説明

機械設備の異常診断装置及び異常診断方法

【課題】ノイズの影響を受け難くして、診断精度をできるだけ確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる異常診断装置及び異常診断方法を提供する。
【解決手段】回転部品を備えた機械設備の異常診断装置は、周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線の周波数成分と、回転部品の回転速度信号に基づいて算出した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき回転部品の異常の有無及び異常部位を判定する。周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線fは、周波数分析により得られる実測スペクトル曲線fから第1平均スペクトル曲線fを算出し、実測スペクトル曲線fについて第1平均スペクトル曲線fより大きい成分を除去したスペクトル曲線fを導き、さらにスペクトル曲線fから第2平均スペクトル曲線fを算出し、実測スペクトル曲線fについて第2平均スペクトル曲線fを差し引くことで与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械設備、例えば、減速機や電動機あるいは風車や鉄道車両等に用いられる回転部品の異常診断装置及び異常診断方法に関し、特に、該部品の異常の有無や前兆、或いはその異常部位を特定する異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等の回転装置の軸受部に対する異常診断方法としては、既に様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。最も一般的なものとしては、特許文献1に記載されるように、軸受部に加速度計を設置し、該軸受部の振動加速度を計測し、更に、この信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行って振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行う方法が知られている。
【特許文献1】特開2002−22617号公報
【特許文献2】特開2004−93256号公報
【特許文献3】特開2004−184400号公報
【特許文献4】特開2004−198384号公報
【特許文献5】特開2005−17128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の異常診断方法では、ノイズなどの影響で診断精度が悪くなり誤診断となる虞があった。特に、ベースノイズが低周波領域と高周波領域とで大きく異なる場合には振動発生周波数成分のピーク抽出後の異常診断に影響を及ぼすことになる。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノイズの影響を受け難くして、診断精度をできるだけ確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる異常診断装置及び異常診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 機械設備の回転部品の振動に起因して発生する物理量を電気信号として出力する検出部と、電気信号の波形にエンベロープ分析及び周波数分析を行い、周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線の周波数成分と、回転部品の回転速度信号に基づいて算出した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、を備える異常診断装置であって、
周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線は、周波数分析により得られる実測スペクトル曲線から第1平均スペクトル曲線を算出し、実測スペクトル曲線について第1平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線を導き、さらにスペクトル曲線から第2平均スペクトル曲線を算出し、実測スペクトル曲線について第2平均スペクトル曲線を差し引くことで与えられることを特徴とする異常診断装置。
(2) 第1平均スペクトル曲線は、実測スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする(1)に記載の異常診断装置。
(3) 第2平均スペクトル曲線は、スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする(1)または(2)に記載の異常診断装置。
(4) 振動に起因して発生する物理量は、振動、加速度、音、超音波、AEのいずれかであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の異常診断装置。
(5) 検出部から出力される電気信号には、増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方が施されることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(6) 信号処理部による処理、及び判定結果を制御部に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の異常診断装置。
(7) 機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の異常診断装置。
(8) 機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の異常診断装置。
(9) 機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の異常診断装置。
(10) 機械設備の回転部品の振動に起因して発生する物理量を電気信号として出力し、電気信号の波形にエンベロープ分析及び周波数分析を行い、周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線の周波数成分と、回転部品の回転速度信号に基づいて算出した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき部品の異常の有無及び異常部位を判定する異常診断方法であって、
