説明

樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型及びそれを用いた成形方法

【課題】熱硬化性樹脂を含む樹脂結合型磁石用組成物を効率的に硬化でき、安定生産性に優れた射出成形用金型及びそれを用いた成形方法を提供。
【解決手段】パーティングラインで分離された固定側金型と可動側金型とから構成される樹脂結合型磁石用組成物を射出成形する金型であって、固定側金型は、冷却手段を有する固定側冷却プレートと、可動側金型に対向する固定側加熱プレートと、これらの間に介在する断熱手段と、樹脂結合型磁石用組成物を射出ユニットから可動側金型に移送するスプルー部を具備し、一方、可動側金型は、可動側加熱プレートと、可動側金型パーティング面に設置された凹部と固定側金型パーティング面で形成されるランナー部と、固定側金型のスプルー部に対向しランナー部の手前に形成されるコールドスラグだまりと、移送されてきた樹脂結合型磁石用組成物を充填するキャビティ部と、成形品取り出しピンとを具備する射出成形用金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型及びそれを用いた成形方法に関するものであり、特に、熱硬化性樹脂(樹脂バインダー)を含む樹脂結合型磁石用組成物を効率的に硬化させることができ、安定生産性に優れた射出成形用金型及びそれを用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石等は、モーターをはじめとする種々の用途に用いられている。しかし、これらの磁石は、主に焼結法により作られるために、一般に脆く、薄肉のものや複雑な形状のものが得難いという欠点を有している。それに加えて、焼結時の収縮が15〜20%と大きいため、寸法精度の高いものが得られず、精度を上げるには研磨等の後加工が必要であるという欠点をも有している。
【0003】
一方、樹脂結合型磁石は、これらの欠点を解決すると共に新しい用途をも開拓するために、近年になって開発されたものであるが、通常は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダーとし、これに磁性粉末を充填することにより製造されている。しかし、こうした熱可塑性樹脂をバインダーとして用いる樹脂結合型磁石は、成形時に200℃以上の高温下に晒されるため、磁気特性、特に保磁力や角型性が低下する。
【0004】
また、エポキシ樹脂やビス・マレイミドトリアジン樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとし、これに磁性粉末を充填した樹脂結合型磁石もあるが、バインダー量が希少であるため圧縮成形法による単純成形品しか得られていない。
【0005】
近年、小型モーター、音響機器、OA機器等に用いられる樹脂結合型磁石では、機器の小型化、高性能化に対応して、SmCo系、NdFeB系、SmFeN系磁性粉末等の、希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末を用いた樹脂結合型磁石が普及してきている。
【0006】
そのため、本出願人は、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとし有機過酸化物を含み、さらに、N−オキシル類化合物を配合した樹脂結合型磁石用組成物を提案した(特許文献1参照)。有機過酸化物は、熱硬化反応を開始させる硬化剤として、また、N−オキシル類化合物は、可使時間を著しく低下させるラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂の複雑な反応促進効果を抑制するために添加されている。
【0007】
これにより、熱硬化性樹脂バインダーを使用した樹脂結合型磁石で問題となっていた可使時間にきわめて優れ、磁気特性だけでなく、形状自由度、成形性、機械強さにも優れた樹脂結合型磁石が効率的に製造できるようになった。
【0008】
ところで、熱硬化性樹脂を射出成形する時に用いる射出成形用金型においては、省資源、材料の有効利用の点から廃棄物を削減するために、スプルー、ランナーを無くす方法が要請されているため、パーティングラインで固定側金型と可動側金型に分離し、樹脂組成物の溶融物をスプルーから直接、キャビティへ供給し、硬化させる射出成形用金型が検討されている。
【0009】
そのような射出成形用金型として、液状シリコンゴムを射出成形する場合には、冷却手段で樹脂が冷却される樹脂通路部を設けるとともに、加熱されたキャビティ部と冷却された樹脂通路部との間に断熱手段を介設することにより、ランナーレス成形を行えるLIM成形金型が提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
また、溶融させた熱硬化性樹脂成形材料をノズルから直接、移送又は射出させて金型のキャビティ内に注入した後、ノズル内のゲートシャットピンを前進させ、ノズル先端のノズル開口部を閉じると同時に金型の開口部分であるゲートを閉鎖できる成形ノズルが提案されている(特許文献3参照)。
【0011】
このようなゲートを閉鎖できる成形ノズルを用いれば、ゲートからキャビティに注入した成形材料に十分な圧力と温度をかけて成形することができ、十分に成形材料が充填された成形品を、スプルー、ランナー無しで得ることができる。また、ノズル先端近傍に配設された断熱部やシリンダーの外郭層に配設された温調部によって、溶融した低粘度の成形材料が更に反応して粘度上昇するのを阻止できるので、安定して成形を続けることができる。しかも、溶融した低粘度の成形材料が、ノズル開口部付近から漏れるのをゲートシャットピンによって阻止することもできる。
【0012】
一方、プレートとキャビティプレートとを積層して構成される固定側金型のプレートの内部にコールドランナーを設けて、当該コールドランナーを複数のコールドランナー部に分け、固定側金型のキャビティプレートの内部に、各コールドランナー部から各キャビティ部に前記熱硬化性樹脂を導く複数のコールドノズルを設け、前記各コールドランナー部の熱硬化性樹脂流れに対する抵抗を制御する流量調整手段を備えることにより、複数のキャビティ部に対するチャージ量のばらつきを低減する方式の射出成形用金型が提案されている(特許文献4参照)。
【0013】
しかし、上記した特許文献2〜4のいずれの射出成形用金型も、熱硬化性樹脂を含んだ樹脂結合型磁石用組成物の使用を前提としてはいないために、これらの金型を用いたとしてもラジカル重合反応の促進剤として作用する金属粉末(磁性粉末)を含む組成物を射出成形する際の条件を最適化することは困難である。
【0014】
