説明

樹脂組成物

【課題】 接着、封止、注型、成型、塗装、コーティング等様々な用途に使用が可能であり、光などの活性エネルギー線の照射により低い温度で速やかに硬化可能な新規樹脂組成物、およびその硬化方法と硬化物を提供すること。
【解決手段】
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物
(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物
(3)活性エネルギー線照射によりアミジン類またはグアジニン類を発生させうる化合物の一種以上
(4)活性エネルギー線開裂型ラジカル発生剤
前記(1)〜(4)を必須成分とするエネルギー線活性型樹脂組成物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光、電子線等の活性エネルギー線の照射により低い温度で速やかに硬化可能な新規な樹脂組成物、およびその硬化方法と硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液状樹脂などの光硬化技術(紫外線などの活性エネルギー線の照射による重合、硬化技術)は、従来の熱硬化技術と比較して低温硬化、プロセスの短縮化、短時間硬化、微細加工性に優れる等の特徴を活かし、接着剤、シール剤、コーティング剤、レジスト剤等に広く用いられている。光硬化で主に用いられている硬化システムとしては、ラジカル硬化系とカチオン硬化系に大別される。ラジカル硬化系の場合、光ラジカル発生剤と(メタ)アクリレート樹脂が主成分であり、光照射後直ちに硬化することが特徴であるが、一般に接着力が低い、硬化収縮が大きい、耐熱性が悪い等の問題がある。一方、カチオン硬化系はジアリールヨードニウム塩やトリアリールスルホニウム塩等の光酸発生剤とカチオン重合性を有するエポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂等からなり、光照射の際に光酸発生剤が酸を発生してカチオン重合性樹脂を硬化させる。カチオン硬化の場合、速硬化性、高い接着力、低い硬化収縮等の特徴を有するが、被着体表面の湿気や僅かな塩基性汚れによる硬化不良の発生や、強酸が系内に残存するため金属や無機材質の被着体を使用すると腐食を引き起こすという問題がある。
【0003】
このようなカチオン硬化系の問題を解決する一つの手段として、光照射によって塩基性化合物を発生する光塩基発生剤によるアニオン硬化の研究が近年行われている。このような光塩基発生剤としては、例えば、カルバメート誘導体やオキシムエステル誘導体が一般的に知られており、これらの化合物は光照射によって1級または2級アミン類を発生し、エポキシ樹脂の硬化に利用されている(非特許文献1)。光により塩基触媒を発生させる技術はフォトレジスト技術に多く利用されており、既に技術的によく知られており、狭線幅レジストにおいては現像されたエッジの寸法安定性を求めるために、停止反応が少ないアニオン重合型の硬化形態が多く利用される(非特許文献2、特許文献1、2、3)。光発生された塩基性物質によりエポキシ樹脂を硬化させる手法において、その代表的な塩基性化合物にアミン類が挙げられ、アミン類は現在まで最も有用な光発生される塩基である。例えば、置換されたベンジルカルバメート誘導体は光照射により1級および2級アミン類を発生させ、エポキシ化合物の硬化反応を可能にする(非特許文献3、4、5)。一方で、3級アミン類を光化学的に発生させるための試みについても検討がなされている。テトラアルキルアンモニウム塩の光分解は光化学的に3級アミンを発生させる方法として提案されている(非特許文献6)。
【特許文献1】欧州公開特許第599571号公報
【特許文献2】欧州公開特許第555749号公報
【特許文献3】特開平4―330444号公報
【非特許文献1】Chemistry&TechnologyofUV&EBFormulationforCoatings,Inks&Paints,Ed.byG.Bradley,JohnWileyandSonsLtd.(1998、p479〜p545)
【非特許文献2】PureandAppl.Chem.,64,1239(1992)
【非特許文献3】J.Org.Chem.,55,5919(1990)
【非特許文献4】Polym.Mat.Sci.Eng.,64,55(1991)
【非特許文献5】Macromol.,28,365(1995)
【非特許文献6】Polym.Mat.Sci.Eng,.72,201(1995)
【0004】
また特定α−アミノケトン化合物とラジカルへの光分解開裂および該ケトン化合物を使用するオレフィン性不飽和モノマーおよびオリゴマーの光重合法は公知であり、特にラジカルおよびカチオン重合性成分を含むハイブリッド硬化系における光潜在性塩基の使用を開示している(特許文献4、5、6)、特許文献7には、一般的なエポキシ樹脂の硬化剤と光ラジカル重合開始剤からなるハイブリッド系についても開示されている。さらには特許文献8にはカルボン酸アンモニウム塩が、特許文献9にはα−アミノアセトフェノン誘導体が、特許文献10には芳香族系アミンイミド化合物が、特許文献11にはアミンイミド化合物と一重項・三重項増感剤、すなわち水素引き抜き型ラジカル発生剤との組み合わせがそれぞれ開示されている。また、特許文献12には、効率よく3級アミンを発生させる化合物としてα−アミノアセトフェノン類があり、当該化合物と水素引き抜き型ラジカル発生剤を組み合わせたエポキシ樹脂と多価チオール化合物類との付加硬化反応において光照射後により効率よく3級アミンが発生し、樹脂が硬化する系が報告されている。さらには特許文献13や非特許文献7には、光によりアミジン類を発生する化合物によるエポキシ樹脂の硬化、およびエポキシ樹脂とチオール化合物による組成物について報告されている。
