説明

樹脂複合材及びこれを用いた梁構造部材

【課題】炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を主材とする樹脂複合材に関し、制振性、強度に優れ、毒性や環境への負荷が小さい樹脂複合材を提供する。
【解決手段】炭素繊維強化プラスチック内部に、樹脂フィルムを封じてなる構成を備えた樹脂複合材であって、前記樹脂フィルムが、引っ張り弾性E’が1×10Pa〜5×10Paで、且つ損失正接tanδが5×10−2〜1×10であることを特徴とする樹脂複合材を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック(以下「CFRP」とも称する)を主材とする樹脂複合材、特に梁構造部材等として好適に使用することができる樹脂複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からロボットや搬送装置には、軽量で強度を十分有する産業用梁構造部材が使用されており、この種の産業用梁構造部材として、炭素繊維を含有する炭素繊維強化プラスチックを多層構造に積層してなる産業用梁構造部材が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
この種の産業用梁構造部材、特にロボットや搬送装置などに用いられる産業用梁構造部材には優れた制振性が要求される。すなわち、ロボットや搬送装置などに用いられる産業用梁構造部材の制振性が高くなければ、例えば工場に設置したロボットを用いた場合のリードタイムの短縮化を図れないし、また、搬送装置が停止した時に、搬送装置に取り付けられたセンサの位置検出などを応答良く行うことができないなどの問題が生じるからである。
中でも、宇宙ロケットや人工衛星などの構造部材としてこのような産業用梁構造部材を使用した場合、宇宙空間では周囲に空気がないために振動が収まらないので、特に制振性が高いことは必要不可欠である。また、自動車、新幹線などの高速で移動する移動構造物についても同様に、軽量で且つ高剛性を備えていることに加えて十分な制振性が必要とされている。
【0004】
ところで、CFRPを使った産業用梁構造部材は、軽量で且つ強度の点でも非常に優れている反面、その剛性が高いが故に制振性が不充分であるという課題を抱えていた。すなわち、一旦振動が生じると振動がなかなか収まらず、例えばこれをロボットに利用すると、リードタイムの短縮化が困難になり、又、これを搬送装置に利用すると、応答性のよいセンサ計測を行うことができないなどの課題を抱えていた。また、制振性が低いために、このような産業用梁構造部材を精密機器の構造体に使用すると、精密機械の精度が低下するという課題もあった。
【0005】
そこで、このようなCFRPの課題を解決した制振構造体として、特許文献2及び3には、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート(プリプレグ)を積層し、各層間に粘弾性のプラスチックフィルム又は圧電セラミックスのパウダーを介在させた構造を有するものが開示されている。粘弾性プラスチックフィルム又は圧電セラミックスのパウダーをこのようにプリプレグの各層間に介在させることで、振動が起こったときにこのプラスチックフィルム自体の有する粘弾性によってその部分にずれが生じて振動を効率的に吸収することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−216215号公報(2−4頁、図1)
【特許文献2】特開2003−118038号公報
【特許文献3】特開2005−150510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2及び3に開示されているように、制振性を高めるために、プリプレグ間に従来の粘弾性プラスチックフィルムを介在させたのみでは、接着性が不足して強度が低下する傾向があった。また、プリプレグ間に圧電セラミックスパウダーを介在させた場合には、毒性や環境への負荷が大きくて実用性の点で問題であった。
【0008】
そこで本発明は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を主材とする樹脂複合材に関し、制振性に優れており、しかも強度に優れ、さらには毒性や環境への負荷が小さくて実用性に富んだ樹脂複合材を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題に鑑みて、本発明は、炭素繊維強化プラスチック内部に、樹脂フィルムを封じてなる構成を備えた樹脂複合材であって、前記樹脂フィルムが、引っ張り弾性E’が1×10Pa〜5×10Paで、且つ損失正接tanδが5×10−2〜1×10であることを特徴とする樹脂複合材を提案するものである。
