説明

機械可動部の加減速制御方法

【課題】1つの移動指令での移動中において、モータの位置に応じて加速度を変更して加減速制御できる加減速制御方法を得る。
【解決手段】移動指令による目標位置までの移動中のモータの位置(0〜P(0)、P(0)〜P(1)、P(1)以上)に対応する加速度(a(0)、a(1)、a(2))を加速度パターンとして予め制御装置に設定しておく。モータ駆動中、前記加速度パターンに基づいて、モータの位置に応じて加速度を変更し加減速制御して速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータによって位置、速度が制御される機械の可動部の加減速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械等の各種機械においては、機械の可動部をサーボモータで駆動し、該サーボモータの速度、位置を制御することによって、可動部の位置、速度を制御している。
この可動部の位置、速度の制御には、数値制御装置等の制御装置によって、可動部が移動開始する始点から終点までの移動距離と設定速度に基づいて、加減速制御して所定周期毎の移動指令を生成し、該移動指令でサーボモータを駆動し、可動部を駆動制御している。この加減速制御は一般に、設定された時定数に基づいて、速度を指令速度まで加速し、又、減速停止させる制御が行われている。
【0003】
又、設定された時定数により決まる一定の加速度で速度制御するのではなく、加速度を変化させてモータの速度を制御する方法として、機械の摩擦、重力値、モータの出力トルク性能等によって決まる出力可能な加速度を速度の関数で表した制限加速度曲線を求め、該制限加速度曲線に一致又は近似するように速度―加速度曲線を設定し、該速度―加速度曲線に基づいて、速度に応じた加速度でモータの速度を制御する方式が公知である(特許文献1参照)。
【0004】
さらに、ロボットの各関節軸の駆動制御において、関節軸の座標値に対する加減速度をテーブルに記憶しておき、移動開始時に、移動始点で関節軸の始点座標値と目標位置から関節軸の終点座標値に対応する加速度をテーブルより求めて、始点での加速度、終点での減速度として設定し、さらに、各関節軸の設定加速度、減速度の中から最小の加速度、減速度を選択して、速度を制御するようにした発明も知られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、溶融樹脂を金型内に射出するスクリュ等の可動部をモータで駆動する電動式射出成形機においては、射出工程をスクリュ位置に応じて複数の段数に区分して各段の射出速度(モータ回転速度)を変えて射出を行う方法がとられており、この場合、金型内を流れる樹脂の速度を制御するため、樹脂の粘性、金型形状、金型内における樹脂の充填状態に応じて射出速度の急激な変化を避けることが必要なことから、各段の速度や次段への速度に切り替わるときの加速度を各段毎に設定し、各段の加速、減速時の加速度を変えるようにして、例えば、樹脂が成形品のゲートを流れる場合には急激に減速し、樹脂がゲートから製品部に入る際にはゆっくり加速し樹脂の流れが乱れることがないようにする成形方法が知られている。
【0006】
また、モータと機械可動部の間にトルクや速度を増幅する機構を設けて、機械可動部を、これら機構を介して駆動する方式も一般的である。例えば、電動式射出成形機や電動式プレス機械等の産業機械では、モータの回転力をトグル機構・クランク機構などの増幅機構を使用して増速して使用することが多い。
【0007】
【特許文献1】特開2002−132349号公報
【特許文献2】特開平4−352013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
トグル機構・クランク機構等の速度増幅機構を使用した場合、可動部を駆動するモータの速度より可動部の速度が速くなり、機械動作サイクル時間の短縮効果が図れる。しかし、速度増幅機構の位置によっては可動部の速度変動が大きくなるという問題があり、モータの回転速度が一定でも速度増幅機構の位置によって、可動部の速度が急激に増加したり、急激に減少したり、速度が大きく変動し、大きな加速度が発生する。そのため、可動部に対して最適な速度制御を行うには、モータの位置(速度増幅機構の位置)に応じて加速度や速度を変化させる必要がある。
【0009】
