説明

歪み取り装置及び方法

【課題】冷却性能に優れ、溶接部と加熱部の距離を適切に保持することができ、装置の小型化及び軽量化を図ることができる歪み取り装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の歪み取り装置は、熱源を生成する加熱コイル1aと加熱コイル1aに配置される磁性体1bとを有する加熱部1と、加熱コイル1aに高周波磁束を発生させるトランス部2と、加熱対象部Xに冷却流体を放出する冷却流路3と、加熱部1の外周を囲むとともに加熱部1と加熱対象部Xとの間に冷却空間Cを形成するガイド壁4と、を有し、冷却流路3はガイド壁4よりも内側に配置され、ガイド壁4は冷却流体を排出する複数の開口部4aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接した際に生じた溶接変形を除去するための歪み取り装置及び方法に関し、特に、高周波誘導加熱を用いた歪み取り装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等の鉄鋼構造物は、鋼板を溶接して組み立てられる部分が多い。一般に鋼板の溶接は、高温に加熱された溶接部が冷却する際に周辺部を引き寄せることにより溶接変形を伴う。この溶接変形を溶接後に除去することを「歪み取り」という。かかる歪み取り方法には、プレス等の機械的手段による方法や灸すえ法とも呼ばれる加熱冷却による方法がある。船舶等のように大型の構造物では、機械的手段を採用することは困難であり、一般に加熱冷却による方法が採用される。従来、作業者がガストーチを手に持って溶接部の表面又は裏面をビードに沿って移動しながら加熱冷却していたが、かかる作業には加熱状態(加熱温度、加熱深さ等)の把握や冷却タイミング等において高度の熟練を要する。そこで、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されたような歪み取り装置が開発されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に記載された歪み取り装置は、いずれも高周波誘導加熱によって溶接部を急速加熱し、水冷によって急速冷却する装置であり、特許文献1の歪み取り装置は床面を加熱する台車タイプ、特許文献2は縦壁面も加熱可能なハンディタイプのものである。これらの歪み取り装置は、熟練工ではない一般工でも歪み取り作業の一定の品質及びスピードを維持することができる、作業員の作業環境を改善することができる等の効果を奏する。
【0004】
【特許文献1】特開平11−170081号公報
【特許文献2】特開2002−18521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の歪み取り装置では、溶接部の急速冷却する際に冷却水を流し掛けているだけであるため、冷却効率が悪い、冷却ムラができ易い等の問題がある。また、特許文献1に記載の台車タイプの歪み取り装置では、加熱機構が台車に固定されているため、台車の走行部に湾曲や段差が生じている場合に溶接部と加熱部の距離を適切に保持することができず、加熱ムラが生じてしまうという問題がある。さらに、特許文献2に記載のハンディタイプの歪み取り装置では、装置の小型化及び軽量化を図りたいという要求がある。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、冷却性能に優れ、溶接部と加熱部の距離を適切に保持することができ、装置の小型化及び軽量化を図ることができる歪み取り装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、熱源を生成する加熱コイルと該加熱コイルに配置される磁性体とを有する加熱部と、前記加熱コイルに高周波磁束を発生させるトランス部と、加熱対象部に冷却流体を放出する冷却流路と、を備えた歪み取り装置であって、前記加熱部の外周を囲むとともに前記加熱部と前記加熱対象部との間に冷却空間を形成するガイド壁を有し、該ガイド壁よりも内側に前記冷却流路が配置され、前記ガイド壁には前記冷却流体を放射状に排出する複数の開口部が形成されている、ことを特徴とする歪み取り装置が提供される。
【0008】
