説明

橋梁架設工法

【課題】海や河川などの水面上の施工に用いて作業の安全性、効率性、施工性を向上させるとともに、工事用車両の往来を減少させて省エネルギー性、環境保護性に優れた橋梁架設工法を提供する。
【解決手段】両岸に構築された橋台に、片持ち箱桁部をそれぞれ架設し、該箱桁部の上に主桁となる床板部を架設する橋梁の架設工法において、鋼とコンクリートとからなる複合橋台を両岸に構築する工程と、橋台の上部に片持ち箱桁部をトラッククレーン架設する工程と、主桁となる床板部を水上の船へ搬入して施工現場においてリフトアップして回転させて両岸に設けられた前記片持ち箱桁部とそれぞれ連結する工程と、前記片持ち箱桁部と連結された前記床板部を前記橋台の定着部で両岸方向へ引張する工程と、からなる橋梁架設工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の架設工法に関し、特に、橋梁構造の主桁部を工場で組立てて施工現場に効率的に輸送し、現場での工事を簡素化して橋梁架設の工期を最小限にした橋梁架設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海岸の橋梁架設において、対岸に橋台および橋脚を構築し、橋梁を順次架設して継ぎ足していく工法が一般的に採用されている。特に、足場の設置が困難な河川では地上から支保工が施工できない場合ため、この工法が有用であった。この工法によれば橋桁を順次継ぎ足していくことにより架設できるため、地上側に橋脚間全体にわたる支保工の設備が不要であり、河川のみならず橋梁の下方に建造物等がある場合にも施工構築し易いという利点があった。
【0003】
従来の片持式架設工法としては、箱桁ブロックを地上で構築してから橋脚あるいは箱桁ブロックの端部に配置していく方法、または、橋脚あるいは箱桁ブロックの端部の空中で新たな箱桁ブロックを製作していく方法が知られている。
特開2001−348815号では、橋桁ブロックの製作場所と施工現場とが離れることによる運搬作業の問題や作業時間と設備コストの問題を解決する為に、橋脚上で簡単に施工できる効率的な片持式架設工法が開示されている。
【0004】
しかし、橋梁の作業現場では、外部環境による影響が作業に現れやすく、厳しい作業現場での作業を最小限に抑えるために、出来る限り工場で橋梁に必要な組立てを行いたいという要望があった。更に、組み立てられた部位の運搬作業に係る作業時間およびコストの問題を大きく削減できる工法が望まれていた。
【0005】
また、建設分野における構築物の吊り構造の代表的なものとして、架設線材ケーブルにより床組を梁渡した吊り橋構造がある。この吊り橋構造は、軽量で耐力が大きく優れた架設構造であるが、長尺ケーブルの架設精度や定着に高精度な施工管理が要求される。
その為、吊り橋構造においても、軽量で耐久性を保ちながら、より迅速に施工でき、安全性の高く、低コストの架設工法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−348815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するために、海や河川などの水面上の施工に用いて作業の安全性、効率性、施工性を向上させるとともに、工事用車両の往来を減少させて省エネルギー性、環境保護性に優れた橋梁架設工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る橋梁架設工法は、両岸に構築された橋台に、片持ち箱桁部をそれぞれ架設し、該箱桁部の上に主桁となる床板部を架設する橋梁の架設工法であって、鋼とコンクリートとからなる複合橋台を両岸に構築する工程と、橋台の上部に片持ち箱桁部をトラッククレーン架設する工程と、主桁となる床板部を水上の船へ搬入して施工現場においてリフトアップして回転させて両岸に設けられた前記片持ち箱桁部とそれぞれ連結する工程と、前記片持ち箱桁部と連結された前記床板部を前記橋台の定着部で両岸方向へ引張する工程と、からなる橋梁架設工法である。
【0009】
また、前記橋梁架設工法は、更に、前記橋台とともに橋脚を構築する工程と、前記片持ち箱桁部を前記橋脚の上部にトラッククレーン架設する工程と、からなる橋梁架設工法である。
【0010】
更に、前記床板部は、吊り橋用の吊床板部であって、内部に高張力の鋼棒を装備した構成の橋梁架設工法でもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る橋梁架設工法は、上記詳述した通りの構成であるので、以下のような効果がある。
1.地上作業で施工できるものを可能な限り地上において組み立て、材料・部材の運搬を容易にし、工場で組み立てた床板部の部材を河川や海等の水面上を船等の動力を利用して運ぶことで、不必要な吊上げ、吊り下ろし作業を省略でき、現場工事を最小限に抑えて工期を短縮することが出来る。また、作業スペースを極力少なくすることができ、短期間で効率的に橋梁を架設することができる。
箱桁部が片持ち構造であるため架設作業を簡便にしながら強度の高い橋梁とすることができる。また、海・河川領域における支保工を行うことなく地上において効率的に作業を進めることが可能である。
【0012】
2.河川内に橋脚を構築することなく架設することができるので、海・河川環境へ対する影響を最小限に抑えることができる。