上述した特許文献1に記載された発明は、速度の関数として加速度を設定するものである。又、射出成形機における射出工程の速度制御の例や特許文献2に記載された発明では、位置によって加速度を変えるものであるが、各移動指令毎に加速度を変更して速度制御を行うものである。移動位置を複数の移動指令に区分し、各移動指令による移動開始と終了時点での加速度を制御するものであるから、複数の移動指令に分ける必要がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、一つの移動指令での移動中において、モータの位置に応じて加速度を変更できる加減速制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、制御装置からの移動指令に基づいて機械の可動部をサーボモータによって駆動制御し、可動部の位置、速度を制御する加減速制御方法であって、前記移動指令による目標位置までの移動中のサーボモータの位置に対応する加速度を加速度パターンとして予め前記制御装置に設定しておき、サーボモータ駆動中、前記加速度パターンに基づいて、サーボモータの位置に応じて加速度を変更し速度を制御する機械可動部の加減速制御方法である。
前記加速度パターンの設定は、サーボモータの位置に対応する加速度がテーブルに設定記憶される態様と、位置に対応する加速度の関係を示す関数を設定する態様がある。
【0012】
又、前記加速度パターンは前記機械の可動部の駆動系に用いられる速度増幅機構の速度増幅率から求めるようにした。若しくは、速度増幅機構を介して前記サーボモータで駆動される可動部の位置に応じて速度を測定して求めるようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、加速度パターンによって、加速途中、減速途中でも、該加速、減速中の加速度とは異なった加速度で加速、減速を行うことができるので、サーボモータの位置に応じて、最適な加速、減速制御ができる。又、トグル機構やクランク機構等の速度増幅機構を用いている場合には、駆動源のサーボモータの速度、加速度と該速度増幅機構を介して駆動される可動部の速度、加速度が異なることになるが、加速度パターンを設定することによって、可動部の速度、加速度も所望のものに制御することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の機械可動部の加減速制御方法を電動式射出成形機の可動プラテン(可動部)の駆動制御に適用した一例で説明する。
【0015】
図1は、本発明の加減速制御方法を適用した一実施形態としての電動式射出成形機の概要図である。
射出シリンダ1の先端にはノズル部2が取り付けられ、該射出シリンダ1内には、射出スクリュ3が挿通されている。射出スクリュ3には該射出スクリュ3にかかる圧力により樹脂圧力を検出するロードセル等の圧力センサ5が設けられ、該射出スクリュ3は、スクリュ回転用サーボモータM2により、プーリ、ベルト等で構成された伝動手段6を介して回転させられる。又、射出スクリュ3は、射出用サーボモータM1によって、プーリ、ベルト、ボールねじ/ナット機構等の回転運動を直線運動に変換する機構を含む伝動手段7を介して駆動され、該射出スクリュ3の軸方向に移動させられる。なお、符号P1は、サーボモータM1の位置、速度を検出することによって、射出スクリュ3の軸方向の位置、速度を検出する位置・速度検出器であり、符号P2は、サーボモータM2の位置、速度を検出することによって、射出スクリュ3の回転位置、速度を検出する位置・速度検出器である。又、符号4は、射出シリンダ1に樹脂を供給するホッパである。
【0016】
金型11は、固定プラテン8と可動プラテン9に取り付けられ、可動プラテン9とリアプラテン10の間にはトルクや速度を増幅する増幅機構であるトグル機構13が設けられている。又、可動プラテン9には、金型内の成形品を突き出すための突出用サーボモータM3が設けられ、プーリ、ベルト等で構成された伝動手段16を介して金型内に突出ピンを突出させて金型内の成形品を取り出す。又、リアプラテン10には型開閉用サーボモータM4が設けられ、プーリ、ベルト等で構成された伝動手段15を介して、リアプラテン10に回転自在に軸受されたボールネジ14を駆動する。該ボールネジ14は、トグル機構13のクロスヘッド13aに設けられたナットと螺合し、型開閉用サーボモータM4の回転によってボールネジ14が回転することによってナットと一体のクロスヘッド13aが図1において左右に移動し、トグル機構13のリンクを伸縮させて可動プラテン9を移動させ、金型の開閉、型締めを実行する。又、P3、P4は位置・速度検出器であり、サーボモータM3、M4の回転位置、速度が検出される。
