説明

機械部品

【課題】適度な生分解性、優れた耐熱性、及び耐加水分解性を兼ね備えた機械部品を提供する。
【解決手段】内輪11と、外輪12と、該両輪11,12の間に転動自在に配された複数の玉13と、両輪11,12の間に複数の玉13を保持する冠形保持器14と、両輪11,12の間に介在された接触形のシール15と、を備える深溝玉軸受において、保持器14を、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体とガラス繊維とを含有する生分解性樹脂組成物で構成した。また、シール15を、ポリアミド4誘導体と炭酸カルシウムウィスカーとを含有する生分解性樹脂組成物で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物で構成された機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂は、土壌中等に放置されるとバクテリア等によって二酸化炭素及び水等に徐々に分解される。よって、生分解性樹脂で構成された樹脂製品は、自然環境に放出されても原形を留めなくなるまで自然に分解されるので、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。このようなことから生分解性樹脂は、主にゴミ袋,ボトル容器,農業用マルチフィルム等の材料として使用され、その使用量は近年増加傾向にある。
【0003】
現在、一般によく使用されている生分解性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート,ポリエチレンサクシネート,ポリカプロラクトン,ポリ乳酸等があるが、そのほとんどは脂肪族ポリエステル樹脂である。これらの脂肪族ポリエステル樹脂は耐熱性がそれほど高くはないので、生分解性樹脂の用途を拡大するために、上記の脂肪族ポリエステル樹脂よりも高融点(約200℃)のものが開発されている。例えば、ポリエチレンテレフタレートの分子構造中に脂肪族ポリエステル構造を含有させたもの(ポリエチレンテレフタレートブチレンサクシネート等)やポリビニルアルコールなどである。
【特許文献1】特許第3791439号公報
【特許文献2】特開2005−29752号公報
【特許文献3】特開2002−89567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような耐熱性に優れる生分解性樹脂には、以下のような問題点があるため、転がり軸受等の機械部品を構成する材料に適用することは困難であった。
(1)例えば転がり軸受の保持器は、一般的に、ポリアミド66にガラス繊維等の繊維強化材を含有させた樹脂組成物で構成されているが、上記耐熱性に優れる生分解性樹脂の長期耐熱温度は80〜100℃程度で、ポリアミド66に比べると耐熱性が低いため、転がり軸受の保持器の材料としては不適である。
【0005】
(2)ポリエステル系樹脂は、使用環境によっては容易に加水分解が進行し、物性が低下する。よって、機械部品に破損が生じるおそれがある。
(3)ポリビニルアルコールは水溶性を有するため、機械部品の使用環境が非常に限定される。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、適度な生分解性、優れた耐熱性、及び耐加水分解性を兼ね備えた機械部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の機械部品は、生分解性樹脂を含有する樹脂組成物で構成された機械部品において、前記生分解性樹脂を、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体としたことを特徴とする。
また、本発明に係る請求項2の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に前記転動体を保持する保持器と、を備える転がり軸受において、前記内輪,前記外輪,前記転動体,及び前記保持器のうち少なくとも前記保持器を、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体を含有する樹脂組成物で構成したことを特徴とする。
【0007】
ポリアミド4誘導体は、出発原料である2−ピロリドンと重合開始剤であるポリカルボン酸誘導体とを重合して得られるポリアミドである。このポリアミド4誘導体は、前述した従来の耐熱性に優れる生分解性樹脂と比べて優れた耐熱性及び機械的性質を有する生分解性樹脂であるので、優れた耐熱性が要求される転がり軸受等の機械部品の構成材料として好適に使用することが可能である。
【0008】
