説明

正極材料の合成方法

【課題】製造コストの低い、正極材料の合成方法を提供する。
【解決手段】正極材料はリチウムと、リチウム以外の金属との複合酸化物であり、少なくとも、リチウムの源となるリチウム化合物と、リチウム以外の金属の源となる金属化合物とを含む混合物を加熱して複合酸化物を合成する際、加熱を高周波誘導加熱を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池、特にはリチウムイオン電池の正極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池などの二次電池用の正極材料として、LiCoOやLiFePOなどのリチウム化合物が用いられている。
【0003】
そして、上記正極材料用のリチウム化合物の合成では、高温での熱処理が必須とされている。
【0004】
具体的には、例えば上記LiCoOを、CHCOOLi・2HO及び(CHCOO)Co・4HOを開始材料として合成する方法では、上記開始材料を混合した後、その混合物を焼成するために、例えば約600度で6時間程度の熱処理を行う必要がある。
【0005】
また、上記LiFePOを、LiCO、FeC・2HO及びNHPOを開始材料として合成する方法では、同様に、例えば約800度で10時間程度の熱処理を行う必要がある。
【0006】
そして、従来上記加熱は、一般に抵抗加熱式の焼成炉で行われている。
【0007】
(特許文献1)
従来の合成方法としては、例えば、下記特許文献1に記載の合成方法がある。
【0008】
下記特許文献には、上記LiFePOの合成方法が提案されている。そして、下記特許文献1に記載の合成方法では、不活性ガスとしての窒素ガス気流中、600℃で、5時間熱処理をすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−22894号公報(公開日:2007(平成19)年2月1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の方法には、高温で長時間加熱するために、製造コストが高くなるという問題がある。
【0011】
また、上記のように高温で長時間加熱する場合には、酸化防止等のために、加熱の間、不活性ガスを流し続ける必要も生じる。そして、不活性ガスを流し続けることは、製造コストをより高くし、大スケールでの実用化に対して妨げとなりやすいとの問題がある。
【0012】
そこで本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造コストの低い、正極材料の合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の正極材料の合成方法は、上記課題を解決するために、
二次電池用の正極材料の合成方法であって、
上記正極材料はリチウムと、リチウム以外の金属との複合酸化物であり、
少なくとも、上記リチウムの源となるリチウム化合物と、上記リチウム以外の金属の源となる金属化合物とを含む混合物を加熱して上記複合酸化物を合成する際、
上記加熱を高周波誘導加熱を用いて行うことを特徴とする。
【0014】
上記の方法によれば、複合酸化物を合成する際の加熱が、従来の抵抗加熱式よりも効率の高い加熱方式である高周波誘導加熱方式で行われる。
【0015】
そのため、上記合成を短時間行うことができるので、正極材料の合成を効率よく行うことができ、製造コストを低くすることができる。
【0016】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記加熱が、300℃以上、950℃以下の温度で、1分以上、90分以下の時間行われることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記加熱が、300℃以上、900℃以下の温度で、1分以上、90分以下の時間行われることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記加熱が、850℃以上、950℃以下の温度で、1.5分以上、2分以下の時間行われることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記加熱の際の昇温速度が、1500℃/min以上、3000℃/min以下であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記加熱が、850℃以上、950℃以下の温度で行われ、
上記加熱における温度が700℃を超えてから、冷却開始までの時間が、90秒以上、135秒以下であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記リチウム化合物が、LiCO,LiOH,CHCOOLi,LiNO,LiF,LiCl,LiBr,LiI,LiCOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記金属化合物が、FeCl,FeO(OH),Fe,Fe,Fe(NO,FePO,FeC,FeCl,Fe(CHCOO),Fe(PO,CoCl,Co(HCOO),Co(CHCOO),CoO,Co,CoC,Co(NO,CoCO,CoSO,Mn(HCOO),Mn(CHCOO),MnC,Mn(NO,MnCO,MnCl,MnO,MnO,Mn,MnSO,Ni(CHCOO),NiC,Ni(NO,NiCO,NiCl,Ni(OH),NiO,NiSOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記正極材料が、LiNiMn2−x(0≦x≦0.5),LiNi1−xMnCo(0≦x≦1/3),LiNiCo1−x(0≦x≦1.0)のうちのいずれか1種であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記正極材料が、LiCoO,LiNiO,LiNi0.8Co0.2,LiNi1/3Mn1/3Co1/3,LiNi0.6Mn0.2Co0.2,LiMn,LiNi0.5Mn1.5,LiFeP0,LiFeBOのうちのいずれか1種であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
カルボサーマル還元反応により上記金属化合物を還元することで上記正極材料としての複合酸化物を合成することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記正極材料が、LiFeP0又はLiFeBOであることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記金属化合物が、鉄を含む金属化合物であり、
上記鉄が3価であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記金属化合物が、FeCl,FeO(OH),Fe,Fe,Fe(NO,FePOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0029】
上記の方法によると、正極材料の合成に用いられる金属化合物が3価の金属(鉄)を含む金属化合物である。
【0030】
そのため、焼成(加熱)の際に2価→3価の酸化反応を防ぐために必要であった、不活性ガス(アルゴンなど)を流し続けて空気に触れさせないようにする措置が不要となる。そのため、製造コストをより低くすることができる。
【0031】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記正極材料の炭素含有量が、0.1wt.%以上、10wt.%以下であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記正極材料の電気伝導率が、1.0×10−3Scm−1以上、1.0Scm−1以下であることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の正極材料の合成方法は、
上記正極材料が粒状であり、その粒径が100nm以上、5μm以下であることを特徴とする請求項6から11のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明の正極材料の合成方法は、以上のように、正極材料はリチウムと、リチウム以外の金属との複合酸化物であり、少なくとも、上記リチウムの源となるリチウム化合物と、上記リチウム以外の金属の源となる金属化合物とを含む混合物を加熱して上記複合酸化物を合成する際、上記加熱を高周波誘導加熱を用いて行う方法である。
