説明

樹脂組成物および射出成形品

【課題】金型内で結晶化しながら成形する場合において特殊な金型温度設定を必要とせず、成形品の離型不良や取り出し時の変形といった成形不良がなく、耐熱性と耐衝撃性に優れた、乳酸系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、熱可塑性樹脂と可塑剤と結晶核剤とを含有する樹脂組成物であって、前記の熱可塑性樹脂は40重量%以上のポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含有し、当該ポリヒドロキシアルカノエート樹脂はL体またはD体を95重量%以上の割合で含有し、前記の可塑剤の含有割合はポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり2〜30重量部であり、前記の結晶核剤の含有割合はポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり0.5〜50重量部であり、そして、金型温度80℃、型締時間2分の条件下に射出して得られた成形品が以下の(1)〜(3)の物性を満足する樹脂組成物。
(1)熱変形温度≧80℃
(2)Izod衝撃強度≧10kJ/m
(3)曲げ弾性率=1500〜4500MPa

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物および射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリレート系、ポリカーボネート系、ポリイミド系などに代表される高分子材料は、様々な産業用資材として有効に利用されている。これらの汎用高分子材料は、耐熱性、耐衝撃性などの機械物性には優れているが、廃棄する際その処理方法を誤るとゴミの量を増大する上に、自然環境下では殆ど分解しないため、埋設処理すると、半永久的に地中に残留する。一方、熱可塑性樹脂で生分解性のあるポリマーとして、ポリ乳酸または乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸のコポリマーが開発されている。これらのポリマーは、動物の体内で数カ月から1年以内に100%生分解し、また、土壌や海水中に置かれた場合、湿った環境下では数週間で分解を始め、約1年から数年で消滅し、さらに、分解生成物は、人体に無害な乳酸と二酸化炭素と水になるという特性を有している。
【0003】
近年、これら乳酸系ポリマーを使用した家電製品筐体、自動車部品、ボトル、フィルム、シート、食器などの開発が進められている。これら用途では一般に耐熱性と耐衝撃性の両立が要求されるが、乳酸系ポリマーの耐熱性や耐衝撃性は汎用高分子材料に比べると劣っており、それらの向上が望まれている。
【0004】
乳酸系ポリマーの耐熱性を向上させる技術として、ポリ乳酸樹脂にポリアセタール樹脂および強化材をブレンドして成り、機械特性および耐熱性に優れた樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。また、乳酸系ポリマーにウィスカーをブレンドして成り、引張弾性率、曲げ弾性率、成形性に優れた乳酸形ポリマー組成物が提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらの樹脂組成物は、耐熱性は向上させることが出来ているものの、耐衝撃性については向上が見られず、アイゾット衝撃強度は68J/mが最大となっている(特許文献1の実施例2参照)。この値は、一般に電化製品筐体や自動車部品に使用されている樹脂(ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂など)の衝撃強度に比べると不十分であり、落下衝撃テスト等の実用評価において破損する場合がある。
【0005】
乳酸系ポリマーの耐衝撃性を向上させる技術として、乳酸系ポリマー、ポリ−ε−カプロラクトン及び結晶性無機粉末を混合、溶融し、85〜125℃に設定された成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、斯かる方法では、耐熱性と耐衝撃性に優れた成形物が得られるものの、金型温度100℃で成形した場合(特許文献3の実施例1参照)、金型から成形品を取り出す際に、成形品が金型から離型し難く、さらに、取り出し時に容易に変形してしまう等の問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−286402号公報
【特許文献2】特開2003−231799号公報
【特許文献3】特開平08−193165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、金型内で結晶化しながら成形する場合において特殊な金型温度設定を必要とせず、成形品の離型不良や取り出し時の変形といった成形不良がなく、耐熱性と耐衝撃性に優れた、乳酸系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、少なくとも、熱可塑性樹脂と可塑剤と結晶核剤とを含有する樹脂組成物であって、前記の熱可塑性樹脂は40重量%以上のポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含有し、当該ポリヒドロキシアルカノエート樹脂はL体またはD体を95重量%以上の割合で含有し、前記の可塑剤の含有割合はポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり2〜30重量部であり、前記の結晶核剤の含有割合はポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり0.5〜50重量部であり、そして、金型温度80℃、型締時間2分の条件下に射出して得られた成形品が以下の(1)〜(3)の物性を満足することを特徴とする樹脂組成物に存する。
