説明

樹脂製電池ケースの成形方法

【課題】バリアフィルムをインサートした電池ケースの成形方法において、薄肉部にインサートされたバリアフィルムにめくれや皺を発生させないことによりガスバリア性能の低下を防ぎ、併せてこの薄肉部において樹脂が会合してウエルドラインが発生して強度が低下するのを防ぐ。
【解決手段】キャビティ13の厚肉成形部13aに可動入子18、18aを組み付けて樹脂を注入する際、この可動入子18、18aを前進させて厚肉成形部13a側に流動する樹脂を制御して薄肉成形部13b側への樹脂の流動を先行させる。次に可動入子18、18aを後退させて厚肉成形部13a側に樹脂を流動させる。このことにより、周囲の厚肉成形部13a内を先行した樹脂圧によりインサートしたバリアフィルムにめくれや皺を発生させず、樹脂がバリアフィルム4の表面に流出して付着したり、ケース1の薄肉部2にウエルドラインを発生させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等の駆動用電源として用いられるニッケル水素電池等(以下「水素電池」という。)を構成する樹脂製電池ケースの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前記水素電池は、偏平に形成したケース内に電極及び電解溶液を充填し、これを多数組み合わせた状態で使用することにより高い電気出力を得ることができるようにしている。
【0003】
このような使用形態をとる水素電池は、自動車の場合でいうと床下の狭いスペース内に搭載されることから、小型で軽量であることが求められる。
【0004】
この対応として、電池ケースは樹脂で薄肉に成形され、かつ偏平化されていて、この偏平面を合わせて集合化しながら電池収納スペース内に組み付けている。
【0005】
このように、電池ケースを樹脂化すると共に薄肉化した場合、この薄肉化した偏平面から経年的に電解溶液中の水素成分が気化して外部に漏出し、電池能力が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、電池ケースの偏平面にアルミニュウム箔製のフィルム(以下「バリアフィルム」という。)を貼り合わせることでガスバリア性を付与しており、このバリアフィルムの貼り合わせは、樹脂ケースの成形時にキャビティ内にバリアフィルムをインサートし、その上でキャビティ内に樹脂を注入することで一体成形するという所謂インサート成形方法がとられている。
【0007】
しかし、このインサート成形方法を採用すると、樹脂を注入したときの充填圧によりバリアフィルムに位置ズレが生じたり、樹脂の流動圧によりバリアフィルム面に皺が発生したりして良品が得られないという問題が発生する。
【0008】
そこで、特許文献1に掲載の成形方法では、キャビティ面に吸引孔(負圧孔)を設けてバリアフィルムを強制的にキャビティ面に密着固定し、更に樹脂の注入前にキャビティ内を加圧してバリアフィルムをキャビティ面に押圧し、その上で樹脂を充填することによりバリアフィルムの位置ずれや皺の発生を防止する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−51620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記特許文献1の成形方法を採用すると、キャビティ内にバリアフィルムを固定する目的は達成できるが、電池ケースの場合、前記のように軽量化のために偏平部を極力薄肉化していることから、強度不足の問題が発生する。
【0011】
そこで、図9、10に示すように、ケース1の薄肉部(偏平面)2の周囲に額縁状に厚肉部3を形成して強度を増すデザインとしている。しかし、このように薄肉部2の周囲に厚肉部3を有するケースを成形する場合、キャビティ内にゲートから樹脂を注入すると、この樹脂は薄肉部2よりも流動抵抗の小さい厚肉部3側に向かう樹脂の流動矢印bが先行して樹脂の流頭はキャビティ内において厚肉部3の下辺3a側に早く到達し、この下辺3a側から矢印b’に示すように薄肉部2側へ廻り込み、矢印aに示すように薄肉部2内に流動して来た樹脂と薄肉部2で会合する。
【0012】
このように、キャビティ内の下辺側において樹脂の廻り込み現象が発生すると、バリアフィルム4の下辺及び下辺の左右の角部に廻り込みによる樹脂圧が作用して特に両角部にめくれ4aが発生したり、バリアフィルム4に皺4bが発生したり、表面に樹脂が流出して外観を損ねたりするという問題が発生する。
【0013】
