説明

樹脂組成物およびそれを用いた配線回路基板

【課題】緻密なシリカ殻のナノオーダーの粒子径を備え、かつ分散性に優れたシリカ中空粒子が均一に分散された樹脂組成物およびそれを用いた低誘電率化の図られた配線回路基板を提供する。
【解決手段】シリカ殻からなるナノ中空粒子がマトリックス樹脂成分中に分散されてなる樹脂組成物である。しかも、上記シリカ殻からなるナノ中空粒子が、下記の特性(a)〜(c)を備えている。そして、上記樹脂組成物を用いて形成された絶縁層上に、回路パターン層が積層形成されてなる配線回路基板である。
(a)透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nmの範囲である。
(b)光散乱法による粒子径が30〜800nmの範囲である。
(c)水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ製の中空粒子が分散された樹脂組成物およびそれを用いた配線回路基板に関するものである。より詳しくは、緻密なシリカ殻からなり、ナノサイズの粒子径を有し、かつ分散性に優れたシリカナノ中空粒子が分散されてなる樹脂組成物およびそれを用いて形成されてなる絶縁層を備えた配線回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高周波用低誘電率配線回路基板が注目されている。情報通信機器の分野では、高速大容量の情報を取り扱うようになってきており、信号のより一層の高周波化等が電子機器に求められており、その実現には低誘電率の高周波用配線基板が不可欠なのである。電気信号の減衰を伴う誘電損失は配線回路基板の誘電特性に依存し、低誘電率および低誘電正接な絶縁材料が求められている。このような絶縁体の低誘電率化、低誘電正接化を達成するために、比誘電率が1である空気(比誘電率=1)を絶縁材料に含有させて多孔質化する方法が種々提案されている。例えば、超臨界ガスによりナノ孔、すなわち直径がナノサイズの孔を形成し、400m2 /g以上の比表面積を有する多孔質材料を用いて低誘電特性を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、多孔質フィルムと銅とを低誘電特性を備えたエポキシ樹脂系接着剤により接合してなる多孔質材料が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、従来の多孔質材料では、孔の大きさの孔径制御の点において充分とは言い難く、均質でかつ独立した空気孔を具備する必要があった。特に、配線回路基板における近年の導体幅の狭ピッチ化においては、孔径が1μm以下の微細化が要求されているのが実情である。
【0004】
従来、シリカ製中空粒子については、種々の検討が行われている。例えば、界面反応を用いた方法では、ミクロンオーダー以上の粒子径となり、サブミクロンからナノオーダーの中空粒子を得ることができないという問題がある。一方、直径20nm以上のシリカ製中空粒子を得ることを可能とする方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
しかし、上記特許文献3の方法では、ナノオーダーの中空粒子になると凝集が激しくなり、結果的にミクロンオーダーの凝集粒子に形成されてしまうという知見を本発明者らの実験により得た。さらに、上記特許文献3の方法では、中空粒子を構成するシリカ殻はシリカの微粒子が集合して形成されており、その結果、微細ではあるもののシリカ殻が存在することも本発明者らの実験により確認されている。
【0006】
そして、近年においては、ナノテクノロジーに代表される超微細化技術の流れに対応すべく、シリカを用いた中空粒子についてもナノサイズのものが嘱望されている。さらには、ナノサイズの特色をより効果的に発現させるためには、分散性の良好なものが要望されている他、中空粒子を構成する殻の性状、特に分子サイズでの細孔の制御技術が必要とされる。このような事情から、本発明者らは、空気を含有する樹脂組成物と、それを用いた配線回路基板用樹脂組成物材料を得るための配合成分であるシリカナノ中空粒子の製造について検討を重ねた結果、炭酸カルシウムをテンプレートとし、シリコンアルコキシドの加水分解により上記テンプレート表面をシリカで被覆した後、酸処理により炭酸カルシウムを溶解させることによって、シリカの中空粒子を得る方法を突き止めた(非特許文献1参照)
【特許文献1】特開2000−154273号公報
【特許文献2】特開平9−46012号公報
【特許文献3】特許第3419787号公報
【非特許文献1】日本化学会第83回春季年会講演会予講集
