説明

樹脂製保持器及び転がり軸受

【課題】ポケットにおける転動体が摺接する摺接面の潤滑性を向上させた樹脂製保持器を得ることを目的とする。
【解決手段】周方向に複数の転動体である針状ころ2をそれぞれ保持する複数のポケット10を備えた樹脂製保持器3において、ポケット10における針状ころ2が摺接する摺接面である周面10aと端面10bにポリアミド又はポリカーボネートの樹脂粒子をショットピーニング処理を施してディンプルを付与したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂製保持器及び樹脂製保持器を有する転がり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の転がり軸受は金属製の保持器を用いているが、最近は自動車用や産業機械での軽量コンパクト化の要求や低コスト化に伴い、針状ころを用いた転がり軸受でもポリアミド等の樹脂保持器の採用が進んでいる。
その樹脂製保持器の採用に伴い自己潤滑性が向上し、潤滑不足による保持器外径面、端面、ポケット内部などの焼き付き等の対策とはなっているが、耐熱性、スキューによる端面摩擦等の懸念は残るものであった。
そこで、転動体が摺接する樹脂製保持器の摺接面の潤滑性を向上させるものとして、従来より多孔質樹脂成形体からなる転がり軸受用保持器であって、多孔質樹脂成形体は、気孔形成材を溶解し、かつ上記樹脂を溶解しない溶媒を用いて上記形成体から上記気孔形成材を抽出して得られる連通孔を有してなり、その連通孔に潤滑油を含浸させ、かつ摺接面から安定的に該潤滑油を供給するようにしたものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−16862号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の多孔質樹脂成形体からなる転がり軸受用保持器は、多孔質樹脂成形体が連通孔を有するため、強度の点で充分でないおそれがあった。
そこで、本発明は、このような点に着目してなされたもので、多孔質樹脂成形体を用いず、硬度が充分で、他部材との摺接面の潤滑性を向上させた樹脂製保持器及び転がり軸受を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の樹脂製保持器は、周方向に複数の転動体をそれぞれ保持する複数のポケットを備えた樹脂製保持器において、前記樹脂製保持器の他部材との摺接面に樹脂又は軟質金属の粒子をショットピーニング処理又はインペラー処理を施してディンプルを付与したものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂製保持器においては、樹脂製保持器の他部材との摺接面に樹脂又は軟質金属の粒子をショットピーニング処理又はインペラー処理を施してディンプルを付与したので、他部材が摺接する摺接面の表面はディンプル(凹凸)により親油性や親水性がアップし、表面への油密着性もアップして潤滑性が向上し、摩擦熱による軸受、保持器の昇温が抑制されて保持器の柱の変形が抑制されると共にスキューの発生が低減化され、許容回転速度もアップするという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は本発明に係る転がり軸受の一例を示す断面図、図2は同転がり軸受の樹脂製保持器を示す斜視図である。
図1において、軌道輪としてのシェル形の外輪1と、転動体としての針状ころ2と樹脂製の保持器3とから転がり軸受としての針状ころ軸受Aが構成されている。
外輪1は筒状の軌道部4と、その軸方向両側の鍔部5、6とから一体に形成されている。一方の鍔部5は軌道部4に比べて薄肉に形成されると共に、軌道部4に沿うように折曲され、他方の鍔部6は軌道部4から径方向内方に折曲して形成されている。
樹脂製の保持器3は軸方向両側の環状部7、8と、環状部7,8間に円周方向等配位置に配置された柱部9とを備え、柱部9の間が針状ころ2を保持するポケット10とされている。
【0007】
本実施の形態1では、樹脂製保持器3を、以下に示す手順で製造した。
まず、表面粗さが0.8μmの例えばポリアミドにより樹脂成形された表面粗さが0.8μmの保持器3を用意する。
次に、この樹脂製の保持器3のポケット10における針状ころ2が摺接する周面10a及び端面10bに、それから10から60cm、より好ましくは20〜40cm離れた距離から、ショット材を用いて、常温下で、0.4〜0.8MPa、より好ましくは0.5〜0.6MPaの噴射圧力でショットピーニング処理を1分間施し、ディンプルを付与した。
【0008】
また、保持器3のポケット10の周面10a及び端面10bに、それから10から60cm、より好ましくは20〜40cm離れた距離から、ショット材を用いて、−60℃の条件下で、3600rpmのインペラー処理を5分間施し、ディンプルを付与することもできる。