また、薄肉部2において樹脂の会合が行われると、ここにウエルドラインが発生し、それでなくとも薄肉なるが故に強度的に弱い部分が更に弱くなってしまう。
【0014】
このように、バリアフィルム4にめくれや皺が発生すると、ここにおいてガスバリア性能が低下することから、電池性能に大きな影響が出ると共にバリアフィルム4の表面に樹脂が流出して外観を損ね、更に薄肉部2にウエルドラインが発生すると強度が低下することから、その解決策の提案が望まれている。
【0015】
本発明は斯かる点に鑑みて提供されるものであって、その目的は、アルミフィルム等のバリアフィルムをインサートしながら行う水素電池等の電池ケースの射出成形方法において、インサートしたバリアフィルムにめくれや皺が発生せず、併せて薄肉部にウエルドラインが発生したり、樹脂がバリアフィルム面に流出して外観を損ねたりしない成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、樹脂製電池ケースの成形方法において、
a. 薄肉の正面と背面から成る正面視偏平四角形状を呈し、且つ前記正面と背面の周囲の各辺に沿って前記正面と背面より厚肉に形成された額縁状の厚肉部を有すると共に前記正面と背面の表面に四角形状のバリアフィルムがインサート成形された樹脂製電池ケースの成形方法であって、
b. 前記電池ケースを成形するための金型キャビティの樹脂注入ゲートを四角形の一つの辺の中央に位置させると共に電池ケースの正面と背面を成形するキャビティ面の前記バリアフィルムが位置する面であって、前記ゲートが位置する辺とこの辺に接する2辺に沿ってバリアフィルムをキャビティ面に吸着する吸引孔を設けた金型を用いて成形する際に、
c. 前記金型キャビティ内であって、前記ゲートが位置する厚肉成形部において、前記ゲートの両側に可動入子を組み付ける、
d. 前記電池ケースの成形は、金型を閉じ、前記可動入子を前進させて厚肉成形部を経由して流動する樹脂を制限してから樹脂を注入することにより、厚肉成形部に対して電池ケースの正面と背面の薄肉成形部に到る樹脂の流動を先行させる、
e. 次に、前記薄肉成形部内に樹脂が充満したところで、前記可動入子を後退させて厚肉成形部内に樹脂を流動させることによりキャビティ内全体に樹脂を充満し、保圧、冷却を経て終了する、
ことを特徴とするものである。
【0017】
この発明によると、電池ケースの薄肉部に対して厚肉部を先行する樹脂の流動を制御するため、キャビティ内において厚肉成形部を先行した樹脂が薄肉成形部内に廻り込むことがなくなり、キャビティ内にインサートされたバリアフィルムにめくれや皺が発生するのを抑制できると共に薄肉成形部において樹脂の会合が行われないため、ウエルドラインが製品の薄肉部に発生することもない。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の樹脂製電池ケースの成形方法において、前記可動入子を後退させるタイミングは、あらかじめ計算して設定した樹脂注入シリンダー内のスクリュー位置で制御することを特徴とするものである。
【0019】
この発明によると、可動入子の制御タイミングを正確に設定して行うことができる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の樹脂製電池ケースの成形方法において、前記バリアフィルムは、アルミニュウム箔で成形されていることを特徴とするものである。
【0021】
この発明によると、ガスバリア性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以上のように、バリアフィルムをインサート成形する樹脂製電池ケースにおいて、このインサートしたバリアフィルムにめくれや皺が発生したり、製品の薄肉面にウエルドラインが発生するのを抑制したことにより、高性能の水素電池等の提供に大きく貢献できると共に樹脂がインサートしたバリアフィルム面に流出して外観を損ねたりしない効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】成形に用いる金型の縦断正面図。
【図2】金型を開いた状態の横断平面図。
【図3】金型を閉じた状態の横断平面図であって、樹脂の注入直前の説明図。
【図4】可動入子を前進させた状態の説明図。
【図5】キャビティ内に樹脂を注入している状態の説明図。
【図6】キャビティの薄肉成形部内に樹脂が充満する直前の説明図。
【図7】キャビティの薄肉成形部内に樹脂が充満し、可動入子が後退して厚肉成形部内に樹脂が流動して行く過程の説明図。