すなわち、ラジカル重合反応性である熱硬化性樹脂を用いる樹脂結合型磁石用組成物は、温度上昇によって反応が加速される性質を有しており、特許文献2及び4のようなスプルーレス、ランナーレス方式では、射出成形時に樹脂結合型磁石用組成物が金型キャビティと接触した部位において、高い温度環境に曝されるため硬化を開始してしまい、組成物のつまりが発生するなど、安定した成形を行えない。また、樹脂の硬化が起こらないように十分冷却を行う場合は、パーティング部近傍で硬化が進行せず、成形物を完全に硬化させるのに長時間を要し、射出成形本来の優位性である量産性を活かせない。
【0015】
また、特許文献3のゲートシャットピンを用いてゲート部を遮断する方式は、ゲートシャットピン稼動時に、上記樹脂結合型磁石用組成物中の磁性粉末が相互に接触しあって発生する摩擦熱によって、ゲート部において樹脂結合型磁石用組成物が硬化しやすくなり、安定した成形を行えない。また、磁性粉末が、ゲートシャットピン稼動時にピンと金型他部との間に挟まれ、装置が稼動できなくなる事態を招く。
【0016】
このような状況下、可使時間が大きい熱硬化性樹脂を含んだ樹脂結合型磁石用組成物を、比較的短い時間で硬化でき、磁性粉末がランナーなど金型構成部内に挟まれることなく、安定的に射出成形できる金型の出現が切望されていた。
【特許文献1】特開2003−92209号公報
【特許文献2】特開昭62−16114号公報
【特許文献3】特開平5−138688号公報
【特許文献4】特開平11−129289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み熱硬化性樹脂(樹脂バインダー)を含む樹脂結合型磁石用組成物を効率的に硬化させることができ、安定生産性に優れた射出成形用金型及びそれを用いた成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、パーティングラインで固定側金型と可動側金型に分離される樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型において、熱硬化性樹脂(樹脂バインダー)を含む最初の樹脂結合型磁石用組成物をコールドスラグだまりで受けてから、ランナー部を経てキャビティ部に充填して硬化させることによって、従来の金型を用いたときに可動側金型の加熱プレートから熱を受けて該組成物がランナー部で硬化した場合、次の成形時に、該組成物の流路が確保されずに充填不足に陥ることや、仮に流れたとしても、硬化による架橋反応が初めに熱を受けた部位と他部位とで異なることによって成形体に悪影響を及ぼし、機械強度不足となることを回避し、スプルー部で硬化した該組成物を製品部まで流すことなく、該組成物の硬化を効率よく行い、硬化時間を長時間化することなく、安定生産性に優れた樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型が構成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、パーティングラインで分離された固定側金型と可動側金型とから構成される、バインダー成分として熱硬化性樹脂を含む樹脂結合型磁石用組成物を射出成形するための金型であって、固定側金型は、冷却手段を有する固定側冷却プレートと、可動側金型に対向する固定側加熱プレートと、これら冷却プレート及び加熱プレートの間に介在する断熱手段と、固定側金型の内部を貫通して樹脂結合型磁石用組成物を射出ユニットから可動側金型に移送するためのスプルー部を具備し、一方、可動側金型は、可動側加熱プレートと、可動側金型パーティング面に設置された凹部と固定側金型パーティング面で形成されるランナー部と、固定側金型のスプルー部に対向しランナー部の手前に形成されるコールドスラグだまりと、スプルー部及びランナー部を通じて移送されてきた樹脂結合型磁石用組成物を充填するキャビティ部と、先端がキャビティ部の底部に位置した成形品取り出しピンとを具備することを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型が提供される。
【0020】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記断熱手段は、断熱層であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型が提供される。
【0021】
本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記コールドスラグだまりの容積は、0.01〜0.20cmであることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型が提供される。
【0022】
本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係る射出成形用金型を用いて、バインダー成分として熱硬化性樹脂を含む樹脂バインダーからなる樹脂結合型磁石用組成物を射出成形するための方法であって、樹脂結合型磁石用組成物を射出ユニットで溶融状態にする工程、溶融された組成物を50℃以下の温度に維持されたスプルー部に供給し、100〜180℃に加熱されたコールドスラグだまりで受け入れた後、ランナー部を経てキャビティ部に充填する工程、充填された熱硬化性樹脂を所定時間保持する工程、および熱硬化性樹脂が硬化した後、キャビティ部から硬化した成形品を取り出す工程を含むことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法が提供される。
【0023】
本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、またはビニルエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法が提供される。
【0024】
本発明の第6の発明によれば、第4の発明において、前記樹脂結合型磁石用組成物は、さらにN−オキシル化合物を含有することを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法が提供される。
【0025】
本発明の第7の発明によれば、第4〜6の発明において、前記樹脂結合型磁石用組成物は、磁性成分として構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末を含むことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の射出成形用金型は、可動側金型に、可動側金型部パーティング面と固定側パーティング面で形成されるランナー部と、固定側金型のスプルー部に対向しランナー部手前に形成されたコールドスラグだまりとを備えているため、射出された最初の該樹脂結合型磁石用組成物をスプルー部からコールドスラグだまりで受けてから、ランナー部を介してキャビティ部へと供給するので、硬化時間が長い熱硬化性樹脂(樹脂バインダー)を含む樹脂結合型磁石用組成物であっても、効率よく硬化できるから射出成形の長所を活かせ、安定生産性に優れた射出成形を行うことができる。