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記シリカ中空粒子は、一次粒子としては、80〜100nm程度の中空状のものが得られるものの、マトリックス成分に配合すると上記一次粒子が凝集してミクロンオーダーの粒子を形成する場合があり、さらなる改善、すなわち、シリカ中空粒子において、凝集によるミクロンオーダーの形成が抑制されたナノオーダーの粒子であって、かつ細孔が制御されたものが要望されている。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、緻密なシリカ殻のナノオーダーの粒子径を備え、かつ分散性に優れた中空粒子が均一に分散された樹脂組成物およびそれを用いた低誘電率化の図られた配線回路基板の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、シリカ殻からなるナノ中空粒子がマトリックス樹脂成分中に分散されてなる樹脂組成物であって、上記シリカ殻からなるナノ中空粒子が、下記の特性(a)〜(c)を備えている樹脂組成物を第1の要旨とする。
(a)透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nmの範囲である。
(b)光散乱法による粒子径が30〜800nmの範囲である。
(c)水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されない。
【0010】
また、本発明は、上記樹脂組成物を用いて形成された絶縁層上に、回路パターン層が積層形成されてなる配線回路基板を第2の要旨とする。
【0011】
本発明者らは、低誘電特性を備えた配線回路基板を得るために、まず、その構成部分となる絶縁層形成材料について鋭意検討を重ねた。そして、低誘電率および低誘電正接な絶縁層を形成するための材料として、シリカ殻なるナノ中空粒子(シリカナノ中空粒子)を配合してなる樹脂組成物に着目し、特に上記シリカナノ中空粒子自身の特性を中心に研究を重ねた。その結果、一次粒子がナノオーダーで、その一次粒子の凝集が防止あるいは凝集径の抑制され、かつ細孔分布において微細な細孔が検出されない、高分散性のシリカナノ中空粒子、すなわち、上記特性(a)〜(c)を備えたシリカナノ中空粒子を用いると、樹脂組成物の系全体に上記特殊なシリカ中空粒子が分散され、独立した空気孔を有する多孔質化材料が得られ、低誘電率化が図られ、結果、低誘電特性を備えた配線回路基板が得られることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明は、マトリックス樹脂成分中に前記特性(a)〜(c)を備えた特殊なシリカナノ中空粒子が分散されてなる樹脂組成物である。このため、上記特殊なシリカ中空粒子が系中に分散された多孔質材料となり、低誘電率および低誘電正接の絶縁層形成材料となる。したがって、この樹脂組成物を配線回路基板の絶縁層形成材料として用いた場合、系中に独立した空気孔を備えた多孔質材料となり、低誘電特性を備えることとなる。
【0013】
このように、上記樹脂組成物を用いて絶縁層を形成し得られる配線回路基板は、低誘電特性を備えており、近年の高周波化に対応した低誘電率な配線回路基板が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、マトリックス樹脂成分中に、ナノオーダーの特殊なシリカナノ中空粒子が分散されたものである。
【0015】
上記特殊なシリカナノ中空粒子は、例えば、つぎのような製造方法に従って得られる。すなわち、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が2〜200nmの炭酸カルシウムを水系にて調製し、光散乱法による粒子径が20〜700nmになるように熟成させた後、脱水して含水ケーキの状態とする(炭酸カルシウムを調製する第1の工程)。
【0016】
ついで、上記含水ケーキをアルコール中に分散させ、アンモニア水およびシリコンアルコキシドさらに必要に応じて水を、シリコンアルコキシド/アルコール(体積比)=0.002〜0.1、アンモニア水に含有されるNH3 をシリコンアルコキシド1モルに対して25〜200モルとなるように添加すことにより、シリカでコーティングされた炭酸カルシウムを調製した後、アルコールおよび水による洗浄を行い、再び含水ケーキの状態とする(炭酸カルシウムにシリカをコーティングする第2の工程)。
【0017】
つぎに、上記含水ケーキを水に分散させ、これに酸を添加して、液の酸濃度を0.1〜3モル/リットルと設定し炭酸カルシウムを溶解させることにより(炭酸カルシウムを溶解させる第3の工程)、緻密なシリカ殻からなる高分散性を有するシリカナノ中空粒子を製造することができる。
【0018】
上記シリカナノ中空粒子の製造方法を詳しく述べると、まず、上記炭酸カルシウムを調製する第1の工程においては、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が2〜200nmの炭酸カルシウムを水系にて調製する。この調製方法としては、特に限定するものではなく、水酸化カルシウムのスラリーに炭酸ガスを導入して炭酸カルシウムを沈殿する方法や、塩化カルシウム等の可溶性カルシウムを沈殿させる方法等があげられる。この際、目的とする上記一次粒子径の炭酸カルシウムを得るには、比較的低温でかつ炭酸カルシウムの沈殿反応の速度を速めることが好ましい。例えば、上記水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスを導入する方法においては、炭酸ガスを導入する際の液温を30℃以下とし、また炭酸ガスを導入する速度を、水酸化カルシウム100g当たり、1.0リットル/分以上とすることが好適である。
