説明

歯肉上皮細胞伸展阻害剤

【課題】 歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害する効果に優れた新規の歯肉上皮細胞伸展阻害剤を提供する。
【解決手段】 赤ブドウ(Vitis vinifera L.)、ローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)、セントジョンズワート(Hypericum perforatum L.)およびアムラ(Emblic officinalis Gaertn.)から選択された原料植物を溶媒で抽出して得られた分離成分を含む歯肉上皮細胞伸展阻害剤、および歯肉炎や歯周炎などの口腔内疾患を処置するための同阻害剤を含む口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、歯肉炎や歯周炎(歯周病)などの口腔内疾患の起因に関与する歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害する、新規の歯肉上皮細胞伸展阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の歯牙の歯頚部や歯根部を取り囲む歯周組織は、歯肉(歯茎)、歯根膜、セメント質および歯槽骨から構成されており、歯牙を支持する役割を担っている。 この歯周組織に炎症症状が出現して、炎症部位が歯肉に止まっている状態を「歯肉炎」、そして、炎症部位が歯肉を超えて歯根膜や歯槽骨にまで拡大して組織破壊に至っている状態を「歯周炎」と区別している。 歯肉炎および歯周炎は共に、口腔内の食物残渣に付着した細菌類が繁殖して形成された歯垢や、その他の環境要因などの影響を受けて、歯周組織に炎症が出現することに起因している。 歯肉炎については、炎症部位が歯肉に限定されており、歯根膜や歯槽骨にまで炎症が拡大していないので、口腔内を物理的に清浄(例えば、歯磨き)することにより、症状を概ね緩和または治癒することができる。 これに対して、症状が歯周炎にまで進行してしまうと、歯肉と歯牙との間の結合組織性付着が喪失されてしまうので、歯牙の揺動のみならず、歯根膜や歯槽骨の損傷・破壊にまで至り、口腔内を単に物理的に清浄しても、もはや歯周炎の症状回復を期待することは難しくなってしまう。 また、歯周炎の発症によって歯周組織の破壊が進むと、歯肉上皮細胞が歯根に向けて伸展(ダウングロース)するので、結果として、歯肉と歯牙との間に歯周炎に特有の歯肉溝、いわゆる、歯周ポケットが形成される。
【0003】
歯周炎の発症に関与する歯周組織の炎症を医薬化合物を用いて化学的に処置する方法として、抗炎症効果に優れたε−アミノカプロン酸を利用して、その抗プラスミン作用によって、歯肉炎や歯周炎の症状の発現を抑制する手法が用いられている。 あるいは、歯周組織の炎症の原因菌であるテトラサイクリン(Tetracycline)耐性のスタフィロコッキ(Sraphylococci)を除去するための薬剤、すなわち、テトラサイクリン系の塩酸ミノサイクリン(Minocycline)を用いる手法もある。
【0004】
また、歯周ポケット内に定着している原因菌およびその滞留相(バイオフィルム)を除去するための薬剤として、マクロライド(Macrolide)系抗生物質、具体的には、ラクトン環を構成する原子数に応じて14員環〜16員環の物質、例えば、エリスロマイシン類、16員環マクロライドのジョサマイシン類、クラリスロマイシン類などがある。 これらの内でも、14員環マクロライド系抗生物質が、バイオフィルムの形成予防および除去を効果的に達成できるので有用である。
【0005】
ところで、歯周組織の構成成分の約60%はコラーゲンであるため、コラーゲンの分解が進行すると、歯肉の縮小や後退という現象が誘導される。 これらコラーゲンのような細胞外マトリックスに作用してその分解を促す金属酵素群が、一般に、マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、単に「MMP」と称する)と呼ばれている。
【0006】