また、ポリアミド4誘導体は適度な生分解性を有しているので、土壌中等の自然環境に放出されると自然に分解され、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。よって、本発明の転がり軸受等の機械部品は、土壌中等の自然環境に廃棄処分することも可能であり、使用後の廃棄が容易となる。
さらに、ポリアミド4誘導体の化学構造中のアミド結合は、エステル結合に比べて耐加水分解性に優れるため、従来の生分解性樹脂と比べて使用中での機械的性質の経時的な低下が生じにくい。よって、本発明の転がり軸受等の機械部品は、信頼性が高い。
【0009】
ポリカルボン酸誘導体の種類は特に限定されるものではないが、ポリカルボン酸としては、例えば、ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等)、トリカルボン酸(トリメリット酸、トリカルバリリル酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸等)、テトラカルボン酸(1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸等)、オキシジカルボン酸(リンゴ酸、酒石酸等)、オキシトリカルボン酸(クエン酸等)があげられる。また、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、テトラエチレンペンタミン七酢酸、エチレンジアミンテトラプロピオン酸、ポリアクリル酸等もあげることができる。
【0010】
ただし、ポリカルボン酸を2−ピロリドンの重合反応に使用する際には、ポリカルボン酸誘導体として使用することが好ましい。ポリカルボン酸が、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸、オキシジカルボン酸、及びオキシトリカルボン酸である場合には、カルボン酸のハロゲン化物、酸無水物、エステルのような活性化されたポリカルボン酸誘導体を重合開始剤として使用することが好ましい。
【0011】
また、ポリカルボン酸がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、テトラエチレンペンタミン七酢酸などの、ポリアミンにアルキレン基を介して複数のカルボキシル基が結合している化合物の場合には、これらのポリカルボン酸のエステルを重合開始剤として使用することが好ましい。
具体的には、1,3,5−ベンゼントリカルボニルクロライド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボニルクロライド、1,2,3−プロパントリカルボニルクロライド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸メチル、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸メチル、エチレンジアミン四酢酸エチル、ジエチレントリアミン五酢酸エチル、トリエチレンテトラミン六酢酸エチル、ポリアクリロイルクロライド、N,N’,N’,N”,N”−ヘプタカルボメトキシエチルテトラエチレンペンタミン等があげられる。
【0012】
なお、重合は触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては塩基性重合触媒が好ましく、具体例としては、アルカリ金属(ナトリウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物(水素化ナトリウム、水素化カルシウム等)、有機金属化合物(n−ブチルリチウム等) があげられる。これらの中では、重合結果が良好であることから、ナトリウムが特に好ましい。
【0013】
ポリアミド4誘導体は、ポリカルボン酸誘導体を中心としてポリアミド4が外方に延びた分子構造を有している。ポリカルボン酸誘導体がジカルボン酸誘導体又はオキシジカルボン酸誘導体である場合は、ポリアミド4誘導体の分子構造は直鎖状である。一方、ポリカルボン酸誘導体がトリカルボン酸誘導体、テトラカルボン酸誘導体、オキシトリカルボン酸誘導体、エチレンジアミン四酢酸誘導体、ジエチレントリアミン五酢酸誘導体、トリエチレンテトラミン六酢酸誘導体、テトラエチレンペンタミン七酢酸誘導体、エチレンジアミンテトラプロピオン酸誘導体、ポリアクリル酸誘導体等である場合は、ポリアミド4誘導体の分子構造は分岐鎖状である。
【0014】
分岐鎖状のポリアミド4誘導体は、直鎖状のものよりも分子同士の絡み合い度合いが大きく、より高強度,高融点であるため、機械部品の材料としてより好適である。ポリアミド4誘導体の融点は250℃以上270℃以下であり、ポリアミド66の融点とほぼ同じである。
