説明

機械特性測定装置および機械特性測定装置の使用方法

【課題】 測定精度が高く、かつ低消費電力な機械特性測定装置を提供する。
【解決手段】 本発明の機械特性測定装置10は、測定物に接触させる圧電振動子12aを含む振動センサ12と、前記圧電振動子12aに電気エネルギーを供給する定電圧発振回路11と、前記圧電振動子12aに生じた振動電流を測定する振動電流測定部13と、オン/オフ切り替え可能な第1のスイッチング手段14と、オン/オフ切り替え可能な第2のスイッチング手段14とを備え、前記定電圧発振回路11が、前記振動センサ12に前記第1のスイッチング手段14を介して、電気的に接続され、前記振動センサ12が、前記振動電流測定部13に前記第2のスイッチング手段14を介して、電気的に接続されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性測定装置および機械特性測定装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル化が支えるIT・ネットワーク技術の進展により、取り扱われる情報は、増大し、それに伴い蓄積される情報は、増大の一途をたどっている。センサ等を用いた入力デバイスにより取得された情報を、正確に分析・判断して分かりやすく加工された情報とし、人に知らせることは、社会の安心安全・快適・環境保全を実現する上で重要である。情報を取得する入力デバイスとしては、例えば、圧電振動子をセンサに用いた入力デバイスがあげられる。圧電振動子を用いた入力デバイスとしては、例えば、物の固定状態を判定する動揺度測定装置(例えば、特許文献1参照)、超音波診断に用いる超音波トランスデューサシステム(例えば、特許文献2参照)等があげられる。
【0003】
社会が成熟すると共に、高齢化が進展し、様々な問題が生じている。人は、健康維持や抗加齢を望んでいる。このような状況にあって、例えば、健康状態の変化や加齢による影響が顕著に表れる肌の状態を、場所を選ばず、安価で、簡易かつ正確に測定・指示できる健康センサが要望されている。今日では、電子部品の小型化により、電子機器の小型化・軽量化が進み、無線通信を利用した携帯電話、またはノートパソコン等に代表される携帯型電子機器が普及している。このような携帯型電子機器に、前述の健康センサが搭載され、取得した情報を蓄積したり、その情報に基づきサービスの提供を受けられるようになることへの期待は大きい。これを実現するにあたり、前述の健康センサには、例えば、正確な情報が取得可能なように測定精度が高く、かつ小型で電池駆動可能な低消費電力であるという技術的な課題を克服する必要がある。
【0004】
人の肌等の弾性体の機械特性を評価するために、圧電振動子を用いた装置が提案されている(特許文献3から5参照)。特許文献3に記載の弾性特性測定装置1000は、図10(a)に示すように、3端子型圧電振動子1002に、一定の電圧を印加するための定電圧駆動回路1001と、高調波成分を除去するためのフィルタ増幅回路1006と、仮想接地型電流検出回路1003とを備える。この装置では、前述の構成部材がループ状に接続され、帰還型自励発振回路が構成されている。この装置の駆動状態において、測定物を前記圧電振動子に接触させると、測定物の等価的な電気インピーダンスが負荷される。このため、図10(b)に示すように、前記自励発振回路の周波数および電流値が、測定物に接触させていない状態(実線の波形1008)と、測定物に接触させている状態(破線の波形1009)とで変化する。このような変化を利用した装置としては、例えば、特許文献4に記載の肌弾力センサがあげられる。図11に示すように、この肌弾力センサ1100は、半球状の接触子1103が取り付けられた棒状の圧電セラミックス円柱1102が、加圧用のバネ1104により外装筐体1107に支持された圧電振動子と、電気回路とから構成されている。前記圧電振動子は、長さ方向縦振動で駆動する。また、前述の弾性特性測定装置の応用として、例えば、特許文献5に記載の肌年齢算出装置があげられる。図12(a)に、この装置のシステムブロック図を示し、図12(b)に、外観図を示す。この装置1200は、特許文献4に記載の装置と同様に、半球状の接触子1203が取り付けられた圧電振動子の接触による共振周波数または固有周期の変化から肌年齢を算出する装置である。この装置1200の表面には、表示部1208が設けられている。この装置1200の外装筐体1207のうち、前記接触子1203近傍部分は、前記圧電振動子への一定の押圧が得られるように肌支持体の役割しており、安定した押し圧を得ることにより計測誤動作が防止可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−148032号公報
【特許文献2】特開2001−258879号公報
【特許文献3】特開2003−270219号公報
【特許文献4】特開2005−52212号公報
【特許文献5】特開2001−212087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献3から5に記載の装置では、前述のとおり、共振周波数の変化と電流値の変化とを測定に利用する。前記共振周波数の変化は、圧電振動子を連続駆動させて、肌等の測定物を、機械的負荷として接触させた場合に生じる。前記電流値の変化は、前記接触により生じる押し圧変化と振動抑圧とによる、圧電振動子の電気等価回路変化に応じて生じる。
【0007】
しかしながら、これらの装置には、測定精度に関する3つの問題がある。具体的には、以下のような問題がある。
第1の問題は、圧電振動子の機械特性と測定物の機械特性との差と、自励発振回路に起因する共振周波数測定の精度との関係の問題である。前記差が大きいと、共振周波数の変化が大きくなるため、自励発振回路がその変化に追従できなくなり、誤動作を起こす恐れがある。一方、前記差が小さいと、共振周波数の変化が小さくなるため、正確な測定が困難となる。また、これらの装置の測定可能な範囲は、極めて狭い。このため、例えば、厚みや密度が異なり測定物としての機械特性が異なる、人の頬・あご・腕・足等の各部位を正確に測定するには、各部位に最適化された圧電振動子を用意しなければならない。
第2の問題は、測定時に押し圧が変化することにより、共振周波数と振動電流とに変化が生じるという測定物の繰り返し測定の精度低下の問題である。これらの装置は、例えば、人の肌の測定に用いる場合、使用者が圧電振動子の先端に取り付けられた接触子を、測定が完了するまでの間、肌に押し当てて使用される。この時、一定の押し圧を保持する必要がある。押し圧が変化してしまうと、フィードバック回路の時定数による応答が生じる。この応答により、共振周波数または固有周期に変化が生じると共に、振動電流振幅量に変化が生じるため、測定に大きな誤差が生じる。
