説明

樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体の製造方法

【課題】植物由来樹脂であるポリ乳酸と石油由来樹脂を組み合わせた樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性、強度及び成形加工性を向上させる。
【解決手段】ポリ乳酸(A)と、ポリカーボネート(B)と、極性基を有し、電離性放射線の照射にて架橋する樹脂(C)とを樹脂成分として含み、全樹脂成分100質量部中に、前記(A)と前記(B)が合計で75質量部以上95質量部以下の割合で含まれると共に、前記(C)が5質量部以上25質量部の割合で含まれる樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形体の製造方法に関し、詳しくは、植物由来樹脂であるポリ乳酸を含む樹脂組成物からなり、特に、該樹脂組成物からなる成形体の強度、耐熱性及び耐水性を改善するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から加工性や物性のニーズに応じた幅広い種類の石油由来樹脂及びこれを利用した樹脂組成物が開発されているが、これらの石油由来樹脂の多くは自然環境中での分解速度が遅く、生分解性を有さないうえ、自然界で再生産不可能であるため、廃棄後における自然環境への影響が懸念されている。
【0003】
そこで、デンプンやポリ乳酸に代表される植物由来原料から合成される高分子材料(植物由来高分子材料)を石油由来樹脂と共に用いることが注目されている。
植物由来高分子材料は、石油合成高分子材料に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく、燃焼により発生させた二酸化炭素を吸収して固定化できる植物を原材料とするため、炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれ、生態系を含む地球環境に悪影響を与えないという利点がある。なかでもポリ乳酸は、植物から供給されるデンプンから作られる脂肪族ポリエステル系樹脂で、生分解性を有し、強度や加工性の点で石油合成高分子材料に匹敵する特性を有しており、さらに、近年の大量生産によるコストダウンで安価になりつつある点から、現在その応用について多くの検討がなされている。
【0004】
しかし、ポリ乳酸は60℃近辺にガラス転移温度を有するため、該温度を超えると大幅に強度が低下し、形状維持が困難になるという問題がある。例えば、夏場の高気温時には自動車内が60℃以上に上昇することもあるため、変形が生じるおそれがあるなど、致命的な問題となる。これを改善するために、ポリ乳酸の結晶化を促進することも考えられるが既存のエンジニアリングプラスチック等と比べると射出成形時の長い冷却時間が必要となり、成形加工性がよくないという問題がある。
【0005】
このようなガラス転移温度以上になると柔軟になりすぎて強度が低下してしまうというポリ乳酸の欠点を解決するために、電離性放射線や化学開始剤を利用してポリ乳酸を架橋させることが特許第3759067号公報(特許文献1)に記載されている。
また、特開2004−250549号公報(特許文献2)では、成形加工性と耐熱性を向上させるために、ポリ乳酸とその他の樹脂が一定の相連続構造及び分散構造を形成しているポリ乳酸樹脂組成物が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3759067号公報
【特許文献2】特開2004−250549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の製造方法は、電離性放射線の照射によりポリ乳酸の架橋よりも分解が優先し、強度低下が起こるため、得られた成形体の強度については改善の余地がある。
また、特許文献2は架橋構造を形成していないので、強度についてはさらに向上する必要があり、相構造を固定するために急冷するなどの工程が必要となり、加工成形性にも欠けるという問題がある。
しかし、単にこれらの技術を組合わせて、ポリ乳酸とその他の樹脂の混合物に電離性放射線を照射しても、ポリ乳酸と組みあわせる他の樹脂が電離性放射線により架橋しにくい樹脂である場合、低い照射量ではポリ乳酸の架橋が進行せず、架橋進行のために照射量を高めればポリ乳酸の分解が起こるため、照射量の制御が困難となり、容易に物性を向上させることはできない。
そのため、植物由来樹脂であるポリ乳酸と既存のエンジニアリングプラスチックとを組みあわせた樹脂組成物からなる成形体の強度、耐熱性及び成形加工性を改善することが要望されている。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、植物由来樹脂であるポリ乳酸と石油由来樹脂を組み合わせた樹脂組成物から得られる成形体の耐熱性、強度及び成形加工性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、第1の発明として、
ポリ乳酸(A)と、ポリカーボネート(B)と、極性基を有し、電離性放射線の照射にて架橋する樹脂(C)とを樹脂成分として含み、
全樹脂成分100質量部中に、前記(A)と前記(B)が合計で75質量部以上95質量部以下の割合で含まれると共に、前記(C)が5質量部以上25質量部の割合で含まれることを特徴とする樹脂組成物を提供している。
【0010】
また、第2の発明として、第1の発明の樹脂組成物からなる成形体の製造方法であって、
少なくとも前記ポリ乳酸(A)と前記ポリカーボネート(B)と前記樹脂(C)を混練して樹脂組成物を作製した後、該樹脂組成物を成形機で成形して成形体とし、該成形体に30kGy以上250kGy以下の電離性放射線を照射することを特徴とする成形体の製造方法を提供している。
【0011】
本発明者らは、ポリ乳酸とポリカーボネートを含む樹脂材料からなる成形体の強度及び耐熱性を改善する方法について鋭意研究した結果、ポリ乳酸とポリカーボネートを含む樹脂材料に易架橋性の樹脂(C)を配合し、電離性放射線を照射することで、易架橋性の樹脂(C)を優先的に架橋させてポリ乳酸の分解を抑制し、ポリ乳酸の分解よりも樹脂(C)による架橋ネットワークの形成を優先させることで、強度及び耐熱性を改善できることを見出した。
