説明

樹脂組成物成形品の製造方法

【課題】成形時間が短く、即ち生産性が良好で、熱処理(アニール処理)を行うことなしに既存の熱可塑性樹脂と同等以上の耐熱性、機械的特性を有する樹脂組成物成型品を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】樹脂組成物8を適切な温度に設定されている金型1のキャビィティ部6に射出して、樹脂組成物8を金型1内で結晶化させて樹脂成形を行い、樹脂組成物成形品9とする。成形後に可動側金型3を移動させ、型開きを行う。このとき、樹脂組成物成形品9は可動側金型3に取着する。次に、エアガンノズル10を用いて気体を、可動側金型3に取着した樹脂組成物成形品9の固定側金型2側に露出した表面11の突出しピンに対応する部分に噴射させて冷却を行う。冷却後、突出しピン5により樹脂組成物成形品9を突き出し、可動側金型3より取り外す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一般成形品の材料として使用される、ポリ乳酸を含む樹脂組成物成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化など、環境問題に対する関心が高まるにつれ、プラスチック分野に関しても石油由来の材料でなく、低エミッションかつカーボンニュートラルな植物由来成分の分解物を重合してなる樹脂に注目が集まってきている。中でも、植物由来成分の分解物の一種である乳酸を重合してなるポリ乳酸は、結晶性を有し、他の植物由来樹脂と比較して物性のすぐれた樹脂の一つであり、大量生産も可能でコストも比較的低いために有用性が高い。
【0003】
しかし、ポリ乳酸は、結晶化速度が遅く、一般的な射出成形では結晶化が徐々にしか進まないという難点がある。結晶化が進行していない段階で成形を行うと樹脂の耐熱性、機械的強度が低くなる。ポリ乳酸を含む樹脂組成物成形品に既存の熱可塑性樹脂と同等以上の耐熱性、機械的特性を持たせるためには、後工程としての熱処理(アニール処理)によって結晶化を進行させる必要が生じる(特許文献1、2)。
【0004】
一方、ポリ乳酸を含む樹脂組成物成形品の製造において、熱処理なしに結晶化を進行させるため、金型をポリ乳酸の結晶化温度(70〜130℃程度)付近に加熱し結晶化を促進させて成形を行おうとする提案がなされている(特許文献3)。しかし、この方法は、結晶化速度が遅いことと、高温時の強度が低いため、短い時間では成形できず、既存の熱可塑性樹脂に比べると、成形時間が長くなってしまう。
【特許文献1】特開2003−19143号公報
【特許文献2】特開2005−144702号公報
【特許文献3】特開2004−338185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたもので、成形時間が短く、即ち生産性が良好で、熱処理(アニール処理)を行うことなしに既存の熱可塑性樹脂と同等以上の耐熱性、機械的特性を有する樹脂組成物成型品を製造することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願請求項1の発明は、射出成形による樹脂組成物の製造方法であって、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を、型開き後に樹脂組成物成形品が取着しない側の第1金型と型開き後に樹脂組成物成形品が取着する側の第2金型との間のキャビィティ部に射出して成形した後に、金型を型開きさせ、次いで第2金型に取着した樹脂組成物成形品の第1金型側に露出した面の突き出し部材に対応する部分に気体を噴出させて冷却させた後に、樹脂組成物成形品を突出し部材により突き出して、樹脂組成物成形品を金型から取り出すことを特徴とする。
【0007】
本願請求項2の発明は、上記請求項1の発明において、樹脂組成物が、リグノセルロース繊維を5〜80質量%含むものであることを特徴とする。
【0008】
本願請求項3の発明は、上記請求項1又は2の発明において、樹脂組成物が、離型剤を0.1〜5質量%含むものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願請求項1の発明によれば、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を、型開き後に樹脂組成物成形品が取着しない側の第1金型と型開き後に成形品が取着する側の第2金型との間のキャビィティ部に射出して成形した後に、金型を型開きさせ、次いで第2金型に取着した樹脂組成物成形品の第1金型側に露出した面の突き出し部材に対応する部分に気体を噴出させて冷却させるようにしたので、短時間で突出し部材が当接する樹脂組成物成形品の部位が冷却されて固くなるため、成形後の冷却時間を短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化が起きなくなり、製造時間が短縮し、生産性が向上する。