第3の問題は、測定が完了するまでの間、連続駆動させる必要があるため、圧電振動子の発熱による測定の精度低下の問題である。圧電振動子のエネルギー損失に伴う発熱により、測定中に圧電振動子等の機械特性の変化が起こる。その結果、共振周波数に変化が生じ、正確な測定が困難となる。
前記3つの問題に加えて、これらの装置には、測定が完了するまでの間、連続駆動させる必要があるため、電力消費の問題がある。例えば、ノートパソコンや携帯電話等の携帯型電子機器に、これらの装置を搭載して持ち運び可能にするとした場合、電池の消耗が激しく、携帯が困難である。
【0008】
本発明の目的は、測定精度が高く、かつ低消費電力な機械特性測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の機械特性測定装置は、
測定物に接触させる圧電振動子を含む振動センサと、前記圧電振動子に電気エネルギーを供給する定電圧発振回路と、前記圧電振動子に生じた振動電流を測定する振動電流測定部と、オン/オフ切り替え可能な第1のスイッチング手段と、オン/オフ切り替え可能な第2のスイッチング手段とを備え、
前記定電圧発振回路が、前記振動センサに前記第1のスイッチング手段を介して、電気的に接続され、
前記振動センサが、前記振動電流測定部に前記第2のスイッチング手段を介して、電気的に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、測定精度が高く、かつ低消費電力な機械特性測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の機械特性測定装置の実施形態1における一例の構成を示す回路ブロック図である。
【図2】前記一例における振動センサの例を示す斜視図である。
【図3】前記一例の使用方法を説明する図である。
【図4】前記一例の使用方法において、圧電振動子に印加される定電圧の波形の例を示す図である。
【図5】前記一例の使用方法における振動エネルギーの蓄積の例を示す図である。
【図6】(a)および(b)は、前記一例の使用方法における減衰する振動電流の例を示す図である。(c)は、前記一例の使用方法における分析の一例を示す図である。
【図7】本発明の機械特性測定装置の実施形態1におけるその他の例の構成を示す回路ブロック図である。(b)は、前記その他の例における振動センサの例を示す斜視図である。
【図8】前記その他の例の使用方法を説明する図である。
【図9】本発明の機械特性測定装置の実施形態2における一例の構成を示す回路ブロック図である。
【図10】(a)は、従来の弾性特性測定装置の一例の構成を示す回路ブロック図である。(b)は、前記装置により測定される振動電流波形である。
【図11】従来の肌弾力センサの一例の構成を示す模式図である。
【図12】(a)は、従来の肌年齢算出装置の一例の構成を示すシステムブロック図である。(b)前記一例の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の機械特性測定装置および機械特性測定装置の使用方法について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0013】
(実施形態1)
図1に、本実施形態の機械特性測定装置の一例の構成を示す。図示のとおり、この機械特性測定装置10は、定電圧発振回路11と、圧電振動子12aが装着された振動センサ12と、振動電流測定回路13と、切り替えスイッチ14とを備える。前記振動電流測定回路13は、電気フィルタ16と分析部17とを備える。前記圧電振動子12aは、2端子型圧電振動子である。前記定電圧発振回路11は、前記振動センサ12に、前記切り替えスイッチ14を介して、電気的に接続されている。前記振動センサ12は、前記電気フィルタ16に、前記切り替えスイッチ14を介して、電気的に接続されている。前記分析部17には、後段の回路等に接続するための電気端子が設けられている。前記切り替えスイッチ14は、前述の構成部材同士の接続および切断を切り替え可能(オン/オフ切り替え可能)なスイッチである。なお、本実施形態の機械特性測定装置では、第1のスイッチング手段および第2のスイッチング手段が、前記両者の機能を有する切り替えスイッチであるが、本発明は、この例に限定されない。
【0014】
前記定電圧発振回路は、例えば、あらかじめ設定された振幅と周期の交流電圧を発生させ、前記圧電振動子に電気エネルギーを供給する。前記交流電圧の波形は、例えば、圧電振動子の固有周期と同様の周期の正弦波であっても、圧電振動子の固有周期と異なる周期の正弦波であっても、矩形波であっても、三角波であってもよい。詳細は、後述する。
【0015】
図2(a)に、本実施形態の機械特性測定装置に用いる前記振動センサの一例を示す。同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。図2(a)に示すとおり、この振動センサ12では、前記圧電振動子12aが、開口部を有する外装筐体127内に装着されている。前記圧電振動子12aは、前述のとおり、2端子型圧電振動子である。前記圧電振動子12aは、棒状の圧電セラミック素子122aと、接触子123aと、加圧バネ124aとを備える圧電セラミック振動子である。前記接触子123aは、前記圧電セラミック素子122aの長さ方向の一端に設けられており、前記加圧バネ124aは、前記圧電セラミック素子122aの長さ方向の他端に設けられている。前記圧電セラミック素子122aは、前記加圧バネ124aを介して、前記外装筐体127に支持されている。前記圧電セラミック素子122aの長さ方向の一面には、電極125aが形成されており、前記一面に対向する面には、電極125bが形成されている。前記電極125aには、電気端子126aが接合され、前記電極125bには、電気端子126bが接合されている。この状態で、定電圧の印加方向と同一の方向に分極処理を施し、圧電横効果長さ縦振動で振動する2端子型圧電セラミック振動子とした。この振動センサ12では、前記加圧バネ124aの伸長により、前記圧電セラミック素子122aが、前記外装筐体127の開口部方向に付勢されており、前記接触子123aの一部が、前記外装筐体127から突出している。本実施形態の機械特性測定装置では、圧電振動子の感度が良好であり、測定される振動電流の電流値を大きくすることができる。この結果、高精度に測定可能である。前記圧電セラミック素子としては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛系圧電セラミックス(PZT)、チタン酸バリウム系圧電セラミックス等があげられる。なお、本実施形態の圧電振動子は、前述の圧電セラミック振動子には、限定されず、従来公知の圧電振動子を使用可能である。
【0016】