【0017】
射出成形機の制御装置30は、数値制御用のマイクロプロセッサであるCNCCPU40、プログラマブルマシンコントローラ用のマイクロプロセッサであるPMCCPU39、及びサーボ制御用のマイクロプロセッサであるサーボCPU37を有し、バス48を介して相互の入出力を選択することにより各マイクロプロセッサ間での情報伝達が行えるようになっている。
【0018】
サーボCPU37には、位置ループ、速度ループ、電流ループの処理を行うサーボ制御専用の制御プログラムを格納したROM35やデータの一時記憶に用いられるRAM36が接続されている。また、サーボCPU37は、A/D(アナログ/デジタル)変換器38を介して射出成形機本体側に設けられた射出圧等の各種圧力を検出する圧力センサ5からの圧力信号を検出できるように接続されている。更に、サーボCPU37には、該CPU37からの指令に基づいて、射出用、スクリュ回転用、製品突出用、型開閉用の各サーボモータM1、M2、M3、M4を駆動するサーボアンプ34、33、32、31が接続され、各サーボモータM1、M2、M3、M4に取付けられた位置・速度検出器P1、P2、P3、P4からの出力がサーボCPU37に帰還されるようになっている。
【0019】
PMCCPU39には射出成形機のシーケンス動作を制御するシーケンスプログラム等を記憶したROM43および演算データの一時記憶等に用いられるRAM44が接続され、CNCCPU40には、射出成形機を全体的に制御する自動運転プログラム等を記憶したROM45および演算データの一時記憶等に用いられるRAM46が接続されている。
【0020】
不揮発性メモリで構成される成形データ保存用RAM41は射出成形作業に関する成形条件と各種設定値、パラメータ、マクロ変数等を記憶する成形データ保存用のメモリである。
【0021】
CRT/MDI(手動データ入力装置)47はCRT表示回路42を介してバス48に接続され、グラフ表示画面や機能メニューの選択および各種データの入力操作等が行えるようになっており、数値データ入力用のテンキーおよび各種のファンクションキー等が設けられている。なお、表示装置としては液晶表示装置を用いたものでもよい。
【0022】
以上の構成により、PMCCPU39が射出成形機全体のシーケンス動作を制御し、CNCCPU40がROM45の運転プログラムや成形データ保存用RAM41に格納された成形条件等に基づいて各軸のサーボモータに対して移動指令の分配を行い、サーボCPU37は各軸に対して分配された移動指令と位置・速度検出器P1、P2、P3、P4で検出された位置および速度のフィードバック信号等に基づいて、従来と同様に位置ループ制御、速度ループ制御さらには電流ループ制御等のサーボ制御を行い、いわゆるディジタルサーボ処理を実行し、各サーボモータM1、M2、M3、M4を駆動制御する。
【0023】
上述した構成は従来の電動式射出成形機の制御装置と変わりはなく、この実施形態は、可動プラテン9を駆動して金型を開閉させる型閉じ工程、型開き工程に本発明の加減速制御方法を適用するものである。又、射出工程にも適用してもよいものである。
【0024】
可動部である可動プラテン9は、トグル機構13を介して型開閉用サーボモータM4で駆動されるものであるから、型開閉用サーボモータM4の速度、加速度と可動プラテン9の移動速度、加速度は比例関係にはなく、異なったものである。一方、可動プラテン9には金型11の可動側が固定されているものであり、この金型11の開閉、型締め動作を制御することが目的であることから、可動プラテン9の位置、速度、加速度を制御する必要がある。
【0025】
この可動プラテン9は、型開閉用サーボモータM4で駆動されるものであるから、可動プラテン9の位置、速度、加速度の制御は型開閉用サーボモータM4の位置、速度、加速度の制御を行うことによって制御されることになる。しかし、型開閉用サーボモータM4と可動プラテン9の位置、速度、加速度は比例関係にないので、型開閉用サーボモータM4を一定の回転速度で回転させたとしても、可動プラテン9の速度、加速度は型開閉用サーボモータM4の位置によって変化する。なお、型開閉用サーボモータM4とクロスヘッド13aは所定の比例関係で動作するので、クロスヘッド13aの位置、速度、加速度が決まれば、型開閉用サーボモータM4の位置、速度、加速度も決まることになる。
【0026】
