説明

歯科用治療椅子

【課題】患者の身長に応じて前記バックレストに対する前記安頭台の伸長量を変えた状態で、該バックレストを起倒動しても、前後方向における患者の口腔位置が変化しないようにして、術者の治療行為をし易くする。
【解決手段】コンターシート13と、コンターシート13に対して起倒可能なバックレスト12と、バックレスト12に設けられる安頭台11と、バックレスト12に対する安頭台11の伸縮量を調整する安頭台伸縮量調整機構を有し、バックレスト12の倒起に伴いコンターシート13を前後進動させる歯科用治療椅子において、安頭台11の伸縮量を検知する安頭台伸縮量検知部と、安頭台伸縮量検知部が検知した安頭台11の伸縮量に応じて、コンターシート13の前後進動量を制御する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用治療椅子、より詳細には、患者が座るコンターシートと、該コンターシートに対して起倒可能なバックレスト(背板)と、該バックレストに対する該安頭台の伸縮量を調整する安頭台伸縮量調整機構を有する歯科用治療椅子において、患者の身長(安頭台の伸縮量)に応じて前記バックレストの倒起と同時に前記コンターシートの前後進動量を制御することで、バックレストの倒起によって生じる(被治療位置である)口腔の前後方向のずれをなくすようにした歯科用治療椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、本発明が適用される歯科用治療椅子の一例を説明するための要部概略構成図で、図中、10は歯科用治療椅子、11は安頭台、12はバックレスト、13はコンターシート、14はレッグレスト、15はフットレスト(フットステップ)、16は基台で、周知のように、常時は、起状態にあり、この状態で患者は、フットレスト(フットステップ)15の上に乗って、その後、コンターシート13に腰掛ける。その後、術者(ドクター)は、椅子を倒状態(寝状態)にして治療を行い、或いは、起状態にするとともに、椅子を上昇させて患者がうがいをしやすいようにする等、椅子10を起状態、或いは、倒状態にして歯科治療を行う。
【0003】
このような歯科用治療椅子10においては、図7に示すように、バックレスト12の倒起と同時にコンターシート13を前後動させ、バックレスト12の倒起によって生じる被治療位置である口腔の前後方向のずれをなくすようにしている。以下の説明では、図面右方向にコンターシート13が移動する場合を前移動とし、図面左方向にコンターシート13が移動する場合を後移動とする。
【0004】
図7(A)は、バックレスト12が起状態にある状態を示す概略図、図7(B)は、バックレスト12が倒状態にある状態を示す概略図である。図中、K、Kは安頭台11が実線で示す状態にある場合の患者の頭部、つまり、被治療部位である口腔位置を示す。なお、バックレスト12が倒状態において、レッグレスト14、フットレスト15は床と平行になる。
【0005】
このような歯科用治療椅子10は、図7(A)に示す起状態から図7(B)に示す倒状態に移行する時に、矢印A方向にバックレスト12を倒すと、バックレスト12の倒動作と連動してコンターシート13が矢印B方向に前移動する。そのため、患者の口腔位置K、Kが、治療椅子の前後方向には移動することなく、起状態位置における患者の口腔位置Kと倒状態位置における患者の口腔位置Kとが治療椅子の前後方向に関して同じになる。
【0006】
このような、バックレストの倒起と連動してコンターシートを前後動させ、バックレストの倒起にかかわらず、前後方向における患者の口腔位置が変化しないようにして、術者の治療行為をし易くする歯科用治療椅子が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−342333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような歯科用治療椅子10のコンターシート13に背の高い患者が腰掛けて安頭台11に患者の頭を載せる場合、背の高い患者は、図7(A)に示すように、安頭台11をバックレスト12に対して伸長する(引き出す)。この安頭台11を伸長した状態を2点鎖線で示す。K、Kは、安頭台11を伸長した状態(2点鎖線)にある場合の患者の頭部を示す。
【0009】
このとき、前述したように、バックレスト12の倒動作と連動してコンターシート13が矢印B方向に前移動すると、バックレスト12が起状態(図7(A))にある場合の口腔位置は、Kの位置であるが、バックレスト12が倒状態(図7(B))になるとKの位置となる。
このように、バックレスト12を倒状態にすることにより、口腔位置が後方向に距離Lだけずれる。
コンターシート13に背の低い患者が腰掛けて安頭台11に患者の頭を載せる場合、背の低い患者は、安頭台11をバックレスト12に対して縮める(短くする)。このように安頭台11をバックレスト12に対して縮めた状態から、バックレスト12を倒状態にすると、口腔位置が前方向にずれる。
【0010】
そのため、術者は、バックレスト12の起倒に応じて前後方向に距離Lだけ移動しなければならず、特に、ドクターチェアに腰掛けて治療しているような場合、バックレストの起倒に伴ってドクターチェアを移動しなければならない。また、それに伴ってワークテーブルも移動しなければならず、非常に面倒であった。
