
また、上述のエポキシ化合物においては、好ましくはエポキシ当量が2000以下、さらに好ましくはエポキシ当量が1000以下の化合物が好適に用いられる。これは、エポキシ当量が2000を越えると、硬化反応の際に架橋密度が低下し、密着性、耐インク性に問題が生じる場合があるからである。
【0059】
上述のエポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、光照射により酸を発生する化合物を用いることができ、例えば旭電化工業株式会社より市販されているSP−150、SP−170、SP−172等を好適に用いることができる。
【0060】
さらに上記組成物に対して必要に応じて添加剤など適宜添加することが可能である。例えば、エポキシ樹脂の弾性率を下げる目的で可撓性付与剤を添加すること、あるいは下地との更なる密着力を得るためにシランカップリング剤を添加することなどが挙げられる。
【0061】
次いで、マスク(不図示)を介して被覆樹脂層10にパターン露光を行い、現像処理を施して吐出口5をエネルギー発生素子と対向する位置に形成し、図3(g)の状態を得る。パターン露光されたインク流路形成部材4を、適当な溶剤を用いて現像することにより吐出口5を形成することができる。
【0062】
図3(h)に示されるように、流路7と連通する液体の供給口6を基板に形成した後、パターン3を除去することにより流路7、流路形成部材4を得る。
【0063】
次いで、切断分離工程を経た後(不図示)、流路パターン3を溶解除去する。さらに、必要に応じて加熱処理を施すことにより、インク流路形成部材4をさらに硬化させた後、インク供給のための部材(不図示)との接合、エネルギー発生素子を駆動するための電気的接合(不図示)を行って、液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0064】
以下に、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0065】
(実施例1)
・液体吐出ヘッドの作成
まず、エネルギー発生素子2としての電気熱変換素子(材質TaSiNからなるヒーター)と、液体の流路形成部位にSiNとTaの積層膜(不図示)を有するシリコン基板1を準備した(図3(a))。
【0066】
次いで、下記に示す組成から成る樹脂組成物1を準備した。
【0067】
樹脂組成物1
下記式(4)で示される分子量(Mw)25000のポリエーテルアミド樹脂:20質量部
【0068】
【化8】

