歪補償装置、歪補償方法及び無線送信機
【課題】増幅器の出力信号に要求される規格を確実に満足する。
【解決手段】増幅器6の歪特性を補償する歪補償方法において、増幅器6に入力される入力信号と増幅器6から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、所定の周波数特性付与後の誤差信号に基づいて、増幅器6の歪特性を補償するための歪補償係数を演算し、演算した歪補償係数を用いて入力信号を歪補償処理する。
【解決手段】増幅器6の歪特性を補償する歪補償方法において、増幅器6に入力される入力信号と増幅器6から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、所定の周波数特性付与後の誤差信号に基づいて、増幅器6の歪特性を補償するための歪補償係数を演算し、演算した歪補償係数を用いて入力信号を歪補償処理する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪補償装置、歪補償方法及び無線送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、無線送信機などの無線機器に用いられる増幅器には、高い電力効率が要求される。しかし、増幅器の線形性と電力効率とは相反関係にあることが多く、これを両立させるために様々な歪補償方法が提案されている。
例えば、歪補償方法の一つとして、プリディストーション方式がある。プリディストーション方式では、増幅器の入力信号に対して増幅器の歪特性とは逆の特性を予め付加しておくことにより、増幅器で生じる歪みを低減させる(例えば、後記特許文献1,2参照)。
【0003】
また、増幅器のヒステリシス(メモリ効果ともいう)を補償するLUT(Look Up Table)に歪補償係数を保持しておくプリディストーション方式(例えば、後記特許文献3参照)や、ボルテラ級数やメモリポリノミアル展開式を用いてプリディストーション信号を生成する方式なども提案されている。
図1はLUTを用いたプリディストーション方式を実現する歪補償装置の従来例を示すブロック図である。
【0004】
この図1に示す歪補償装置では、入力端子101から入力されたI,Q信号などの送信データ(入力信号)が、プリディストータ102と電力検出部105とに供給される。
プリディストータ102は、歪補償テーブル106からの振幅/位相歪補償信号に基づいて、増幅器104の歪特性を補償するための処理を入力信号に施す。具体的には、プリディストータ102は、増幅器104で生じる歪みを打ち消すように入力信号の振幅,位相を制御する。即ち、プリディストータ102は、増幅器104の歪特性とは逆の特性を予め入力信号に与える処理(歪補償処理)を行なう。
【0005】
歪補償テーブル106は、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データが記憶されるメモリなどの記憶装置であり、歪補償テーブル106は、例えば、補償データと入力信号の振幅とを対応付けて保持することができる。
電力検出部105は、入力信号の電力を検出する。当該検出結果は歪補償テーブル106に通知され、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データが歪補償テーブル106から読み出され、振幅/位相歪補償信号として、プリディストータ102に供給される。
【0006】
プリディストータ102で歪補償処理を施された入力信号は、ディジタルアナログコンバータ(DAC)103でアナログ信号に変換された後、増幅器104で増幅されて出力される。例えば、無線送信機に上記歪補償装置が設けられた場合、入力信号は、無線送信周波数信号に変換された後、増幅器104で増幅されてアンテナから送信される。
増幅器104では、増幅器104が有する歪特性により、増幅されるアナログ信号に歪みが生じるが、入力信号にはプリディストータ102によって予め歪補償処理がなされているため、増幅器104で発生する歪みは補償(キャンセル)されることとなる。
【0007】
歪補償テーブル106の振幅/位相補償データ生成のために、図1に示す例では、アナログディジタルコンバータ(ADC)107,歪検出部108及び制御部109からなるフィードバック回路が設けられている。
増幅器104から出力されるアナログ信号は、フィードバック信号として、適宜中間周波数に変換された後、ADC107でディジタル信号に変換されて歪検出部108に供給される。歪検出部108は、上記フィードバック信号に含まれる歪み成分を検出し、制御部109が、歪検出部108で検出された歪み成分に応じて、歪補償テーブル106での振幅/位相補償データを調整、更新する。
【0008】
増幅器104の歪特性は、周囲温度などの環境の変化や経年などによっても変化するので、これに伴った振幅/位相補償データの調整もする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−189535号公報
【特許文献2】特開2002−141754号公報
【特許文献3】特開2010−183310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、増幅器は、入力が大きくなるにつれて出力が飽和し、入力信号に対して線形な信号を出力することができなくなる。このような非線形特性は、入力信号の周波数帯域の帯域外において不要信号成分を生じさせることがある。
なお、以下では、上記入力信号の周波数帯域外の帯域のうち、上記入力信号の周波数よりも小さい周波数を有する帯域を第1の周波数帯域ということがあり、上記入力信号の周波数よりも大きい周波数を有する帯域を第2の周波数帯域ということがある。
【0011】
上記不要信号成分は、例えば、自システムの近傍に位置する他システムなどに対して干渉を与える可能性がある。
そのため、増幅器の出力信号は、ACPR(Adjacent Channel Power Ratio)やSEM(Spectrum Emission Mask)など予め設定される規格(以下、スプリアス規格ともいう)を満足することを要求される。
【0012】
そこで、本発明は、増幅器の出力信号に要求される規格を確実に満足できるようにすることを目的の1つとする。
また、本発明は、他の無線システムや無線機器などへの干渉を低減することを他の目的の1つとする。
なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本発明の他の目的の一つとして位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)第1の案として、増幅器の歪特性を補償する歪補償装置において、前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与する周波数特性付与部と、前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて更新する歪補償係数更新部と、前記更新した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す歪補償部とをそなえる、歪補償装置を用いることができる。
【0014】
(2)また、第2の案として、増幅器の歪特性を補償する歪補償方法において、前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて演算し、前記演算した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す、歪補償方法を用いることができる。
【0015】
(3)さらに、第3の案として、上記歪補償装置をそなえる、無線送信機を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
増幅器の出力信号に要求される規格を確実に満足することができる。
また、他の無線システムや無線機器などへの干渉を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】LUTを用いたプリディストーション方式を実現する歪補償装置の従来例を示すブロック図である。
【図2】一実施形態に係る無線送信機の一例を示すブロック図である。
【図3】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図4】(A)は周波数特性付与直後における出力信号の周波数特性の一例を示す図であり、(B)は周波数特性付与直後における誤差信号の周波数特性の一例を示す図であり、(C)は周波数特性付与直後における周波数特性を付与された誤差信号の周波数特性の一例を示す図である。
【図5】(A)は歪補償装置の動作安定後における出力信号の周波数特性の一例を示す図であり、(B)は歪補償装置の動作安定後における誤差信号の周波数特性の一例を示す図であり、(C)は歪補償装置の動作安定後における周波数特性を付与された誤差信号の周波数特性の一例を示す図である。
【図6】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図7】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明する図である。
【図8】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明する図である。
【図9】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明する図である。
【図10】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明するフローチャートである。
【図11】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図12】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図13】(A)は誤差信号に付与する周波数特性の一例を示す図であり、(B)は出力信号の周波数特性の一例を示す図である。
【図14】(A)は各規格値の周波数特性の一例を示す図であり、(B)は図14(A)に示す周波数特性の逆特性を示す図であり、(C)は誤差信号に付与する周波数特性の一例を示す図である。
【図15】第2変形例に係る周波数特性の算出例を説明するフローチャートである。
【図16】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図17】第3変形例に係る無線送信機の一例を示すブロック図である。
【図18】第3変形例に係る周波数特性の算出例を説明するフローチャートである。
【図19】第4変形例に係る無線送信機の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す各実施形態及び変形例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。即ち、各実施形態及び変形例を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できることはいうまでもない。
〔1〕一実施形態
(1.1)一実施形態に係る無線送信機の構成例
図2は一実施形態に係る無線送信機の構成の一例を示す図である。
【0019】
この図2に示す無線送信機1は、例示的に、歪補償装置2と、ディジタルアナログコンバータ(DAC)3と、局部発振器4と、直交変調器(MOD)5と、増幅器6と、アンテナ7とをそなえる。また、無線送信機1は、例示的に、乗算器8と、局部発振器9と、アナログディジタルコンバータ(ADC)10と、直交復調器(DEM)11と、加算器12とをそなえる。
【0020】
無線送信機1では、例えば、I,Q信号などの送信データ(入力信号)が、歪補償装置2と加算器12とに供給される。
歪補償装置2は、後述の加算器12から供給される、入力信号と増幅器6の出力信号のフィードバック信号との差分(以下、誤差信号ともいう)に基づいて、入力信号に歪補償処理を施す。
【0021】
歪補償装置2で歪補償処理を施された入力信号は、DAC3でディジタル信号からアナログ信号に変換された後、MOD5で局部発振器4の発振周波数を用いて直交変調される。MOD5から出力される直交変調信号は、増幅器6で増幅された後、アンテナ7から無線受信機などに送信される。
また、増幅器6の出力信号は、乗算器8で局部発振器9の発振周波数を用いて中間周波数(IF)信号に周波数変換された後、ADC10でアナログ信号からディジタル信号に変換されて、DEM11に供給される。DEM11は、ADC10からのディジタル信号を直交復調し、復調した信号を加算器12にフィードバック信号として供給する。
【0022】
加算器12は、入力信号とフィードバック信号の反転信号とを加算することにより、上記誤差信号を生成し、生成した誤差信号を歪補償装置2に供給する。なお、入力信号は、例えば、加算器12に供給される前に図示しない遅延部によって遅延処理を施されることにより、送信データI,Qと復調されたデータI,Qとの時間合わせが行なわれる。
ところで、図1に示すような従来の歪補償装置では、増幅器の出力信号に含まれる不要信号成分は、例えば図3に示すように、第1の周波数帯域と第2の周波数帯域とに区別がないので、均一に補償されていた。なお、図3の縦軸は信号のパワーを表しており、図3の横軸は周波数を表している。
【0023】
例えば、ボルテラ級数を用いるプリディストータでは、プリディストーション信号を次式により生成する。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、式(1)中、x(t)はプリディストータに入力される送信信号、y(t)はプリディストータの出力信号、hはボルテラ級数の係数、Delayは本級数で扱う最大遅延、Orderは最大次数をそれぞれ表している。
増幅器104で生じる歪みに周波数特性があったとしても、当該歪みは周波数軸上で均一に補償され、出力信号に含まれる残留歪みは周波数軸上において入力信号に対して対称であった。
【0026】
ところが、例えば、自システムの近傍に第1の周波数帯域や第2の周波数帯域を使用する複数の他システムが存在する場合、図3に例示するように、第1の周波数帯域に設定されるスプリアス規格(以下、第1の規格値ともいう)と第2の周波数帯域に設定されるスプリアス規格(以下、第2の規格値ともいう)とが異なる場合がある。