また、ポリアミド4誘導体の数平均分子量は10000以上50000以下が好ましく、射出成形での成形性と機械的強度を考慮すると、15000以上35000以下がより好ましい。
【0015】
ポリアミド4誘導体を含有する樹脂組成物には、機械的強度を向上させるために充填材を添加してもよい。機械的強度を向上させるためには、ガラス繊維,炭素繊維等の繊維強化材が好ましいが、土壌中等の自然環境に放出された場合の自然環境に対する悪影響を考慮すると、軽質炭酸カルシウム(結晶形はカルサイトやアルゴナイト),天然含水ケイ酸アルミニウム(カオリン、クレー),タルク,ベントナイト,繊維状水酸化マグネシウム,ウォラストナイト,セピオライト,カーボンブラック,マイカ,二酸化ケイ素,珪藻土等が好ましい。
さらに、ポリアミド4誘導体を含有する樹脂組成物には、熱劣化を抑制するために、ポリアミド66等に使用されるp−フェニレンジアミン系化合物等のアミン系酸化防止剤や、ヨウ化銅とヨウ化カリウムの混合物からなる銅系熱安定剤を添加してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る転がり軸受等の機械部品は、優れた耐熱性を有している。また、適度な生分解性及び耐加水分解性を有しているので、使用時に機械的性質の経時的な低下が生じにくい。よって、種々の産業分野において使用することが可能である。
さらに、生分解性を有しているので、土壌中等の自然環境に放出されると自然に分解され、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。よって、土壌中等の自然環境に廃棄処分することも可能であり、使用後の廃棄が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔第一実施形態〕
本発明に係る機械部品の一実施形態である深溝玉軸受の構造を、図1の縦断面図を参照しながら詳細に説明する。
図1の深溝玉軸受は、内輪11と、外輪12と、該両輪11,12の間に転動自在に配された複数の玉(転動体)13と、両輪11,12の間に複数の玉13を深溝玉軸受の円周方向にわたって等配に保持する冠形保持器14(図2を参照)と、両輪11,12の間に介在された接触形のシール15と、を備えている。
【0018】
このシール15は環状で、外輪12の内周面に設けられたシール溝12aに嵌合するための取付嵌合部15a(外周縁部)と、内輪11の外周面に滑り接触するリップ部15bと、取付嵌合部15aとリップ部15bとを連結する連結部15cと、で構成されている。このようなシール15は外輪12の両端部の内周面に取り付けられて、外輪12の内周面と内輪11の外周面との間の開口部分を覆っている。そして、外部からの異物の侵入や内部からのグリースの漏出を防止している。なお、シール15は非接触形でもよいし、金属製又は樹脂製の芯金を有しているタイプでもよい。
【0019】
このような深溝玉軸受の保持器14及びシール15は、生分解性樹脂組成物を射出成形することによって得られたものである。すなわち、保持器14は、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体74.5質量%と、繊維補強材であるガラス繊維25質量%と、酸化防止剤0.5質量%と、を混合した樹脂組成物で構成されている。また、シール15は、ポリアミド4誘導体85質量%と、補強材である炭酸カルシウムウィスカー(アルゴナイト)15質量%と、を混合した樹脂組成物で構成されている。
【0020】
また、内輪11,外輪12,及び玉13は軸受鋼で構成されている。さらに、内輪11,外輪12,及びシール15,15で囲まれた軸受内部空間には、生分解性を有する潤滑剤(潤滑油,グリース等)が封入されている。
これらの樹脂組成物は、優れた耐熱性を有するとともに、使用時に機械的性質の経時的な低下が生じにくいので、該樹脂組成物でその一部が構成された上記の深溝玉軸受は、転がり軸受として十分な性能を備えている。また、この深溝玉軸受が土壌中等の自然環境に放出されても、前記樹脂組成物で構成された部分は自然に分解されるから、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。
【0021】
なお、内輪11,外輪12,及び玉13についても、生分解性樹脂組成物で構成することができる。例えば、ポリアミド4誘導体60質量%と、充填材である前述の炭酸カルシウムウィスカー40質量%と、からなる生分解性樹脂組成物で構成することができる(保持器14及びシール15については、前述と同様の生分解性樹脂組成物で構成されている)。
このような深溝玉軸受は、全体が生分解性樹脂組成物で構成されているので、土壌中等の自然環境に放出された場合は、全体が自然に分解される。したがって、自然環境に対する悪影響が極めて小さい。このような深溝玉軸受は土壌中等の自然環境に廃棄処分することも可能であるので、使用後の廃棄が容易である。