図2は、トグル機構13のリンクを伸ばしきった状態を示す図であり、図2に示すように、該トグル機構13の各リンク枢着点をQ1、Q2、Q3、Q4、各枢着点間のリンクの長さをL1、L2、L3、L4とする。
図3〜図5は、クロスヘッド13aの位置、速度と可動プラテン9の位置、速度を解析するための説明図である。図3はリンクを伸ばしきった状態のトグル機構13の状態を示し、トグル機構13の構成が決まれば、図3に示すリンクを伸ばしきった状態における、図3に示す各長さL11、L12、角度a、b、cも決まる定数である。又、リアプラテン10からクロスヘッド13aまでの距離XCH0、リアプラテン10から可動プラテン9までの距離XP0も決まる定数である。これら定数の関係は次の関係にある。
L2=√(L112+L122
a=tan-1(L12/L11)
b=sin-1(B/(L1+L3))
c=sin-1((A+L2*sin(a−b))/L4)
XCH0=L2*cos(a−b)−L4*cos(c)
XP0=(L1+L3)*cos(b)
となり、リアプラテン10からクロスヘッド13aまでの距離XCH0、リアプラテン10から可動プラテン9までの距離XP0もトグル機構の構成で決まる定数となる。
【0027】
そこで、トグル機構13のリンクを伸ばしきった図2、図3の状態からクロスヘッド13aをXCHだけ移動させたときの状態を図4に示す。又、各リンクの角度を図4に示すようにψ1〜ψ3とする。
この時のリアプラテン10の位置からクロスヘッド13aまでの距離をYとすると、
Y=XCH0−XCH
となる。
図5は、枢着点Q1と枢着点Q2間のリンク(L2)と可動プラテン9の進行方向の線(図1〜図5における水平線であり、以下この可動プラテン9の進行方向の線を水平線という)とのなす角θ2を求めるための説明図である。クロスヘッド13aの枢着点Q5を水平方向に伸ばしてリアプラテン10の面と交差する点をQ6とすると、点Q1と点Q6間の距離はAであり、点Q6と点Q5の間の距離はYである。点Q1と点Q5を結んだ線と点Q1と点Q2を結んだ線(リンクL2の線)とのなす角をβとすると、点Q1,Q5,Q2で形成される三角形に対して第二余弦定理を適用して該角度βは
β=cos-1((A2+Y2+L22−L42)/(2*L2*√(A2+Y2)))
として求められる。
【0028】
よって、角θ2は以下のようにあらわされる。又、各リンクの角度ψ1〜ψ3も以下のように表される。
θ2=(π/2)−β1−tan-1(Y/A)
ψ2=θ2+a
ψ3=sin-1((L1*sinψ2−B)/L3)
ψ1=sin-1((A−L2*sin(ψ2−a))/L4)
一方、図4に示すように、
クロスヘッド13aからトグル機構13のリンクL4に与えられる力をF1、
該力F1のクロスヘッド移動方向成分をFch、
可動プラテン9がトグル機構13のリンクL3に作用する反力をF3、
反力F3の可動プラテン9の移動方向成分をFp、
リンクL4に係る力F1によってリンクL4とリンクL2の枢着点Q2にかかるリンクL2に対して垂直方向の力をF1’、
リンクL3に係る力F3によってリンクL3とリンクL1の枢着点Q3にかかるリンクL1に対して垂直方向の力をF3’、
とすると、次の関係が成立する。
F3=Fp/cosψ3
F3'=F3*sin(ψ2+ψ3)
F1=Fch/cosψ1
F1'=Fch*sin(ψ1+ψ2-a)
=Fch*sin(ψ1+ψ2-a)/cosψ1
そこで、リアプラテン10にトグル機構13を取り付けた枢着点Q1のまわりのモーメントを考えると、可動プラテン側のモーメントMp、クロスヘッド側のモーメントMchは、次のようになる。
Mp=L1*F3'
Mch=L2*F1'
モーメントはバランスがとれ等しいため、Mp=Mchである。
L1*F3'=L2*F1'
よって、
L1*Fp*sin(ψ2+ψ3)/cosψ3=L2*Fch*sin(ψ1+ψ2-a)/cosψ1
Fch/Fp=(L1*cosψ1*sin(ψ2+ψ3))/(L2*cosψ3*sin(ψ1+ψ2-a))
クロスヘッド13aがΔYch移動したとき可動プラテン9がΔYp移動したとすると、クロスヘッド13aの運動エネルギーは可動プラテン9に伝達されるために、
Fch*ΔYch=Fp*ΔYp
である。
従って、速度増幅率GはΔYp/ΔYchであるから、
G=ΔYp/ΔYch=Fch/Fp
=(L1*cosψ1*sin(ψ2+ψ3))/(L2*cosψ3*sin(ψ1+ψ2-a))