【0019】
続いて、このように調製したスラリー状の炭酸カルシウムを、光散乱法による粒子径が20〜700nmになるように熟成させる。上記熟成方法としては、炭酸カルシウムのスラリーを室温(例えば、25℃前後)以下で静置する方法や、炭酸カルシウムのスラリーを高温化、具体的には50℃以上の液温で攪拌する方法等があげられる。本発明においては、上記のような方法により、光散乱法による粒子径が20〜700nmになるまで熟成を行うことが好ましい。
【0020】
ちなみに、スラリー調製直後あるいは熟成が不充分な炭酸カルシウム粒子は、粒子径20〜200nmの一次粒子が集合し、数μmの凝集粒子を形成している。このような状態では、最終的に得られるシリカナノ中空粒子も数μm程度の凝集粒子となり、所望の特性を備えたものが得られない。そして、熟成後の炭酸カルシウムスラリーは、加圧濾過、吸引濾過、遠心濾過、比重分離等の各種方法により脱水して含水ケーキの状態とする。また、得られる含水ケーキは、その含水量が30〜60重量%であることが好ましい。この範囲を外れると、後の第2工程において、シリカによるコーティングを均一に行うことが困難となるという問題が生じる傾向がみられるからである。
【0021】
続く上記第2の工程においては、上記第1の工程で調製した炭酸カルシウムの含水ケーキを、アルコール中に分散させ、アンモニア水およびシリコンアルコキシドさらに必要に応じて水を、シリコンアルコキシド/アルコール(体積比)=0.002〜0.1、アンモニア水に含有されるNH3 をシリコンアルコキシド1モルに対して25〜200モルとなるように添加することにより、シリカでコーティングされた炭酸カルシウムを調製した後、アルコールおよび水による洗浄を行い、再び含水ケーキの状態とする。この第2の工程において、溶媒として使用されるアルコールとしては、特に限定するものではなく、メタノール,エタノール,プロパノール等があげられる。このアルコール溶媒中への炭酸カルシウムの含水ケーキの分散方法としては、上記含水ケーキを上記溶媒へ投入した後、超音波の照射等により分散させる方法が好ましい。
【0022】
このように、上記炭酸カルシウムの含水ケーキを、アルコール中に分散させ、アンモニア水およびシリコンアルコキシドを添加し、さらに必要に応じて水も添加する。上記各成分の添加量に関しては前述のとおりであるが、水に関しては含水ケーキ中の水およびアンモニア水中の水で上記必要量を満たすことができれば必ずしも添加する必要はない。いずれの添加量も上記範囲を外れると、第2の工程において、粒子の凝集が生起し、最終的にミクロンオーダーの凝集したシリカナノ中空粒子となり易くなるか、あるいはシリカナノ中空粒子を構成するシリカ殻が緻密でなくなり、水銀圧入法により測定される細孔分布において0.2〜20nmの細孔が検出されるものが得られるという傾向がみられる。
【0023】
上記シリコンアルコキシドは、その加水分解によりシリカを析出し得るものであれば特に限定するものではなく、例えば、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリプロポキシシラン等があげられる。
【0024】
そして、炭酸カルシウムの含水ケーキをアルコール中に分散させ、上記各成分を添加した後は、シリコンアルコキシドの加水分解によるシリカの析出が完了するまで攪拌を継続することが好ましい。すなわち、未反応のシリコンアルコキシドが大量に含まれる場合、後の洗浄工程の際にシリカによりコーティングされた炭酸カルシウム粒子が凝集する傾向がみられるからである。その結果、最終的に得られるシリカナノ中空粒子も凝集体となり、高分散状態の樹脂組成物が得られなくなることもある。
【0025】
このようにして得られた、アルコール中に分散させた、シリカによりコーティングされた炭酸カルシウムは、アルコールにより洗浄して、未反応のシリコンアルコキシド、アンモニアを除去する。さらに、水にて洗浄してアルコールを除去して含水ケーキとする。この際の洗浄に関しては、加圧濾過、吸引濾過、遠心脱水、比重分離等により、固形分を回収した後、これにアルコールあるいは水を、繰り返し浸透、脱液する方法等があげられる。このように、第2の工程では、シリカによりコーティングされた炭酸カルシウムを生成させ、これを含水ケーキの状態とするものである。
【0026】
続いて、上記第3の工程においては、上記第2の工程の、含水ケーキを水に分散させ、そこに酸を添加して、液の酸濃度を0.1〜3.0モル/リットルとすることにより炭酸カルシウムを溶解させ、シリカの殻からなるシリカナノ中空粒子を製造するものである。そのためには、まず、上記第2の工程において調製したシリカによりコーティングされた炭酸カルシウムの含水ケーキを、水と混合しスラリー状態とする。ここに、液の酸濃度が0.1〜3.0モル/リットルとなるよう酸を添加する。この際に使用する酸としては、特に限定するものではなく、例えば、塩酸、硝酸、酢酸等の酸類を用いることができる。