【0022】
また、前記樹脂組成物の耐熱性,生分解性,機械的性質等に悪影響を及ぼさない範囲で、且つ前記樹脂組成物が分解されて自然環境に放出された際に自然環境に悪影響を与えない範囲であれば、所望により前記樹脂組成物に各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)やポリアミド4誘導体以外の樹脂を配合してもよい。
なお、この第一実施形態は本発明の一例を示したものであり、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0023】
〔第二実施形態〕
図3は、本発明に係る機械部品の一実施形態である直動案内軸受装置の構造を示す斜視図である。また、図4は、図3の直動案内軸受装置を軸方向から見た正面図(ただし、エンドキャップを省略して図示している)である。
角形の案内レール31上に、横断面形状がほぼコ字形のスライダ32が軸方向に相対移動可能に取り付けられている。このスライダ32は、スライダ本体32Aの軸方向の両端部にエンドキャップ32B,32Bが着脱可能に固着されて構成されている。
【0024】
また、案内レール31の上面31aと両側面31b,31bが交差する稜線部には、断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝である転動体転動溝33A,33Aが軸方向に形成されている。さらに、案内レール31の両側面31b,31bの中間位置には、断面ほぼ半円形の凹溝である転動体転動溝33B,33Bが軸方向に形成されている。なお、転動体転動溝33Bの溝底には、転動体35の脱落を防ぐ後述の保持器36のための逃げ溝33aが、軸方向に形成されている。
【0025】
一方、スライダ32の本体32Aの両袖部34,34の内側のコーナ部には、案内レール31の転動体転動溝33Aに対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝41が形成され、両袖部34,34の内側面の中央部には案内レール31の転動体転動溝33Bに対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝42が形成されている。
そして、上記の案内レール31の転動体転動溝33Aとスライダ32の負荷転動体転動溝41とで負荷転動体転動路43が構成され、案内レール31の転動体転動溝33Bとスライダ32の負荷転動体転動溝42とで負荷転動体転動路44が構成されている。
【0026】
また、スライダ本体32Aの袖部34の上部肉厚に、負荷転動体転動路43に平行な軸方向に延びる断面円形の貫通孔からなる転動体戻し路45が形成され、袖部34の下部肉厚内に、負荷転動体転動路44に平行な同様の軸方向に延びる貫通孔からなる転動体戻し路46が形成されている。
エンドキャップ32Bは樹脂材料の射出成形品であり、断面ほぼコ字状に形成されている。そして、スライダ本体32Aとの接合面(裏面)には、図5に示すように、斜めに傾斜した半円状の上凹部51と下凹部52とが、両袖分部34,34の上下に形成されるとともに、半円状の両凹部51,52の中心部を横断して半円柱状の凹溝53が設けてある。
【0027】
そして、その半円柱状の凹溝53には、樹脂材料を射出成形して得た半円筒状のリターンガイド55(図6を参照)が嵌合される。なお、図7は、リターンガイド55が装着されたエンドキャップ32Bの斜視図である。このリターンガイド55の外径面の中央部には、転動体35の案内面となる断面円弧状の凹溝56が半円状に形成され、また、リターンガイド55の内径側の凹部57は潤滑剤通路であり、その凹部57から外径側の凹溝56に抜ける貫通孔57Aが給油孔として形成されている。
【0028】
このようなリターンガイド55を半円柱状の凹溝53に組み込むことにより、エンドキャップ32Bの裏面に断面円形の半ドーナツ状の湾曲路58が上下二段に形成される(図8を参照)。このエンドキャップ32Bをスライダ本体32Aに取り付けると、湾曲路58によって、スライダ本体32Aの負荷転動体転動路44と転動体戻し路46とが連通される。そして、上段の負荷転動体転動路43と転動体戻し路45も同様に連通される。
【0029】
上記の負荷転動体転動路43,44,転動体戻し路45,46,湾曲路58で構成される転動体無限循環経路に、多数の転動体35が転動自在に装填されている。
案内レール31上をスライダ32が移動すると、転動体35は負荷転動体転動路43,44内を転動しつつスライダ32の移動方向にスライダ32より遅い速度で移動し、一端側の湾曲路58でUターンして転動体戻し路45,46を逆方向に転動しつつ移動し、他端側の湾曲路58で逆Uターンして負荷転動体転動路43,44内に戻る循環を繰り返す。