このような場合、図1に示すような従来の歪補償装置から出力される出力信号は、図3に示すように、第2の周波数帯域において第2の規格値を満足する一方、第1の周波数帯域において第1の規格値を満足しないなど、互いに異なる各規格値のうち少なくとも1つを満足することができない可能性があった。
【0027】
そこで、本例の歪補償装置2では、加算器12から供給される誤差信号に所定の周波数特性を付与し、当該所定の周波数特性付与後の誤差信号に基づいて演算した歪補償係数を用いて、入力信号に歪補償処理を施す。
このため、図2に示す歪補償装置2は、例示的に、周波数特性付与部13と、歪補償係数更新部14と、歪補償部15とをそなえる。
【0028】
周波数特性付与部13は、加算器12から供給される誤差信号に所定の周波数特性を付与する。なお、誤差信号に付与する周波数特性については、予め実験やシミュレーションなどを行なうことにより、増幅器6の出力信号に要求される各規格値が満足されるように定めることができる。
周波数特性付与部13の上記機能は、例えば、アナログフィルタで実現できるほか、ディジタルフィルタによって実現することもできる。この場合、周波数特性付与部13の上記機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサを用いて実現することができる。例えば、周波数特性付与部13は、有限インパルス応答(FIR)フィルタや無限インパルス応答(IIR)フィルタなどのイコライザによって構成されることができる。また、入力信号が複素信号である場合、周波数特性付与部13には複素係数FIRフィルタや複素係数IIRフィルタなどを用いることができる。
【0029】
歪補償係数更新部14は、歪補償部15に付与する歪補償係数を、周波数特性付与部13によって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて更新する。例えば、歪補償係数更新部14は、周波数特性付与部13によって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて歪補償係数の更新分を算出し、算出した更新分と現状の歪補償係数とを加算した値を新たな歪補償係数として歪補償部15に供給することにより、歪補償係数を更新することができる。なお、歪補償係数更新部14は、増幅器6の歪特性を補償するための歪補償係数を記憶する歪補償テーブルを有していてもよい。歪補償テーブルは、例えば、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データ(歪補償係数)を、入力信号の振幅と対応付けて保持することができる。歪補償テーブルは、例えば、歪補償装置2に内蔵あるいは外付けされる、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置によって実現され得る。また、歪補償係数更新部14は、ボルテラ級数やメモリポリノミアル展開式を用いてプリディストーション信号を生成するようにしてもよい。
【0030】
また、歪補償部15は、歪補償係数更新部14によって更新された歪補償係数を用いて入力信号に対して歪補償処理を施す。具体的には、歪補償部15は、周波数特性付与部13によって所定の周波数特性が付与された後の誤差信号に含まれる歪み成分を周波数軸上で均一化するように、入力信号の振幅,位相を制御する。なお、歪補償係数更新部14及び歪補償部15の各機能は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサを用いて実現することができる。
【0031】
ここで、周波数特性付与部13によって誤差信号に付与される周波数特性は、増幅器6の出力信号において、入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域における第1の歪量が第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足するとともに、入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域における第2の歪量が第2の周波数帯域に設定されて第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される。
【0032】
なお、増幅器6の出力信号に要求される各規格値については、周波数特性付与部13が予め保持していてもよいし、無線送信機1の管理者またはユーザなどによって外部から設定されてもよい。あるいは、無線送信機1の周辺に位置する他システムからの干渉波などに基づいて、他システムが使用する周波数信号に干渉を与えないような各規格値を周波数特性付与部13が算出してもよい。
【0033】
ここで、増幅器6の出力信号に対して、図2に例示したように、第1の規格値と第2の規格値がそれぞれ設定された場合、周波数特性付与部13によって周波数特性が誤差信号に付与された直後の各信号を図4(A)〜図4(C)に示す。
図4(A)は周波数特性付与直後の増幅器6の出力信号の一例を示す図である。この時点では、図3に例示したように、第2の周波数帯域において生じた第2の歪量が第2の規格値よりも小さく、規格を満足している一方、第1の周波数帯域において生じた第1の歪量は第1の規格値以上であり、規格を満足していない。
【0034】
また、図4(B)は周波数特性付与直後の誤差信号の一例を示す図である。この誤差信号は、増幅器6で生じる歪み量そのものを表している。
さらに、図4(C)は周波数特性付与直後における周波数特性付与部13の出力例を示す図である。この図4(C)に例示するように、第2の周波数帯域における第2の歪量に比して、第1の周波数帯域における第1の歪量が大きくなるように、所定の周波数特性が付与されている。換言すれば、周波数特性付与部13が誤差信号に付与する周波数特性によって、歪補償性能を高めたい周波数帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪み[図4(C)の例では、第1の周波数帯域]を大きく見せている。
【0035】
図4(C)に例示する信号が歪補償係数更新部14に供給されると、歪補償係数更新部14は、第2の歪量に対する歪補償量よりも第1の歪量に対する歪補償量の方が大きいと判断し、当該判断結果に基づいて、歪補償係数を更新する。
そして、歪補償部15は、上記更新された歪補償係数を用いて入力信号に対して歪補償処理を施す。歪補償係数更新部14は、周波数特性付与部13の出力に含まれる残留歪みが周波数軸上でフラットになるように歪補償係数を演算により求めて更新するので、結果として増幅器6の出力信号には周波数的な偏りをもった残留歪みが現れる。
【0036】
この結果、上記歪補償係数の更新処理が終了した時点での各信号は、図5(A)〜図5(C)に示すようになる。
図5(A)は歪補償係数の更新処理が終了した時点での増幅器6の出力信号の一例を示す図である。この図5(A)に例示するように、図4(A)と比較すると、第1の周波数帯域における第1の歪量が低減される一方、第2の周波数帯域における第2の歪量が増加している。
【0037】
また、図5(B)は歪補償係数の更新処理が終了した時点での誤差信号の一例を示す図であり、図5(C)は同時点での周波数特性付与部13の出力例を示す図である。
図5(A)に例示する出力信号と図2に例示する各規格値との関係の一例を図6に示す。
本例では、誤差信号に所定の周波数特性を付与することによって、規格が比較的に緩い第2の周波数帯域においては歪補償性能の低下を許容する一方、規格が比較的に厳しい第1の周波数帯域においては歪補償性能を向上させている。
【0038】
この結果、図6に例示するように、増幅器6の出力信号に現れる第1の歪量と第2の歪量とを入力信号に対して、周波数軸上で、非対称とすることができ、増幅器6の出力信号に要求される規格を確実に満足(クリア)することが可能となる。
また、出力信号が規格を満足する結果、他の無線システムや無線機器などへの干渉を低減することが可能となる。
【0039】
なお、本例では、増幅器6で生じる歪み成分を純粋に含んでいる誤差信号に対して、上記の周波数特性を付与するので、送信信号に対して余分な周波数特性を付与することにならない。このため、送信信号に対して周波数特性を付与する場合に比しても、信号品質の低下を抑制することが可能となっている。
また、上述した例では、図3や図6のように、第1の規格値が第2の規格値よりも小さい場合を例にして本例を説明したが、第2の規格値が第1の規格値よりも小さい場合であっても、同様の方法によって出力信号に各規格値を満足させることが可能である。
【0040】
〔2〕第1変形例
周波数特性付与部13が誤差信号に付与する周波数特性は、例えば、上記の第1の周波数帯域に設定される第1の規格値と、上記の第2の周波数帯域に設定される第2の規格値との差に基づいて決定される傾斜量を有する一次関数として算出されることができる。
図7に各規格値の差と一次関数形式で表される周波数特性の傾斜量との関係の一例を示す。なお、図7に例示する各規格値の差と上記傾斜量との関係は、例えば、実験やシミュレーションなどで得た結果によって決定することができる。
【0041】
この図7に例示するように、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合、傾斜量の値はゼロとなり、周波数特性付与部13が誤差信号に与える周波数特性は、周波数軸上で一定の値となるので、その結果、第1の歪量と第2の歪量との間に差は生じない。この場合、周波数特性付与部13は、誤差信号に与える周波数特性として、周波数軸上で均一な定数を与えてもよいし、周波数特性を与えないこととしてもよい。
【0042】
図8に第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合の傾斜量と出力信号に現れる残留歪量との関係の一例を示す。なお、図8中に表されるV字の各特性は、それぞれ、誤差信号に付与される一次関数形式の周波数特性の傾斜量に対する第1の歪量,第2の歪量の増減を示している。各V字特性は、例えば、上記実験やシミュレーションなどで得た結果に基づいて算出することができるほか、増幅器6の出力信号に含まれる残留歪量を実測することにより決定されてもよい。
【0043】
この図8に例示するように、第1の歪量に着目すれば、傾斜量が図8中の符号「a1」で示される範囲にある場合に、第1の規格値を満足することが可能となる。一方、第2の歪量に着目すれば、傾斜量が図8中の符号「b1」で示される範囲にある場合に、第2の規格値を満足することが可能となる。
このため、図8中の符号「a1」で示される範囲と図8中の符号「b1」で示される範囲との重複部分である符号「c1」の範囲に傾斜量が設定された場合に、第1の歪量及び第2の歪量が第1の規格値(=第2の規格値)を満足することができることが分かる。
【0044】
以上のように、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合は、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量をゼロまたは図8中の符号「c1」で示される範囲に設定することで、増幅器6の出力信号に各規格値をともに満足させることが可能となる。
また、図7に例示するように、第2の規格値よりも第1の規格値の方が大きい場合、傾斜量は正の値となる。これにより、周波数特性付与部13で誤差信号に付与される周波数特性は正の傾きを有する一次関数形式で表され、当該周波数特性によって、歪補償性能を高めたい第2の周波数帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪みを大きく見せることが可能となる。その結果、増幅器6の出力信号に含まれる第1の歪量よりも第2の歪量の方が小さくなる。その結果、増幅器6の出力信号では、第1の歪量よりも第2の歪量の方が小さくなり、上記実験やシミュレーションが適切に行なわれた場合、第2の歪量を第2の規格値内に収められるとともに、第1の歪量も第1の規格値を満足する範囲内に収めることができる。
【0045】
一方、図7に例示するように、第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合、傾斜量は負の値となる。これにより、周波数特性付与部13で誤差信号に付与される周波数特性は負の傾きを有する一次関数形式で表され、当該周波数特性によって、歪補償性能を高めたい第1の周波数帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪みを大きく見せることが可能となる。その結果、増幅器6の出力信号では、第2の歪量よりも第1の歪量の方が小さくなり、上記実験やシミュレーションが適切に行なわれた場合、第1の歪量を第1の規格値内に収められるとともに、第2の歪量も第2の規格値を満足する範囲内に収めることができる。
【0046】
ここで、図9に第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合の傾斜量と出力信号に現れる残留歪量との関係の一例を示す。なお、図9中に表されるV字の各特性は、それぞれ、誤差信号に付与される一次関数形式の周波数特性の傾斜量に対する第1の歪量,第2の歪量の増減を示している。各V字特性は、例えば、上記実験やシミュレーションなどで得た結果に基づいて算出することができるほか、増幅器6の出力信号に含まれる残留歪量を実測することにより決定されてもよい。
【0047】
この図9に例示するように、第1の歪量に着目すれば、傾斜量が図9中の符号「a2」で示される範囲にある場合に、第1の規格値を満足することが可能となる。一方、第2の歪量に着目すれば、傾斜量が図9中の符号「b2」で示される範囲にある場合に、第2の規格値を満足することが可能となる。
このため、図9中の符号「a2」で示される範囲と図9中の符号「b2」で示される範囲との重複部分である符号「c2」の範囲に傾斜量が設定された場合に、第1の歪量が第1の規格値を満足するとともに、第2の歪量が第2の規格値を満足することができることが分かる。
【0048】
以上のように、第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合は、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を図9中の符号「c2」で示される範囲に設定することで、増幅器6の出力信号に各規格値をともに満足させることが可能となる。
