説明

歩行者保護装置

【課題】ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両との衝突後、路面に倒れる際に人体の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢を歩行者に与える歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】歩行者保護装置は、ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両前面で上下方向及び車両幅方向に複数設けられるパネル細部材9と、パネル細部材9の後方に設けられる規定部材11とを有する。パネル細部材9は後方へ延びるロッド9bを有する。規定部材11の前面11dには各パネル細部材9のロッド9bと嵌合する穴部11aが形成される。ロッド9bは穴部11aの内壁11cに沿って穴部11aを後方に移動可能である。パネル細部材9の後方への移動距離は対応する穴部11aの前後方向の深さで規定される。車両1と衝突した人体が路面に倒れる際に傷害の程度を軽減する姿勢をとるよう、歩行者衝突時の各パネル細部材9の後方への移動距離を定めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行者保護装置に関する。より詳しくは、ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両前面に設けられ、車両と歩行者の衝突時に人体の傷害の程度を軽減する歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両と歩行者との衝突時、歩行者の被害をいかにして抑えるかについて、様々な工夫がなされてきた。その例として、特許文献1に示すような衝撃吸収のためのエアバッグを車両前面に装備するものや、特許文献2に示すような車両下部への巻き込み防止のためのガードを取り付けるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2005−503287号公報
【特許文献2】特開2006−273282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、キャブオーバ、セミキャブオーバ、ワンボックス等のボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両と歩行者との衝突時に歩行者の被害が大きくなる要因として、車両衝突後、車両前方に人体が跳ねられ、跳ねられた人体が路面へ倒れるときに、頭部を車両から遠い方、脚部を車両から近い方として人体が路面に対して傾斜する姿勢をとることがあげられる。
【0005】
これを図8に示す。図8には、車両と衝突後の人体の挙動が右から左へと時系列で示されており、右端には車両衝突時の人体の状態、左端には路面に倒れた時の人体の状態が示されている。
ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両では、車両100の前面が路面120に対してほぼ垂直に形成されているので、車両100と衝突後の人体(110a)は、矢印Aに示すように車両100の前方に跳ねられる。その後、脚部が路面120に接地(110b)し、矢印Bに示す方向に回転するとともに、路面120に倒れる(110c)。
この一連の過程において、人体の脚部が路面120に接地(110b)した後、人体が路面に倒れる(110c)までの間、人体は頭部を車両100から遠い方、脚部を車両100から近い方として路面120に対して傾斜した姿勢をとる。
【0006】
このとき、着地の形態によっては、矢印Bで示す人体の回転が矢印Aに示す方向の人体の移動と相まって、人体、特に頭部が路面120に衝突する速度が大きくなり、路面120との衝突時に傷害の程度が大きくなる危険性がある。
これに対し、人体の脚部が路面120に接地した後、人体が路面に倒れるまでの間、人体が脚部を車両100から遠い方、頭部を車両100から近い方として路面120に対して傾斜した姿勢をとるようにすれば、上記のような危険性が生じず、人体の傷害の程度が軽減すると考えられる。
【0007】
なお、以下人体と車両の衝突を一次衝突と呼び、図8の人体110aで示す状態とする。また、一次衝突後、人体の一部(脚部)が路面に接してから人体が路面に倒れることを二次衝突と呼び、図8の110bから110cで示す状態とする。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両との衝突後、路面に倒れる際に人体の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢を歩行者に与える歩行者保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために本発明は、ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両前面において少なくとも上下方向に複数設けられるパネル片を有し、前記パネル片のそれぞれは、車両前面と衝突後の人体が、脚部を車両から遠い方に、頭部を車両から近い方にして傾斜しながら路面に倒れるように、独立して後方に所定距離を移動可能であることを特徴とする歩行者保護装置である。
ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両としては、例えばキャブオーバ、セミキャブオーバ、ワンボックスタイプのものがある。
【0010】
本発明の歩行者保護装置は、前記パネル片の後方に設けられる規定部材を更に有し、前記パネル片には、後方へ延びる棒材が設けられ、前記規定部材には、前記パネル片の前記棒材と嵌合する穴部が前面に形成され、前記棒材は、前記穴部の内壁に沿って前記穴部を後方に移動可能である。
【0011】
また、前記穴部における前記棒材の移動には、所定の抵抗力が導入される。
加えて、前記穴部の前後方向の深さは、上部で形成される穴部ほど大きい。
【0012】
本発明の歩行者保護装置は、前記穴部のそれぞれにおける流体圧を独立に制御するための制御手段を更に有するようにしてもよい。
加えて、車両前方の人体との衝突を予知する衝突予知手段と、前記衝突予知手段で車両との衝突を予知した人体について、その体型を判定する体型判定手段と、を本発明の歩行者保護装置が更に有し、前記制御手段は、前記衝突予知手段で人体との衝突を予知したことに伴って、前記体型判定手段で判定された体型に基づいて前記穴部における流体圧を制御するようにすることもできる。
【0013】
上記の構成により、路面に倒れる際に、脚部を車両から遠い方に、頭部を車両から近い方にして人体が路面に対し傾斜する、人体の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢を車両衝突後の人体に与えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両との衝突後、路面に倒れる際に人体の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢を歩行者に与える歩行者保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】二次衝突における人体の挙動をシミュレーションした結果の概略を示す図
【図2】脚部接地時の人体と路面のなす角とその後の回転方向について解析を行った結果の概略を示す図
【図3】第1の実施形態の歩行者保護装置を有する車両の斜視図
【図4】車両通常走行時の第1の実施形態の歩行者保護装置を示す図
【図5】車両と人体の衝突時の第1の実施形態の歩行者保護装置を示す図
【図6】本発明の歩行者保護装置を有する車両と衝突時の人体の挙動について説明する図
【図7】第2の実施形態の歩行者保護装置の規定部材について説明する図
【図8】車両と衝突時の人体の挙動について説明する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の歩行者保護装置の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の歩行者保護装置について説明する前に、まず、図1を参照しながら二次衝突時の人体の挙動について説明する。
図1は二次衝突における人体の挙動を、脚部が路面に接した時の人体と路面のなす角(路面の法線に対する角度)、衝突時の車両速度を変数としてシミュレーションした結果の概略を示すものである。
図1の各図には、人体の挙動が右から左へと時系列で示されており、右端には脚部が地面に接地した時の人体の状態、左端には路面に倒れた時の人体の状態が示されている。
なお、図1には衝突時の車両速度が20km/hの場合の結果を示すが、検討時には衝突時の車両速度を40km/hとしたシミュレーションも行っている。ただし、以下示す車両速度が20km/hの場合の結果と同様の結果が得られたため、シミュレーション結果の表示は省略した。
なお、20km/h〜40km/hは衝突事故時の一般的な車両速度であり、本シミュレーション結果は歩行者と車両の衝突の観点から広く応用可能である。
【0018】
図1(a)には脚部が路面に接した時の人体と路面のなす角を30°、図1(b)にはこれを40°、図1(c)にはこれを50°とした場合の結果を示す。
【0019】
図1(a)に示すように、脚部接地時の人体210と路面240のなす角が30°のときは、以降人体210は矢印Dに示す方向に回転し、頭部を車両200から遠い方、脚部を車両200から近い方にして路面240に倒れる。
この場合、前述したように、人体210の回転が矢印Cに示す方向の人体210の移動と相まって、人体210、特に頭部が路面240に衝突する速度が大きくなり、二次衝突時に傷害の程度が大きくなる危険性がある。