3.ワイヤーやケーブルを用いることなく、効率的に軽量で安全性の高い吊り橋を架設することができる。定着部において鋼棒の引張を行う事により、吊り橋のテンションを有した吊り橋構造とすることができる。また、同様に、定着部において引張状態を調節することにより再生工事も容易に行う事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)〜(f)本発明に係る橋梁架設工法の施工工程を示す図。
【図2】本発明に係る橋梁架設工法による橋梁構造の一例を示す断面図。
【図3】本発明に係る橋梁架設工法の実施例である片持ち箱桁部の断面図。
【図4】本発明に係る橋梁架設工法の実施例である床板部の分解斜視図。
【図5】本発明に係る橋梁架設工法のフローチャートを示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る橋梁架設工法を図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。
本発明の橋梁架設工法100による橋梁10は、図2に示すように、橋台20と、片持ち箱桁部30と、床板部40と、からなる。
また、図1(a)〜図1(f)に示すように、本発明の橋梁架設工法100は、橋台を構築する工程110と、片持ち箱桁部を架設する工程120と、床板部を河川内へ搬入し、リフトアップして回転させて片持ち箱桁部30と連結する工程130と、連結された床板部40を橋台20の定着部26で引張する工程140と、からなる。
【0015】
橋台構築工程110は、施工現場において橋台20を構築する工程であり、本発明では橋台20として鋼とコンクリートからなる複合橋台20を橋を架設する両対岸にそれぞれ構築する。構築する橋台は複合構造の強度の高い橋梁構造からなる。
【0016】
橋台20は主桁となる床板部40を片持ち箱桁部30を介して支持する構成であり、お椀型の凹部をもつ円錐台の底部と鋼コンクリート橋台とからなる。橋台20の形状は限定されるものではなく、主桁を支持することの可能な多様な形状の橋台20を用いることが出来る。
本実施例では図1(a)に示すように上部を大きく開いた橋詰広場を備えた円錐台形をした橋台を採用しており、橋台20の上部の空間を遊戯スペースとして使用可能な橋台構造となっている。円錐台の橋台20とする場合、図2に示すように円錐台の側面22に垂直となるように基礎杭24を打つことにより、強度の高い橋台構造とすることが出来る。傾斜底面に装着される基礎杭24aは斜めに対岸方向に向けて地中に打たれており、引張に充分耐えられる構成となっている。
【0017】
片持ち箱桁部架設工程120は、橋台20の上部に片持ち箱桁部30を架設する工程である。本発明では、既に工場等で枠組を組み立てられているプレハブの片持ち梁構造の箱桁部30をトラッククレーンにより橋台20の上に運び上げて架設している。その為工事が簡易であり大幅に施工時間を短縮することが出来る。
【0018】
本実施例では片持ち箱桁部30として、水平方向に断面形状が変化する変断面片持ち箱桁を使用している。床板部40との連結部から片持ち箱桁部30は固定される橋台20の上部で箱桁部30の断面積が最大となるように形成することで軽量でありながら強度の高い構造となっている。本実施例における円錐台形の橋台20に片持ち箱桁部30を固定する場合は、図2に示すように海側または河川側に位置する橋台20a上で片持ち箱桁部30の断面積を最大にして堅固に固定るすことで安全性の高い橋梁構造としている。
【0019】
片持ち箱桁部30は、図3に示すように、上板34と、下板35と、上板および下板を繋ぐ縦リブ36とからなる片持ち箱桁部30の上部に、上板を上下に挟むようにネジフシ鋼棒32を上下二段に並列して装備した構成である。内部に高張力の鋼棒32を装備している為、片持ち箱桁部30と同様に内部に鋼棒42を装備した床板部40と容易に連結可能な構造となっている。ネジフシ鋼棒32の本数を増設することにより強度を高めることができ、更に、図3に示すように隣接するネジフシ鋼棒32を連結することにより更に強度を高めた安定性の高い橋梁とすることができる。
【0020】
搬入連結工程130は、床板部40と片持ち箱桁部30とを連結する工程である。本発明の搬入連結工程130では、船舶により海上または河川から床板部40を搬入し、施工現場において床板部40を船舶上で上方にリフトアップする工法を採用することが可能である(図1(b)および図1(c)参照)。その後、図1(d)に示すように、片持ち箱桁部30と床板部40とが直線状となるように主桁となる床板部40を回転し、橋台20に設けられた片持ち箱桁部30と連結する。
【0021】
床板部40は、本実施例では図4に示すように、鋼棒42とプレート44とにより構成された主桁を構成する部位である。鋼棒42を使用することで、強度が高く軽量な橋梁を構築することが出来る。また、本発明の橋梁架設工法は特に吊り橋の架設に適しており、図2に示す実施例では高張力のネジフシ鋼棒42を使用し、プレート44と組み合わせた構成とした吊り橋用の吊床板部としている。吊り橋用として吊床板部40に高張力の鋼棒42を使用することで安全性の高く揺れを体感し易い吊り橋に最適な構造となっている。
【0022】
本実施例では、床板部40のネジフシ鋼棒42と、片持ち箱桁部30のネジフシ鋼棒32を連結することで強固に一体的に形成可能な構造となっている。
【0023】