ここで、上記周波数特性の算出動作の一例を図10に示す。
図10に例示するように、まず、増幅器6の動作開始などを契機として周波数特性の算出動作が開始されると(ステップS10)、周波数特性付与部13は、増幅器6の出力信号に要求される第1の規格値及び第2の規格値を取得する(ステップS11,S12)。
【0049】
次に、周波数特性付与部13は、第1の規格値と第2の規格値との差を算出する(ステップS13)。
そして、周波数特性付与部13は、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合、図7及び図8で説明したような算出方法により、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を算出し(ステップS14)、周波数特性を決定する(ステップS15)。
【0050】
また、周波数特性付与部13は、第1の規格値と第2の規格値とが異なる場合、図7及び図9で説明したような算出方法により、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を算出し(ステップS14)、周波数特性を決定する(ステップS15)。
次いで、周波数特性付与部13は、ステップS15で決定した周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与し(ステップS16)、処理を終了する(ステップS17)。
【0051】
第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合において、上記処理によって得られる増幅器6の出力信号と各規格値との関係の一例を図11に示す。
この図11から分かるように、誤差信号に付与する周波数特性を、各規格値に基づいて算出される一次関数形式の周波数特性として決定することにより、増幅器6の出力信号に要求される各規格値をともに満足させることが可能となる。
【0052】
なお、上記の例では、第1の規格値と第2の規格値との差に基づいて傾斜量を決定したが、例えば、第1の規格値と第2の規格値との比に基づいて傾斜量を決定してもよい。この場合であっても、上記と同様の効果を得ることが可能である。
〔3〕第2変形例
上述した例では、図2,図6及び図11に示したように、第1の規格値は第1の周波数帯域において一定であり、第2の規格値は第2の周波数帯域において一定であった。
【0053】
一方、図12に示すように、例えば第1の周波数帯域の一部において第1の規格値が局所的に小さい場合が考えられる。
このような場合、周波数特性付与部13は、誤差信号に対して図13(A)に例示するような周波数特性を付与することにより、歪補償性能を高めたい第1の周波数帯域の一部の帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪みを大きく見せることが可能となる。その結果、増幅器6の出力信号に含まれる前記一部の帯域における第1の歪量は、図13(B)に例示するように、局所的に小さくなる。
【0054】
ここで、上記周波数特性の算出例を図14(A)〜図14(C)及び図15を用いて説明する。
図14(A)は第1の規格値及び第2の規格値の一例を示しており、図14(B)は図14(A)に示す周波数特性の逆特性を示しており、図14(C)は誤差信号に付与する周波数特性の一例を示している。
【0055】
図15に例示するように、まず、増幅器6の動作開始などを契機として周波数特性の算出動作が開始されると(ステップS20)、周波数特性付与部13は、図14(A)で表されるような、第1の規格値及び第2の規格値を取得する(ステップS21,S22)。
次に、周波数特性付与部13は、図14(B)で表されるような、第1の規格値及び第2の規格値の逆特性を算出する(ステップS23)。
【0056】
そして、周波数特性付与部13は、ステップS23で算出した逆特性に対して、離散フーリエ逆変換またはIFFT(Inversed Fast Fourier Translation)処理を施し、図14(B)で表される逆特性に対して、図14(C)に示すように、等間隔のフィッティングポイント[図14(C)中、各白丸部分を参照]をとることで、誤差信号に付与すべき周波数特性を決定する(ステップS24)。
【0057】
次いで、周波数特性付与部13は、ステップS24で決定した周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与し(ステップS25)、処理を終了する(ステップS26)。
第1の規格値が局所的に小さい場合において、上記処理によって得られる増幅器6の出力信号と各規格値との関係の一例を図16に示す。
【0058】
この図16から分かるように、誤差信号に付与する周波数特性を、第1の規格値と第2の規格値との各逆特性に基づいて決定することにより、増幅器6の出力信号に要求される各規格値をともに満足させることが可能となる。
なお、上記の例では、第1の規格値と第2の規格値との各逆特性に基づいて周波数特性を決定したが、当該逆特性をパワー方向に所定倍した結果に基づいて、周波数特性を決定してもよい。このようにすれば、増幅器6の出力信号に現れる残留歪量を更に低減することが可能となるので、より確実に、出力信号に要求される各規格値を満足させることができる。
【0059】
また、上述した例では、図12のように、第1の規格値が局所的に小さい場合を例にして本例を説明したが、第1の規格値及び第2の規格値のうち少なくとも一部が局所的に小さい場合であっても、同様の方法によって出力信号に各規格値を満足させることが可能である。
〔4〕第3変形例
上述した各例では、増幅器6の出力信号が各規格値を満足するように、周波数特性を決定して誤差信号に付与したが、本例のように、増幅器6の出力信号が各規格値を満足するかどうかを監視しながら、周波数特性付与部13で誤差信号に与える周波数特性を逐次更新してもよい。
【0060】
本例では、図17に例示する歪補償装置2A、無線送信機1Aを用いることができる。この図17に例示する歪補償装置2Aは、図2に例示した歪補償装置2に加えて、FFT部16と、周波数特性更新部17とをそなえる。なお、図17において図2と同一の符号を付した各部位については、図2に例示した各部位とそれぞれ同様の機能及び構成を有するため、その説明を省略する。
【0061】
ここで、FFT部16は、増幅器6の出力信号のフィードバック信号に対してFFT(Fast Fourier Translation)処理を施すことにより、出力信号(フィードバック信号)に含まれる残留歪量を解析する。
また、周波数特性更新部17は、FFT部16での上記解析結果に基づき、増幅器6の出力信号に含まれる第1の歪量が第1の規格値を満足し、且つ、第2の歪量が第2の規格値を満足するまで、誤差信号に付与する周波数特性を逐次更新する。
【0062】
これにより、例えば、本例の歪補償装置2Aの動作直後時点では、誤差信号に付与する周波数特性はゼロであるが、以降、増幅器6の出力信号に要求される各規格値を満足するまで、誤差信号に付与される周波数特性が更新される。
ここで、誤差信号に付与する周波数特性が一次関数形式で表される場合の上記算出動作の一例を図18に示す。
【0063】
図18に例示するように、まず、増幅器6の動作開始などを契機として周波数特性の算出動作が開始されると(ステップS30)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号に要求される第1の規格値及び第2の規格値を取得する(ステップS31,S32)。なお、増幅器6の出力信号に要求される各規格値については、周波数特性更新部17が予め保持していてもよいし、無線送信機1の管理者またはユーザなどによって外部から設定されてもよい。あるいは、無線送信機1の周辺に位置する他システムからの干渉波などに基づいて、他システムが使用する周波数信号に干渉を与えないような各規格値を周波数特性更新部17が算出してもよい。
【0064】
次に、周波数特性更新部17は、第1の規格値と第2の規格値とのうち、どちらがより厳しい規格であるかを判断すべく、例えば、第1の規格値が第2の規格値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS33)。
ここで、第1の規格値が第2の規格値よりも小さいと判断した場合(ステップS33のYesルート)、周波数特性更新部17は、一次関数形式で表される周波数特性の傾斜量を初期値のゼロから所定幅Δx(Δx>0)だけ減少させる(ステップS34)。なお、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合、図7及び図8で説明したような算出方法により、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を算出し、周波数特性を決定してもよい。
【0065】
そして、周波数特性更新部17は、ステップS34で算出した傾斜量に基づいて、周波数特性付与部13で誤差信号に付与すべき周波数特性を決定する(ステップS35)。
次いで、周波数特性更新部17は、決定した周波数特性に関する情報を周波数特性付与部13に通知し、周波数特性付与部13は、通知された周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与する(ステップS36)。
【0066】
次に、FFT部16は、増幅器6の出力信号のフィードバック信号を解析して、出力信号に含まれる第1の歪量及び第2の歪量を検出し(ステップS37)、当該検出結果を周波数特性更新部17に通知する。
そして、周波数特性更新部17は、FFT部16から通知された検出結果に基づいて、出力信号に含まれる第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS38)。
【0067】
ここで、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定した場合(ステップS38のYesルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していると判断し、誤差信号に付与する周波数特性の更新を終了する(ステップS39)。
一方、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定されない場合(ステップS38のNoルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していないと判断し、出力信号が各規格値を満足するまでステップS34〜S38の処理を繰り返し行なう。なお、所定の時間経過後も出力信号が各規格値を満足しない場合は、上記所定幅Δxを変更してもよい。Δxを大きく変更すれば、出力信号が各規格値を満足するまでに要する時間を短縮することができる一方、Δxを小さく変更すれば、出力信号に含まれる各歪量をより細かく制御でき、出力信号が各規格値を確実に満足できるようになる。
【0068】
一方、ステップS33において、第1の規格値が第2の規格値よりも小さいと判断されない場合(ステップS33のNoルート)、周波数特性更新部17は、一次関数形式で表される周波数特性の傾斜量を初期値のゼロから所定幅Δy(Δy>0)だけ増加させる(ステップS40)。なお、Δyは、Δxと同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0069】
そして、周波数特性更新部17は、ステップS40で算出した傾斜量に基づいて、周波数特性付与部13で誤差信号に付与すべき周波数特性を決定する(ステップS41)。
次いで、周波数特性更新部17は、決定した周波数特性に関する情報を周波数特性付与部13に通知し、周波数特性付与部13は、通知された周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与する(ステップS42)。
【0070】
次に、FFT部16は、増幅器6の出力信号のフィードバック信号を解析して、出力信号に含まれる第1の歪量及び第2の歪量を検出し(ステップS43)、当該検出結果を周波数特性更新部17に通知する。
そして、周波数特性更新部17は、FFT部16から通知された検出結果に基づいて、出力信号に含まれる第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS44)。
【0071】
ここで、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定した場合(ステップS44のYesルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していると判断し、誤差信号に付与する周波数特性の更新を終了する(ステップS45)。
一方、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定されない場合(ステップS38のNoルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していないと判断し、出力信号が各規格値を満足するまでステップS40〜S44の処理を繰り返し行なう。なお、所定の時間経過後も出力信号が各規格値を満足しない場合は、上記所定幅Δyを変更してもよい。Δyを大きく変更すれば、出力信号が各規格値を満足するまでに要する時間を短縮することができる一方、Δyを小さく変更すれば、出力信号に含まれる各歪量をより細かく制御でき、出力信号が各規格値を確実に満足できるようになる。
【0072】
以上のように、本例によっても、上記の実施形態及び各変形例と同様の効果を得ることが可能となる。
〔5〕第4変形例
上述した各例では、歪補償部15によって歪補償が行なわれる前の送信信号と増幅器6から出力される出力信号との誤差信号に基づいて歪補償係数を更新するダイレクトラーニング構成に、誤差信号に所定の周波数特性を付与する構成を追加した。これにより、歪補償回路を小型化することができた。
【0073】
しかしながら、ダイレクトラーニング構成を用いた場合、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れる場合がある。
そこで、本例のように、インダイレクトラーニング構成において、誤差信号に所定の周波数特性を付与する構成を追加することにより、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止してもよい。