前記加熱部を複数配置する場合には、前記ガイド壁を有する加熱部を前記開口部が連通するように配置することが好ましい。また、前記冷却流路は、前記加熱部の中心部、前記加熱コイルと前記磁性体との間、前記磁性体と前記ガイド壁との間又は前記加熱コイルのいずれかに形成されていることが好ましい。また、前記トランス部は、絶縁オイル内に浸漬されていてもよい。
【0009】
前記歪み取り装置は、前記トランス部を収納した筐体を有し、前記加熱部は前記筐体の先端部又は先端部側面に配置されていてもよい。また、前記筐体は、前記加熱対象部上を移動可能な車輪と、前記加熱部を前記加熱対象部に接近又は離間させる昇降機構と、を有していてもよい。
【0010】
また、本発明によれば、加熱コイルに高周波磁束を発生させて熱源を生成し、該熱源による加熱と冷却流体による冷却とを施して溶接により生じた歪みを除去する歪み取り方法であって、加熱対象部を囲んで冷却空間を形成し、前記熱源により前記加熱対象部を加熱し、加熱を継続したまま前記冷却空間に前記冷却流体を放出し、前記冷却空間から前記冷却流体を排出して前記加熱対象部を冷却する、ことを特徴とする歪み取り方法が提供される。
【0011】
前記冷却流体の放出は、加熱開始から所定時間経過後に開始され、冷却終了と同時に終了するようにしてもよい。また、前記所定時間は、前記加熱対象部の温度が目標加熱温度に達する前の時間に設定されることが好ましく、前記目標加熱温度は、前記加熱対象部の板厚の1/3に相当する深さまで加熱することができる温度に設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上述した本発明の歪み取り装置及び方法によれば、加熱部にガイド壁を形成したことにより、冷却流体を滞留させる冷却空間を形成することができ、少量の冷却流体で加熱対象部を均等かつ効果的に冷却することができ、冷却効率を向上させることができる、冷却ムラを抑制することができる等の効果を奏する。また、加熱対象部を面で囲むことにより、加熱対象部にうねり等の凹凸が存在している場合であっても、加熱対象部と加熱部との距離を適切かつ安定に保持することができる。
【0013】
ガイド壁を有する加熱部を複数配置する場合には、開口部が連通するように配置することにより、ガイド壁が隣接する部分においても冷却流体を開口部から排出することができ、均等な冷却を施すことができる。また、加熱部を複数配置することにより、溶接部の両側等のように複数の加熱対象部を一度の処理で加熱及び冷却することができ、歪み取り作業を効率化することができる。
【0014】
冷却流路をガイド壁よりも内側の所定の箇所に形成することにより、冷却流体を効果的に加熱対象部に放出することができる。また、トランス部を絶縁オイル内に浸漬することにより、トランス部内の部品を接近して配置することができ、装置全体を小型化及び軽量化することができる。特にハンディタイプの歪み取り装置では、歪み取り装置を小型化及び軽量化することにより、作業員の負担を低減することができる、狭い箇所にも対応できる等の効果を奏し、作業効率を向上させることができる。
【0015】
また、加熱対象部の冷却を所定のタイミングで行うことにより、加熱対象部を効果的に加熱しながら冷却することができ、熟練工のノウハウを容易に実現することができる。また、本発明の歪み取り装置及び方法においても、従来の歪み取り装置と同様に、熟練工ではない一般工でも歪み取り作業の一定の品質及びスピードを維持することができる、作業員の作業環境を改善することができる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図1〜図7を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る歪み取り装置の第一実施形態を示す図であり、(A)は全体構成図、(B)は加熱部の正面拡大図、である。図2は、冷却流体を放出した状態を示す図であり、(A)は加熱部の断面図、(B)は加熱部の正面図、である。
【0017】
図1(A)及び(B)に示すように、本発明の歪み取り装置は、熱源を生成する加熱コイル1aと加熱コイル1aに配置される磁性体1bとを有する加熱部1と、加熱コイル1aに高周波磁束を発生させるトランス部2と、加熱対象部Xに冷却流体を放出する冷却流路3と、加熱部1の外周を囲むとともに加熱部1と加熱対象部Xとの間に冷却空間Cを形成するガイド壁4と、を有し、冷却流路3はガイド壁4よりも内側に配置され、ガイド壁4は冷却流体を排出する複数の開口部4aを有する、ことを特徴とする。なお、冷却流体には、水、エア、液体窒素等の流体を使用することができるが、以下の説明においては冷却流体として水を使用した場合について説明する。