【0027】
上記酸の添加量に関しては、液全体としての酸濃度が0.1〜3.0モル/リットルとなるよう設定される。すなわち、酸濃度が0.1モル/リットル未満では、炭酸カルシウムの溶解反応が極端に遅くなり、製造効率が悪化する傾向がみられる。逆に、酸濃度が3.0モル/リットルを超えると、反応が激しくなり、炭酸カルシウムの溶解に伴う炭酸ガスの発泡作用により、シリカの殻が破壊され、シリカナノ中空粒子が得られなくなる場合も生じ、その他に、酸濃度が高いと、中空粒子の凝集が激しくなる傾向がみられ、条件によっては、本発明の課題である、高分散状態のものが得られ難い傾向がみられる。
【0028】
そして、上記酸を用いて炭酸カルシウムを溶解させ、シリカの殻からなるシリカナノ中空粒子を生成させた後は、シリカナノ中空粒子の用途に応じ脱水、乾燥工程を経由させて乾燥粉とすることができる。もちろん、スラリー状態として使用する場合には、炭酸カルシウム溶解後のスラリーをそのまま用いてもよい。
【0029】
このようにして得られるシリカナノ中空粒子は、緻密なシリカ殻からなり、下記の特性(a)〜(c)を備えたものである。また、その形状は、特に限定するものではなく、例えば、立方体形状、略球状等種々の形状があげられ、上記製造工程に準じて適宜設定されるものである。
(a)透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nmの範囲である。
(b)光散乱法による粒子径が30〜800nmの範囲である。
(c)水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されない。
【0030】
上記特性(a)において、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nmの範囲であることから、配線回路基板の絶縁層形成材料として使用した場合、隣接する配線間の距離に対して、一次粒子径が充分小さく、電気信号の伝送が安定するという効果を奏する。なお、特性(a)における透過型電子顕微鏡法による一次粒子径は、例えば、後述のように、日立製作所社製の透過型電子顕微鏡を用いて観察することにより測定することができる。また、上記透過型電子顕微鏡法による一次粒子径の値は、母集団から任意に抽出される試料を用いて導出される値である。そして、粒子形状が真球状ではなく楕円球状(断面が楕円の球)や立方体形状等のように一律に粒径が定まらない場合には、最長径と最短径との単純平均値をその粒子の粒径とする。
【0031】
上記特性(b)において、光散乱法による粒子径が30〜800nmの範囲であることから、シリカナノ中空粒子が単独、あるいは凝集しても直径800nm以下の微細な凝集粒子であるため、ナノ粒子径に伴う種々の優れた特性を発現することができる。例えば、シリカナノ中空粒子がナノサイズであるため、透明感の高い粉体とすることができ、シリカナノ中空粒子を配合した製品の色相が損なわれることを抑制可能とする。また、ナノサイズのシリカナノ中空粒子として、リリースコントロール素材(薬剤の徐放性等を発揮する)、選択吸収剤等として利用することもできる。なお、上記特性(b)における光散乱法による粒子径は、例えば、後述のように、マルバーン社製、ゼータサイザー3000HSを用いて測定することができる。また、上記光散乱法による粒子径の値は、先と同様、母集団から任意に抽出される試料を用いて導出される値である。そして、粒子形状が真球状ではなく楕円球状(断面が楕円の球)や立方体形状等のように一律に粒径が定まらない場合には、最長径と最短径との単純平均値をその粒子の粒径とする。
【0032】
上記特性(c)において、シリカナノ中空粒子は、水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されず存在しないことから、直径2nm以上の分子、クラスターあるいは粒がシリカナノ中空粒子内部に浸透することがなく、直径2nm未満の分子等を選択的にシリカナノ中空粒子内部に取り込むことができる。そして、上記細孔分布において、上限は、通常、数十nm程度あり、上記特性(a)の一次粒子径の範囲を考慮すると20nm程度である。なお、特性(c)における水銀圧入法とは、JIS R 1655−2003(ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法)に準拠するものである。
【0033】
このように、本発明で用いられるシリカナノ中空粒子のシリカ殻については、従来のシリカ中空体のそれが微孔を有するのに対して、水銀圧入法により測定される細孔分布においては2nm以上の細孔が検出されない〔特性(c)〕という緻密なものであり、いわゆる平滑な膜状のシリカ殻なるシリカナノ中空粒子であるため、上記範囲の細孔が検出されず、従来のシリカ中空体とは異なる分野に応用される、すなわち、本発明のような低誘電特性を備えた配線回路基板の絶縁層形成材料に適するものである。