【0027】
また、得られた樹脂結合型磁石の熱変形温度(HDT法)は、170℃以上であり、一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合(100〜150℃)よりも高いことや、熱可塑性樹脂を用いた場合には不可能な、肉厚1mm未満の薄肉品が容易に作製できるから、軽薄短小化が進む磁石用途、例えば、小型モーター、音響機器、OA機器等にいたる幅広い分野に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の射出成形用金型及びそれを用いた樹脂結合型磁石用組成物の成形方法を、図1を用いて詳細に説明する。
【0029】
本発明の樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型は、パーティングラインで固定側金型と可動側金型に分離され、その特徴部分は、可動側加熱プレートと、可動側金型部パーティング面と固定側パーティング面で形成されるランナー部と、固定側金型のスプルー部に対向しランナー部の手前に形成されたコールドスラグだまりとを備えている可動側金型の構造にある。
【0030】
1.射出成形用金型
本発明の射出成形用金型は、熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして含む樹脂結合型磁石用組成物を射出成形するための金型であり、パーティングライン1によって固定側金型と可動側金型に分離される。
【0031】
(固定側金型)
固定側金型には、冷却手段8を有する固定側冷却プレート5と、可動側金型に対向する固定側加熱プレート3と、それらの間に介在して位置する断熱手段4と、樹脂結合型磁石用組成物が通過するスプルー部7とを備えている。
【0032】
スプルー部7は、固定側加熱プレート3、断熱手段4と固定側冷却プレート5を貫通しており、射出ユニットから射出された該樹脂結合型磁石用組成物を、コールドスラグだまり11に供給し、ランナー部10を介してキャビティ部9に移送する部分である。
【0033】
固定側加熱プレート3は、電気ヒーターを金型の受板に埋め込んで、ヒーター通電により加熱するように構成できる。ヒーターには、カートリッジヒーター、シーズヒーターなどが使用される。ヒーターを埋め込む位置は、特に限定されないが、キャビティ部9に対向する部分では浅く、コールドスラグだまり部11に対向する部分では深めにするとよい。
【0034】
スプルー部7を冷却する冷却手段8としては、空冷や熱媒体を用いることができ、特に水、油、有機溶媒などの熱媒体を流すことが冷却効率の面で好ましい。断熱手段4には、断熱板に通常用いられているガラス繊維やマットなどの無機繊維材料、気泡を有する鉱物製発泡材料、シリコーンなどの樹脂材料を断熱層として用いることができる。断熱層の厚さは、その材質などにより異なり、一概に規定することができないが、通常、5〜30mmであることが好ましい。5mm未満では断熱性能が十分ではなく、30mmを超えると金型をコンパクトにできないので好ましくない。
【0035】
(可動側金型)
一方、可動側金型には、可動側加熱プレート6と、可動側金型部パーティング面13に設置された凹部と固定側パーティング面12で形成されるランナー部10と、固定側金型のスプルー部7に対向しランナー部10の手前に形成されたコールドスラグだまり11と、溶融された樹脂結合型磁石用組成物が充填され成形されるキャビティ部9と、キャビティ部から成形品を取り出すための成形品取り出しピン2とを備えている。
【0036】
可動側金型の材質は、成形品の大きさ、形状、寸法精度、金型寿命などを検討したうえで決定される。一般的には、アルミニウム合金、ベリリウム銅、亜鉛合金、ミーハナイト鋳鉄などが用いられる。樹脂結合型磁石用組成物は、硬い磁性粉末を多量に含んでいるので、ランナー部、コールドスラグだまり部、キャビティ部においては、特に耐摩耗性が必要とされる。そのため、ダイス鋼、セラミックス、超鋼を用いたり、SiCなどで複合めっきしたり、TiNなどをPVD法やCVD法で表面処理してもよい。
【0037】
可動側加熱プレート6は、電気ヒーターを可動側金型の受板に埋め込んで、ヒーター通電を行わせることができる。ヒーターには、カートリッジヒーター、シーズヒーターなどが使用される。可動側加熱プレート6の熱源には、温水、温油などの加熱媒体を用いても良い。
【0038】
金型の温度を制御するためには、必要箇所にセンサーを設けることが望ましい。制御方法は、ON−OFF方式、比例制御方式などを適宜採用できる。
【0039】
コールドスラグだまりの容積は、0.01〜0.20cmとすることが望ましい。0.01cmよりも小さいと、加熱部位と接触して硬化したコンパウンドを全量とどめることができず、0.20cmよりも大きいと、廃棄される不要品の量が多くなるため好ましくない。コールドスラグだまりの形状は、特に制限されないが、スプルーから高速で流入してくる樹脂組成物を受け止め、円滑にランナー部へ転向させることができる形状でなければならない。
【0040】
ランナー部の断面形状は、円形、半円形、1/4円形、矩形、台形、角がない台形などとすることができる。このうち、半円形、1/4円形、台形、角がない台形が好ましい。ランナー部の長さは、特に制限されず、30mm以下とすることが望ましい。30mmよりも長くなると廃棄される樹脂の量が多くなるために好ましくない。
【0041】
また、キャビティ部9は、所望の樹脂結合型磁石と同じ成形品の形状となっている。図1には、キャビティ部9を1つだけ示しているが、2個以上を設けることができ、それにより磁石を一層効率的に生産することができる。
【0042】
本発明の金型は、このように構成したため、スプルー部からランナー部に射出された最初の該樹脂結合型磁石用組成物をコールドスラグだまりで受け、かつランナー部を設けてキャビティ部へと供給するので、スプルー部で硬化した該組成物を製品部まで流すことなく、該組成物を効率よく硬化させ、硬化時間を長時間化することなく射出成形して、熱硬化性樹脂を用いた樹脂結合型磁石を得ることができる。
【0043】
なお、該組成物中の磁石粉末を配向させるために用いられる磁石は、金型の内部に設置してもよいが、金型の周囲(外部)、すなわち射出ユニット側に設置することもできる。
【0044】
2.樹脂結合型磁石用組成物
本発明の方法によって射出成形される樹脂結合型磁石用組成物は、磁性粉末と樹脂バインダー及び必要によりその他添加剤、充填材を配合し、均一に混合したものである。
【0045】
(磁性粉末)
樹脂結合型磁石用組成物の成分である磁性粉末は、その構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含むものであれば、特に制限はない。
【0046】