【0069】
光ラジカル重合開始剤:(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製 商品名:IRGACURE 819) 2重量部
ラジカル重合性モノマー:ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレート(新中村化学工業(株)製 商品名:BPE−500) 8重量部
【0070】
これらを、溶媒としてのN−メチル−2−ピリドリン(NMP)70重量部に溶解させた。
なお、用いたポリエーテルアミド樹脂および、光ラジカル開始材の吸収帯域を表1にまとめている。
【0071】
次いで、基板1上に感光性樹脂組成物1をスピンコートした後、ホットプレートにて100℃で120秒間ベークを行って膜厚2μmの樹脂組成物の層9を形成した(図3(b))。
【0072】
その後、樹脂組成物の層9上に2μmの酸素保護膜(不図示)を形成して、マスクを用いて、露光機(MPA−600 キヤノン(株))で、1000mJ/cmの条件で露光を行った(図3(c))。
【0073】
その後N−メチル−2−ピロリドンにて現像した後、250℃で60分ベークを行って樹脂組成物1の硬化物からなるパターン層8を形成した。
【0074】
次いで、基板1上に、ポリメチルイソプロペニルケトン(東京応化工業(株)製 商品名:ODUR−1010)を10μmの厚さでスピンコートにより形成した。その後、露光を行い、メチルイソブチルケトン/キシレンにて現像を行い、流路パターン3を形成した(図3(e))。
【0075】
次いで、基板1上に以下の組成からなる樹脂組成物Aを用意した。
【0076】
樹脂組成物A
エポキシ樹脂:(ダイセル化学工業(株)製 商品名:EHPE) 100重量部
添加樹脂:(セントラル硝子(株)製 商品名:1.4HFAB) 20重量部
光カチオン重合触媒:(旭電化工業(株)製 商品名:SP−170) 2重量部
シランカップリング剤:(日本ユニカー(株)製 商品名:A−187) 5重量部
メチルイソブチルケトン: 100重量部
ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム): 100重量部
【0077】
流路パターンを被覆するように、かつパターン層8に接するように基板1上に樹脂組成物Aをスピンコートして(平板上膜厚20μm)、100℃で2分間(ホットプレート)のベークを行って被覆層10を形成した(図3((f))。
【0078】
次いで、被覆層に露光を行い、メチルイソブチルケトンを用いて現像を行い、吐出口5を形成した(図3(g))。なお、本実施例では開口径15μmの吐出口を形成した。
【0079】
次いで、80℃に保持した22wt%のTMAH水溶液中に基板1を浸漬して基板1の異方性エッチングを行い、供給口6を形成した。なお、この際エッチング液から被覆層10を保護する目的で、保護膜(東京応化工業製 商品名:OBC:不図示)を被覆層上に塗布して異方性エッチングを行った。
【0080】
次いで、保護膜として用いたOBCをキシレンを用いて溶解除去した後、基板に対して全面露光を行い、流路パターン3を可溶化した。引き続きメチルイソブチルケトン中に超音波を付与しつつ浸漬し、流路パターン3を溶解除去することにより液体吐出ヘッドを作成した(図3(h))。
【0081】
(実施例2)
パターン層8を形成するための樹脂組成物として以下の樹脂組成物2を用い、当該樹脂組成物の層をパターニングする際の露光量を10000mJ/cm2とした以外は、実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0082】
樹脂組成物2
実施例1記載の樹脂組成物1の光ラジカル重合開始剤を、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製 商品名:IRGACURE 819 2重量部から以下に変更したもの
光ラジカル重合開始剤:(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製 商品名:IRGACURE 2959) 2重量部
【0083】
実施例1と比較して露光量が増加したのは、ポリエーテルアミドと光ラジカル重合開始材の吸収帯域が重なったためであると考えられる。
【0084】
(実施例3)
パターン層8を形成するための樹脂組成物として以下の樹脂組成物3を用い、当該樹脂組成物の層をパターニングする際の露光量5000mJ/cm2とした以外は、実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0085】
樹脂組成物3
実施例1の樹脂組成物1のラジカル重合性モノマーを、ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレート(新中村化学工業(株)製 商品名:BPE−500)8重量部から以下に変更したもの
ラジカル反応性モノマー:スチレン 8重量部
【0086】
(実施例4)
パターン層8を形成するための樹脂組成物として以下の樹脂組成物4を用いた以外は、実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0087】
樹脂組成物4
実施例1の樹脂組成物1の下記式(4)で示される分子量(Mw)25000のポリエーテルアミド樹脂: 20質量部
【0088】
【化9】

【0089】
を以下に変更したもの
【0090】
下記式(5)で表される分子量(Mw)25000のポリエーテルアミド樹脂 20質量部
【0091】
【化10】

【0092】
(比較例1)
パターン層8を設けない以外は、実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0093】
(比較例2)
パターン層8を形成するため、感光性ポリイミド(東レ(株)製 商品名:フォトニースUR3100)をパターニングした。プリベーク、130℃で5分、露光後ベークは130℃で30分ベーク後、300℃で1時間行った。それ以外は実施例1と同様にして液体吐出ヘッドを作成した。
【0094】
(比較例3)
パターン層8を形成するため、非感光性のポリエーテルアミド樹脂(日立化成工業(株)製 商品名:HIMAL−1200)を用いた。当該ポリエーテルアミド樹脂をレジスト(東京応化(株)製 商品名:OFPR800)を用いて酸素プラズマによるドライエッチングを行った。その後、当該レジストを溶解除去してパターン層8を形成した以外は実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作成した。
【0095】
【表1】