【0018】
図1(A)に示した歪み取り装置は、いわゆるハンディタイプの歪み取り装置であり、トランス部2は筐体5内に収納されており、加熱部1は筐体5の先端部に配置されている。そして、筐体5は離隔して配置される電源装置6に接続されて作動されるように構成されている。ここで、電源装置6は、例えば、トランス部2に送電する高周波電源61と、トランス部2及び高周波電源61の冷却水を溜める冷却水タンク62と、冷却水タンク62の冷却水を循環させるポンプ63と、加熱部1の冷却流路3の放出を制御する制御弁64と、高周波電源61及び制御弁64をコントロールする制御部65と、を有する。
【0019】
前記加熱部1は、加熱コイル1a及び磁性体1bにより構成されるが、かかる構成は従来の歪み取り装置と同じ構成である。加熱コイル1aは、例えば、図1(B)及び図2(A)に示したように、先端部が加熱対象部Xと略平行になるように配置された略C字形状をなしており、開端部は加熱対象部Xに向かって延伸された垂下部1cに接続されている。かかる加熱コイル1aのC字形状部に交番電流を流すと交番磁場が発生される。この交番磁場中に導体である加熱対象部Xを配置すると、加熱対象部Xに流れる渦電流によりジュール熱が発生し、加熱対象部Xが加熱される。したがって、加熱コイル1aは非接触の熱源を生成する。加熱コイル1aは、例えば、銅管により構成され、少なくともC字形状部は断面角形に構成されることが好ましい。加熱対象部Xと対峙する面積を大きくするためである。勿論、断面角形に限定されるものではなく、円形でも三角形でもよい。また、磁性体1bは、例えば、フェライトにより構成されており、加熱コイル1aに生じた磁束を集束させて効率的に加熱対象部Xを加熱する機能を有する。磁性体1bは、加熱コイル1aが加熱対象部Xと対峙する加熱面1d以外の部分を覆うように配置される。ここでは、磁性体1bは、加熱コイル1aの形状に合わせた略円形状をなし、垂下部1bに相当する部分を挿通する切欠部1eが形成されている。なお、加熱コイル1aの加熱面1dにセラミック等の電気絶縁体の皮膜を形成してもよいし、C字形状に相当する部分を多重に巻いた螺旋状に形成してもよい。
【0020】
ここで、図3は、加熱コイル1aの形状を示す図であり、(A)はC字形状、(B)はU字形状、(C)はI字形状、のものである。図3(A)に示したC字形状の加熱コイル1aは、図1及び図2に示した加熱コイル1aである。加熱コイル1aのC字形状部は、径rを大きくすると熱膨張の影響が広範囲に及んでしまい、径rを小さくすると加熱効率が悪くなってしまう。そこで、歪み取り装置の使用条件において加熱部分(図の網掛けした部分)が重複しない範囲で極力小さく形成されることが好ましい。例えば、板厚が8mm以下の鋼板に使用される溶接の歪み取り装置においては、径rは40mm以下の大きさに設定される。また、加熱コイル1aは、図3(B)に示したようなU字形状、図3(C)に示したようなI字形状、楕円形状、多角形状等の種々の形状に形成することができる。U字形状の加熱コイル1aは加熱対象部Xの幅が広い場合に有効であり、I字形状の加熱コイル1aは加熱対象部Xの幅が狭い場合に有効である。
【0021】
前記トランス部2は、加熱コイル1aに高周波電流を流すための整合トランスであり、一次側巻線、二次側巻線等を備え、冷却ジャケット内に収容されている。トランス部2の二次側巻線には、加熱コイル1aの垂下部1cが接続されている。かかるトランス部2の構成は、従来のトランス部と同じ構成であるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、トランス部2には、図1(A)に示すように、循環冷却流路7が接続されており、冷却ジャケット内に冷却水を供給できるように構成されている。循環冷却流路7は、冷却水タンク62、ポンプ63、高周波電源61及びトランス部2に接続されており、冷却水を循環させる流路である。なお、トランス部2は、ケーブル8により高周波電源61と電気的に接続されており、整流回路、電圧制御回路、インバータ回路等に接続されている。
【0022】
