説明

樹脂製オイルパン

【課題】オイルパンの樹脂化による穴開きのリスクを軽減する共に、NV性能の低下を抑制する。
【解決手段】樹脂製オイルパン1は、樹脂製オイルパン本体2と、その深底部21の開口部を油液密に覆う板状部材3と、を備える。板状部材3は、金属板31と、金属板31を挟む一対の樹脂板32,33と、を備える積層構造を有している。樹脂板32,33は、それぞれ、金属板31の端部31aより外方に延びる延長部32t,33tを備える。また、板状部材3では、樹脂板32,33の延長部32t,33tで金属板31の端部31aを閉じている。板状部材3の樹脂板32,33は、延長部32t,33tにて、樹脂製オイルパン本体2に溶着固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンオイルを貯留する樹脂製オイルパンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両用エンジンのシリンダブロックの下部に装着される樹脂製オイルパンを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−75456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような樹脂製オイルパンは、金属製のオイルパンに比べて、靭性が劣り、僅かな変形で割れやすいことにより、飛散物や路面干渉による穴開きのリスクがあるので、何らかの対策を施す必要がある。
【0005】
そこで、穴開き対策として、樹脂製オイルパンにリブを設けることが考えられるが、この対策では、飛散物がリブの間の樹脂に衝突する可能性があるので、穴開きを完全に防ぐことは難しい。
【0006】
また、穴開き対策として、樹脂製オイルパンの下方にサスペンションメンバー等をガード用部品として配置することも考えられるが、レイアウトの都合上、搭載できる車種が限定されてしまう。
【0007】
更に、穴開き対策として、アンダーカバーを設置すると、部品点数が増加してしまう。
【0008】
また、オイルパンを樹脂化した場合は、金属製のオイルパンに比べて、材料強度が低く、膜振動を起こしやすいので、NV(Noise and Vibration)性能が低下してしまう。
【0009】
本発明は、これらの問題に鑑み、部品点数を増加させることなく、簡易な構成で、穴開きのリスクを軽減する共に、NV性能の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明では、樹脂製オイルパンは、その一部を構成する板状部材と、該一部を除く残部を構成する樹脂製オイルパン本体と、を含んで構成される。板状部材は、金属板と、金属板を挟む一対の樹脂板と、を備える積層構造である。一対の樹脂板は、金属板の端部より外方に延び、かつ、金属板の端部を閉じる延長部を備える。そして、板状部材は、一対の樹脂板の延長部にて、オイルパン本体に溶着固定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属板と、金属板を挟む一対の樹脂板と、を備える積層構造の板状部材によって樹脂製オイルパンの一部を構成することにより、該一部での対衝撃性が金属製のオイルパンと同等以上のレベルまで向上するので、アンダーカバー等の保護部品を用いなくても、穴開きのリスクを軽減することができる。
【0012】
また本発明によれば、板状部材を構成する金属板が膜振動を抑制するので、NV性能の低下を抑制することができる。
【0013】
また本発明によれば、一対の樹脂板の延長部で金属板の端部を閉じることにより、金属板の端部が露出しないので、金属板の腐食を防止することができる。これにより、板状部材による穴開きリスク軽減効果及びNV性能低下抑制効果を、長期にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態における樹脂製オイルパンの概略構成図
【図2】同上実施形態における板状部材の作成方法の一例を示す断面図
【図3】本発明の第2の実施形態における板状部材の概略構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態における樹脂製オイルパンの概略構成を示す。
【0017】
樹脂製オイルパン1は、車両用エンジンのシリンダブロックの下部に装着される樹脂製オイルパン本体2と、樹脂製オイルパン本体2の下端部に溶着固定される板状部材3と、を備える。換言すれば、樹脂製オイルパン1は、その一部を構成する板状部材3と、該一部を除く樹脂製オイルパン1の残部を構成する樹脂製オイルパン本体2と、を備える。
【0018】
樹脂製オイルパン本体2は、熱可塑性樹脂により形成されており、エンジンの気筒列方向(クランクシャフトの延設方向)の一方に、エンジンオイルを貯留する深底部21を備えると共に、他方には、深底部21よりも高位な浅底部22を備える。樹脂製オイルパン本体2の深底部21は、その下端部が開口しており、この開口部を気液密に覆うように、板状部材3が溶着固定される。ここで、板状部材3は、樹脂製オイルパン1がエンジンに取り付けられたときに、樹脂製オイルパン1のうちで最も路面に近接する部位に対応している。
【0019】
板状部材3は平板状であり、金属板31と、金属板31を挟む一対の樹脂板32,33と、が積層した構造を有している。
【0020】
樹脂板32,33は、それぞれ、熱可塑性樹脂により形成されており、各々が、金属板31の端部31aより外方に延びる延長部32t,33tを備える。
【0021】
ここで、樹脂製オイルパン本体2及び樹脂板32,33に用いる熱可塑性樹脂の具体例としては、ナイロン6(PA6)やナイロン66(PA66)等のポリアミド(PA)を挙げることができる。また、樹脂製オイルパン本体2及び樹脂板32,33を同種の樹脂同士で組み合わせることにより、両者を良好に溶着固定することができる。