一方、図1(b)、図1(c)に示すように、脚部接地時の人体220、230と路面240のなす角度が40°、50°のときは、以降人体220、230は矢印E、Fに示す方向に回転し、脚部を車両200から遠い方、頭部を車両200から近い方にして人体220、230が路面240に対して傾斜した姿勢をとりながら路面240に倒れる。
この場合、上記のような問題が起こらず、人体の傷害の程度を軽減することができる。
【0020】
以上より、本シミュレーションにおける条件下では、一次衝突後、脚部接地時の人体と路面法線のなす角が30°以下のとき、人体の傷害の程度が大きくなり、これが40°以上であれば人体の傷害の程度は軽減されることがわかる。
【0021】
また、脚部接地時の人体と路面のなす角(路面に対する角度)とその後の人体の回転方向について、古典的な力学解析手法を用いた解析を行った。その結果の概要を図2に示す。
【0022】
図2において、図2(a)は解析モデルを示す図であり、300は人体を模した剛体棒、310は路面を示す。
図2(a)に示す解析モデルより、剛体棒300の重心G回りのモーメントの釣り合いを考えると、次式が得られる。
・I・cosθ−F・I・sinθ+M=0
また、μ=f(V)、F=μ・F、I=0.57・H(男性)、I=0.55・H(女性)である。
ここで、Fは剛体棒300の重量、Fは路面310の摩擦力、Mは剛体棒300の重心G回りの回転モーメント、Vは剛体棒300のすべり速度、Hは剛体棒300の長さ、Iは剛体棒300の下端から重心までの長さ、θは剛体棒300と路面310のなす角度、μは路面310の摩擦係数である。
【0023】
路面310の摩擦係数μに任意の値を代入して上式を回転モーメントMについて解くと、剛体棒300を回転させないために剛体棒300に与えるべき回転モーメントMが、剛体棒300の長さHと重量F(人体で身長、体重に相当)、及び剛体棒300と路面310のなす角度θに対して求まる。
図2(b)は、μに一般的なアスファルト道路の摩擦係数である0.7を代入して解析を行って得られた、剛体棒300の重心G回りの回転モーメントMと、角度θとの関係を示す図である。
なお、図2(b)の複数の曲線は、男性、女性、子供など、様々な体型の人体を想定して剛体棒300の長さHと重量Fgの値を定めて解析を行った結果を表わしている。
【0024】
図2(b)に示す各曲線より上の範囲の回転モーメントMが剛体棒300の重心G回りに発生すると、図2(a)より、剛体棒300は時計回りに回転する。
図2(a)における時計回りの回転は、図1に示すような車両衝突時においては、一次衝突後、二次衝突時に脚部を車両200から遠い方に、頭部を車両200から近い方にして人体が路面に対して傾斜した姿勢をとる矢印EやFで示す回転に相当し、人体の傷害の程度が小さくなると予想される回転方向である。
【0025】
図2(b)からは、本解析の条件下では、一次衝突後、脚部接地時に人体と路面のなす角θと人体の重心に与える回転モーメントMを図2(b)においてハッチングされた領域の範囲とすることで、体型に関わらず、二次衝突時に脚部を車両から遠い方に、頭部を車両から近い方にして人体が路面に対して傾斜した姿勢をとるような回転を行うことがわかる。また、シンプルな条件設定としては、一次衝突後、脚部接地時に人体と路面とのなす角θを55°以下とし、少なくとも図2(a)の時計回りの方向に回転モーメントを与えればよいことがわかる。これは図2(b)においてハッチングされた領域内の点線で囲まれた領域に相当する。
なお、図2(a)に示す角度θが55°以下であるとは、路面の法線とのなす角が35°以上であることに等しく、図2に示した解析結果は図1に示したシミュレーション結果と概ね一致する。
【0026】
以上示したように、二次衝突時、脚部を車両から遠い方に、頭部を車両から近い方にして人体が路面に対し傾斜した姿勢をとりながら路面に倒れることにより、人体、特に頭部の傷害の程度が軽減される。このため、一次衝突後、人体の一部(脚部)が接地時の人体と路面(法線)とのなす角度等を所望のものとすることが有効である。
これらの知見等に基づき、発明者らは歩行者保護装置を発明した。以下本発明の歩行者保護装置について説明を行う。
【0027】
まず、図3、図4を参照しながら、本発明の歩行者保護装置の第1の実施形態について説明する。図3は第1の実施形態の歩行者保護装置を有する車両の斜視図である。図4は車両通常走行時の第1の実施形態の歩行者保護装置を示す図であり、図4(a)は第1の実施形態の歩行者保護装置を有する車両の側面図、図4(b)はパネル細部材と規定部材を示す断面図である。
【0028】
図3、図4(a)、図4(b)に示すように、車両1は、キャブオーバタイプの車両であり、前面にフロントガラス3、バンパー7、パネル細部材(パネル片)9等を有する。
第1の実施形態の歩行者保護装置は、パネル細部材9、後述する規定部材11等を有する。
