説明

歪補償回路、及び歪補償回路の制御方法

【課題】増幅器で生じる歪みを補償する回路において入力信号が急激に変化したときの補償の劣化を低減する。
【解決手段】歪補償回路は、入力信号を増幅して出力信号として出力する増幅部と、前記出力信号を帰還信号として帰還させる帰還部と、前記入力信号および前記帰還信号に基づいて前記増幅部の逆歪みを求め、該入力信号に該逆歪みを付加し、該逆歪みを付加した該入力信号を前記増幅部に入力するプレディストーション部と、前記出力信号を送信する線路上に挿抜可能であり、挿入された状態では該出力信号の周波数成分を所定帯域に制限する帯域制限フィルタと、前記帰還信号のレベルが所定幅よりも大きく変化した場合に前記帯域制限フィルタを前記線路上に挿入する比較制御部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅部で生じる信号の歪を補償する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無線通信装置や音響装置には、入力信号を増幅して出力信号として出力する増幅部が設けられる。この増幅部内の素子や部品の特性、熱や振動の発生などの要因により出力信号に歪が生じる。
【0003】
出力信号に歪が生じると、信号品質が劣化する。増幅部の出力信号の歪を補償するために歪補償回路が用いられることがある。
【0004】
歪補償の方式としては、フィードバック方式、フィードフォワード方式、プレディスト―ション方式などがある。
【0005】
これらの方式のうち、プレディスト―ション方式は、入力信号から、その入力信号に応じて増幅器で生じる歪みを求め、その歪みを打ち消すだけの歪み(逆歪み)を入力信号に予め与えておく方式である。一般には、更に出力信号をフィードバックし、その出力信号を元に、入力信号に与える逆歪みに修正を加える。デジタルプレディストーション方式(DPD:Digital PreDistortion方式)ではデジタル処理によって入力信号に逆歪みが付加される。
【0006】
図7は、DPD方式を採用する歪補償回路の一般的な構成を示す図である。同図を参照すると、歪補償回路は、DPD部11、増幅部21および帰還部31を有する。
【0007】
増幅部は、D/A変換部211、周波数アップコンバート部212および増幅器213を有し、帰還部31は、分配部311、周波数ダウンコンバート部312およびA/D変換部313を有する。
【0008】
DPD部11は、ベースバンドのデジタル信号である入力信号を受信し、その入力信号に逆歪みを付加してD/A変換部へ出力する。より詳しくは後述する。
【0009】
D/A変換部211は、DPD部11からのデジタルベースバンド信号をアナログ信号に変換して周波数アップコンバート部212へ出力する。
【0010】
周波数アップコンバート部212は、D/A変換部211からのアナログ信号の周波数をアップコンバートし、得られた高周波のアナログ信号を増幅器213へ出力する。
【0011】
増幅器213は、D/A変換部211からの高周波のアナログ信号を増幅して分配部311へ出力する。
【0012】
分配部311は、増幅器213からのアナログ信号をアンテナ(不図示)と、周波数ダウンコンバート部312とに分配する。
【0013】
周波数ダウンコンバート部312は、分配部311からのアナログ信号の周波数をダウンコンバートし、得られたベースバンドのアナログ信号をA/D変換部313へ出力する。
【0014】
A/D変換部313は、分配部311からのベースバンドのアナログ信号をデジタルベースバンド信号に変換し、フィードバック信号としてDPD部11へ出力する。
【0015】
DPD部11は、入力信号とフィードバック信号から補償係数を求め、その補償係数に応じたデジタル処理により入力信号に逆歪みを付加する。補償係数は、入力信号に付加すべき増幅器213の逆歪みを表す情報である。DPD部11は補償係数を設定した多項式によって入力信号を処理することにより、入力信号に逆歪みを付加する。
【0016】
プレディスト―ション方式に関する技術として、特許文献1に記載された回路は、アップコンバート部(212)への入力前のフィードバック信号と、アップコンバート部(212)およびA/D変換部(213)から出力されたフィードバック信号とを取得する。そして、歪補償回路は、これらの信号の出力レベルを比較し、アップコンバート部およびA/D変換部で生じた出力レベルの変動を解析して、その変動分を補償している。