【0035】
それゆえ、製造コストの低い、正極材料の合成方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態を示すものであり、合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態を示すものであり、合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態を示すものであり、ハーフセルの定電流充放電試験結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態を示すものであり、ハーフセルのサイクル試験結果を示す図である。
【図5】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す図である。
【図6】本発明の他の実施の形態を示すものであり、ハーフセルの定電流充放電試験結果を示す図である。
【図7】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す図である。
【図8】参考形態を示すものであり、合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す図である。
【図9】参考形態を示すものであり、合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す図である。
【図10】参考形態を示すものであり、合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す図である。
【図11】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図12】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図13】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図14】参考形態を示すものであり、合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図15】本発明の他の実施の形態を示すものであり、0.1Cレートにおける充放電曲線を示す図である。
【図16】参考形態を示すものであり、0.1Cレートにおける充放電曲線を示す図である。
【図17】参考形態を示すものであり、1.0Cレートにおける充放電曲線を示す図である。
【図18】本発明の他の実施の形態を示すものであり、0.1−10.0Cレートまでの充放電レート試験の結果を示す図である。
【図19】本発明の他の実施の形態を示すものであり、1.0Cレートにおける50サイクル試験の結果を示す図である。
【図20】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物及びLiFeBOのシミュレーションXRDパターンを示す図である。
【図21】本発明の他の実施の形態を示すものであり、合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0038】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施の形態について図1から図4に基づいて説明すると以下の通りである。
【0039】
本実施の形態の正極材料の合成方法について、まず、正極材料となる複合酸化物の一例としてLiFePOを例にして説明する。
【0040】
(LiFePO
以下、電気伝導率の向上と、粒子の凝集抑制効果とを目的として、開始材料にクエン酸を混合して焼成時にそれを炭化させ、LiFePOが炭素で被覆されたLiFePO/Cの合成について順に説明する。
【0041】
本実施の形態の合成方法では、カルボサーマル還元反応と高周波誘導加熱とを用いて、上記LiFePOを合成する点が特徴である。
【0042】
(前駆体)
まず前駆体を調製する。開始材料として、LiCO(リチウムの源(リチウム源)となるリチウム化合物)、Fe(リチウム以外の金属の源となる金属化合物)、NHPOを用いる。本合成方法は、開始材料に3価の鉄の化合物、中でも非常に安価で生産しやすいFeを用いる点が特徴のひとつである。
【0043】
なお、上記3価の鉄はFeに特に限定されるものではなく、例えばFe等種々の鉄化合物を用いることができる。
【0044】
そして、本合成方法では、上記のようにカルボサーマル還元反応を用いてLiFePOを合成するため、炭素源として、上記開始材料にクエン酸を添加する。
【0045】
なお、カルボサーマル還元反応における炭素源は、クエン酸に限定されるものではなく、例えばカーボンブラック等種々の物質を用いることができる。
【0046】
まず上記開始材料を化学量論比1:1:1で混合したうえで、開始材料粉末に対して10wt.%となるようにクエン酸を混合する。
【0047】
つぎに、この混合物(粉末)を、空気中で、ステンレス粉砕ボールとともに、ステンレス粉砕容器に封入する。ここで、上記混合物と、ステンレス粉砕ボールの重量比は、1:20とする。封入後のステンレス粉砕容器を、遊星型ボールミル装置にセットし、回転速度400rpmで、5時間粉砕混合する。
【0048】
この粉砕混合の際、分散媒としてエタノールを用いる。
【0049】
上記粉砕混合(ボールミル処理)後、ステンレス粉砕容器を空気中で開放して前駆体粉末としての混合物を取り出す。
【0050】
そして、取り出した前駆体粉末を、空気中、80℃で12時間、乾燥させる。
【0051】
なお、上記乾燥の際、分散媒としての添加したエタノールを完全に取り除くこともできるし、微量のエタノールを残存させることもできる。
【0052】
上記微量とは、例えば、200ppm〜5wt.%が好ましい。そして、上記の量のエタノールを残存させることで、焼成時に急激に膨張・気化させ、電解液が含浸しやすい多孔性構造を形成するとの効果を得ることができる。
【0053】
(前駆体ペレットへの成型)
つぎに、上記前駆体の焼成について説明する。この焼成では、焼成に先立って、上記前駆体粉末をペレット(前駆体ペレット)にする。
【0054】
具体的には、錠剤成型器を用いて上記前駆体粉末1gを20kNの圧力で圧縮して厚さ約2mmのペレット状(16mmφ)に成型する。
【0055】
なお、上記ペレットの大きさは特に限定されるものではなく、下記焼成の際、前駆体が気流等の影響で舞い上がったりしにくい大きさであればよい。具体的には、例えば、5mmφ以上、30mmφ以下、好ましくは10mmφ以上、20mmφ以下とすることができる。
【0056】
また形状も、円盤状等に限定されるものではなく、例えば球状や立方体状等とすることもできる。
【0057】
(前駆体ペレットの焼成)
本実施の形態の合成方法では、この前駆体ペレットの焼成を、高周波誘導加熱を用いて行う。
【0058】
ここで、高周波誘導加熱とは、強力な電界の中に導電性を有する物質を置くと、誘導電流として渦電流が生まれ、それにより物質自身が発熱し、急速に過熱されることを言う。
【0059】
具体的には、高周波誘導加熱装置を用いて以下の通り焼成する。
【0060】
まず、成型した前駆体ペレットをグラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。
【0061】
そして、前駆体ペレットを空気にさらさないようにするために、チャンバー内を真空状態にする。そして、不活性ガス置換を行うことなく、前駆体ペレットを焼成する。
【0062】
具体的には、真空下で、700℃で1時間焼成する。
【0063】
なお、その際の昇温速度は1400℃/minとする。また、焼成後は、室温まで自然冷却する。
【0064】
また、上記焼成の条件は、上記条件に限定されるものではなく、例えば、焼成温度範囲を300℃以上、900℃以下、焼成時間を1分以上、90分以下とすることができる。
【0065】
そして、室温状態で、焼成後の前駆体ペレット(合成物)を取り出す。
【0066】
以上より、LiFePOからなる正極材料を合成する。
【0067】
なお、上記合成方法では、炭素被覆によってペレット表面の酸化が抑制されている。
【0068】
(XRD)