希土類元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0047】
遷移金属元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)からなる群から選択される1種又は2種以上であって、これ以外にCr、V又はCuのいずれかを含有してもよい。
【0048】
特に好ましい希土類元素は、NdまたはSmのいずれかであり、遷移金属元素は、Fe又はCoのいずれかである。また、具体的な磁性粉末には、例えば、異方性磁場(HA)が4000kA/m以上の磁性粉末である希土類コバルト系磁性粉、希土類−鉄−ほう素系磁性粉、希土類−鉄−窒素系磁性粉の単独もしくは混合粉、またはフェライト系磁性粉との混合系などが挙げられる。
【0049】
磁性粉末の粒径は、100μm以下であることが好ましく、100μm以下の粒子を50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に90重量%以上含むことが好ましい。また、等方性よりも磁場中成形が必至となる異方性の磁性粉の方が、配向特性の面で効果が大きい。
【0050】
磁性粉末には、例えば、異方性磁場(HA)が50kOe以上の磁性粉末である希土類コバルト系、希土類−鉄−ほう素系、希土類−鉄−窒素系の磁性粉の単独もしくは混合粉、またはフェライト系磁性粉との混合系などが挙げられる。
【0051】
磁石粉末は、無機燐酸または無機燐酸化合物及び/又は有機シランモノマーなどのシランカップリング剤で表面処理されたものが好ましい。
【0052】
無機燐酸または無機燐酸化合物は、上記の磁性粉末を予め処理することで、被覆剤成分の効力を高め、その表面の耐候性を高める化合物である。無機燐酸には、燐酸の他に、亜燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、直鎖状のポリ燐酸、環状のメタ燐酸が含まれる。無機燐酸化合物などを湿式処理法、乾式処理法のいずれかで表面処理し、その後、100℃前後で10〜30時間、加熱処理すれば、より安定して磁性粉末に定着する。
【0053】
また、シランカップリング剤は、1〜3個の加水分解性基、即ちアルコキシ基と、炭素数が1〜12の有機基を含有する有機シランモノマーである。有機シランモノマーとしては、1分子中に炭素数が1〜5であるアルコキシ基を少なくとも1〜3個有するものが好ましい。シランカップリング剤を用いて磁性粉末を表面処理するには、磁性粉末に各成分を同時に添加しても、逐次添加してもよい。溶媒等で希釈した後、溶媒を揮散する湿式処理法でも、撹拌中に直接、シランカップリング剤を添加するメカノフュージョンなどの乾式法でもよい。
【0054】
(樹脂バインダー)
本発明において用いられる樹脂バインダーは、有機過酸化物(2)を含むラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(1)を主成分とし、さらに、N−オキシル類化合物(3)を配合したものである。
【0055】
(1)熱硬化性樹脂
本発明において、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましく、その中でも不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂であることが最も好ましい。
【0056】
不飽和ポリエステル樹脂は、成形時の金型内で硬化して磁性粉末のバインダーとして働くものであれば、特にその種類に限定されることはなく、一般的に市販されている不飽和ポリエステル樹脂を用いることができる。この不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、不飽和多塩基酸及び/又は飽和多塩基酸とグリコール類を分子量5000程度以下に予備的に重合させてオリゴマーやプレポリマー化させた主剤に、架橋剤を兼ねるモノマー類、反応を開始させる硬化剤、長期の保存性を確保するための重合防止剤、及びその他の添加剤等から構成される。
【0057】
不飽和多塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を、また、飽和酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸メチルホスフォニウムクロライド、ベンジルメチルジフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスフォニウム塩;第二級アミン類;テトラブチル尿素;トリフェニルホスフィン;トリトリールホスフィン;トリフェニルスチビン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらエステル化触媒は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
また、ビニルエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とをエステル化触媒を用いて反応させて得ることができる。上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、ビスフェノールとホルマリンとの縮合物であるノボラックとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるノボラックタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添加ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる含アミングリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、これらエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応により分子中にエポキシ基を有する化合物であってもよい。これらエポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0059】
さらに、上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられる不飽和一塩基酸は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸等のハーフエステル等を用いてもよい。さらに、これらの化合物と、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の多価カルボン酸や、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、パルチミン酸等の飽和一価カルボン酸や、フタル酸等の飽和多価カルボン酸またはその無水物や、末端基がカルボキシル基である飽和あるいは不飽和アルキッド等の化合物とを併用してもよい。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0060】