MMPは、歯周炎や歯肉炎などの他に、ガン(癌)疾患、潰瘍形成、慢性関節リュウマチ、骨粗鬆症などの種々の病態での細胞外マトリックスの分解において中心的な役割を果たす物質である(非特許文献1参照)。 そして、MMPは、多種多様の細胞によって産生されており、コラゲナーゼ(MMP-1およびMMP-8)、ストロメライシン(MMP-3)、ゼラチナーゼ(MMP-2およびMMP-9)などの、10種類以上の酵素分子種がこれまでに報告されている(非特許文献2参照)。 この内、コラゲナーゼは、通常は、上皮系細胞からは産生されないが、歯周組織の付着上皮および歯周ポケット上皮周辺に発現していることが報告されている(非特許文献3参照)。 また、ゼラチナーゼは、歯周病原因菌由来のリポ多糖などによる刺激に起因して上皮細胞から産生され、かつ基底膜の構成成分であるタイプIVコラーゲンを分解することが報告されている。 すなわち、このことは、MMP活性の上昇が、歯周病の病態の進行とも密接に相関していることを示唆しているものと考えられる。 実際のところ、歯周病患者の口腔洗浄液、歯肉溝滲出液および唾液内に含まれるMMP量は、歯周病患者の病態を反映しており、歯周病の治療処置を施すことによって、MMP量が減少したことも報告されている(非特許文献4参照)。 また、歯肉炎患者と健常者が保有しているMMPの量とTIMPの量を測定したところ、歯肉炎患者でのMMP量が非常に多く、しかも、歯周炎患者に至ってはMMP量が著量であったことも報告されている(非特許文献5参照)。 従って、MMPの酵素活性やMMP産生を阻害する物質は、局所的炎症の悪化に伴う歯周疾患の病態進行の抑制を促す上で有用であると考えられる。
【非特許文献1】中田、岡田、「呼吸」、18、4、pp.365-371 (1999)
【非特許文献2】吉原、新名、「炎症と免疫」、2、pp.177-185 (1994)
【非特許文献3】M.Kylmaniemi, et al: J.Dent Res., 75, pp.919-926 (1996)
【非特許文献4】M. Makela, et al: J.Dent Res., 73, pp.1397-1406 (1994)
【非特許文献5】A.Haerian, et al: J.Clin Periodontol., 22, pp.505-509 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、哺乳動物での歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害して、それにより、歯周炎などの口腔内疾患の進行を効果的に抑止して、健全な歯肉組織を維持せしめる新規の歯肉上皮細胞伸展阻害剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本願発明の要旨とするところは、古来より周知の薬用植物であることに加えて、ヒトに対する安全性が確認されている、赤ブドウ(Vitis vinifera L.)、ローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)、セントジョンズワート(Hypericum perforatum L.)およびアムラ(Emblic officinalis Gaertn.)からなるグループから選択された原料植物を溶媒で抽出して得られた分離成分を含み、かつ哺乳動物での歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害する歯肉上皮細胞伸展阻害剤にある。 また、本願発明の他の態様によれば、本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤を含む口腔用組成物も提供される。
【0009】
本願発明者が鋭意研究を行ってきた結果、赤ブドウ、ローズマリー、イチョウ、セントジョンズワートおよびアムラの各植物を溶媒で抽出して得られた分離成分が、歯肉上皮組織、特に、哺乳動物での歯肉上皮組織の不正常な伸展を有意に阻害するとの知見を得るに至り、歯周炎などの口腔内疾患の予防や治療などの用途への応用性を見出したのである。
【0010】
また、後述するように、原料植物から所要の分離成分を効率良く取得する上で、原料植物の枝葉、樹枝、幹、樹皮、果実または根を、水および/またはアルコールから構成された溶媒で抽出することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によると、歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害して、歯周ポケットの形成の効果的な抑止に寄与する新規の歯肉上皮細胞伸展阻害剤が実現されるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤の構成を、以下に、詳細に説明する。
【0013】
本願発明の一態様によれば、赤ブドウ(Vitis vinifera L.)、ローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)、セントジョンズワート(Hypericum perforatum L.)およびアムラ(Emblic officinalis Gaertn.)からなるグループから選択された原料植物を溶媒で抽出して得られた分離成分を含み、かつ哺乳動物での歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害する歯肉上皮細胞伸展阻害剤が提供される。