本実施形態の機械特性測定装置に用いる前記振動センサは、例えば、図2(b)に示す形態であってもよい。同図において、図2(a)と同一部分には同一符号を付している。図2(b)に示すとおり、この振動センサは、圧電振動子が、板状の圧電セラミック素子122bを備える点で、図2(a)に示す振動センサと異なる。すなわち、前記圧電振動子12aは、板状の圧電セラミック素子122bと、接触子123bと、加圧バネ124bとを備える圧電セラミック振動子である。前記接触子123bおよび前記加圧バネ124bは、板状の前記圧電セラミック素子122bの形状に適合する形状等を有している。これら以外は、図2(a)に示す振動センサと同様の構成を有する。
【0017】
本実施形態の機械特性測定装置では、振動電流測定部として、振動電流測定回路を用いているが、本発明は、この例に限定されない。また、前記振動電流測定回路は、前記電気フィルタと前記分析部とを備えるが、本発明は、この例に限定されない。前記電気フィルタと前記分析部についての詳細は、後述する。
【0018】
本実施形態の機械特性測定装置では、前述のとおり、第1のスイッチング手段および第のスイッチング手段として、前記両者の機能を有する切り替えスイッチを用いている。すなわち、前記切り替えスイッチは、前記定電圧発振回路と前記振動センサとを、オン/オフ切り替え可能で、かつ前記振動センサと前記振動電流測定部とを、オン/オフ切り替え可能である。前記切り替えスイッチとしては、例えば、電磁リレー型、静電リレー型、半導体型等があげられる。なお、前記切り替えスイッチには、例えば、前記切り替えスイッチのオン/オフ切り替えを制御するスイッチ制御回路が、電気的に接続されていてもよい。
【0019】
本実施形態の機械特性測定装置を用いて、機械特性を測定する測定物としては、例えば、人の肌、動植物の表皮等があげられる。
【0020】
つぎに、図3から6に基づき、本実施形態の機械特性測定装置の使用方法を説明する。本実施形態の機械特性測定装置の使用方法では、振動センサとして、前述の図2(a)に示す振動センサを用いた場合を例にとり説明する。本実施形態の機械特性測定装置の使用方法は、接触工程と、電気エネルギー供給工程と、電気エネルギー供給停止工程と、振動電流測定工程とを含む。図3(a)は、前記接触工程を示し、図3(b)は、前記電気エネルギー供給工程を示し、図3(c)は、前記電気エネルギー供給停止工程を示し、図3(d)は、前記振動電流測定工程を示す。図3(a)から(d)において、図1および図2と同一部分には同一符号を付している。
【0021】
〔接触工程〕
まず、接触工程について説明する。図3(a)に示すように、前記外装筐体127の開口部から突出している接触子123aを、測定物31に押し当てて接触させる。この時生じる押し圧により、前記加圧バネ124aが収縮し、前記接触子123aの前記外装筐体127の開口部から突出した部分は、前記外装筐体127の内部方向へ押し込まれる。前記測定物31は、前述のとおりである。なお、図3(a)では、図示の簡略化のため、図2(a)で示す符号のうち、上記接触工程の説明に用いた符号以外は省略している。
【0022】
〔電気エネルギー供給工程〕
つぎに、電気エネルギー供給工程について説明する。前記測定物31を前記圧電振動子12aに接触させた状態で、図3(b)に示すように、前記切り替えスイッチ14を、前記定電圧発振回路11側に切り替えて、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ12とを電気的に接続する。このようにすることで、前記圧電振動子12aに、例えば、予め設定された振幅と周期の定電圧が印加され、前記圧電振動子12aに電気エネルギーが供給される。前記圧電振動子12aに印加される電圧の波形は、例えば、図4(a)に示す圧電振動子の固有周期と同様の周期の正弦波である。ただし、本発明は、この例に限定されず、前記波形としては、図4(b)に示す前記固有周期と異なる周期の正弦波、図4(c)に示す矩形波、図4(d)に示す三角波等があげられ、特定の波形に制限されない。なお、図4では、所定の時間(t1)の間、前記圧電振動子12aに定電圧を印加する場合を示す。また、図3(b)では、図示の簡略化のため、前記圧電振動子12aに接触させた前記測定物31を図示するのを省略している。以下、図3(c)および(d)においても同様である。なお、前記切り替えスイッチのオン/オフ切り替えは、例えば、手動で行われてもよいし、前述のスイッチ制御回路を備える場合には、前記制御回路を用いて自動で行われてもよい。
【0023】
供給された前記電気エネルギーは、前記圧電振動子12aの圧電効果により、振動エネルギーに変換される。この振動エネルギーにより、前記圧電振動子12aおよび前記測定物31は振動する。前述の図4(a)に示す波形の定電圧を印加する場合には、例えば、図5(a)に示すように、前記所定の時間(t1)の間、振動エネルギーの量は時間的に増幅され、前記圧電振動子12aおよび前記測定物31に蓄積される。なお、図5(a)では、前記振動エネルギーの量を、振動エネルギーに比例する振動電流として測定した波形を示す。また、前述の図4(b)から(d)に示す波形の定電圧を印加する場合にも、それぞれ、図5(b)から(d)に示すように、前記所定の時間(t1)の間、その振動エネルギーの量は時間的に増幅され、前記圧電振動子と前記測定物とに蓄積される。前記所定の時間(t1)の設定は、例えば、手動で行ってもよいし、自動で行ってもよい。前記自動で行う場合には、例えば、過去の使用時に設定した時間を記憶しておき、その時間を繰り返し使用してもよい。
【0024】
〔電気エネルギー供給停止工程〕
つぎに、電気エネルギー供給停止工程について説明する。前記所定の時間(t1)の経過後、前記測定物31を前記圧電振動子12aに接触させた状態で、図3(c)に示すように、前記切り替えスイッチ14を切り替えて、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ12との電気的接続を切断する。このようにすることで、前記電気エネルギーの供給を停止する。蓄積された前記振動エネルギーは、前記電気エネルギーの供給が停止された時点から、前記測定物31の内部摩擦により、経過時間に応じて減衰する。
【0025】
〔振動電流測定工程〕
つぎに、振動電流測定工程について説明する。前記電気エネルギーの供給停止後、図3(d)に示すように、前記切り替えスイッチ14を、前記電気フィルタ16側に切り替えて、前記振動センサ12と前記電気フィルタ16とを電気的に接続する。このようにすることで、蓄積された振動エネルギーは、前記圧電振動子の圧電効果により電気エネルギーに変換される。この電気エネルギーを、前記圧電振動子と前記測定物との合算された機械特性に応じた、経過時間に応じて減衰する振動電流(時間減衰振動電流)として、前記振動電流測定回路13で測定する。前記時間減衰振動電流の波形は、複数の固有周期を有する基本波成分および高調波成分等を含む合成波の波形を示す。前記時間減衰振動電流の波形は、例えば、オシロスコープ等により観察可能である。