となり、L1、L2、aは既定の定数であり、ψ1〜ψ3はクロスヘッドの移動量(位置)の関数であるから、速度増幅率Gはクロスヘッドの位置の関数である。
【0029】
速度増幅率Gは角度ψ1〜ψ3の関数である。上述したように、角度ψ1、角度ψ3は角度ψ2の関数であり、かつ角度ψ2は角度θ2の関数で、角度θ2はクロスヘッドの位置を表すYの関数である。よって、速度増幅率Gはクロスヘッドの位置、結局はクロスヘッドを駆動する型開閉用サーボモータM4の回転位置の関数である。
【0030】
図6は、クロスヘッド13aの位置に対して、こうして求められた速度増幅率Gと、その速度増幅率の逆数1/Gを加速度パターンとして表した図である。
【0031】
クロスヘッド13aの位置、速度、加速度と型開閉用サーボモータM4の回転位置、速度、加速度は比例関係にあるから、図6において横軸で表されるクロスヘッド13aの位置は縮尺は異なるが型開閉用サーボモータM4の位置とすることができるので、この加速度パターンで型開閉用サーボモータM4の加速度を制御することによって、可動プラテン9の急激な速度変動、大きな加速度を抑制することができる。
【0032】
例えば、型開閉用サーボモータM4が速度Vmで移動しているとき、可動プラテン9は、この速度Vmに速度増幅率GをかけたG*Vmで移動している。この状態で加速度パターンを考慮せず、従来と同じようにΔVmだけ型開閉用サーボモータM4を増速させたとする。この場合、可動プラテン9の速度はG*(Vm+ΔVm)となる。
型開閉用サーボモータM4の速度は、
Vmから(Vm+ΔVm)に変化し、変化量はΔVm、
可動プラテン9の速度は、
G*VmからG*(Vm+ΔVm)に変化し、変化量はG*ΔVm、
となり、型開閉用サーボモータM4がΔVmの速度変化であるにもかかわらず、可動プラテン9はG*ΔVmの速度変化量となり、速度増幅率Gが大きければ大きく変化する。すなわち可動プラテン9の加速度が大きく変化する場合が生じる。
【0033】
一方、加速度パターン(1/G)を用いて型開閉用サーボモータM4を増速させたとすると、
型開閉用サーボモータM4の速度は、
Vmから(Vm+ΔVm/G)に変化し、変化量はΔVm/G、
可動プラテン9の速度は、
G*VmからG*(Vm+ΔVm/G)に変化し、変化量はΔVm、
となり、速度変化量は、意図した変化量ΔVmと等しくなる。すなわち、意図した加速度で可動プラテン9の速度を変化させることができるものとなる。
【0034】
上述した例では、速度増幅率を求めその逆数として加速度パターンを求めたが、単純に型開閉用サーボモータM4又はクロスヘッド13aの位置に対する可動プラテン9の速度を実測して、可動プラテン9の速度パターンとし、この速度パターンの逆数を加速度パターンとしてもよい。ただしこの場合は、単に逆数をとると負になることから、速度を所定量オフセットし、その(速度+オフセット)のパターンの逆数を加速度パターンとする。図7が、この測定速度に基づいて加速度パターンを求めたときの、クロスヘッド13aの位置に対する実測速度のパターンと、(速度+オフセット)のパターンの逆数である加速度パターンを表す図である。
【0035】
こうして求められた型開閉用サーボモータM4(又はクロスヘッド13a)の位置に対する加速度パターン曲線を近似式で近似し、この近似関数に基づいて型開閉用サーボモータM4(又はクロスヘッド13a)の位置に対する加速度を求めて型開閉用サーボモータM4の加速、減速を制御するようにすればよい。
【0036】
本実施形態では、この加速度パターン曲線に対応する型開閉用サーボモータM4の位置に対する加速度を加速度パターンテーブルとしてテーブル形式で設定しておき、この加速度パターンテーブルに基づいて型開閉用サーボモータM4の加速度を制御するようにした。図8は、この加速度パターンテーブルの一例であり、加速度パターン曲線を3つの領域に分けて、各領域の加速度を設定記憶させている。型開閉用サーボモータM4の位置Pが0からP(0)までは加速度をa(0)、位置がP(0)からP(1)までを加速度a(1)、位置P(1)から位置P(2)まで、すなわち位置P(1)を超えたときは加速度をa(2)と設定して、加速度パターン曲線を3つの加速度領域で近似させている。
【0037】
この加速度パターンテーブルに記憶した加速度パターンで型開閉用サーボモータM4を制御したとき、該型開閉用サーボモータM4へ指令される各サンプリング周期(移動指令の分配周期)毎の移動量の例を図9に示す。