【0009】
(1)熱変形温度≧80℃
(2)Izod衝撃強度≧10kJ/m
(3)曲げ弾性率=1500〜4500MPa
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、金型内で結晶化しながら成形する場合においても良好な成形性を有し、耐熱性と耐衝撃性を両立することの出来る乳酸系樹脂組成物を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂と可塑剤と結晶核剤とを含有する。そして、上記の熱可塑性樹脂は40重量%以上のポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含有する。
【0012】
本発明においてポリヒドロキシアルカノエート樹脂としては、乳酸系樹脂の他、ポリ3−ヒドロキシバリレート、ポリ3−ヒドロキシブチレート、ポリ3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ4−ヒドロキシブチレート、ポリ3−ヒドロキシオクタノエート、ポリ3−ヒドロキシデカノエート等が挙げられる。これら中では乳酸系樹脂が好ましい。
【0013】
また、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂の構成モノマーにおける光学異性体は、L体またはD体の何れでもよいが、結晶性の観点から、光学純度は95重量%以上である。すなわち、本発明で使用するポリヒドロキシアルカノエート樹脂はL体またはD体を95重量%以上の割合で含有することとなる。
【0014】
本発明において、乳酸系樹脂とは、構成成分として乳酸含有量が通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上の樹脂を意味する。乳酸系樹脂を構成するその他の成分としては、乳酸以外の脂肪族ヒドロキシカルボン酸類、脂肪族ジカルボン酸類、脂肪族ジオール類などが挙げられる。これらは、適宜に二種以上を組合せて使用することが出来る。また、乳酸系樹脂には、ポリマーの生分解性を損なわない範囲でテレフタル酸などの芳香族化合物が含有されていてもよい。
【0015】
上記の乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸もしくはそれらの混合物または乳酸の環状二量体であるラクタイド等の乳酸類から適宜選択されたものを使用することが出来る。
【0016】
上記の脂肪族ヒドロキシカルボン酸類としては、炭素数2〜10の乳酸以外のヒドロキシカルボン酸類が好ましく、具体的には、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが挙げられる。、更には、ヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の二量体であるグリコライドや6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンも使用できる。
【0017】
上記の脂肪族ジカルボン酸類としては、炭素数2〜30の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、フェニルコハク酸、1,4−フェニレンジ酢酸などが挙げられる。
【0018】
上記の脂肪族ジオール類としては、炭素数2〜30の脂肪族ジオールが好ましく、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール等が挙げられる。
【0019】
前記の乳酸系樹脂は、上記の原料を直接脱水重縮合する方法により得ることが出来る。また、上記の乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状二量体を開環重合させる方法により得られる。ここで使用する環状二量体としては、例えば、ラクタイドやグリコライドの他、ε−カプロラクトンのような環状エステル中間体が好適である。
【0020】
直接脱水重縮合法の場合、有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、共沸により留出した溶媒から水を除き、実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に循環する方法が好ましい。斯かる方法によれば、本発明に適した強度を持つ高分子量の乳酸系樹脂が得られる。乳酸系樹脂の重量平均分子量は、通常3〜500万、好ましくは7〜300万、更に好ましくは10〜150万である。
【0021】
本発明において、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂と共に使用することの出来る他の熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール等の結晶性熱可塑性樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド等の非結晶性熱可塑性樹脂が挙げられる。ポリヒドロキシアルカノエート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂の使用割合は、全熱可塑性樹脂中の割合として、60重量%以下、好ましくは50重量%以下、更に好ましくは35重量%以下、最も好ましくは20重量%以下である。
【0022】