【0034】
なお、本発明でいうシリカとは、酸化ケイ素の含水物あるいは無水物のことをいい、この含水量については、用途に応じて適宜選択されるが、本発明の配線回路基板用材料の分野においては無水物を用いることが好ましい。上記シリカが殻となって形成されるシリカナノ中空粒子を用いて得られる樹脂組成物を配線回路基板の絶縁層形成材料とすることにより低誘電特性を備えた配線回路基板が得られる。そして、このシリカ殻が緻密であることが本発明の特徴の一つであり、前述のように、水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されない〔特性(c)〕ものである。一方、従来公知の技術では、製造される中空体は、上記細孔分布において2nm以上の細孔、例えば2〜20nmの細孔が検出されるものである。
【0035】
このことは、従来公知の方法によって得られるシリカの殻は超微細なシリカ粒子が集合して形成されていることを示している。これに対して、本発明にて用いられるシリカナノ中空粒子は、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nmの範囲で〔特性(a)〕、かつ光散乱法による粒子径が30〜800nmの範囲〔特性(b)〕であり、上記特性を本発明の特徴の一つとする。
【0036】
本発明でいう透過型電子顕微鏡法による一次粒子径とは、個々のシリカナノ中空粒子単一の粒子径であるのに対して、光散乱法による粒子径とは、液相中にシリカナノ中空粒子を分散させた際の分散粒子径をいう。従来技術によれば、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径がナノオーダーのものも得られるが、光散乱法による粒子径、すなわち、液相中に分散させた際の分散粒子径もナノオーダーになると、粒子径の凝集が顕著になり、結果的にはミクロンオーダー以上の凝集粒子が形成されてしまう。
【0037】
これに対して、本発明で用いられるシリカナノ中空粒子は、先に述べたように、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径と光散乱法による粒子径を比較しても明らかなように、液相中においても一次粒子が単独で存在しているか、もしくは凝集したとしても数個程度の一次粒子が凝集したものに抑制されている。このように、一次粒子がナノオーダーで、かつ一次粒子同士の凝集が防止された、または抑制された高分散性を備えたシリカナノ中空粒子を用いてマトリックス樹脂成分中に分散させたことが本発明の最大の特徴である。
【0038】
本発明の樹脂組成物に用いられるシリカナノ中空粒子は、高分散であり緻密なシリカの殻からなるため、従来のシリカ中空体とは異なる分野への応用が考えられる他、近年のナノテクノロジーに代表される超微細化技術への対応も可能となるものである。
【0039】
本発明の樹脂組成物において、上記特殊なシリカナノ中空粒子を均一分散させるマトリックス樹脂成分としては、特に限定するものではなく従来公知の各種ポリマー、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂があげられる。例えば、エポキシ樹脂やエポキシ樹脂を一成分とする混合樹脂組成物、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂等のポリマー材料があげられる。
【0040】
マトリックス樹脂成分の一例をあげると、配線回路基板の絶縁層形成材料にはエポキシ樹脂が用いられる。上記エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を含有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、フェノールノボラック型等の各種液状エポキシ樹脂およびその誘導体、多価アルコールとエピクロルヒドリンから誘導される液状エポキシ樹脂およびその誘導体、グリシジルアミン型、ヒダントイン型、アミノフェノール型、アニリン型、トルイジン型等の各種グリシジル型液状エポキシ樹脂およびその誘導体(実用プラスチック辞典編集委員会編、「実用プラスチック辞典材料編」、初版第3刷、1996年4月20日発行、第211頁〜第225頁にかけて記載)およびこれら上記液状エポキシ樹脂と各種グリシジル型固形エポキシ樹脂の液状混合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0041】
また、マトリックス樹脂成分としてエポキシ樹脂を用いる場合、その硬化剤として、フェノールノボラック樹脂系硬化剤、1級,2級および3級の各種アミン類、酸無水物類、ポリアミド樹脂硬化剤、ジシアンジアミド、イミダゾール類等の加熱硬化型硬化剤、芳香族ジアゾニウム塩、ジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩等の光紫外線硬化剤等を用いることができる。これら硬化剤の例示としては、垣内弘編、「新エポキシ樹脂」、株式会社昭晃堂にその記載がある。