【0010】
本願請求項2の発明によれば、樹脂組成物が、リグノセルロース繊維を5〜80質量%含むようにしたので、リグノセルロース繊維がその表面の微細な構造によって、ポリ乳酸の結晶核剤として作用し、結晶化を促進する。また、リグノセルロース繊維がポリ乳酸の補強材としても作用するため、成形後の冷却時間がさらに短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化が起こらず、製造時間がさらに短縮する。
【0011】
本願請求項3の発明によれば、樹脂組成物が、離型剤を0.1〜5質量%含むようにしたので、離型剤によって金型との過剰な密着が弱められ、成形後の冷却時間の短縮、ひいては製造時間の短縮により一層寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明は上記のとおりの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る樹脂組成物成形品の製造方法は、可動側金型と固定側金型よりなる金型を用い射出成形により樹脂組成物成形品を製造する方法であり、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を可動側金型と固定側金型との間のキャビィティ部に射出して成形した後に、金型を型開きさせ、可動側金型に取着している樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突き出し部材に対応する部分に気体を噴出させて冷却させた後、樹脂組成物成形品を突出しピンなどよりなる突出し部材により突き出して、樹脂組成物成形品を金型から取り出す。
【0014】
なお、通常の射出成形では、本実施形態のように金型の型開き後に樹脂組成物成形品は可動型金型に取着するが、樹脂組成物成形品や金型の形状、構造によっては、型開き後に固定側金型に樹脂組成物成形品が取着することもあり、本願発明はいずれのケースも包含するものとする。金型の型開き後に樹脂組成物成形品が固定側金型に取着する場合は、固定側金型と可動側金型における動作は逆となる。
【0015】
すなわち、本願発明における第1金型及び第2金型は、樹脂組成物成形品が取着しない側の金型か、取着する側の金型かによって、固定側金型にて構成したり、可動側金型にて構成したりする。
【0016】
本実施形態の製造方法における各工程の例を図1に断面図で模式的に示す。
【0017】
図1の(a)は、本実施形態で用いる金型1の構造を模式的に断面図で例示したものであり、この金型1は固定側金型2と可動側金型3よりなる。可動側金型3に形成されたピン孔4には突出しピン5が設けられている。6はキャビィティ部、7は射出口である。
【0018】
先ず、固定側金型2と可動側金型3が閉じてキャビィティ部6が形成された状態で樹脂組成物8を射出口7よりキャビィティ部6に射出する(図1(b))。その際、金型を後述のような適切な温度に設定しておき、射出後に樹脂組成物8を結晶化させて成形を行い、樹脂組成物成形品9とする。成形後に可動側金型3を移動させ、型開きを行う(図1(c))。このとき、樹脂組成物成形品9は可動側金型3に取着する。次に、エアガンノズル10より圧縮空気などの気体を、可動側金型3に取着した樹脂組成物成形品9の固定側金型2側に露出した表面11の突出しピン5に対応する部分に噴出させて冷却させる。冷却後、樹脂組成物成形品9を突出しピン5により突き出し、樹脂組成物成形品9を可動側金型3より取り外す(図1(e)、(f))。
【0019】
次に、本実施形態における各種条件などについて詳述する。
【0020】
本実施形態で用いるポリ乳酸は、トウモロコシやサツマイモなどから得られるデンプンや木本植物などから得られるセルロースを原料とし、乳酸発酵して得られる乳酸を脱水縮合して得られる。このポリ乳酸は結晶性を有するが、結晶化速度が遅い特徴がある。
【0021】