熱可塑性樹脂の中で耐衝撃性を改良出来るものとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらの中では、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂との親和性が高いとの観点から、ポリエステル系樹脂が好ましい。特に、脂肪族ポリエステル樹脂が好ましい。また、ここで使用される樹脂は、曲げ弾性率50〜1000MPa程度の軟質樹脂が好ましい。耐衝撃性改良剤として作用する上記の熱可塑性樹脂の使用量は、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり、通常15〜150重量部、好ましくは20〜100重量部である。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、前述の熱可塑性樹脂と共に可塑剤と結晶核剤とを含有する。これらは、結晶化促進剤として作用し、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂(特に乳酸系樹脂)のガラス転移温度(Tg)を下げ、低温での結晶化を可能にする。その結果、本発明の樹脂組成物は、水温調の金型で生産性よく成形することが出来る。
【0024】
可塑剤としては、熱可塑性樹脂の可塑剤として使用されるものを適宜に選択して使用することが出来る。例えば、グリセリントリアセテート、グリセリントリ2−エチルヘキサン酸エステル、グリセリントリイソステアリン酸エステル等の多価アルコール誘導体;アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリプロピル、アセチルクエン酸トリ(2−エチルヘキシル)、アセチルクエン酸トリイソステアリル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリ(2−エチルヘキシル)、クエン酸トリイソステアリル等のヒドロキシカルボン酸誘導体;オレイン酸ブチル、オレイン酸イソステアリル、アジピン酸イソブチル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)等の脂肪族カルボン酸エステル;フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル等の芳香族カルボン酸エステル;ポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらの中では、高分子量であるために成形品表面からブリードアウトし難いポリアルキレングリコールが好ましく、特にポリエチレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量は通常200〜400万であり、好ましくは1000〜100万である。可塑剤の使用量は、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当り、通常2〜30重量部、好ましくは3〜10重量部である。
【0025】
結晶核剤としては、例えば、タルク、シリカ、マイカ、窒化ホウ素、各種クレー等の無機結晶核剤やエチレンビスステアリン酸アマイド等の有機結晶核剤が挙げられる。これらの中では、タルク等の層状珪酸化合物および有機結晶核剤が好ましい。特に、経済性の観点からタルクが好ましい。結晶核剤の平均粒子径は、通常0.1〜20μm、好ましくは0.5〜5μmである。平均粒子径が大きすぎる場合は核剤効果が低下し、平均粒子径が小さすぎる場合はハンドリングが困難となる。結晶核剤の使用量は、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当り、通常0.5〜50重量部、好ましくは0.8〜30重量、更に好ましくは0.1〜20重量部である。斯かる範囲内の使用量において、機械物性を損なうことなく、結晶化速度を向上させた樹脂組成物を得ることが出来る。
【0026】
本発明においては、耐衝撃性や耐熱性を向上させる目的で有機長繊維を使用するすることが出来る。有機長繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ケナフ、セルロース系繊維などが挙げられる。これらの中では、取扱・加工性や力学特性の観点から、ポリエステル系繊維が好ましい。有機長繊維の繊維長は、通常6〜30mm、好ましくは7〜15mmである。繊維長が短すぎる場合は耐衝撃が上がらず、長すぎる場合は樹脂組成物の流動性が悪化する。
【0027】
本発明の樹脂組成物には、成形性、二次加工性、分解性、保存安定性、耐候性、スリップ性、耐摩耗性、柔軟性、機械強度、耐久性などを向上させるため、各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、熱安定剤、難燃剤、可塑剤、離形剤、帯電防止剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、顔料などを添加することが出来る。
【0028】
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、公知の方法を使用することが出来る。通常、パウダー状またはペレット状の熱可塑性樹脂に、可塑剤、結晶核剤、耐衝撃性改良材をブレンダー等で混合した後、二軸押出機で押出してペレット化する。このようにして得られた本発明の樹脂組成物は、金型温度80℃、型締時間2分の条件下に射出して得られた成形品が以下の(1)〜(3)の物性を満足する。ただし、以下の各物性の測定は後述の実施例にて定義する方法による。
【0029】
(1)熱変形温度≧80℃
(2)Izod衝撃強度≧10kJ/m
(3)曲げ弾性率=1500〜4500MPa
【0030】
上記(1)の熱変形温度は前述の可塑剤の種類や使用量に依存し、上記(3)の曲げ弾性率は前述の結晶核剤の種類や使用量に依存する。また、上記(2)のIzod衝撃強度は、耐衝撃性改良剤や有機長繊維種類や使用量に依存する。また、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂と共に使用する他の熱可塑性樹脂の種類に基づく相溶化の程度などに依存する。