【0014】
本願出願人は、本明細書において、少なくともin vitroの試験系において、歯肉上皮組織の不正常な伸展の阻害効果が確認された物質または組成物を包括して「歯肉上皮細胞伸展阻害剤」と称している。
【0015】
なお、本明細書で使用する「歯肉上皮細胞」の用語は、歯頚部および歯根部を取り囲んで隣接組織の支持構成物としての役割を果たす口腔内縁粘膜の上皮細胞(口腔内縁粘膜上皮細胞)を指すものであって、この上皮細胞は、歯牙のエナメル層表面に付着して、歯周炎の進行に伴って歯周ポケットを形成する。 また、口腔内縁粘膜上皮細胞は、常に細菌による感染の危険性にさらされる環境に置かれているため、細胞分裂性に優れているなど、口腔内の他の部位にある口腔粘膜上皮細胞が有する性質とは、一線を画している。
【0016】
本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤で用いられる原料植物の概要は、以下の通りである。
【0017】
赤ブドウ(Vitis vinifera L.)、特に、ワイン用の赤色種ブドウの乾燥葉には、4.0%以上の総ポリフェノールと0.2%以上のアントシアン配糖体が含まれており、その乾燥エキスは、10〜15%の総ポリフェノールを含んでおり、このポリフェノール量は、赤ワインの100〜300倍に匹敵する。 ポリフェノールには、血管保護作用があると考えられているため、静脈不全や表在性毛細血管症候群などの症状に対して有意に作用すると言われている。
【0018】
ローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)は、スペインや地中海地方を原産地とする、樟脳に似た独特な芳香を発する植物であり、その葉には、モノテルペン炭化水素、カンファー、ボルネオール、シネロール、リナロール、ベルベノール、フェノール酸、カルノシン酸(ロスマリネシン),トリテルペン酸、サポノサイド、タンニンなどの成分を含んでいる。 ローズマリーのエキスは温浴剤の成分としても利用されており、この温浴剤を投入した風呂に入浴することで、身体の循環器の活動を促され、身体の冷えなどに対しても効果的である。 また、ローズマリーのエキスを服用することで、疲労回復も図れる。
【0019】
さらに、ローズマリーのエキスが奏する殺菌効果は、ふけ防止に対しても有効である。
【0020】
イチョウ(Ginkgo biloba L.)は、中国原産の落葉高木であり、その葉には、フラボノイドとギンコライドの薬効成分が含まれており、思考能力を改善する効能を有するとの報告もある。 植物色素であるフラボノイドは、血行を改善して、脳細胞の機能を活性化させる他に、生活習慣病、肩こり、冷え性などの症状に対して多様な効能を発揮すると言われている。 一方で、ギンコライドは、脳内の活性酸素を防止し、脳細胞を守る効能が報告されており、痴呆症の予防に有効だとされている。
【0021】
セントジョンズワート(Hypericum perforatum L.)は、長い茎と小さな黄色い花をつける植物で、欧州、アジア、北アフリカ、北米など、広大な植生分布を有している。 この植物の地上部の油性エキスは、抗炎症効果および鎮静効果が高く、昔から鬱や不眠症の治療に利用されている。
【0022】
アムラ(Emblic officinalis Gaertn.)は、古来よりインドにて主に強壮用剤として利用されている薬用植物である。 その果実には、身体への吸収性が非常に優れた約3,000mgもの熱安定性のビタミンCを含有しており、この含有量は、オレンジ12個に含まれるビタミンCの総量に匹敵する。 アムラの果実は、歯茎出血の止血や口腔内の清浄作用の他にも、生体組織の活性化、赤血球数の増大化、視力改善、骨の再生、毛髪および爪の伸展促進、白髪形成防止、血糖値調節、胃腸の炎症軽減などに対して作用すると言われている。
【0023】
次に、これら原料植物を、溶媒を用いた抽出工程に適用する。 抽出工程に適用される植物またはそのいずれかの部位(例えば、枝葉、樹枝、幹、樹皮、果実または根)は、そのままの状態で、または、物理的に破砕してから、あるいは、必要に応じて、乾燥および粉砕して粉体に加工してから抽出工程に適用することもできる。
【0024】
この抽出工程で利用する溶媒としては、当該技術分野で周知の溶媒が利用可能であり、例えば、低級アルコール、多価アルコール、非極性溶媒、極性溶媒などが使用できる。
【0025】
