説明

歯車機構

【課題】第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値となっているときのノイズの抑制と、そのトルクが大きくなりすぎるときの各歯車における歯同士の接触部分での荷重の集中の抑制とを両立させる。
【解決手段】ドライブギヤ8の歯10における減速側歯面と加速側歯面とのうち、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間での伝達トルク最大時にドリブンギヤ9の歯11と接触して同トルクの伝達を行う減速側歯面は、次のように形成される。すなわち、減速側歯面は、ドリブンギヤ9の歯11に向けて突出し、且つ同歯11の歯幅方向について湾曲する円弧状とされる。更に、減速側歯面に関しては、その円弧状の湾曲の中心がドライブギヤ8の歯10における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し上記伝達トルク最大時に減速側歯面におけるドリブンギヤ9の歯11と接触する部分と逆側に離れて位置するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクの伝達を行うべく互いに噛み合う第1歯車と第2歯車とを備えた歯車機構(特許文献1参照)では、第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分の歯同士が、それら歯の歯幅方向に平行に延びた状態で接触する。
【0003】
ここで、図18に示されるように、第1歯車の歯81における同歯車の回転方向(図中の上から下に向かう方向)についての一方の片側に、減速時に第2歯車の歯82と接触して上記トルクの伝達を行う減速側歯面81aが形成される。そして、上記減速時には、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間でのトルクの伝達が上記減速側歯面81aを介して行われる。一方、上記第1歯車の歯81における同歯車の回転方向についての前記片側とは別の片側には、加速時に第2歯車の歯82と接触して上記トルクの伝達を行う加速側歯面81bが形成される。そして、上記加速時には、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間でのトルクの伝達が図19に示されるように上記加速側歯面81bを介して行われる。
【0004】
ところで、歯車機構の使用状況によっては、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎ、それに起因して第1歯車の固定された軸、第2歯車の固定された軸、及びそれら軸を支持する支持部(歯車機構のケース等)が弾性変形することがある。このように軸や支持部に弾性変形が生じると、第1歯車の歯と第2歯車の歯との相対位置が適正な状態から変化し、それによって第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分で接触する歯81,82同士を歯幅方向に平行に延びた状態に維持することが難しくなる。言い換えれば、第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分で接触する歯81,82同士が、上述したように平行とならずに、図20に示されるように互いに対し例えば傾斜角θ分だけ傾斜した状態で接触する可能性が高くなる。
【0005】
そして、第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分で接触する歯81,82同士が互いに対し傾斜した状態で接触すると、それら歯81,82同士が歯幅方向の端部のみで接触するという同歯81,82同士の片当たりが生じる。このように歯81,82同士の片当たりが生じると、それら歯81,82同士の接触面積が小さくなることから、第1歯車と第2歯車との間でのトルクの伝達が行われるとき、上記歯81,82同士の接触部分で荷重の集中が生じる。更に、その荷重の集中に起因して、歯面(この例では減速側歯面81aとそこに接触する歯82の歯面)の塑性変形が生じたり、歯81,82の耐久性低下が生じたりするおそれがある。
【0006】
このため、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎるときに生じる上記問題の対策として、第1歯車の歯81の歯面(この例では減速側歯面81a)を図21に示すように形成することが考えられる。なお、この図での第1歯車の歯81と第2歯車の歯81との位置は、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値(通常使用でのトルク範囲内の値)となっているときの位置を表している。同図の減速側歯面81aは、隣り合う歯82の歯面との間に、上記トルクが大きくなりすぎたときにおける上記傾斜角θ分の傾斜を吸収し得る傾斜(図中「−θ」分の傾斜)が生じるように形成されている。
【0007】