溶融させたポリ乳酸を含む樹脂組成物を、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂などのように金型を水で冷却する通常の冷却により固化させて成形した場合、結晶化速度が非常に遅いため樹脂組成物成形品の結晶化度は非常に低い。ポリエチレンなどは溶融した樹脂組成物を冷却すると、融点付近で凝固するとともに結晶化する。しかしポリ乳酸の場合、急速に冷却した場合は結晶化せず、ガラス転移温度以下の温度で凝固するが、非晶(ガラス)状態を保つ。ポリ乳酸の結晶化度が低いままでは耐熱性、機械的強度は向上しない。このため、本実施形態では、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を金型中で結晶化させて成形を行う。
【0022】
結晶化させる方法は限定されないが、樹脂組成物成形品を成形する際に、金型温度をポリ乳酸の結晶化温度の上下30℃程度の範囲内(70〜130℃)の温度として成形すると結晶化が促進される。結晶化温度の上下30℃の範囲内の温度で成形すると高温であるため、樹脂組成物成形品は柔らかく、金型から取り出すことが難しかったり、取り出す時に変形したりすることがある。
【0023】
このため、上述したように、本実施形態においては、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を可動側金型と固定側金型との間のキャビィティ部に射出して成形した後に、金型を型開きさせ、可動側金型に取着している樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンなどよりなる突出し部材に対応する部分に気体を噴出させて冷却させた後、樹脂組成物成形品を突出しピンなどよりなる突出し部材により突き出して、樹脂組成物成形品を金型から取り出している。樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンなどよりなる突出し部材に対応する位置に気体を噴出させて冷却させることにより、突出し部材が当接して樹脂組成物成形品が変形しやすい部位が短時間で冷却されて固くなるため、成形後の冷却時間を短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化を起こさないので、製造時間が短縮し、生産性が向上する。金型自体を冷却させる方法でも成形品の突出しによる形状変化を起こさないが、設備が複雑となり、また熱容量の大きい金型の温度を変化させると、温度を変化させるための時間がかかり製造時間の短縮とはならない。
【0024】
本実施形態において成形後の冷却に用いる気体の種類やその温度、気体を噴出させる装置や吐出圧力、吐出量、吐出時間などは特に限定されないが、一例としてエアコンプレッサーによる室温程度の圧縮空気をエアガンノズルから噴出させる方法が挙げられる。金型が金属である場合は、その金属を腐蝕させない気体であることが好ましく、また、ポリ乳酸のガラス転移点が55℃付近であるため、55℃以下の温度であることが好ましい。上記の条件は樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化を起こさず、金型からの取り出しが可能となるよう適宜設定される。
【0025】
射出成形の成形条件としては、射出成形機のスクリュー部温度が樹脂融点(約170℃)から樹脂融点より40℃高い温度の範囲内の温度が好ましい。スクリュー部温度がこの範囲であると、ショートの発生はなく成形が安定し、過負荷にもならず、また成形温度が高すぎることによる熱分解も起こらず、得られる樹脂組成物成形品の強度が十分確保され、着色も起こらない。
【0026】
本実施形態で用いる樹脂組成物には、ポリ乳酸以外の成分、例えば、他種の組成物や、結晶化をさらに促進させるための結晶核剤などの添加剤、充填材などを含有していても良い。
【0027】
ポリ乳酸はL−体、D−体の光学異性体を有しており、D−体とL−体の混合比率により結晶性が変化する。本実施形態においては、ポリ乳酸の結晶性が高い方がより好ましい。結晶性の指標となる融解熱が10J/g以上であるポリ乳酸を用いると、樹脂組成物の結晶性が高まり、この結果として、成形後の冷却時間をさらに短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化を起こさなくなるので、製造時間がより短縮するものとなり、本願発明の効果を高めることができる。
【0028】
上述した融解熱は結晶化した樹脂組成物を加熱しながら、熱分析(DSC)することによって測定できる。また、結晶化温度も溶融した樹脂組成物を冷却しながら、熱分析することによって測定できる。
【0029】