【0042】
上記フェノールノボラック樹脂系硬化剤としては、特に限定するものではなく、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールA型ノボラック、ナフトールノボラックおよびフェノールアラルキル樹脂等があげられる。
【0043】
上記エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂系硬化剤との配合割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対してフェノールノボラック樹脂系硬化剤中の水酸基当量を0.5〜1.6の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは0.8〜1.2の範囲に設定することである。すなわち、上記配合割合を外れると、強靱な硬化体を得ることが困難となる傾向がみられるからである。
【0044】
さらに上記硬化剤とともに硬化促進剤を用いることもできる。上記硬化促進剤としては、従来公知の各種化合物、例えば、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン−7、トリエチレンジアミン等の3級アミン類、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のリン系硬化促進剤等があげられる。
【0045】
マトリックス樹脂成分としてエポキシ樹脂を用いた場合の樹脂組成物における上記シリカナノ中空粒子の含有割合は、誘電率を低下させるという点からは充填量は多い方が好ましいが、一方でエポキシ樹脂組成物の粘度をも上げることとなるため、目的の比誘電率と誘電正接を発揮させる必要量とすることが好ましい。
【0046】
上記シリカナノ中空粒子の含有割合である充填量は、例えば、容積基準で、エポキシ樹脂組成物全体の0.1〜50容積%の割合に設定することが好ましい。より好ましくは5〜50容積%である。すなわち、シリカナノ中空粒子の含有割合が50容積%を超えて多くなると、エポキシ樹脂組成物の溶融粘度が高くなることから、充填性が悪化する傾向がみられるからである。
【0047】
さらに、エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、低応力化剤、着色剤、密着向上剤、離型剤、流動調整剤、脱泡剤、溶剤および各種無機質充填剤等を適宜配合することができる。
【0048】
上記エポキシ樹脂組成物へのシリカナノ中空粒子の分散充填は、各種公知の方法によって行われるが、3本ロールを用いた剪断力による分散混合、ホモミキサーや各種高速攪拌機による分散混合方法も適用できる。
【0049】
一方、上記エポキシ樹脂以外に、ポリイミド樹脂があげられるが、上記ポリイミド樹脂としては、酸無水物類とジアミン類とを溶剤中で重付加反応させて得られるポリアミック酸が好適に用いられる。
【0050】
上記酸無水物類としては、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルテトラフルオロプロパンテトラカルボン酸二無水物等の芳香族酸無水物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0051】
上記ジアミン類としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、2,2′−ジメチル−4,4′−ジアミノベンジジン、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン等の芳香族ジアミン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、耐熱性を損なわない範囲で、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン等のジアミノシリコーンを、上記ジアミン類の一部、例えば、0.1〜50モル%を置き換えて使用することもできる。
【0052】
上記酸無水物類とジアミン類の重付加反応に用いられる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N−ジメチルスルホキサイド等の溶剤が好適に用いられる。そして、上記重付加反応によるポリアミック酸は、上記溶剤中にて酸無水物類とジアミン類を室温下、または冷却下で溶液粘度が上がるまで攪拌することにより容易に得ることができる。
【0053】
上記ポリアミック酸溶液へのシリカナノ中空粒子の分散充填は、各種公知の方法によって行われるが、3本ロールを用いた剪断力による分散混合、ホモミキサーや各種高速攪拌機による分散混合方法も適用できる。
【0054】