低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどの炭素数が1〜4のアルコール;多価アルコールとしては、グリセリン、ポリエチレングリコールなど;非極性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの飽和炭化水素;極性溶媒としては、水、温水(熱水)、アセトン、酢酸エチル、酢酸メチルなどがある。 溶媒としては、前記したものの内の単品だけを選択して利用できることは勿論、二種類以上の溶媒を組み合わせて使用することもできる。 例えば、脂肪分の多い原料を用いる場合には、非極性溶媒で脱脂抽出処理した後に、任意の溶媒で抽出処理を行ってもよく、あるいは含水有機溶媒を用いて抽出処理を行うこともできる。
【0026】
原料植物の抽出方法としては、当該技術分野で周知の方法を用いることができる。 例えば、原料植物それ自体、もしくはその粗粉砕物または裁断物、あるいはその乾燥破砕物(粉末)を、溶媒に、冷浸、温浸などして浸漬する方法や、加温して攪拌しながら抽出を行って、濾過を経て所望の分離成分を含む抽出物を得る方法、それにパーコレーション法なども利用することができる。
【0027】
このようにして得られた抽出物を、必要に応じて、濾過または遠心分離によって不要な固形物を除去した後に、使用態様に応じて、そのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮または乾燥したものを用いることができる。 なお、濃縮または乾燥して得られた分離物を、非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いてもよく、あるいは、このものをさらに適当な溶剤に溶解または懸濁して用いることもできる。
【0028】
別法として、得られた抽出物を、慣用されている精製法、例えば、向流分配法や液体クロマトグラフィーなどを用いて、所望の阻害活性を有する画分を取得および精製して使用することも可能である。
【0029】
さらに、前述したようにして得られた溶媒抽出物を、減圧乾燥、凍結乾燥などの通常の乾燥手段によって、乾燥濃縮エキスの形態に加工して使用することも可能である。
【0030】
また、本願発明の好ましい実施態様によれば、本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤を有効成分とする口腔用組成物も提供される。 そして、本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤での阻害効果に悪影響を及ぼすものでない限りは、口腔用組成物に一般的に用いられているその他の成分、例えば、粘着剤、清涼剤、結合剤、甘味料、着香料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤、pH調整剤などを任意に加えることもできる。
【0031】
粘着剤としては、多糖類、セルロース系高分子物質、合成高分子物質、天然系高分子物質、アミノ酸系高分子物質、ゴム系高分子物質などを由来とする水溶性高分子物質が利用できる。 例えば、プルラン、プルラン誘導体およびデンプンなどの多糖類;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩類(カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカリウムなど)、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(ポリアクリル酸ナトリウムおよびアクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体など)、メタアクリル酸類の共重合体(メタアクリル酸とアクリル酸 n-ブチルの重合体、メタアクリル酸とメタアクリル酸メチルの重合体およびメタアクリル酸とアクリル酸エチルの重合体など)などのセルロース系高分子物質;カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの合成高分子物質;レクチン、アルギン酸、アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸マグネシウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸トリイソプロパノールアミン、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ブチルアミンおよびアルギン酸ジアミルアミンなど)、コンドロイチン硫酸ナトリウム、寒天、キトサン、カラギーナンなどの天然系高分子物質;コラーゲンおよびゼラチンなどのアミノ酸系高分子物質;および、アラビアガム、カラヤガム、トラガカントガム、キサンタンガム、ローカストビンガム、グアガム、タマリンドガムおよびジェランガムなどのゴム系高分子物質などが、本願発明において好適に利用することができる。