【0011】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、コンターシートと、該コンターシートに対して起倒可能なバックレストと、該バックレストに設けられる安頭台と、該バックレストに対する該安頭台の伸縮量を調整する安頭台伸縮量調整機構を有し、該バックレストの倒起に伴い前記コンターシートを前後動させる歯科用治療椅子において、患者の身長に応じて前記バックレストに対する前記安頭台の伸長量を変えた状態で、該バックレストを起倒動しても、前後方向における患者の口腔位置が変化しないようにして、術者の治療行為をし易くすることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、コンターシートと、該コンターシートに対して起倒可能なバックレストと、該バックレストに設けられる安頭台と、該バックレストに対する該安頭台の伸縮量を調整する安頭台伸縮量調整機構を有し、該バックレストの倒起に伴い前記コンターシートを前後動させる歯科用治療椅子において、前記安頭台の伸縮量を検知する安頭台伸縮量検知部と、
前記安頭台伸縮量検知部が検知した前記安頭台の伸縮量に応じて、前記コンターシートの前後進動量を制御する制御部とを備えたことを特徴とする歯科用治療椅子である。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御部は、前記安頭台伸縮量検知部が検知した前記安頭台の伸長量が大きくなるに従って、前記コンターシートの前進動量を大きくすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、患者の身長に応じて安頭台の伸縮量を変えた状態で、バックレストを起倒しても、被治療位置である患者の口腔位置が前後方向に移動しないので、術者は、起状態治療でも倒状態治療でも、同じ位置にいて治療を行うことができる。その結果、従来技術のように、安頭台の伸縮量を変えた場合、バックレストの起倒に応じて前後に移動する煩わしさがなく、より効果的に歯科治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による歯科用治療椅子の動作例を説明するための要部概略構成図である。
【図2】安頭台伸縮量調整機構を説明するための概略構成図である。
【図3】コンターシートの前後動を電動モータにて行うようにした場合の一例を説明するための概念図である。
【図4】本発明による歯科用治療椅子において実行されるコンターシートの前進動量の制御を説明するための機能ブロック図である。
【図5】歯科用治療椅子の操作スイッチの例を示す図である。
【図6】本発明が適用される歯科用治療椅子の一例を説明するための要部概略構成図である。
【図7】従来の歯科用治療椅子の一動作例を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明による歯科用治療椅子の動作例を説明するための要部概略構成図で、本発明においては、図1(A)に示す起状態から、図1(B)に示す倒状態にすると、バックレスト12の倒動作と連動してコンターシート13が、矢印B方向に前方移動するが、このとき、安頭台の伸縮量に応じて、コンターシート13の前進動量を制御する。このようにすることで、患者の口腔位置K,Kは、治療椅子の前後方向には移動することなく、Kの起状態位置とKの倒状態位置とが治療椅子の前後方向に関して同じになっている。
【0017】
図2は、バックレスト12に設けられた安頭台11の伸縮量(引き出し量)を調整する安頭台伸縮量調整機構を説明するための概略構成図である。安頭台11は、基台21に取り付けられスライド部22に沿って矢印C方向に移動可能であり、例えば、患者自らが安頭台11を矢印C方向に移動させ安頭台11の伸縮量を調整する。なお、操作スイッチ(図示しない)を操作することにより自動的に安頭台11を矢印C方向に移動させてもよい。
【0018】
また、スライド部22に、コンプリング23と共にエンコーダ24が取り付けられている。
そして、安頭台11の基台21には、コンプリング23のバネ23aの端部が取り付けられている。コンプリング23は、安頭台11の伸縮量を調整した状態を保持(維持)する機能を備えている。
安頭台11が矢印C方向に移動すると、コンプリング23におけるバネ23aの巻き取り量が変化する。エンコーダ24はこの巻き取り量の変化を検知することにより、安頭台11の伸縮量を検知する。
【0019】
図3は、コンターシート13の前後動を電動モータにて行うようにした場合の一例を説明するための概念図で、図中、31は基台16側に設けられたモータ、32はコンターシート13側に設けられたラック杆で、コンターシート13は、例えば基台16に設けられたレール上を前後方向に摺動移動可能なように取り付けられている。ラック杆32は、下部にラック歯32aを有し、ラック歯32aはモータ31の回転が伝達される歯車33と噛合するようになっている。
図3では、コンターシート13の前後動の駆動源として、モータを例示したが、他にも、油圧シリンダー、エアーシリンダー等、任意所望の動力源を用いて行うことができる。
【0020】
図4は、本発明による歯科用治療椅子において実行されるコンターシート13の前進動量の制御を説明するための機能ブロック図で、図中、41は操作部、42は安頭台伸縮量検知部、43はシート移動量検知部、44は制御部である。なお、安頭台11、バックレスト12等の歯科用治療椅子10の構成部品については省略している。