【0017】
特許文献2に記載された歪補償回路は、プレディスト―ション方式を用いて増幅部内で生じた歪を補償すると同時に、プレディスト―ション方式で補正できない、増幅部外で生じる歪を解析して補償している。
【0018】
また、プレディスト―ション方式では、入力信号の変動が大きいほど、補償係数が収束するまでに時間がかかる。特許文献3に記載されたプレディスト―タは、特殊な多項式を使用することにより、各補償係数が収束する時間を短縮している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2007−1110397号公報
【特許文献2】特開2007−300272号公報
【特許文献3】特開2009−111958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
前述したように、図7に示した回路のDPD部は、入力信号およびフィードバック信号から逆歪みを求め、それを入力信号に付加して増幅部に出力している。このフィードバック信号は、増幅部の出力信号を帰還した信号なので、フィードバック信号の位相は、入力信号に対してある程度、遅延している。
【0021】
DPD部で入力信号に付加される逆歪みは、遅延したフィードバック信号から求めたものなので、入力信号が急激に変化した場合、DPD部は、その時点の入力信号とは大きく異なる値の入力信号を増幅した出力信号から求めた逆歪みを、その時点の入力信号に付加することになる。このことにより、入力信号に付加する逆歪みに所望帯域外における瞬時的な劣化が発生してしまう。
【0022】
特許文献1〜3に記載された回路でも、DPD部への入力信号が急激に変化する場合が想定されていないため、やはり入力信号が急激に変化した場合に増幅部で生じる歪みを良好に補償することができない。
【0023】
本発明の目的は、増幅器で生じる歪みを補償する回路において入力信号が急激に変化したときの補償の劣化を低減する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、本発明の歪補償回路は、入力信号を増幅して出力信号として出力する増幅部と、前記出力信号を帰還信号として帰還させる帰還部と、前記入力信号および前記帰還信号に基づいて前記増幅部の逆歪みを求め、該入力信号に該逆歪みを付加し、該逆歪みを付加した該入力信号を前記増幅部に入力するプレディストーション部と、前記出力信号を送信する線路上に挿抜可能であり、挿入された状態では該出力信号の周波数成分を所定帯域に制限する帯域制限フィルタと、前記帰還信号のレベルが所定幅よりも大きく変化した場合に前記帯域制限フィルタを前記線路上に挿入する比較制御部と、を有する。
【0025】
本発明の歪補償回路の制御方法は、増幅部が、入力信号を増幅して出力信号として出力し、帰還部が、前記出力信号を帰還信号として帰還させ、プレディストーション部が、前記入力信号および前記帰還信号に基づいて前記増幅部の逆歪みを求め、該入力信号に該逆歪みを付加し、該逆歪みを付加した該入力信号を前記増幅部に入力し、比較制御部が、前記出力信号を送信する線路上に挿抜可能であり、挿入された状態では該出力信号の周波数成分を所定帯域に制限する帯域制限フィルタを、前記帰還信号のレベルが所定幅よりも大きく変化した場合に該線路上に挿入する、歪補償回路の制御方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、歪補償回路は、帰還信号のレベルが所定幅以上に変化したのであれば、増幅部からの出力信号が送信される線路上に、帯域制限フィルタを挿入するので、所定幅以上に変化したときに、帯域制限フィルタで取り除かれた周波数成分において生じる歪が除去されて、出力信号の劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の歪補償回路の一構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態のDPD部の一構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態の比較制御部の一構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態の送信電力差と、フィルタ切替時間との間の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態の比較制御部の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の変形例の歪補償回路の一構成例を示すブロック図である。