また、本実施形態の好ましい態様では、樹脂組成物が、リグノセルロース繊維を5〜80質量%含むものとしている。ポリ乳酸に植物から得られるリグノセルロース繊維を5〜80質量%の比率で含有させることで、リグノセルロース繊維がその表面の微細な構造によって、ポリ乳酸の結晶核剤として作用し、結晶化をより促進させることができる。また、リグノセルロース繊維がポリ乳酸の補強材としても作用するため、成形後の冷却時間をさらに短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化を起こさなくなるので、製造時間が短縮するものとなる。リグノセルロース繊維の含有量が5質量%以上であると結晶核剤としての作用および補強効果が発揮され、冷却時間の短縮効果が大きく、80質量%以下であるとリグノセルロース繊維とポリ乳酸との結合が強く、上記作用、効果が良好に発揮される。したがって、リグノセルロース繊維の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0030】
本実施形態で用いるリグノセルロース繊維としては、その主成分がセルロースとリグニンからなるものが使用可能である。具体的には、ケナフ、亜麻、ラミー、大麻、ジュートなどの麻類植物の靭皮から採取される繊維、マニラ麻やサイザル麻などの麻類植物の茎又は葉の筋から採取される繊維や、木材繊維が挙げられる。これらの繊維は、セルロースとリグニンのほか、ヘミセルロースやペクチンなどの成分で構成されている。
【0031】
ここで挙げた繊維のうち、麻類植物の繊維は、結晶性で強度の高いセルロースの比率が60%質量以上と木材繊維の30〜50質量%より高く、繊維としての強度が高い。またこれらの植物からは、レッティングと呼ばれる浸水処理及び物理的な解繊処理により、長さが20mm以上、直径が30〜200μmの繊維が容易に得られる。これらの繊維は長さが1〜20mm、直径が10〜30μmの単繊維細胞から構成されている。これらの繊維は、パルプ化などの化学処理によって、単繊維化することができる。
【0032】
本実施形態で用いるリグノセルロース繊維としては、上記のいずれかの処理で得られる繊維が用いられるほか、繊維状又は紡糸処理により糸状にされたものであればよい。またリグノセルロース繊維をシート状、不織布、織布に加工したものを用いてもよい。
【0033】
さらに、リグノセルロース繊維は、ガラス繊維を複合する場合と異なり、可燃物であるため、植物繊維樹脂複合組成物を廃棄物として焼却処理する際に発生する残渣量が少なくなるので、効率の良い廃棄処理が可能となる。また、廃棄後のリサイクルを考慮すると、リグノセルロース繊維は燃焼により、熱量を発生し、高効率で、熱回収を行うことができ、サーマルリサイクルが容易となる。加えて、リグノセルロース繊維は、有機物であるために、加水分解処理、微生物処理や発酵処理などにより、エタノールや水素といった種々の化学物質への変換も可能であり、ケミカルリサイクルも可能となる。
【0034】
結晶性の樹脂組成物にリグノセルロース繊維を含有させる方法については、特に限定されず、各種方法を用いることができる。具体的には、リグノセルロース繊維を溶融又はエマルジョン化などにより液状にした樹脂組成物に分散又は含浸する方法、リグノセルロース繊維と繊維状又はペレット状にした樹脂組成物を混抄する方法などが挙げられる。
【0035】
樹脂組成物を溶融し、リグノセルロース繊維と混練する方法においては、繊維と樹脂組成物が均一に分散され、均一な成形品ができるという特徴がある。この方法を用いる場合は、一般的な押出機、例えば一軸押出機,二軸押出機,ロール混練機などの装置が用いられる。混練後、押出しによりペレット又は繊維に加工した後、射出成形で、樹脂組成物成形品を製造することができる。
【0036】
また、本実施形態の別の好ましい態様においては、樹脂組成物が、離型剤を0.1〜5質量%含むものとしている。離型剤を樹脂組成物中に含有させることによって金型との過剰な密着を弱めることにより、成形後の冷却時間をさらに短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化を起こさなくなるので、製造時間がさらに短縮するものとなる。
【0037】
離型剤の含有量が0.1質量%以上であると、その離型効果が発揮され、5質量%以下であると、樹脂組成物からのブリード(しみだし)や物性低下などが起こるおそれがない。したがって、離型剤の含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0038】