このように第1歯車の歯81の歯面を形成すれば、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎ、それに起因して第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分で接触する歯81,82同士が互いに対し上記傾斜角θ分だけ傾斜したとき、それら歯81,82同士が図22に示すように大きな接触面積をもって接触するようになる。その結果、歯81,82同士が歯幅方向の端部のみで接触するという同歯81,82同士の片当たりが生じることは抑制され、ひいては上記片当たりに伴う歯81,82同士の接触部分で荷重の集中に起因する歯81,82の歯面の塑性変形や歯81,82の耐久性低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−202664公報(段落[0002]、[0011])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
第1歯車の歯81における歯面を図21に示すように予め傾斜した状態に形成しておくことで、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎたときに、歯81,82同士の片当たりと、その片当たりに伴う歯81,82同士の接触部分での荷重の集中とを抑制できるようにはなる。
【0010】
ただし、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値となっているときには、上記歯81における歯面の傾斜に起因して歯81,82同士の片当たりが生じることは避けられない。このように第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値となっているとき、歯81,82同士の片当たりが生じて歯81,82同士の歯幅方向についての接触長さが過度に短くなると、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間でトルクの伝達が行われるときにノイズが生じるようになる。
【0011】
こうしたノイズは、歯81,82同士の歯幅方向についての接触長さが短くなることに伴い、第1歯車及び第2歯車の回転時に歯81,82同士の接触のない期間が生じることが原因で発生するものと推測される。すなわち、歯81,82同士の接触のない期間が生じると、その期間と上記接触のある期間とを交互に迎えることになり、それに起因して第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクに変動が生じ、そうしたトルクの変動が上記ノイズの発生に繋がるものと推測される。
【0012】
なお、特許文献1には、歯車の噛み合い時にノイズが生じないよう、噛み合う歯車の歯における歯面形状、具体的には圧力角、捩れ角、歯形丸み、クラウニングのうち、少なくとも一つの形状を、互いに異ならせるという技術が開示されている。こうした技術を上記歯車機構に適用した場合、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値となっているときにノイズが生じることを抑制できる可能性はあるものの、第1歯車の歯81における歯面形状が図21のような形状になるとは考えにくい。このため、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎるとき、歯81,82同士の片当たり及びそれに伴う歯81,82同士の接触部分での荷重の集中を抑制できなくなる可能性が高い。
【0013】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値となっているときのノイズの抑制と、そのトルクが大きくなりすぎるときの各歯車における歯同士の接触部分での荷重の集中の抑制とを両立させることのできる歯車機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明によれば、第1歯車の歯における同歯車の回転方向についての一方の片側に形成された減速側歯面は、減速時に第2歯車の歯と接触してトルクの伝達を行う。すなわち、減速時には上記減速側歯面を介して第1歯車と第2歯車との間でのトルクの伝達が行われる。また、第1歯車の歯における同歯車の回転方向についての上記片側とは別の片側に形成された加速側歯面は、加速時に第2歯車の歯と接触してトルクの伝達を行う。すなわち、加速時には上記加速側歯面を介して第1歯車と第2歯車との間でのトルクの伝達が行われる。そして、上記第1歯車の歯における減速側歯面と上記加速側歯面との一方の歯面は、第2歯車の歯に向けて突出し、且つ同歯の歯幅方向について湾曲する円弧状とされる。更に、このように円弧状とされた歯面に関しては、その円弧状の湾曲の中心が第1歯車の歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し上記歯幅方向に離れて位置するように形成される。
【0015】
上記第1歯車における円弧状の歯面の形成を通じて、第1歯車の歯における上記減速側歯面と上記加速側歯面とのうち、第1歯車と第2歯車との間の伝達トルクが最大となるときに第2歯車の歯と接触して上記トルクの伝達を行う方の歯面を、その第2歯車の歯に向けて突出し且つ同歯の歯幅方向について湾曲する円弧状とすることが可能になる。更に、このように円弧状に形成された歯面を、その円弧状の湾曲の中心が第1歯車の歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し上記伝達トルク最大時に上記歯面における第2歯車の歯と接触する部分とは逆側に位置するように形成することも可能になる。
【0016】