なお、第1の実施形態及び後述する第2の実施形態はキャブオーバタイプの車両を例にあげ説明するが、この他、セミキャブオーバ、ワンボックス等のボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両、すなわち一次衝突後の人体が車両前方に跳ねられるような車両前面形状を有する車両、に本発明の歩行者保護装置を適用することができる。
【0029】
図3、図4(a)に示すように、パネル細部材9は車両前方からみて矩形の形状を有する。車両前面の中央高さ位置で、上下方向に4列、車両幅方向9列に複数のパネル細部材9が配置される。ただし、配置数はこれに限定されない。車両1の通常走行時には、各パネル細部材9は、車両前面に沿って上下方向及び車両幅方向に配置された状態である。
【0030】
図4(b)に示すように、各パネル細部材9は、パネル細部材9の後面9aから後面9aの法線方向に沿って後方に延びるロッド(棒材)9bを有する。
また、パネル細部材9の後方には、各パネル細部材9の後方への移動距離を所定のものに規定するための規定部材11が設けられる。
規定部材11の前面11dには複数の穴部11aが前後方向に延びるように形成される。各穴部11aは対応するパネル細部材9のロッド9bとそれぞれ嵌合する。ロッド9bは、穴部11aの内壁11cに沿って移動可能であり、これによりパネル細部材9が前後方向に移動する。
【0031】
各穴部11aは後壁11bをその後方に有する。ロッド9bの後端9cが後壁11bに接すると、それより後方にロッド9bが移動することができないようになっている。すなわち、各パネル細部材9の後方への移動距離は穴部11aの前後方向の深さにより規定される。本実施形態では、上部の穴部11aほど前後方向の深さが大きくなるよう形成されている。なお、穴部11aは、規定部材11を前後方向に貫通するように形成してもよい。
【0032】
また、穴部11a内でのロッド9bの移動には、ロッド9bと内壁11cとの間の摩擦力等による所定の抵抗力が導入される。これにより、車両1の通常走行時に各パネル細部材9の位置が保持される。また、後述する車両と歩行者の衝突の際には、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0033】
図5は、車両と人体との衝突時の第1の実施形態の歩行者保護装置を示す図である。図5(a)は第1の実施形態の歩行者保護装置を有する車両の衝突時の状態を示す側面図である。図5(b)は衝突時のパネル細部材9と規定部材11の状態を示す断面図である。
【0034】
図5(a)に示すように、車両前面で人体10と衝突(一次衝突)すると、図5(b)に示すように、人体10と接触したパネル細部材9が押されて後方に移動する。上述したように、上部の穴部11aほど前後方向の深さが大きく、パネル細部材9は上部のものほどより後方へ移動する。これにより、路面法線に対して角度θをなす後方への概略傾斜12がパネル細部材9等により形成される。
各穴部11aの前後方向の深さを後壁11bの位置等により定め、一次衝突時の傾斜12を所望のものにすることができる。すなわち二次衝突時、脚部を車両1から遠い方、頭部を車両1から近い方として人体10が路面に倒れるように、傾斜12が路面法線に対してなす角度θを定めることができる。
【0035】
続いて、図6を用いて、本実施形態の歩行者保護装置を有する車両1と衝突時の人体の挙動について説明する。
【0036】
人体は、車両1と一次衝突(人体15)したあと車両前方に跳ねられ、二次衝突時、まず脚部が路面21に接地する(人体17)。
一次衝突時(人体15)には、前述したように、人体と接触したパネル細部材9が後方へ押されて移動し、パネル細部材9等により概略傾斜12が形成される。
【0037】
本実施形態では、図1や図2で示した知見をもとに、傾斜12が路面法線に対する角度θが35度以上となるよう、各穴部11aの前後方向の深さが予め定められている。
【0038】
よって、車両前面と一次衝突した人体の体幹は、路面法線と35°以上の角度をなす。また、このとき人体15は下部をすくわれるような形となるので、脚部接地時(人体17)には、人体17と路面法線のなす角度が35°以上かつ図6のbに示す回転モーメントが働いている状態となる。