上記合成物を、粉末X線回折法(XRD)及び走査型電子顕微鏡(SEM)で解析した結果を示す。まず、粉末X線回折法での解析について説明する。
【0069】
上記合成物の相を粉末X線回折法を用いて10−50°の範囲で同定した。
【0070】
X線回折装置は、LabX XRD−6100(島津製作所製)を用い、試料ホルダーはガラス製のものを用いた。
【0071】
詳しくは、上記合成物を乳鉢で粉末状態にした後、ガラス製試料ホルダーに表面が平滑になるように上記粉末状態の合成物を押し固めて固定した。つぎに合成物を固定したガラス製の試料ホルダーをゴニオメーターにセットして以下の条件で測定した。
【0072】
線源:Cu Kα,走査モード:連続スキャン,走査範囲:10.00°〜50.00°,走査ステップ:0.02°,走査速度:4.00°min−1,管電圧:40kV,管電流:30mA
図1に合成物及びLiFePOのXRDパターンを示す。ここで、LiFePOのXRDパターンは、JCPDSカード40−1499に基づくものである。
【0073】
上記図1に示すように、合成物のXRDパターンと、JCPDSカード40−1499に基づくXRDパターンとを比較すると、不純物と思われるピークは確認されず、単相のLiFePOが生成していることが確認された。
【0074】
(SEM)
つぎに、上記合成物の走査型電子顕微鏡像について説明する。
【0075】
図2に、上記合成物の走査型電子顕微鏡像を示す。
【0076】
走査型電子顕微鏡は、SU−1500(HITACH)を用いた。
【0077】
詳しくは、円形の試料台に導電性両面テープを貼り付け、その上に合成物(粉末)を押し付けて固定した。そして、試料台を装置に固定してチャンバーに挿入した後、チャンバー内を真空状態(<0.1Pa)にした。測定条件を以下に示す。
【0078】
加速電圧:15kV,Working distance:5mm,プローブ電流:30mA,倍率:30000倍
上記図2に示すように、走査型電子顕微鏡像から約100〜200nmの粒子の存在を確認することができる。さらに、上記粒子の周りに多孔質構造の炭素と思われる物質が存在する。
【0079】
この多孔質構造は前駆体粉末を乾燥した際に、クエン酸に吸収されて除去しきれなかったエタノールや水分が、加熱によって急激に膨張してできたものであると考えられる。
【0080】
なお、粒状の合成物の上記粒径は、上記の値に限定されるものではなく、例えば、100nm以上、5μm以下、好ましくは500nm以下とすることもできる。そして、上記粒径が上記の範囲内である場合には、活物質内のリチウム拡散が非常に良好な状態となり、高速充放電が可能になるとの効果を得ることができる。
【0081】
(炭素含有量)
つぎに、上記合成物の炭素含有量について説明する。
【0082】
上記合成物の炭素含有量は、約1wt.%であった。この炭素含有量は、熱重量分析によって測定した。試料をアルミナ製のセルに約15mg入れ、空気中で昇温速度10℃min−1で800℃まで昇温させるとの方法で測定した。
【0083】
なお、上記測定は、熱分析ワークステーションDTG−60AH(島津製作所製)を用いて行った。
【0084】
また、合成物の炭素含有量は、上記の値に限定されるものではなく、例えば、0.1wt.%以上、10wt.%以下であれば、電極のエネルギー密度を高い状態で保ちつつ、良好な導電性を付与することができるとの効果を得ることができる。
【0085】
(電気導電率)
つぎに、上記合成物の電気導電率(電気導電度)について説明する。
【0086】
上記合成物の電気導電率を四端針法で測定した結果、2.5×10−2S/cmであった。
【0087】
これは、カルボサーマル還元反応に用いられなかったクエン酸由来の炭素が残留しているためと思われる。ただ、上記炭素は、アモルファス状態で存在していると考えられるため、XRDからは確認されないものと考えられる。
【0088】
また、合成物の電気導電率は、上記の値とすることに限定されるものではなく、例えば、1.0×10−3Scm−1以上、好ましくは1.0×10−2Scm−1以上であれば、充放電容量を理論容量付近まで向上させることができる。
【0089】
(充放電特性)
つぎに、本実施の形態の合成方法で合成された正極材料を用いて作成した電池の充放電特性について説明する。
【0090】
具体的には、合成した上記LiFePOで作製した正極のハーフセルを用いた単極試験における、初回充放電とサイクル試験との結果を示す。
【0091】
図3は、上記ハーフセルの定電流充放電試験結果を示す図である。詳しくは、上記図3は、定電流充放電試験0.1C(10時間で充電して10時間で放電するモード)の条件下での結果を示しており、その横軸は容量(Capacity:mAhg−1)を示し、その縦軸は電圧(Voltage:V)を示している。
【0092】
上記図3に示すように、充電と放電で不可逆容量は見られないため、良好な充放電が行われていると考えられる。充放電容量が理論容量に達していないのはSEM像で確認される微粒子以外に電気化学的に不活性化するような大きな粒子が少量存在しているためであると思われる。
【0093】
また、図4は、上記ハーフセルのサイクル試験結果を示す図である。図4の横軸はサイクル数(Cycle number)を示し、その縦軸は放電容量(Discharge capacity:mAhg−1)を示している。
【0094】
上記図4に示すように、上記ハーフセルは、120mAhg−1という容量を示し、30サイクルにおいて、容量の劣化は確認されなかった。
【0095】
(正極の作成)
つぎに、上記ハーフセルの作成について、順にその概略を説明する。
【0096】
電極組成は、LiFePO/C:ケッチェンブラック:ポリフッ化ビニリデン=85:8:7の重量比となるようにした。そして、すべての作成過程をドライルーム内で行った。
【0097】
メノウ製乳鉢にLiFePO/Cの粉末とケッチェンブラックとを入れて乳棒で十分に混合した。この混合粉末を薬包紙に取り出し、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドン3wt.%に溶解させた溶液である結着剤溶液を、乳鉢に入れた。
【0098】
つぎにポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに4wt.%溶解させた溶液である結着剤溶液を乳鉢に入れ、乳棒で混合してスラリーを調製した。
【0099】
乳棒で約15分間スラリーを混合し続けた後、スラリーをエッチドアルミ箔上に流し込んだ。エッチドアルミ箔上のスラリーをドクターブレードで100μmの厚さになるように塗布し、分散剤を除去するために真空乾燥機内で真空下、80℃で12時間以上乾燥させた。作成した電極を12mmφの電極打ち抜き器で打ち抜き、アルゴングローブボックス内に保存した。
【0100】
(セル構成材料)
なお、上記充放電特性の評価は、正極のみの電気化学特性の評価を目的としているため、正極のみの挙動を観測するために、すべての電気化学特性の評価を正極ハーフセルで行った。以下、ハーフセルの構成材料を示す。
【0101】
正極:LiFePO/C正極
対極:Li箔(本城金属製)
セパレーター:セルガード@3501(商品名:Celgard製)
電解液:1.0M LiPF(EC(エチレンカーボネート):DMC(ジメチルカーボネート)=50:50v/v%)
セル:HSセル(宝泉製)
(セル作成)
上記セルの作成はすべてアルゴングローブボックス内で行った。
【0102】
サンプル瓶にLiFePO/C正極(12mmφ)とセパレーター(20mmφ)とを入れ、ガラス製の注射器を用いて約1mlの1.0M LiPF(EC:DMC=50:50v/v%)電解液を上記サンプル瓶に加えた。
【0103】
このサンプル瓶をアルゴングローブボックスのサイドボックスに入れて閉じて減圧状態(約15kPa)で5分間保持し、LiFePO正極及びセパレーターに、1.0M LiPF(EC:DMC=50:50v/v%)電解液を十分に含浸させた。
【0104】
つぎに、打ち抜きポンチを用いてLi箔(13mmφ)を打ち抜き、打ち抜いたLi箔を二極式フラットセルの底面に貼り付けた。そして、上記サイドボックスから取り出した電解液含浸後のセルガードをLi箔の上に貼り付けてテフロンガイドで固定した。つぎに、電解液含侵後のLiFePOの正極をLi箔に向かい合うように入れてステンレス製の電極押さえとバネで固定した。そして、二極式フラットセルの上蓋を閉じて蝶ねじをしっかりと絞めた。