前記冷却流路3は、図1(A)に示すように、先端は加熱部1に接続されており、後端は冷却水の供給源(例えば、工場内に供給される工業用水路)に接続されており、中間には制御弁64が配置されている。制御弁64は、電源装置6に配置されており、制御部65の作用により、冷却流路3からの加熱対象部Xへの冷却水の放出がコントロールされる。また、図1(B)及び図2(A)に示すように、冷却流路3の先端は、加熱部1の中心部に形成されている。具体的には、磁性体1bの中心部に形成された開口部1fに冷却流路3を形成する管路の先端が固定される。
【0023】
前記ガイド壁4は、図1(B)に示すように、内側に加熱部1が配置される中空部4cを有する筒形状をなしており、その後端部にはガイド壁4を筐体5に接続するための取付プレート4bがフランジ状に形成されている。取付プレート4bは、図示したようにガイド壁4の中空部4cを開放するように形成されていてもよいし、中空部4cを塞ぐように形成されていてもよい。また、図2(A)に示すように、ガイド壁4の先端は、加熱部1よりも前方に突出するように配置される。したがって、ガイド壁4の先端を加熱対象部Xに接触させると、加熱部1は加熱対象部Xと一定の隙間を有する。この隙間は、加熱コイル1aの材質、大きさ、形状、高周波電流の大きさ、最大加熱温度等の条件により設定される。かかる隙間とガイド壁4とにより冷却空間Cが形成される。従来は加熱部の周囲に配置されたガイドピンにより点で加熱部と加熱対象部との隙間を保持していたため、加熱対象部にうねり等の凹凸が存在していた場合には、加熱部と加熱対象部との隙間の距離がガイドピンを押付ける場所によって異なってしまい、安定した加熱を行うことが困難であったが、本発明ではガイド壁4を配置して加熱対象部を面で囲むことにより、加熱対象部と加熱部との隙間を適切かつ安定に保持することができる。なお、ガイド壁4の外周形状は、図示した円形に限られるものではなく、三角形や四角形等の矩形であってもよいし、楕円形等であってもよいし、加熱コイル1aの形状に沿った形状であってもよい。
【0024】
さらに、ガイド壁4の先端には、複数(ここでは6箇所)の開口部4aが均等に配置されている。開口部4aは、例えば、半円形、半楕円形、矩形等の形状をなし、冷却空間Cに放出された冷却水をガイド壁4の外部に放射状に排出する。このように冷却空間Cを形成するガイド壁4の一部に開口部4aを均等に形成することにより、図2(B)に示したように、冷却空間Cに冷却流路3から放出された冷却水を滞留させることができ(図の斜線部参照)、冷却水に流れを与えることができ(図の矢印参照)、加熱対象部Xを効率よく均等に冷却することができる。開口部4aは、冷却効率を考慮すれば3〜8箇所程度に均等に配置することが好ましいが、必ずしも放射状に配置する必要はなく、鉛直方向の1箇所又は2箇所に配置してもよい。また、開口部4aは、ガイド壁4の先端部を切り欠くように形成してもよいし、ガイド壁4の中間部に形成してもよい。また、ガイド壁4の先端部は、加熱部1の位置を安定させる機能も有する。したがって、開口部4aをガイド壁4の先端部の3箇所以上を切り欠いて形成することにより、加熱対象部Xを有する面にガイド壁4を3点以上の脚部で接触させることができ、加熱部1と加熱対象部Xとの隙間を安定に保持することができる。
【0025】
前記筐体5は、加熱部1を電源装置6と分離して任意の加熱対象部Xに移動可能にするための部品である。図1(A)に示した筐体5は、水平方向に延びた筒形状をなしており、その先端部正面に加熱部1が接続されている。また、筐体5の内部にはトランス部2が配置されており、上部には把手5aが設けられている。そして、加熱部1には冷却流路3、トランス部2には循環冷却流路7及びケーブル8が接続されている。図示した筐体5は、作業員が筐体5を腰部で安定させて歪み取り作業を行う場合に適している。また、スプリングバランサー等で把手5aを把持し、筐体5を吊り下げた状態で誘導しながら作業を行うことにより、作業員の負担を軽減することができる。なお、図示していないが、筐体5には歪み取り作業の開始を合図するスイッチが接続されていてもよい。かかるスイッチを筐体5に配置することにより、作業員1人で任意の箇所の歪み取り作業を任意のタイミングで行うことができる。
【0026】