【0030】
なお、エンドキャップ32Bにおいて、転動体35を案内する湾曲路58の内側端部には半円状に突出させた転動体掬いあげ突部59が形成され、その鋭角の先端が案内レール31の転動体転動溝33A,33Bの溝底に近接するようにされている。下段の転動体掬いあげ突部59には、後述する保持器36の取付溝59aと取付穴59bとが設けてある。
また、エンドキャップ32Bの表側の給油ニップル37から注入された潤滑剤が、エンドキャップ32Bの裏面の給油溝60を通りリターンガイド55の内径側の凹部57から貫通孔57Aを経て、湾曲路58内へ送り込まれるようになっている。さらに、エンドキャップ32Bの裏面の給油溝60の下方には、後述する保持器61の取付け穴61aが形成してある。
【0031】
スライダ32の上段の負荷転動体転動路43及び下段の負荷転動体転動路44にそれぞれ装填された転動体35は、スライダ32を案内レール31に組み付けない状態では脱落してしまう。よって、これを防止するために、射出成形された樹脂材料製の保持器が用いられている。
下段の負荷転動体転動路44内の転動体脱落防止用の保持器36は、断面角形状の保持器で、その長手方向の両端側は転動体35を滑らかに案内するため弓なりに湾曲され、端末には取付け部が形成されている。装着は、エンドキャップ32Bの転動体掬いあげ突部59に形成された保持器取付け穴59bに前記取付け部を差し込んで行われる。スライダ32を案内レール31に組みつけた状態では、保持器36は案内レール31の保持器用の逃げ溝33a内に収容され、案内レール31とは干渉しない。
【0032】
これに対して、上段の負荷転動体転動路43内の転動体脱落防止用の保持器61は、図9に示すようにほぼ長方形の枠形状である。この保持器61は、その枠62の長手方向の外側縁にほぼ1/4円弧状の転動体保持面63が形成され、前後端には係止突部64が突設されている。装着は、エンドキャップ32Bの裏面の取付け穴61aに係止突部64を差し込むことにより行われる。これにより保持器61はエンドキャップ32Bに支持されて、案内レール31の上面31aとこれに向き合うスライダ本体32Aの内面との間の空間に収容され、転動体35を転動体保持面63と負荷転動体転動溝41の溝面とで挟持して保持する。
【0033】
このような直動案内軸受装置は、その一部が前述のように樹脂材料で構成されていて、この樹脂材料は、例えば、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体85質量%と、補強材である炭酸カルシウムウィスカー(アルゴナイト)15質量%と、を混合した樹脂組成物である。なお、従来の直動案内軸受装置においては、ポリアセタール樹脂が使用されていた。
【0034】
この樹脂組成物は、優れた耐熱性を有するとともに、使用時に機械的性質の経時的な低下が生じにくいので、該樹脂組成物でその一部が構成された上記の直動案内軸受装置は、転動装置として十分な性能を備えている。また、この直動案内軸受装置が土壌中等の自然環境に放出されても、前記生分解性樹脂組成物で構成された部分は自然に分解されるから、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。
なお、案内レール31,スライダ本体32A,及び転動体35は軸受鋼で構成されているが、これらも生分解性樹脂組成物で構成することができる。例えば、ポリアミド4誘導体60質量%と、充填材である前述の炭酸カルシウムウィスカー40質量%と、からなる生分解性樹脂組成物で構成することができる。
【0035】
このような直動案内軸受装置は、全体が生分解性樹脂組成物で構成されているので、土壌中等の自然環境に放出された場合は、全体が自然に分解される。したがって、自然環境に対する悪影響が極めて小さい。このような直動案内軸受装置は土壌中等の自然環境に廃棄処分することも可能であるので、使用後の廃棄が容易である。
また、前記樹脂組成物の耐熱性,生分解性,機械的性質等に悪影響を及ぼさない範囲で、且つ前記樹脂組成物が分解されて自然環境に放出された際に自然環境に悪影響を与えない範囲であれば、所望により前記樹脂組成物に各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)やポリアミド4誘導体以外の樹脂を配合してもよい。
【0036】
〔第三実施形態〕
図10は、本発明に係る機械部品の一実施形態である直動案内軸受装置用スライダの仮軸の構造を示す斜視図である。また、図11は、スライダが組み付けられた状態の仮軸を示す斜視図である。
この仮軸101は、直動案内軸受装置用の案内レールとほぼ同一の形状に形成されている。すなわち、仮軸101の軸方向に垂直をなす面で破断した断面形状は、前記案内レールのそれとほぼ同一の形状をなしている。