【図7】(a)入力信号と出力信号との出力レベルの関係を示す図である。(b)一般的な歪補償回路の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の歪補償回路1の一構成例を示すブロック図である。歪補償回路1は、増幅部から出力された出力信号の歪を補償する回路である。同図を参照すると、歪補償回路1は、DPD部10、増幅部20、帰還部30、比較制御部40およびフィルタリング部50を有する。
【0029】
DPD部10には、デジタルベースバンド信号と、デジタル帰還信号とが入力される。デジタルベースバンド信号を生成してDPD部10に入力する回路は、図1では省略されている。デジタル帰還信号は、増幅部の出力信号のうち、帰還部30により正帰還された信号であり、帰還部30によりDPD部10に入力される。
【0030】
DPD部10は、プレディスト―ション方式を使用して、増幅部で生じる歪みを取得し、その歪を打ち消す逆歪みをデジタルベースバンド信号に付加して増幅部20へ出力する。
【0031】
例えば、DPD部10は、デジタルベースバンド信号を所定時間だけ遅延させ、デジタルベースバンド信号とデジタル帰還信号とを同期させる。デジタル帰還信号は、デジタルベースバンド信号が増幅部を介して帰還した信号であり、デジタル帰還信号の位相は、デジタルベースバンド信号に対し、遅延しているためである。
【0032】
そして、DPD部10は、同期させたデジタルベースバンド信号とデジタル帰還信号とのそれぞれの出力レベルを比較する。DPD部10は、比較結果から、デジタルベースバンド信号に対する、デジタル帰還信号の歪みを求める。そして、DPD部10は、その歪みを打ち消す逆歪みを、デジタルベースバンド信号に付加する。
【0033】
増幅部20は、DPD部10により逆歪みが付加されたデジタルベースバンド信号を増幅して、帰還部30へ出力する。増幅部20への入力信号、すなわちデジタルベースバンド信号には、DPD部10により予め逆ひずみが付加されているので、増幅部20から、歪みが打ち消された出力信号が出力される。
【0034】
増幅部20について詳細に説明する。増幅部20は、D/A変換部201、周波数アップコンバート部202および増幅器203を有する。
【0035】
D/A変換部201は、DPD部10により逆歪みが付加されたデジタルベースバンド信号をアナログ信号に変換し、変換した信号をアナログベースバンド信号として周波数アップコンバート部202へ出力する。
【0036】
周波数アップコンバート部202は、D/A変換部201からのアナログベースバンド信号の周波数を、送信用の高周波数に変換する。周波数アップコンバート部202は、アナログベースバンド信号の周波数を変換した後、帯域制限を行って、送信周波数帯域の信号のみを選択し、送信アナログ信号として増幅器203へ出力する。
【0037】
増幅器203は、周波数アップコンバート部202からの送信アナログ信号を増幅して帰還部30へ出力する。
【0038】
帰還部30は、増幅部20により増幅された送信アナログ信号をフィルタリング部50と、DPD部10および比較制御部40とに分配する。
【0039】
帰還部30について詳細に説明する。帰還部30は、分配部301、周波数ダウンコンバート部302およびA/D変換部303を有する。
【0040】
分配部301は、増幅部20により増幅された送信アナログ信号をフィルタリング部50および周波数ダウンコンバート部302に分配する。
【0041】
周波数ダウンコンバート部302は、分配部301からの送信アナログ信号の周波数を、ベースバンド信号の周波数に変換し、変換した信号をアナログ帰還信号としてA/D変換部303に正帰還させる。
【0042】
A/D変換部303は、周波数ダウンコンバート部302からのアナログ帰還信号をデジタル信号に変換し、変換した信号をデジタル帰還信号としてDPD部10および比較制御部40へ出力する。
【0043】
比較制御部40は、A/D変換部303からのデジタルベースバンド信号の所定期間内のレベルの変化を取得し、その変化が所定幅以上であるか否かを判断する。