前記電源装置6は、上述したように、高周波電源61、冷却水タンク62、ポンプ63、制御弁64、制御部65等を有する。高周波電源61や冷却水タンク62は重量物であるため、筐体5とは別体に構成される。冷却流路3、循環冷却流路7、ケーブル8等の長さの関係から、電源装置6は作業場所の近くに搬送することができるように構成しておくことが好ましい。制御部65は、所定のタイミングで高周波電源61からトランス部2に電流を送電し、所定のタイミングで制御弁64を開放して冷却水を冷却流路3から加熱対象部Xに放出する。
【0027】
ここで、図4は、本発明の歪み取り方法の説明図であり、(A)は時間と加熱対象部Xの温度の関係、(B)は加熱対象部Xの板厚と加熱深さの関係、を示している。図4(A)において、横軸は時間(秒)、縦軸は加熱対象部Xの温度(℃)を示している。
【0028】
本発明の歪み取り方法は、加熱コイル1aに高周波磁束を発生させて熱源(加熱部1)を生成し、熱源(加熱部1)による加熱と冷却水による冷却とを施して溶接により生じた歪みを除去する歪み取り方法であり、加熱対象部Xを囲んで冷却空間Cを形成し、熱源(加熱部1)により加熱対象部Xを加熱し、加熱を継続したまま冷却空間Cに冷却水を放出し、冷却空間Cから冷却水を排出して加熱対象部Xを冷却する。具体的には、作業員が筐体5を把持してガイド壁4を加熱対象部Xに押し付け、その状態で高周波電源61のスイッチをONにする。高周波電源61が作動するとトランス部2を介して加熱コイル1aに高周波電流が流れ、加熱部1が熱源を形成し、加熱対象部Xは、図4(A)の加熱曲線Lに沿って加熱される。加熱曲線Lのラインは加熱コイル1aに流れる高周波電流の大きさによって変化する。この高周波電流の大きさは、目標加熱温度αと板厚Dとの関係によって定められる。溶接による歪みを効果的に除去するには、鋼板の板厚Dの1/3の深さdまで加熱(火入れ)することが好ましく、この火入れ加減に熟練工を必要としていた。本発明では、一般工であっても熟練工と同様に歪み取り作業を施すことができるように、以下のように加熱と冷却の条件を設定する。
【0029】
まず、板厚Dとの関係で目標加熱温度αを設定する。この目標加熱温度αは、数秒の加熱で深さdまで加熱できる温度が経験的又は統計的に設定される。深さdは、上述したように、加熱対象部Xの板厚Dの1/3の深さに設定される。したがって、冷却せずに加熱対象部Xを加熱した場合、図4(A)に示すように、時間t2で目標加熱温度αに達する。目標加熱温度αに達してから冷却したのでは、加熱対象部Xの温度は目標加熱温度αを超えてしまい、火入れの深さdが深くなり過ぎてしまう。また、目標加熱温度αに達する前に加熱を停止して冷却したのでは加熱対象部Xの温度が目標加熱温度αに達せず、火入れ深さdが板厚Dの1/3に達しなくなってしまう。そこで、本発明では、図4(A)に示したように、加熱を継続したまま目標加熱温度αに達する時間t2よりも早い時間t1から冷却を開始する。すなわち、冷却水の放出は、加熱開始から所定時間t1だけ経過した後に開始される。そして、時間t3まで加熱及び冷却を継続した後、加熱及び冷却を同時に又は加熱→冷却の順序に終了する。このように加熱及び冷却を制御することにより、加熱対象部Xの温度は徐々に加熱目標温度αに漸近させることができ、目標加熱温度αに近い温度で十分に加熱対象部Xを加熱することができ、火入れ深さdを板厚Dの略1/3となるように調整することができる。例えば、加熱対象部Xの板厚が8mm以下の場合には、時間t3は10秒以下、目標加熱温度αは1000℃以下に設定される。
【0030】
また、図1及び図2に示した本発明の歪み取り装置を使用することにより、熱源(加熱部1)の中心部に形成された冷却流路3から冷却水を加熱対象部Xに放出した後、ガイド壁4の開口部4aから放射状に排出して加熱対象部Xを冷却することができる。かかる冷却方法を採用することにより加熱対象部Xを冷却ムラが生じないように効率よく冷却することができ、図4(A)に示した加熱及び冷却を効果的に作用させることができる。なお、上述した加熱及び冷却は制御部65により制御される。具体的には、制御部65は、高周波電源61のON/OFF及び制御弁64の開閉を制御する。
【0031】