【0010】
このような樹脂複合材であれば、制振性に優れており、しかも強度に優れ、毒性や環境への負荷も小さくて実用性に富んだ樹脂複合材であるから、梁構造部材等として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<本樹脂複合材>
本実施形態に係る樹脂複合材(以下「本樹脂複合材」という)は、炭素繊維強化プラスチック(「CFRP」という)内部に、樹脂フィルムを封じてなる構成を備えた樹脂複合材である。
ここで、「複合材」とは、材質の異なる材料を組み合わせて一体化したものであり、「樹脂複合材」とは、その一種類が樹脂である複合材の意味である。
【0013】
(CFRP)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、強化繊維と、マトリックス樹脂(以下「CFRPのプラスチック」ともいう)とからなる樹脂複合材であればよい。炭素繊維とプラスチックとが複合一体化してなるものであれば、その複合化手段は任意であり、現在公知のものを採用することができる。
例えば炭素繊維とプラスチックとを複合化する方法として、細かく切断した繊維をプラスチック中に均一に混入させる方法や、繊維に方向性を持たせたままプラスチックに浸潤させる方法などを挙げることができる。但し、これに限定されるものではない。
より具体的には、プラスチック中に炭素繊維を含浸させた薄いシート状の含浸体からなるプリプレグを作製しておき、このプリプレグを積層して加熱溶融一体化しなる構成の樹脂複合材を挙げることができる。
【0014】
炭素繊維としては、例えばポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系)、レーヨン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、あるいはポリビニルアルコール系炭素繊維等の前駆体繊維を使用することができる。中でも、アクリルニトリル重合体あるいはその共重合体から得られるポリアクリロニトリル系炭素繊維(「PAN系炭素繊維」)およびピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0015】
他方、マトリックス樹脂としては、エポキシ、不飽和ポリエステル、フェノール、ビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、メラミン、マレイミド、ポリイミド等の重合・硬化型やポリオレフィン、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポミアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂のうちの一種類、或いはこれらのうちの二種類以上の混合樹脂を挙げることができる。
【0016】
以上の中でも、ピッチ系炭素繊維と、エポキシ樹脂とからなる炭素繊維強化プラスチックが、剛性、耐熱性、加工性などの面で好適である。
【0017】
(樹脂フィルムをCFRP内部に封じてなる構成)
CFRP内部に樹脂フィルムを封じてなる構成とは、樹脂フィルムの周囲がCFRPに覆われていて樹脂フィルム端面が露出していない状態、或いは、一部の樹脂フィルム端面が露出している状態を包含する意である。但し、反り、曲げ、たわみの方向の樹脂フィルム端面は少なくとも覆われている必要がある。
【0018】
CFRP内部に樹脂フィルムを封じてなる構成としては、例えばプラスチック中に炭素繊維を含浸させた薄い含浸体からなるプリプレグを積層する際に、該プリプレグより一回り小さい樹脂フィルムをプリプレグ層間に挟み込み、プリプレグの硬化乃至積層一体化の過程で同時に樹脂フィルムを封じてなる構成を挙げることができる。この際、CFRPの加熱溶融一体化と同時に、CFRPと樹脂フィルムとを複合化する場合には、熱プレスなどの汎用の成形方法を利用することができる。
但し、必ずしもこのような方法に限定されるものではなく、形態、大きさ、制振性の必要な部位・方向などにより同様の類似の方式を採用することができる。例えば、CFRP内部に樹脂を注入したり、プリプレグ表面に樹脂をコーティングしたりして、樹脂を封じ込めることもできる。