【0044】
本実施形態では、比較制御部40は、デジタル帰還信号の振幅を周期的に取得する。比較制御部40は、取得した前回値および今回値を比較し、振幅の差が所定幅以上であれば、デジタルベースバンド信号のレベルの変化が所定幅以上であると判断する。
【0045】
変化が所定幅以上であれば、比較制御部40は、その変化した幅に応じた期間だけ、フィルタリング部50に切替スイッチ制御信号を出力する。切替スイッチ制御信号は、アナログ送信信号に帯域制限フィルタを通過させることをフィルタリング部50に指示する信号である。
【0046】
フィルタリング部50は、比較制御部40からの切替スイッチ制御信号に従って、送信アナログ信号に帯域制限フィルタを通過させる。帯域制限フィルタを通過させることにより、送信アナログ信号のうち、アナログベースバンド信号の周波数帯域外で生じた歪みが除去される。
【0047】
フィルタリング部50について詳細に説明する。フィルタリング部50は、スイッチ制御部501、遅延部502および帯域制限フィルタ503と、スイッチSW1、SW2およびSW3とを有する。
【0048】
遅延部502、帯域制限フィルタ503、スイッチSW1、SW2およびSW3は、それぞれ入力端子および出力端子を有する。
【0049】
スイッチSW1の入力端子は、遅延部502の出力端子と、スイッチSW3の入力端子とに接続されている。スイッチSW1の出力端子は、帯域制限フィルタ503の入力端子に接続されている。
【0050】
スイッチSW2の入力端子は、帯域制限フィルタ503の出力端子に接続されている。スイッチSW2の出力端子は、スイッチSW3の出力端子に接続されている。
【0051】
スイッチ制御部501は、比較制御部40から切替スイッチ制御信号が出力されている間だけ、アナログ送信信号が帯域制限フィルタ503を通過するように、スイッチSW1〜SW3を制御する。
【0052】
具体的には、スイッチ制御部501は、切替スイッチ制御信号が出力されている間、スイッチSW1およびSW2をオンにし、SW3をオフにする。切替スイッチ制御信号が出力されていなければ、スイッチ制御部501は、スイッチSW1およびSW2をオフにし、SW3をオンにする。
【0053】
遅延部502は、帰還部30からの送信アナログ信号について、比較制御部40で発生する遅延時間だけ、遅延させてスイッチSW1へ出力する。
【0054】
比較制御部40は、前述したように、デジタルベースバンド信号のレベルの変化が所定幅以上であるか否かを判断しているが、デジタル帰還信号が比較制御部40に入力されてから、比較制御部40が切替スイッチ制御信号を出力するまでに、ある程度の時間がかかる。しかし、この比較制御部40で生じる遅延は、遅延部502を設けることにより補償される。
【0055】
帯域制限フィルタ503は、アナログベースバンド信号の周波数帯域以外の帯域を除去するフィルタである。
【0056】
スイッチSW3の出力端子から出力されるアナログ送信信号は、アンテナへ出力される。図1では、アンテナは省略されている。
【0057】
図2を参照して、DPD部10について詳細に説明する。同図は、DPD部10の一構成例を示すブロック図である。
【0058】
DPD部10は、遅延部101、歪検出部102および制御部103を有する。遅延部101は、デジタルベースバンド信号とデジタル帰還信号とが同期するように、デジタルベースバンド信号の位相を遅延させて歪検出部102へ出力する。
【0059】
歪検出部102は、遅延部101により遅延されたデジタルベースバンド信号と、A/D変換部303により出力されたデジタル帰還信号との各レベルを比較し、これらの差分を制御部103へ出力する。
【0060】
制御部103は、歪検出部102が検出した各レベルに対応する差分から、それらの差分と逆の振幅から構成される逆歪みを取得し、その逆歪みをデジタルベースバンド信号に付加する。
【0061】
例えば、制御部103は、ルックアップテーブルLUTを有し、このテーブルに、入出力信号のレベルの差分と、補償係数とを対応付けて予め記憶しておく。そして、制御部103は、歪検出部102により出力された差分と対応する補償係数をルックアップテーブルLUTから読み出し、読み出した補償係数を設定した多項式に、デジタルベースバンド信号のレベルを代入する。代入の結果、逆歪みが付加されたデジタルベースバンド信号が得られる。
【0062】