次に、本発明の歪み取り装置の変形例及び他の実施形態について説明する。ここで、図5は、冷却流路の変形例を示す加熱部の断面図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。図6は、複数の加熱部を配置した状態を示す加熱部の正面図であり、(A)は2点加熱方式、(B)は3点加熱方式、を示している。図7は、本発明に係る歪み取り装置の他の実施形態を示す全体構成図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態を示している。なお、各図において、図1及び図2に示した第一実施形態の歪み取り装置と同じ構成部品については同じ符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
上述した歪み取り装置の第一実施形態においては、加熱部1の中心部に冷却流路3を形成した場合について説明したが、本発明の歪み取り装置はかかる構成に限定されるものではなく、図5(A)〜(C)に示した構成を採用してもよい。図5(A)に示した第一変形例は磁性体1bとガイド壁4との間に冷却流路3を形成したものであり、図5(B)に示した第二変形例は加熱コイル1aと磁性体1bとの間に冷却流路3を形成したものであり、図5(C)は加熱コイル1aに冷却流路3を形成したものである。
【0033】
図5(A)に示した第一変形例は、取付プレート4bでガイド壁4の中空部4cを塞ぎ、取付プレート4bに冷却流路3の先端を接続し、取付プレート4b及びガイド壁4と磁性体1bとの間に冷却水を冷却空間Cに放出するための隙間31を空けるように加熱部1を配置したものである。したがって、隙間31も冷却流路3の一部を形成し、冷却流路3から放出された冷却水は隙間31を通過して磁性体1bの外周から加熱対象部Xに冷却水を供給することができる。かかる構成によっても、冷却空間Cを冷却流路3から放出された冷却水で満たすことができ、冷却水に流れを与えることができ、加熱対象部Xを効率よく均等に冷却することができる。
【0034】
図5(B)に示した第二変形例は、取付プレート4bでガイド壁4の中空部4cを塞ぎ、取付プレート4bの中心部に凹部32を形成し、凹部32に冷却流路3の先端を接続し、磁性体1bに凹部32と連通する複数のノズル33を形成し、加熱コイル1aと磁性体1bとの間に隙間34を形成するように加熱コイル1a上に磁性体1bを配置したものである。したがって、凹部32、ノズル33及び隙間34も冷却流路3の一部を形成し、冷却流路3から放出された冷却水は凹部32、ノズル33及び隙間34を通過して加熱コイル1aの外周から加熱対象部Xに冷却水を供給することができる。かかる構成によっても、冷却空間Cを冷却流路3から放出された冷却水で満たすことができ、冷却水に流れを与えることができ、加熱対象部Xを効率よく均等に冷却することができる。
【0035】
図5(C)に示した第三変形例は、加熱コイル1aの加熱面1dに複数の放出孔を形成し、加熱コイル1aの内部に冷却水を供給するようにしたものである。したがって、加熱コイル1aそのものが冷却流路3を形成し、加熱対象部Xに冷却水を供給することができる。かかる構成によっても、冷却空間Cを冷却流路3から放出された冷却水で満たすことができ、冷却水に流れを与えることができ、加熱対象部Xを効率よく均等に冷却することができる。
【0036】
上述した歪み取り装置の第一実施形態においては、筐体5に対して熱源である加熱部1が1つである1点加熱方式の場合について説明したが、本発明の歪み取り装置はかかる構成に限定されるものではなく、図6(A)及び(B)に示したように、筐体5に対して複数の熱源を備えた2点加熱方式や3点加熱方式を採用してもよい。
【0037】
図6(A)に示す2点加熱方式は、1本の加熱コイル1aで2つのC字形状部を形成して1回の処理で2つの熱源を生成することができるようにしたものである。具体的には、加熱コイル1aは、C字形状部の開端部を向き合わせて配置し、一方の開端部どうしに垂下部1cを接続し、他方の開端部どうしを連結部1gで連結した形状をなしている。そして、加熱コイル1aの各C字形状部に磁性体1bを配置して2つの加熱部1が形成される。このように、加熱部1を複数配置することにより、溶接部の両側等のように複数の加熱対象部Xを一度の処理で加熱及び冷却することができ、歪み取り作業を効率化することができる。また、各加熱部1には、ガイド壁4がそれぞれ配置される。このとき、ガイド壁4は、互いの開口部4aが連通するように配置される。このようにガイド壁4を配置することにより、ガイド壁4が隣接する部分においても冷却水を放射状に排出することができ、均等な冷却を施すことができる。