【0026】
本実施形態の機械特性測定装置では、まず、この合成波を、前記電気フィルタ16を用いて、各々の波形成分に分離する。ついで、分離された波形成分を、前記分析部17を用いて分析する。前記分析は、例えば、デジタル中央演算処理回路によりなされる。前記電気フィルタ16には、例えば、急峻な遮断特性を有するデジタルフィルタを用いる。図6(a)に、前記電気フィルタ16により分離された波形のうち、基本波成分の波形(実線の波形)を示す。図6(a)では、振動電流が減衰するのを理解しやすくするため、前記電気エネルギー供給工程における振動電流の蓄積を示す波形(破線の波形)も併せて示す。図6(b)に、前記電気フィルタ16により分離された波形のうち、第二高調波成分(実線の波形)を示す。これ以外は、図6(a)と同様である。なお、本実施形態の機械特性測定装置では、前記電気フィルタを用いて分離した波形成分(基本波成分、第二高調波成分等)を分析しているが、本発明は、これに限定されず、例えば、合成波を分析可能であれば、電気フィルタを備えていなくてもよい。また、図5(b)から(d)に示す蓄積された振動エネルギーによっても、例えば、図6(a)と同様の波形の時間減衰振動電流が発生する。
【0027】
本実施形態の機械特性測定装置では、前記分析部17を用いて、例えば、前記基本波成分、前記第二高調波成分等の各調波成分から、固有周期と振幅値減衰変化とを分析する。図6(c)に、前記基本波成分の固有周期と振動電流振幅値の減衰の量とを分析する場合の一例を示す。図示のとおり、前記基本波成分の分析は、前記時間減衰振動電流発生後の所定の時間(t2)後から開始する。ここでは、分析を開始して最初に表れる正側の波形を第1の波形61とし、2番目に表れる正側の波形を第2の波形62、3番目に表れる正側の波形を第3の波形63、4番目に表れる正側の波形を第4の波形64とする。5番目に表れる正側の波形(第5の波形)以降についても、図示していないが同様とする。これらの波形について、電流振幅値の最大値と、前記最大値を示す経過時間とを測定する。この測定により、例えば、前記第1の波形61の電流振幅値の最大値をI(1)とし、前記最大値を示す経過時間をT(1)とする。同様に、前記第2の波形62の電流振幅値の最大値をI(2)とし、前記最大値を示す経過時間をT(2)とする。前記第3の波形63の電流振幅値の最大値をI(3)とし、前記最大値を示す経過時間をT(3)とする。前記第4の波形64の電流振幅値の最大値をI(4)とし、前記最大値を示す経過時間を、T(4)とする。前記第5の波形以降についても、同様である。なお、図6(c)では、図示の簡略化のため、前記第2の波形62以降の電流振幅値の最大値を図示するのを省略している。
【0028】
前記時間減衰振動電流の固有周期(ΔT)は、例えば、T(2)−T(1)から算出可能である。このようにして算出された固有周期を、ΔT(1)とする。同様に、T(3)−T(2)からΔT(2)を、T(4)−T(3)からΔT(3)を算出する。前記第5の波形以降についても、同様に算出する。前記ΔT(1)、前記ΔT(2)、前記ΔT(3)等の加算平均を取れば、例えば、突発的な外部ノイズが混入しても、ΔTを高精度に取得可能である。
【0029】
前記時間減衰振動電流の振幅値減衰変化(ΔI)は、例えば、I(2)−I(1)から算出可能である。このようにして算出された振幅値減衰変化を、ΔI(1)とする。同様に、I(3)−I(2)からΔI(2)を、I(4)−I(3)からΔI(3)を算出する。前記第5の波形以降についても、同様に算出する。前述のとおり、前記時間減衰振動電流は、前記圧電振動子と前記測定物との合算された機械特性に応じて得られる振動電流である。前記圧電振動子は、所定の機械特性を有するので、前記時間減衰振動電流を測定することは、測定物の機械特性を直接測定することとなる。したがって、本実施形態の機械特性測定装置を使用して、前記時間減衰振動電流の固有周期と振幅値減衰変化を算出することにより、測定物の機械特性を測定可能である。
【0030】
さらに、前記I(1)が、1/2となる(1/2I(1))時間区間を、ΔT50とすれば、前記測定物の機械特性を、例えば、ΔTとΔT50とで表すことができる。測定物に接触していない状態での前記圧電振動子のΔTおよびΔT50を、それぞれ、ΔT1およびΔT150とする。前述のΔTおよびΔT50と、ΔT1およびΔT150とから、例えば、前記デジタル中央演算処理回路を用いて、ΔT/ΔT1とΔT50/ΔT150とを算出し、規格値とする。本実施形態の機械特性測定装置では、例えば、この規格値を用いて、測定物の機械特性を評価可能である。
【0031】
このようにして、測定物の機械特性を測定する本実施形態の機械特性測定装置により奏される効果は、以下のとおりである。
第1に、前記測定に利用する前記振幅値減衰変化は、前述のとおり、前記測定物の内部摩擦によるものである。この振幅値減衰変化は、測定物の形状には依存しない。このため、前記圧電振動子そのものの固有周期と、前記圧電振動子と前記測定物との合算された機械特性に応じた固有周期とが近接する場合、または前記圧電振動子の機械特性と前記測定物の機械特性との差が大きい場合でも、振幅値減衰変化を測定可能である。これにより、例えば、測定物としての機械特性が異なる、人の頬・あご・腕・足等の各部位を正確に測定するのに、最適化された圧電振動子を複数用意する必要がない。
第2に、前記時間減衰振動電流の固有周期は、前述のとおり、測定物の形状、密度、弾性率等に依存している。前述のとおり、使用者の圧電振動子の押し圧が変化すると、この変化により、電流振幅幅値に変化が生じるが、前記時間減衰振動電流の固有周期は、前述の押し圧には影響を受けない。
第3に、本実施形態の機械特性測定装置は、自励発振回路を必要とせず、測定を完了するまでの間、連続駆動させる必要がない。このため、圧電振動子の発熱による圧電振動子の機械特性の変化を抑制可能である。また、本実施形態の機械特性測定装置は、自励発振回路を不要としないため、フィードバックによる測定時間の遅延が発生しない。このため、前記遅延による測定誤差が生じない。
また、本実施形態の機械特性測定装置の使用において、図6(b)に示す第二高調波成分を分析に用いれば、短波長であるため分解能が向上する。このため、例えば、人の肌の機械特性を測定する場合に、油分の付着・吸収による人の肌組織の変化等の微量な機械特性変化を測定するのに特に有効である。
これらの効果が奏される本実施形態の機械特性測定装置は、測定物の機械特性を高精度に測定可能である。また、本実施形態の機械特性測定装置は、前記第1の効果により、利便性が高い。
【0032】