【特許文献4】米国特許第4582864号公報
【特許文献5】米国特許第4992547号公報
【特許文献6】米国特許第5077402号公報
【特許文献7】米国特許第4943516号公報
【特許文献8】特開昭55−22669号公報
【特許文献9】特開平11−71450号公報
【特許文献10】国際公開特許WO2002/051905号公報
【特許文献11】特開2003−26772号公報
【特許文献12】特許第3250072号公報
【特許文献13】特表2005−511536号公報
【非特許文献7】第13回フュージョンUV技術セミナー講演要旨集p.41(2006)
【0005】
このように光により塩基性化合物を発生させる技術は多くの報告例があり、特にエポキシ樹脂の硬化における重合(硬化)開始系としての有用度は非常に高い。しかしこれまで報告されている光塩基発生系、特に3級アミンを発生させる系において、その発生効率はあまり高くなく、十分にアミン類を発生させるためには長時間の光照射が必要であるという欠点がある。そのために幾つかの手法が施されており、上述の特許文献8や9に記載されている発明では、発生させる3級アミンの発生効率は高いものの発生された3級アミンの触媒活性能力が低く、エポキシ樹脂を硬化させるものではない。
一方で特許文献10、特許文献11に記載されている系は、3級アミンを発生させることにより有用であると考えられるが、実際には完全硬化に至るまでの時間は非常に長く、エポキシ樹脂に十分な光硬化性を付与するには至っていない。特許文献12はエポキシ樹脂とチオール化合物と光アニオン開始剤により硬化させる組成物が開示されているが、これらも光照射終了後直ちにエポキシ樹脂を硬化させ得る能力を有しない。
特許文献13には、光アニオン開始剤として光により塩基性の大きいアミジン類を発生する化合物によるエポキシ樹脂の硬化、およびエポキシ樹脂とチオール化合物による組成物について開示されているが、具体的な組成およびどのような硬化速度を示すかには触れられていない。非特許文献7には、エポキシ樹脂とポリチオールと特許文献13で示された光アニオン開始剤による組成物がエネルギー線照射後2.5時間で硬化する技術およびその組成物の光活性がチオキサントンやベンゾフェノンにより向上されることが開示されているが、これも光照射終了後直ちにエポキシ樹脂を硬化させ得る程の硬化速度を有するものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述の問題点を解決すること、即ち接着、封止、注型、成型、塗装、コーティング等様々な用途に使用が可能であり、光などの活性エネルギー線の照射により低い温度で速やかに硬化可能な新規樹脂組成物、およびその硬化方法と硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するため鋭意検討した結果、本願発明者等は、
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物
(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物、
(3)活性エネルギー線照射によりアミジン類またはグアニジン類を発生させうる化合物の1種以上
(4)活性エネルギー線開裂型ラジカル発生剤
前記(1)〜(4)を必須成分とするエネルギー線活性型樹脂組成物により前記課題を解決した。
また、本発明の樹脂組成物に、さらに(5)酸性基含有化合物、ホウ酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステルから選択される一種以上の化合物を添加することで、樹脂組成物としての貯蔵安定性を向上させることを見出した。
さらに、本発明の樹脂組成物は光などの活性エネルギー線を照射することで系内に発生したアニオン種により重合硬化するが、その際にエネルギー線の照射と加熱を同時に、またはエネルギー線の照射後に加熱を行うことよって速やかな重合硬化が可能となり、その硬化物は例えば光学部品として提供される。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物
本発明に使用される分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物(成分(1))は、一般にエポキシ樹脂と呼ばれるものの他、分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物であれば良い。またエポキシ基以外の官能基を有していても良い。その官能基の具体例としては例えばヒドロキシル基、アクリル基、メタアクリル基、ビニル基、アセタール基、エステル基、カルボニル基、アミド基、アルコキシシリル基等である。これらのエポキシ基含有化合物はそれぞれ単独、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
具体例としてはビスフェノールAとエピクロルヒドリンから誘導されるジグリシジルエーテル、及びその誘導体、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンから誘導されるジグリシジルエーテル、及びその誘導体等の所謂エピ−ビス型液状エポキシ樹脂、脂肪族・芳香族アルコールとエピクロルヒドリンから誘導されるグリシジルエーテル、多塩基酸とエピクロルヒドリンから誘導されるグリシジルエステル、及びその誘導体、水添ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから誘導されるグリシジルエーテル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の脂肪族環状エポキシ、及びその誘導体、5,5’−ジメチルヒダントイン型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアネート、イソブチレンから誘導される置換型エポキシ等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0009】