【0022】
金属板31と樹脂板32,33との間には、それぞれ、金属板31と樹脂板32,33とを接着固定するシリコン系やエポキシ系等の接着材(図示せず)により、接着層(図示せず)が形成されている。
【0023】
次に、本実施形態における板状部材3の作成方法を、図2を用いて説明する。
【0024】
図2は、本実施形態における板状部材3の作成方法の一例を示す断面図である。
【0025】
この例では、まず、図2(a)に示すように、金属板31を一対の樹脂板32,33で挟んで、積層構造の板状部材3を作成する。
【0026】
次に、板状部材3の端部3aをローラで圧延して、図2(b)に示すように、樹脂板32,33の延長部32t,33tを形成する。ここで、ローラによる圧延は、加熱したローラによって樹脂板32,33の端部32t,33tを軟化させつつ行う。または、板状部材3の積層直後で樹脂板32,33の端部32t,33tが熱を持った状態であるときに、ローラによる圧延を行う。
【0027】
尚、本実施形態では、ローラを用いた圧延により樹脂板32,33の延長部32t,33tを形成しているが、この他、金属板31に比べてひと回り大きめの樹脂板32,33を用いて積層構造の板状部材3を作成し、樹脂板32,33のうち、金属板31の端部31aより外方に延びる部分を延長部32t,33tとしてもよい。
【0028】
次に、本実施形態における樹脂製オイルパン本体2と板状部材3とを溶着固定する方法について、図1を参照しつつ説明する。
【0029】
本実施形態では、樹脂製オイルパン本体2と、板状部材3の樹脂板32,33と、を溶着固定する方法として、レーザ溶着法を用いる。このため、樹脂製オイルパン本体2は、レーザ光を吸収する黒色の吸収性熱可塑性樹脂で作成される一方、樹脂板32,33は、レーザ光を透過する乳白色半透明の透過性熱可塑性樹脂で作成される。ここで、溶着固定に用いられるレーザ光の具体例としては、ガラス:ネオジム3+レーザ、YAG:ネオジム3+レーザ、ルビーレーザ、ヘリウム−ネオンレーザ、クリプトンレーザ、アルゴンレーザ、Hレーザ、Nレーザ、半導体レーザ等のレーザ光を挙げることができる。
【0030】
本実施形態における溶着固定方法では、まず、樹脂製オイルパン本体2の深底部21の開口部を気液密に覆うように板状部材3を配置する。
【0031】
次に、樹脂板33の延長部33t側の外部から、樹脂板32の延長部32tと樹脂製オイルパン本体2とが接触する接触面(樹脂製オイルパン本体2の深底部21の開口部外縁のフランジ部の下端面21a)へ向けて、レーザ光を照射する。
【0032】
この後、樹脂板32,33の延長部32t,33tを透過したレーザ光によって接触面における吸収性熱可塑性樹脂が発熱し、その熱により、接触面近傍の樹脂製オイルパン本体2の樹脂と樹脂板32,33の延長部32t,33tの樹脂とが溶融して、樹脂板32,33と樹脂製オイルパン本体2とが接合される。このとき、板状部材3において、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとが互いに溶着されることにより、金属板31の端部31aが閉じられる。
【0033】
尚、前述の接触面における吸収性熱可塑性樹脂の発熱を、樹脂板32の延長部32tを介して、樹脂板33の延長部33tに伝熱して、樹脂板33の延長部33tの樹脂を溶融させるためには、例えば、樹脂板32の延長部32tの厚みを極力薄くする等、樹脂板32の厚み調整を行う必要がある。
【0034】
本実施形態によれば、金属板31と、金属板31を挟む一対の樹脂板32,33と、を備える積層構造の板状部材3によって樹脂製オイルパン1の一部を構成することにより、該一部での対衝撃性が金属製のオイルパンと同等以上のレベルまで向上するので、オイルパンを樹脂化したことによる穴開きのリスクを軽減することができる。
【0035】
また本実施形態によれば、板状部材3を構成する金属板31が膜振動を抑制するので、オイルパンを樹脂化したことによるNV性能の低下を抑制することができる。
【0036】
また本実施形態によれば、板状部材3では、一対の樹脂板32,33の延長部32t,33tで金属板31の端部31aを閉じることにより、一対の樹脂板32,33が金属板31を密閉するので、金属板31の腐食を防止することができると共に、金属板31と樹脂板32,33との間の接着層を保護することができる。
【0037】
また本実施形態によれば、板状部材3が樹脂製オイルパン本体2に溶着固定されるときに、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとを互いに溶着して金属板31の端部31aを閉じる。これにより、板状部材3を樹脂製オイルパン本体2に溶着固定する工程と、一対の樹脂板32,33の延長部32t,33tで金属板31の端部31aを閉じる工程と、をまとめて同時に行うことができるので、樹脂製オイルパン1の作成工数を減少させることができる。
【0038】
また本実施形態によれば、樹脂製オイルパン本体2は、開口部を有する深底部21と、深底部21より高位の浅底部22と、を備え、板状部材3は、深底部21の開口部を覆いつつ樹脂製オイルパン本体2に溶着固定される。これにより、樹脂製オイルパン1において、最も路面と近接し、かつ、穴開きのリスクが比較的大きい部位の耐衝撃性を、金属製のオイルパンと同等以上のレベルまで向上させることができる。従って、樹脂製オイルパン1を保護するために、樹脂製オイルパン1の下方にサスペンションメンバー等をガード用部品として配置する必要がなく、レイアウトの自由度が向上するので、オイルパンを樹脂化した場合の車種選択の幅を広げることができる。また、樹脂製オイルパン1を保護するために、アンダーカバー等の保護部品を新たに設置する必要がないので、部品点数を増加させることなく、穴開きのリスクを軽減することができる。