また、本実施形態の機械特性測定装置は、前述のとおり、自励発振回路を必要とせず、測定が完了するまでの間、連続駆動させる必要がない。このため、本実施形態の機械特性測定装置は、低消費電力である。また、自励発振回路を必要としないため、小型化が可能であり、例えば、携帯電話、ノートパソコン等の携帯型電子機器への搭載も可能である。これらにより、本実施形態の機械特性測定装置は、例えば、電池駆動可能で持ち運び可能な装置とすることが可能である。
【0033】
本実施形態の機械特性測定装置は、例えば、前記圧電振動子が、3端子型圧電振動子であってもよい。図7(a)に、この機械特性測定装置の一例の構成を示す。同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。図7(a)に示すとおり、この機械特性測定装置70は、前述の切り替えスイッチに代えて、第1の電気スイッチ74と、第2の電気スイッチ75とを備える。定電圧発振回路11は、振動センサ72に、前記第1の電気スイッチ74を介して、電気的に接続されている。前記振動センサ72は、電気フィルタ16に、前記第2の電気スイッチ75を介して、電気的に接続されている。前記圧電振動子72aは、3端子型圧電振動子である。これらの点を除き、この機械特性測定装置70は、前述の機械特性測定装置10と同様の構成を有する。前記第1の電気スイッチ74および前記第2の電気スイッチ75は、前述の構成部材同士の接続および切断を切り替え可能(オン/オフ切り替え可能)なスイッチである。なお、この機械特性測定装置では、前記第1の電気スイッチおよび前記第2の電気スイッチは、外部スイッチであるが、本発明は、この例に限定されない。前述の機能を有すれば、例えば、前記第1の電気スイッチは、前記定電圧発振回路内部に配置されていてもよいし、前記第2の電気スイッチは、前記振動電流測定回路内部に配置されていてもよい。
【0034】
図7(b)に、この機械特性測定装置に用いる前記振動センサの一例を示す。同図において、図7(a)と同一部分には同一符号を付している。図7(b)に示すとおり、この振動センサ72では、前記圧電振動子72aが、開口部を有する外装筐体727内に装着されている。前記圧電振動子72aは、前述のとおり、3端子型圧電振動子である。前記圧電振動子72aは、棒状の圧電セラミック素子722と、接触子723と、加圧バネ724とを備える圧電セラミック振動子である。前記接触子723は、前記圧電セラミック素子722の長さ方向の一端に設けられており、前記加圧バネ724は、前記圧電セラミック素子722の長さ方向の他端に設けられている。前記圧電セラミック素子722は、前記加圧バネ724を介して、前記外装筐体727に支持されている。前記圧電セラミック素子722の長さ方向の一面には、電極725aが形成されており、前記一面に対向する面には、電極725bと電極725cとが形成されている。前記電極725aには、電気端子726aが接合され、前記電極725bには、電気端子726bが接合され、前記電極725cには、電気端子726cが接合されている。この状態で、定電圧の印加方向と同一の方向に分極処理を施し、圧電横効果長さ縦振動で振動する3端子型圧電セラミック振動子とした。この振動センサ72では、前記加圧バネ724の伸長により、前記圧電セラミック素子722が、前記外装筐体727の開口部方向に付勢されており、前記接触子723の一部が、前記外装筐体727から突出している。前記圧電セラミック素子は、例えば、前述の2端子型圧電振動子と同様である。
【0035】
この機械特性測定装置では、第1のスイッチング手段として、第1の電気スイッチを用いているが、本発明は、この例に限定されない。前記第1の電気スイッチは、前述のとおり、前記定電圧発振回路と前記振動センサとを、オン/オフ切り替え可能であればよく、従来公知の電気スイッチを使用可能である。前記第1の電気スイッチとしては、例えば、電磁リレー型、静電リレー型、半導体型等があげられる。
【0036】
この機械特性測定装置では、第2のスイッチング手段として、第2の電気スイッチを用いているが、本発明は、この例に限定されない。前記第2の電気スイッチは、前述のとおり、前記振動センサと前記振動電流測定部とを、オン/オフ切り替え可能であればよく、従来公知の電気スイッチを使用可能である。前記第2の電気スイッチは、例えば、前記第1の電気スイッチと同様のものを使用可能である。前記第1の電気スイッチと前記第2の電気スイッチは、同一であっても、異なっていてもよい。なお、前記1の電気スイッチおよび前記第2の電気スイッチには、例えば、前記両電気スイッチのオン/オフ切り替えを制御するスイッチ制御回路が、電気的に接続されていてもよい。
【0037】
この機械特性測定装置は、例えば、図8に示すようにして使用可能である。すなわち、まず、測定物を前記圧電振動子72aに接触させた状態で、図8(a)に示すように、前記第1の電気スイッチ74をオンにし、かつ前記第2の電気スイッチ75をオフにして、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ72とを電気的に接続する。このようにすることで、前述の電気エネルギー供給工程を実施する。
ついで、前記測定物を前記圧電振動子72aに接触させた状態で、図8(b)に示すように、前記第1の電気スイッチ74をオフにして、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ72との電気的接続を切断する。このようにすることで、前述の電気エネルギー供給停止工程を実施する。なお、本工程では、前記第2の電気スイッチ75は、オフのままである。
ついで、図8(c)に示すように、前記第2の電気スイッチ75をオンにして、前記振動センサ72と前記電気フィルタ16とを電気的に接続する。このようにすることで、前述の振動電流測定工程を実施する。これら以外は、前述の機械特性測定装置10と同様に使用可能である。なお、この機械特性測定装置では、前述の接触工程についての詳細な説明を省略している。また、前記第1の電気スイッチおよび前記第2の電気スイッチのオン/オフ切り替えは、例えば、手動で行われてもよいし、前述のスイッチ制御回路を備える場合には、前記制御回路を用いて自動で行われてもよい。また、前記両電気スイッチのオン/オフ切り替えは、例えば、前記スイッチ制御回路により、連動して行われてもよい。
【0038】
この機械特性測定装置においても、前述の機械特性測定装置10と同様に、測定物の機械特性を高精度に測定可能である。前述のとおり、前述の機械特性測定装置10では、圧電振動子として、2端子型圧電振動子を用いているため、圧電振動子の感度がより良好であり、測定される振動電流の電流値をさらに大きくすることができるためより好ましい。
【0039】
(実施形態2)