このときのショットピーニング処理を行ったときのショット材はポリアミド粒子:ナイロンショット(商品名)であり、またインペラー処理を行ったときのショット材はポリカーボネート粒子:ポリカーボショット(商品名)で、いずれの粒子の粒径は200〜1000μm、好ましくは200〜500μm、より好ましくは200〜400μmである。
【0009】
また、ポリアミド粒子又はポリカーボネート粒子の硬度は、ビッカース硬度で50<HV<100(例えば、HV=70程度)又はロックウエル硬度で50<HRC<100(例えば、HRC=70程度)である。硬度が前記の範囲内であれば、樹脂保持器成形時に発生するバリを効果的に除去する効果も得られる。
このようにして得られた保持器3のポケット10の周面10a及び端面10bの表面粗さを、公知の非接触型光干渉式形状測定試験機を用いて測定した。その結果、最大高さ(Rmax)で1.0μm以上で10μm以下であった。
【0010】
このように、ポリアミド製の保持器3のポケット10における針状ころ2が摺接する周面10a及び端面10bに、それから10から60cm、より好ましくは20〜40cm離れた距離から、ショット材としてポリアミド粒子又はポリカーボネート粒子を用いて、ショットピーニング処理又はインペラー処理を施し、ディンプルを付与すると、保持器3のポケット10の周面10a及び端面10bの表面はディンプル(凹凸)により親水性がアップし、表面への油密着性もアップして潤滑性が向上し、昇温が抑制されて保持器3の柱9の変形が抑制されると共にスキューの発生が低減化され、許容回転速度もアップした。
【0011】
上記実施の形態1では、保持器3のポケット10における針状ころ2が摺接する面である周面10a及び端面10bに樹脂の粒子をショットピーニング処理又はインペラー処理を施してディンプルを付与していたが、周面10aの中央部分又は両側部分だけに針状ころ2を摺接させる場合にそれらの部分に樹脂の粒子をショットピーニング処理を施してディンプルを付与してもよい。
さらには、保持器3における軌道輪である外輪1が摺接する環状部7、8の周面7a、8aと端面7b、8bにも樹脂の粒子をショットピーニング処理又はインペラー処理を施してディンプルを付与してもよい。
保持器3における外輪1が摺接する環状部7、8の端面7b、8bにディンプルを付与した場合には、保持器3の環状部7、8の端面7b、8bの表面はディンプル(凹凸)により親油性がアップし、表面への油密着性もアップして潤滑性が向上し、外輪1の鍔部6の内周面との摩擦が低減化される。
また、上記実施の形態1では、ショット材としてポリアミド粒子又はポリカーボネート粒子を用いているが、ポリアミド粒子とポリカーボネート粒子とを混在させたり、これらの粒子の粒径を違えて使用してもよい。
また、ショット材としてポリアミド粒子又はポリカーボネート粒子を用いているが、これに限らず軟質金属であるMoS2(2硫化モリブデン)を用いてもよいことはいうまでもない。
また、上記実施の形態1では、転がり軸受として針状ころ軸受の保持器を一例としているが、通常のころ軸受、玉軸受等軸受一般の保持器に適用できる。また、本件発明における保持器は直動軸受やボールネジ等の他の転動装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一例を示す断面図。
【図2】同転がり軸受の樹脂製保持器を示す斜視図。
【符号の説明】
【0013】
1 外輪、2 針状ころ、3 保持器、4 軌道部、5、6 鍔部、7、8 環状部、9 柱、10 ポケット、10a 周面、10b 端面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に複数の転動体をそれぞれ保持する複数のポケットを備えた樹脂製保持器において、
前記樹脂製保持器の他部材との摺接面に樹脂又は軟質金属の粒子をショットピーニング処理又はインペラー処理を施してディンプルを付与したことを特徴とする樹脂製保持器。
【請求項2】
前記樹脂又は軟質金属の粒子の粒径は200〜1000μmであることを特徴とする請求項1記載の樹脂製保持器。
【請求項3】
前記樹脂はポリアミド又はポリカーボネートで、前記軟質金属は2硫化モリブデンであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂製保持器。
【請求項4】
前記請求項1〜3に記載の樹脂製保持器と、該樹脂製保持器の複数のポケットに保持される複数の転動体と、これら転動体が転動する軌道輪を備えていることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−156322(P2009−156322A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334035(P2007−334035)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】