上記エステル化触媒としては、具体的には、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;塩化リチウム、塩化クロム等の無機塩;2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラメチルホスフォニウムクロライド、ジエチルフェニルプロピルホスフォニウムクロライド、トリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ベンジルトリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ジベンジルエチルメチルホスフォニウムクロライドグリセリンプロピレンオキシド付加物、グリセリンテトラヒドロフラン付加物、グリセリンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンテトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらポリヒドロキシ化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0061】
(2)有機過酸化物
本発明において、有機過酸化物は、一般に、硬化反応を開始させる硬化剤として用いられ、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂に配合される。
【0062】
有機過酸化物は、単独で用いるものもあるが、種類によっては、炭化水素溶液類やフタル酸エステル類に希釈した状態、もしくは固形粉末に吸収させた状態で用いることがある。
半減期10時間を得るための分解温度が150℃以下の性質を有する過酸化物を使用するのが望ましく、さらには、その分解温度が40〜135℃の範囲である過酸化物がより望ましい。半減期を得るための分解温度が150℃を超えるものを選択すると、充分な硬化成形体を得るための硬化温度が高くなり、40℃よりも低くなると過酸化物自体の取り扱い性が困難になり、本発明の金型構造を採用したとしてもスプルー部において組成物が硬化してしまい、生産性が失われる結果を招く。
【0063】
これらの有機過酸化物の添加量は、希釈率や活性酸素量によって異なるが、一般的には熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.05〜10重量部が添加される。0.05重量部未満では、硬化が不十分となり、10重量部を超えると、硬化が進みすぎるので好ましくない。
【0064】
これらの有機過酸化物は、単独又は2種以上の混合系で用いることができるが、最終樹脂結合型磁石用組成物の可使時間をより長く確保するために、パーオキシケタール系、又はジアルキル系過酸化物の単独で用いることが、極めて好ましい。
【0065】
熱硬化性樹脂バインダーを構成する各成分の性状は、例えば常温で液状、パウダー、ビーズ、ペレット等、特に限定されないが、磁性粉との均一混合性や成形性から考えると、液状であることが望ましい。また、これらの異なる樹脂や異なる分子量、性状のものを1種または2種以上組み合わせて混合しても差し支えない。
【0066】
これら最終的な樹脂バインダーの粘度は、JIS K7117(液状樹脂の回転粘度計による粘度試験方法)に準じて測定され、測定値が100〜5000mPa・sであるものを用いることが望ましく、中でも300〜3000mPa・sのものが好ましい。この動的粘度が、100mPa・s未満であると、射出成形時に磁性粉とバインダーの分離現象が生じるため成形できない。また、5000mPa・s超であると著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き成形困難になる。
【0067】
また、これら熱硬化性樹脂バインダーの添加量は、各構成成分を含めた状態で、磁性粉末100重量部に対して、5〜50重量部の割合で添加され、好ましくは7〜15重量部、さらに、10〜13重量部がより好ましい。該バインダーの添加量が5重量部未満の場合は、成形時の流動性の低下を招き、また、50重量部を超える場合、所望の磁気特性が得られない。
【0068】
(3)N−オキシル類化合物
本発明においては、樹脂結合型磁石用組成物の保管中の可使時間をより長くさせるために、N−オキシル類化合物を配合することができる。
【0069】
N−オキシル類化合物は、分子鎖末端に、次の一般式(1)、または一般式(2)で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有する化合物である。
【0070】
【化1】

【0071】
(式中、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を表す)
【0072】
【化2】

【0073】
(式中、X、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、R12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基を表す)
【0074】
N−オキシル類化合物の添加量は、その種類によって効果が大きく異なるため画一的に規定はできないが、一般的には熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。添加量が0.1重量部より少ない場合は、十分な可使時間を確保できない。一方、10重量部より多い場合は、樹脂結合型磁石成形体の密度の低下や表面の荒れを生じるため望ましくない。
【0075】
なお、樹脂結合型磁石用組成物の可使時間とは、ポットライフともいわれ、液状樹脂に硬化剤などを加えた時点から粘度が上昇し、成形不可能となるまでの時間、すなわちゲル化・硬化などが起こらず、成形可能な流動性を保っている時間、或いは成形後の機械強度が組成物調製直後に成形したそれ(機械強さの初期値)の80%まで低下する時間のいずれか早い方の時間を意味する。本発明に係る組成物系では、一般的には機械強さが低下する時間の方が早い。組成物の可使時間を120時間以上、特に240時間以上とすることができるものを選択することが好ましい。
【0076】
これらのN−オキシル類化合物は、単独もしくは2種以上の混合系で用いることもできるが、組成物の可使時間をより長く確保するためには、これらの安定剤の中でも、アルキルラジカルとの反応性を有し、かつアルキルラジカルとの反応後、さらに、パーオキシラジカルとの反応性を有すること、又はパーオキシラジカルとの反応性を有し、かつパーオキシラジカルとの反応後、さらに、アルキルラジカルとの反応性を有することが好ましい。
【0077】