移動開始時には、加速度をa(0)で速度を加速し、指令されるサンプリング周期での移動量は、「0」から、サンプリング周期の時間と加速度をa(0)によって求められる移動量が順次増加しながら型開閉用サーボモータM4へ指令されることになる。そして、この加速中に加速度パターンテーブルに設定された加速度をa(0)からa(1)に切り換える加速度切り換え点P(0)に型開閉用サーボモータM4の位置が達すると、加速度をa(1)によって、加速される。そして、この例では、この加速度a(1)で加速して指令された目標速度に達し、サンプリング周期で指令される移動量は一定(指令速度に対応する移動量)となりその後、加速度a(1)で減速が開始され、その減速途中で加速度切り換え点P(1)に型開閉用サーボモータM4の位置が達すると、加速度はa(2)に切り換えられ、指令された目標位置に減速停止させるようサンプリング周期の移動量が求められ指令されることになる。
【0038】
図10は、本実施形態における制御装置(数値制御装置)30のCNCCPU40が実施する加減速制御処理のフローチャートである。このフローチャートと共に図8に示す加速度パターンテーブル、図9に示すサンプリング周期(分配周期)毎の移動量を参照しながら、本実施形態の加減速制御処理について説明する。
【0039】
指令速度Vc、指令位置Peが指令されると、例えば、本実施形態において、型閉じ指令として型締め完了位置が指令位置Pe、型閉じ工程における指令速度Vcが指令される。型開閉用サーボモータM4が駆動され、型閉じ工程が開始されることになる。CNCCPU40は、まず、加速度パターンテーブルより位置、加速度を読み出すポイントを示す指標jを「0」に設定すると共に、現在位置P、速度Vを「0」にセットし(ステップS1)、加速度パターンテーブルより指標jに示される位置に記憶された加速度a(j)(=a(0))を読み出し(ステップS2)、以下ステップS3以降の処理をサンプリング周期(分配周期)毎実行する。
【0040】
指令された目標位置Peから現在位置Pを減じて残り移動量Prを求め(ステップS3)、該残り移動量Prが「0」か判断し(ステップS4)、「0」でなければ、現在速度Vから現在の加速度a(j)で速度が0になるまで減速するのに要する移動量「V2/2a(j)」を求め、該移動量がステップS3で求めた残り移動量Prより大きいか判断する(ステップS5)。残り移動量Prが、現時点での加速度で減速し速度が0となるまでに要する移動量「V2/2a(j)」より小さいときは、ステップS17に移行して減速を開始するが、残り移動量Prが、速度が0となるまでに要する移動量「V2/2a(j)」より大きいときは、ステップS6に移行し加速を行う。最初は、速度Vは「0」であることから、速度が0となるまでに要する移動量は「V2/2a(j)=0」であり、ステップS6に移行し、現在速度Vに現在読み出している加速度a(j)を加算し、加速した速度Vを求める。求めた速度Vが指令速度Vcを超えたか判断し、超えていなければ、ステップS9に移行し、求めた速度Vにサンプリング周期時間sを乗じて、サンプリング周期(分配周期)における移動量ΔP(=V*s)を求め、該移動量ΔPがステップS3で求めた残り移動量Prより大きいか判断し、大きくなければステップS12に移行し、大きければ(ΔP>Prとなるのは、指令位置Peに達する直前のサンプリング周期に発生する)、移動量ΔPを残り移動量Prにセットし(ステップS11)、ステップS12では、この移動量ΔPを移動指令量として型開閉用サーボモータM4のサーボ制御部へ指令する(ステップS12)。
【0041】
そして、現在位置Pにこの指令した移動量ΔPを加算して、現在位置Pを更新する(ステップS13)。更新された現在位置Pが加速度パターンテーブルの指標jの値で示される位置P(j)より大きいか判断し、大きくなければ、ステップS3に戻り、サンプリング周期毎にこのステップS3以下の処理を実行する。
【0042】