【0105】
(測定条件等)
なお、定電流充放電試験には充放電試験装置BTS−2004(ナガノ製)を用いた。
【0106】
充電モード・放電モードともに、C.C.(Constant Current)モードで測定を行った。
【0107】
測定は2.7−4.2Vの電位範囲で行った。
【0108】
なお、定電流充放電試験における電流密度は17mAg−1に統一した。この値は理論容量に対して1/10Cレートとなる値である。
【0109】
(合成方法の特徴)
以上説明した合成方法の特徴は以下の通りである。
【0110】
すなわち、従来の合成方法においては、LiFePOのFe(鉄)が2価であるため、合成における開始材料にも2価の鉄の化合物(例えば、FeC・2HO)を用いている。
【0111】
これに対して本実施の形態の合成方法では、3価の鉄の化合物であるFeを用いる。ここで、3価の鉄の化合物は、2価の鉄の化合物よりも安価である。そのため、本実施の形態の合成方法では、LiFePOの製造コストを下げることができる。
【0112】
また、3価の鉄の化合物を用いることで、2価の鉄の化合物を用いた場合には、焼成の際に2価→3価の酸化反応を防ぐために必要であった、不活性ガス(アルゴンなど)を流し続けて空気に触れさせないようにする措置が不要となる。そのため、製造コストをより下げることができる。
【0113】
また、本実施の形態の合成方法では、加熱焼成に高周波誘導加熱式の焼成炉を用いている。そのため、加熱焼成時間を短縮することができる。具体的には、従来抵抗加熱式の焼却炉を用いて焼成していた場合には数時間要した焼成時間を、数分(例えば、5分から10分)にまで、大幅に短縮することができる。
【0114】
そのため、製造コストをより下げることができるとともに、実用化(工業化)への妨げを取り除くことができる。
【0115】
以上のように、本実施の形態の合成方法では、開始材料に安価な3価の鉄の化合物を用い、高周波誘導加熱式の焼成炉を用いることで焼成時間を短縮するとともに、不活性ガスを用いずに焼成することなどで製造コストを下げることができる。そして、製造コストが下がることにより、実用化を容易にすることができる。
【0116】
(LiFePOの特徴)
なお、以上合成方法を説明したLiFePOは優れた熱安定性を有し、非常に長寿命である。また、LiFePOは、鉄という安価な元素を用いているため、現在一般的に用いられている正極材料であるLiCoOに代わる次世代型リチウムイオン電池用正極材料として注目されているとともに、実用化が期待されている。
【0117】
また、材料として地球上に非常に多く存在する鉄を用いているために、材料供給の観点からも大型リチウムイオン電池の大量生産に適している。そのため、電気自動車などの車載用リチウムイオン電池等において好適に用いられる正極材料と考えられる。
【0118】
〔実施の形態2〕
本発明の正極材料の合成方法に関する他の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。
【0119】
本実施の形態の合成方法では、上記実施の形態1の合成方法と比較して、焼成の温度条件が異なる。
【0120】
すなわち、上記実施の形態1の合成方法では、前駆体ペレットの焼成条件は、700℃、1時間とした。
【0121】
これに対して本実施の形態の合成方法では、前駆体ペレットの焼成を、900℃、2〜10分で行う。
【0122】
すなわち、前駆体の融解温度(約1000℃)により近い温度である900℃で焼成を行うことで、焼成時間の短縮を図っている。
【0123】
これにより、例えば、上記焼成を誘電加熱(マイクロ波)を用いて行う場合と同様に短時間で焼成を行うことができる。
【0124】
また、上記900℃で焼成を行う際には、添加するクエン酸の量を増加させることが好ましい。
【0125】
具体的には、上記実施の形態1では、開始材料粉末に対して10wt.%となるようにクエン酸を混合していた。これに対して焼成温度を上記900℃とする場合には、例えば、開始材料粉末に対して15wt.%となるようにクエン酸を混合することが好ましい。
【0126】
このように、焼成の温度を高くすることにともなって、加える炭素源としてのクエン酸の量を増やすことで、実施の形態1と同等もしくはそれ以上の導電性を付与することができる。
【0127】
なお、上記の焼成温度は、900℃に限られるものではなく、例えば融解温度(約1000℃)により近い温度であればよい。
【0128】
以下、本実施の形態の合成方法について、その一例を示す。
【0129】
まず、LiCO、Fe、NHPOを化学両論比1:1:1で混合し、つぎに15wt.%のクエン酸と混合する。その混合粉末をステンレス製のボールミル容器に入れる。エタノールを分散媒体として用いて、5時間ボールミル処理を行い、粉砕・混合する。この処理(粉砕・混合)後の粉末を空気中80℃で12時間以上乾燥させ、ペレット状に押し固める。ペレットをグラファイト坩堝内に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にして、昇温速度1400℃/minで900℃まで加熱し、900℃で3.5min保持する。その後、自然冷却で室温まで下げてから取り出す。
【0130】
上記の合成方法で合成された合成物のX線回折図(XRDパターンを示す図)を図5に示す。
【0131】
また、上記の合成方法で合成された合成物の0.1Cレートでの初回充放電曲線(ハーフセルの定電流充放電試験結果)を図6に示す。
【0132】
上記図5及び図6に示すように、上記の合成方法においても所望のLiFePOが合成されていることが確認できるとともに、上記合成物としてのLiFePOは良好な充放電特性を示した。
【0133】
また、上記の合成方法で合成されたLiFePOの炭素含有量は約2%であった。
【0134】
〔実施の形態3〕
本発明の正極材料の合成方法に関する他の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。
【0135】
本実施の形態の合成方法では、上記実施の形態2の合成方法と比較して、開始材料粉末に対してのクエン酸混合量と焼成の温度条件とが異なる。
【0136】
すなわち、上記実施の形態2の合成方法では、前駆体ペレットを、昇温速度1400℃/minで900℃まで加熱し、900℃で3.5分保持することで焼成していた。
【0137】
これに対して本実施の形態の合成方法では、クエン酸を10wt.%混合して作成した前駆体ペレットの焼成を、昇温速度をより早くし、また、900℃での保持時間をより短くした条件で行った。具体的には、坩堝の温度について、昇温速度を1500℃/min〜3000℃/min、900℃での保持時間を1.5分〜2分とした。上記実施の形態2の合成方法と比較して、クエン酸混合量を減少させた理由については後述する。
【0138】
以下、上記実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0139】
まず、錠剤成型器を用いて乾燥させた前駆体粉末1gを20kNの力で圧縮し、約2mmの厚さのペレット(16mmφ)に成型する。つぎに、成型した前駆体ペレットをグラファイト坩堝に入れ、石英ガラス製の高周波誘導加熱装置のチャンバーに入れる。ここで、空気による酸化反応を防ぐため、チャンバー内は真空状態にする。
【0140】
そして、真空下で、900℃で焼成を行う。本実施の形態では、下記条件A〜Cの、3つの条件で焼成を行った。
【0141】
条件A:昇温速度が1500℃/min、900℃での保持時間が2分
条件B:昇温速度が2200℃/min、900℃での保持時間が2分
条件C:昇温速度が3000℃/min、900℃での保持時間が1.5分
つぎに、上記各条件での焼成した後に、室温まで自然冷却し、焼成後のペレットを取り出す。
【0142】
なお、上記条件A〜Cについて温度が700℃を超えてから、上記自然冷却を開始するまでの時間は、それぞれ、およそ128秒(条件A)、125秒(条件B)、94秒(条件C)となる。
【0143】
(特性の概括)
以下、上記各条件で合成した正極材料(複合酸化物の一例としてLiFePO)の特性について説明する。
【0144】
本実施の形態の合成では、焼成温度を900℃まで引き上げ、かつ保持時間を短時間にするのと共に、昇温速度を速くしている。その結果、カルボサーマル還元反応を急速に起こし、焼成に要する時間を短縮するともに、良好な特性を有する正極材料を合成している。