本発明に用いる樹脂結合型磁石用組成物は、さらに必要に応じて、重合防止剤、各種反応性樹脂類、成形性改善添加剤、無機充填材や顔料など、他の添加剤や充填材を配合することにより調製される。これら併用しうる添加剤の配合量は、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
【0078】
その際、各成分の混合方法は、特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機、あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を用いることにより実施される。
【0079】
このようにして得られた樹脂結合型磁石用組成物の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状、あるいはこれらの混合物の形であるが、取り扱い易さの点で、ペレット状(或いは塊状)が望ましい。
【0080】
3.樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法
本発明の射出成形方法では、まず、上記の要領で樹脂結合型磁石用組成物を調製し、次いで、熱硬化性樹脂の溶融温度で加熱溶融した後、本発明の上記射出成形金型を用いて射出し、硬化させることで所望の形状を有する磁石に成形する。
【0081】
すなわち、本発明は、上記特定の射出成形用金型を用いて、バインダー成分として熱硬化性樹脂を含む樹脂結合型磁石用組成物を射出成形する方法であって、樹脂結合型磁石用組成物を射出ユニットで溶融状態にする工程、溶融された組成物を50℃以下の温度に維持されたスプルー部に供給し、100〜180℃に加熱されたコールドスラグだまりで受け入れた後、ランナー部を経てキャビティ部に充填する工程、充填された熱硬化性樹脂を所定時間保持する工程、熱硬化性樹脂が硬化した後、キャビティ部から硬化した成形品を取り出す工程を含むことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法である。
【0082】
本発明の金型を使用して成形作業を行おうとする際は、その固定側金型の冷却手段に水などの冷却媒体を流し、熱硬化性樹脂がスプルー部で硬化しないように冷却しておく。冷却温度は、樹脂の種類、添加剤の種類や量などにもよるが、50℃以下に保つことが好ましい。20℃未満では樹脂の流動性が悪化するので、特に20〜50℃が好ましい。
【0083】
次に、金型に内蔵されたヒーターで固定側加熱プレート、可動側加熱プレートを加熱する。各部の温度は、樹脂の種類、添加剤の種類や量などにもよるが、固定側加熱プレート、可動側加熱プレートを100〜180℃とする。これにより、コールドスラグだまり、ランナー部が100〜180℃、キャビティ部が、130〜180℃となるようにすることが好ましい。
【0084】
こうして準備を整えてから、射出ユニットを稼動させ、溶融した所定量の樹脂結合型磁石用組成物を射出する。最初の溶融物は、一旦、スプルーからコールドスラグだまりに受け入れられる。このことによって、スプルー部で硬化した該組成物を製品部まで流すことなく、硬化による架橋反応が部位によって異なることによって成形体に悪影響を及ぼし、機械強度不足となることを回避し、該組成物を効率よく硬化させ、硬化時間を長時間化することなく、キャビティ部にて円滑に硬化できる条件が整うことになる。
【0085】
その後、溶融物は、ランナー部を通過して、キャビティ部に充填される。キャビティ部で加熱して所定時間保持することで、ラジカル重合性の樹脂が組成物中の有機過酸化物により反応を開始して、硬化される。所用時間は、キャビティ温度、樹脂、有機過酸化物、その他添加剤の種類や量によって異なるが、通常は0.1〜3.0分である。
【0086】
硬化された成形物は、可動側加熱プレートを固定側加熱プレートから分離した後、キャビティ部の底部に設けられた成形品取り出し品ピンを成形物に向かって突き出すことにより、簡単に取り出すことができる。
【0087】
その後、固定側金型に可動側金型をパーティングラインにて結合して、射出ユニットから金型に樹脂結合型磁石組成物を射出すれば、樹脂結合型磁石を連続成形することができる。連続成形の操作は、上記の各工程を繰り返せばよい。
【0088】
4.樹脂結合型磁石
本発明によって射出成形して得られる樹脂結合型磁石は、成形品が比較的厚肉であっても、各部が均一に硬化するため、熱変形温度(HDT法)が高いものとなる。
【0089】
熱変形温度(HDT法)は、一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合(100〜150℃)に比較して、170℃以上と高いものとなる。また、熱可塑性樹脂を用いた場合には作製できなかった、肉厚1mm未満の薄肉品でも、本発明によれば熱硬化性樹脂によって容易に作製することができる。
【0090】
したがって、この樹脂結合型磁石は、軽薄短小化が進む磁石用途、例えば、小型モーター、音響機器、OA機器等にいたる幅広い分野において特に有用である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0092】
以下に示す各材料・成分を用いて樹脂結合型磁石用組成物を調製し、これを射出成形して樹脂結合型磁石を製造し、用いた射出成形用金型の評価を行った。
1.材料・成分
(1)磁性粉末 100重量部
・Sm−Fe−N系磁性粉末(住友金属鉱山(株)製 SmFeN合金粉末)、異方性磁場:16.8MA/m(210kOe)、粒径が100μm以下のものを99重量%含有する。
(2)表面処理剤
・燐酸鉄系化合物:(商品名:ホスニン259E、理工協産(株)製)、0.05重量部(対磁性粉末)
・有機シランモノマー:デシルトリメトキシシラン(商品名:信越シリコーンKBM3103C)、0.3重量部(対磁性粉末)
(3)熱硬化性樹脂 11重量部(対磁性粉末)
・不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂、商品名:ポリセット2212、日立化成工業(株)製)、25℃における粘度:500mPa・s
(4)硬化剤 1重量部(対熱硬化性樹脂)
ジアルキルパーオキサイド系過酸化物:2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペロキシヘキシン−3)、(商品名:カヤヘキサYD、化薬アグゾ(株)製)、10時間の半減期を得るための分解温度133℃。
(5)N−オキシル類化合物 1重量部(対UP樹脂)
・2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル(商品名:アデカスタブ LA−7RD、旭電化(株)製)
【0093】
2.樹脂結合型磁石用組成物の製造方法