【0037】
そして、角状の仮軸101の上面101aと両側面101bとが交差する稜線部には、転動体転動溝に相当する断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝102Aが軸方向に形成され、仮軸101の両側面101bの中間位置には、転動体転動溝に相当する断面ほぼ半円形の凹溝102Bが軸方向に形成されている。さらに、両側面101bの中間位置に形成された凹溝102Bの溝底には、前記案内レールと同様にボール保持器用の逃げ溝103が形成されている。
【0038】
ただし、案内レールとは異なり、仮軸101はスライダ105を仮に組み付けておくためのものであるから、図10及び図11に示すように、その軸方向の長さはスライダ105の軸方向の長さよりも若干長ければ十分である。また、仮軸101の上面101aは機能上平面状である必要はないので、仮軸101の寸法精度を向上させるために、凹状の肉ヌスミ104が設けてある。なお、肉ヌスミ104の内部には、肉ヌスミ104を補強するための補強板104aが設けてある。
【0039】
スライダ105が組み付けられた仮軸101を前記案内レールの端部に連続するように取り付け、スライダ105を仮軸101から案内レールに向けてスライドさせると、仮軸101に組み付けられていたスライダ105を案内レールに移動させることができる。
このような仮軸101は、例えば、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体85質量%と、補強材である炭酸カルシウムウィスカー(アルゴナイト)15質量%と、を混合した樹脂組成物を、射出成形することによって製造される。
【0040】
したがって、スライダ105を案内レールに移動させた後の仮軸101を廃棄物として土壌中に埋設処理すると、自然に生分解されるから、自然環境に悪影響を及ぼしにくく、また、廃棄物問題の要因となりにくい。
なお、前記樹脂組成物の耐熱性,生分解性,機械的性質等に悪影響を及ぼさない範囲で、且つ前記樹脂組成物が分解されて自然環境に放出された際に自然環境に悪影響を与えない範囲であれば、所望により前記樹脂組成物に各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)やポリアミド4誘導体以外の樹脂を配合してもよい。
【0041】
〔第四実施形態〕
図12は、本発明に係る機械部品の一実施形態である樹脂製プーリの構造を示す正面図であり、図13は、図12の樹脂製プーリのB−B断面図である。
この樹脂製プーリ70は、転がり軸受71と樹脂部72とからなる。転がり軸受71は、内輪,外輪,転動体,保持器,及び接触ゴムシールとからなる深溝玉軸受である。この深溝玉軸受としては、第一実施形態の深溝玉軸受が好ましい。また、樹脂部72は、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体にガラス繊維等の強化繊維材を配合した樹脂組成物で構成されており、外輪の外周面に射出成形等により一体的に取り付けられている。
樹脂部72は、転がり軸受71が嵌合される内径側円筒部72aと、外径側円筒部72bと、両円筒部72a,72bを連結する円板部72cと、樹脂部72を補強するための複数のリブ72dと、からなる。そして、外径側円筒部72bの外周面72eが、図示しない駆動用ベルトのベルト案内面をなす。
【0042】
上記樹脂組成物は、優れた耐熱性を有するとともに、使用時に機械的性質の経時的な低下が生じにくいので、該樹脂組成物でその一部が構成された上記の樹脂製プーリは、プーリとして十分な性能を備えている。また、この樹脂製プーリが土壌中等の自然環境に放出されても、前記生分解性樹脂組成物で構成された部分は自然に分解されるから、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。
なお、前記樹脂組成物の耐熱性,生分解性,機械的性質等に悪影響を及ぼさない範囲で、且つ前記樹脂組成物が分解されて自然環境に放出された際に自然環境に悪影響を与えない範囲であれば、所望により前記樹脂組成物に各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)やポリアミド4誘導体以外の樹脂を配合してもよい。
【0043】
〔第五実施形態〕
図14は、本発明に係る機械部品の一実施形態である電動パワーステアリング装置用減速ギヤの構造を示す斜視図である。