図9に、本実施形態の機械特性測定装置の一例の構成を示す。同図において、図1と同一部分には同一符号を付している。図9に示すとおり、この機械特性測定装置90は、演算部91と、参照データ記憶装置92とをさらに備えること以外は、前述の機械特性測定装置10と同様の構成を有する。すなわち、この機械特性測定装置90は、定電圧発振回路11と、圧電振動子12aが装着された振動センサ12と、振動電流測定回路13と、切り替えスイッチ14と、演算部91と、参照データ記憶装置92とを備える。前記振動電流測定回路13は、電気フィルタ16と分析部17とを備える。前記分析部17および前記参照データ記憶装置92は、前記演算部91に電気的に接続されている。前記参照データ記憶装置92には、参照データが格納されている。なお、本実施形態の機械特性測定装置では、前記演算部および前記参照データ記憶装置は、それぞれ、独立の構成部材であるが、本発明は、この例に限定されない。前記演算部および前記参照データ記憶装置は、例えば、前記振動電流測定回路内に搭載されていてもよい。
【0040】
前記演算部は、例えば、デジタル中央演算処理回路を備える。
【0041】
本実施形態の機械特性測定装置では、参照データ記憶部を、参照データ記憶装置としている。前記参照データ記憶装置は、従来公知の記録装置を使用可能である。前記参照データ記憶装置としては、例えば、半導体メモリー、磁気記憶装置、光記憶装置等があげられる。
【0042】
前記参照データとしては、例えば、測定に使用する前記圧電振動子を測定したデータ、測定対象となり得る物(例えば、人の肌等)を測定したデータ、人の肌の機械的特性と人の健康状態との相関を示すデータ等があげられる。前記測定対象となり得る物の測定データとしては、例えば、前述の固有周期(ΔT)、振幅値減衰変化(ΔI)、振幅の最大値が1/2になる時間区間(ΔT50)等があげられる。前記測定に使用する圧電振動子の測定データとしては、例えば、前述の固有周期(ΔT1)、振幅の最大値が1/2になる時間区間(ΔT150)等があげられる。これらのデータは、本実施形態の機械特性測定装置の製造時に、前記参照データ記録装置に予め格納されてもよいし、使用者がインターネット等からダウンロードすることで、前記参照データ記録装置に格納されてもよい。
【0043】
つぎに、本実施形態の機械特性測定装置の使用方法を説明する。本実施形態の機械特性測定装置の使用方法は、接触工程と、電気エネルギー供給工程と、電気エネルギー供給停止工程と、振動電流測定工程と、データ比較工程とを含む。前記接触工程、前記電気エネルギー供給工程、前記電気エネルギー供給停止工程および前記振動電流測定工程は、例えば、前述の機械特性測定装置10と同様に実施可能である。
【0044】
〔データ比較工程〕
本実施形態の機械特性測定装置を用いて、前述の機械特性測定装置10と同様に、測定物の機械特性を測定した後、本工程において、前記測定により得られたデータと、前記参照データ記憶装置に格納されている前記参照データとを、前記演算部で比較および評価する。前記比較および評価は、例えば、前記デジタル中央演算処理回路によりなされる。具体的には、例えば、本実施形態の機械特性測定装置を用いて測定された人の肌のΔT、ΔIおよびΔT50の少なくとも一つと、参照データに含まれる複数の既知のΔT、ΔIおよびΔT50の少なくとも一つとを比較・評価する。このようにすることで、例えば、肌の健康状態を評価可能となる。この評価結果を、本実施形態の機械特性測定装置に表示部を設けて、表示してもよい。なお、前記参照データ記憶装置には、前述の測定されたΔT、ΔI、ΔT50等の測定データを、記憶させてもよい。このように測定データを記憶・蓄積することで、より高精度に機械特性の測定が可能となる。
【0045】
前述のとおり、本発明の機械特性測定装置は、測定精度が高く、かつ低消費電力である。したがって、本発明の機械特性測定装置の用途としては、例えば、肌年齢算出装置、肌健康状態判定装置等があげられる。ただし、その用途は限定されず、広い分野に適用可能である。
【実施例】
【0046】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。
【0047】
[実施例1]
図1に示す機械特性測定装置10を作製した。以下に、実施例1で用いた機械特性測定装置10の構成について説明する。
【0048】
〔機械特性測定装置の作製〕
(1)振動センサの作製
図2(a)に示す振動センサを作製した。棒状のジルコン酸チタン酸鉛系圧電セラミックス(PZT、縦5mm×横5mm×高さ30mm)を、圧電セラミック素子122aとした。この圧電セラミック素子122aの高さ方向の対向する2つの面に、Ag電極125aおよび125b(厚み:5μm)を形成した。前記電極125aに、電気端子126aを接合し、前記電極125bに、電気端子126bを接合した。この状態で、定電圧の印加方向と同一の方向に分極処理を施し、圧電横効果長さ縦振動で振動する2端子型圧電セラミック振動子12aとした。この2端子型圧電セラミック振動子12aの高さ方向の一端に、半球状の接触子123a(材料:アルミニウム)を取り付けた。前記一端の反対側の端部に、加圧バネ124a(材料:硬鋼線)を取り付けた。この圧電セラミック振動子12aを、前記加圧バネ124aを介して、外装筐体127内に取り付けた。このようにして、振動センサ12を作製した。
【0049】
(2)各構成部材の接続
前記振動センサ12の前記電気端子126bに、切り替えスイッチ14として電磁形リレースイッチを接続した。この切り替えスイッチ14を介して、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ12とを接続可能とした。また、この切り替えスイッチ14を介して、前記振動センサ12とバターワース型のデジタルフィルタ(電気フィルタ16)とを接続可能とした。前記電気フィルタ16と前記分析部17とを電気的に接続した。前記振動電流測定部13には、振動電流測定のために、オシロスコープを接続した(図示せず)。このようにして本実施例の機械特性測定装置10を作製した。
【0050】
〔圧電セラミック振動子の機械特性の測定〕
この機械特性測定装置10の前記圧電セラミック振動子12aの機械特性を、予め測定した。まず、測定物に接触させていない状態で、図3(b)に示すように、前記切り替えスイッチ14を、前記定電圧発振回路11側に切り替えて、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ12とを電気的に接続した。この状態で、定電圧(波形:正弦波、周波数:50kHz、電圧値:1V)を、前記圧電セラミック振動子12aに、0.1秒間印加した。前記印加後、図3(c)に示すように、前記切り替えスイッチ14を切り替えて、前記定電圧発振回路11と前記振動センサ12との電気的接続を切断した。ついで、図3(d)に示すように、前記切り替えスイッチ14を、前記電気フィルタ16側に切り替えて、前記振動センサ12と前記電気フィルタ16とを電気的に接続した。発生した時間減衰振動電流を、前記電気フィルタ(バターワース型のデジタルフィルタ)16により、各々の固有周期の振動電流に分離した。本実施例では、分離した振動電流のうち、固有周期の長いものから順に3つの振動電流を抽出した。この3つの振動電流を、それぞれ、第1調波振動電流、第2調波振動電流および第3調波振動電流とした。前記振動センサ82と前記電気フィルタ16との接続から、20m秒後に測定を開始し、最初に表れた電流振幅値の最大値が、1/2の値になるまで測定を継続した。この時のΔT150と、固有周期ΔT1(1)、ΔT1(2)、ΔT1(3)・・・の加算平均値(ΔT1)とを測定した。この測定を100回繰り返した。