【図8】キャビティ内全体に樹脂が充填された状態の説明図。
【図9】公知の樹脂製電池ケースの外観と樹脂の流動及びインサートしたバリアフィルムのめくれ及び皺、ウエルドラインの発生状況の一例を示す説明図。
【図10】図9におけるA−A’線拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、正面視四角形の正面と背面(側面)が薄肉に成形され、この正面と背面の周囲が厚肉部に成形されていると共に内部を仕切壁にて仕切ることにより収容部5を形成し、この収容部5内に電極と電解溶液を充填したニッケル水素電池等を構成する樹脂製電池ケースの成形方法であって、前記薄肉部の表面にガスバリアを目的としてアルミフィルム等をインサート成形する方法に適用される。
【0025】
前記電池ケースの成形用樹脂は、軽量であること、一定の強度を有すること、耐薬品性を有すること等の製品条件を満す必要があり、これを満す樹脂としてはポリプロピレン、ポリプロピレン系アロイ樹脂等を例示することができる。
【0026】
電池ケースの薄肉部の表面にインサートするバリアフィルムとしては、性能上アルミフィルムが優れており、このアルミフィルムにはPET等の樹脂フィルムをラミネートして用いる。厚さは軽量化とガスバリア性の目的を達成するためには10〜100μの範囲が実用的であるが、この厚さは本発明の適用においては絶対的なものではなく、電池の設計条件により選択される。
【実施例】
【0027】
図1〜図8に基づいて本発明に係る成形方法を詳細に説明する。
【0028】
製品形状は図9、10において説明した正面と背面(側面)が正面視四角形の薄肉部2で成形され、この薄肉で成形された正面と背面の周囲には額縁状に厚肉部3が成形されたものである。
【0029】
この電池ケース成形用金型は、図1、2に示すように、固定側金型10と可動側金型11及び可動金型12、12aで製品成形用のキャビティ13を形成し、シリンダー14からスクリュー15によりゲート10aを経由してキャビティ13内に樹脂を充填することができる。
【0030】
可動金型12は図1においてケースの両サイドを成形し、可動金型12aは図2においてケースの正面と背面(偏平面)を成形する。
【0031】
図2において、16は可動金型12aのキャビティ13内に形成された吸引孔であって、図外のコンプレッサの作用で吸引通路16aを介して吸引孔16を負圧に形成し、表面にインサートしたバリアフィルム4をキャビティ面17に吸引して固定する。
【0032】
図1において、18、18aは固定側金型10に設けられた可動入子であって、この可動入子18、18aはキャビティ13内の厚肉成形部13a内に出入り制御自在に組み付けられている。
【0033】
図2において、19は制御回路であって、シリンダー14内のスクリュー15の位置からキャビティ13内に充填した樹脂量を演算し、この樹脂量がケースの薄肉成形部13内に行き渡った量となったとき、又はこの直前に前記可動入子18、18aを後退させて厚肉成形部13aに樹脂を流動させる可動入子18、18aの駆動源、例えばエアシリンダー(図示せず)の制御を行う。
【0034】
なお、本実施例において、可動入子18、18aの作動は、前記のとおりスクリュー15の位置から演算して制御しているが、充填された樹脂量を時間で演算して上記可動入子18、18aの作動を制御することも可能である。
【0035】
次に、図3〜図8に基づいて電池ケースの成形方法を工程順に説明する。
【0036】
図3は可動金型12aの内面(キャビティ面)にバリアフィルム4をインサートして型を閉じると共に固定側金型10と可動側金型11及び可動金型12を閉じてキャビティ13を形成し、吸引孔16を負圧に制御してバリアフィルム4を可動金型12aの内面に吸着させた状態である。
【0037】
次に、図4に示すように可動入子18、18aをキャビティ13内の周囲に形成された電池ケースの厚肉成形部13a内に前進させてこの厚肉成形部13a側に流動する樹脂を抑制する。
【0038】
次に、図5に示すように、シリンダー14のスクリュー15を駆動して樹脂をゲート10aからキャビティ13内に注入する。この時、注入された樹脂は可動入子18、18aにより厚肉成形部13a側に流動するのが抑制されて薄肉成形部13b側に流動し、やがて図6に示すようにキャビティ13内において薄肉成形部13b内に満される。
【0039】
この充填終了のタイミングは、シリンダー14のスクリュー15の位置で検知し、制御回路19から可動入子18、18aの駆動装置(図示せず)に信号が送られて可動入子18、18aが後退し、厚肉成形部13aを開放する。