【0074】
本例では、図19に例示する歪補償装置2B、無線送信機1Bを用いることができる。なお、図19において図2,図17と同一の符号を付した各部位については、図2,図17に例示した各部位とそれぞれ同様の機能及び構成を有するため、その説明を省略する。
図19に示す歪補償装置2Bは、例示的に、加算器12Bと、周波数特性付与部13Bと、歪補償係数更新部14Bと、第1歪補償部15B−1と、第2歪補償部15B−2とをそなえる。
【0075】
第1歪補償部15B−1は、増幅器6に入力される入力信号に対して歪補償処理を施すために用いられる一方、第2歪補償部15B−2は、歪補償係数の学習用に用いられる。第2歪補償部15B−2によって十分に学習された歪補償係数が第1歪補償部15B−1に複製(コピー)されることによって、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止することができる。換言すれば、第2歪補償部15B−2によって十分に学習された歪補償係数が第1歪補償部15B−1に複製(コピー)されるまで、第1歪補償部15B−1が歪補償処理を行なわないことで、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止できる。
【0076】
第2補償部15B−2は、歪補償係数更新部14Bによって更新された歪補償係数を用いてフィードバック信号に対して歪補償処理を施す。具体的には、第2歪補償部15B−2は、周波数特性付与部13Bによって所定の周波数特性が付与された後の誤差信号に含まれる歪み成分を周波数軸上で均一化するように、入力信号の振幅,位相を制御する。なお、歪補償係数更新部14B,第1歪補償部15B−1及び第2歪補償部15B−2の各機能は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサを用いて実現することができる。
【0077】
加算器12Bは、第1歪補償部15B−1の出力信号と第2歪補償部15B−2の出力信号の反転信号とを加算することにより、誤差信号を生成し、生成した誤差信号を周波数特性付与部13Bに供給する。
周波数特性付与部13Bは、加算器12Bから供給される誤差信号に所定の周波数特性を付与する。なお、誤差信号に付与する周波数特性については、上述した各例と同様の方法によって定めることができる。即ち、周波数特性付与部13Bは、上記の第1の周波数帯域に設定される第1の規格値と、上記の第2の周波数帯域に設定される第2の規格値との差に基づいて決定される傾斜量を有する一次関数として、誤差信号に付与する周波数特性を算出してもよい。また、周波数特性付与部13Bは、図12〜図16を用いて説明した方法によって、誤差信号に付与する周波数特性を算出してもよい。さらに、図19に例示した構成に、第2歪補償部15B−2の出力を解析するFFT部16と、周波数特性付与部13Bが付与する周波数特性をFFT部16での解析結果に基づいて更新する周波数特性更新部17とを加えて、増幅器6の出力信号が各規格値を満足するかどうかを監視しながら、周波数特性付与部13Bで誤差信号に与える周波数特性を逐次更新するようにしてもよい。
【0078】
なお、周波数特性付与部13Bの当該機能は、例えば、アナログフィルタで実現できるほか、ディジタルフィルタによって実現することもできる。この場合、周波数特性付与部13Bの機能は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサを用いて実現することができる。例えば、周波数特性付与部13Bは、有限インパルス応答(FIR)フィルタや無限インパルス応答(IIR)フィルタなどのイコライザによって構成されることができる。また、入力信号が複素信号である場合、周波数特性付与部13Bには複素係数FIRフィルタや複素係数IIRフィルタなどを用いることができる。
【0079】
歪補償係数更新部14Bは、第2歪補償部15B−2に付与する歪補償係数を、周波数特性付与部13Bによって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて更新する。例えば、歪補償係数更新部14Bは、周波数特性付与部13Bによって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて歪補償係数の更新分を算出し、算出した更新分と現状の歪補償係数とを加算した値を新たな歪補償係数として第2歪補償部15B−2に供給することにより、歪補償係数を更新することができる。なお、歪補償係数更新部14Bは、増幅器6の歪特性を補償するための歪補償係数を記憶する歪補償テーブルを有していてもよい。歪補償テーブルは、例えば、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データ(歪補償係数)を、入力信号の振幅と対応付けて保持することができる。歪補償テーブルは、例えば、歪補償装置2Bに内蔵あるいは外付けされる、ROMやRAMなどの記憶装置によって実現され得る。また、歪補償係数更新部14Bは、ボルテラ級数やメモリポリノミアル展開式を用いてプリディストーション信号を生成するようにしてもよい。
【0080】
また、第2歪補償部15B−2は、歪補償係数が十分に学習されると、第2歪補償部15B−2におけるプリディストーション信号を、第1歪補償部15B−1にコピーして反映させる。なお、歪補償係数が十分に学習されたかどうかは、例えば、歪補償係数更新部14Bにおける更新分が所定の閾値以下となったかどうかに基づいて判断してもよい。
以上のように、本例によれば、上記実施形態及び各変形例と同様の効果を得られるほか、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止することができる。
【0081】
〔6〕その他
上述した歪補償装置2,2A,2B並びに無線送信機1,1A,1Bの各構成及び各機能は、必要に応じて取捨選択されてもよいし、適宜組み合わせて用いられてもよい。即ち、上述した本発明の機能を発揮できるように、上記の各構成及び各機能は取捨選択されたり、適宜組み合わせて用いられたりしてもよい。
【0082】
例えば、無線送信機1,1A,1Bとしての機能は、例えば、無線送信モジュールとして無線基地局や無線端末などに用いられてもよい。
また、上記歪補償装置2,2A,2Bは、無線送信機1,1A,1Bに限らず、その他の機器に用いられてもよい。
以上の実施形態及び各変形例に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0083】
〔7〕付記
(付記1)
増幅器の歪特性を補償する歪補償装置において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与する周波数特性付与部と、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて更新する歪補償係数更新部と、
前記更新した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す歪補償部とをそなえる、
ことを特徴とする、歪補償装置。
【0084】
(付記2)
前記所定の周波数特性は、
前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域を有する第1の歪量が前記第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足し、且つ、前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域を有する第2の歪量が前記第2の周波数帯域に設定され前記第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される、
ことを特徴とする、付記1記載の歪補償装置。
【0085】
(付記3)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の歪量と前記第2の歪量とが異なるように設定される、
ことを特徴とする、付記2記載の歪補償装置。
(付記4)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との差または比に基づく傾きを有する一次関数によって表される、
ことを特徴とする、付記2または3に記載の歪補償装置。
【0086】
(付記5)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との各逆特性に基づいて設定される、
ことを特徴とする、付記2または3に記載の歪補償装置。
(付記6)
前記第1の歪量が前記第1の規格値を満足し、且つ、前記第2の歪量が前記第2の規格値を満足するまで、前記周波数特性を逐次更新する周波数特性更新部をさらにそなえる、
ことを特徴とする、付記2または3に記載の歪補償装置。
【0087】
(付記7)
増幅器の歪特性を補償する歪補償方法において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて演算し、
前記演算した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す、
ことを特徴とする、歪補償方法。
【0088】
(付記8)
前記所定の周波数特性は、
前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域を有する第1の歪量が前記第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足し、且つ、前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域を有する第2の歪量が前記第2の周波数帯域に設定され前記第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される、
ことを特徴とする、付記7記載の歪補償方法。
【0089】
(付記9)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の歪量と前記第2の歪量とが異なるように設定される、
ことを特徴とする、付記8記載の歪補償方法。
(付記10)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との差または比に基づく傾きを有する一次関数によって表される、
ことを特徴とする、付記8または9に記載の歪補償方法。
【0090】
(付記11)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との各逆特性に基づいて設定される、
ことを特徴とする、付記8または9に記載の歪補償方法。
(付記12)
前記第1の歪量が前記第1の規格値を満足し、且つ、前記第2の歪量が前記第2の規格値を満足するまで、前記周波数特性を逐次更新する、
ことを特徴とする、付記8または9に記載の歪補償方法。
【0091】
(付記13)
付記1〜6のいずれか1項に記載の歪補償装置をそなえる、
ことを特徴とする、無線送信機。
【符号の説明】
【0092】
1,1A,1B 無線送信機
2,2A,2B 歪補償装置
3 ディジタルアナログコンバータ(DAC)
4 局部発振器
5 直交変調器(MOD)
6 増幅器
7 アンテナ
8 乗算器
9 局部発振器
10 アナログディジタルコンバータ(ADC)
11 直交復調器(DEM)
12,12B 加算器
13,13B 周波数特性付与部
14,14B 歪補償係数更新部
15 歪補償部
15B−1 第1歪補償部
15B−2 第2歪補償部
16 高速フーリエ変換(FFT)部
17 周波数特性更新部
101 入力端子
102 プリディストータ
103 ディジタルアナログコンバータ(DAC)
104 増幅器
105 電力検出部
106 歪補償テーブル
107 アナログディジタルコンバータ(ADC)
108 歪検出部
109 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪補償装置、歪補償方法及び無線送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、無線送信機などの無線機器に用いられる増幅器には、高い電力効率が要求される。しかし、増幅器の線形性と電力効率とは相反関係にあることが多く、これを両立させるために様々な歪補償方法が提案されている。
例えば、歪補償方法の一つとして、プリディストーション方式がある。プリディストーション方式では、増幅器の入力信号に対して増幅器の歪特性とは逆の特性を予め付加しておくことにより、増幅器で生じる歪みを低減させる(例えば、後記特許文献1,2参照)。
【0003】
また、増幅器のヒステリシス(メモリ効果ともいう)を補償するLUT(Look Up Table)に歪補償係数を保持しておくプリディストーション方式(例えば、後記特許文献3参照)や、ボルテラ級数やメモリポリノミアル展開式を用いてプリディストーション信号を生成する方式なども提案されている。
図1はLUTを用いたプリディストーション方式を実現する歪補償装置の従来例を示すブロック図である。
【0004】
この図1に示す歪補償装置では、入力端子101から入力されたI,Q信号などの送信データ(入力信号)が、プリディストータ102と電力検出部105とに供給される。
プリディストータ102は、歪補償テーブル106からの振幅/位相歪補償信号に基づいて、増幅器104の歪特性を補償するための処理を入力信号に施す。具体的には、プリディストータ102は、増幅器104で生じる歪みを打ち消すように入力信号の振幅,位相を制御する。即ち、プリディストータ102は、増幅器104の歪特性とは逆の特性を予め入力信号に与える処理(歪補償処理)を行なう。
【0005】
歪補償テーブル106は、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データが記憶されるメモリなどの記憶装置であり、歪補償テーブル106は、例えば、補償データと入力信号の振幅とを対応付けて保持することができる。
電力検出部105は、入力信号の電力を検出する。当該検出結果は歪補償テーブル106に通知され、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データが歪補償テーブル106から読み出され、振幅/位相歪補償信号として、プリディストータ102に供給される。