【0051】
〔機械特性測定装置の使用〕
40代女性の被験者の顔の頬(測定物)に、図3(a)に示すように、前記圧電セラミック振動子12aの前記接触子123aを接触させて、上記と同様の測定を100回繰り返した。得られた固有周期と、電流振幅値の最大値が1/2の値になるまでの時間区間とを、ΔTとΔT50とした。これらの測定データを、ΔT/ΔT1およびΔT50/ΔT150として、本実施例の機械特性測定装置の性能評価値として定量化した。それぞれ、100個のΔT/ΔT1およびΔT50/ΔT150のうち、最大値と最小値を表1に示す。
【0052】
波形を矩形波とし、周波数を40kHzとしたこと以外は、同様にして測定した。この結果を表2に示す。
【0053】
前記被験者の頬に市販の保湿液を塗り、5分後に測定したこと以外は、同様にして測定した。この結果を表3に示す。
【0054】
[比較例1]
図10に示す弾性特性測定装置1000を作製した。以下に、比較例1で用いた弾性特性測定装置1000の構成について説明する。
【0055】
〔弾性特性測定装置の作製〕
(1)振動センサの作製
図7(b)に示す振動センサを作製した。棒状のジルコン酸チタン酸鉛系圧電セラミックス(PZT、縦5mm×横5mm×高さ30mm)を、圧電セラミック素子722とした。この圧電セラミック素子722の高さ方向の対向する2つの面に、Ag電極725aおよび725b(厚み:5μm)を形成した。前記電極725bを形成した面に、振動電流を測定するための電極725c(5mm×7mm)を形成した。前記電極725aに、電気端子726aを接合し、前記電極725bに、電気端子726bを接合し、前記電極725cに、電気端子726cを接合した。この状態で、定電圧の印加方向と同一の方向に分極処理を施し、圧電横効果長さ縦振動で振動する3端子型圧電セラミック振動子72aとした。この3端子型圧電セラミック振動子72aの高さ方向の一端に、半球状の接触子723(材料:アルミニウム)を取り付けた。前記一端の反対側の端部に、加圧バネ724(材料:硬鋼線)を取り付けた。この圧電セラミック振動子72aを、前記加圧バネ724を介して、外装筐体727内に取り付けた。このようにして、振動センサ1002を作製した。
【0056】
(2)各構成部材の接続
フィルタ増幅回路(電気フィルタ)1006を、前記電気端子726bに電気的に接続し、仮想接地型電流検出回路(振動電流測定回路)1003を、前記電気端子726cに電気的に接続した。前記振動電流測定回路1003と定電圧駆動回路(定電圧発振回路)1001とを電気的に接続した。前記定電圧発振回路1001と前記電気フィルタ1006とを電気的に接続した。このようにして、前述の構成部材がループ状に接続され、帰還型自励発振回路が構成されている、本比較例の機械特性測定装置1000を作製した。
【0057】
〔圧電セラミック振動子の機械特性の測定〕
前記電気端子726cに生じる振動電流の固有周期をTとし、振動電流の振幅値の最大値をIとしたこと以外は、実施例1と同様にして、圧電セラミック振動子の機械特性を測定した。なお、本比較例の機械特性測定装置では、振動電流を、電気フィルタにより分離しないため、本比較例では、1つの波長成分のみを測定対象とした。
【0058】
〔機械特性測定装置の使用〕
図10(b)に示すように、振動電流の固有周期をTとし、振動電流の振幅値の最大値をIとし、これらの測定データを、T/TおよびI/Iとして、本比較例の機械特性測定装置の性能評価値として定量化したこと以外は、実施例1と同様にした。それぞれ、100個のT/TおよびI/Iのうち、最大値と最小値を表4に示す。また、実施例1と同様に、前記被験者の頬に市販の保湿液を塗り、5分後に上記と同様に測定した。この結果を表5に示す。
【0059】
(表1)
実施例1(正弦波、保湿液なし)
ΔT/ΔT1 ΔT50/ΔT150
第1調波
最大値 5.0×10−7 0.13
最小値 4.2×10−7 0.11
第2調波
最大値 4.8×10−7 0.12
最小値 4.4×10−7 0.11
第3調波
最大値 4.7×10−7 0.11
最小値 4.6×10−7 0.11
【0060】
(表2)
実施例1(矩形波、保湿液なし)
ΔT/ΔT1 ΔT50/ΔT150
第1調波
最大値 5.1×10−7 0.14
最小値 4.4×10−7 0.11
第2調波
最大値 4.9×10−7 0.13
最小値 4.5×10−7 0.11
第3調波
最大値 4.8×10−7 0.11
最小値 4.7×10−7 0.10
【0061】
(表3)
実施例1(正弦波、保湿液あり)
ΔT/ΔT1 ΔT50/ΔT150
第1調波
最大値 7.0×10−7 0.26
最小値 6.2×10−7 0.20
第2調波
最大値 6.8×10−7 0.24
最小値 6.6×10−7 0.22
第3調波
最大値 6.7×10−7 0.23
最小値 6.7×10−7 0.23
【0062】
(表4)
比較例1(正弦波、保湿液なし)
T/T I/I
最大値 6.2×10−7 0.75
最小値 8.7×10−8 0.20
【0063】
(表5)
比較例1(正弦波、保湿液あり)
T/T I/I
最大値 9.0×10−7 0.85
最小値 1.0×10−8 0.25

【0064】
前記表1と前記表4とを比較すると、前記表1における実施例1のΔT/ΔT1の最大値と最小値との差は、20%以下であり、ΔT50/ΔT150の最大値と最小値との差も、20%以下である。一方、前記表4における比較例1のT/Tの最大値と最小値との差は、約7倍であり、I/Iの最大値と最小値との差は、約4倍である。このことから、実施例1の機械特性測定装置は、測定精度が高いことが分かる。また、調波成分の次数が高まると、さらに精度が向上していることが分かる。
前記表3と前記表5とを比較すると、前記表3における実施例1では、保湿液による被験者の肌の機械特性の変化を顕著に捉えている。一方、前記表5における比較例1では、保湿液による被験者の肌の機械特性の変化は、測定のバラツキ(誤差)の中に埋もれ、その変化を捉えることができていない。