市販されているエポキシ樹脂製品としては、例えばジャパンエポキシレジン株式会社製のエピコート828、1001、801、806、807、152、604、630、871、YX8000、YX8034、YX4000、大日本インキ工業株式会社製のエピクロン830、835LV、HP4032D、703、720、726、HP820、旭電化工業株式会社製のEP4100、EP4000、EP4080、EP4085、EP4088、EPU6、EPR4023、EPR1309、EP49−20、ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX411、EX314、EX201、EX212、EX252、等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。これらのうち、エピ−ビス型エポキシ樹脂を用いると価格および硬化性、硬化物の接着性、物理強度にバランスの良い組成物が得られる。また脂肪族、環状脂肪族エポキシ化合物を用いると硬化物の透明性、耐候性、柔軟性に優れた組成物が得られる。
【0010】
(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物
本発明に使用されるチオール化合物(成分(2))は、分子内にチオール基を2つ以上有するチオール化合物であれば良い。具体的に例示すると、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリストールテトラキスチオプロピオネート、エチレングリコールビスチオグリコレート、1,4−ブタンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリストールテトラキスチオグリコレート、ジ(2−メルカプトエチル)エーテル、1,4−ブタンジチオール、1,5−ジメルカプト−3−トアペンタン、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、1,3,5−トリメルカプトメチルベンゼン、4,4’−チオジベンゼンチオール、1,3,5−トリメルカプトメチル−2,4,6−トリメチルベンゼン、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン、2−ジブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン、末端チオール基含有ポリエーテル、末端チオール基含有ポリチオエーテル、エポキシ化合物と硫化水素との反応によって得られるチオール化合物、ポリチオール化合物とエポキシ化合物との反応によって得られる末端チオール基を有するチオール化合物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。市販されているチオール化合物の製品としては、例えばジャパンエポキシレジン株式会社製のJERメートQX11、QX12、JERキュアQX30、QX40、QX60、QX900、カプキュアCP3−800、淀化学株式会社製のOTG、EGTG、TMTG、PETG、3−MPA、TMTP、PETP、堺化学工業株式会社製のTEMP、PEMP、TEMPIC、DPMP、住友精化株式会社製MPS、東レファインケミカル株式会社製チオコールLP−2、LP−3、ポリチオールQE−340M等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。より好ましいチオール化合物は、貯蔵安定性の面からは塩基性不純物の極力少ないものである。また硬化物の耐熱性の面からは分子内に芳香環を含むチオール化合物がより好ましい。本発明の組成物におけるチオール化合物の配合量については、特に範囲を限定するものではないが、好ましくは組成物中のエポキシ化合物のエポキシ当量に対し、チオール当量比で0.5〜2.0の範囲内、より好ましくは0.8〜1.3の範囲内で加えることができる。上記の範囲内でチオール化合物を加えると、より硬化速度および硬化物の強度や耐熱性のバランスに優れた組成物を得ることができる。
【0011】
(3)活性エネルギー線の照射によりアミジン類またはグアジニン類を発生させうる化合物
本発明に使用される活性エネルギー線の照射によりアミジン類またはグアジニン類を発生させうる化合物(成分(3))は、紫外線等の活性エネルギー線の照射により塩基性物質を発生させる化合物(光塩基化合物)の一種で、その具体例としては、国際公開公報第97/31033号に開示されるN−ベンジルオキシカルボニルテトラメチルグアニジン、国際公開公報第98/38195号および国際公開公報第00/10964号に記載されるエネルギー線の照射を受けると対応する3級アミン塩基を遊離するα−アンモニウム、α−イミニウムもしくはα−アミジニウムケトンまたはアルケンのイオン性塩、特表2005−511536に開示されるエネルギー線の照射によりアミジン誘導体に転換できるベンジル型置換を持つアミン、およびそれらを含む混合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの化合物は、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。