【0031】
熱変形温度が80℃未満の場合は、家電筐体や自動車用部材として使用した場合に、加飾工程または実使用環境下において、変形や収縮が生じるため好ましくない。好ましい熱変形温度は100℃以上である。また、熱変形温度は高い程好ましいが、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂の結晶融点のために上限は通常160℃程度となる。
【0032】
Izod衝撃強度が10kJ/m未満の場合は、製造工程における組付け作業や製品の搬送時、あるいは実使用時などに成形体に加えられる衝撃により、容易に破損してしまうため好ましくない。好ましいIzod衝撃強度は15kJ/m以上、特に好ましいIzod衝撃強度は20kJ/m以上である。また、Izod衝撃強度は高い程好ましいが、弾性率との兼ね合いにより上限は通常100kJ/m程度である。
【0033】
曲げ弾性率が1500MPaより小さい場合は構造部材として使用する際の肉厚が厚くなりすぎ、重量・経済性の面から好ましくなく、曲げ弾性率が4500MPaより大きい場合は、通常の汎用樹脂の特性から乖離するため、金型設計などに特別な工夫が必要となり、好ましくない。好ましい曲げ弾性率は2000〜4500MPa、特に好ましい曲げ弾性率は2100〜3000MPaである。
【0034】
本発明の樹脂組成物を成形する際、耐熱性と耐衝撃性を向上させるため、成形中または成形後に成形品を結晶化させることが好ましい。
【0035】
成形中に成形品を結晶化させる方法としては、乳酸系樹脂のガラス転移点ないし融点の間の温度に成形時の金型温度を加熱し、金型内で結晶化させる方法が挙げられる。この場合、金型の温度が100℃を超える場合は、温度調節のため、高沸点のオイル又は加圧水を使用する必要が生じ、設備コストが掛かり好ましくない。従って、金型温度としては、通常60〜100℃、好ましくは70〜90℃、更に好ましくは75〜85℃である。斯かる温度範囲では、結晶化が良好に進行するため、耐熱性と耐衝撃性の向上した成形品を得ることが出来る。成形サイクルに十分な余裕がある場合は、成形品が金型内で十分に結晶化した後、金型温度を乳酸系樹脂のガラス転移点以下の温度に冷却することにより、一層容易に成形品の取り出しを行うことが出来る。
【0036】
成形後に成形品を結晶化させる方法としては、乳酸系樹脂のガラス転移点以下の金型温度で成形した非晶状態の成形品を、乳酸系樹脂のガラス転移点ないし融点の間の温度に加熱して後結晶化させる方法が挙げられる。この場合、結晶化させる工程で成形品の収縮や変形が起こり易いため、特定の治具で固定しながら結晶化する方法が好ましい。
【0037】
上記の成形方法により、前述の(1)〜(3)の物性を満足する射出成形品を得ることが出来る。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。以下の諸例で使用した材料および評価方法は次の通りである。
【0039】
[使用材料]
【0040】
(1)乳酸系樹脂1:
三井化学(株)製「レイシアH400」、メルトフローレート3g/10分、融点166℃
【0041】
(2)乳酸系樹脂2:
トヨタ自動車(株)製「トヨタエコプラスチックU’z S−12」メルトフローレート7g/10分)、融点175℃
【0042】
(3)ジカルボン酸およびジオールを含むポリエステル系樹脂1:
大日本インキ(株)製「プラメートPD150」、メルトフローレート73g/10分、融点165℃
【0043】
(4)ジカルボン酸およびジオールを含むポリエステル系樹脂2:
三菱化学(株)製「GSPla AD92WN」メルトフローレート4.5g/10分、融点88℃
【0044】
(5)ジカルボン酸およびジオールを含むポリエステル系樹脂3:
三菱化学(株)製「GSPla AZ91TN」メルトフローレート4.5g/10分、融点110℃
【0045】
(6)可塑剤1:
和光純薬工業(株)製「アセチルトリブチルクエン酸」
【0046】
(7)可塑剤2:
和光純薬工業(株)製「ポリエチレングリコール6000」(数平均分子量6000)
【0047】
(7)層状珪酸化合物(タルク1):
林化成(株)製「ミセルトン」(平均粒子径1.4μm)
【0048】
(8)層状珪酸化合物(タルク2):
富士タルク(株)製「MT−7」(平均粒子径6.0μm)
【0049】
(9)有機結晶核剤:
ADEKA(株)製「ADEKA−NA」(セバシン酸ジ安息香酸ヒドラジド)
【0050】
(10)有機長繊維1(繊維長8mm):
ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(帝人ファイバー(株)製「P903AL BHT1670T250」、平均繊維径24μm)
【0051】
(11)有機長繊維2(繊維長8mm):
ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維)(帝人ファイバー(株)製「Q904N BHT1670T250」、平均繊維径24μm)
【0052】
(12)有機長繊維3(繊維長5mm):
ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維(帝人ファイバー(株)製「P903AL BHT1670T250」、平均繊維径24μm)
【0053】
なお、上記の使用材料において、メルトフローレートとは、JIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nで測定した値である。融点とは、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)で10℃/minで昇温した時の融解曲線のピーク温度から得られた値である。また、平均粒径とは、液相沈降式光透過法で測定し、粒度累積分布曲線から読み取った累積量50重量%の粒径値である。