本発明の樹脂組成物を用いての配線回路基板は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、前記特殊なシリカナノ中空粒子が分散された樹脂組成物溶液を、電気絶縁性プラスチックフィルム等の基材に塗工した後、この塗工面に銅箔等の金属箔を積層して貼り合わせ、加熱硬化することにより配線回路基板の金属箔付き基材を作製する。ついで、上記金属箔に対して公知の各種エッチング処理を行い所望の回路パターンを形成することにより配線回路基板を製造することができる。
【0055】
上記電気絶縁性プラスチックフィルムとしては、ポリイミドフィルム,ポリパラバン酸フィルム,ポリエステルフィルム,ポリエチレンナフタレートフィルム,ポリエーテルスルホンフィルム,ポリエーテルイミドフィルム,ポリエーテルエーテルケトンフィルム等があげられる。
【0056】
上記金属箔としては、特に限定するものではなく、例えば、銅箔、アルミニウム箔,ニクロム箔等の導電性の良好な金属箔があげられる。また、厚みも特に限定するものではなく適宜に設定される。そして、必要によっては、金属箔表面に、錫,半田,金,ニッケル等のめっきを施してもよい。
【0057】
または、製造方法以外に、例えば、前記特殊なシリカ中空粒子が分散された樹脂組成物溶液を、金属箔に直接塗工し、加熱硬化することにより配線回路基板の金属箔付き基材を作製する。ついで、上記金属箔に対して公知の各種エッチング処理を行い所望の回路パターンを形成することにより配線回路基板を製造することができる。
【0058】
上記加熱硬化の条件としては、特に限定するものではなく、使用するマトリックス樹脂の種類等によって適宜に設定されるが、例えば、ポリアミック酸樹脂組成物溶液を用いた場合には、銅箔等の金属箔上にバーコーター等により塗工し、70℃で1時間、150℃で1時間、200℃で1時間、さらに350℃で1時間加熱乾燥して硬化することにより、配線回路基板の基材を作製するものである。
【0059】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
〔シリカナノ中空粒子の作製〕
液温15℃に調節した固形分濃度7.5重量%の水酸化カルシウムスラリー2.0リットルに、攪拌しながら、炭酸ガスを1.5リットル/分の速度で2時間導入して、炭酸カルシウムを沈殿させた。その後、液温を80℃にして24時間攪拌して熟成を行った。
【0061】
生成した炭酸カルシウムを透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−4700)にて観察したところ、一次粒子径は40〜80nmであった。炭酸カルシウムのスラリーを遠心脱水機にして含水量65重量%の含水ケーキとした後、この含水ケーキ22gを450gのエタノール中に投入し、1分間超音波照射して、エタノール中に炭酸カルシウムを分散させた。そこに、28%アンモニア水21g、テトラエトキシシラン7.5gを添加(テトラエトキシシラン/エタノールの体積比0.01、アンモニア水に含有されるHN3 はテトラエトキシシラン1モルに対して9.3モル、水はテトラエトキシシラン1モルに対して30モル)し、12時間攪拌を続けることによって、シリカによりコーティングされた炭酸カルシウムを調製した。
【0062】
この調製物を上記透過型電子顕微鏡にて観察したところ、40〜80nmの炭酸カルシウム表面に、厚み5〜10nmのシリカ殻が確認された。続いて、上記シリカによりコーティングされた炭酸カルシウムのスラリーを吸引濾過にて脱液し、エタノール1200mlによる洗浄、および水1200mlによる洗浄を行った後、再び水800mlに分散させた。これに、2.5モル/リットルの塩酸を200ml添加(液全体の酸濃度0.5モル/リットル)し、1時間攪拌して炭酸カルシウムを溶解させた。
【0063】
得られた生成物を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、一次粒子径が45〜90nmのシリカナノ中空粒子が確認できた。また、光散乱法(マルバーン社製、ゼータサイザー3000HS)では、粒子径は350nmであった。さらに、水銀圧入法により細孔分布を測定したところ、2nm以上の細孔が検出されず、しかも2nm以下の細孔も検出されなかった。
【0064】
〔シリカナノ中空粒子分散エポキシ樹脂組成物の調製〕
その後、脱水、乾燥工程を経由することにより、シリカナノ中空粒子の乾燥粉を得た。そして、得られたシリカナノ中空粒子乾燥粉21.4gを、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂と液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(平均エポキシ当量165g/モル)66g、液状フェノールノボラック(水酸基当量135g/モル)54g、およびトリフェニルホスフィン1.1gを混合したエポキシ樹脂液に添加し、3本ロールにて10回通しを行い、分散して、本発明のシリカナノ中空粒子分散エポキシ樹脂組成物を作製した。
【0065】