【0006】
プリディストータ102で歪補償処理を施された入力信号は、ディジタルアナログコンバータ(DAC)103でアナログ信号に変換された後、増幅器104で増幅されて出力される。例えば、無線送信機に上記歪補償装置が設けられた場合、入力信号は、無線送信周波数信号に変換された後、増幅器104で増幅されてアンテナから送信される。
増幅器104では、増幅器104が有する歪特性により、増幅されるアナログ信号に歪みが生じるが、入力信号にはプリディストータ102によって予め歪補償処理がなされているため、増幅器104で発生する歪みは補償(キャンセル)されることとなる。
【0007】
歪補償テーブル106の振幅/位相補償データ生成のために、図1に示す例では、アナログディジタルコンバータ(ADC)107,歪検出部108及び制御部109からなるフィードバック回路が設けられている。
増幅器104から出力されるアナログ信号は、フィードバック信号として、適宜中間周波数に変換された後、ADC107でディジタル信号に変換されて歪検出部108に供給される。歪検出部108は、上記フィードバック信号に含まれる歪み成分を検出し、制御部109が、歪検出部108で検出された歪み成分に応じて、歪補償テーブル106での振幅/位相補償データを調整、更新する。
【0008】
増幅器104の歪特性は、周囲温度などの環境の変化や経年などによっても変化するので、これに伴った振幅/位相補償データの調整もする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−189535号公報
【特許文献2】特開2002−141754号公報
【特許文献3】特開2010−183310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、増幅器は、入力が大きくなるにつれて出力が飽和し、入力信号に対して線形な信号を出力することができなくなる。このような非線形特性は、入力信号の周波数帯域の帯域外において不要信号成分を生じさせることがある。
なお、以下では、上記入力信号の周波数帯域外の帯域のうち、上記入力信号の周波数よりも小さい周波数を有する帯域を第1の周波数帯域ということがあり、上記入力信号の周波数よりも大きい周波数を有する帯域を第2の周波数帯域ということがある。
【0011】
上記不要信号成分は、例えば、自システムの近傍に位置する他システムなどに対して干渉を与える可能性がある。
そのため、増幅器の出力信号は、ACPR(Adjacent Channel Power Ratio)やSEM(Spectrum Emission Mask)など予め設定される規格(以下、スプリアス規格ともいう)を満足することを要求される。
【0012】
そこで、本発明は、増幅器の出力信号に要求される規格を確実に満足できるようにすることを目的の1つとする。
また、本発明は、他の無線システムや無線機器などへの干渉を低減することを他の目的の1つとする。
なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本発明の他の目的の一つとして位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)第1の案として、増幅器の歪特性を補償する歪補償装置において、前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与する周波数特性付与部と、前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて更新する歪補償係数更新部と、前記更新した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す歪補償部とをそなえる、歪補償装置を用いることができる。
【0014】
(2)また、第2の案として、増幅器の歪特性を補償する歪補償方法において、前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて演算し、前記演算した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す、歪補償方法を用いることができる。
【0015】
(3)さらに、第3の案として、上記歪補償装置をそなえる、無線送信機を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
増幅器の出力信号に要求される規格を確実に満足することができる。
また、他の無線システムや無線機器などへの干渉を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】LUTを用いたプリディストーション方式を実現する歪補償装置の従来例を示すブロック図である。
【図2】一実施形態に係る無線送信機の一例を示すブロック図である。
【図3】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図4】(A)は周波数特性付与直後における出力信号の周波数特性の一例を示す図であり、(B)は周波数特性付与直後における誤差信号の周波数特性の一例を示す図であり、(C)は周波数特性付与直後における周波数特性を付与された誤差信号の周波数特性の一例を示す図である。
【図5】(A)は歪補償装置の動作安定後における出力信号の周波数特性の一例を示す図であり、(B)は歪補償装置の動作安定後における誤差信号の周波数特性の一例を示す図であり、(C)は歪補償装置の動作安定後における周波数特性を付与された誤差信号の周波数特性の一例を示す図である。
【図6】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図7】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明する図である。
【図8】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明する図である。
【図9】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明する図である。
【図10】第1変形例に係る周波数特性の算出例を説明するフローチャートである。
【図11】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図12】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図13】(A)は誤差信号に付与する周波数特性の一例を示す図であり、(B)は出力信号の周波数特性の一例を示す図である。
【図14】(A)は各規格値の周波数特性の一例を示す図であり、(B)は図14(A)に示す周波数特性の逆特性を示す図であり、(C)は誤差信号に付与する周波数特性の一例を示す図である。
【図15】第2変形例に係る周波数特性の算出例を説明するフローチャートである。
【図16】増幅器の出力信号と各規格値との関係の一例を示す図である。
【図17】第3変形例に係る無線送信機の一例を示すブロック図である。
【図18】第3変形例に係る周波数特性の算出例を説明するフローチャートである。
【図19】第4変形例に係る無線送信機の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す各実施形態及び変形例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。即ち、各実施形態及び変形例を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できることはいうまでもない。
〔1〕一実施形態
(1.1)一実施形態に係る無線送信機の構成例
図2は一実施形態に係る無線送信機の構成の一例を示す図である。
【0019】
この図2に示す無線送信機1は、例示的に、歪補償装置2と、ディジタルアナログコンバータ(DAC)3と、局部発振器4と、直交変調器(MOD)5と、増幅器6と、アンテナ7とをそなえる。また、無線送信機1は、例示的に、乗算器8と、局部発振器9と、アナログディジタルコンバータ(ADC)10と、直交復調器(DEM)11と、加算器12とをそなえる。
【0020】
無線送信機1では、例えば、I,Q信号などの送信データ(入力信号)が、歪補償装置2と加算器12とに供給される。
歪補償装置2は、後述の加算器12から供給される、入力信号と増幅器6の出力信号のフィードバック信号との差分(以下、誤差信号ともいう)に基づいて、入力信号に歪補償処理を施す。
【0021】
歪補償装置2で歪補償処理を施された入力信号は、DAC3でディジタル信号からアナログ信号に変換された後、MOD5で局部発振器4の発振周波数を用いて直交変調される。MOD5から出力される直交変調信号は、増幅器6で増幅された後、アンテナ7から無線受信機などに送信される。
また、増幅器6の出力信号は、乗算器8で局部発振器9の発振周波数を用いて中間周波数(IF)信号に周波数変換された後、ADC10でアナログ信号からディジタル信号に変換されて、DEM11に供給される。DEM11は、ADC10からのディジタル信号を直交復調し、復調した信号を加算器12にフィードバック信号として供給する。
【0022】
加算器12は、入力信号とフィードバック信号の反転信号とを加算することにより、上記誤差信号を生成し、生成した誤差信号を歪補償装置2に供給する。なお、入力信号は、例えば、加算器12に供給される前に図示しない遅延部によって遅延処理を施されることにより、送信データI,Qと復調されたデータI,Qとの時間合わせが行なわれる。
ところで、図1に示すような従来の歪補償装置では、増幅器の出力信号に含まれる不要信号成分は、例えば図3に示すように、第1の周波数帯域と第2の周波数帯域とに区別がないので、均一に補償されていた。なお、図3の縦軸は信号のパワーを表しており、図3の横軸は周波数を表している。
【0023】
例えば、ボルテラ級数を用いるプリディストータでは、プリディストーション信号を次式により生成する。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、式(1)中、x(t)はプリディストータに入力される送信信号、y(t)はプリディストータの出力信号、hはボルテラ級数の係数、Delayは本級数で扱う最大遅延、Orderは最大次数をそれぞれ表している。
増幅器104で生じる歪みに周波数特性があったとしても、当該歪みは周波数軸上で均一に補償され、出力信号に含まれる残留歪みは周波数軸上において入力信号に対して対称であった。
【0026】
ところが、例えば、自システムの近傍に第1の周波数帯域や第2の周波数帯域を使用する複数の他システムが存在する場合、図3に例示するように、第1の周波数帯域に設定されるスプリアス規格(以下、第1の規格値ともいう)と第2の周波数帯域に設定されるスプリアス規格(以下、第2の規格値ともいう)とが異なる場合がある。
このような場合、図1に示すような従来の歪補償装置から出力される出力信号は、図3に示すように、第2の周波数帯域において第2の規格値を満足する一方、第1の周波数帯域において第1の規格値を満足しないなど、互いに異なる各規格値のうち少なくとも1つを満足することができない可能性があった。
【0027】
そこで、本例の歪補償装置2では、加算器12から供給される誤差信号に所定の周波数特性を付与し、当該所定の周波数特性付与後の誤差信号に基づいて演算した歪補償係数を用いて、入力信号に歪補償処理を施す。
このため、図2に示す歪補償装置2は、例示的に、周波数特性付与部13と、歪補償係数更新部14と、歪補償部15とをそなえる。
【0028】
周波数特性付与部13は、加算器12から供給される誤差信号に所定の周波数特性を付与する。なお、誤差信号に付与する周波数特性については、予め実験やシミュレーションなどを行なうことにより、増幅器6の出力信号に要求される各規格値が満足されるように定めることができる。
周波数特性付与部13の上記機能は、例えば、アナログフィルタで実現できるほか、ディジタルフィルタによって実現することもできる。この場合、周波数特性付与部13の上記機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などのプロセッサを用いて実現することができる。例えば、周波数特性付与部13は、有限インパルス応答(FIR)フィルタや無限インパルス応答(IIR)フィルタなどのイコライザによって構成されることができる。また、入力信号が複素信号である場合、周波数特性付与部13には複素係数FIRフィルタや複素係数IIRフィルタなどを用いることができる。
【0029】
歪補償係数更新部14は、歪補償部15に付与する歪補償係数を、周波数特性付与部13によって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて更新する。例えば、歪補償係数更新部14は、周波数特性付与部13によって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて歪補償係数の更新分を算出し、算出した更新分と現状の歪補償係数とを加算した値を新たな歪補償係数として歪補償部15に供給することにより、歪補償係数を更新することができる。なお、歪補償係数更新部14は、増幅器6の歪特性を補償するための歪補償係数を記憶する歪補償テーブルを有していてもよい。歪補償テーブルは、例えば、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データ(歪補償係数)を、入力信号の振幅と対応付けて保持することができる。歪補償テーブルは、例えば、歪補償装置2に内蔵あるいは外付けされる、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置によって実現され得る。また、歪補償係数更新部14は、ボルテラ級数やメモリポリノミアル展開式を用いてプリディストーション信号を生成するようにしてもよい。
【0030】
また、歪補償部15は、歪補償係数更新部14によって更新された歪補償係数を用いて入力信号に対して歪補償処理を施す。具体的には、歪補償部15は、周波数特性付与部13によって所定の周波数特性が付与された後の誤差信号に含まれる歪み成分を周波数軸上で均一化するように、入力信号の振幅,位相を制御する。なお、歪補償係数更新部14及び歪補償部15の各機能は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサを用いて実現することができる。