【0054】
[評価方法]
【0055】
(1)曲げ弾性率:
成形により得られた厚み4mm×幅10mm×長さ80mmの試験片について、JIS−K7171に準拠して測定を行った。測定は、試験速度:2mm/min、支点間距離:64mmの条件で行った。
【0056】
(2)アイゾット衝撃強度:
成形により得られた厚み4mm×幅12.7mm×長さ63.5mmの試験片について、JIS−K7110に準拠して測定を行った。測定は、ノッチ加工の回転数:400rpm、ノッチ加工の送り速度:120mm/min、ハンマー容量:5.5J、測定温度:23℃の条件で行った。
【0057】
(3)熱変形温度(HDT):
成形により得られた厚み4mm×幅10mm×長さ130mmの試験片について、JIS−K7191に準拠して、エッジワイズ法、曲げ応力0.45MPaで測定を行った。
【0058】
(4)成形品外観:
射出成形後、固化不十分による型抜き時の試験片の変形を目視にて観察し、次の基準にて評価した。すなわち、試験片の変形なしを「○」、試験片の変形ありを「×」とした。
【0059】
製造例1(乳酸系樹脂ペレットの製造方法):
表1及び表2に示す乳酸系樹脂、ポリエステル系樹脂、可塑剤、結晶核剤を、それぞれ各表に示す配合で、二軸押出機(日本製鋼所(株)製「TEX30」、L/D=42、シリンダー径30mm、シリンダー温度:190〜210℃)で溶融混練し、ペレット化した。また、有機長繊維を含む乳酸系樹脂組成物の場合、表1に示す配合でクロスヘッドダイを有する二軸押出機(日本製鋼所(株)製「TEX30」、L/D=42、シリンダー径30mm、シリンダー温度:190〜210℃、クロスヘッドダイ温度:210℃)を使用して引き抜き成形を行い、長繊維強化乳酸系樹脂ペレット(実施例7〜10、比較例7〜9)を製造した。なお、このときのペレット長は、実施例7、8、10、及び比較例7〜9では8mm、実施例9では5mmとなるように調整した。
【0060】
実施例1〜9及び比較例1〜9:
上記で得られた乳酸系樹脂ペレットを、射出成形機(東芝機械製「IS55EPN」)に供し、シリンダー温度200℃、金型温度40〜80℃、背圧1MPa、スクリュー回転数100rpm、射出率50%、保圧2MPa、型締時間2分(射出・保圧時間40秒、冷却時間80秒)にて、試験片を成形した。評価結果を表1及び表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂と可塑剤と結晶核剤とを含有する樹脂組成物であって、前記の熱可塑性樹脂は40重量%以上のポリヒドロキシアルカノエート樹脂を含有し、当該ポリヒドロキシアルカノエート樹脂はL体またはD体を95重量%以上の割合で含有し、前記の可塑剤の含有割合はポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり2〜30重量部であり、前記の結晶核剤の含有割合はポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当たり0.5〜50重量部であり、そして、金型温度80℃、型締時間2分の条件下に射出して得られた成形品が以下の(1)〜(3)の物性を満足することを特徴とする樹脂組成物。
(1)熱変形温度≧80℃
(2)Izod衝撃強度≧10kJ/m
(3)曲げ弾性率=1500〜4500MPa
【請求項2】
ポリヒドロキシアルカノエート樹脂が乳酸系樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
可塑剤がポリアルキレングリコールである請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
結晶核剤が有機結晶核剤または層状珪酸化合物である請求項1〜3の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
層状珪酸化合物が平均粒子径0.1〜20μmのタルクである請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリヒドロキシアルカノエート樹脂以外の脂肪族ポリエステル樹脂を含有し、その割合がポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当り15〜150重量部である請求項1〜5の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
有機長繊維を含有し、その割合がポリヒドロキシアルカノエート樹脂100重量部当り5〜75重量部である請求項1〜6の何れかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
有機長繊維がポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリエチレンナフタレート樹脂である請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
有機長繊維の長さが6〜30mmである請求項7又は8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の樹脂組成物から成る射出成形品。

【公開番号】特開2009−91453(P2009−91453A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263219(P2007−263219)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】