なお、樹脂フィルムは、FRPに溶解するのは制振性を損ねて好ましくない。
【0019】
樹脂フィルムは、制振性を高める観点からは、CFRP表面により近い領域に配置するのが好ましい。例えばプリプレグを複数枚積層する場合であれば、表裏面から一枚目と二枚目の間に樹脂フィルムを積層するのが好ましい。また、表面からの深さで言えば、CFRP表面から厚さ方向0.01mm〜1mmの深さに樹脂フィルムを配置するのが効果的である。但し、他の特性、例えば強度、反りなどの変形程度などとのバランスから適宜調整するのが好ましい。また、樹脂フィルムの形状、使用方法などにより、特に振動の大きいところに局所的に配置するのが好ましい場合もある。
【0020】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルムとしては、引っ張り弾性率E’が1×10Pa〜5×10Paであり、且つ損失正接tanδが5×10−2〜1×10からなる樹脂フィルムを用いることが重要である。
樹脂フィルムの引っ張り弾性率E’が1×10Pa以上であれば、変形し難くハンドリング性および加工性が良好であり、5×10Pa以下であれば、制振性を損ねることがなくて好ましい。
他方、樹脂フィルムの損失正接tanδが5×10−2以上であれば、制振性を損ねることがなくて好ましい一方、1×10以下であれば、変形し難くハンドリング性および加工性が良好であり好ましい。
なお、引っ張り弾性率E’及び損失正接tanδは、樹脂フィルムを引っ張り法で10Hz周期で微小変位を伸縮させることにより測定される応力から求められる20℃における測定値及び計算値である。
【0021】
加工性を損ねないように、高弾性材料の無機系充填材などを加えてもよいが、制振性には大きな影響しないものの成形性や強度低下を招く可能性があるため好ましくない。
【0022】
樹脂フィルムに用いることができる樹脂の種類としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化樹脂、コーティング用樹脂などの加工様式や組成面など、特に制限なく使用することができる。具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体又は共重合体等のポリオレフィン(PO)系樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリスチレン(PS)、ABS、SBS等のポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、共重合アクリル等のアクリル系樹脂、ポリウレタン(PU)系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド(PA)系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレンパーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル三元共重合体(EPE)等のフッ素系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂などを挙げることができ、これらのうちの1種類或いは2種類以上の混合樹脂を挙げることができる。
【0023】
制振性、加工性、ハンドリング性、CFRP接着性、毒性や環境への負荷の小さい実用性などの面から、エチレン酢酸ビニル共重合体系の樹脂からなるフィルムを用いるのが特に好ましい。このエチレン酢酸ビニル共重合体系の樹脂からなるフィルムは、押出、インフレーションなどの熱成形加工法により容易に得ることができる。
エチレン酢酸ビニル共重合体系の樹脂は、接着性や耐熱性、加工性などをさらに改良するため、他の樹脂を共重合したり、添加剤を加えたりすることが可能である。
ここで、上記の共重合体としては、例えば酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタアクリル酸、スチレン、グリシジルアクリレート等のビニル化合物との共重合体や、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基、アミノ基、チオール等の官能基が付与された誘導体でグラフト共重合体を挙げることができる。