よって、その後人体は脚部を車両1から遠い方、頭部を車両1から近い方として路面21に対して傾斜した姿勢をとりながら、路面21に倒れる(人体19)。この姿勢は、前述したように、人体、特に頭部の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢である。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の歩行者保護装置によれば、歩行者と車両1の一次衝突時、車両前面に設けられたパネル細部材9が人体に押されて後方へ移動する。その移動距離は、各パネル細部材9と対応する規定部材11の穴部11aの前後方向の深さにより規定される。本実施形態では、各穴部11aの前後方向の深さは上部の穴部ほど大きく、一次衝突時の人体の体幹が路面法線に対して35°以上の角度をなして傾斜するよう予め定められている。これにより、二次衝突時に、脚部を車両から遠い方、頭部を車両から近い方として人体が路面に対して傾斜した姿勢、すなわち人体の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢を歩行者に与えることができる。また、パネル細部材9のロッド9bの穴部11aにおける移動には、摩擦力等の所定の抵抗力が導入される。これにより、通常走行時にはパネル細部材9の位置が車両前面に沿うように保持され、また、一次衝突時には衝突エネルギーを吸収することができる。
【0040】
また、パネル細部材9は、主に車両前面と接触する範囲では、人体が股部、腰部、首部を中心として変形することから、各パネル細部材9はこれに合わせて上下に3段以上設けられることが望ましい。上下に2段以下のパネル細部材9を設ける場合に比べ、人体をパネル細部材9に沿わせることが容易になる。
また、本実施形態では左右方向にも複数のパネル細部材9を設けている。これは、一次衝突時に歩行者と接触した部分でのみパネル細部材9を移動させることにより、各パネル細部材9が後方へ移動しやすくなる効果を奏する。例えば車両幅方向に幅広の複数のパネル細部材9を上下方向にのみ設ける場合では、直接人体と接しない位置でもパネル細部材9が後方に移動するため、これに伴う移動抵抗を受ける。
【0041】
なお、パネル細部材9や規定部材11は上記示したものに限らない。パネル細部材9もしくは規定部材11の構成は、各パネル細部材9の後方への移動距離を所定のものに規定するように、様々に定めることができる。例えば、各パネル細部材9のロッド9bを所定範囲で前後方向に伸縮可能とし、これによりパネル細部材9の後方への移動距離を定めることもできる。この場合、規定部材11は不要となる。
【0042】
次に、図7を参照しながら、本発明の歩行者保護装置の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態は規定部材の構成において第1の実施形態と異なる。その他の構成は第1の実施形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
図7は第2の実施形態の歩行者保護装置の規定部材について説明する図であり、図7(a)はパネル細部材と規定部材を示す側面図、図7(b)は第2の実施形態の歩行者保護装置の機能構成を説明する図である。
【0043】
第2の実施形態では、規定部材22の穴部22aはそれぞれ流体供給源25と連通し、その経路間に制御弁23が設けられる。制御弁23に備えられた絞りの開閉により、各穴部22aにおける流体圧が独立に制御される。流体圧は、空圧でもよいし、油圧でもよい。
穴部22a内の流体圧を高めれば車両と人体との衝突時のパネル細部材9(ロッド9b)の後方への移動距離が小さくなり、逆に流体圧を低くすれば、衝突時のパネル細部材9の後方への移動距離が大きくなる。これにより、各パネル細部材9の後方への移動距離を制御することができる。また、これとともに一次衝突時の衝突エネルギーを吸収させることができる。
【0044】
さらに、車両1には、本発明の歩行者保護装置を構成するものとして、衝突予知センサ(不図示、衝突予知手段)、画像センサ等の体形判定センサ29(体形判定手段)、コントローラ27(制御手段)が設けられる。
衝突予知センサは、車両前方の人体との衝突を予知するものであり、制御部等を有する赤外線センサや画像センサ等従来知られたものを使用することができる。
体型判定センサ29は、衝突予知センサで衝突を予知した人体の体型を判定するものであり、制御部等を有する画像センサ等従来知られたものを使用することができる。
衝突予知センサと体型判定センサ29は、別個に設けてもよいし、画像センサ等で一体化してもよい。
コントローラ27は体型判定センサ29等と電気的に接続し、体型判定センサ29等からの信号に基づいて各制御弁23の絞りの開閉を独立に制御する。
【0045】
第2の実施形態の歩行者保護装置においては、衝突予知センサが人体との衝突を予知すると、体型判定センサ29が衝突が予知された人体の体型を判定する。体型とは、例えば身長や身幅である。体型判定センサ29で判定された体型に応じて、コントローラ27が各穴部22aに対応する制御弁23の絞りの開閉を行い、各穴部22aにおける流体圧を制御する。
これにより、各穴部22aに対応する各パネル細部材9の後方への移動距離を制御することで、一次衝突時にパネル細部材9等が、路面法線に対して所望の角度(例えば35°以上)をなす後方への概略傾斜を形成するようにできる。
【0046】