この態様において用いられる離型剤の種類は特に限定されないが、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、モンタン酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルアルコール、メタクリル酸メチルなどが挙げられる。
【実施例】
【0039】
次に、本願発明の実施例を述べる。
(実施例1)
ポリ乳酸コンパウンドのペレット(商品名:TE8210、メーカー:ユニチカ、融解熱24J/g、融点168℃)を用い、シリンダ温度180℃、金型温度90℃でASTM規格測定用サンプルを射出成形した。金型での冷却時間90秒経過後、可動側金型を移動して型開きを行った後、可動側金型に取着した樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンに対応する部分にコンプレッサーによる圧縮空気(温度:20℃、吐出圧:5kgf/cm)をエアガンノズル(内径5mm)から5cmの距離で10秒間噴出させて冷却させた。そのすぐ後に、樹脂組成物成形品を突出しピンにより突き出して、樹脂組成物成形品を金型から取り出して、熱処理を行わずそのままの状態で、曲げ弾性率(ASTM D790)及び熱変形温度(ASTM D648:荷重0.45MPa)の測定を行った。
(実施例2)
ケナフ茎部の外皮部分となる靱皮から得られたケナフ繊維束(平均径82μm)15質量%とポリ乳酸のペレット(商品名:レイシアH−100、メーカー:三井化学、融解熱42J/g、融点170℃)85質量%を、一軸混練押出機にて180℃、5分間混練して、押出しによりペレットを作製した。得られたペレットを用い、シリンダ温度180℃、金型温度90℃でASTM規格測定用サンプルを射出成形した。金型での冷却時間60秒経過後、可動側金型を移動して型開きを行った後、可動側金型側の樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンに対応する部分にコンプレッサーによる圧縮空気(温度:20℃、吐出圧:5kgf/cm)をエアガンノズル(内径5mm)から5cmの距離で10秒間噴出させて冷却させた。そのすぐ後に、樹脂組成物成形品を突出しピンにより突き出して、樹脂成物成形品を金型から取り出して、熱処理を行わずそのままの状態で、実施例1と同様に物性評価を行った。
(実施例3)
ケナフ茎部の外皮部分となる靱皮から得られたケナフ繊維束(平均径82μm)30質量%とポリ乳酸のペレット(商品名:レイシアH−100、メーカー:三井化学、融解熱42J/g、融点170℃)69質量%及び離型剤(商品名:PED522,メーカー:クラリアントジャパン株式会社、酸化ポリエチレンワックス系離型剤)1質量%を、一軸混練押出機にて180℃、5分混練して、押出しによりペレットを作製した。得られたペレットを用い、シリンダ温度180℃、金型温度90℃でASTM規格測定用サンプルを射出成形した。金型での冷却時間45秒経過後、可動側金型を移動して型開きを行った後、可動側金型側の樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンに対応する部分にコンプレッサーによる圧縮空気(温度:20℃、吐出圧:5kgf/cm)をエアガンノズル(内径5mm)から5cmの距離で10秒間噴出させて冷却させた。そのすぐ後に、樹脂組成物成形品を突出しピンにより突き出して、樹脂成物成形品を金型から取り出して、熱処理を行わずそのままの状態で、実施例1と同様に物性評価を行った。
(比較例1)
実施例1と同様にポリ乳酸コンパウンドのペレット(商品名:TE8210)を用い、シリンダ温度180℃、金型温度90℃、金型での冷却時間120秒でASTM規格測定用サンプルを射出成形しようとしたが、材料が柔らかすぎて金型から取り出すことができなかった。金型での冷却時間を240秒として、射出成形を行ったが取り出す際に樹脂組成物成形品の突出しピンに対応する部分が変形した。熱処理を行わずそのままの状態で、実施例1と同様に物性評価を行った。
(比較例2)
実施例2と同様の、ケナフ茎部の外皮部分となる靱皮から得られたケナフ繊維束15質量%とポリ乳酸のペレット(商品名:レイシアH−100)85質量%を混練して得られたペレットを用い、シリンダ温度180℃、金型温度90℃でASTM規格測定用サンプルを射出成形した。樹脂組成物成形品が変形せずに取り出せた最短の金型での冷却時間は120秒であった。熱処理を行わずそのままの状態で、実施例1と同様に物性評価を行った。
(比較例3)