周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線は、周波数分析により得られる実測スペクトル曲線から第1平均スペクトル曲線を算出し、実測スペクトル曲線について第1平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線を導き、さらにスペクトル曲線から第2平均スペクトル曲線を算出し、実測スペクトル曲線について第2平均スペクトル曲線を差し引くことで与えられることを特徴とする異常診断方法。
(11) 第1平均スペクトル曲線は、実測スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする(10)に記載の異常診断方法。
(12) 第2平均スペクトル曲線は、スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする(10)または(11)に記載の異常診断方法。
(13) 振動に起因して発生する物理量は、振動、加速度、音、超音波、AEのいずれかであることを特徴とする(10)〜(12)のいずれかに記載の異常診断方法。
(14) 検出部から出力される電気信号は、増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施すことを特徴とする(10)〜(13)のいずれかに記載の異常診断方法。
(15) 信号処理部による処理、及び判定結果を制御部に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする(10)〜(14)のいずれかに記載の異常診断方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、診断用スペクトル曲線として、周波数分析により得られる実測スペクトル曲線からノイズ成分を除去したものを用いることができ、簡単な構成で、ノイズの影響を受け難くして、診断精度をできるだけ確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態に係る異常診断装置及び異常診断方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0008】
まず、図1に示されるように、本実施形態の異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を検出する検出部20と、検出部20の出力した電気信号から機械設備10の異常等の状態を判定するための信号処理部32及び機械設備10を駆動制御する制御部34とを備えた制御器30と、モニタや警報機等の出力装置40とを備える。
【0009】
機械設備10には、回転部品である転がり軸受12が設けられており、転がり軸受12は、回転軸(図示せず)に外嵌される回転輪である内輪14と、ハウジング(図示せず)に内嵌される固定輪である外輪16と、内輪14及び外輪16との間に配置された複数の転動体である玉18と、玉18を転動自在に保持する保持器(図示せず)とを備える。
【0010】
検出部20は、運転中に転がり軸受12から発生する振動を検出するための加速度センサ22を備える。加速度センサ22は、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着、或いはモールド材による埋め込み等によってハウジングの外輪近傍に固定されている。なお、ボルト固定の場合には、回り止め機能を備えるようにしてもよい。また、センサ22をモールドする場合には、防水性が図られると共に、外部からの加振に対する防振性が向上するため、センサ22自体の信頼性を飛躍的に向上することができる。
【0011】
加えて、振動を検出するセンサとして、加速度センサ22を示したが、ほかにも、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、ショックパルスセンサ、マイクロホン等や、或いは、速度、加速度、歪み、応力、変位型等、転がり軸受12の振動に起因して発生する物理量を電気信号化できるものであればよい。また、ノイズが多いような機械装置に取り付ける際には、絶縁型を使用する方がノイズの影響を受けることが少ないので好ましい。さらに、圧電素子等の振動検出素子を使用する場合には、この素子をプラスチック等にモールドして構成してもよい。
【0012】
信号処理部32及び制御部34を備える制御器30は、マイクロコンピュータ(ICチップ,専用マイクロチップ,CPU,MPU,DSP等)によって構成されており、データ伝送手段24を介してセンサ22からの電気信号を受け取る。
【0013】
信号処理部32は、図2に示されるように、データ蓄積分配部50、回転分析部52、フィルタ処理部54、振動分析部56、診断用スペクトル算出部58、比較判定部60、及び内部メモリ62を備える。データ蓄積分配部50は、センサ22からの電気信号及び回転速度に関する電気信号を受け取り一時的に蓄積すると共に、信号の種類に応じて各分析部52,56の何れかに信号を振り分ける収集および分配機能を有している。各種信号は、データ蓄積分配部50に送られる以前に、図示しないA/Dコンバータによりデジタル信号にA/D変換され、図示しない増幅器によって増幅された後にデータ蓄積分配部50に送られる。なお、A/D変換と増幅は、順序が逆であっても構わず、また、いずれか一方が行われてもよい。
【0014】
回転分析部52は、回転速度を検出するセンサ(図示せず)からの出力信号を基に、内輪14、即ち回転軸の回転速度を算出し、算出した回転速度を比較判定部60に送信する。なお、上記検出素子が、内輪14に取り付けられたエンコーダと外輪16に取り付けられた磁石及び磁気検出素子で構成されている場合には、検出素子が出力する信号は、エンコーダの形状と回転速度に応じたパルス信号となる。回転分析部52は、エンコーダの形状に応じた所定の変換関数又は変換テーブルを有しており、関数またはテーブルに従って、パルス信号から内輪14及び回転軸の回転速度を算出する。