【0031】
ここで、周波数特性付与部13によって誤差信号に付与される周波数特性は、増幅器6の出力信号において、入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域における第1の歪量が第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足するとともに、入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域における第2の歪量が第2の周波数帯域に設定されて第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される。
【0032】
なお、増幅器6の出力信号に要求される各規格値については、周波数特性付与部13が予め保持していてもよいし、無線送信機1の管理者またはユーザなどによって外部から設定されてもよい。あるいは、無線送信機1の周辺に位置する他システムからの干渉波などに基づいて、他システムが使用する周波数信号に干渉を与えないような各規格値を周波数特性付与部13が算出してもよい。
【0033】
ここで、増幅器6の出力信号に対して、図2に例示したように、第1の規格値と第2の規格値がそれぞれ設定された場合、周波数特性付与部13によって周波数特性が誤差信号に付与された直後の各信号を図4(A)〜図4(C)に示す。
図4(A)は周波数特性付与直後の増幅器6の出力信号の一例を示す図である。この時点では、図3に例示したように、第2の周波数帯域において生じた第2の歪量が第2の規格値よりも小さく、規格を満足している一方、第1の周波数帯域において生じた第1の歪量は第1の規格値以上であり、規格を満足していない。
【0034】
また、図4(B)は周波数特性付与直後の誤差信号の一例を示す図である。この誤差信号は、増幅器6で生じる歪み量そのものを表している。
さらに、図4(C)は周波数特性付与直後における周波数特性付与部13の出力例を示す図である。この図4(C)に例示するように、第2の周波数帯域における第2の歪量に比して、第1の周波数帯域における第1の歪量が大きくなるように、所定の周波数特性が付与されている。換言すれば、周波数特性付与部13が誤差信号に付与する周波数特性によって、歪補償性能を高めたい周波数帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪み[図4(C)の例では、第1の周波数帯域]を大きく見せている。
【0035】
図4(C)に例示する信号が歪補償係数更新部14に供給されると、歪補償係数更新部14は、第2の歪量に対する歪補償量よりも第1の歪量に対する歪補償量の方が大きいと判断し、当該判断結果に基づいて、歪補償係数を更新する。
そして、歪補償部15は、上記更新された歪補償係数を用いて入力信号に対して歪補償処理を施す。歪補償係数更新部14は、周波数特性付与部13の出力に含まれる残留歪みが周波数軸上でフラットになるように歪補償係数を演算により求めて更新するので、結果として増幅器6の出力信号には周波数的な偏りをもった残留歪みが現れる。
【0036】
この結果、上記歪補償係数の更新処理が終了した時点での各信号は、図5(A)〜図5(C)に示すようになる。
図5(A)は歪補償係数の更新処理が終了した時点での増幅器6の出力信号の一例を示す図である。この図5(A)に例示するように、図4(A)と比較すると、第1の周波数帯域における第1の歪量が低減される一方、第2の周波数帯域における第2の歪量が増加している。
【0037】
また、図5(B)は歪補償係数の更新処理が終了した時点での誤差信号の一例を示す図であり、図5(C)は同時点での周波数特性付与部13の出力例を示す図である。
図5(A)に例示する出力信号と図2に例示する各規格値との関係の一例を図6に示す。
本例では、誤差信号に所定の周波数特性を付与することによって、規格が比較的に緩い第2の周波数帯域においては歪補償性能の低下を許容する一方、規格が比較的に厳しい第1の周波数帯域においては歪補償性能を向上させている。
【0038】
この結果、図6に例示するように、増幅器6の出力信号に現れる第1の歪量と第2の歪量とを入力信号に対して、周波数軸上で、非対称とすることができ、増幅器6の出力信号に要求される規格を確実に満足(クリア)することが可能となる。
また、出力信号が規格を満足する結果、他の無線システムや無線機器などへの干渉を低減することが可能となる。
【0039】
なお、本例では、増幅器6で生じる歪み成分を純粋に含んでいる誤差信号に対して、上記の周波数特性を付与するので、送信信号に対して余分な周波数特性を付与することにならない。このため、送信信号に対して周波数特性を付与する場合に比しても、信号品質の低下を抑制することが可能となっている。
また、上述した例では、図3や図6のように、第1の規格値が第2の規格値よりも小さい場合を例にして本例を説明したが、第2の規格値が第1の規格値よりも小さい場合であっても、同様の方法によって出力信号に各規格値を満足させることが可能である。
【0040】
〔2〕第1変形例
周波数特性付与部13が誤差信号に付与する周波数特性は、例えば、上記の第1の周波数帯域に設定される第1の規格値と、上記の第2の周波数帯域に設定される第2の規格値との差に基づいて決定される傾斜量を有する一次関数として算出されることができる。
図7に各規格値の差と一次関数形式で表される周波数特性の傾斜量との関係の一例を示す。なお、図7に例示する各規格値の差と上記傾斜量との関係は、例えば、実験やシミュレーションなどで得た結果によって決定することができる。
【0041】
この図7に例示するように、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合、傾斜量の値はゼロとなり、周波数特性付与部13が誤差信号に与える周波数特性は、周波数軸上で一定の値となるので、その結果、第1の歪量と第2の歪量との間に差は生じない。この場合、周波数特性付与部13は、誤差信号に与える周波数特性として、周波数軸上で均一な定数を与えてもよいし、周波数特性を与えないこととしてもよい。
【0042】
図8に第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合の傾斜量と出力信号に現れる残留歪量との関係の一例を示す。なお、図8中に表されるV字の各特性は、それぞれ、誤差信号に付与される一次関数形式の周波数特性の傾斜量に対する第1の歪量,第2の歪量の増減を示している。各V字特性は、例えば、上記実験やシミュレーションなどで得た結果に基づいて算出することができるほか、増幅器6の出力信号に含まれる残留歪量を実測することにより決定されてもよい。
【0043】
この図8に例示するように、第1の歪量に着目すれば、傾斜量が図8中の符号「a1」で示される範囲にある場合に、第1の規格値を満足することが可能となる。一方、第2の歪量に着目すれば、傾斜量が図8中の符号「b1」で示される範囲にある場合に、第2の規格値を満足することが可能となる。
このため、図8中の符号「a1」で示される範囲と図8中の符号「b1」で示される範囲との重複部分である符号「c1」の範囲に傾斜量が設定された場合に、第1の歪量及び第2の歪量が第1の規格値(=第2の規格値)を満足することができることが分かる。
【0044】
以上のように、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合は、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量をゼロまたは図8中の符号「c1」で示される範囲に設定することで、増幅器6の出力信号に各規格値をともに満足させることが可能となる。
また、図7に例示するように、第2の規格値よりも第1の規格値の方が大きい場合、傾斜量は正の値となる。これにより、周波数特性付与部13で誤差信号に付与される周波数特性は正の傾きを有する一次関数形式で表され、当該周波数特性によって、歪補償性能を高めたい第2の周波数帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪みを大きく見せることが可能となる。その結果、増幅器6の出力信号に含まれる第1の歪量よりも第2の歪量の方が小さくなる。その結果、増幅器6の出力信号では、第1の歪量よりも第2の歪量の方が小さくなり、上記実験やシミュレーションが適切に行なわれた場合、第2の歪量を第2の規格値内に収められるとともに、第1の歪量も第1の規格値を満足する範囲内に収めることができる。
【0045】
一方、図7に例示するように、第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合、傾斜量は負の値となる。これにより、周波数特性付与部13で誤差信号に付与される周波数特性は負の傾きを有する一次関数形式で表され、当該周波数特性によって、歪補償性能を高めたい第1の周波数帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪みを大きく見せることが可能となる。その結果、増幅器6の出力信号では、第2の歪量よりも第1の歪量の方が小さくなり、上記実験やシミュレーションが適切に行なわれた場合、第1の歪量を第1の規格値内に収められるとともに、第2の歪量も第2の規格値を満足する範囲内に収めることができる。
【0046】
ここで、図9に第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合の傾斜量と出力信号に現れる残留歪量との関係の一例を示す。なお、図9中に表されるV字の各特性は、それぞれ、誤差信号に付与される一次関数形式の周波数特性の傾斜量に対する第1の歪量,第2の歪量の増減を示している。各V字特性は、例えば、上記実験やシミュレーションなどで得た結果に基づいて算出することができるほか、増幅器6の出力信号に含まれる残留歪量を実測することにより決定されてもよい。
【0047】
この図9に例示するように、第1の歪量に着目すれば、傾斜量が図9中の符号「a2」で示される範囲にある場合に、第1の規格値を満足することが可能となる。一方、第2の歪量に着目すれば、傾斜量が図9中の符号「b2」で示される範囲にある場合に、第2の規格値を満足することが可能となる。
このため、図9中の符号「a2」で示される範囲と図9中の符号「b2」で示される範囲との重複部分である符号「c2」の範囲に傾斜量が設定された場合に、第1の歪量が第1の規格値を満足するとともに、第2の歪量が第2の規格値を満足することができることが分かる。
【0048】
以上のように、第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合は、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を図9中の符号「c2」で示される範囲に設定することで、増幅器6の出力信号に各規格値をともに満足させることが可能となる。
ここで、上記周波数特性の算出動作の一例を図10に示す。
図10に例示するように、まず、増幅器6の動作開始などを契機として周波数特性の算出動作が開始されると(ステップS10)、周波数特性付与部13は、増幅器6の出力信号に要求される第1の規格値及び第2の規格値を取得する(ステップS11,S12)。
【0049】
次に、周波数特性付与部13は、第1の規格値と第2の規格値との差を算出する(ステップS13)。
そして、周波数特性付与部13は、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合、図7及び図8で説明したような算出方法により、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を算出し(ステップS14)、周波数特性を決定する(ステップS15)。
【0050】
また、周波数特性付与部13は、第1の規格値と第2の規格値とが異なる場合、図7及び図9で説明したような算出方法により、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を算出し(ステップS14)、周波数特性を決定する(ステップS15)。
次いで、周波数特性付与部13は、ステップS15で決定した周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与し(ステップS16)、処理を終了する(ステップS17)。
【0051】
第1の規格値よりも第2の規格値の方が大きい場合において、上記処理によって得られる増幅器6の出力信号と各規格値との関係の一例を図11に示す。
この図11から分かるように、誤差信号に付与する周波数特性を、各規格値に基づいて算出される一次関数形式の周波数特性として決定することにより、増幅器6の出力信号に要求される各規格値をともに満足させることが可能となる。
【0052】
なお、上記の例では、第1の規格値と第2の規格値との差に基づいて傾斜量を決定したが、例えば、第1の規格値と第2の規格値との比に基づいて傾斜量を決定してもよい。この場合であっても、上記と同様の効果を得ることが可能である。
〔3〕第2変形例
上述した例では、図2,図6及び図11に示したように、第1の規格値は第1の周波数帯域において一定であり、第2の規格値は第2の周波数帯域において一定であった。
【0053】
一方、図12に示すように、例えば第1の周波数帯域の一部において第1の規格値が局所的に小さい場合が考えられる。
このような場合、周波数特性付与部13は、誤差信号に対して図13(A)に例示するような周波数特性を付与することにより、歪補償性能を高めたい第1の周波数帯域の一部の帯域に対して、歪補償係数更新部14に残留歪みを大きく見せることが可能となる。その結果、増幅器6の出力信号に含まれる前記一部の帯域における第1の歪量は、図13(B)に例示するように、局所的に小さくなる。
【0054】
ここで、上記周波数特性の算出例を図14(A)〜図14(C)及び図15を用いて説明する。
図14(A)は第1の規格値及び第2の規格値の一例を示しており、図14(B)は図14(A)に示す周波数特性の逆特性を示しており、図14(C)は誤差信号に付与する周波数特性の一例を示している。
【0055】
図15に例示するように、まず、増幅器6の動作開始などを契機として周波数特性の算出動作が開始されると(ステップS20)、周波数特性付与部13は、図14(A)で表されるような、第1の規格値及び第2の規格値を取得する(ステップS21,S22)。