また、上記の添加剤としては、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば耐熱安定剤、耐候安定剤、滑剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、核剤、流滴剤、防曇剤、帯電防止剤、架橋剤、顔料、染料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク等の無機質充填材等公知の配合剤を挙げることができる。
なお、本発明における「エチレン酢酸ビニル共重合体系の樹脂」とは、上記の共重合体、誘導体、グラフト共重合体等を含むものである。
【0024】
樹脂フィルムは、CFRPのプラスチックと異種であるのが好ましく、分子量は5000以上であるのが好ましい。
樹脂フィルムの厚さは、用途によって異なるが、CFRPの全体厚さに対して0.05〜50%であるのが好ましい。
【0025】
(形態)
本樹脂複合材は、シート状、板状、パイプ状(丸パイプ状、角パイプ状)、中実棒状、ハニカム状など、用途に応じて任意の形状に成形して提供することができる。
この際の成形方法の一例として、例えば型に繊維骨材を敷き、硬化剤を混合した樹脂を脱泡しながら多重積層してゆくハンドレイアップ法やスプレーアップ法のほか、あらかじめ骨材と樹脂を混合したシート状のものを金型で圧縮成型するSMCプレス法、インジェクション成形の様に繊維を敷き詰めた合わせ型に樹脂を注入するRTM法、繊維とマトリクス(接着剤)を予め馴染ませてある部材(プリプレグなど)を大型の窯(オートクレーブ)で焼き固める方法などを挙げることができる。
【0026】
(梁構造部材)
本樹脂複合材は、制振性に優れているばかりか、強度に優れ、さらには毒性や環境への負荷の小さくて実用性に富んでいるため、梁構造部材、例えばロボットや搬送装置に使用する制振性産業用梁構造部材として好適に用いることができる。例えば、スマートコンポジット(異種材料の組合せ)を可能としながら制振性に優れたロボットアームを作製することができる。
なお、ロボットは、タスク上の工程中、ハンドリングを24時間中何サイクルも行うものであるから、本樹脂複合材からなる制振性産業用梁構造部材をロボットのアームに適用することで、サイクル時間の短縮化を計り、生産能力を向上させることができる。
【0027】
次に、本樹脂複合材の利用例として、本樹脂複合材からなる制振性産業用梁構造部材(以下「本制振性産業用梁構造部材」という)の応用例について説明する。
【0028】
本制振性産業用梁構造部材は、直交座標系ロボットの両持ち梁構造の支持フレームに適用することができる。この際、ロボットの各支持フレームの何れか又は全てに、本制振性産業用梁構造部材を使用することが可能である。この適用により、ロボットハンドの停止後、支持フレームの振動を素早く制振させることができるので、ロボットハンドの動作速度を高めてリードタイムの短縮化を図ることができる。
また、片持ち梁構造の直交座標系ロボットの支持フレームに本制振性産業用梁構造部材を適用しても、同様の制振効果によりリードタイムの短縮化を図ることができる。
以上のように、片持ち、両持ちの支持構造を有する直交構造式機械に本制振性産業用梁構造部材を使用した場合、振動低減効果によって構造体の位置精度の向上及びリード及びタスクタイム短縮による生産能力の向上に貢献するとともに、制振システムに対するメンテナンスフリーを実現できるようになる。
【0029】
本制振性産業用梁構造部材は、回転式多関節型ロボットの支持部に用いることもできる。例えば片持ちハンドタイプのロボットにおいて、回転支柱部と片持ちハンド部とに本制振性産業用梁構造部材を使用することで、ロボットが停止した後にハンド等の慣性重量で振動が生じても、振動を素早く抑えることができる。すなわち、多軸回転移動を行う装置上での振動低減効果により、構造体の位置精度の向上及びリードタイム及びタスクタイムを短縮し、生産能力の向上に貢献するとともに、制振システムに対するメンテナンスフリーを実現することができる。
このように回転運動や直線運動を行う機械上で振動低減による効果により、構造体の位置精度の向上及びリードタイム及びタスクタイムの短縮による生産能力の向上を図ることができる。
なお、制振性産業用梁構造部材の断面形状は丸パイプ状又は角パイプ状であってもよく、断面の大きさが徐々に変化するようなものであってもよい。なお、支持部は、板状部材又はハニカム板でも構わない。
【0030】