【0040】
このように制御すると、シリンダー14→ゲート10aから注入された樹脂は、図7に示すように厚肉成形部13a側に流動し、やがて図8に示すように薄肉成形部13bをとり囲むように充填される。
【0041】
キャビティ13内への樹脂の充填量はシリンダー14のスクリュー15の前進した位置から演算が行われ、樹脂の充填量が所定量に達したところでスクリュー15の駆動を停止し、保圧工程及び冷却工程を経て成形を終了し、型開きを行うことで図9、10に示した電池ケース1が得られる。
【0042】
上記のように、本発明では、電池ケース1の成形において、キャビティ13内への樹脂の充填は、薄肉成形部13b側を先行させ、これに続いて厚肉成形部13a側とすることにより従来のようにインサートしたバリアフィルム4に厚肉成形部13aを先行した樹脂圧が作用して角がめくれたり、皺が発生したりする問題を解消できる。
【0043】
また、キャビティ13内での樹脂の会合を薄肉形成部13bではなく、厚肉成形部13aとしたことにより、ウエルドラインを薄肉成形部13bにおいて発生させないことから、強度的にも優れた電池ケースを得ることができる。
【0044】
また、めくれたガスバリアフィルム4の表面に樹脂が流出して来て外観を損ね、不良品となるのを防ぐことができる。
【0045】
よって、本発明によると、高性能ニッケル水素電池等の提供に貢献できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
正面と背面(両側面)に薄肉部を形成し、この薄肉部の周囲に厚肉部を形成した正面視四角形状水素電池等の電池ケースの成形。
【符号の説明】
【0047】
1 電池ケース
2 薄肉部
3 厚肉部
4 バリアフィルム
5 電極及び電解液収容部
10 固定側金型
10a ゲート
11 可動側金型
12、12a 可動金型
13 キャビティ
13a 厚肉成形部
13b 薄肉成形部
14 シリンダー
15 スクリュー
16 吸引孔
16a 吸気通路
17 キャビティ面
18、18a 可動入子
19 制御回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 薄肉の正面と背面から成る正面視偏平四角形状を呈し、且つ前記正面と背面の周囲の各辺に沿って前記正面と背面より厚肉に形成された額縁状の厚肉部を有すると共に前記正面と背面の表面に四角形状のバリアフィルムがインサート成形された樹脂製電池ケースの成形方法であって、
b. 前記電池ケースを成形するための金型キャビティの樹脂注入ゲートを四角形の一つの辺の中央に位置させると共に電池ケースの正面と背面を成形するキャビティ面の前記バリアフィルムが位置する面であって、前記ゲートが位置する辺とこの辺に接する2辺に沿ってバリアフィルムをキャビティ面に吸着する吸引孔を設けた金型を用いて成形する際に、
c. 前記金型キャビティ内であって、前記ゲートが位置する厚肉成形部において、前記ゲートの両側に可動入子を組み付ける、
d. 前記電池ケースの成形は、金型を閉じ、前記可動入子を前進させて厚肉成形部を経由して流動する樹脂を制限してから樹脂を注入することにより、厚肉成形部に対して電池ケースの正面と背面の薄肉成形部に到る樹脂の流動を先行させる、
e. 次に、前記薄肉成形部内に樹脂が充満したところで、前記可動入子を後退させて厚肉成形部内に樹脂を流動させることによりキャビティ内全体に樹脂を充満し、保圧、冷却を経て終了する、
f. ことを特徴とする樹脂製電池ケースの成形方法。
【請求項2】
前記可動入子を後退させるタイミングは、あらかじめ計算して設定した樹脂注入シリンダー内のスクリュー位置で制御することを特徴とする請求項1に記載の樹脂製電池ケースの成形方法。
【請求項3】
前記バリアフィルムは、アルミニュウム箔で成形されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製電池ケースの成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−20460(P2012−20460A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159465(P2010−159465)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(591061769)ムネカタ株式会社 (40)
【Fターム(参考)】