よって、図6に示した例と同様、一次衝突時の人体の体幹を路面法線に対して所望の角度(例えば35°以上)をなして後方に傾斜させ、二次衝突時、脚部を車両から遠い方、頭部を車両から近い方として人体が路面に対して傾斜した姿勢、すなわち人体の傷害の程度の軽減に繋がる姿勢をとりながら路面に倒れるようにすることができる。
【0047】
第2の実施形態では、体型判定センサ29の判定結果も踏まえて各パネル細部材9の後方への移動距離を制御することができるので、歩行者の体型に応じて、車両衝突時の傷害の程度を軽減することが可能である。
例えば、身長の高い(大人の)歩行者の場合、一次衝突時、パネル細部材9等に沿って人体が路面法線に対して所望の角度(例えば35°以上)をなして後方に傾斜するよう、下部の穴部22aの流体圧を、対応する制御弁23の絞りを閉じることで上部の穴部22aの流体圧より大きくし、下部のパネル細部材9の後方への移動距離をより小さくするが、一方、身長の低い(子供の)歩行者の場合、身長に合わせて、下部の穴部22aの流体圧も小さくし、下部のパネル細部材9の後方への移動距離も大きくする。これにより、身長の低い歩行者であっても、一次衝突時、パネル細部材9等に沿って人体が路面法線に対して所望の角度(例えば35°以上)をなして容易に後方に傾斜するようにすることができる。
【0048】
なお、衝突予知センサ、体型判定センサ29等を用いて、歩行者の体型に応じてパネル細部材9の後方への移動距離を制御する例は上記のものに限らない。例えば、身長と身幅等判定した体型に基づいて、体型判定センサ29の制御部がさらに歩行者の体重を推定し、この推定結果に基づいてコントローラ27が各穴部22aにおける流体圧を変化させるようにすることもできる。例えば、歩行者の体重が重いと推定された場合、各穴部22aの流体圧を一様に大きくし、一次衝突時の衝突エネルギーがより吸収されるようにすることができる。
また、第2の実施形態では流体圧を変化させてパネル細部材9の後方への移動距離を制御したが、例えば各穴部22aの後壁22bの位置を、体型判定センサ29が判定した歩行者の体型に応じてコントローラ27により前後方向へ独立に移動させることで、第1の実施形態のように各穴部22aの前後方向の深さによってパネル細部材9の後方への移動距離を制御することも可能である。
【0049】
以上、添付図面を参照しながら、本発明にかかる歩行者保護装置等の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
1………車両
3………フロントガラス
7………バンパー
9………パネル細部材
9b………ロッド
11、22………規定部材
11a、22a………穴部
11b、22b………後壁
23………制御弁
25………流体供給源
27………コントローラ
29………体型判定センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンネット部が無いか車両前後方向に短いタイプの車両前面において少なくとも上下方向に複数設けられるパネル片を有し、
前記パネル片のそれぞれは、車両前面と衝突後の人体が、脚部を車両から遠い方に、頭部を車両から近い方にして傾斜しながら路面に倒れるように、独立して後方に所定距離を移動可能であることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記パネル片の後方に設けられる規定部材を更に有し、
前記パネル片には、後方へ延びる棒材が設けられ、
前記規定部材には、前記パネル片の前記棒材と嵌合する穴部が前面に形成され、
前記棒材は、前記穴部の内壁に沿って前記穴部を後方に移動可能であることを特徴とする請求項1記載の歩行者保護装置。
【請求項3】
前記穴部における前記棒材の移動には、所定の抵抗力が導入されることを特徴とする請求項2記載の歩行者保護装置。
【請求項4】
前記穴部の前後方向の深さは、上部で形成される穴部ほど大きいことを特徴とする請求項2もしくは請求項3記載の歩行者保護装置。
【請求項5】
前記穴部のそれぞれにおける流体圧を独立に制御するための制御手段を更に有することを特徴とする請求項2記載の歩行者保護装置。
【請求項6】
車両前方の人体との衝突を予知する衝突予知手段と、
前記衝突予知手段で車両との衝突を予知した人体について、その体型を判定する体型判定手段と、
を更に有し、
前記制御手段は、前記衝突予知手段で人体との衝突を予知したことに伴って、前記体型判定手段で判定された体型に基づいて前記穴部における流体圧を制御することを特徴とする請求項5記載の歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−221728(P2010−221728A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67939(P2009−67939)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】