ロボットの片持ちハンド部に本制振性産業用梁構造部材を用いることもできる。これによって、制振効果による位置精度の向上を図ることができる。すなわち、片持式の搬送または計測用構造においても、前述した機械との組合せによる制振を伴った移動を可能とし、又は制振を伴った単独での固定も可能とすることができる。そして、振動低減による効果により構造体の位置精度の向上及びリードタイム及びタスクタイムの短縮による生産能力の向上に貢献するとともに、制振システムに対するメンテナンスフリーを可能とすることができる。また、搬送用ではワークに対して、計測用では取付機器が振動から受けるダメージを軽減することができる。
【0031】
本制振性産業用梁構造部材をローラ式搬送装置のローラに適用することもできる。このように本制振性産業用梁構造部材をローラ式搬送装置のローラに適用することで、ローラの回転に伴う振動を素早く抑えることができるので、産業用機械において搬送物の振動制止に基づく工程短縮によって搬送能力が向上し、搬送物が振動から受けるダメージを軽減することができる。
なお、この場合の制振性産業用梁構造部材の断面形状は丸パイプであるのが好ましい。
【0032】
その他、本制振性産業用梁構造部材は、産業用機械全般に適用可能である。そして、PAN系、ピッチ系及びこれらの複合したカーボン繊維強化スマートコンポジット化による制振構造システムを達成することができ、その適用範囲は稼動部への適用、固定部への適用の如何を問わない。
【0033】
本制振性産業用梁構造部材は、軽量、高剛性に加えて、優れた制振性を有しているばかりか、本制振性産業用梁構造部材自体が制振性を有していることで、メンテナンスフリーとすることができる。すなわち、一旦制振性産業用梁構造部材を作れば、その後に特別な制振構造の構成要素を加える必要がない。具体的には、制振性を保つためにダンパーや防振ゴムを特別に加える必要がない。そして、このようなすぐれた制振性を有していることで、本制振性産業用梁構造部材を、例えばロボットの構造部材として使用したときにはリードタイムの短縮に貢献する。すなわち、製造サイクルの短縮をはかることができ、ロボットや自動機、搬送装置に適用した場合の効果を大きくすることができる。
【0034】
[用語の説明]
本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
また、本発明において、「X以上」(Xは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、特にことわらない限り、「好ましくはYより小さい」の意を包含するものとする。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。まず、実施例、及び、比較例における物性値の測定・評価方法を以下に示す。
【0036】
[物性値の測定・評価方法]
<制振性>
幅10mm、長さ270mmのサンプルを切り出し、片端固定(片持ち梁)方式で片側50mmを固定して、JIS G 0602に準拠して減衰による振幅の半減時間を測定した。
制振性の評価は、室温で液状のエポキシ樹脂とピッチ系炭素繊維からなるCFRP(比較例1)の半減時間(947ms)を基準とし、当該基準値と対比して次のように評価した。
なお、比較例1の半減時間(947ms)は、実用的に好ましいとは評価できない値であった。
【0037】
○:基準する振幅の半減時間(947ms)の60%未満
△:同60%以上80%未満
×:同80%以上
【0038】
<接着性>
JIS K 7078に準拠して、層間せん断強度(ILSS)を測定した。
接着性の評価は、室温で液状のエポキシ樹脂とピッチ系炭素繊維からなるCFRP(比較例1)における層間せん断強度の値(71MPa)を基準とし、当該基準値と対比して次のように評価した。
なお、比較例1の層間せん断強度の値(71MPa)は、実用的に好ましいと評価できる値であった。
【0039】
○:基準とする層間せん断強度の値(71MPa)の80%以上
△:同60%以上80%未満
×:同60%未満
【0040】
<環境負荷性>
環境負荷性の評価は、次のように鉛の有無によって判定を行った。ちなみに、比較例1は○との評価であった。
【0041】
○:鉛が入っていない。
×:鉛が入っている。
【0042】
<ハンドリング性>
各樹脂複合材の製造において、樹脂フィルム同士、或いは樹脂フィルムとプリプレグとを積層した際に、位置合わせの修正容易性、言い換えれば自着性の低さを次の基準で評価判定を行った。
【0043】