【0038】
図6(B)に示す3点加熱方式は、1本の加熱コイル1aで3つのC字形状部を形成して1回の処理で3つの熱源を生成することができるようにしたものである。具体的には、加熱コイル1aは、C字形状部の開端部を向き合わせて配置し、1箇所の開端部どうしに垂下部1cを接続し、2箇所の開端部どうしを連結部1gで連結した形状をなしている。そして、加熱コイル1aの各C字形状部に磁性体1bを配置して3つの加熱部1が形成される。このように、加熱部1を複数配置することにより、溶接部の両側等のように複数の加熱対象部Xを一度の処理で加熱及び冷却することができ、歪み取り作業を効率化することができる。また、各加熱部1には、ガイド壁4がそれぞれ配置される。このとき、ガイド壁4は、互いの開口部4aが連通するように配置される。このようにガイド壁4を配置することにより、ガイド壁4が隣接する部分においても冷却水を放射状に排出することができ、均等な冷却を施すことができる。
【0039】
なお、加熱コイル1aの形状は、図示したC字形状を利用したものに限られず、図3に示したU字形状やI字形状のものを利用して複数の加熱部1を形成してもよいし、各加熱部1の加熱コイル1aを複数巻きに形成してもよい。また、複数の加熱部1を1つのガイド壁4で囲うようにしてもよい。
【0040】
上述した歪み取り装置の第一実施形態は、筐体5がハンディタイプの場合について説明したが、本発明の歪み取り装置はかかる構成に限定されるものではなく、図7(A)及び(B)に示したように、他の型式のハンディタイプや台車タイプの歪み取り装置にも適用することができる。
【0041】
図7(A)に示した歪み取り装置の第二実施形態は、筐体5の先端部側面に加熱部1が配置されたハンディタイプの歪み取り装置である。ここでは、筐体5に接続された突出部5bの先端部側面に加熱部1が配置されている。かかる構成により、加熱対象部Xが高い位置にある場合や狭い場所にある場合であっても、加熱部1を加熱対象部Xに配置して歪み取り作業を行うことができる。また、ここではトランス部2を絶縁オイル内に浸漬した場合を図示しており、トランス部2内の部品を接近して配置して装置全体を小型化及び軽量化している。この場合、トランス部2内に冷却水を供給することはできないため、トランス部2を冷却ジャケット内に収納して冷却ジャケット内に冷却水を供給する。なお、図では筐体5そのものを冷却ジャケットとした場合を示している。なお、トランス部2を絶縁オイル内に浸漬した構成は、第二実施形態に限定されるものではなく、上述した第一実施形態や後述する第三実施形態にも適用して、装置の小型化及び軽量化を図ることができるものである。
【0042】
図7(B)に示した歪み取り装置の第三実施形態は、筐体5を加熱対象部X上で移動可能に構成した台車タイプの歪み取り装置である。具体的には、筐体5は、加熱対象部X上を移動可能な車輪5cと、加熱部1を加熱対象部Xに接近又は離間させる昇降機構5dと、を有している。昇降機構5dは、アクチュエータ機構を利用したものであっても、バネの付勢力を利用したものであってもよい。昇降機構5dにアクチュエータ機構を利用した場合には、圧力センサ等により加熱部1が加熱対象部Xに接触したことを検知したらアクチュエータを停止させ、歪み取り作業が終了したら加熱部1を上昇させるように構成することが好ましい。また、昇降機構5dにバネの付勢力を利用した場合には、加熱部1を加熱対象部Xに常に押し付けるようにバネの付勢力が働くように構成しておくことが好ましい。移動時には、加熱部1(ガイド壁4)の接触面に滑り易い部材を配置しておき鋼板上を滑らせるようにしてもよいし、手動で加熱部1を鋼板から離間する位置に固定できるようにしてもよい。
【0043】
本発明は上述した実施形態に限定されず、例えば、第二実施形態及び第三実施形態の歪み取り装置においても図5(A)〜(C)に示した冷却流路3の変形例を適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る歪み取り装置の第一実施形態を示す図であり、(A)は全体構成図、(B)は加熱部の正面拡大図、である。
【図2】冷却流体を放出した状態を示す図であり、(A)は加熱部の断面図、(B)は加熱部の正面図、である。
【図3】加熱コイルの形状を示す図であり、(A)はC字形状、(B)はU字形状、(C)はI字形状、のものである。