これらの化合物のうちより好ましいものは活性エネルギー線の照射により、1,8−ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデカ−7−エン(DBU)や、1,5−ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノン−5−エン(DBN)のようなアミジン類およびそれらの誘導体、およびテトラメチルグアニジン(TMG)のようなグアジニン類およびその誘導体を発生させうる化合物を含むものであり、これらの化合物はより塩基性の大きい塩基を発生させるため、これらを用いるとより硬化速度に優れる組成物が得られる。硬化速度の面からはDBN誘導体を発生させうる化合物を含むものが特に優れている。
本発明の組成物における成分(3)の配合量については、特に範囲を限定するものではないが、好ましくは前記した成分(1)と成分(2)の合計100重量部に対し0.02〜20重量部の範囲内、より好ましくは0.1〜10重量部の範囲内で加えることができる。上記の範囲内で成分(3)の化合物を加えると、より硬化前の可使時間と硬化速度、および硬化物の強度のバランスに優れた組成物を得ることができる。
【0012】
(4)活性エネルギー線開裂型ラジカル発生剤
活性エネルギー線開裂型ラジカル発生剤(成分(4))は、光などのエネルギー線を照射することにより当該化合物が開裂してラジカルを発生するタイプの光ラジカル発生剤である。その具体例として、ベンゾインエーテル誘導体、アセトフェノン誘導体等のアリールアルキルケトン類、オキシムケトン類、アシルホスフィンオキシド類、チオ安息香酸S−フェニル類、チタノセン類、およびそれらを高分子量化した誘導体が挙げられるがこれに限定されるものではない。市販されている開裂型ラジカル発生剤としては、1−(4−ドデシルベンゾイル)−1−ヒドロキシ−1−メチルエタン、1−(4−イソプロピルベンゾイル)−1−ヒドロキシ−1−メチルエタン、1−ベンゾイル−1−ヒドロキシ−1−メチルエタン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−ベンゾイル]−1−ヒドロキシ−1−メチルエタン、1−[4−(アクリロイルオキシエトキシ)−ベンゾイル]−1−ヒドロキシ−1−メチルエタン、ジフェニルケトン、フェニル−1−ヒドロキシ−シクロヘキシルケトン、ベンジルジメチルケタール、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−ピリル−フェニル)チタン、(η6−イソプロピルベンゼン)−(η5−シクロペンタジエニル)−鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシ−ベンゾイル)−(2,4,4−トリメチル−ペンチル)−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−2,4−ジペントキシフェニルホスフィンオキシドまたはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニル−ホスフィンオキシド、(4−モルホリノベンゾイル)−1−ベンジル−1−ジメチルアミノプロパン、4−(メチルチオベンゾイル)−1−メチル−1−モルホリノエタン等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明の組成においてこれら開裂型ラジカル発生剤を使用すると、従来より光塩基開始剤の増感剤として知られていたベンゾフェノン類やチオキサントン類等の所謂水素引き抜き型の光ラジカル発生剤を使用した場合と比較して、格段に速い硬化速度を示し、エネルギー線照射後直ちに本発明の樹脂組成物を硬化することが可能となる。この硬化促進機構は明らかではないが、活性エネルギー線照射により、水素引き抜き型ラジカル発生剤と比較して開裂型ラジカル発生剤は寿命の長いラジカルが大量に発生することが考えられる。
なお、上記硬化速度の向上は、組み合わせる成分(3)の光塩基化合物の種類にも影響されるため、所望の性能を発現させるために成分(3)および成分(4)を任意に選択して使用することも可能である。また、これら成分(4)の開裂型ラジカル発生剤は単独でも2種類以上を混合して用いても良い。これら成分(4)の配合量については特に範囲を限定するものではないが、好ましくは前記成分(1)と成分(2)の合計100重量部に対し0.05〜20重量部の範囲内、より好ましくは0.1〜10重量部の範囲内で加えることができる。上記の範囲内で開裂型ラジカル発生剤を加えると、より硬化前の可使時間と硬化速度、および硬化物の強度のバランスに優れた組成物を得ることができる。
上述の開裂型ラジカル発生剤の中でも、高分子オリゴマー/ポリマー中に開裂型ラジカル発生剤の構造を導入した高分子量タイプのものは、硬化時及び硬化後のアウトガスが少ないため好ましい。
【0014】
本発明では、前記(1)〜(4)を主成分とする樹脂組成物に、さらに酸性基含有化合物、ホウ酸エステル、リン酸エステルから選択される一種以上の化合物(成分(5))を添加することが可能である。
本発明で用いられる酸性基含有化合物は、室温で液状または固体の有機酸、無機酸、および分子中に酸性基を含むオリゴマー、ポリマーであり、また酸性基以外の官能基を持っていても良い。例えば、硫酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、フマル酸、バルビツール酸、ホウ酸、ピロガロール、フェノール樹脂、カルボン酸無水物等が挙げられるがこれらに限定されない。これら酸性基含有化合物は、本発明の樹脂組成物の保存状態(硬化前)での可使時間、貯蔵安定性をさらに向上させる効果がある。