【0039】
尚、本実施形態では、板状部材3が樹脂製オイルパン本体2に溶着固定されるときに、同時に、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとを互いに溶着して金属板31の端部31aを閉じるが、この他に、板状部材3が樹脂製オイルパン本体2に溶着固定される前に、予め、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとを互いに溶着して金属板31の端部31aを閉じてもよい。この場合には、前述の樹脂板32の厚み調整を行う必要がないので、板状部材3を容易に作成することができる。
【0040】
図3は、本発明の第2の実施形態における板状部材3の概略構成を示す。
【0041】
図1及び図2にて示した第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0042】
板状部材3において、樹脂製オイルパン本体2側の樹脂板32の延長部32tは、路面側の樹脂板33の延長部33tに比べて溶着代wの分だけ外方に延びており、この溶着代wと樹脂製オイルパン本体2とが溶着固定される。
【0043】
また、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとの間にシール材34が充填されており、このシール材34と、樹脂板32,33の延長部32t,33tと、により、金属板31の端部31aを閉じている。ここで、シール材34の具体例としては、FIPG(Formed In Place Gasket:現場成形液状ガスケット)を挙げることができる。
【0044】
特に本実施形態によれば、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとの間にシール材34を充填することにより、樹脂板32の延長部32tと樹脂板33の延長部33tとの間の気液密性を更に向上させることができるので、金属板31の腐食防止を更に強化することができる。
【0045】
尚、本発明の実施形態では、樹脂製オイルパン本体2と板状部材3とを溶着固定する方法として、レーザ溶着法を用いているが、この他に、溶着固定方法として、振動溶着法、超音波溶着法、又は、熱板溶着法を用いてもよい。
【0046】
また、本発明の実施形態では、板状部材3は平板状であるが、この他、板状部材3は、鍋底状のように湾曲していてもよい。
【0047】
また、本発明の実施形態では、樹脂製オイルパン1のうちで対衝撃性が最も要求され、かつ、膜振動が発生しやすい深底部21に板状部材3を配置したが、樹脂製オイルパン1における板状部材3の配置部位はこれに限るものではなく、深底部21以外で路面に対して露出し、対衝撃性が要求される部位や、深底部21以外で膜振動が発生しやすい部位に、板状部材3を配置することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 樹脂製オイルパン
2 樹脂製オイルパン本体
3 板状部材
3a 端部
21 深底部
22 浅底部
31 金属板
31a 端部
32,33 樹脂板
32t,33t 延長部
34 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルパンの一部を構成する板状部材と、
前記一部を除くオイルパンの残部を構成する樹脂製オイルパン本体と、を含んで構成され、
前記板状部材は、金属板と、該金属板を挟む一対の樹脂板と、を備える積層構造であり、
前記一対の樹脂板は、前記金属板の端部より外方に延び、かつ、前記金属板の端部を閉じる延長部を備え、
前記板状部材は、前記延長部にて、前記オイルパン本体に溶着固定されることを特徴とする樹脂製オイルパン。
【請求項2】
前記一対の樹脂板は、前記板状部材が前記オイルパン本体に溶着固定されるときに、前記延長部にて各樹脂板が互いに溶着されることにより、前記金属板の端部を閉じることを特徴とする請求項1記載の樹脂製オイルパン。
【請求項3】
前記一対の樹脂板は、前記延長部にて、各樹脂板と、該樹脂板間に充填されるシール材と、により、前記金属板の端部を閉じることを特徴とする請求項1記載の樹脂製オイルパン。
【請求項4】
前記一対の樹脂板は、レーザ光を透過する透過性熱可塑性樹脂により形成され、かつ、前記オイルパン本体は、レーザ光を吸収する吸収性熱可塑性樹脂により形成され、前記一対の樹脂板の前記延長部と前記オイルパン本体とが接触する接触面に向けてレーザ光を照射し、該接触面を溶融させて、前記一対の樹脂板と前記オイルパン本体とを接合することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の樹脂製オイルパン。
【請求項5】
前記オイルパン本体は、開口部を有する深底部と、該深底部より高位の浅底部と、を備え、
前記板状部材は、前記開口部を覆いつつ前記オイルパン本体に溶着固定されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の樹脂製オイルパン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275899(P2010−275899A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127940(P2009−127940)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】