【図4】本発明の歪み取り方法の説明図であり、(A)は時間と加熱対象部の温度の関係、(B)は加熱対象部の板厚と加熱深さの関係、を示している。
【図5】冷却流路の変形例を示す加熱部の断面図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。
【図6】複数の加熱部を配置した状態を示す加熱部の正面図であり、(A)は2点加熱、(B)は3点加熱、の構成を示している。
【図7】本発明に係る歪み取り装置の他の実施形態を示す全体構成図であり、(A)は第二実施形態、(B)は第三実施形態を示している。
【符号の説明】
【0045】
1 加熱部
1a 加熱コイル
1b 磁性体
1c 垂下部
1d 加熱面
1e 切欠部
1f 開口部
1g 連結部
2 トランス部
3 冷却流路
4 ガイド壁
4a 開口部
4b 取付プレート
4c 開口部
5 筐体
5a 把手
5b 突出部
5c 車輪
5d 昇降機構
6 電源装置
7 循環冷却流路
8 ケーブル
31 隙間
32 凹部
33 ノズル
34 隙間
61 高周波電源
62 冷却水タンク
63 ポンプ
64 制御弁
65 制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源を生成する加熱コイルと該加熱コイルに配置される磁性体とを有する加熱部と、前記加熱コイルに高周波磁束を発生させるトランス部と、加熱対象部に冷却流体を放出する冷却流路と、を備えた歪み取り装置であって、
前記加熱部の外周を囲むとともに前記加熱部と前記加熱対象部との間に冷却空間を形成するガイド壁を有し、該ガイド壁よりも内側に前記冷却流路が配置され、前記ガイド壁には前記冷却流体を排出する複数の開口部が形成されている、ことを特徴とする歪み取り装置。
【請求項2】
前記ガイド壁を有する加熱部を前記開口部が連通するように複数配置した、ことを特徴とする請求項1に記載の歪み取り装置。
【請求項3】
前記冷却流路は、前記加熱部の中心部、前記加熱コイルと前記磁性体との間、前記磁性体と前記ガイド壁との間又は前記加熱コイルのいずれかに形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の歪み取り装置。
【請求項4】
前記トランス部は、絶縁オイル内に浸漬されている、ことを特徴とする請求項1に記載の歪み取り装置。
【請求項5】
前記トランス部を収納した筐体を有し、前記加熱部は前記筐体の先端部又は先端部側面に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の歪み取り装置。
【請求項6】
前記筐体は、前記加熱対象部上を移動可能な車輪と、前記加熱部を前記加熱対象部に接近又は離間させる昇降機構と、を有することを特徴とする請求項5に記載の歪み取り装置。
【請求項7】
加熱コイルに高周波磁束を発生させて熱源を生成し、該熱源による加熱と冷却流体による冷却とを施して溶接により生じた歪みを除去する歪み取り方法であって、
加熱対象部を囲んで冷却空間を形成し、前記熱源により前記加熱対象部を加熱し、加熱を継続したまま前記冷却空間に前記冷却流体を放出し、前記冷却空間から前記冷却流体を排出して前記加熱対象部を冷却する、ことを特徴とする歪み取り方法。
【請求項8】
前記冷却流体の放出は、加熱開始から所定時間経過後に開始され、冷却終了と同時に終了される、ことを特徴とする請求項7に記載の歪み取り方法。
【請求項9】
前記所定時間は、前記加熱対象部の温度が目標加熱温度に達する前の時間に設定される、ことを特徴とする請求項8に記載の歪み取り方法。
【請求項10】
前記目標加熱温度は、前記加熱対象部の板厚の1/3に相当する深さまで加熱することができる温度に設定される、ことを特徴とする請求項9に記載の歪み取り方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−279606(P2009−279606A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133011(P2008−133011)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【出願人】(392017392)熱産ヒート株式会社 (9)
【Fターム(参考)】