【0015】
フィルタ処理部54は、回転部品である転がり軸受12の固有振動数に基づいて、振動信号からその固有振動数に対応する所定の周波数帯域のみを抽出し、不要な周波数帯域を除去する。この固有振動数は、回転部品を被測定物として、打撃法により加振し、被測定物に取り付けた振動検出器又は打撃により発生した音響を周波数分析することにより容易に求めることができる。なお、被測定物が軸受の場合には、内輪、外輪、転動体、保持器等のいずれかに起因する固有振動数が与えられる。一般的に、機械部品の固有振動数は複数存在し、また固有振動数での振幅レベルは高くなるため測定の感度がよい。
【0016】
振動分析部56は、センサ22からの出力信号を基に、絶対値処理やエンベロープ処理を行った後、軸受12に発生している振動の周波数分析を行う。具体的に、振動分析部56は、振動信号の周波数スペクトルを算出するFFT計算部を備え、FFTのアルゴリズムに基づいて、振動の周波数スペクトルを算出する。算出された周波数スペクトルは、診断用スペクトル算出部58に送信される。
【0017】
診断用スペクトル算出部58は、振動分析部56にて算出された実測スペクトル曲線fについて位相補償フィルタを用いて第1平均スペクトル曲線fを算出する。次に、実測スペクトル曲線fについて第1平均スペクトル曲線fより大きい成分を除去したスペクトル曲線fを算出する。さらに、スペクトル曲線fについて位相補償フィルタを用いて第2平均スペクトル曲線fを算出する。最後に、実測スペクトル曲線fについて第2平均スペクトル曲線fを差し引いた診断用スペクトル曲線fを算出する。なお、ここでは、位相補償フィルタを用いて第1、第2平均スペクトル曲線f、fを算出したが、移動平均等を用いて算出してもよい。
【0018】
比較判定部60は、転がり軸受12に起因した周波数成分と診断用スペクトル算出部58による振動の診断用スペクトル曲線fの周波数成分とを比較照合する。本実施形態では、比較判定部60は、診断用スペクトル曲線fから基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する一方、図5に示す関係式を用いて転がり軸受の傷に起因する周波数(振動発生周波数)を計算し、診断用スペクトル曲線fから振動発生周波数での音圧レベル(又は電圧レベル)を抽出して、基準値と比較している。さらに、比較判定部60は、判定結果に基づき、異常の有無及び異常部位の特定を行う。
【0019】
なお、振動発生周波数の演算は、これより前に行ってもよく、以前に同様の診断を行っている場合には、内部メモリ62に記憶し、そのデータを用いてもよい。また、算出に用いる各回転部品の設計諸元データは事前に入力記憶させておく。
【0020】
そして、比較判定部60での判定結果は、メモリやHDD等の内部メモリ62に保存されても良いし、データ伝送手段42を介して出力装置40へ伝送されてもよい。また、この判定結果を、機械設備10の駆動機構の動作を制御する制御部34へ出力し、この判定結果に応じた制御信号をフィードバックするようにしてもよい。
【0021】
また、出力装置40は、判定結果をモニタ等にリアルタイムに表示してもよいし、異常が検出された場合にはライトやブザー等の警報機を使って異常の通知を行なってもよい。なお、データ伝送手段24,42は、的確に信号を送受信可能であれば良く、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用しても良い。
【0022】
次に、図3を参照して、振動信号を基にした異常診断の処理フローの具体例について説明する。
【0023】
まず、センサ31は各回転部品の振動を検出する(ステップS101)。検出された振動信号は、A/D変換器によりデジタル信号に変換され(ステップS102)、所定の増幅率で増幅された後(ステップS103)、フィルタ処理部54により振動信号のノイズ成分を除去または所定の周波数帯域のみを抽出するフィルタ処理が行われる(ステップS104)。その後、振動分析部56では、フィルタ処理後のデジタル信号に対してエンベロープ処理を施し(ステップS105)、エンベロープ処理後のデジタル信号の周波数スペクトルを求め(ステップS106)、さらに、診断用スペクトル算出部58にて、周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線fを算出する(ステップS107)。
【0024】
図4は、診断用スペクトル曲線fの算出方法を示す。まず、振動分析部56にて算出された実測スペクトルデータを抽出することで実測スペクトル曲線fが得られる(図4(a)及び(b)参照)。この実測スペクトル曲線fについて位相補償フィルタを用いて平均化することにより第1平均スペクトル曲線fが算出される(図4(c)参照)。次に、スペクトル曲線fについて第1平均スペクトル曲線fより大きい成分を除去することでスペクトル曲線fが算出される(図4(d)参照)。さらに、スペクトル曲線fについて位相補償フィルタを用いて平均化することにより第2平均スペクトル曲線fが算出される(図4(e)参照)。最後に、実測スペクトル曲線fについて第2平均スペクトル曲線fを差し引いたスペクトル曲線fを求め、これを診断用スペクトル曲線fとして適用する(図4(f)及び(g)参照)。
【0025】
次に、図5に示す関係式から、回転速度信号に基づき各回転部品の異常に起因して発生する振動発生周波数を求め(ステップS108)、求めた周波数に対して各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(転がり軸受12の場合には、軸受傷成分Sx、即ち、内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc)を求める(ステップS109)。
【0026】
一方、診断用スペクトル算出部で得られた診断用スペクトル曲線fから異常診断に用いられる基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する(ステップS110)。ここで、この基準値は、任意の時間におけるスペクトル曲線のデジタル信号の実効値、クレストファクタ(ピーク値/実効値)、クルトシス、ピーク値、またこれらの値を基に算出したものであってもよい。
【0027】