【0145】
具体的には、焼成によりクエン酸を炭化させるカルボサーマル還元反応において、その焼成時間を短くすることで、カルボサーマル還元反応に関わらない炭素の昇華による消失が抑制される。その結果、開始材料に対してクエン酸混合量を10wt.%としたにもかかわらず、上記実施の形態2よりも多くの炭素を残留させることが可能となり、よって正極材料の電気伝導率を向上させている。
【0146】
また、より多くの炭素が残留することで、その炭素の粒子成長抑制作用により、二次粒子の成長が抑制され、その結果、粒子を微粒子化することができる。
【0147】
以下、本実施の形態において合成された正極材料の特性等について、図面に基づいて、具体的に説明する。
【0148】
(XRD)
まず、図7に基づいて、粉末X線回折法(XRD)での解析について説明する。なお、以下の各図において、上記条件Aで合成した合成物、及びその合成物から作製した正極を1500−2.0と表記する。同様に、上記条件Bで合成した合成物、及びその合成物から作製した正極を2200−2.0と表記する。また、上記条件Cで合成した合成物、及びその合成物から作製した正極を3000−1.5と表記する。
【0149】
本実施の形態におけるXRDの解析は、上記実施の形態における解析と同様にして行った。相違点は、使用した装置がUltimaIV(リガク)である点と、測定条件における管電流が40mAである点である。
【0150】
上記図7に示すように、本実施の形態における条件A〜Cで合成された合成物は、JCPDSカード40−1499に基づくLiFePOのXRDパターン(図7における、JCPDS40−1499)とほぼ同様のパターンを示しており、LiFePOが生成していることが確認された。
【0151】
なお、本実施の形態では、900℃という高温で焼成を行うので、一般的に700℃以上の加熱で生成すると考えられている不純物FePを含む場合がある。ここで、FePは電気化学的に不活性であるため、不純物としてFePが含まれていても、LiFePOの安定性に悪影響を及ぼすことはない。ただし、FeがFePとして消費されると容量の低下を招くため、FePは存在しない方が望ましい。
【0152】
この点、条件C(3000−1.5)では、上記図7に示すように、900℃という高温で焼成したにもかかわらず、焼成時間を非常に短くしたこと、具体的には、900℃での保持時間を1.5分としたことで、FePの生成が抑制されている。
【0153】
(参考形態)
つぎに、本実施の形態の対する参考形態として、上記条件A〜Cとは異なる条件(下記条件D〜F)で合成した合成物の特性について説明する。
【0154】
条件D:昇温速度が3000℃/min、900℃での保持時間が1.0分
条件E:昇温速度が1500℃/min、900℃での保持時間が3.0分
条件F:昇温速度が1500℃/min、800℃での保持時間が3.0分
なお、以下図面において、上記条件Dで合成した合成物、及びその合成物から作製した正極を3000−1.0と表記する。同様に、上記条件Eについては1500−3.0、上記条件Fについては1500−3.0(800)と表記する。
【0155】
(参考形態のXRD)
まず、上記条件D〜Fで合成した合成物のXRDパターンについて、図8〜図10に基づいて説明する。ここで、図8〜図10は、それぞれ、上記条件D〜Fで合成した合成物のXRDパターンを示す図である。
【0156】
(3000−1.0)
昇温速度を3000℃/min、900℃での保持時間を1分とした場合(条件D)、上記条件A〜Cとは異なり、上記図8に示すように、原料のFeが残存している。これは、900℃での保持時間が1.0分ではカルボサーマル還元反応が完了しないことを示している。
【0157】
上記Feは電気化学的に活性であり、充放電中に副反応を起こす。そのため、上記Feは正極材料中に存在してはならない不純物といえる。
【0158】
以上より、900℃での保持時間は、1分では不足であり、例えば1.5分以上必要であることがわかる。
【0159】
(1500−3.0)
つぎに、加熱時間が長い場合について説明する。
【0160】
上記図9に、上記条件E(昇温速度が1500℃/min、900℃での保持時間が3.0分)で合成した合成物のXRDパターンを示す。
【0161】
上記図9に示すように、900℃で3.0分保持した場合には、FePだけでなく、更に還元反応が進行した結果物であるFePや他の不純物も生成する。これは、上記条件Eでは、カルボサーマル還元反応が急激に進行することを示している。そして、カルボサーマル還元反応が急激に進行した場合には、目的物であるLiFePOの量が大きく減少する。
【0162】
以上より、900℃での保持時間が、例えば3.0分以上と長くなると、所望の合成物が適切に得られないことがわかる。
【0163】
(1500−3.0(800))
つぎに、加熱温度が低い場合について説明する。
【0164】
上記図10に、上記条件F(昇温速度が1500℃/min、800℃での保持時間が3.0分)で合成した合成物のXRDパターンを示す。
【0165】
図10に示すように、上記条件Fで合成した合成物には、不純物(Impurities)が含まれている。この不純物は、高温(800℃)で3分間の保持したために生成したと考えられる。これにより、保持温度が800℃であっても、長時間の保持は不純物を生成させる要因となると考えられる。
【0166】
以上より、保持温度を例えば850℃〜950℃の高温とすることにより、その保持時間を短くする必要があると考えられる。また、その際の保持時間については、例えば700℃以上の高温状態、言い換えると、加熱における温度が700℃を超えてから冷却開始までの時間が、例えば135秒以下であることが好ましいと考えられる。
【0167】
なお、上記条件Eについては、その合成物の1.0Cレートにおける充放電曲線を、また条件Fについては、その合成物のSEM像、及び1.0Cレートにおける充放電曲線について後に説明する。
【0168】
(SEM)
つぎに、本実施の形態の合成物の走査型電子顕微鏡像について、図11〜13に基づいて説明する。なお、本実施の形態におけるSEMの解析は、上記実施の形態における解析と同様にして行った。
【0169】
上記各図に示すように、本実施の形態においては、非常に短い時間で焼成を行ったため、900℃という高温で焼成したにもかかわらず、全ての合成物(条件A〜C)において粒子の成長が抑制されており、数百nmの微粒子が生成していることが確認できる。また、小さな穴が空いているように見える部分は炭素であると考えられ、導電性確保に十分な量の炭素が存在していると考えられる。
【0170】
(参考形態のSEM)
つぎに、本実施の形態に対する参考形態として、上記条件F(昇温速度が1500℃/min、800℃での保持時間が3.0分)で合成した合成物の形態について、走査型電子顕微鏡像に基づいて説明する。図14は、上記条件Fによる合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【0171】
(1500−3.0(800))
上記図14に示すように、上記条件Fによる合成物は、その形態に問題があることがわかる。すなわち、図14に示す合成物は、上記図13等に示した本実施の形態による合成物に比べて、その粒子径が大きくなっている。
【0172】
これは、800℃での3分間保持するとの加熱条件は、LiFePOの生成は生じるものの、クエン酸を十分に炭化させるには不十分であるためと考えられる。
【0173】
すなわち、炭化せずに残留したクエン酸の分解物が、LiFePOを包み込み、30μm程度の非常に大きな粒子を形成したものと考えられる(図14は、その粒子の表面の状態を示していると考えられる)。
【0174】
このように、クエン酸の分解物にLiFePOが包み込まれてしまい、それにより合成物の粒子が非常に大きくなった場合には、Liイオンの移動が妨げられ、その結果充放電特性に悪影響が生じる。充放電特性については、図17に基づいて後述する。
【0175】
(炭素含有量、電気伝導率)
つぎに、炭素含有量及び電気伝導率について説明する。
【0176】
本実施の形態の合成物は、上記条件A〜Cの全ての条件について、その炭素含有量は、約3wt.%以上であった。また、全ての合成物について、その電気伝導率は、5.0×10−1S/cm以下であった。
【0177】
なお、上記条件Cで合成した合成物は、上記炭素含有量及び電気伝導率について、最も良好な値を示した。