磁性粉末を燐酸化合物、有機シランモノマーで次々に表面処理した後、熱硬化性樹脂、硬化剤、N−オキシル類化合物を配合し、樹脂結合型磁石用組成物を製造した。
(1)有機シランモノマーによる磁性粉末の表面処理
磁性粉100重量部に対して、10重量部のIPA等のアルコール系有機溶媒に、所定量の表面処理用燐酸化合物を溶解した後、当該処理溶液と磁性粉とをプラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、20℃)し、−760mmHg、120℃の真空オーブン中で24時間乾燥させた。ここで得られた処理済み粉を、更にメカノフュージョン(ホソカワミクロン(株)製)にて有機シランモノマーで表面処理を行い、磁性粉表面を被覆処理した磁性粉を得た。
(2)樹脂結合型磁石用組成物の作製
所定の比率になるよう計量混合しておいた熱硬化性樹脂、硬化剤、N−オキシル類化合物等を磁性粉全量に加え、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃、10分)し、樹脂結合型磁石用組成物を得た。
【0094】
(実施例1)
(金型構造)
断面が図1に示す構造をしている本発明の射出成形用金型を製作した。断熱板4には、リン酸塩系バインダーを含むガラス繊維(厚さ:5mm)を用いた。
可動側金型には、可動側加熱プレート6と、可動側金型部パーティング面12に設置された凹部と固定側パーティング面11で形成されるランナー部10(長さ:15mm、幅:5mm、深さ:3mm)と、固定側金型のスプルー部7に対向しランナー部10奥(手前)に形成されたコールドスラグだまり11(容積:0.08cm、サイズ:Φ5mm×4mm)と、成形すべき樹脂結合型磁石用組成物が充填されるキャビティ部9(外径φ24mm×内径φ20mm×13mmのリング状)を備えている。
(射出成形方法)
冷却するための冷却手段8に水を流し、30℃に保った。金型各部の温度は、固定側加熱プレート5を150℃とし、可動側加熱プレート6を150℃とすることにより、コールドスラグだまり11が150℃、ランナー部10が150℃、キャビティ部9が、150℃となるようにした。
こうして準備が整ったところで、射出ユニット(シリンダー温度20℃)を稼動させ、溶融した樹脂結合型磁石用組成物をスプルー(コールドスプルー部30℃)から射出し、一旦、コールドスラグだまり11に受け入れ、ランナー部10に輸送し、キャビティ部9に充填し、樹脂を硬化させ、外径φ24mm×内径φ20mm×13mmのリング状樹脂結合型磁石を製造した。
射出ユニットは、インラインスクリュー式磁場発生装置付射出成形機(タナベコウギョウ社製TL−50MGS)を採用した。コールドスプルー部の温度は、スプルー部のうち、加熱プレート6の手前部分で測定した。その際、1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場を印加して成形を行った。
得られた磁石成形品を、成形品取り出しピン2で押出して、成形品(樹脂結合型磁石試料)の重量を常温にて測定し、射出成形回数によって変化があるかを調べた。結果を図3に示す。また、上記射出成形条件で、連続成形を行った時のスプルー部の温度変化を測定し、射出成形回数によって変化があるかどうかを調べた。結果を図5に示す。
【0095】
(実施例2)
(金型構造)
金型の基本構造は、実施例1と同じであるが、冷却手段を以下のように変えた。冷却手段8には、水を流し、コールドスプルー部の温度を20℃に保った。断熱板4には、リン酸塩系バインダーを含むガラス繊維を用い、その厚さは10mmとした。
(射出成形方法)
金型各部の温度は、固定側加熱プレート5を150℃とし、可動側加熱プレート6を150℃とすることにより、コールドスラグだまり11が150℃、ランナー部10が150℃、キャビティ部9が、150℃となるようにした。
実施例1と同様に、樹脂結合型磁石用組成物を、インラインスクリュー式磁場発生装置付射出成形機(タナベコウギョウ社製TL−50MGS)を用いて、外径φ24mm×内径φ20mm×13mmのリング状樹脂結合型磁石を同一条件(シリンダー温度20℃、コールドスプルー部20℃、金型温度:キャビティ部150℃、)にて成形し、得られた磁石成形品を評価した。1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場を印加して成形を行った。
上記射出成形条件で、連続成形して得られた成形品(樹脂結合型磁石試料)の重量を常温にて測定し、射出成形回数によって変化があるかを調べた。結果を図4に示す。上記射出成形条件で、連続成形を行った時のスプルー部の温度変化を測定し、射出成形回数によって変化があるかを調べた。結果を図6に示す。
【0096】
(比較例1)
(金型構造)
図2に示す比較用の射出成形用金型(断面図)を用意した。射出成形用金型の固定側金型は、上記の実施例と同様な構造であるが、コールドスプルー部7が、射出ユニットから射出された該樹脂結合型磁石用組成物を、可動側金型部キャビティ部9に連通しており、コールドスラグだまり、ランナー部を備えていない点が相違している。
(射出成形方法)
樹脂結合型磁石用組成物を、インラインスクリュー式磁場発生装置付射出成形機(タナベコウギョウ社製TL−50MGS)を用いて、横φ24mm×φ20mm×13mmのリング状樹脂結合型磁石を同一条件(シリンダー温度20℃、コールドスプルー部30℃、金型温度:キャビティ部150℃)にて成形し、得られた磁石成形品を評価した。1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場中金型内にて成形を行った。
冷却手段8には、水を流し、コールドスプルー部を30℃に保った。断熱板4には、リン酸塩系バインダーを含むガラス繊維を用い、厚さは5mmとした。スプルー部7は、固定側加熱プレート3、断熱手段4と固定側冷却プレート5を横断しており、射出ユニットから射出された該樹脂結合型磁石用組成物を、直接キャビティ部9に射出した。
上記射出成形条件で、連続成形して得られた成形品(樹脂結合型磁石試料)の重量を常温にて測定し、射出成形回数によって変化があるかどうかを調べた。結果を図3に示す。また、上記射出成形条件で、連続成形を行った時のスプルー部の温度変化を測定し、射出成形回数によって変化があるかを調べた。結果を図5に示す。
【0097】
(比較例2)
(金型構造)
金型の基本構造は、比較例1と同じであるが、冷却手段を以下のように変えた。冷却手段8には、水を流し、コールドスプルー部を20℃に保った。断熱板4には、リン酸塩系バインダーを含むガラス繊維を用い、厚さは10mmとした。
(射出成形方法)
樹脂結合型磁石用組成物を、インラインスクリュー式磁場発生装置付射出成形機(タナベコウギョウ社製TL−50MGS)を用いて、外径φ24mm×内径φ20mm×13mmのリング状樹脂結合型磁石を同一条件(シリンダー温度20℃、コールドスプルー部20℃、金型温度:キャビティ部150℃)にて成形し、得られた磁石成形品を評価した。1.2〜1.6MA/m(15〜20kOe)の磁場を印加して成形を行った。