即ち、ポリ乳酸とポリカーボネートとからなる樹脂材料から成形した成形体に電離性放射線を照射してもポリ乳酸同士の架橋は促進されないため、易架橋性の樹脂(C)を配合し、樹脂(C)同士および樹脂(C)とポリ乳酸を結合させて三次元の網目構造を形成し、耐熱性や強度等の物性を改善している。
【0012】
易架橋性の前記樹脂(C)は、ポリ乳酸の架橋させるために配合していた多官能性モノマーを配合しなくても、電離性放射線の照射により架橋構造の形成が可能となる程度の架橋性を備えた樹脂である。かつ、互いに相分離しているポリ乳酸とポリカーボネートの界面に存在できる極性を有する樹脂としていることで、易架橋性の樹脂(C)がドメインとなるポリ乳酸およびポリカーボネートを被覆し、該樹脂(C)が電離性放射線の照射で架橋することにより、架橋樹脂成形体とすることができ、成形体の強度や耐加水分解性を向上させることができる。
前記観点から、易架橋性の樹脂(C)はポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)に共通する極性基であるカルボニル基を有するものであることが好ましい。
【0013】
なかでも、樹脂(C)はカルボニル基を備えたエチレン系共重合体及び/または3つ以上の連続するメチレン基を有する脂肪族ポリエステルからなることが好ましい。
【0014】
前記カルボニル基を備えたエチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸やエチレン−メタクリル酸共重合体の部分金属イオン化ポリマー等が例示できる。
これらの一部がマレイン酸やアクリル酸等でグラフト重合されている共重合体や、これらにその他の第三成分を共重合させた共重合体も使用することができる。
【0015】
前記3つ以上の連続するメチレン基を有する脂肪族ポリエステルとしては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のテレフタル酸の一部をアジピン酸に置き換えた構造を有する、ポリブチレンアジペート−ブチレンテレフタレート共重合体のような脂肪族−芳香族ランダム共重合ポリエステル等も例示できる。
このように、3つ以上の連続するメチレン基を有することで、同じ脂肪族ポリエステルに属するが連続するメチレン基を有さないポリ乳酸よりも電離性放射線の照射により活性化されたメチレン基から水素が引き抜かれやすくなり、架橋構造を形成しやすくなる。
また、コハク酸と1,4−ブタンジオールに対して、アジピン酸を共重合させたポリブチレンサクシネートアジペートや、乳酸を共重合させたポリブチレンサクシネートラクチドも用いることができる。
また、ポリブチレンサクシネートを、とうもろこしやさとうきびなどの糖から発酵化学により製造されるコハク酸と1,4−ブタンジオールから合成すると樹脂組成物及び成形体において植物由来樹脂が占める質量割合である植物由来度を高めることができる。
【0016】
前記樹脂(C)は全樹脂成分100質量部中に5質量部以上25質量部以下の割合で含まれる。好ましくは10質量部以上20質量部以下である。
前記配合量としているのは、樹脂(C)が5質量部未満であると樹脂組成物の易架橋性の樹脂(C)による架橋効果が得られにくく、ポリ乳酸の分解が促進されやすくなるからである。一方、25質量部を超えると樹脂組成物が柔軟になり過ぎ、機械的強度が低下するおそれがあるため、好ましくない。
【0017】
ポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)は合計で全樹脂成分100質量部中に75質量部以上95質量部以下の割合で含まれる。
これは、75質量部未満であると全樹脂成分に占める樹脂(C)の割合が多くなり初期強度が低下しやすく、95質量部を超えると樹脂(C)の割合が少なくなり電離性放射線の照射架橋による補強効果よりもポリ乳酸(A)の分解が促進されるからである。
【0018】
前記樹脂成分として、ポリ乳酸に、石油由来樹脂のポリカーボネート(B)を組み合わせているのは、ポリカーボネートは耐水性、耐熱性及び強度に極めて優れ、ポリ乳酸の欠点を効果的に補うことができるからである。
【0019】
前記ポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)の質量比(A:B)は、(10:90)〜(85:15)であることが好ましい。
これは、前記範囲よりもポリ乳酸(A)の質量比が小さくなると植物由来樹脂であるポリ乳酸を含有させる効果が薄くなり、電離性放射線により架橋構造を形成させて強度を向上させる必要性がなくなるからである。また、前記範囲よりもポリ乳酸(A)の質量比を大きくすると耐水性や加工性が低下し、ポリカーボネートを含有させる効果が小さくなる。
環境負荷低減や石油枯渇の問題を解消する観点からはポリ乳酸(A)の配合量は多い方が好ましく、ポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)の合計質量中にポリ乳酸(A)が30質量%以上含まれることがより好ましい。また、強度や耐水性の観点からはポリカーボネート(B)をできるだけ多く含む方が好ましく、ポリカーボネート(B)がポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)の合計質量中に35質量%以上含まれることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いるポリ乳酸(A)としては、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からなるポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸、またはこれら2種以上の混合物が挙げられる。なお、ポリ乳酸を構成するモノマーであるL−乳酸またはD−乳酸は化学修飾されていても良い。