本発明で用いられるホウ酸エステル類は、室温で液状または固体のホウ酸エステルである。例えばトリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ−n−プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ−n−ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2−エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10−テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13−ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7−トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ−o−トリルボレート、トリ−m−トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
また本発明で用いられるリン酸エステル類としてはリン酸エチル、リン酸ブチル、リン酸プロピル、リン酸−2−エチルヘキシル、リン酸ジブチル、リン酸−ジ(2−エチルヘキシル)、リン酸オレイル、リン酸エチルジエチル等が挙げられる。
これら酸性物質(酸性基含有化合物、ホウ酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル)は、本発明の樹脂組成物のエネルギー線照射前の貯蔵安定性を向上させる効果がある。これらの酸性基含有化合物、ホウ酸エステル類およびリン酸エステル類は、それぞれ単独でも、2種以上を混合して使用しても良い。またこれらの酸性物質とエポキシ樹脂等を混合しマスターバッチ化したものを添加しても良い。このような保存安定性向上剤として市販されている製品としては例えば四国化成工業株式会社製キュアダクトL−07N等が挙げられるがこれに限定されるものではない。これら酸性基含有物質、ホウ酸エステル類およびリン酸エステルの配合量については特に範囲を限定するものではないが、好ましくは前記成分(1)記載のエポキシ化合物と成分(2)記載のチオール化合物の合計100重量部に対し0.01〜20重量部の範囲内、より好ましくは0.05〜10重量部の範囲内で添加される。添加により貯蔵安定性がさらに向上するが、添加量が多すぎると硬化性が低下する。
【0015】
本発明の硬化組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において分子内に1つのエポキシ基を含む化合物、および/または分子内に1つのチオール基を有する化合物を添加しても良い。これらの化合物は組成物全体の低粘度化や作業性の向上、反応性の調整等に用いられる。上述のエポキシ化合物やチオール化合物を添加した場合はそれぞれのエポキシ当量、チオール当量を考慮して前記成分(1)のエポキシ化合物と成分(2)のチオール化合物の配合比を調節することが望ましい。
また本発明の硬化組成物には、本発明の特性を損なわない範囲においてベンゾフェノン、チオキサントン等の水素引き抜き型ラジカル重合開始剤を添加しても良い。
【0016】
さらに本発明の硬化組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、銀等の導電性粒子、難燃剤、アクリルゴムやシリコンゴム等の有機充填剤、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂やビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA・ビスフェノールF共重合型フェノキシ樹脂等の汎用フェノキシ樹脂類、ポリメタクリレート樹脂類、ポリアクリレート樹脂類、ポリイミド樹脂類、ポリウレタン樹脂類、ポリエステル樹脂類、ポリビニルブチラール樹脂、SBS樹脂及びそのエポキシ樹脂変性体、SEBS樹脂及びその変性体などのポリマーや熱可塑性エラストマー、可塑剤、有機溶剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により、より樹脂強度・接着強さ・難燃性・熱伝導性、作業性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。本発明の樹脂組成物の硬化方法として、エネルギー線照射と加熱を同時に行うことによりさらに少ないエネルギー照射量、および短い時間で硬化物を得ることができる。またエネルギー線照射後に加熱を行うことよっても短時間で硬化物を得ることができる。本発明の組成物を硬化処理して得られる樹脂硬化物は強靱かつ透明性があり高い屈折率を持つなど優れた特性を有し、光学部品の成形や接着、封止、注型、塗装、コーティング材等様々な用途に使用が可能である。また本組成物は本発明内の組成において、エネルギー照射後直ちに硬化することも、エネルギー照射直後は硬化せず、その後短時間の室温または加熱化での放置により硬化することも可能であり、後者のような性質は、また、DVDの接着剤に代表されるように、接着部材が光等のエネルギーを透過しない場合でも、組成物にエネルギーを照射した後塗布貼り合わせすることにより接着が可能である。
【0017】