この射出成形条件で、連続成形して得られた成形品(樹脂結合型磁石試料)の重量を常温にて測定し、射出成形回数によって変化があるかを調べた。結果を図4に示す。また、上記射出成形条件で、連続成形を行った時のスプルー部の温度変化を測定し、射出成形回数によって変化があるかどうかを調べた。結果を図6に示す。
【0098】
「評価」
図3は、連続成形試験における成形回数と成形品重量の関係を調べた結果である。実施例1の構造を有する射出成形金型を用いた場合、成形品重量が安定していることが分かる。一方、比較例1の構造を有する金型を用いた場合、2回の成形で、加熱部に接触した組成物が硬化してしまい連続的な成形ができなかった。
図4は、連続成形試験における成形回数と加熱部と接触するスプルー部温度の関係を調べた結果である。実施例1の構造を有する金型を用いた場合、スプルー部温度は安定していることが分かる。一方、比較例1の構造を有する金型を用いた場合、2回の成形で、加熱部に接触した組成物の温度が上がり硬化が始まり、連続的な成形ができなくなってしまい測定を中止した。
図5は、連続成形試験における成形回数と成形品重量の関係を調べた結果である。実施例2の構造を有する射出成形金型を用いた場合、成形品重量が安定していることが分かる。一方、比較例2の構造を有する金型を用いた場合、比較例1に比較し成形回数は増えたものの5回の成形で、加熱部に接触した組成物が硬化してしまい連続的な成形ができなかった。
図6は、連続成形試験における成形回数と加熱部と接触するスプルー部温度の関係を調べた結果である。実施例2の構造を有する金型を用いた場合、スプルー部温度は安定していることが分かる。一方、比較例2の構造を有する金型を用いた場合、比較例1に比較し成形回数は増えたものの5回の成形で、加熱部に接触した組成物の温度が上がり硬化が始まり、連続的な成形ができなくなったので測定を中止した。
以上の結果から、本発明の構造を有する射出成形金型を用いることによって、構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を含む樹脂バインダーからなる樹脂結合型磁石用組成物を連続して効率的に射出成形できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】樹脂結合型磁石用組成物を射出成形するための本発明の金型構造を示す断面図である。
【図2】比較用の射出成形金型を示す断面図である。
【図3】連続成形試験時の成形回数と成形品重量の関係を示すグラフである。
【図4】連続成形試験時の成形回数とスプルー温度の関係を示すグラフである。
【図5】連続成形試験時の成形回数と成形品重量の関係を示すグラフである。
【図6】連続成形試験時の成形回数とスプルー温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0100】
1 パーティングライン
2 成形品取り出しピン
3 固定側加熱プレート
4 断熱板
5 固定側冷却プレート
6 可動側加熱プレート
7 スプルー部
8 冷却手段
9 キャビティ部
10 ランナー部
11 コールドスラグだまり
12 固定側パーティング面
13 可動側パーティング面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーティングラインで分離された固定側金型と可動側金型とから構成される、バインダー成分として熱硬化性樹脂を含む樹脂結合型磁石用組成物を射出成形するための金型であって、
固定側金型は、冷却手段を有する固定側冷却プレートと、可動側金型に対向する固定側加熱プレートと、これら冷却プレート及び加熱プレートの間に介在する断熱手段と、固定側金型の内部を貫通して樹脂結合型磁石用組成物を射出ユニットから可動側金型に移送するためのスプルー部を具備し、
一方、可動側金型は、可動側加熱プレートと、可動側金型パーティング面に設置された凹部と固定側金型パーティング面で形成されるランナー部と、固定側金型のスプルー部に対向しランナー部の手前に形成されるコールドスラグだまりと、スプルー部及びランナー部を通じて移送されてきた樹脂結合型磁石用組成物を充填するキャビティ部と、先端がキャビティ部の底部に位置した成形品取り出しピンとを具備することを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型。
【請求項2】
前記断熱手段は、断熱層であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型。
【請求項3】
前記コールドスラグだまりの容積は、0.01〜0.20cmであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物の射出成形用金型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形用金型を用いて、バインダー成分として熱硬化性樹脂を含む樹脂結合型磁石用組成物を射出成形するための方法であって、
樹脂結合型磁石用組成物を射出ユニットで溶融状態にする工程、溶融された組成物を50℃以下の温度に維持されたスプルー部に供給し、100〜180℃に加熱されたコールドスラグだまりで受け入れた後、ランナー部を経てキャビティ部に充填する工程、充填された熱硬化性樹脂を所定時間保持する工程、および熱硬化性樹脂が硬化した後、キャビティ部から硬化した成形品を取り出す工程を含むことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、またはビニルエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法。
【請求項6】
前記樹脂結合型磁石用組成物は、さらにN−オキシル化合物を含有することを特徴とする請求項4に記載の樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法。
【請求項7】
前記樹脂結合型磁石用組成物は、磁性成分として構成元素中に希土類元素および遷移金属元素を含む磁性粉末を含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の樹脂結合型磁石用組成物の射出成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−82234(P2006−82234A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266336(P2004−266336)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【出願人】(304027785)株式会社技研 (6)
【Fターム(参考)】