本発明で用いるポリ乳酸としては前記のようなホモポリマーが好ましいが、乳酸モノマーまたはラクチドとそれらと共重合可能な他の成分とが共重合されたポリ乳酸コポリマーを用いても良い。コポリマーを形成する前記「他の成分」としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸もしくは6−ヒドロキシカプロン酸などに代表されるヒドロキシカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸;エチレングリコール、プロパンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ソルビタンもしくはポリエチレングリコールなどに代表される多価アルコール;グリコリド、ε−カプロラクトンもしくはδ−ブチロラクトンに代表されるラクトン類等が挙げられる。
なかでも、ポリ乳酸はとうもろこし、芋類、さとうきび、ビートなどの植物から採取されるデンプンを原料として製造される乳酸から製造される植物由来のものを用いることが好ましい。
【0021】
本発明で用いるポリカーボネート(B)としては、分子構造、密度等を特に規定するものではなく、種々のポリカーボネートを用いることが可能である。ポリカーボネートは、具体的には、2価以上のフェノール系化合物と炭酸ジエステル化合物とを反応させて得られるものである。
【0022】
前記2価以上のフェノール化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド等が挙げられる。また、3価以上のフェノール化合物としては、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシフェニルエーテル、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシフェニルエーテル、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2,2−ビス[4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等が挙げられる。この中で、コストパフォーマンスの点から2価のフェノール化合物で2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)を用いるのが特に好ましい。
【0023】
前記炭酸ジエステル化合物としてはホスゲン、ジフェニルカーボネート等が挙げられ、いずれを用いてもよいが、用いる化合物によってポリカーボネートの製造方法が異なる。すなわち、炭酸ジエステル化合物としてホスゲンを用いた場合は、溶媒及び脱酸剤の存在下における2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)を代表とする原料とホスゲンとの脱塩重縮合反応(ホスゲン法)によって、また炭酸ジエステル化合物としてジフェニルカーボネートを用いた場合は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)を代表とする原料とジフェニルカーボネートの無機溶媒条件下におけるエステル交換反応(エステル交換法)によってそれぞれ製造され、そのどちらの方法で製造されたポリカーボネートを用いてもよく、またその他の手法により製造されたポリカーボネートを用いることも勿論、可能である。
【0024】
さらに機械的強度を向上させるため、補強剤(D)が配合されていることが好ましい。
要求される物性に応じ、配合量は適宜選択することができるが、前記樹脂成分100質量部に対して前記補強剤(D)が10〜80質量部の割合で配合されていることが好ましい。より好ましくは25〜55質量部である。
前記配合量としているのは、10質量部未満では補強剤(D)を配合することの顕著な効果が得られず、80質量部を超えると得られる成形体が脆くなり機械的強度が低下して実使用に耐えられず、加工性も悪化するからである。
【0025】
前記補強剤(D)の種類は、特に限定されないが、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイトからなる群から選択される1種以上の無機充填剤、及び/または、植物性バイオマス材料等の有機充填剤であることが好ましい。
補強効果の観点からは、ワラストナイトを配合することが好ましい。
一方、環境負荷を低減し、成形体の植物由来度を向上させるという観点からは植物性バイオマス材料を配合することが好ましい。
これらの補強剤(D)は、シランカップリング剤等のシラン剤やステアリン酸などで表面処理されていてもよい。
【0026】
前記植物性バイオマス材料は「再生可能な化石資源を除く植物由来の有機性資源」であればよく、セルロース、リグノセルロース、ヘミセルロース及びデンプンから選ばれた1種以上の混合物を主成分として含むことが好ましい。
セルロースを含む植物性バイオマス材料としては、木材パルプやケナフの破砕物、木材パルプをアルカリ処理し、機械的に細断したアルファ繊維フロックや綿実から得られるコットンリンター、コットンフロック、人絹を細断した人絹フロック等;リグノセルロースを含む植物性バイオマス材料としては、リグノセルロース系繊維、リグノセルロース系粉末;デンプンを含む植物性バイオマス材料としては穀物粉が挙げられる。
具体的には、木材パルプ、リファイナー・グランド・パルプ(RGP)、製紙パルプ、古紙、粉砕処理した木片、木粉、ケナフ粉砕物、果実殻粉、米粉等を例示することができる。
これら植物性バイオマス材料の形状は特に制限がなく、粉末状、繊維状のものを使用することができる。
【0027】
木粉としては、例えば、松、モミ、ポプラ、竹、バガス、オイルパーム樹幹などの粉砕物や鋸屑、カンナ屑等があり、粉砕されて繊維化されたウッドファイバーを含む。
果実穀粉としては、クルミ、ピーナッツ、ヤシ等の果実の粉砕物がある。
デンプンとしては、米のほか、トウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、馬鈴薯デンプン、芋デンプン、タピオカ澱粉などの生澱粉及びそれらの軽度アセチル化物などを用いることができる。米としては、玄米、精米のいずれも用いることができる。