次いで、ステップS109で算出された各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(又は電圧レベル)とステップS110で計算された基準値との比較を設計諸元の異なる回転部品毎に分けて順番に行う(ステップS111)。全ての成分が一致しない時は回転部品に異常なしとして判断する(ステップS112)。一方、いずれかの成分が一致する場合には、異常有りと判断してその異常部位を特定する(ステップS113)と共に、その照合結果を制御部34や、モニタや警報機等の出力装置40に出力する(ステップS114)。
【0028】
このように本実施形態では、診断用スペクトル算出部58にて得られた診断用スペクトル曲線fの周波数成分と回転部品に起因した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき回転部品の異常の有無及び異常部位を判定するようにしたので、診断用スペクトル曲線fとして、周波数分析により得られる実測スペクトル曲線からノイズ成分を除去したものを用いることができ、簡単な構成で、ノイズの影響を受け難くして、診断精度をできるだけ確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる。
【0029】
さらに、本実施形態の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、信号処理部をマイクロコンピュータで構成するようにしたので、信号処理部がユニット化され、異常診断装置の小型化やモジュール化を図ることができる。
【0030】
次に、図6を参照して、本発明の第2実施形態に係る異常診断装置及び異常診断方法について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略あるいは簡略化する。
【0031】
本実施形態は、複数の転がり軸受12,12を備えた機械設備70の異常診断装置において、センサ22を含んだ検出部とマイクロコンピュータ50からなる信号処理部とを組み合わせた、単一の処理ユニット80を転がり軸受12の軸受装置内に組み込んでいる。これにより、異常診断装置は管理を集中して行えるため、効率的な監視が可能である。また、単一の処理ユニットを軸受装置内に組み込むことで、装置全体がコンパクトになるといったメリットがあり好ましい。なお、この単一の処理ユニットは、機械設備内に組み込んでコンパクト化を図っても良く、また、複数の転がり軸受に対して単一の処理ユニットを構成するようにしても良い。
その他の構成および作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本実施形態の診断用スペクトル曲線は、実測スペクトル曲線から第1平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線を導き、このスペクトル曲線から導かれる第2平均スペクトル曲線を実測スペクトル曲線から差し引くことで算出されるが、実測スペクトル曲線から第2平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線について再度平均スペクトル曲線を算出し、この平均スペクトル曲線を実測スペクトル曲線から差し引いて診断用スペクトル曲線としてもよく、平均スペクトル曲線の算出と、実測スペクトル曲線から平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線を導く工程を複数回行って得てもよい。
【0033】
本発明の機械設備は、異常診断対象である回転部品を備えたものであればよく、鉄道車両用軸受装置、風車用軸受装置、工作機械主軸用軸受装置等を含む。特に、本発明の異常診断装置を鉄道車両用軸受装置に適用することで、速度が変化したり、カーブ走行等で正常時でも振動加速度が変化する条件で使用される場合にも正確な異常診断を行うことができる。また、本発明の異常診断装置を風車用軸受装置に適用することで、風向きや風の強さ、さらには外部温度が変化する条件下で長期に亘り使用される場合でも信頼性を確保した異常診断を提供でき、加えて、本発明の異常診断装置を工作機械主軸用軸受装置に適用することで、高速、高精度での回転条件下での正確な異常診断を提供できる。
【0034】
また、回転部品としては、転がり軸受、歯車、車輪、ボールねじ等であってもよく、損傷によって周期的な振動を発生する部品であれば良い。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の異常診断装置及び異常診断方法を用いた具体例について示す。
【0036】
図7は、外輪軌道面に欠陥をつけた円すいころ軸受(内径130mm,外径245mm,幅170mmの複列円すいころ軸受)の内輪が200min-1で回転中にノイズが入った時のハウジングの振動をエンベロープ処理後に周波数分析を行い、本手法を用いて算出した診断用スペクトル曲線を表示したものであり、図8は本手法を用いずに周波数分析後の実測スペクトル曲線をそのまま表示したものである。ここで、実線はスペクトル曲線、点線は基準値(実効値の2倍)、一点鎖線は回転速度200min-1に基づく外輪損傷に起因した周波数成分を示している。
【0037】
図8では、ベースノイズ(特に低周波領域)が大きいため軸受の発生周波数のピークとのSN比が悪く、基準値を超えるピークがほとんど存在しない状態になっており、軸受に起因した周波数成分との照合が困難になっている。つまり、この場合は、1次成分が一致しているが、ノイズ成分なのか、軸受に起因した成分なのか分別が困難なため、診断精度に影響を及ぼしている。一方、図7に示す診断用スペクトル曲線では、基準値を越えるピークが外輪損傷に起因した周波数成分と一致していることがはっきりとわかり、軸受の外輪が損傷していると精度よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図2】図1の信号処理部のブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態である異常診断方法を示すフローチャートである。
【図4】診断用スペクトル算出部の算出方法を説明するための図である。