【0032】
清涼剤としては、l-メントール、dl-メントール、ハッカ油、カンフル、ハッカ水、ボルネオール、ペパーミント精油、スペアミント精油などが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0033】
結合剤としては、糖類(ブドウ糖など)、糖アルコール類(ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトールなど)、ポリビニルピロリドン、デンプン類、マクロゴール、デキストリン、トラガント、ゼラチン、ポリビニルアルコール、セラック、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロースなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0034】
甘味料としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、アスパルテーム、キシリトール、水飴、蜂蜜、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、糖類(乳糖、白糖、果糖、ブドウ糖など)などが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0035】
着香料としては、天然香料(スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウインターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリナガム油、パインニードル油など)、合成香料(カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒドなど)、前掲の天然香料および/または合成香料から任意に選択した香料を混合して得た調合香料などが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0036】
崩壊剤としては、デンプン類、メチルセルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウムなど)、アルギン酸、アルギン酸塩、炭酸塩、有機酸、ポリビニルピロリドン、架橋ポリビニルピロリドンなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0037】
滑沢剤としては、滑石、金属石鹸、脂肪酸(ステアリン酸など)、ステアリン酸塩(ステアリン酸マグネシウムなど)、タルク、蔗糖脂肪酸エステル、含水ニ酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、マクロゴールなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0038】
着色料としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン、銅クロロフィリンナトリウムなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0039】
防腐剤としては、安息香酸類、サリチル酸類、ソルビン酸類、パラベン類、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ヒノキチオール、フェノールなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0040】
徐放調整剤としては、ポリ酢酸ビニル、エチルセルロース、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは双方を併用することもできる。
【0041】
界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル流酸ナトリウム、ラウロマクロゴールなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0042】
溶解剤としては、グリセリン、濃グリセリン、プロピレングリコール、エタノール、流動パラフィン、精製水、マクロゴール、ポリソルベートなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0043】