制御部103は、逆歪みを付加したデジタルベースバンド信号をD/A変換部201へ出力する。
【0063】
図3を参照して、比較制御部40について詳細に説明する。同図は、比較制御部40の一構成例を示すブロック図である。
【0064】
比較制御部40は、送信電力レジスタ部401および402と、フィルタ切替時間設定テーブル403と、比較判定部404とを有する。
【0065】
送信電力レジスタ部401は、デジタル帰還信号のレベルを記憶し、記憶したレベルを一定の周期で更新するとともに、更新前のレベルを送信電力レジスタ部401へ送信する。送信電力レジスタ部401は、送信電力レジスタ部401から送信されたレベルを記憶する。この結果、送信電力レジスタ部401にはデジタル帰還信号のレベルの今回値が記憶され、送信電力レジスタ部402には前回値が記憶される。
【0066】
フィルタ切替時間設定テーブル403には、デジタル帰還信号のレベルの今回値と前回値との比率に対応付けて、フィルタ切替時間が記憶される。フィルタ切替時間とは、送信アナログ信号に、帯域制限フィルタ503を通過させる時間である。
【0067】
比較判定部404は、送信電力レジスタ部401および402から、デジタル帰還信号のレベルの今回値および前回値を読み出して比較する。比較判定部404は、今回値と前回値との差である送信電力差に対応するフィルタ切替時間を、フィルタ切替時間設定テーブル403から読み出す。比較判定部404は、読み出したフィルタ切替時間の間だけ、切替スイッチ制御信号をスイッチ制御部501へ出力する。
【0068】
図4は、フィルタ切替時間設定テーブル403に記載される、送信電力差と、フィルタ切替時間との間の関係を示す図である。本実施形態では、前回値に対する今回値の比率が、送信電力差として算出される。この比率の単位として、デシベル(dB)が用いられる。
【0069】
図4において、縦軸は送信電力差であり、横軸はフィルタ切替時間である。本実施形態では、送信アナログ信号に、帯域制限フィルタ503を通過させるか否かの閾値を5dBとし、送信電力差が大きいほど、フィルタ切替時間が長くなるように設定する。
【0070】
送信電力差が大きいほど、補償係数が収束するまでの時間が長くなるためである。
【0071】
例えば、送信電力差が5dB以下の場合、フィルタ切替時間は0秒に設定される。送信電力差が5〜9dBの場合、フィルタ切替時間は10秒に、送信電力差が9〜15dBの場合、フィルタ切替時間は20秒に設定される。送信電力差が15〜30dBの場合、フィルタ切替時間は30秒に設定される。
【0072】
図5を参照して、比較制御部40の動作について説明する。同図は、比較制御部40の動作を示すフローチャートである。この動作は、歪補償回路1に電源が投入されたときに開始する。同図を参照すると、比較制御部40は、A/D変換部303から出力されたデジタル帰還信号のレベルを取得する(ステップS1)。
【0073】
比較制御部40は、デジタル帰還信号のレベルの今回値と前回値とを比較し、それらの値の差が閾値以上であるか否かを判断する(ステップS2)。
【0074】
差が閾値以上であれば(ステップS2:YES)、比較制御部40は、送信電力差に対応するフィルタ切替時間を、フィルタ切替時間設定テーブル403から読み出す(ステップS3)。
【0075】
比較制御部40は、切替スイッチ制御信号をスイッチ制御部501へ出力することにより、読み出したフィルタ切替時間の間だけ、アナログ送信信号に帯域制限フィルタ503を通過させるようにスイッチ制御部501に指示する(ステップS4)。
【0076】
差が閾値未満である場合(ステップS2:NO)、比較制御部40は、一定の周期が経過したか否かを判断する(ステップS5)。
【0077】
一定の周期が経過していなければ(ステップS5:NO)、比較制御部40は、ステップS5に戻る。
【0078】
ステップS5において、一定の周期が経過していない場合(ステップS5:YES)、またはステップS4の後、比較制御部40は、ステップS1に戻る。
【0079】
なお、本実施形態では、DPD部10のブロック図を図2に例示したが、プレディスト―ション方式で歪みを補償するのであれば、DPD部10の構成は、図2に示した構成に限定されない。
【0080】
また、本実施形態では、歪補償回路1は、デジタル方式で歪補償を行っているが、DPD部10の代わりに、アナログ方式のプレディスト―タを用いて歪補償を行ってもよい。その場合、A/D変換部およびD/A変換部は不要である。