【0021】
操作部41は、歯科用治療椅子10のバックレスト12の起倒等を指示する図5に示すような操作スイッチを有し、スイッチSを押すとバックレスト12が起状態(図1(A))となり、スイッチSを押すと倒状態(図1(B))となる。なお、スイッチS、Sは治療椅子を上下動させるものであり、スイッチS、Sは治療椅子を傾動させるものである。
【0022】
安頭台伸縮量検知部42は、安頭台11の伸縮量を検知する機能を有し、例えば、図2で説明したエンコーダ24から構成される。
【0023】
シート移動量検知部43は、コンターシート13の前後進動量を検知する。この前後進動量の検知方法としては、様々な方法を用いることができる。例えば、モータ31の回転軸に連動する歯車33の回転数を検知する。そして、検知した回転数に基づきコンターシート13に設けられたラック杆32の移動量を検知すれば、コンターシート13の前後進動量を検知することができる。
他にも、図2で説明したように、コンプリングと共にエンコーダを基台16に取り付け、コンスプリングのバネの端部をラック杆32に取り付けてもよい。コンターシート13が前動するとコンプリングにおけるバネの巻き取り量が変化する。エンコーダは、この巻き取り量の変化を検知することにより、コンターシート13の前後進動量を検知することができる。
【0024】
制御部44は、モータ31の回転制御、操作部41、安頭台伸縮量検知部42、シート移動量検知部43の制御を実行すると共に、安頭台伸縮量検知部42が検知した安頭台11の伸縮量に応じて、コンターシート13の前進動量を制御する。
例えば、倒スイッチSを押した時に、図1に示すようにバックレスト12が起状態(図1(A))から倒状態(図1(B))になるが、同時に、制御部44は、図3に示すモータ31の回転軸を矢印D方向に回転(以下、正回転と記す)させる。モータ31の回転軸の正回転に伴い歯車3が正回転することにより、コンターシート13が前方に移動する。
【0025】
このとき、制御部44は、安頭台伸縮量検知部42が検知した安頭台11の伸長量が大きくなるに従って、コンターシート13の前進動量を大きくする。
以下の説明では、安頭台11は、バックレスト12に対して最も縮んでいる状態(背の低い患者用)にセットされているとする。この状態において、安頭台伸縮量検知部42が検知した安頭台11の伸長量がXcmの場合、コンターシート13の前進動量がYcmになるまで、モータ31の回転軸を正方向に回転させる。前記Yは、安頭台11の伸長量をXにして、バックレスト12を倒動した場合に、患者の口腔位置K,Kが同じになるように予め調整された値である。
【0026】
次に、背の高い患者が安頭台11をバックレスト12に対して伸ばした状態にセットする。この状態において、安頭台伸縮量検知部42が検知した安頭台11の伸長量がXcmの場合、コンターシート13の前進動量がYcmになるまで、モータ31の回転軸を正方向に回転させる。前記Yは、安頭台11の伸長量をXにして、バックレスト12を倒動した場合に、患者の口腔位置K,Kが同じになるように予め調整された値である。
なお、XとXとの関係は、X<Xであり、YとYとの関係は、Y<Yである。
【0027】
このようにすることで、安頭台11の伸縮量を変えてバックレスト12を起倒しても、前後方向における患者の口腔位置が変化しなくなり、術者は、治療を行いやすくなる。
【符号の説明】
【0028】
10…歯科用治療椅子、11…安頭台、12…バックレスト、13…コンターシート、14…レッグレスト、15…フットレスト、16…基台、21…基台、22…スライド部、23…コンプリング、23a…バネ、24…エンコーダ、31…モータ、32…ラック杆、32a…ラック歯、33…歯車、41…操作部、42…安頭台伸縮量検知部、43…シート移動量検知部、44…制御部、K〜K…口腔位置、S〜S…スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンターシートと、該コンターシートに対して起倒可能なバックレストと、該バックレストに設けられる安頭台と、該バックレストに対する該安頭台の伸縮量を調整する安頭台伸縮量調整機構を有し、該バックレストの倒起に伴い前記コンターシートを前後動させる歯科用治療椅子において、
前記安頭台の伸縮量を検知する安頭台伸縮量検知部と、
前記安頭台伸縮量検知部が検知した前記安頭台の伸縮量に応じて、前記コンターシートの前後進動量を制御する制御部とを備えたことを特徴とする歯科用治療椅子。
【請求項2】
前記制御部は、前記安頭台伸縮量検知部が検知した前記安頭台の伸長量が大きくなるに従って、前記コンターシートの前進動量を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の歯科用治療椅子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−217870(P2011−217870A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88427(P2010−88427)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000150671)株式会社長田中央研究所 (194)
【Fターム(参考)】