【0028】
植物性バイオマス材料として、平均粒径が5〜400μmの粉状の木粉及び/または米粉を用いることが好ましい。
木粉を用いる場合には、できるだけ微粉化して繊維同士の絡み合いをなくしたものが好ましく、作業の煩雑さ、経済性を考慮すると、通常20μm〜150μm程度のものが用いられる。
【0029】
前記植物性バイオマス材料は、不飽和カルボン酸またはその誘導体を相容化剤として、ポリ乳酸に分散されていることが好ましい。後述するように、不飽和カルボン酸誘導体には不飽和カルボン酸無水物が含まれる。
これらを相溶化するための配合順序は問わないが、植物性バイオマス材料を不飽和カルボン酸またはその誘導体で表面処理し、ポリ乳酸との相溶性を高めていることが好ましい。
前記表面処理は、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体と植物性バイオマス材料を混合し加熱することで行うことができ、植物性バイオマス材料の水酸基と不飽和カルボン酸のカルボキシル基がエステル化反応を起こすことにより行うことができる。このように植物性バイオマス材料の表面をエステル化することにより、疎水化し、植物性バイオマス材料のポリ乳酸への分散性及び界面接着性を向上させることができる。その際に一つのエステルが形成されるモノエステルや、無水カルボン酸の無水カルボキシル基が開かれて生じる2つのカルボキシル基あるいはジカルボン酸と植物性バイオマス材料の水酸基が縮合反応で結合するジエステルと二種類のエステルが可能である。
このほか、ポリ乳酸、植物性バイオマス材料及び不飽和カルボン酸またはその誘導体を同時に加熱混合して相溶化させてもよい。
電離性放射線の照射により、ポリ乳酸の架橋のほか、残留不飽和カルボン酸、遊離不飽和カルボン酸をポリ乳酸にグラフト付加させることもできる。これにより、残留不飽和カルボン酸、遊離不飽和カルボン酸を成形体内に保持し、染み出しを防止することができ、かつ、ポリ乳酸と植物性バイオマス材料の界面の相溶性もさらに高まり、成形体の強度を向上させることができる。
【0030】
不飽和カルボン酸としてはマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、ソルビン酸、アクリル酸が例示できる。
また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボンあるいは不飽和カルボン酸無水物の金属塩、アミド、イミド、エステル等を使用することができる。これらは2種以上混合して用いてもよい。
前記不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸が好ましく用いられる。特に無水マレイン酸を用いるのが好ましい。
不飽和カルボン酸及びその誘導体のほか、飽和カルボン酸、飽和カルボン酸無水物及びこれらの金属塩、アミド、イミド、エステル等の誘導体を使用することができる。飽和カルボン酸としてはコハク酸、フタル酸、飽和カルボン酸無水物としては無水コハク酸、無水フタル酸が例示できる。これらは2種以上混合して用いてもよい。
前記不飽和カルボン酸及びその誘導体、及び/または、飽和カルボン酸及びその誘導体は、前記ポリ乳酸と前記植物性バイオマス材料の合計質量100質量部に対して、0.2〜30質量部の割合で配合されていることが好ましい。
【0031】
なかでも、前記植物性バイオマス材料が不飽和カルボン酸無水物またはその誘導体で表面処理された木粉あるいは米粉であることが好ましく、特に、該木粉あるいは米粉が前記ポリ乳酸と予め接着された粒状の複合材料とされているものが好適に用いられる。この予め接着された粒状の複合材料は混練機に投入できるサイズであればよく、ペレット状とされていることが好ましい。
このようなポリ乳酸−植物性バイオマス複合材料として、ポリ乳酸と木粉あるいは米粉を用いた市販品を用いることができる。例えば、アグリフューチャー上越株式会社製「アグリウッドB(商品名)」等の市販品を好適に用いることができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物には電離性放射線の照射により架橋される易架橋性の樹脂(C)が含まれるが、さらにポリ乳酸自体の電離性放射線による分解を抑制し、ポリ乳酸を架橋させると共に、樹脂(C)の架橋を効率的に促進させる目的で多官能性モノマーを配合してもよい。
前記多官能性モノマーは、電離性放射線の照射により活性化して架橋できるモノマーであれば特に制限を受けないが、一分子内に二つ以上の二重結合を持つアリル系モノマー、アクリル系モノマー及びメタクリル系モノマーからなる群から選択される一種以上の多官能性モノマーであることが好ましい。
【0033】
前記アクリル系もしくはメタクリル系のモノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0034】
前記アリル系モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ブチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0035】
本発明で用いる多官能性モノマーとしては、比較的低濃度で高い架橋度を得ることができることから、アリル系モノマーを用いることが好ましく、特にトリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好適に用いられる。また、トリアリルイソシアヌレートと、加熱によって相互に構造変換しうる、トリアリルシアヌレートを用いても実質的に効果は同様である。その他、メタクリル系モノマーのトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)も好適に用いられる。
【0036】
多官能性モノマーは、前記樹脂成分100質量部に対して1〜15質量部の割合で配合されることが好ましい。
これは、多官能性モノマーの含有量が1質量部未満であると多官能性モノマーを配合する効果が十分に発揮されず、15質量部を超えると多官能性モノマー全量を均一に混合するのが困難になるという理由からである。