なお、前記表1と前記表2とを比較すると、定電圧の波形が正弦波である場合の測定結果と、定電圧の波形が矩形波である場合の測定結果とは、振動電流の第1調波、第2調波、第3調波のいずれにおいても、ほぼ差異がない。すなわち、圧電振動子に印加する定電圧の波形は、測定精度に影響をおよぼさないことが分かる。
【符号の説明】
【0065】
10、70、90 機械特性測定装置
11 定電圧発振回路
12、72 振動センサ
12a 2端子型圧電振動子(2端子型圧電セラミック振動子)
13 振動電流測定回路(振動電流測定部)
14 切り替えスイッチ(第1のスイッチング手段および第2のスイッチング手段)
16 電気フィルタ
17 分析部
31 測定物
61 第1の波形
62 第2の波形
63 第3の波形
64 第4の波形
72a 3端子型圧電振動子(3端子型圧電セラミック振動子)
74 第1の電気スイッチ(第1のスイッチング手段)
75 第2の電気スイッチ(第2のスイッチング手段)
91 演算部
92 参照データ記憶装置
122a、722 棒状の圧電セラミック素子
122b 板状の圧電セラミック素子
123a、123b、723 接触子
124a、124b、724 加圧バネ
125a、125b、725a、725b、725c 電極
126a、126b、726a、726b、726c 電気端子
127、727 外装筐体
1000 従来の弾性特性測定装置
1001 定電圧駆動回路
1002 3端子型圧電振動子
1003 仮想接地型電流検出回路
1006 フィルタ増幅回路
1008 測定物に接触させていない状態の波形
1009 測定物に接触させている状態の波形
1100 従来の肌弾力センサ
1102 圧電セラミックス円柱
1103、1203 接触子
1104 加圧用のバネ
1107、1207 外装筐体
1200 肌年齢算出装置
1208 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物に接触させる圧電振動子を含む振動センサと、前記圧電振動子に電気エネルギーを供給する定電圧発振回路と、前記圧電振動子に生じた振動電流を測定する振動電流測定部と、オン/オフ切り替え可能な第1のスイッチング手段と、オン/オフ切り替え可能な第2のスイッチング手段とを備え、
前記定電圧発振回路が、前記振動センサに前記第1のスイッチング手段を介して、電気的に接続され、
前記振動センサが、前記振動電流測定部に前記第2のスイッチング手段を介して、電気的に接続されていることを特徴とする機械特性測定装置。
【請求項2】
前記振動電流測定部が、前記振動電流を固有周期成分に分離する電気フィルタを備えることを特徴とする請求項1記載の機械特性測定装置。
【請求項3】
さらに、参照データが格納された参照データ記憶部と、演算部とを備え、
前記振動電流測定部および前記参照データ記憶部が、前記演算部に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1または2記載の機械特性測定装置。
【請求項4】
前記参照データが、前記圧電振動子の測定データを含むことを特徴とする請求項3記載の機械特性測定装置。
【請求項5】
前記圧電振動子が、2端子型圧電振動子であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の機械特性測定装置。
【請求項6】
前記振動センサが、さらに、外装筐体を含み、
前記圧電振動子が、圧電セラミック素子と接触子と加圧バネとを含む圧電セラミック振動子であり、
前記圧電セラミック振動子が、前記外装筐体内に配置され、
前記接触子が、前記圧電セラミック素子の一端に配置され、
前記加圧バネが、前記圧電セラミック素子の他端に配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の機械特性測定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の機械特性測定装置を使用し、
前記測定物を前記圧電振動子に接触させる接触工程と、
前記接触後、前記第1のスイッチング手段をオンにし、前記第2のスイッチング手段をオフにした状態で、前記圧電振動子に、前記定電圧発振回路から電気エネルギーを供給して、前記圧電振動子および前記測定物に振動エネルギーを蓄積させる電気エネルギー供給工程と、
前記蓄積後、前記第1のスイッチング手段をオフにして、前記定電圧発振回路と前記振動センサとの電気的な接続を切断することで、前記圧電振動子への前記電気エネルギーの供給を停止する電気エネルギー供給停止工程と、
前記停止後、前記第2のスイッチング手段をオンにして、前記振動センサと前記振動電流測定部とを電気的に接続することで、前記接続により生じた経過時間に応じて減衰する振動電流を、前記振動電流測定部で測定する振動電流測定工程とを含むことを特徴とする機械特性測定装置の使用方法。
【請求項8】
前記機械特性測定装置が、請求項2から6のいずれか一項に記載の機械特性測定装置であり、
前記振動電流測定工程において、前記固有周期成分に分離された前記振動電流を測定することを特徴とする請求項7記載の機械特性測定装置の使用方法。
【請求項9】
前記機械特性測定装置が、請求項3から6のいずれか一項に記載の機械特性測定装置であり、
さらに、前記振動電流の測定により得られたデータと前記参照データとを比較するデータ比較工程を含むことを特徴とする請求項7または8記載の機械特性測定装置の使用方法。
【請求項10】
前記データ比較工程において、前記固有周期成分から固有周期データを演算し、前記固有周期データと前記参照データとを比較することを特徴とする請求項9記載の機械特性測定装置の使用方法。
【請求項11】
前記データ比較工程において、前記固有周期成分から振幅減衰データを演算し、前記振幅減衰データと前記参照データとを比較することを特徴とする請求項9または10記載の機械特性測定装置の使用方法。
【請求項12】
前記振幅減衰データを用いて、所定の振幅減衰割合を示す時間データを演算し、前記時間データと前記参照データとを比較することを特徴とする請求項11記載の機械特性測定装置の使用方法。
【請求項13】
前記機械特性測定装置が、請求項4から6のいずれか一項に記載の機械特性測定装置であり、
さらに、前記振動電流の測定データと前記圧電振動子の測定データとを比較して、前記測定物を評価する評価工程を含むことを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載の機械特性測定装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−5058(P2011−5058A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153067(P2009−153067)
【出願日】平成21年6月27日(2009.6.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】