次に、周波数特性付与部13は、図14(B)で表されるような、第1の規格値及び第2の規格値の逆特性を算出する(ステップS23)。
【0056】
そして、周波数特性付与部13は、ステップS23で算出した逆特性に対して、離散フーリエ逆変換またはIFFT(Inversed Fast Fourier Translation)処理を施し、図14(B)で表される逆特性に対して、図14(C)に示すように、等間隔のフィッティングポイント[図14(C)中、各白丸部分を参照]をとることで、誤差信号に付与すべき周波数特性を決定する(ステップS24)。
【0057】
次いで、周波数特性付与部13は、ステップS24で決定した周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与し(ステップS25)、処理を終了する(ステップS26)。
第1の規格値が局所的に小さい場合において、上記処理によって得られる増幅器6の出力信号と各規格値との関係の一例を図16に示す。
【0058】
この図16から分かるように、誤差信号に付与する周波数特性を、第1の規格値と第2の規格値との各逆特性に基づいて決定することにより、増幅器6の出力信号に要求される各規格値をともに満足させることが可能となる。
なお、上記の例では、第1の規格値と第2の規格値との各逆特性に基づいて周波数特性を決定したが、当該逆特性をパワー方向に所定倍した結果に基づいて、周波数特性を決定してもよい。このようにすれば、増幅器6の出力信号に現れる残留歪量を更に低減することが可能となるので、より確実に、出力信号に要求される各規格値を満足させることができる。
【0059】
また、上述した例では、図12のように、第1の規格値が局所的に小さい場合を例にして本例を説明したが、第1の規格値及び第2の規格値のうち少なくとも一部が局所的に小さい場合であっても、同様の方法によって出力信号に各規格値を満足させることが可能である。
〔4〕第3変形例
上述した各例では、増幅器6の出力信号が各規格値を満足するように、周波数特性を決定して誤差信号に付与したが、本例のように、増幅器6の出力信号が各規格値を満足するかどうかを監視しながら、周波数特性付与部13で誤差信号に与える周波数特性を逐次更新してもよい。
【0060】
本例では、図17に例示する歪補償装置2A、無線送信機1Aを用いることができる。この図17に例示する歪補償装置2Aは、図2に例示した歪補償装置2に加えて、FFT部16と、周波数特性更新部17とをそなえる。なお、図17において図2と同一の符号を付した各部位については、図2に例示した各部位とそれぞれ同様の機能及び構成を有するため、その説明を省略する。
【0061】
ここで、FFT部16は、増幅器6の出力信号のフィードバック信号に対してFFT(Fast Fourier Translation)処理を施すことにより、出力信号(フィードバック信号)に含まれる残留歪量を解析する。
また、周波数特性更新部17は、FFT部16での上記解析結果に基づき、増幅器6の出力信号に含まれる第1の歪量が第1の規格値を満足し、且つ、第2の歪量が第2の規格値を満足するまで、誤差信号に付与する周波数特性を逐次更新する。
【0062】
これにより、例えば、本例の歪補償装置2Aの動作直後時点では、誤差信号に付与する周波数特性はゼロであるが、以降、増幅器6の出力信号に要求される各規格値を満足するまで、誤差信号に付与される周波数特性が更新される。
ここで、誤差信号に付与する周波数特性が一次関数形式で表される場合の上記算出動作の一例を図18に示す。
【0063】
図18に例示するように、まず、増幅器6の動作開始などを契機として周波数特性の算出動作が開始されると(ステップS30)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号に要求される第1の規格値及び第2の規格値を取得する(ステップS31,S32)。なお、増幅器6の出力信号に要求される各規格値については、周波数特性更新部17が予め保持していてもよいし、無線送信機1の管理者またはユーザなどによって外部から設定されてもよい。あるいは、無線送信機1の周辺に位置する他システムからの干渉波などに基づいて、他システムが使用する周波数信号に干渉を与えないような各規格値を周波数特性更新部17が算出してもよい。
【0064】
次に、周波数特性更新部17は、第1の規格値と第2の規格値とのうち、どちらがより厳しい規格であるかを判断すべく、例えば、第1の規格値が第2の規格値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS33)。
ここで、第1の規格値が第2の規格値よりも小さいと判断した場合(ステップS33のYesルート)、周波数特性更新部17は、一次関数形式で表される周波数特性の傾斜量を初期値のゼロから所定幅Δx(Δx>0)だけ減少させる(ステップS34)。なお、第1の規格値と第2の規格値とが等しい場合、図7及び図8で説明したような算出方法により、誤差信号に付与する一次関数形式の周波数特性の傾斜量を算出し、周波数特性を決定してもよい。
【0065】
そして、周波数特性更新部17は、ステップS34で算出した傾斜量に基づいて、周波数特性付与部13で誤差信号に付与すべき周波数特性を決定する(ステップS35)。
次いで、周波数特性更新部17は、決定した周波数特性に関する情報を周波数特性付与部13に通知し、周波数特性付与部13は、通知された周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与する(ステップS36)。
【0066】
次に、FFT部16は、増幅器6の出力信号のフィードバック信号を解析して、出力信号に含まれる第1の歪量及び第2の歪量を検出し(ステップS37)、当該検出結果を周波数特性更新部17に通知する。
そして、周波数特性更新部17は、FFT部16から通知された検出結果に基づいて、出力信号に含まれる第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS38)。
【0067】
ここで、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定した場合(ステップS38のYesルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していると判断し、誤差信号に付与する周波数特性の更新を終了する(ステップS39)。
一方、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定されない場合(ステップS38のNoルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していないと判断し、出力信号が各規格値を満足するまでステップS34〜S38の処理を繰り返し行なう。なお、所定の時間経過後も出力信号が各規格値を満足しない場合は、上記所定幅Δxを変更してもよい。Δxを大きく変更すれば、出力信号が各規格値を満足するまでに要する時間を短縮することができる一方、Δxを小さく変更すれば、出力信号に含まれる各歪量をより細かく制御でき、出力信号が各規格値を確実に満足できるようになる。
【0068】
一方、ステップS33において、第1の規格値が第2の規格値よりも小さいと判断されない場合(ステップS33のNoルート)、周波数特性更新部17は、一次関数形式で表される周波数特性の傾斜量を初期値のゼロから所定幅Δy(Δy>0)だけ増加させる(ステップS40)。なお、Δyは、Δxと同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0069】
そして、周波数特性更新部17は、ステップS40で算出した傾斜量に基づいて、周波数特性付与部13で誤差信号に付与すべき周波数特性を決定する(ステップS41)。
次いで、周波数特性更新部17は、決定した周波数特性に関する情報を周波数特性付与部13に通知し、周波数特性付与部13は、通知された周波数特性を実現するため、例えば、当該周波数特性を実現するフィルタ係数を算出し、算出したフィルタ係数をディジタルフィルタなどに設定することで、誤差信号に上記所定の周波数特性を付与する(ステップS42)。
【0070】
次に、FFT部16は、増幅器6の出力信号のフィードバック信号を解析して、出力信号に含まれる第1の歪量及び第2の歪量を検出し(ステップS43)、当該検出結果を周波数特性更新部17に通知する。
そして、周波数特性更新部17は、FFT部16から通知された検出結果に基づいて、出力信号に含まれる第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS44)。
【0071】
ここで、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定した場合(ステップS44のYesルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していると判断し、誤差信号に付与する周波数特性の更新を終了する(ステップS45)。
一方、第1の歪量が第1の規格値よりも小さく、且つ、第2の歪量が第2の規格値よりも小さいと判定されない場合(ステップS38のNoルート)、周波数特性更新部17は、増幅器6の出力信号が各規格値を満足していないと判断し、出力信号が各規格値を満足するまでステップS40〜S44の処理を繰り返し行なう。なお、所定の時間経過後も出力信号が各規格値を満足しない場合は、上記所定幅Δyを変更してもよい。Δyを大きく変更すれば、出力信号が各規格値を満足するまでに要する時間を短縮することができる一方、Δyを小さく変更すれば、出力信号に含まれる各歪量をより細かく制御でき、出力信号が各規格値を確実に満足できるようになる。
【0072】
以上のように、本例によっても、上記の実施形態及び各変形例と同様の効果を得ることが可能となる。
〔5〕第4変形例
上述した各例では、歪補償部15によって歪補償が行なわれる前の送信信号と増幅器6から出力される出力信号との誤差信号に基づいて歪補償係数を更新するダイレクトラーニング構成に、誤差信号に所定の周波数特性を付与する構成を追加した。これにより、歪補償回路を小型化することができた。
【0073】
しかしながら、ダイレクトラーニング構成を用いた場合、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れる場合がある。
そこで、本例のように、インダイレクトラーニング構成において、誤差信号に所定の周波数特性を付与する構成を追加することにより、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止してもよい。
【0074】
本例では、図19に例示する歪補償装置2B、無線送信機1Bを用いることができる。なお、図19において図2,図17と同一の符号を付した各部位については、図2,図17に例示した各部位とそれぞれ同様の機能及び構成を有するため、その説明を省略する。
図19に示す歪補償装置2Bは、例示的に、加算器12Bと、周波数特性付与部13Bと、歪補償係数更新部14Bと、第1歪補償部15B−1と、第2歪補償部15B−2とをそなえる。
【0075】
第1歪補償部15B−1は、増幅器6に入力される入力信号に対して歪補償処理を施すために用いられる一方、第2歪補償部15B−2は、歪補償係数の学習用に用いられる。第2歪補償部15B−2によって十分に学習された歪補償係数が第1歪補償部15B−1に複製(コピー)されることによって、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止することができる。換言すれば、第2歪補償部15B−2によって十分に学習された歪補償係数が第1歪補償部15B−1に複製(コピー)されるまで、第1歪補償部15B−1が歪補償処理を行なわないことで、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止できる。
【0076】
第2補償部15B−2は、歪補償係数更新部14Bによって更新された歪補償係数を用いてフィードバック信号に対して歪補償処理を施す。具体的には、第2歪補償部15B−2は、周波数特性付与部13Bによって所定の周波数特性が付与された後の誤差信号に含まれる歪み成分を周波数軸上で均一化するように、入力信号の振幅,位相を制御する。なお、歪補償係数更新部14B,第1歪補償部15B−1及び第2歪補償部15B−2の各機能は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサを用いて実現することができる。
【0077】
加算器12Bは、第1歪補償部15B−1の出力信号と第2歪補償部15B−2の出力信号の反転信号とを加算することにより、誤差信号を生成し、生成した誤差信号を周波数特性付与部13Bに供給する。
周波数特性付与部13Bは、加算器12Bから供給される誤差信号に所定の周波数特性を付与する。なお、誤差信号に付与する周波数特性については、上述した各例と同様の方法によって定めることができる。即ち、周波数特性付与部13Bは、上記の第1の周波数帯域に設定される第1の規格値と、上記の第2の周波数帯域に設定される第2の規格値との差に基づいて決定される傾斜量を有する一次関数として、誤差信号に付与する周波数特性を算出してもよい。また、周波数特性付与部13Bは、図12〜図16を用いて説明した方法によって、誤差信号に付与する周波数特性を算出してもよい。さらに、図19に例示した構成に、第2歪補償部15B−2の出力を解析するFFT部16と、周波数特性付与部13Bが付与する周波数特性をFFT部16での解析結果に基づいて更新する周波数特性更新部17とを加えて、増幅器6の出力信号が各規格値を満足するかどうかを監視しながら、周波数特性付与部13Bで誤差信号に与える周波数特性を逐次更新するようにしてもよい。
【0078】
なお、周波数特性付与部13Bの当該機能は、例えば、アナログフィルタで実現できるほか、ディジタルフィルタによって実現することもできる。この場合、周波数特性付与部13Bの機能は、例えば、CPUやDSPなどのプロセッサを用いて実現することができる。例えば、周波数特性付与部13Bは、有限インパルス応答(FIR)フィルタや無限インパルス応答(IIR)フィルタなどのイコライザによって構成されることができる。また、入力信号が複素信号である場合、周波数特性付与部13Bには複素係数FIRフィルタや複素係数IIRフィルタなどを用いることができる。