なお、前記多官能性モノマーは、ポリ乳酸(A)と樹脂(C)の合計質量100質量部に対しては0.5〜20質量部の割合で配合されていることが好ましい。
【0037】
前記樹脂組成物には、本発明の目的に反しない限りにおいて、ポリ乳酸(A)、ポリカーボネート(B)、樹脂(C)、所望により、補強剤(D)、多官能性モノマー以外に他の成分を配合しても良い。
例えば、前記ポリ乳酸以外に、他の生分解性樹脂を配合しても良い。
生分解性樹脂としては、ポリカプロラクトン、前記(C)以外の脂肪族ポリエステルもしくはポリビニルアルコール等の石油合成生分解性樹脂、またはポリヒドロキシブチレート・バリレート等の細菌産生直鎖状ポリエステル系樹脂等の細菌産生樹脂を挙げることができる。
また、ポリ乳酸以外の植物由来樹脂を、溶解特性を損なわない範囲で混合してもよい。
例えば、植物由来の合成樹脂としては、ナイロン11、酢酸セルロース、セルロースブチレート、セルロースプロピオネート、硝酸セルロース、硫酸セルロース、セルロースアセテートブチレートもしくは硝酸・酢酸セルロース等のセルロースエステル、またはポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸もしくはポリロイシン等のポリペプチドが挙げられる。
【0038】
また、本発明の目的に反しない限りにおいて、ポリカーボネート以外の石油由来樹脂を配合することもできる。
例えば、ナイロン等のポリアミド系樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアセタール(POM)等のエンジニアリングプラスチック、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン(PS)、スチレン共重合体等の汎用樹脂などが例示できる。
【0039】
さらに、前記樹脂組成物には、硬化性オリゴマー、各種安定剤、難燃剤、加水分解抑制剤、老化防止剤、帯電防止剤、防カビ剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、染料もしくは顔料等の着色剤等を加えることもできる。
【0040】
前記したように、前記樹脂組成物から成形体を製造する方法では、ポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)と易架橋性の樹脂(C)、所望により補強剤(D)、多官能性モノマーおよび他の成分を混練して前記樹脂組成物を作製した後、成形機で該樹脂組成物から成形体を成形し、該成形体に30kGy以上250kGy以下の電離性放射線を照射して架橋している。
【0041】
架橋構造の形成方法としては、有機過酸化物等のラジカル開始剤を含有させ、加熱して熱架橋させる方法もあるが、ラジカル開始剤は分解促進が激しいためポリ乳酸(A)や易架橋性の樹脂(C)の分解を引き起こすおそれがある。また、架橋の制御も困難であり、架橋が不均一となりやすく、さらに架橋時に成形物を温度上昇させる必要があるため成形物を熱変形させるおそれもある。
これに対し、本発明のように、電離性放射線を照射すると、成形物の内部まで均一に架橋することができるという利点があることに加え、架橋時に成形物を温度上昇させなくても架橋構造を形成することができ、架橋時に成形物を熱変形させずに架橋構造を形成することができる。特にポリ乳酸は融点以下であってもガラス転移温度である約60℃以上の温度では変形しやすいため、電離性放射線による架橋が適している。
さらに、電離性放射線による架橋は化学開始剤を要しないため、環境への負荷も低減することができる。
【0042】
成形方法は特に限定されず、公知の成形機、例えば、押出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等を用いて成形している。
【0043】
前記成形機で所要形状に成形した成形体に対して照射する電離性放射線としては、γ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種が空気中の酸素と結合して失活すると架橋効率が低下するためである。
【0044】
電離性放射線の照射量は前述したように30kGy以上250kGy以下であることが好ましい。より好ましくは50kGy〜150kGyである。
易架橋性の樹脂(C)や多官能性モノマーの配合量によっては電離性放射線の照射量が30kGy未満であっても樹脂組成物の架橋は認められるが、確実に樹脂(C)による架橋効果を発現させるには照射量が30kGy以上であることが好ましい。さらに、架橋効果を完全に得るためには電離性放射線の照射量が50kGy以上であることがより好ましい。
一方、電離性放射線の照射量を250kGy以下としているのは、ポリ乳酸(A)単独では照射崩壊型の性質を有するため、電離性放射線の照射量が250kGyを超えると架橋とは逆に分解を進行させることになるからである。電離性放射線の照射量の上限値は200kGyであることが好ましく、150kGyであることがより好ましい。
なお、電離性放射線の照射量は、前記範囲内で樹脂(C)や多官能性モノマーの配合量に応じ、ゲル分率が60質量%以上となるように適宜選択すればよい。
【0045】
本発明の製造方法により得られた成形体は、易架橋性の樹脂(C)や所望により配合される多官能性モノマーが電離性放射線の照射により活性化し、無数の三次元網目の架橋構造を形成しているため、強度が向上し、及び高温環境下においても変形しない耐熱性を有する。
【0046】
また、第3の発明として、前記樹脂組成物を成形した後、電離性放射線を照射して得られる成形体であって、
ゲル分率が60質量%以上100質量%以下であり、曲げ強度が60MPa以上200MPa以下、曲げ弾性率が2.5GPa以上8.5GPa以下であることを特徴とする成形体を提供している。
【0047】
前記成形体において、架橋の程度の指標となるゲル分率が60質量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上である。
ゲル分率の上限は高い方が好ましく、100質量%以下であることが好ましい。
【0048】
本発明において、ゲル分率は以下の方法で測定している。