本発明の樹脂組成物を一液硬化型組成物の形態として得る場合、上記成分(1)〜(4)の各成分を任意に混合撹拌することで容易に調製することができるが、成分(3)の光塩基化合物を最後に添加することが、保存安定性および硬化性を損なわない上でより好ましい。また、本発明の樹脂組成物をA液、B液の二液に分けた形態とし、両者を使用前に混合して使用する、二液混合硬化型組成物の形態として得る場合、A液に成分(1)のエポキシ化合物と成分(4)のラジカル発生剤の混合物、B液に成分(2)のチオール化合物と成分(3)の光塩基化合物の混合物、とすることが組成物の安定性と硬化性を損なわない上で好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂組成物は、請求項1に記載する構成をとることで光などのエネルギー線の照射により容易に硬化する。特に成分(4)のエネルギー線開裂型ラジカル発生剤を使用することにより、水素引き抜き型ラジカル発生剤以上に活性となるため、少ないエネルギー線照射量でも照射後直ちに硬化終了する程の迅速な硬化が実現できる。本発明の樹脂組成物にさらに酸性基含有化合物、ホウ酸エステル化合物、リン酸エステル化合物を添加すると組成物の可使時間や保存安定性を大きく向上させることができる。また、成分(3)のエネルギー線の照射により塩基を発生する化合物と成分(4)の開裂型ラジカル発生剤、および成分(5)の酸性物質を任意に選択することにより、光などのエネルギー線の照射による重合硬化速度を制御することができる。この特性により、例えばエネルギー照射直後は硬化せず、その後短時間の室温または加熱化での放置により硬化すること(遅延硬化)も可能である。
本発明の組成物を紫外線等のエネルギー線照射による硬化処理して得られる樹脂硬化物は強靱かつ透明性があり高い屈折率を持つなど優れた特性を有し、光学部品の成形や接着、封止、注型、塗装、コーティング材等様々な用途に使用が可能である。
【0019】
以上述べてきた本発明の組成物は活性エネルギー線により速やかに硬化し、接着、封止、注型、成型、塗装、コーティング等様々な用途に使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。また、下記の表中の配合割合は特に断りのない限り重量基準である。
【0021】
本発明の実施例および比較例に使用した材料は市販の製品または試薬であり、下記の通りである。
[成分(1)]
・エピクロン835LV:大日本インキ工業株式会社製 ビスフェノール型エポキシ樹脂・デナコールEX−911:ナガセケムテックス株式会社製 脂肪族エポキシ樹脂
[成分(2)]
・JERキュアQX30:ジャパンエポキシレジン株式会社製 3官能脂肪族ポリチオール
・JERキュアQX60:ジャパンエポキシレジン株式会社製 6官能脂肪族ポリチオール
[成分(3)]
・光塩基化合物Aは、5−(アントラセン−9−イルメチル)−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナンであり、特表2005−511536号公報に示される方法により合成して得たDBN系光塩基化合物である。
[成分(4)]
・イルガキュア651:チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製 開裂型光ラジカル発生剤
・イルガキュア184:チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製 開裂型光ラジカル発生剤
・ダロキュア1173:チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製 開裂型光ラジカル発生剤
・ルシリンTPO:BASFジャパン株式会社製 開裂型光ラジカル発生剤
・ESACURE KIP150:LAMBERTI CHEMICAL SPECIALTIES社製 高分子量タイプ開裂型光ラジカル発生剤
・イルガキュア369:チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製 開裂型光ラジカル発生剤
・イルガキュア907:チバスペシャリティーケミカルズ株式会社製 開裂型光ラジカル発生剤
[水素引き抜き型光ラジカル発生剤]
・ベンゾフェノン:東京化成工業株式会社試薬 水素引き抜き型光ラジカル発生剤
・KAYACURE DETX−S:日本化薬株式会社製 チオキサントン:水素引き抜き型光ラジカル発生剤
・ベンジル:東京化成工業株式会社試薬 水素引き抜き型光ラジカル発生剤
・ITX:東京化成工業株式会社試薬 水素引き抜き型光ラジカル発生剤
成分(5)
・ホウ酸トリエチル:東京化成工業株式会社試薬
[その他]
・光塩基化合物Bは、1,1−ジメチル−1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル)アミンパラニトロベンジイミドであり、国際公開特許WO2002/051905に開示された方法に従い得た芳香族系アミンイミド系光塩基化合物である。
【実施例】
【0022】
[実施例1〜18および比較例1〜7]
表1に示す通りの重量比で材料を遮光容器中室温(25℃)で混合攪拌し、実施例1〜18および比較例1〜7の組成物を調製した。なお、各材料の添加順序については、各組成物とも光塩基化合物を最後に添加することにより調製した。
得られた各組成物を下記項目について評価試験を行いその結果を併せて表1に示した。各評価試験の方法は以下の通りである。
【0023】
・硬化までの積算光量、24J/cm2照射後25℃×24h硬化性試験
各組成物0.2gを直径25mmのポリプロピレン製キャップに滴下し、25℃室中にて浜松ホトニクス社製スポット紫外線照射装置(365nm照度:100mW/cm2)を用いてエネルギー線を連続照射したときの、樹脂全体が硬化して流動しなくなるまでの時間(秒)と照度から次式により硬化までの積算光量を求めた。