【0081】
D/A変換部の後段の回路は、アナログ回路であるが、これらの回路の一部をデジタル回路に置き換えてもよい。
【0082】
本実施形態では、フィルタリング部50の詳細を図1に示したが、送信電力差が閾値以上のときに、アナログ送信信号に帯域制限フィルタ503を通過させることが可能であれば、フィルタリング部50の構成は、図1に示した構成に限定されない。
【0083】
例えば、スイッチSW1〜3の代わりに、帯域制限フィルタの前段に、1入力2出力スイッチを設け、帯域制限フィルタの後段に2入力1出力スイッチを設ける構成としてもよい。この場合、1入力2出力スイッチの出力端子の一方は、帯域制限フィルタに接続され、他方は、2入力1出力スイッチの入力端子に接続される。2入力1出力スイッチの入力端子の一方は、帯域制限フィルタに接続され、他方は、1入力2出力スイッチの出力端子に接続される。
【0084】
本実施形態では、比較制御部40のブロック図を図3に例示したが、送信電力差を取得し、送信電力差が閾値以上のときに切替スイッチ制御信号を出力するのであれば、比較制御部40の構成は、図3に示した構成に限定されない。
【0085】
本実施形態では、比較制御部40は、送信電力差とフィルタ切替時間とを対応付けてフィルタ切替時間設定テーブル403に記憶しておく構成としているが、送信電力差に応じてフィルタ切替時間を設定できるのであれば、テーブルに記憶しておく方法以外の方法で、フィルタ切替時間を設定しておいてもよい。
【0086】
例えば、送信電力差と、フィルタ切替時間との関係を示す関係式を予め定義しておき、その関係式に送信電力差を入力することにより、比較制御部40がフィルタ切替時間を算出してもよい。
【0087】
また、送信電力差に応じたフィルタ設定時間を記載したプログラムを比較制御部40が記憶しておき、そのプログラムを実行する構成とすることもできる。
【0088】
本実施形態では、比較制御部40は、送信電力差が大きいほど、フィルタ切替時間を長く設定する構成としている。しかし、送信電力差が閾値以上であれば、送信電力差に関わらず、一定のフィルタ切替時間を設定する構成としてもよい。
【0089】
本実施形態では、比較制御部40は、A/D変換部303から出力されたデジタル帰還信号の振幅を周期的に取得している。しかし、比較制御部40は、帰還信号の振幅を取得できるのであれば、帰還部30内のいずれのデジタル帰還信号またはアナログ帰還信号の振幅を取得してもよい。
【0090】
本実施形態では、比較制御部40は、デジタル帰還信号の振幅の変化量を取得し、その変化量からデジタルベースバンド信号の変化量を取得している。しかし、比較制御部40は、デジタルベースバンド信号の変化量を直接取得してもよい。例えば、図6に示すように、DPD部10に入力されるデジタルベースバンド信号の振幅を周期的に取得し、周期内の変化量を算出してもよい。
【0091】
増幅前のデジタルベースバンド信号の変化量の検出は困難ではある。しかし、増幅前のデジタルベースバンド信号は増幅部で遅延が生じる前の信号である。このため、デジタルベースバンド信号の変化量を直接、検出することにより、デジタルベースバンド信号の変動が生じてから、フィルタを切り替えるまでの時間が短くなる。この結果、遅延部502で遅延させる時間が短くなるか、あるいは遅延部502の挿入が不要となる。
【0092】
本実施形態では、ベースバンド信号を増幅器への入力信号としているが、ベースバンド信号以外の信号を入力信号としてもよいのは勿論である。本実施形態では、無銭通信装置内に設ける歪補償回路に、本発明を適用しているが、増幅器を有する装置であれば、音響装置など、無銭通信装置以外の装置に本発明を適用することもできる。
【0093】
本実施形態では、図5に示したフローチャートを比較制御部40の部品または回路が実現しているが、このフローチャートの全部または一部を、コンピュータプログラムを実行することにより実現することもできる。
【0094】
本実施形態のDPD部10は、本発明のプレディスト―ション部の一例である。本実施形態のデジタルベースバンド信号は、本発明の入力信号の一例である。本実施形態のアナログ送信信号は、本発明の出力信号の一例である。
【0095】