成形体の乾燥質量を正確に計ったのち、200メッシュのステンレス金網に包み、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)液の中で48時間煮沸したのちに、DMFに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得る。ついで、50℃で24時間乾燥して、ゲル中のDMFを除去し、ゲル分の乾燥質量を測定し、得られた値をもとに下記式に基づきゲル分率を算出している。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥質量/サンプルの乾燥質量)×100
【0049】
第3の発明の成形体の曲げ弾性率及び曲げ強度は、後述の実施例に記載の方法で測定している。
【0050】
本発明の樹脂組成物および該樹脂組成物からなる成形体は、ポリ乳酸及び易架橋性の樹脂が架橋構造を有し、さらにポリカーボネートを配合して、強度、耐熱性、耐水性等を改善しているので、電子・電気機器を含む容器本体や該容器の部品、各種シート、フィルム等、汎用プラスチック製品の代替として広く利用することができる。
【発明の効果】
【0051】
前述したように、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分としてポリ乳酸(A)と、ポリカーボネート(B)と共に、極性基を有し、電離性放射線の照射時にて架橋する樹脂(C)を所定量含有しているため、本来は放射線照射崩壊型の性質を有するポリ乳酸(A)を用いながら、放射線照射による分解を抑制し、架橋構造を形成することができる。また、耐水性、耐熱性及び強度に極めて優れるポリカーボネートを配合することで、ポリ乳酸の欠点を補い、ポリ乳酸を含有しながら、強度、耐水性及び耐熱性に優れた材料とすることができる。
【0052】
さらに、本発明の製造方法では電離性放射線を用いてポリ乳酸(A)及び樹脂(C)の架橋構造を形成しているので、均一な架橋構造を形成でき、加熱しなくても架橋させることができる。そのため、架橋時における架橋構造の制御が容易で加熱による変形も抑えることもでき、加工性に極めて優れている。さらに、化学開始剤を使用しなくても架橋構造を形成することができることから、使用する化学薬品を削減することができる。そのため、本発明の製造方法は、現在プラスチック成形品が利用されている一般的な幅広い用途に応用することができる。
【0053】
本発明の成形体は、植物由来樹脂であるポリ乳酸を含むので、炭素の自然環境での分解・再合成のサイクルの維持に貢献し、地球温暖化の原因となる石油由来の二酸化炭素の排出を材料上削減することが出来る。その結果、グローバルな地球環境のみならず自然界における生態系に及ぼす影響が極めて少ない。また、焼却の際にはダイオキシンなどの有害物質を排出しないうえ、燃焼熱が低いという利点もあり、従来のプラスチックが有していた廃棄処理に関わる諸問題を解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
本発明の実施形態を説明する。
第1実施形態は、ポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)に易架橋性の樹脂(C)を樹脂成分として配合した樹脂組成物を、成形機で板状に成形し、該成形品に電離性放射線を照射して架橋構造とした板状の成形体からなる。
以下に該成形体の製造方法を詳細に説明する。
【0055】
前記樹脂組成物は、全樹脂成分100質量部中に、ポリ乳酸(A)25〜60質量部と、ポリカーボネート(B)25〜70質量部、極性基を有し、電離性放射線の照射にて架橋する樹脂(C)を5〜25質量部の割合で含み、前記(A)と前記(B)が合計で全樹脂成分100質量部中75質量部以上95質量部以下の割合で含まれると共に、前記(C)が5質量部以上25質量部以下の割合で含まれるようにしている。
ポリ乳酸(A)とポリカーボネート(B)の質量比(A:B)は、(30:70)〜(65:35)になるようにしている。
前記易架橋性の樹脂(C)としては、カルボニル基を備えたエチレン系共重合体であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、あるいは、3つ以上の連続するメチレン基を有する脂肪族ポリエステルであるポリブチレンサクシネート(PBS)を用いている。
【0056】
さらに、前記樹脂組成物には、補強剤(D)及び多官能性モノマーを配合している。
補強剤(D)としてはワラストナイトを用い、前記樹脂成分100質量部に対して10〜80質量部に割合で配合している。
多官能性モノマーとしてはアリル系モノマーであるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を用い、樹脂成分100質量部に対して1〜10質量部の割合となるように配合している。
【0057】
樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)、ポリカーボネート(B)、樹脂(C)、補強剤(D)、多官能性モノマーのほかに、さらに樹脂成分100質量部に対して加水分解抑制剤1〜10質量部を、老化防止剤を1〜10質量部を混練機に投入して混練して作製している。
混練機での混練終了後、ハンドリング性を考慮して、樹脂組成物を冷却した後、ペレタイザーにてペレット化している。
【0058】
次に、前記ペレット状の樹脂組成物を射出成形機、圧縮成形機、真空成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の成形機を使用して成形温度180〜200℃で板状に成形している。
【0059】
次いで、得られた成形体に対して、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により50kGy〜200kGyの電離性放射線を照射し、前記成形体に含まれる易架橋性の樹脂及びポリ乳酸を架橋し、本実施形態の架橋樹脂成形品からなる成形体を得ている。
【0060】
本実施形態の成形体は、ゲル分率が70質量%以上となる架橋構造を有する。