【0178】
(電池特性)
つぎに、電池特性について説明する。本実施の形態においては、正極ハーフセルを用いての充放電レート試験(充放電速度試験)と、サイクル試験(安定性評価試験)とを行っている。
【0179】
(0.1Cレートにおける充放電特性)
まず、0.1Cレートにおける充放電特性について、図15に示す充放電曲線データに基づいて説明する。
【0180】
図15に示すように、本実施の形態の全ての合成物(条件A〜C)が、3.4V vs Li/Li付近に充放電電位プラトーを示し、LiFePO特有の充放電カーブを描いている。
【0181】
そして、3.4V vs Li/Li付近以外には上記プラトーが見られないことから、FePなどの不純物による副反応は起こっていないと考えられる。
【0182】
また、充放電容量は焼成時間を短くするほど増加する傾向にある。これは不純物として含まれるFePの量が減少したため、LiFePOの割合が増加し、充放電容量が増加したためと考えられる。
【0183】
なかでも、FePを全く含まない3000−1.5に関しては150mAhg−1という高い容量を示した。
【0184】
(参考形態の充放電特性)
つぎに、本実施の形態に対する参考形態として、上記条件E(昇温速度が1500℃/min、900℃での保持時間が3.0分)及び条件F(昇温速度が1500℃/min、800℃での保持時間が3.0分)で合成した合成物の充放電特性について説明する。
【0185】
(0.1Cレート 1500−3.0)
図16は、上記条件Eによる合成物の、0.1Cレートにおける充放電曲線を示す図である。
【0186】
上記図16に示すように、上記条件Eでは、0.1Cという遅いレート充放電を行っているにもかかわらず、放電容量は120mAhg−1しか得られていないことがわかる。これは不純物が生成したことにより、合成物中のLiFePOの含有量が少なくなったためであると考えられる。
【0187】
以上のように、保持時間が長すぎる場合には、所望の充放電特性が得られないことがわかる。
【0188】
(1.0Cレート 1500−3.0(800))
図17は、上記条件Fによる合成物の、1.0Cレートにおける充放電曲線を示す図である。
【0189】
上記図17に示すように、上記条件Fでは、80mAhg−1という低い容量しか得られていないことがわかる。
【0190】
これは、先に図14に示すSEM像に基づいて説明したように、粒子径が大きくなりすぎたためにリチウムイオンの移動が著しく妨げられたことによると考えられる。
【0191】
すなわち、LiFePOから脱離できず、合成物の構造内に多くのリチウムイオンが取り残された状態で充放電が行われているためと考えられる。
【0192】
以上のように、保持温度が800℃と低い場合であっても、その保持時間が長い場合には不純物が生成し、また、数分程度の時間で焼成する場合に、保持温度が800℃ではクエン酸の炭化が不十分となり、所望の充放電特性が得られないことがわかる。
【0193】
(0.1−10.0Cレートにおける充放電特性)
つぎに、0.1C〜10.0C(1.0C=170mAg−1)レートにおける電流値で試験について、図18に基づいて説明する。図18は、上記レートにおける充放電レート試験の結果を示す図である。
【0194】
図18に示すように、焼成時間を短くするほどレート特性が向上している。
【0195】
FePはカルボサーマル還元反応の過還元によって生成するため、その生成と同時に炭素を消費する。焼成時間を短くした合成物ではFePの生成が抑制されたことで炭素の消費も少なくなっている。そのため、合成物における炭素含有量が増加し、その結果、導電性が向上して高いレート特性を示すものと考えられる。
【0196】
なかでも、炭素含有量が最も多いと考えられる3000−1.5では、10.0Cレートという非常に速い充放電においても、100mAhg−1という高い容量を示した。
【0197】
全ての合成物において、10.0Cという高速充放電の後に0.1Cで5サイクルの充放電を行ったが、その容量は初期の0.1Cでの5サイクルの充放電と同等か、もしくはそれ以上の値を示している。これより、全ての合成物について、高速充放電時にほとんど劣化を起こしていないと考えられる。
【0198】
(1.0Cレートにおけるサイクル試験)
つぎに、1.0Cレートにおけるサイクル試験の結果について図19に基づいて説明する。上記サイクル試験では、1.0Cレートで50サイクルの繰り返し充放電を行っている。
【0199】
図19に示すように、全ての合成物で50サイクルの間で容量が低下することはなく、非常に高い安定性を有していると考えられる。
【0200】
また、各合成物の容量の差は、先に0.1Cレートにおける充放電曲線で説明した理由と同様に、不純物であるFePの含有量によるものであると考えられる。
【0201】
(まとめ)
以上のように、本実施の形態においては、700℃以上で起こるとされている過還元反応が起こる前に焼成を終えることを目的として、前駆体ペレットの焼成において、高温での保持時間を短くしている。
【0202】
また、上記焼成における昇温中にも、前駆体ペレットには熱エネルギーが加えられており、還元反応が起こっていると考えられる。そこで、昇温速度を速くすることで全体的な焼成時間を短くして、過還元反応が起こることを抑制している。
【0203】
以上により、本実施の形態では、極短時間で、不純物の少ない、良好な正極材料を合成することができた。
【0204】
また、焼成時間が短くなることで、合成に要するエネルギーコストを削減することもできる。
【0205】
なお、上記温度等は必ずしもその温度に限定されるものではない。例えば、保持温度である900℃は、850℃以上950℃以下の範囲であっても、上記と同様の結果を得ることが可能である。
【0206】
〔実施の形態4〕
本発明の正極材料の合成方法に関する他の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。
【0207】
本実施の形態では、正極材料として、上記実施の形態1のLiFePOとは異なり、LiFeBOを合成する。
【0208】
すなわち、本発明の正極材料の合成方法は、上記LiFePOに限定されるものではなく、種々の正極材料の合成に適用することができる。その一例として、以下、電気伝導率の向上と、粒子の凝集抑制効果とを目的として、開始材料にクエン酸を混合して焼成時にそれを炭化させ、LiFeBOを炭素で被覆したLiFeBO/Cの合成について説明する。
【0209】
(前駆体)
まず前駆体を調製する。開始材料として、FeC・2HO、LiCO、HBOを用いる。そして、本合成方法では、カルボサーマル還元反応を用いて前駆体を合成するため、炭素源として、上記開始材料に加えてクエン酸を用いる。
【0210】
具体的には、上記開始材料を化学量論比で混合したうえで、前駆体の粉末に対して10wt.%となるようにクエン酸を混合する。
【0211】
つぎに、この混合物(粉末)を、空気中で、ステンレス粉砕ボールとともに、ステンレス粉砕容器に封入する。ここで、上記混合物と、ステンレス粉砕ボールの重量比は、1:20とする。封入後のステンレス粉砕容器を、遊星型ボールミル装置にセットし、回転速度400rpmで、5時間粉砕混合する。
【0212】
粉砕混合(ボールミル処理)後、ステンレス粉砕容器を空気中で開放して前駆体粉末を取り出す。
【0213】
(前駆体のペレットへの成型)
つぎに、上記前駆体の焼成について説明する。この焼成では、焼成に先立って、前駆体をペレット(前駆体ペレット)にする。
【0214】
すなわち、錠剤成型器を用いて前駆体粉末1gを20kNの圧力で圧縮して厚さ約2mmのペレット状(16mmφ)に成型する。
【0215】
(前駆体ペレットの焼成)
本実施の形態の合成方法では、先に説明した通り、この前駆体ペレットの焼成を高周波誘導加熱を用いて行う。
【0216】
具体的には、不活性ガス置換を行うことなく、真空下で700℃、1時間、前駆体ペレットを焼成する。
【0217】
その際の昇温速度は1400℃/minとする。
【0218】
上記焼成後、高周波誘導加熱装置の電源を切って室温まで自然冷却させる。
【0219】
以上より、LiFeBOからなる正極材料を合成する。
【0220】
なお、上記合成方法では、炭素被覆によってペレット表面の酸化が抑制されている。
【0221】
(合成物の同定)
つぎに、上記合成方法で合成された合成物の同定について説明する。