実施例2と同様の、ケナフ茎部の外皮部分となる靱皮から得られたケナフ繊維束30質量%とポリ乳酸のペレット(商品名:レイシアH−100)69質量%及び離型剤(商品名:PED522)1質量%を混練して得られたペレットを用い、シリンダ温度180℃、金型温度90℃でASTM規格測定用サンプルを射出成形した。樹脂組成物成形品が変形せずに取り出せた最短の金型での冷却時間は100秒であった。熱処理を行わずそのままの状態で、実施例1と同様に物性評価を行った。
(特性評価および結果)
以上の実施例及び比較例の配合および計測結果についてまとめたものを表1に示す。
【0040】
【表1】

*変形あり
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3を比較すると物性は同等であったが、金型での冷却時間に大きな違いがあった。
【0041】
樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンに対応する部分に圧縮空気を噴出させて冷却させることにより、樹脂組成物成形品の突出しピン当接部分を冷却固化させた実施例1は成形後の冷却時間を短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化を起こさずに、比較例1に比べ金型での冷却時間が短くなった。
【0042】
また、樹脂組成物にリグノセルロース繊維を含み、樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンに対応する部分に圧縮空気を噴出させて冷却させることにより、樹脂組成物成形品の突出しピン当接部分を冷却固化させた実施例2は、リグノセルロース繊維がポリ乳酸の結晶核剤として作用するとともに、ポリ乳酸の補強材として作用するため、成形後の冷却時間を比較例2より短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化が起きなかった。これによりさらに金型での冷却時間が短くなった。
【0043】
また、樹脂組成物にリグノセルロース繊維と離型剤を含み、樹脂組成物成形品の固定側金型側に露出した表面の突出しピンに対応する部分に圧縮空気を噴出させて冷却させることにより、樹脂組成物成形品の突出しピン当接部分を冷却固化させた実施例3は、離型剤によって金型との過剰な密着を弱めるため、成形後の冷却時間を比較例3より短縮しても、樹脂組成物成形品の突出しによる形状変化が起きなかった。これによりさらに金型での冷却時間が短くなった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係る樹脂組成物成形品の製造方法の各工程の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 金型
2 固定側金型
3 可動側金型
4 ピン孔
5 突出しピン
6 キャビィティ部
7 射出口
8 樹脂組成物
9 樹脂組成物成形品
10 エアガンノズル
11 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形による樹脂組成物の製造方法であって、ポリ乳酸を含む樹脂組成物を、型開き後に樹脂組成物成形品が取着しない側の第1金型と型開き後に樹脂組成物成形品が取着する側の第2金型との間のキャビィティ部に射出して成形した後に、金型を型開きさせ、次いで第2金型に取着した樹脂組成物成形品の第1金型側に露出した面の突き出し部材に対応する部分に気体を噴出させて冷却させた後に、樹脂組成物成形品を突出し部材により突き出して、樹脂組成物成形品を金型から取り出すことを特徴とする樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項2】
樹脂組成物が、リグノセルロース繊維を5〜80質量%含むものであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物成形品の製造方法。
【請求項3】
樹脂組成物が、離型剤を0.1〜5質量%含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物成形品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−260990(P2007−260990A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86733(P2006−86733)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】