そのため、曲げ弾性率が2.5GPa以上8.5GPa以下、曲げ強度が60MPa以上200MPa以下となる強度を備えている。
また、ポリ乳酸のガラス転移温度である60℃を超える80℃の温水中で加熱処理を24時間行った後でも40MPa以上の曲げ強度を有する高い耐熱性及び耐水性を兼ね備えている。
【0061】
次に、第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、ワラストナイトの代わりに補強剤として植物性バイオマス材料であるウッドファイバーを含む木粉、あるいは米粉を用いている点で第1実施形態と相違する。
前記ウッドファイバーを含む木粉、あるいは米粉は、予め相容化剤となる無水マレイン酸無水物と加熱混合して表面処理されたのち、ポリ乳酸と加熱混練され、前記ポリ乳酸と接着された粒状の複合材料とされたものを用いている。
ポリ乳酸−植物性バイオマス複合材料において、(ポリ乳酸:木粉)の質量比は(40:60)〜(90:10)の割合としている。
本実施形態のように、補強剤として植物性バイオマス材料を用いても耐水性が若干低下するものの同様の補強効果を得ることができる。
他の成分及び製造方法は第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0062】
次に、第3実施形態の樹脂組成物について説明する。
第3実施形態は、多官能性モノマーを配合していない点で第1実施形態と相違する。
本発明の樹脂組成物は、電離性放射線の照射にて架橋する易架橋性の樹脂を含むので、多官能性モノマーを配合しなくても架橋構造を形成することができる。
本実施形態の樹脂組成物を架橋してなる成形体は、60質量%以上のゲル分率を有し、強度、耐水性及び耐熱性を有する。
他の成分及び製造方法は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0063】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
(実施例1)
表1に記載の成分を二軸混合機(池具鉄工(株)製「PCM30型」;L/D=48,D=26mmφ)を用いて、押出温度200℃で混合し、ペレタイザーでカッティングしてペレット状樹脂組成物を得た。
表1に示す材料系には、表1に示す以外に加水分解抑制剤0.5質量部と酸化防止剤0.5質量部を配合した。
【0064】
各成分の具体的な成分と商品名は以下のとおりである。
・ポリ乳酸(PLA);三井化学(株)製「レイシアH400(商品名)」
・ポリカーボネート(PC);三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ユーピロンE2000(商品名)」
・ポリ乳酸(PLA)−植物性バイオマス複合材料;アグリフューチャー上越(株)製「アグリウッドB(商品名)」
[ポリ乳酸(PLA)−植物性バイオマス複合材料の詳細]
植物性バイオマス;木粉(平均粒径30μm〜100μm)
ポリ乳酸と木粉の質量比;(植物由来樹脂:植物性バイオマス)=(45:55)
相溶化剤:マレイン酸無水物
・エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA);三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEV170(商品名)」
・ポリブチレンサクシネート(PBS);昭和高分子(株)製「ビオノーレ1020(商品名)」
・ワラストナイト;NYCO製「NYAS1250(商品名)」
・多官能性モノマー;日本化成(株)製トリアリルイソシアヌレート「TAIC(商品名)」
・加水分解抑制剤;日清紡(株)製「カルボジライトLA1(商品名)」
・酸化防止剤;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「イルガノックス1010(商品名)」
【0065】
得られたペレット状樹脂組成物を射出成形機(日精樹脂株式会社製「ES400(商品名)」)を使用して成形し、シリンダ温度190℃で、縦125mm×横13mm×厚さ3mmの曲げ試験用試験片を作成した。
曲げ試験用試験片及びペレット状樹脂組成物のそれぞれに対し、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により100kGyの電離性放射線を照射し、実施例1の成形体を得た。
【0066】
(実施例2)
易架橋性樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)の代わりにポリブチレンサクシネート(PBS)を用いた以外は実施例1と同様とした。
【0067】
(実施例3)
ポリ乳酸40質量部とワラストナイト40質量部の代わりにポリ乳酸(PLA)−バイオマス複合材料を80質量部用いた以外は実施例2と同様とした。
【0068】
(実施例4)
トリアリルイソシアヌレート(TAIC)を配合しなかった以外は実施例3と同様にした。
【0069】
(比較例1)
ポリカーボネート(PC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、多官能性モノマーを配合せず、ポリ乳酸の配合量を100質量部とした以外は、実施例1と同様とした。
【0070】
(比較例2)
ポリブチレンサクシネート(PBS)を配合せず、ポリ乳酸を50質量部、ポリカーボネートを50質量部とした以外は実施例2と同様とした。
【0071】
(比較例3)
電離性放射線を照射しなかった以外は実施例2と同様にした。
【0072】
得られた実施例、比較例について、下記方法でゲル分率、曲げ弾性率、曲げ強度の評価を行なった。曲げ強度は得られた成形体について行う常温試験のほか、得られた成形体を温水試験した後の試料について行う温水試験後試験も行った。
【0073】
(ゲル分率の評価)