図8、図9で示した例で説明すると、最初はj=0、P=0、V=0であり、ステップS2でa(0)の加速度が読み取られ、ステップS6でV=V+a(0)=a(0)の速度が求められ、ステップS9で移動量ΔP=V*s=a(0)*sの移動量が求められ、図9に示すように出力されることになる。速度0より加速度分増加した移動量が1回目のサンプリング周期に出力される。以下ステップS3以降の処理を行い、順次、加速度a(0)分の移動量が順次増加されて、各サンプリング周期毎に出力されることになる。そして、出力した移動量ΔPをステップS13で積算して得られる位置Pが、加速度パターンテーブルに設定されている現在の指標jの値(最初はj=0)の加速度切り換え点P(j)(最初はP(j)=P(0))を超えたかステップS14で判断し、超えたときには、指標jを1インクリメントし(ステップS15)、加速度パターンテーブルより該指標jに対応する加速度a(j)を読み取り(ステップS16)、ステップS3に移行する。図8、図9に示す例では、加速度a(0)で加速している途中で、加速度切り換え位置P(0)に達したことが検出され、次の(j=1)の加速度a(1)が読み出され、ステップS3以下の処理がなされる。このことから、サンプリング周期で速度が加速度a(1)だけ増加され、ステップS9では順次加速度a(1)の分(a(1)*s)だけ増加した移動量が求められ、出力されることになる。
【0043】
加速度分速度を順次増加して速度Vが指令されている速度Vcを超えたと判断(ステップS7)されたときは、速度Vを指令速度Vcとし制限する(ステップS8)。
図8、図9で示す例では、加速度パターンテーブルの指標jが「1」で、加速度a(1)で速度を増加しているときに、速度Vが指令速度Vcに達した場合を示しており、指令速度Vcに達した後は、該指令速度Vcに対応する移動量ΔP=V*s=Vc*sが各サンプリング周期毎に出力される。
【0044】
こうして、移動指令が出力されていき、ステップS5で、残り移動量Prが、現在速度Vから現在の加速度a(j)で減速し、速度が0になるまで減速するのに要する移動量「V2/2a(j)」以下となったとき、すなわち、残り移動量Prでは、現在の速度、加速度で減速して停止させるまで必要な移動量と等しいか足りなくなったときは、ステップS17に移行して、現在の速度Vから現在の加速度a(j)を減じて減速した速度Vを求めステップS9に移行する。
【0045】
図8、図9に示す例では、指標j=1、加速度a(j)=a(1)で、かつ速度が指令速度Vcに制限されて移動量を求めているときに、残り移動量Prが、現在の速度、加速度で減速して停止させるまで必要な移動量より小さくなったときの例を示しており、移動指令として出力される移動量は、各サンプリング周期毎、加速度a(j)=a(1)の分だけ少なくなった移動量が出力されている。
【0046】
更に、ステップS14で、現在位置Pが加速度切り換え位置P(j)=P(1)を超えたことが判別されると、指標jを1インクリメントし(この場合2とし)、加速度パターンテーブルより加速度a(j)(この場合a(2))を読み出し、この加速度で以下減速されることになる。そして、残り移動量Prが0と判別されると(ステップS4)、この処理を終了する。
【0047】
以上のように、本発明は、ある加速度で速度を増加している途中、さらにはある加速度で減速している途中でも、他の加速度に切り換えて、速度の増加率、減少率を変えることができ、又、速度が一定でモータが駆動されているときでも指定した加速度で速度を変更することもできるものである。
【0048】
なお、速度Vが指令速度Vcに達する前に、モータの速度を一定に保持するような場合は、加速度a(j)を「0」とすれば、速度は変化せず、現在の速度が保持されることになる。この場合、ステップS5の判断は「Yes」となり、ステップS17で現在速度Vから0の加速度を減じて、速度Vを変化せず移動量が求められるが、残り移動量で減速できるかという判断ができなくなることから、加速度を「0」と設定する区間は、残り移動量が保証されている区間で行う必要がある。
【0049】
上述した実施形態では、本発明を射出成形機の型締機構の型閉じ工程で実施した例として述べたが、型開き工程の場合も同様な本願発明の加減速制御方法を適用して制御してもよいものである。トグル機構のような速度増幅機構を介して、機械可動部(可動プラテン)をサーボモータで駆動する場合、上述したような加速度パターンに基づいて、加速度を
サーボモータの位置に応じて変えて加減速処理することによって、機械可動部(可動プラテン)の速度加速度、速度変動を意図するものに制御できることになる。
【0050】
又、トグル機構やクランプ機構等の速度増幅機構を用いない場合でも、機械可動部の位置に応じて、加速度を変えて加減速制御を行うことが望ましい場合にも、本発明は適用できるものである。