湿潤剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール液、水、エタノール、希エタノールなどが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0044】
pH調整剤としては、乳酸、パントテン酸、リン酸塩、リンゴ酸、クエン酸などが本願発明において利用可能であるが、これらに限定されるものではなく、これらのいずれか1種類のみを用いることも、あるいは2種類以上を併用することもできる。
【0045】
本願発明の口腔用組成物の剤型としては、錠剤、丸剤、顆粒剤、液剤、シート剤、ゲル剤、ペースト剤などのいずれでも利用可能である。 とりわけ、本願発明の口腔用組成物を歯科製剤とする場合には、練歯磨、洗口液、口腔用パスタ、トローチなどの形態とすることで、歯周炎、歯肉炎、歯根膜炎、智歯周囲炎、インプラント周囲炎などの歯周組織の破壊に起因する口腔内疾患の予防および治療に有効に対処できる。
【0046】
なお、歯肉上皮組織の伸展の阻害をさらなる促す目的で、本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤または口腔用組成物に、歯肉上皮組織の伸展阻害効果を奏する従来公知の植物抽出物や薬用化合物(組成物)を任意に加えることも可能であり、それらの添加量などは、当業者であれば容易に調整できる。
【0047】
以下に、本願発明をその実施例に沿って説明するが、この実施例の開示に基づいて本願発明が限定的に解釈されるべきでないことは勿論である。
【実施例】
【0048】
A:歯肉上皮細胞の培養
歯肉組織が健康なヒトの口腔内から、歯肉上皮組織(約5.0mm×約5.0mmの切片)を採取した。 採取した組織片を、リン酸緩衝液(1×105U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン、80μg/ml カナマイシンを含有)に浸漬して、24時間以内に、外科用メスで、約0.5mm×約0.5mmの小切片に裁断した。 この小切片を、I型コラーゲンコート6ウェルプレートのウェルに静置した。 小切片とコラーゲンとの癒着を確認してから、初代培養培地(L-グルタミン、10% FBS、10pg/ml EGF、80μg/ml カナマイシン含有のDMEM/Ham's F12培地(大日本製薬製))をウェルに静かに注いだ。 こうして調製された培養系を、37℃、5%二酸化炭素の条件下で培養を行い、2日に1度の割合で、初代培養培地を新鮮なものと交換した。
【0049】
小切片から上皮細胞が増殖していることを確認、すなわち、ウェルの概ね3割を覆う程度にまで上皮細胞が増殖していることを確認してから、培地を、継代培養培地(EDGS、80μg/ml カナマイシン含有のEpiLife培地(casdade社製))に交換した。 培養液を、I型コラーゲンコートT75フラスコに移し、2500cells/cm2の集密度をメドにして、細胞の増殖速度にあわせて継代培養を行って、以下の実施例で用いる歯肉上皮細胞を得た。
【0050】
B:歯肉上皮細胞の伸展阻害効果の検定
まず、歯周炎を人工的に誘発するための炎症誘導用培地を調製した。 炎症誘発物質である、組換えヒトTNF-αを、PEPROTECH社より購入した(Size B vial: 50μg、300-01A; Lot No. 121CY25)。 組換えヒトTNF-αの50μgを、室温下で、1時間放置した後に、卓上遠心分離器に適用した。 遠心分離して得られた沈殿物を、500μlの蒸留水に溶解し、0.1mg/ml Tris緩衝液を加えた後に、得られた水溶液の36μlを、3.564mlの生理食塩水(PBS(-))にさらに溶解した。 こうして得たPBS溶液を、セラムチューブに1.2mlずつ分注して、−20℃の温度下で保存した。 なお、残余の水溶液については、セラムチューブに100μlずつ分注して、−20℃の温度下で保存した。 PBS溶液の1.2ml(1μg/mlのTNF-α含有)を、10.8mlのEpiLife培地(血清および抗生物質を含まず)に溶解し、そして、0.2μmの孔径のフィルターを用いて濾過および滅菌をして、炎症誘導用培地を得た。
【0051】
次に、以下の表1に記載の原料植物と溶媒を用いて、0.02g/ml(2% w/v)の成分濃度が溶解した溶液を得た。
【0052】
【表1】

各原料植物からの抽出成分を含む溶液を、0.2μmの孔径のフィルターを用いて濾過および滅菌をして、炎症誘導用培地を用いて、成分濃度の調整を行った。
【0053】