各実施例および比較例のペレット状樹脂組成物の乾燥質量を正確に計ったのち、200メッシュのステンレス金網に包み、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)液の中で48時間煮沸したのちに、DMFに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得た。50℃で24時間乾燥して、ゲル中のDMFを除去し、ゲル分の乾燥質量を測定した。得られた値をもとに下記式に基づきゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥質量/サンプルの乾燥質量)×100
【0074】
(曲げ弾性率)
作製した曲げ試験用試験片を用いて、JIS K7171に規定の曲げ試験を行い、歪み−応力曲線の初期傾きを曲げ弾性率として求めた。
本試験は、温度23℃、湿度55%で行った。
【0075】
(曲げ強度)
作製した曲げ試験用試験片を用いて、JIS K7171に規定の曲げ試験を行い、最大強度を求めた。
また、温水浸漬後試験は、別に作製した曲げ試験用試験片を80℃の温水に24時間浸漬したのち、温水より取り出し、常温常湿下に2時間放置した後、JIS K7171に規定の曲げ試験を行い、最大強度を求めた。
本試験は、温度23℃、湿度55%で行った。
【0076】
実施例、比較例のゲル分率、曲げ弾性率、曲げ強度の評価結果を各々の製造条件と共に、下記の表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示すように、ポリ乳酸とポリカーボネートに易架橋性の樹脂を配合し、電離性放射線を照射した実施例1〜4は、易架橋性の樹脂に架橋構造が形成され、60質量%以上のゲル分率が得られた。また、曲げ弾性率が2.5GPa以上、常温での曲げ強度が60MPa以上、温水浸漬後の曲げ強度が40MPa以上であり、優れた強度、耐水性及び耐熱性を有していた。
これに対し、ポリカーボネートと易架橋性の樹脂を配合しなかった比較例1はポリ乳酸に架橋がみられるもののゲル分率が45%と低く、曲げ弾性率も2.5GPa未満で、常温での曲げ強度が54MPaと低く、さらに温水浸漬試験後には曲げ強度が4分の1以下に低下し、強度、耐水性及び耐熱性が劣っていた。
また、ポリカーボネートを配合するが易架橋性の樹脂を配合しなかった比較例2では多官能性モノマーを添加したにもかかわらず、ゲル分率が46%と低く、常温での曲げ強度が54MPaと低く、温水浸漬試験後には曲げ強度が2分の1以下に低下し、強度、耐水性及び耐熱性が劣っていた。
さらに、電離性放射線を照射しなかった比較例3は、ゲル分率が38%と低く、曲げ弾性率が2.5GPa未満、曲げ強度が60MPa未満となり、強度が劣っていた。
【0079】
なお、本発明の樹脂組成物および成形体は前記実施形態および実施例に限定されず、特許請求の範囲に基づき解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の樹脂組成物からなる成形体は、植物由来樹脂であるポリ乳酸を含有しながら、優れた強度、耐水性および耐熱性を有するため、汎用の石油由来のプラスチックの代替品として、フィルム、シート、容器、筐体等の成形品として広く利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)と、ポリカーボネート(B)と、極性基を有し、電離性放射線の照射にて架橋する樹脂(C)とを樹脂成分として含み、
全樹脂成分100質量部中に、前記(A)と前記(B)が合計で75質量部以上95質量部以下の割合で含まれると共に、前記(C)が5質量部以上25質量部の割合で含まれることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂(C)は、カルボニル基を備えたエチレン系共重合体及び/または3つ以上の連続するメチレン基を有する脂肪族ポリエステルである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)と前記(B)の質量比(A:B)が、(10:90)〜(85:15)である請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分100質量部に対して10〜80質量部の割合で補強剤(D)が配合されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記補強剤(D)が、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカ、クレー、ワラストナイトからなる群から選択される1種以上の無機充填剤、及び/または、植物性バイオマス材料である請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記補強剤(D)が不飽和カルボン酸またはその誘導体で表面処理された木粉あるいは米粉からなる植物性バイオマス材料である請求項4または請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記樹脂成分100質量部に対して多官能性モノマーを1〜15質量部の割合で含有する請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7に記載の樹脂組成物からなる成形体の製造方法であって、
少なくとも前記ポリ乳酸(A)と前記ポリカーボネート(B)と前記樹脂(C)を混練して樹脂組成物を作製した後、該樹脂組成物を成形機で成形して成形体とし、該成形体に30kGy以上250kGy以下の電離性放射線を照射することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形した後、電離性放射線を照射して得られる成形体であって、
ゲル分率が60質量%以上100質量%以下であり、
曲げ強度が60MPa以上200MPa以下、曲げ弾性率が2.5GPa以上8.5GPa以下であることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2009−13343(P2009−13343A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178735(P2007−178735)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】