【0079】
歪補償係数更新部14Bは、第2歪補償部15B−2に付与する歪補償係数を、周波数特性付与部13Bによって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて更新する。例えば、歪補償係数更新部14Bは、周波数特性付与部13Bによって所定の周波数特性が付与された誤差信号に基づいて歪補償係数の更新分を算出し、算出した更新分と現状の歪補償係数とを加算した値を新たな歪補償係数として第2歪補償部15B−2に供給することにより、歪補償係数を更新することができる。なお、歪補償係数更新部14Bは、増幅器6の歪特性を補償するための歪補償係数を記憶する歪補償テーブルを有していてもよい。歪補償テーブルは、例えば、入力信号の電力に応じた振幅/位相の補償データ(歪補償係数)を、入力信号の振幅と対応付けて保持することができる。歪補償テーブルは、例えば、歪補償装置2Bに内蔵あるいは外付けされる、ROMやRAMなどの記憶装置によって実現され得る。また、歪補償係数更新部14Bは、ボルテラ級数やメモリポリノミアル展開式を用いてプリディストーション信号を生成するようにしてもよい。
【0080】
また、第2歪補償部15B−2は、歪補償係数が十分に学習されると、第2歪補償部15B−2におけるプリディストーション信号を、第1歪補償部15B−1にコピーして反映させる。なお、歪補償係数が十分に学習されたかどうかは、例えば、歪補償係数更新部14Bにおける更新分が所定の閾値以下となったかどうかに基づいて判断してもよい。
以上のように、本例によれば、上記実施形態及び各変形例と同様の効果を得られるほか、増幅器6の出力信号にトレーニング中の信号が現れることを防止することができる。
【0081】
〔6〕その他
上述した歪補償装置2,2A,2B並びに無線送信機1,1A,1Bの各構成及び各機能は、必要に応じて取捨選択されてもよいし、適宜組み合わせて用いられてもよい。即ち、上述した本発明の機能を発揮できるように、上記の各構成及び各機能は取捨選択されたり、適宜組み合わせて用いられたりしてもよい。
【0082】
例えば、無線送信機1,1A,1Bとしての機能は、例えば、無線送信モジュールとして無線基地局や無線端末などに用いられてもよい。
また、上記歪補償装置2,2A,2Bは、無線送信機1,1A,1Bに限らず、その他の機器に用いられてもよい。
以上の実施形態及び各変形例に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0083】
〔7〕付記
(付記1)
増幅器の歪特性を補償する歪補償装置において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与する周波数特性付与部と、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて更新する歪補償係数更新部と、
前記更新した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す歪補償部とをそなえる、
ことを特徴とする、歪補償装置。
【0084】
(付記2)
前記所定の周波数特性は、
前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域を有する第1の歪量が前記第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足し、且つ、前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域を有する第2の歪量が前記第2の周波数帯域に設定され前記第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される、
ことを特徴とする、付記1記載の歪補償装置。
【0085】
(付記3)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の歪量と前記第2の歪量とが異なるように設定される、
ことを特徴とする、付記2記載の歪補償装置。
(付記4)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との差または比に基づく傾きを有する一次関数によって表される、
ことを特徴とする、付記2または3に記載の歪補償装置。
【0086】
(付記5)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との各逆特性に基づいて設定される、
ことを特徴とする、付記2または3に記載の歪補償装置。
(付記6)
前記第1の歪量が前記第1の規格値を満足し、且つ、前記第2の歪量が前記第2の規格値を満足するまで、前記周波数特性を逐次更新する周波数特性更新部をさらにそなえる、
ことを特徴とする、付記2または3に記載の歪補償装置。
【0087】
(付記7)
増幅器の歪特性を補償する歪補償方法において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて演算し、
前記演算した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す、
ことを特徴とする、歪補償方法。
【0088】
(付記8)
前記所定の周波数特性は、
前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域を有する第1の歪量が前記第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足し、且つ、前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域を有する第2の歪量が前記第2の周波数帯域に設定され前記第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される、
ことを特徴とする、付記7記載の歪補償方法。
【0089】
(付記9)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の歪量と前記第2の歪量とが異なるように設定される、
ことを特徴とする、付記8記載の歪補償方法。
(付記10)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との差または比に基づく傾きを有する一次関数によって表される、
ことを特徴とする、付記8または9に記載の歪補償方法。
【0090】
(付記11)
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との各逆特性に基づいて設定される、
ことを特徴とする、付記8または9に記載の歪補償方法。
(付記12)
前記第1の歪量が前記第1の規格値を満足し、且つ、前記第2の歪量が前記第2の規格値を満足するまで、前記周波数特性を逐次更新する、
ことを特徴とする、付記8または9に記載の歪補償方法。
【0091】
(付記13)
付記1〜6のいずれか1項に記載の歪補償装置をそなえる、
ことを特徴とする、無線送信機。
【符号の説明】
【0092】
1,1A,1B 無線送信機
2,2A,2B 歪補償装置
3 ディジタルアナログコンバータ(DAC)
4 局部発振器
5 直交変調器(MOD)
6 増幅器
7 アンテナ
8 乗算器
9 局部発振器
10 アナログディジタルコンバータ(ADC)
11 直交復調器(DEM)
12,12B 加算器
13,13B 周波数特性付与部
14,14B 歪補償係数更新部
15 歪補償部
15B−1 第1歪補償部
15B−2 第2歪補償部
16 高速フーリエ変換(FFT)部
17 周波数特性更新部
101 入力端子
102 プリディストータ
103 ディジタルアナログコンバータ(DAC)
104 増幅器
105 電力検出部
106 歪補償テーブル
107 アナログディジタルコンバータ(ADC)
108 歪検出部
109 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅器の歪特性を補償する歪補償装置において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与する周波数特性付与部と、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて更新する歪補償係数更新部と、
前記更新した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す歪補償部とをそなえる、
ことを特徴とする、歪補償装置。
【請求項2】
前記所定の周波数特性は、
前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域を有する第1の歪量が前記第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足し、且つ、前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域を有する第2の歪量が前記第2の周波数帯域に設定され前記第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される、
ことを特徴とする、請求項1記載の歪補償装置。
【請求項3】
前記所定の周波数特性は、
前記第1の歪量と前記第2の歪量とが異なるように設定される、
ことを特徴とする、請求項2記載の歪補償装置。
【請求項4】
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との差または比に基づく傾きを有する一次関数によって表される、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の歪補償装置。
【請求項5】
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との各逆特性に基づいて設定される、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の歪補償装置。
【請求項6】
前記第1の歪量が前記第1の規格値を満足し、且つ、前記第2の歪量が前記第2の規格値を満足するまで、前記周波数特性を逐次更新する周波数特性更新部をさらにそなえる、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の歪補償装置。
【請求項7】
増幅器の歪特性を補償する歪補償方法において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて演算し、
前記演算した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す、
ことを特徴とする、歪補償方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の歪補償装置をそなえる、
ことを特徴とする、無線送信機。
【請求項1】
増幅器の歪特性を補償する歪補償装置において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与する周波数特性付与部と、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて更新する歪補償係数更新部と、
前記更新した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す歪補償部とをそなえる、
ことを特徴とする、歪補償装置。
【請求項2】
前記所定の周波数特性は、
前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも小さい第1の周波数帯域を有する第1の歪量が前記第1の周波数帯域に設定される第1の規格値を満足し、且つ、前記出力信号に含まれる、前記入力信号の周波数帯域よりも大きい第2の周波数帯域を有する第2の歪量が前記第2の周波数帯域に設定され前記第1の規格値とは異なる第2の規格値を満足するように設定される、
ことを特徴とする、請求項1記載の歪補償装置。
【請求項3】
前記所定の周波数特性は、
前記第1の歪量と前記第2の歪量とが異なるように設定される、
ことを特徴とする、請求項2記載の歪補償装置。
【請求項4】
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との差または比に基づく傾きを有する一次関数によって表される、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の歪補償装置。
【請求項5】
前記所定の周波数特性は、
前記第1の規格値と前記第2の規格値との各逆特性に基づいて設定される、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の歪補償装置。
【請求項6】
前記第1の歪量が前記第1の規格値を満足し、且つ、前記第2の歪量が前記第2の規格値を満足するまで、前記周波数特性を逐次更新する周波数特性更新部をさらにそなえる、
ことを特徴とする、請求項2または3に記載の歪補償装置。
【請求項7】
増幅器の歪特性を補償する歪補償方法において、
前記増幅器に入力される入力信号と前記増幅器から出力される出力信号のフィードバック信号との差分である誤差信号に所定の周波数特性を付与し、
前記増幅器の歪特性を補償するための歪補償係数を、前記所定の周波数特性を付与後の誤差信号に基づいて演算し、
前記演算した歪補償係数を用いて前記入力信号に対して歪補償処理を施す、
ことを特徴とする、歪補償方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の歪補償装置をそなえる、
ことを特徴とする、無線送信機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−42238(P2013−42238A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176293(P2011−176293)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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