以上説明したように、本実施形態によれば、歪補償回路1は、帰還信号のレベルが所定幅以上に変化したのであれば、増幅部からの出力信号が送信される線路上に、帯域制限フィルタを挿入するので、帰還信号のレベルが所定幅以上に変化したときに、帯域制限フィルタで取り除かれた周波数成分において生じる歪みが除去されて、出力信号の劣化を防止できる。
【0096】
また、歪補償回路1は、帰還信号のレベルが所定幅以上に変化した場合、変化量に応じた期間だけ、出力信号にフィルタを通過させる。フィルタを通過させると、遅延が生じたり、フィルタ内部で歪みが生じたりするなどのデメリットが生じるが、一定期間だけ、フィルタを挿入することにより、このデメリットは最小限に抑えられる。
【0097】
遅延部502を設けることにより、歪補償回路1は、比較制御部40で発生する遅延を補償することができる。
【0098】
デジタル方式で歪補償を行うことにより、アナログ方式で行う場合よりも歪補償回路1は、高精度に歪を補償できる。
【符号の説明】
【0099】
1 歪補償回路
10、11 DPD部
20、21 増幅部
30、31 帰還部
40 比較制御部
50 フィルタリング部
101 遅延部
102 入出力比較部
103 適応動作部
201、211 D/A変換部
202、212 周波数アップコンバート部
203、213 増幅器
301、311 分配部
302、312 周波数ダウンコンバート部
303、313 A/D変換部
401、402 送信電力レジスタ部
403 フィルタ切替時間設定テーブル
404 比較判定部
501 スイッチ制御部
502 遅延部
503 帯域制限フィルタ
SW1、SW2、SW3 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅して出力信号として出力する増幅部と、
前記出力信号を帰還信号として帰還させる帰還部と、
前記入力信号および前記帰還信号に基づいて前記増幅部の逆歪みを求め、該入力信号に該逆歪みを付加し、該逆歪みを付加した該入力信号を前記増幅部に入力するプレディストーション部と、
前記出力信号を送信する線路上に挿抜可能であり、挿入された状態では該出力信号の周波数成分を所定帯域に制限する帯域制限フィルタと、
前記帰還信号のレベルが所定幅よりも大きく変化した場合に前記帯域制限フィルタを前記線路上に挿入する比較制御部と、
を有する歪補償回路。
【請求項2】
前記比較制御部は、前記帰還信号のレベルが所定幅よりも大きく変化した場合、変化した幅に応じた期間だけ、前記帯域制限フィルタを前記線路上に挿入する、請求項1に記載の歪補償回路。
【請求項3】
前記判断手段は、周期的に前記帰還信号のレベルを取得し、該レベルの今回値と前回値とを比較した結果から前記所定幅を算出する、請求項1又は2項に記載の歪補償回路。
【請求項4】
前記帯域制限フィルタの前段において、前記出力信号の位相を所定値だけ遅延させる遅延手段を更に有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の歪補償回路。
【請求項5】
前記入力信号はデジタル信号であり、
プレディスト―ション部は、デジタル処理により前記逆歪みを求め、前記入力信号に該逆歪みを付加し、
前記増幅部は、前記入力信号をアナログ信号に変換してから増幅し、
前記帰還部は、前記帰還信号をデジタル信号に変換してから帰還させる、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の歪補償回路。
【請求項6】
増幅部が、入力信号を増幅して出力信号として出力し、
帰還部が、前記出力信号を帰還信号として帰還させ、
プレディストーション部が、前記入力信号および前記帰還信号に基づいて前記増幅部の逆歪みを求め、該入力信号に該逆歪みを付加し、該逆歪みを付加した該入力信号を前記増幅部に入力し、
比較制御部が、前記出力信号を送信する線路上に挿抜可能であり、挿入された状態では該出力信号の周波数成分を所定帯域に制限する帯域制限フィルタを、前記帰還信号のレベルが所定幅よりも大きく変化した場合に該線路上に挿入する、歪補償回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−193351(P2011−193351A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59351(P2010−59351)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】