上記シリカナノ中空粒子分散エポキシ樹脂組成物液を真空脱泡した後、厚み35μmの銅箔に上記シリカナノ中空粒子分散エポキシ樹脂組成物液を塗工し、80℃で12時間加熱硬化することにより、銅箔上に厚み50μmの絶縁樹脂層を形成して、銅箔付き基材を得た。
【0066】
得られた銅箔付き基材の銅箔部分を、塩化第二鉄塩酸液にて所定の配線パターンにエッチングすることにより配線回路基板を作製した。一方、上記銅箔付き基材の絶縁樹脂層に主電極(直径12mm)とガード電極(直径22mm)を形成して、室温下(25℃)、100MHzにて比誘電率を測定したところ、比誘電率は3.2であった。
【実施例2】
【0067】
実施例1におけるシリカナノ中空粒子の製造工程と同様にして、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が200〜250nmで、光散乱法による粒子径が650〜720nmで、さらに水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されないシリカナノ中空粒子を製造した。そして、実施例1と同様にして、銅箔付き基材を作製し、さらに実施例1と同様にして配線回路基板を作製した。
【0068】
得られた銅箔付き基材について、実施例1と同様にして、室温下(25℃)、100MHzにて比誘電率を測定したところ、比誘電率は3.0であった。
【0069】
〔比較例1〕
シリカナノ中空粒子に代えて、一次粒子径が45〜90nmの球状シリカ中実粒子44.9gを用いた。それ以外は実施例1と同様にして球状シリカ中実粒子分散エポキシ樹脂組成物を得た。そして、上記球状シリカ中実粒子分散エポキシ樹脂組成物液を用い、実施例1と同様にして銅箔付き基材を作製し、さらに実施例1と同様にして配線回路基板を作製した。
【0070】
得られた銅箔付き基材について、実施例1と同様にして100MHzにて比誘電率を測定したところ、比誘電率は4.0であった。
【0071】
〔比較例2〕
シリカナノ中空粒子を配合せず、それ以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。そして、上記エポキシ樹脂組成物液を用い、実施例1と同様にして銅箔付き基材を作製し、さらに実施例1と同様にして配線回路基板を作製した。
【0072】
得られた銅箔付き基材について、実施例1と同様にして100MHzにて比誘電率を測定したところ、比誘電率は3.9であった。
【0073】
〔比較例3〕
実施例1におけるシリカナノ中空粒子の製造工程と同様にして、透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が350〜400nmで、光散乱法による粒子径が910〜960nmで、さらに水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されたシリカナノ中空粒子を製造した。そして、実施例1と同様にして、銅箔付き基材を作製し、さらに実施例1と同様にして配線回路基板を作製した。
【0074】
得られた銅箔付き基材について、実施例1と同様にして、室温下(25℃)、100MHzにて比誘電率を測定したところ、比誘電率は4.1であった。上記比誘電率の上昇原因は、細孔からのポリマー分子の侵入により空気が充填されなかったからであると推測される。
【0075】
以上のように、シリカナノ中空粒子分散エポキシ樹脂組成物を用いて作製された配線回路基板である実施例品は、比較例品に比べて低誘電特性を示すことは明らかである。
【0076】
これに対してすべての比較例品、なかでも比較例3品は、シリカ中空粒子を用いたにもかかわらず、その低誘電特性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ殻からなるナノ中空粒子がマトリックス樹脂成分中に分散されてなる樹脂組成物であって、上記シリカ殻からなるナノ中空粒子が、下記の特性(a)〜(c)を備えていることを特徴とする樹脂組成物。
(a)透過型電子顕微鏡法による一次粒子径が30〜300nmの範囲である。
(b)光散乱法による粒子径が30〜800nmの範囲である。
(c)水銀圧入法により測定される細孔分布において2nm以上の細孔が検出されない。
【請求項2】
上記マトリックス樹脂成分が、エポキシ樹脂である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
配線回路基板の絶縁層形成材料である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いて形成された絶縁層上に、回路パターン層が積層形成されてなる配線回路基板。

【公開番号】特開2007−56158(P2007−56158A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244233(P2005−244233)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】