自動車の電動パワーステアリング装置には、操舵補助出力発生用電動モータの出力をステアリングシャフトに伝達するため、図14のような電動パワーステアリング装置用減速ギヤ80が組み込まれている。この電動パワーステアリング装置用減速ギヤ80は、図示しない操舵補助出力発生用電動モータの回転軸に連結する金属製のウォーム82と、ウォーム82に噛み合うウォームホイール81と、で構成されており、ウォームホイール81は、外周面にギヤ歯84aが形成された樹脂部84を金属製の芯管85の外周に一体的に設けたものである。
【0044】
ウォームホイール81の樹脂部84は、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体にガラス繊維等の強化繊維材を配合した樹脂組成物で構成されており、金属製芯管85をコアとしたインサート成形により芯管85と一体化されている。なお、ウォーム82も同様に樹脂組成物製としてもよい。
上記樹脂組成物は、優れた耐熱性を有するとともに、使用時に機械的性質の経時的な低下が生じにくいので、該樹脂組成物でその一部が構成された電動パワーステアリング装置用減速ギヤ80は、ギヤとして十分な性能を備えている。また、この電動パワーステアリング装置用減速ギヤ80が土壌中等の自然環境に放出されても、前記生分解性樹脂組成物で構成された部分は自然に分解されるから、自然環境に対して悪影響を及ぼしにくい。
【0045】
なお、前記樹脂組成物の耐熱性,生分解性,機械的性質等に悪影響を及ぼさない範囲で、且つ前記樹脂組成物が分解されて自然環境に放出された際に自然環境に悪影響を与えない範囲であれば、所望により前記樹脂組成物に各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)やポリアミド4誘導体以外の樹脂を配合してもよい。
以上説明した第一〜第五実施形態は本発明の一例を示したものであり、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。例えば、生分解性樹脂組成物に使用する添加剤の種類や配合比率等は、本実施形態に限定されるものではなく、使用目的等に応じて適宜選択することが可能である。
また、第一〜第五実施形態においては、機械部品の例として玉軸受,直動案内軸受装置,直動案内軸受装置用スライダの仮軸,樹脂製プーリ,及び電動パワーステアリング装置用減速ギヤをあげて説明したが、本発明は、他の種々の機械部品に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,直動ベアリング等の転動装置である。
【0046】
〔実施例〕
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
以下に示すような樹脂組成物(実施例1,2及び比較例1,2)を射出成形して、図2のような冠形保持器(呼び番号6203の深溝玉軸受用の冠形保持器)の形状に成形した。そして、この保持器を用いて、樹脂組成物の機械的強度,生分解性,及び耐熱性を評価する試験を行った。
【0047】
まず、使用した樹脂組成物について説明する。
実施例1の樹脂組成物は、ポリアミド4誘導体74.5質量%と、アミン系シランカップリング剤で表面処理されたガラス繊維(平均繊維径6.5μm)25質量%と、酸化防止剤であるN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン0.5質量%と、からなる生分解性樹脂組成物である。このポリアミド4誘導体は、塩基性重合触媒であるナトリウム存在下で、2−ピロリドンをトリエチレンテトラミン六酢酸エチルとともに重合して得られた分岐鎖状ポリアミドである。そして、数平均分子量は30000で、融点は262℃である。
【0048】
実施例2の樹脂組成物は、ポリアミド4誘導体74.5質量%と、アミン系シランカップリング剤で表面処理されたガラス繊維(平均繊維径6.5μm)25質量%と、酸化防止剤であるN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン0.5質量%と、からなる生分解性樹脂組成物である。このポリアミド4誘導体は、塩基性重合触媒であるナトリウム存在下で、2−ピロリドンをエチレンジアミン四酢酸エチルとともに重合して得られた分岐鎖状ポリアミドである。そして、数平均分子量は25000で、融点は265℃である。
【0049】
比較例1の樹脂組成物は、デュポン社の生分解性樹脂(ポリエチレンテレフタレートの分子構造中に脂肪族ポリエステル構造を含有させたもの)のガラス繊維30質量%含有グレード バイオマックスWA101(グリーンプラ対応グレード)である。
比較例2の樹脂組成物は、BASF社の66ナイロンのガラス繊維25質量%含有グレード ウルトラミッドA3HG5(アミン系酸化防止剤を含有している)である。
次に、機械的強度の測定方法について説明する。室温下にて冠形保持器の引張破断強度(円環強度)を測定した。結果を表1に示す。なお、表1における円環強度の数値は、比較例2の冠形保持器の円環強度を1とした場合の相対値で示してある。