【図5】軸受の傷の部位と、傷に起因して発生する振動発生周波数の関係を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図7】本発明の異常診断を説明するための診断用スペクトル曲線のグラフである。
【図8】従来の異常診断を説明するための実測スペクトル曲線のグラフである。
【符号の説明】
【0039】
10 機械設備
12 転がり軸受(回転部品)
20 検出部
22 センサ
30 制御器
32 信号処理部
34 制御部
40 出力装置
50 データ蓄積分配部
52 回転分析部
54 フィルタ処理部
56 振動分析部
58 診断用スペクトル算出部
60 比較判定部
62 内部メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備の回転部品の振動に起因して発生する物理量を電気信号として出力する検出部と、前記電気信号の波形にエンベロープ分析及び周波数分析を行い、前記周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線の周波数成分と、前記回転部品の回転速度信号に基づいて算出した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、を備える異常診断装置であって、
前記周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線は、前記周波数分析により得られる実測スペクトル曲線から第1平均スペクトル曲線を算出し、前記実測スペクトル曲線について前記第1平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線を導き、さらに該スペクトル曲線から第2平均スペクトル曲線を算出し、前記実測スペクトル曲線について前記第2平均スペクトル曲線を差し引くことで与えられることを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
前記第1平均スペクトル曲線は、前記実測スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記第2平均スペクトル曲線は、前記スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする請求項1または2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記振動に起因して発生する物理量は、振動、加速度、音、超音波、AEのいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記検出部から出力される電気信号には、増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方が施されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項6】
前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御部に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項7】
前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項8】
前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項9】
前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項10】
機械設備の回転部品の振動に起因して発生する物理量を電気信号として出力し、前記電気信号の波形にエンベロープ分析及び周波数分析を行い、前記周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線の周波数成分と、前記回転部品の回転速度信号に基づいて算出した周波数成分とを比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する異常診断方法であって、
前記周波数分析に基づく診断用スペクトル曲線は、前記周波数分析により得られる実測スペクトル曲線から第1平均スペクトル曲線を算出し、前記実測スペクトル曲線について前記第1平均スペクトル曲線より大きい成分を除去したスペクトル曲線を導き、さらに該スペクトル曲線から第2平均スペクトル曲線を算出し、前記実測スペクトル曲線について前記第2平均スペクトル曲線を差し引くことで与えられることを特徴とする異常診断方法。
【請求項11】
前記第1平均スペクトル曲線は、前記実測スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする請求項10に記載の異常診断方法。
【請求項12】
前記第2平均スペクトル曲線は、前記スペクトル曲線から位相補償フィルタを用いて算出されることを特徴とする請求項10または11に記載の異常診断方法。
【請求項13】
前記振動に起因して発生する物理量は、振動、加速度、音、超音波、AEのいずれかであることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の異常診断方法。
【請求項14】
前記検出部から出力される電気信号は、増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施すことを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の異常診断方法。
【請求項15】
前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御部に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の異常診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−263609(P2007−263609A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85843(P2006−85843)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】