○:樹脂フィルム同士は自着せず、容易に修正できた。
△:樹脂フィルム同士は自着するが、フィルムを変形させないよう注意して剥がせば容易に修正できた。
×:樹脂フィルム同士が自着し、修正に手間がかかる乃至修正が著しく困難であった。
【0044】
(比較例1)
室温で液状のエポキシ樹脂中に、ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製ダイアリードK63712)を含浸させてなる厚さ0.3mmプリプレグ(FAW:340g/m,RC:35%,CPT=0.3mm)を6枚準備し、プリプレグ6枚を積層して樹脂複合材とした。
この樹脂複合材を120℃にて熱プレスすることにより、加熱溶融一体化並びにCFRPのプラスチック(エポキシ樹脂)の硬化を行い、厚さ1.8mmのCFRP板(サンプル)を得た。
このようにして得られた樹脂複合材としてのCFRP板について、制振性、接着性、環境負荷性、ハンドリング性を上記要領で評価し、結果を表1に示した。
【0045】
(実施例1)
室温で液状のエポキシ樹脂中に、ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製ダイアリードK63712)を含浸させてなる厚さ0.3mm、幅10mm、長さ270mmのプリプレグ(a)(FAW:340g/m,RC:35%,CPT=0.3mm)6枚と、
エチレン酢酸ビニル共重合体にトリアリルイソシアヌレートが10質量%添加されてなる、厚さ0.4mmに製膜された幅7mm、長さ260mmの樹脂フィルム(a)2枚と、を準備した。
上から1枚目と2枚目、5枚目と6枚目のプリプレグ(a)間に樹脂フィルム(a)がそれぞれ挟まり、且つ、幅・長手ともにプリプレグ(a)内部に封じられるように、6枚のプリプレグ(a)及び樹脂フィルム(a)を積層し、樹脂複合材として仮積層材(a)を得た。
上記の如く得られた仮積層材(a)を120℃にて熱プレスすることにより、加熱溶融一体化、並びにCFRPのプラスチック(エポキシ樹脂)の硬化を行い、樹脂フィルムを炭素繊維強化プラスチック内部に封じて、厚さ2.6mmの樹脂複合材(サンプル)を得た。
このようにして得られた樹脂複合材(サンプル)について、比較例1と同様に制振性、接着性、環境負荷性を評価し、結果を表1に示した。
【0046】
また、室温で液状のエポキシ樹脂中に、ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂製ダイアリードK63712)を含浸させてなる厚さ0.3mm、幅10mm、長さ13mmのプリプレグ(b)(FAW:340g/m,RC:35%,CPT=0.3mm)6枚と、
エチレン酢酸ビニル共重合体にトリアリルイソシアヌレートが10質量%添加されてなる、厚さ0.4mmに製膜された幅7mm、長さ10mmの樹脂フィルム(b)2枚と、を準備した。
上から1枚目と2枚目、5枚目と6枚目のプリプレグ(b)間に樹脂フィルム(b)がそれぞれ挟まり、且つ、幅・長手ともにプリプレグ(b)内部に封じられるように、6枚のプリプレグ(b)及び樹脂フィルム(b)を積層し、樹脂複合材として仮積層材(b)を得た。
上記の如く得られた仮積層材(b)を120℃にて熱プレスすることにより、加熱溶融一体化、並びにCFRPのプラスチック(エポキシ樹脂)の硬化を行い、樹脂フィルムを炭素繊維強化プラスチック内部に封じて、厚さ2.6mmの樹脂複合材(サンプル)を得た。
このようにして得られた樹脂複合材(サンプル)について、ハンドリング性を評価し、結果を表1に示した。
【0047】
なお、樹脂フィルム(a)(b)はいずれも、引っ張り弾性率E'が3×10Paであり、損失正接tanδが7×10−2であった。
この際、引っ張り弾性率E'、損失正接tanδは、樹脂フィルムを引っ張り法で10Hz周期で微小変位を伸縮させることにより測定される応力から求められる20℃における測定値、計算値である。
【0048】
(実施例2)
樹脂フィルム(a)として、エチレン酢酸ビニルグリシジルメタクリレート共重合体からなる、厚さ0.02mmに製膜された幅7mm、長さ260mmの樹脂フィルムを準備して使用し、また、樹脂フィルム(b)として、エチレン酢酸ビニルグリシジルメタクリレート共重合体からなる、厚さ0.02mmに製膜された幅7mm、長さ10mmの樹脂フィルムを準備して使用した以外、実施例1と同様にして樹脂複合材(サンプル)を得た。
得られた樹脂複合材(サンプル)について、比較例1と同様に制振性、接着性、環境負荷性、ハンドリング性を評価し、結果を表1に示した。