【0050】
【表1】

【0051】
次に、生分解性の評価方法について説明する。冠形保持器を粉砕して得た粉末を、菱三商事株式会社製の微生物酸化分解測定装置MODA(JIS K6953、ISO14855に対応)の反応筒内に、完熟堆肥及び海砂とともに投入し、生分解させた。そして、生分解により発生した二酸化炭素を定量することにより、生分解の進行度合い(50%生分解するまでに要する日数)を測定した。結果を表1に示す。なお、表1における生分解性の数値は、比較例1を1とした場合の相対値で示してある。
【0052】
次に、耐熱性の評価方法について説明する。冠形保持器を所定の温度(60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160℃)の恒温槽中に1000時間吊り下げた後に、円環強度を測定した。そして、初期の円環強度からの強度低下が20%以下である温度のうち最高温度を、その樹脂組成物の耐熱温度とした。結果を表1に示す。
【0053】
実施例1,2の機械的強度は、比較例2(ポリアミド66)と同程度であり、従来の生分解性樹脂である比較例1よりも大幅に高かった。また、実施例1,2の生分解性は、従来の生分解性樹脂である比較例1と同程度であり、十分な生分解性であった。さらに、実施例1,2の耐熱性は、比較例2(ポリアミド66)と同程度であり、従来の生分解性樹脂である比較例1よりも大幅に高かった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る機械部品の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】図1の深溝玉軸受に使用されている冠形保持器を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る機械部品の別の実施形態である直動案内軸受装置の構造を示す斜視図である。
【図4】図3の直動案内軸受装置の正面図である。
【図5】リターンガイドを省略してエンドキャップの裏面を示した図である。
【図6】リターンガイドの正面図である。
【図7】リターンガイドを装着した状態のエンドキャップの斜視図である。
【図8】図4のエンドキャップ付近のA−A線部分断面図である。
【図9】図3の直動案内軸受装置に使用されている保持器の斜視図である。
【図10】本発明に係る機械部品の別の実施形態である直動案内軸受装置用スライダの仮軸の構造を示す斜視図である。
【図11】スライダを組み付けた状態の仮軸を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る機械部品の別の実施形態である樹脂製プーリの構造を示す正面図である。
【図13】図12の樹脂製プーリのB−B断面図である。
【図14】本発明に係る機械部品の別の実施形態である電動パワーステアリング装置用減速ギヤの構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
11 内輪
12 外輪
13 玉
14 保持器
15 シール
31 案内レール
32 スライダ
32A スライダ本体
32B エンドキャップ
35 転動体
36 保持器
55 リターンガイド
61 保持器
70 樹脂製プーリ
71 転がり軸受
72 樹脂部
80 電動パワーステアリング装置用減速ギヤ
81 ウォームホイール
82 ウォーム
84 樹脂部
101 仮軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を含有する樹脂組成物で構成された機械部品において、前記生分解性樹脂を、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体としたことを特徴とする機械部品。
【請求項2】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に前記転動体を保持する保持器と、を備える転がり軸受において、前記内輪,前記外輪,前記転動体,及び前記保持器のうち少なくとも前記保持器を、2−ピロリドンをポリカルボン酸誘導体とともに重合して得られるポリアミド4誘導体を含有する樹脂組成物で構成したことを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−120764(P2009−120764A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298077(P2007−298077)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】