積算光量(J/cm2) = 照度(100mW/cm2) × 時間(秒)
また、240秒(24J/cm2)照射しても硬化しなかったものは、その後25℃室中に放置し、24時間後に組成物が硬化しているかを目視で観察した。
・25℃可使時間の測定
組成物を10mlの遮光瓶に密閉し25℃恒温室の暗所に保管し、組成物がゲル化して流動性がなくなり使用できなくなるまでの日数を測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜4から、本発明の組成物が、長い可使時間を有し、エネルギー線照射により極めて短時間で硬化し強靱な硬化物を形成することがわかる。また、光塩基化合物と開裂型ラジカル発生剤の添加量により可使時間および硬化速度を任意に調節できることがわかる。また実施例5〜15からは、実施例1〜4以外の開裂型ラジカル発生剤を使用しても、同様の優れた硬化性を有することがわかる。実施例14〜15からは、ホウ酸エステル化合物を添加することで、充分な硬化速度を維持しつつ可使時間を大幅に長くすることができ、添加量により可使時間および硬化条件を任意に調節できることがわかる。実施例16〜17からは本発明の組成物の範囲内に置いてチオール化合物の量を変更しても問題ないことがわかる。実施例18からは、種々のエポキシ化合物およびチオール化合物を使っても問題ないことがわかり、硬化物の特性を調節できることがわかる。
一方比較例1〜3からは、成分(4)の開裂型ラジカル発生剤を含まない場合または成分(3)の塩基を発生する化合物を含まない場合、硬化しないか、あるいは著しく硬化性に劣ることがわかる。比較例4〜6からは、ラジカル発生剤として水素引き抜き型ラジカル発生剤を使用した場合、硬化性に劣ることがわかる。例えば、比較例4と実施例3との比較、比較例5と実施例10との比較、比較例6と実施例11との比較により、明らかである。比較例7からは、本発明に含まれない塩基を発生する化合物を用いた場合、著しく硬化性に劣ることがわかる。
【0026】
[実施例19](加熱併用時の硬化性の確認)
さらに、実施例1の組成物について、60℃に設定したホットプレート上にて、実施例1と同様に硬化までの積算光量を測定したところ、硬化に至るまでの積算光量は3.5J/cm2であった。このことより、本発明の組成物を硬化処理する際に、光照射と加熱を同時または光照射後に加熱を行うことよってより速く、少ないエネルギー照射量で硬化物を得ることができることがわかる。
【0027】
[実施例20〜23および比較例8〜10]
表2に示す通りの重量比で材料を遮光容器中室温(25℃)で混合攪拌し、実施例20〜23および比較例8〜10の組成物を調製した。なお、ラジカル発生剤の各重量は、各ラジカル発生剤0.02mol量に相当する重量である。得られた各組成物を下記項目について評価試験を行いその結果を併せて表2に示した。またそれぞれのDSCチャートを図1に示した。評価試験の方法は以下の通りである。
【0028】
・PhotoDSCピーク積算光量
各組成物を示差走査熱量計(DSC)のサンプル容器に5.5mg秤量し、光DSC測定を行った。
測定にはセイコーインスツルメント社製DSC(DSC110)と紫外線照射ユニット(UV−1)を用い、窒素雰囲気下25℃一定温度にて365nm照度:20mW/cm2のエネルギー線を連続照射した。得られたDSCチャートの最大値の時間(秒)と照度から次式により硬化までの積算光量を求めた。
積算光量(J/cm2) = 照度(20mW/cm2) × 時間(秒)
【0029】
【表2】

【0030】
表2(実施例20〜23、比較例8〜10)から、種々の開裂型ラジカル発生剤は、水素引き抜き型ラジカル発生剤よりも速やかに反応を開始させることがわかる。
また、図1はそれぞれのDSCチャートを示したものであるが、これも、水素引き抜き型ラジカル発生剤が非常に幅の広いピークを示すのに対し、開裂型ラジカル発生剤を添加した組成物はいずれもより速やかな発熱ピークを示しており、本発明の組成物が、従来知られている水素引き抜き型ラジカル発生剤を使用した場合よりも、より高速に反応することがわかる。
【0031】
[実施例24]引張せん断接着強さ試験
実施例1の組成物を、ガラス(寸法:25×50×5mm)および鉄(SPCC−SD、25×50×1.6mm)試験片の端部10mmに薄く塗布し貼り合わせ固定し、ウシオ電機株式会社製紫外線硬化炉UVL−4001−N(365nm照度:200mW/cm2)を用いてエネルギー線6J/cm2を照射した。照射終了直後接着面の組成物は硬化し接着していた。25℃室中で30分放置した後、万能引張試験器(インストロン)を用いて引張速度10mm/min.で引張せん断接着強さを測定した。ガラス/ガラスの
引張せん断接着強さは5.5MPa、ガラス/鉄の引張せん断接着強さは6.1MPaであり、接着面の破壊モードはいずれもガラスの材料破壊であった。これにより、本発明の組成物が紫外線照射のみで速やかに硬化し、強固な接着性を示すことがわかる。
【0032】
[実施例25]深部硬化性試験
実施例1の組成物を直径25mmのポリプロピレン製キャップに2mmの厚みになるように注入し、ウシオ電機株式会社製紫外線硬化炉UVL−4001−N(365nm照度:200mW/cm2)を用いてエネルギー線3J/cm2を照射した。照射終了後、組成物は全体が硬化しており、注型硬化物の底部および表面にベタつきは無かった。これにより、本発明の組成物は速硬化性かつ充分な深部硬化性を有し、注型や厚膜コーティング等の用途にも適していることがわかる。