【0222】
合成物の同定は、粉末X線回折法(XRD)で、上記実施の形態1と同様の方法で行った。具体的には、X線回折装置LabX XRD−6100(島津製作所製)で、試料ホルダーはガラス製のものを用いて、測定を行った。
【0223】
詳しくは、上記合成物を乳鉢で粉末状態にした後、ガラス製試料ホルダーに表面が平滑になるように上記粉末状態の合成物を押し固めて固定した。つぎに合成物を固定したガラス製の試料ホルダーをゴニオメーターにセットして以下の条件で測定した。
【0224】
線源:Cu Kα,走査モード:連続スキャン,走査範囲:10.00°〜50.00°,走査ステップ:0.02°,走査速度:4.00°min−1,管電圧:40kV,管電流:30mA
図20に、本実施の形態の合成方法で合成された合成物及びLiFeBOのシミュレーションXRDパターンを示す。
【0225】
図20に示すように、上記の合成方法においても所望のLiFeBOが合成されていることが確認できた。
【0226】
(走査型電子顕微鏡(SEM))
つぎに、上記合成方法で合成された合成物の走査型電子顕微鏡による観察の結果について説明する。このSEM観察には、上記実施の形態1と同様に、走査型電子顕微鏡SU−1500(HITACH)を用いた。
【0227】
詳しくは、円形の試料台に導電性両面テープを貼り付け、その上に合成物(粉末)を押し付けて固定した。そして、試料台を装置に固定してチャンバーに挿入した後、チャンバー内を真空状態(<0.1Pa)にした。測定条件を以下に示す。
【0228】
加速電圧:15kV,Working distance:5mm,プローブ電流:30mA,倍率:30000倍
図21は、本実施の形態の合成方法で合成された合成物の走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【0229】
上記図21に示すように、上記の合成方法においても所望のLiFeBOが合成されていることが確認できた。
【0230】
(電気伝導率)
つぎに、上記合成方法で合成された合成物の電気伝導率について説明する。電気導電率は、四端針法で測定した。また、合成物は、上記ペレットのままで測定した。
【0231】
カルボサーマル還元反応、及び、高周波誘導過熱を用いて合成された合成物であるLiFeBOの電気伝導率値は、1.2×10−2Scm−1であった。
【0232】
〔実施の形態5〕
本発明の正極材料の合成方法に関する他の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。
【0233】
本実施の形態の合成方法では、上記実施の形態1の合成方法と比較して、前駆体ペレットの焼成の温度条件が異なる。
【0234】
すなわち、上記実施の形態1の合成方法では、前駆体ペレットを700℃で1時間焼成していた。すなわち、単一の温度条件で焼成していた。
【0235】
これに対して本実施の形態の合成方法では、複数の温度条件、具体的には2段階の温度条件で焼成を行う。
【0236】
詳しくは、まず第1段階の焼成として、300〜400℃で5〜10分焼成する。
【0237】
そして、続いて第2段階の焼成として、700〜900℃で2〜60分焼成する。
【0238】
なお、上記焼成は、実施の形態1と同様に、真空下で行う。また、焼成の際の昇温速度は、上記第1段階及び第2段階ともに、急加熱、すなわち、実施の形態1と同じ、1400℃/minとする。また、焼成後は、室温まで自然冷却する。
【0239】
上記合成方法によっても、上記各実施の形態と同様に、所望の合成物を得ることが可能である。
【0240】
〔実施の形態6〕
本発明の正極材料の合成方法に関する他の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。
【0241】
本実施の形態の合成方法では、上記実施の形態1の合成方法と比較して、カルボサーマル還元反応を用いていない点が相違する。すなわち、本実施の形態の合成方法では、前駆体の焼成に高周波誘導加熱を用いるものの、その際の反応は、いわゆるカルボサーマル還元反応ではない。以下、代表的な合成物についてその合成方法を順に説明する。
【0242】
なお、以下の合成方法においては、その特徴的な部分を中心に説明し、特に言及しないものは上記実施の形態1と同様である。
【0243】
(LiCoO
CoとLiCOとを2:3の化学量論比で混合し、エタノールを分散媒に使用してボールミル処理を行う。120℃で12時間以上真空乾燥させ、得られた粉末を抵抗式の加熱炉を用いて空気中で酸化処理を行う。処理条件は450℃で3時間とする。酸化処理した粉末をペレット状に成型し、グラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にした後、300ml・min−1の流速でアルゴンガスを流し、大気圧まで加圧する。そして、昇温速度を1400℃/minとして800℃で10分間焼成する。
【0244】
(LiNi0.8Co0.2
NiSO・5HOを純水に溶解させて飽和溶液を調整し、NiSO・5HOに対し4分の1等量のCoSO・7HOを加えて1時間攪拌して完全に溶解させる。つぎに、(NHCOの飽和水溶液を少しずつ加える。沈殿物の析出が起こらなくなるまで加えた後、ろ過・洗浄を行い、75℃で12時間以上真空乾燥させて(Ni0.8Co0.2)COを得る。つぎに抵抗式の加熱炉を用いて空気中、450℃で3時間の酸化処理を行った後、化学量論比のLiOH・HOを混合して、エタノールを分散媒に使用してボールミル処理を行う。120℃で12時間以上真空乾燥させて得られた粉末をペレット状に成型し、グラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にした後、300ml・min−1の流速でアルゴンガスを流し、大気圧まで加圧する。そして、昇温速度を1400℃/minとして800℃で10分間焼成する。
【0245】
(LiNi1/3Mn1/3Co1/3
NiSO・6HO,MnSO・5HO,CoSO・7HOを1:1:1の化学量論比で混合し、純水を加えて1時間攪拌して飽和溶液を調整する。つぎに(NHCOの飽和水溶液を少しずつ加える。沈殿物の析出が起こらなくなるまで加えた後、ろ過・洗浄を行い、75℃で12時間以上真空乾燥させて(Ni1/3Mn1/3Co1/3)COを得る。つぎに抵抗式の加熱炉を用いて空気中、450℃で3時間の酸化処理を行った後、化学量論比のLiOH・HOを混合して、エタノールを分散媒に使用してボールミル処理を行う。120℃で12時間以上真空乾燥させて得られた粉末をペレット状に成型し、グラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にした後、300ml・min−1の流速でアルゴンガスを流し、大気圧まで加圧する。そして、昇温速度を1400℃/minとして800℃で10分間焼成する。
【0246】
(LiNi0.6Mn0.2Co0.2
NiSO・6HO,MnSO・5HO,CoSO・7HOを3:1:1の化学量論比で混合し、純水を加えて1時間攪拌して飽和溶液を調整する。つぎに、(NHCOの飽和水溶液を少しずつ加える。沈殿物の析出が起こらなくなるまで加えた後、ろ過・洗浄を行い、75℃で12時間以上真空乾燥させて(Ni0.6Mn0.2Co0.2)COを得る。つぎに、抵抗式の加熱炉を用いて空気中、450℃で3時間の酸化処理を行った後、化学量論比のLiOH・HOを混合して、エタノールを分散媒に使用してボールミル処理を行う。120℃で12時間以上真空乾燥させて得られた粉末をペレット状に成型し、グラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にした後、300ml・min−1の流速でアルゴンガスを流し、大気圧まで加圧する。そして、昇温速度を1400℃/minとして800℃で10分間焼成する。
【0247】
(LiMn
MnO,LiCOを4:1の化学量論比で混合し、エタノールを分散媒に使用してボールミル処理を行う。つぎに、120℃で12時間以上真空乾燥させる。得られた粉末をペレット状に成型し、グラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にした後、300ml・min−1の流速でアルゴンガスを流し、大気圧まで加圧する。そして、昇温速度を1400℃/minとして800℃で10分間焼成する。
【0248】