各原料植物由来の抽出成分を含む溶液に関する本願発明による歯肉上皮細胞の伸展阻害は、Masami Yoshioka, et al., `Effect of Hydroxamic Acid Based Matrix Metalloproteinase Inhibitors on Human Gingival Cells and Porphyromonas gingivalis`, J. Periodontol, vol.74, pp.1219-1224 (2003)の文献で報告された手順に従って検定した。
【0054】
まず、24ウェルプレート(1.8cm2/ウェル)に、歯肉上皮細胞を、2×104個/ウェルの割合で配置せしめる。 2日に1度の割合で、継代培養培地を新鮮なものと交換して、細胞がウェル全体を覆うようになるまで培養を継続した。 細胞がウェル全体を覆ったことを確認してから、ピペットチップの先端でウェルの半分の細胞を掻き取った。 ウェルをPBSで洗浄した後に、炎症誘導用培地と各原料植物由来の(1.0%または0.1%の濃度の)抽出成分を含む溶液とを注ぎ、37℃、5%二酸化炭素の条件下で培養を行い、培養開始後、0時間、24時間および48時間の時点にて、ウェルの写真撮影を行って、細胞の伸展度を検証した(図1(b))。 なお、ウェルをPBSで洗浄した後に、炎症誘導用培地だけを注いだ以外は、同様の手順を踏んだ試験区を対照とした(図1(a))。
【0055】
ウェル上に現れた細胞を撮影した写真に基づいて、細胞の移動距離を目視で判定した。
【0056】
そして、対照での移動距離との比較に基づいて、各原料植物由来の抽出成分による歯肉上皮細胞の伸展阻害効果を、顕著な阻害効果(+++)、強度の阻害効果(++)、通常の阻害効果(+)および阻害効果無し(−)、との4段階評価に従って等級付けを行った。
【0057】
その評価結果を、以下の表2にまとめた。
【0058】
【表2】

表2に記載の結果から明らかなように、赤ブドウ、ローズマリー、イチョウ、セントジョンズワートおよびアムラを溶媒で抽出して得られた分離成分は、歯肉上皮細胞の伸展を有意に阻害し、この阻害効果が濃度依存的であることが確認された。
【0059】
C:生体での歯肉上皮細胞の伸展阻害効果の検定
次に、本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤の生体での活性を、アムラを溶媒で抽出して得た分離成分に関して検証を行った。
【0060】
まず、6週齢のWistar系雄性ラット(15匹)を準備した。 これらラットにおける歯肉上皮細胞の伸展阻害効果を、D. Ekuni, et al., `Protease augment the effects of lipopolysaccharide in rat gingiva`, J. Periodont Res, vol.38, pp.591-596 (2003)の文献で報告された手順に従って検定した。 すなわち、歯周炎の発症に起因する歯周組織の破壊の進行に伴って、健全な歯肉上皮細胞(図2(a))が歯根に向けてダウングロースし(図2(b))、その結果、歯肉と歯牙との間に歯周炎に特有の歯肉溝(歯周ポケット)が形成されるとの独特の現象に着目して、生体での歯肉上皮細胞の伸展阻害効果を検定した。
【0061】
具体的には、まず、ラットの腹腔内に、ネンブタール注射液(大日本製薬)の1ml/kgを投与して全身麻酔を施した。 その後、上顎第1臼歯口蓋側歯肉溝に、放線菌 Streptomyces griseus 由来プロテアーゼ(Sigma社)2.25units/μlの0.5μlを投与して、5分間作用させ、その後すぐに、LPS(大腸菌由来毒素、Sigma社)25mg/ml水溶液の0.5μlを同じ部位に投与して、5分間作用させた。 この手順を、3回繰り返して歯周炎を誘発した。 なお、LPSを投与した後に、グリチルリチン酸二カリウム5%水溶液(陽性対照:5匹)、アムラエキス5%水溶液(本願発明:5匹)、および精製水(陰性対照:5匹)をそれぞれ投与して、さらに5分間かけて作用せしめた。 この一連の作業を、毎日、4週間にわたって行った。
【0062】
4週間後に、ラットを屠殺して、それらの上顎を摘出した。 摘出した上顎に対して、10%ホルムアルデヒド水溶液(0.1M リン酸緩衝液、pH7.4)を用いて、4℃で、一晩、固定化処理を施し、次いで、K-CX(ファルマ社)を用いて、4℃で、一晩、脱灰処理を施した。 その後、処理した上顎を、30%スクロース水溶液(0.1M リン酸緩衝液、pH7.4)に、4℃で、一晩、浸漬した。 こうして得られた試料を、OCTコンパウンド(サクラ精機)に包埋した後、クリオスタット(ライカ社)で、8μm厚の頬舌方向の切片を作製した。 次いで、切片のヘマトキシリン・エオジン染色を行い、顕微観察して、歯肉上皮組織のダウングロース(μm)を測定した。 歯肉上皮組織のダウングロースは、図3(a)を参照すると、歯肉上皮と歯牙が接する位置(Central Enamel Junction (CEJ):位置X)から、組織内部に侵入した歯肉上皮細胞の最先端(位置Y)までの距離(μm:X-Y間の距離α)を、接眼マイクロメーターで測定した。 その測定結果を、以下の表2にまとめた。 なお、距離αがゼロのラット、すなわち、ダウングロースが全く認められなかったラットの個体数(無伸展個体数)も、以下の表3に併記した。