引張工程140は、主桁となる片持ち箱桁部30と連結された床板部40にテンションをかける工程である。本発明では、主桁にテンションをかけて橋台20上部で定着する。本実施例では片持ち箱桁部30および床板部40が鋼棒32、42から構成されているため、軽量であり、テンション構造により主桁に適度な引張を持たせて吊り橋における揺れを実現する事が出来る。
【0024】
また、本発明の別の実施例に係る橋梁架設工法100は、上記工程に加えて、更に、橋脚50を構築する工程112と、片持ち箱桁部30を橋脚50の上部に架設する工程122とからなる橋梁架設工法である。
【0025】
橋脚構築工程112は、施工現場において海または河川の岸部に橋脚50を構築する工程であり、橋脚50は海または河川近辺の対岸に対になるように設けられる。必要に応じて複数の橋脚50を設置することが可能である。橋脚50の構造は限定されないが、図2に示す本実施例では、橋脚50として基礎として中堀り鋼管杭を用いた壁式橋脚を用いている。
【0026】
片持ち箱桁部の架設工程122は、橋脚構築工程112により構築された橋脚50の上部に片持ち箱桁部30を架設する工程であり、海または河川に近接した橋脚50の上部にトラッククレーンにより片持ち箱桁部30を架設する。
橋脚50を構築する場合、片持ち箱桁部30の変断面が橋脚50の上部で最大面積となるように架設される。
【0027】
その後、床板部40と片持ち箱桁部30の搬入連結工程130により、海上または河川内から搬入された床板部40を施工現場において船舶上でリフトアップし、図1(d)に示すように床板部40を回転して、橋脚50から突き出た片持ち箱桁部30と連結する。本実施例では、床板部40が鋼棒42とプレート44とからなり、鋼棒42を片持ち箱桁部30に設けられた床板部40と同じ材質の鋼棒32と連結部材で連結することにより堅固に片持ち箱桁部30と連結する構造である。
床板部40を海または河川を利用して運搬することができ、現場で必要最低限の施工を行う事で周囲環境による影響を最小限に抑えることができ、効率よく経済的に架設を行うことが出来る。
【0028】
連結された床板部40を含む主桁は、橋台20上部の定着部26で鋼棒32、42にテンションをかけて引張する。鉄筋の引張工程140により床板部40の橋梁中央部位における最大撓み量を調節可能な構造である。
本発明によって架設される吊り橋は、経年による撓み量の増加についても定着部26において高張力の鋼棒の引張を行うことにより容易に再生を行う事が出来る。
【0029】
更に、本実施例では、構築された主桁に欄干60を設ける事で安全性の高い橋梁構造としている。欄干60は、吊り橋上を歩く歩行者の安全に加えて、床板部40とともに主桁を構成して振動を制御する機能を果たしている。図4に示す本実施例では、欄干60の欄干壁62を鋼とガラスと樹脂とから構成される耐震壁によって構成しており、揺れを制御する構造となっている。
【0030】
本発明に係る橋梁架設工法は、片持ち箱桁部30をトラッククレーン架設により陸上で簡易に組み立てることが可能であり、工場で組み立てた床板部40の部材を海または河川を船舶等の動力を利用して運ぶことで、橋梁の施工現場での工事を最小限に抑え、工期を短縮することが可能であり、コストを抑えることが可能である。また、広い施工現場を確保できない橋梁設置箇所でも充分に対応することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 橋梁
20 橋台
22 橋台側面
24 基礎杭
26 定着部
30 片持ち箱桁部
32,42 鋼棒
34 上板
35 下板
36 縦リブ
40 床板部
44 プレート
50 橋脚
60 欄干
62 欄干壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両岸に構築された橋台に、片持ち箱桁部をそれぞれ架設し、該箱桁部の上に主桁となる床板部を架設する橋梁の架設工法において、
鋼とコンクリートとからなる複合橋台を両岸に構築する工程と、
橋台の上部に片持ち箱桁部をトラッククレーン架設する工程と、
主桁となる床板部を水上の船へ搬入して施工現場においてリフトアップして回転させて両岸に設けられた前記片持ち箱桁部とそれぞれ連結する工程と、
前記片持ち箱桁部と連結された前記床板部を前記橋台の定着部で両岸方向へ引張する工程と、からなることを特徴とする橋梁架設工法。
【請求項2】
前記橋梁架設工法は、更に、
前記橋台とともに橋脚を構築する工程と、
前記片持ち箱桁部を前記橋脚の上部にトラッククレーン架設する工程と、からなることを特徴とする請求項1記載の橋梁架設工法。
【請求項3】
前記床板部は、吊り橋用の吊床板部であって、内部に高張力の鋼棒を装備した構成であることを特徴とする請求項1又は2記載の橋梁架設工法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−6945(P2011−6945A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152317(P2009−152317)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会 平和大橋歩道橋デザイン提案競技 主催者 広島市平和大橋歩道橋デザイン提案競技選考委員会 開催日 2009年1月29日〜2月3日 2009年3月4日
【出願人】(000133663)株式会社TIS&PARTNERS (6)
【出願人】(393003505)復建調査設計株式会社 (13)
【Fターム(参考)】