【0033】
[実施例26]エネルギー線を透過しない部材の引張せん断接着強さ試験
実施例22の組成物を、2枚の鉄(SPCC−SD、25×50×1.6mm)試験片の端部10mmに薄く塗布し、ウシオ電機株式会社製紫外線硬化炉UVL−4001−N(365nm照度:200mW/cm2)を用いてエネルギー線0.8J/cm2を照射した。照射直後、塗布面の組成物は液状であった。速やかにもう一枚の鉄試験片の組成物塗布面を貼り合わせピンチで固定し、25℃室内に放置した。10分後、接着面の組成物は硬化し接着した。このように調整した接着試験片をさらに3時間、または48時間25℃室内に放置した後、万能引張試験器(インストロン)を用いて引張速度10mm/min.で引張せん断接着強さを測定した。3時間放置後の鉄/鉄の引張せん断接着強さは20MPa、48時間放置放置後の鉄/鉄の引張せん断接着強さは22MPaであった。接着面の破壊モードはいずれも凝集破壊であった。これにより、本発明の組成物は接着部材が鉄のように光等のエネルギー線を透過しない場合でも組成物にエネルギーを照射した後、貼り合わせることにより室温でも短時間で強固に接着が可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上述べてきた本発明は活性エネルギー線照射前は長いポットライフを有し、活性エネルギー線照射により低い温度で速やかに硬化可能であり、接着、封止、注型、成型、塗装、コーティング等様々な用途に使用が可能である。また本組成物は本発明内の組成において、エネルギー照射後直ちに硬化することも、エネルギー照射直後は硬化せず、その後短時間の室温または加熱化での放置により硬化することも可能でありこの性質を利用することで、エネルギー線の照射できない影部や深部の硬化性にも優れた接着、封止、注型、成型、塗装、コーティング等様々な用途に使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例20〜23、比較例8〜10のDSCチャートを示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物
(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物
(3)活性エネルギー線照射によりアミジン類またはグアニジン類を発生させうる化合物の1種以上
(4)活性エネルギー線開裂型ラジカル発生剤
前記(1)〜(4)を必須成分とするエネルギー線活性型樹脂組成物。
【請求項2】
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物と(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物の配合割合が、成分(1)のエポキシ当量に対し、成分(2)をチオール当量比で0.5〜2.0の範囲内である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
成分(1)および成分(2)の合計100重量部に対し、成分(3)を0.02〜20重量部、成分(4)を0.05〜20重量部配合することを特徴する請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(1)〜(4)にさらに、酸性基含有化合物、ホウ酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステルから選択される一種以上の化合物を添加することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(5)の添加量が、成分(1)および成分(2)の合計100重量部に対し、0.01〜20重量部である請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物
(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物
(3)活性エネルギー線照射によりアミジン類またはグアニジン類を発生させうる化合物の1種以上
(4)活性エネルギー線開裂型ラジカル発生剤
前記(1)〜(4)を必須成分とするエネルギー線活性型樹脂組成物に、エネルギー線照射と加熱を同時またはエネルギー線照射後に加熱を行うことよって硬化物を得る硬化方法。
【請求項7】
(1)分子内に2つ以上のエポキシ基を含む化合物と(2)分子内に2つ以上のチオール基を有する化合物の配合割合が、成分(1)のエポキシ当量に対し、成分(2)をチオール当量比で0.5〜2.0の範囲内である請求項6に記載の硬化方法。
【請求項8】
成分(1)および成分(2)の合計100重量部に対し、成分(3)を0.02〜20重量部、成分(4)を0.05〜20重量部配合することを特徴する請求項6記載の硬化方法。
【請求項9】
(5)酸性基含有化合物、ホウ酸エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステルから選択される一種以上の化合物を、さらに添加することを特徴とする請求項6記載の硬化方法。
【請求項10】
前記請求項6の硬化方法により得られた硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−126974(P2009−126974A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304891(P2007−304891)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】