【0096】
(評価)
実施例および比較例の液体吐出ヘッドを、以下に示す組成からなるアルカリインク(pH=10.5)中に浸漬し、プレッシャークッカー(PCT)試験(121℃飽和条件−100時間)を行った。
【0097】
(インク組成)
黒色染料 3重量部
エチレングリコール 5重量部
尿素 3重量部
イソプロピルアルコール 2重量部
2−ピロリドン 3重量部
イオン交換水 84重量部
【0098】
流路形成部材4とパターン層8との密着状況を観察したところ、実施例1〜4の液体吐出ヘッドについては、変化は観察されなかった。
【0099】
一方、比較例1の液体吐出ヘッドにおいては、流路形成部材4と基板1との間に剥離が確認された。これは基板1上に形成されたSiN+Ta層と、流路形成材料4との密着性が十分でないために生じたものと考えられる。
【0100】
また、比較例2の液体吐出ヘッドについては、パターン層8として用いた感光性ポリイミドが消失しており、流路形成部材4と基板1との間に剥離が観察された。
【0101】
比較例3の液体吐出ヘッドについて、流路形成部材4とパターン層8との密着状況を観察したところ、変化は観察されなかったが、実施例と比較して、さらにドライエッチングの工程を必要としたため負荷がかかった。
【0102】
なお、実施例1、2、4は実施例3に比較して、流路パターンを塗布した際の溶媒(シクロペンタノン)に対してパターン層8の耐性が特に良好であった。これは、実施例1、2、4で用いたラジカル重合可能な樹脂が多官能であったため、硬化時のネットワークを複雑に形成できたため、硬化物の溶媒への耐性が良好であったと考えられる。
【0103】
(実施例5)
あらかじめ銅箔パターンを形成したガラスエポキシ基板に、下記に示す樹脂組成物5をスピンコートにより塗布し、100℃で300秒間ベークを行って、樹脂組成物の層を得た。層の厚さは20μmであった。
【0104】
樹脂組成物5
下記式(4)で示される分子量(Mw)25000のポリエーテルアミド樹脂: 16質量部
【0105】
【化11】

【0106】
光ラジカル重合開始剤:(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製 商品名:IRGACURE 819) 4重量部
ラジカル重合性モノマー:ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレート(新中村化学工業(株)製 商品名:BPE−500) 12重量部
N−メチル−2−ピリドリン(NMP)68重量部
【0107】
その後、樹脂組成物の層に2μmの酸素保護膜(不図示)を形成して、マスクを用いて、露光機(MPA−600 キヤノン(株))で、10000mJ/cmの条件で露光を行った(図3(c))。
【0108】
その後、N−メチル−2−ピロリドンにて現像した後、250℃で60分ベークを行って樹脂組成物5の硬化物からなるパターン層を形成した。
【0109】
得られたパターン層を純水に浸漬し、プレッシャークッカー(PCT)試験(121℃飽和条件−24時間)を行った。その後、銅箔との密着性を確認したところ、銅箔とパターン層との間に剥離はみられず、また、パターン層の劣化は見られなかった。
【符号の説明】
【0110】
1 基板
2 エネルギー発生素子
3 流路パターン
4 流路形成部材
5 吐出口
7 流路
8 パターン層
9 樹脂組成物の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構造を有する化合物と、
光ラジカル重合開始剤と、
ラジカル重合可能な化合物と、
を有することを特徴とする樹脂組成物。
【化1】


[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【請求項2】
前記ポリエーテルアミドが、式(3)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】


[式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子を示す。RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基を示す。またArは置換または未置換のフェニレン、ビフェニレン、ナフチレンを示す。nは正の整数を示す。]
【請求項3】
前記ラジカル重合可能な化合物がアクリレート化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
基板と、液体を吐出する吐出口と連通する流路を形成するための流路形成部材と、該流路形成部材と前記基板との間に、前記流路形成部材と前記基板とに接するように設けられた層と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記層は、ラジカル重合可能な化合物の重合物と、
式(1)で表される構造を有する化合物と、
【化3】


を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド。
[式中、X、Y、A、Bは、それぞれ独立して飽和または不飽和炭化水素、または置換または置換されていない芳香環を示す。]
【請求項5】
前記ポリエーテルアミドが、式(3)で表される構造を有することを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【化4】


[式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子を示す。RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基を示す。またArは置換または未置換のフェニレン、ビフェニレン、ナフチレンを示す。nは正の整数を示す。]
【請求項6】
前記ラジカル重合可能な化合物の重合物はアクリル樹脂であることを特徴とする請求項4または5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記層は、前記流路形成部材の前記基板側の形状に対応する形状を有することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
液体を吐出する吐出口と連通する流路を形成するための流路形成部材を有する液体吐出ヘッドの製造方法において、
基板上に請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層を設ける工程と、
前記層に対して露光とパターニングを行うことにより、パターン層を形成する工程と、
前記パターン層上に前記流路形成部材を設ける工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−121125(P2010−121125A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243769(P2009−243769)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】