例えば、前述したように、射出成形機の射出工程においては、金型内の樹脂の流れを制御するために、射出を行う可動部の射出スクリュ位置に応じて、射出スクリュを駆動する射出用サーボモータの加速度を変えて加速、減速を行うように本発明の加減速制御を適用してもよいものである。この場合は、樹脂の粘性、金型形状、金型内における樹脂の充填状態に応じて、射出速度(金型内への樹脂充填速度)の増減を考慮して、射出スクリュ位置(射出用サーボモータM1)に応じた加速度の加速度パターンを設定して、該パターンに基づいて、上述した実施形態と同様に、射出用サーボモータM1の速度を制御して射出速度を制御するようにする。特に、ある加速度で射出速度を加速中、又は減速中においても、別の加速度で加速又は減速させることができるから、速度制御をきめ細かくすることができ、最適な射出制御ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の加減速制御方法を適用した一実施形態としての電動式射出成形機の概要図である。
【図2】同実施形態においてトグル機構のリンクを伸ばしきった状態を示す図である。
【図3】同実施形態においてトグル機構のクロスヘッドの位置、速度と可動プラテンの位置、速度を解析するための説明図である。
【図4】同じくトグル機構のクロスヘッドの位置、速度と可動プラテンの位置、速度を解析するための説明図である。
【図5】同じくトグル機構のクロスヘッドの位置、速度と可動プラテンの位置、速度を解析するための説明図である。
【図6】同実施形態において、トグル機構による速度増幅率と、加速度パターンとして表した図である。
【図7】同実施形態において、トグル機構のクロスヘッドの位置に対する可動プラテンの速度を実測して、可動プラテンの速度パターンとし、この速度パターンの逆数を加速度パターンとて求めたときのクロスヘッドの位置に対する実測速度のパターンと加速度パターンを表す図である。
【図8】同実施形態における型開閉用サーボモータの位置に対する加速度を設定記憶した加速度パターンテーブルの一例である。
【図9】図8に示した加速度パターンテーブルに記憶した加速度パターンで型開閉用サーボモータを制御したとき、各サンプリング周期(移動指令の分配周期)毎の移動量の例を説明する説明図である。
【図10】本実施形態におけける加減速制御処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
1 射出シリンダ
2 ノズル部
3 射出スクリュ
8 固定プラテン
9 可動プラテン
10 リアプラテン
11 金型
13 トグル機構
13a クロスヘッド
30 制御装置
M1 射出用サーボモータ
M2 スクリュ回転用サーボモータ
M3 突出用サーボモータ
M4 型開閉用サーボモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置からの移動指令に基づいて機械の可動部をサーボモータによって駆動制御し、可動部の位置、速度を制御する加減速制御方法において、前記移動指令による目標位置までの移動中のサーボモータの位置に対応する加速度を加速度パターンとして予め前記制御装置に設定しておき、サーボモータ駆動中、前記加速度パターンに基づいて、サーボモータの位置に応じて加速度を変更し速度を制御する機械可動部の加減速制御方法。
【請求項2】
前記加速度パターンは位置に対応する加速度がテーブルに設定記憶されている請求項1に記載の機械可動部の加減速制御方法。
【請求項3】
設定された前記加速度パターンは位置に対応する加速度の関係を示す関数であることを特徴とする請求項1に記載の機械可動部の加減速制御方法。
【請求項4】
前記加速度パターンは前記機械の可動部の駆動系に用いられる速度増幅機構の速度増幅率から求められることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の機械可動部の加減速制御方法。
【請求項5】
前記加速度パターンは速度増幅機構を介して前記サーボモータで駆動される可動部の位置に応じて速度を測定して求められることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の機械可動部の加減速制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−251804(P2009−251804A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97244(P2008−97244)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】