この際用いた樹脂フィルム(a)(b)はいずれも、引っ張り弾性率E'が1×10Paであり、損失正接tanδが2×10−1であった。
【0049】
(実施例3)
樹脂フィルム(a)として、エチレン酢酸ビニルグリシジルメタクリレート共重合体から成膜されてなる、厚さ0.02mm、幅10mm、長さ260mmの樹脂フィルムを準備して使用し、また、樹脂フィルム(b)として、エチレン酢酸ビニルグリシジルメタクリレート共重合体から成膜されてなる、厚さ0.02mm、幅10mm、長さ10mmの樹脂フィルムを準備して使用した以外、実施例1と同様にして樹脂複合材(サンプル)を得た。
得られた樹脂複合材(サンプル)について、比較例1と同様に制振性、接着性、環境負荷性、ハンドリング性を評価し、結果を表1に示した。
この際用いた樹脂フィルム(a)(b)はいずれも、引っ張り弾性率E'が1×10Paであり、損失正接tanδが2×10−1であった。
【0050】
(比較例2)
樹脂フィルム(a)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量1000以下の液状エポキシを40%、イミダゾ−ルを3%含む)からなる、厚さ0.1mmに製膜された幅7mm、長さ260mmの樹脂フィルムを準備して使用し、
また、樹脂フィルム(b)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量1000以下の液状エポキシを40%、イミダゾ−ルを3%含む)からなる、厚さ0.1mmに製膜された幅7mm、長さ10mmの樹脂フィルムを準備して使用した以外、実施例1と同様にして樹脂複合材(サンプル)を得た。
得られた樹脂複合材(サンプル)について、比較例1と同様に制振性、接着性、環境負荷性、ハンドリング性を評価し、結果を表1に示した。
この際用いた樹脂フィルム(a)(b)はいずれも、引っ張り弾性率E'が1×10Pa未満(測定不可)であり、損失正接tanδは測定不可(「−」)であった。
【0051】
(比較例3)
比較例1と同様にプリプレグを6枚準備し、上から1枚目と2枚目、5枚目と6枚目のプリプレグ間にPZT粒子が挟まるように、粒径1μmのPZT粒子を、2枚目と6枚目のプリプレグ上に14g/m2の割合で均等に振り撒き、これら6枚のプリプレグを積層して樹脂複合材と得た。
この樹脂複合材を120℃にて熱プレスすることによって、加熱溶融一体化並びにCFRPのプラスチック(エポキシ樹脂)の硬化とPZT粒子のCFRPのプラスチックへの分散を行い、樹脂複合材として厚さ1.8mmのCFRP板(サンプル)を得た。
得られた樹脂複合材(サンプル)について、比較例1と同様に制振性、接着性、環境負荷性、ハンドリング性を評価し、結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
この結果は、炭素繊維強化プラスチック内部に、所定範囲の引っ張り弾性E’と損失正接tanδとを備えた樹脂フィルムを封じて樹脂複合材を製造することにより、制振性、接着性及びハンドリング性を高めることができることを示している。
また、炭素繊維強化プラスチック内部に封じる樹脂フィルムは、ここに示した実施例とこれまでの試験の結果などから、引っ張り弾性E’が1×10Pa〜5×10Paで、且つ損失正接tanδが5×10−2〜1×10であることが重要であることが分かっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチック内部に、樹脂フィルムを封じてなる構成を備えた樹脂複合材であって、前記樹脂フィルムが、引っ張り弾性E’が1×10Pa〜5×10Paで、且つ損失正接tanδが5×10−2〜1×10であることを特徴とする樹脂複合材。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、エチレン酢酸ビニル共重合体系の樹脂からなるフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂複合材を用いてなる梁構造部材。

【公開番号】特開2011−11346(P2011−11346A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154743(P2009−154743)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】