【0063】
【表3】

表3および図3に示した結果から明らかなように、精製水で処理したラットでは、試験を開始して4週間後には、歯肉の明確なダウングロースが確認された(図3(a))。 それに対して、アムラ抽出物では、試験を開始して4週間後でも、歯肉のダウングロースがほとんど認められず(図3(b))、抗炎症剤であるグリチルリチン酸二カリウム(図3(c))とほぼ同様の阻害効果を奏して、健常組織が実質的に維持されていた。
【0064】
本実施例の結果から、アムラを溶媒で抽出して得られた分離成分は、歯肉上皮細胞の伸展を、生体内においても有意に阻害することが確認された。
【0065】
また、本実施例の結果は、実施例Bにおいて歯肉上皮細胞の伸展阻害効果が実証されたその他の原料植物(赤ブドウ、ローズマリー、イチョウ、セントジョンズワート)からの分離成分についても、生体での歯肉上皮細胞の実質的な伸展阻害効果を示唆するものであり、その有用性が大いに期待できる。
【0066】
D:口腔用組成物の調製
前出の実施例で歯肉上皮細胞の伸展阻害効果が実証された植物抽出物(0.5%)を配合してなる、各種用途の口腔用組成物を調製した。 なお、本実施例での成分配合量の単位は、特に断りのない限り、重量%で表示してある。
【0067】
D−1:練歯磨剤
以下の表4に記載の材料を、常温下で、混合および練合して練歯磨剤を調製した。
【0068】
【表4】

D−2:練歯磨剤
以下の表5に記載の材料を、常温下で、混合および練合して練歯磨剤を調製した。
【0069】
【表5】

D−3:洗口液
以下の表6に記載の材料を、常温下で、混液して洗口液を調製した。
【0070】
【表6】

D−4:口腔用パスタ
以下の表7に記載の材料を、常温下で、混合して口腔用パスタを調製した。
【0071】
【表7】

D−5:トローチ 以下の表8に記載のマルチトール、アラビアガム、クエン酸、植物抽出物およびキシリトールを常温下で混合して得られた顆粒に対して、ショ糖脂肪酸エステルと粉末香料を加えて打錠して、トローチを調製した。
【0072】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本願発明の歯肉上皮細胞伸展阻害剤は、歯肉炎や歯周炎などの口腔内疾患を予防および治療するための手段として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】歯肉上皮細胞の伸展阻害検定試験の原理を説明する模式図である。
【図2】歯肉上皮組織の伸展の原理を説明する模式図である。
【図3】(a)精製水、(b)アムラ抽出物および(c)グリチルリチン酸二カリウムで処理したラットでの歯肉上皮組織の伸展状態を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤ブドウ(Vitis vinifera L.)、ローズマリー(Rosmarinus officinalis L.)、イチョウ(Ginkgo biloba L.)、セントジョンズワート(Hypericum perforatum L.)、アムラ(Emblic officinalis Gaertn.)、および、これらの組み合わせからなるグループから選択された原料植物を溶媒で抽出して得られた分離成分を含み、かつ哺乳動物での歯肉上皮組織の不正常な伸展を阻害する、ことを特徴とする歯肉上皮細胞伸展阻害剤。
【請求項2】
乾燥エキスの形態である請求項1に記載の歯肉上皮細胞伸展阻害剤。
【請求項3】
前記哺乳動物が、ラットである請求項1または2に記載の歯肉上皮細胞伸展阻害剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の歯肉上皮細胞伸展阻害剤を含む口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−306832(P2006−306832A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288571(P2005−288571)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】