(LiNi0.5Mn1.5
MnSO・5HOを純水に溶解させて飽和溶液を調整し、MnSO・5HOに対し3分の1等量のNiSO・5HOを加えて1時間攪拌して完全に溶解させる。つぎに、(NHCOの飽和水溶液を少しずつ加える。沈殿物の析出が起こらなくなるまで加えた後、ろ過・洗浄を行い、75℃で12時間以上真空乾燥させて(Ni0.25Co0.75)COを得る。つぎに、抵抗式の加熱炉を用いて空気中、450℃で3時間の酸化処理を行った後、化学量論比のLiOH・HOを混合して、エタノールを分散媒に使用してボールミル処理を行う。120℃で12時間以上真空乾燥させて得られた粉末をペレット状に成型し、グラファイト坩堝に移して、石英ガラス管でできた高周波誘導加熱装置のチャンバー内に入れる。チャンバー内を真空状態にした後、300ml・min−1の流速でアルゴンガスを流し、大気圧まで加圧した。そして、昇温速度を1400℃/minとして800℃で10分間焼成する。
【0249】
上記各合成方法によっても、上記各実施の形態と同様に、所望の合成物を得ることが可能である。
【0250】
なお、上記各化合物の組成比は、上記各記載に限定されるものではない。上記各記載は組成比の一例であり、例えば、LiNi0.5Mn1.5は、この組成比に限定されるものではなく、LiNiMn2−x(0≦x≦0.5)というように同等の組成比を有する化合物も含む。
【0251】
本発明は上記した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0252】
例えば、本発明の正極材料の合成方法においてリチウムの源(リチウム源)となるリチウム化合物は、LiCO,LiOH,CHCOOLi,LiNO,LiF,LiCl,LiBr,LiI,LiCOなどの中から適宜選択することができる。
【0253】
また、本発明の正極材料の合成方法においてリチウム以外の金属の源となる金属化合物は、FeCl,FeO(OH),Fe,Fe,Fe(NO,FePO,FeC,FeCl,Fe(CHCOO),Fe(PO,CoCl,Co(HCOO),Co(CHCOO),CoO,Co,CoC,Co(NO,CoCO,CoSO,Mn(HCOO),Mn(CHCOO),MnC,Mn(NO,MnCO,MnCl,MnO,MnO,Mn,MnSO,Ni(CHCOO),NiC,Ni(NO,NiCO,NiCl,Ni(OH),NiO,NiSOなどの中から適宜選択することができる。
【0254】
また、本発明の正極材料の合成方法は、LiNiMn2−x(0≦x≦0.5),LiNi1−xMnCo(0≦x≦1/3),LiNiCo1−x(0≦x≦1.0)などの正極材料の合成に適用することができる。
【0255】
より具体的には、LiCoO,LiNiO,LiNi0.8Co0.2,LiNi1/3Mn1/3Co1/3,LiNi0.6Mn0.2Co0.2,LiMn,LiNi0.5Mn1.5,LiFeP0,LiFeBOなどの正極材料の合成に適用することができる。
【0256】
また、本発明の正極材料の合成方法は、3価の鉄を含む金属化合物、具体的には、例えばFeCl,FeO(OH),Fe,Fe,Fe(NO,FePOなどの中から適宜選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明は、正極材料を低コストで製造することを可能とする。そのため、大型リチウムイオン電池の大量生産を容易にするので、電気自動車などの車載用リチウムイオン電池等において好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用の正極材料の合成方法であって、
上記正極材料はリチウムと、リチウム以外の金属との複合酸化物であり、
少なくとも、上記リチウムの源となるリチウム化合物と、上記リチウム以外の金属の源となる金属化合物とを含む混合物を加熱して上記複合酸化物を合成する際、
上記加熱を高周波誘導加熱を用いて行うことを特徴とする正極材料の合成方法。
【請求項2】
上記加熱が、300℃以上、950℃以下の温度で、1分以上、90分以下の時間行われることを特徴とする請求項1に記載の正極材料の合成方法。
【請求項3】
上記加熱が、300℃以上、900℃以下の温度で、1分以上、90分以下の時間行われることを特徴とする請求項1に記載の正極材料の合成方法。
【請求項4】
上記加熱が、850℃以上、950℃以下の温度で、1.5分以上、2分以下の時間行われることを特徴とする請求項1に記載の正極材料の合成方法。
【請求項5】
上記加熱の際の昇温速度が、1500℃/min以上、3000℃/min以下であることを特徴とする請求項4に記載の正極材料の合成方法。
【請求項6】
上記加熱が、850℃以上、950℃以下の温度で行われ、
上記加熱における温度が700℃を超えてから、冷却開始までの時間が、90秒以上、135秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の正極材料の合成方法。
【請求項7】
上記リチウム化合物が、LiCO,LiOH,CHCOOLi,LiNO,LiF,LiCl,LiBr,LiI,LiCOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項8】
上記金属化合物が、FeCl,FeO(OH),Fe,Fe,Fe(NO,FePO,FeC,FeCl,Fe(CHCOO),Fe(PO,CoCl,Co(HCOO),Co(CHCOO),CoO,Co,CoC,Co(NO,CoCO,CoSO,Mn(HCOO),Mn(CHCOO),MnC,Mn(NO,MnCO,MnCl,MnO,MnO,Mn,MnSO,Ni(CHCOO),NiC,Ni(NO,NiCO,NiCl,Ni(OH),NiO,NiSOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項9】
上記正極材料が、LiNiMn2−x(0≦x≦0.5),LiNi1−xMnCo(0≦x≦1/3),LiNiCo1−x(0≦x≦1.0)のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項10】
上記正極材料が、LiCoO,LiNiO,LiNi0.8Co0.2,LiNi1/3Mn1/3Co1/3,LiNi0.6Mn0.2Co0.2,LiMn,LiNi0.5Mn1.5,LiFeP0,LiFeBOのうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項11】
カルボサーマル還元反応により上記金属化合物を還元することで上記正極材料としての複合酸化物を合成することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項12】
上記正極材料が、LiFeP0又はLiFeBOであることを特徴とする請求項11に記載の正極材料の合成方法。
【請求項13】
上記金属化合物が、鉄を含む金属化合物であり、
上記鉄が3価であることを特徴とする請求項12に記載の正極材料の合成方法。
【請求項14】
上記金属化合物が、FeCl,FeO(OH),Fe,Fe,Fe(NO,FePOから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項13に記載の正極材料の合成方法。
【請求項15】
上記正極材料の炭素含有量が、0.1wt.%以上、10wt.%以下であることを特徴とする請求項11から14のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項16】
上記正極材料の電気伝導率が、1.0×10−3Scm−1以上、1.0Scm−1以下であることを特徴とする請求項11から15のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。
【請求項17】
上記正極材料が粒状であり、その粒径が100nm以上、5μm以下であることを特徴とする請求項11から16のいずれか1項に記載の正極材料の合成方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−82131(P2011−82131A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73042(P2010−73042)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】