ここで、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値であって、第1歯車の歯における上記円弧状の歯面が第2歯車の歯における歯面と接触するとき、それら歯面の形成された歯同士が歯幅方向の端部のみで片当たりした状態となることはない。更に、そうした歯同士の片当たりによって、同歯同士の歯幅方向についての接触長さが過度に短くなることもない。これは、第1歯車の歯における上記円弧状の歯面により、上記歯同士が歯幅方向の端部で接触することがなくなるとともに、上記トルクの伝達時に歯同士の接触部分の弾性変形を通じて歯同士の歯幅方向についての接触長さが確保されるためである。従って、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値であって、第1歯車の歯における上記円弧状の歯面が第2歯車の歯における歯面と接触するとき、それら歯面の形成された歯同士が歯幅方向の端部のみでの片当たりが生じて歯同士の歯幅方向についての接触長さが過度に短くなることを抑制することができる。更に、上記歯同士の歯幅方向についての接触長さが過度に短くなることに起因したノイズの発生を抑制することもできる。
【0017】
一方、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎて(例えば最大になって)第1歯車の固定された軸、第2歯車の固定された軸、及びそれら軸を支持する支持部が弾性変形すると、それに起因して第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分で接触する歯同士が互いに対し傾斜する。このように歯同士が互いに対し傾斜したとき、歯同士が歯幅方向の上記と逆側の端部寄りの位置で接触するものの、その際の歯同士の接触面積が小さくなることは抑制される。これは、第1歯車の歯における減速側歯面と加速側歯面とのうち、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが最大となるときに第2歯車の歯と接触して上記トルクの伝達を行う方の歯面を上述したように円弧状に形成することで、上記端部寄りの位置で接触する歯同士の歯幅方向についての接触長さを長くして同歯同士の接触面積を大きくすることができるためである。すなわち、第1歯車の歯に上記円弧状の歯面が形成されるとともに同円弧状の中心が上述したように位置するようになると、上記トルクの伝達に際して歯同士の接触部分が弾性変形したとき、歯同士が歯幅方向について長い距離に亘って接触するようになり、それら歯同士の接触面積が大きくなる。従って、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎたとき、第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分の歯同士が上記端部寄りの位置で接触するとしても、その接触の際における歯同士の接触面積を大きくとることができ、それによって同歯同士の接触部分での荷重の集中を抑制することができる。
【0018】
以上により、第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値となっているときのノイズの抑制と、そのトルクが大きくなりすぎるときの各歯車における歯同士の接触部分での荷重の集中の抑制とを両立させることができる。
【0019】
なお、第1歯面の歯における上記円弧状の歯面における円弧の曲率半径、及び同円弧の中心位置は、例えば次のように設定することが好ましい。すなわち、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが通常の値であって、第1歯車の歯における上記円弧状の歯面と第2歯車の歯における歯面とが接触するとき、それら歯同士の歯幅方向についての接触長さがノイズの発生を抑制し得る長さとなるよう、上記曲率半径及び上記中心位置を設定する。更に、互いに噛み合う第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎた状態(例えば最大値となった状態)であって、第1歯車の歯における上記円弧状の歯面と第2歯車の歯における歯面とが接触するとき、それら歯同士の接触面積がその歯同士の接触部分での荷重の集中を抑制し得る大きさとなるようにも、上記曲率半径及び上記中心位置を設定する。
【0020】
また、第1歯車及び第2歯車の歯における歯面に関しては、請求項2のように加工工具(加工部)を用いた精密加工を施して形成することが好ましい。この場合、第1歯車の減速側歯面と加速側歯面とのうちの上記円弧状の歯面を上記精密加工を通じて適切な形状に形成することができる。
【0021】
請求項3記載の発明によれば、第2歯車の歯に、第1歯車の歯の減速側歯面と接触してトルクの伝達を行う減速側歯面、及び第1歯車の歯の加速側歯面と接触してトルクの伝達を行う加速側歯面が形成される。そして、第2歯車の歯における減速側歯面と加速側歯面とのうち、第1歯車の歯における円弧状の歯面と接触してトルクの伝達を行う方の歯面は、その第1歯車の歯に向けて突出し且つ同歯の歯幅方向について湾曲する円弧状とされる。更に、第2実施形態の歯における上記円弧状の歯面に間しては、その円弧状の湾曲の中心が第2歯車の歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し前記歯幅方向に離れて位置するように形成される。
【0022】
このように、第2歯車の歯における上記円弧状の歯面の形成が、その円弧状の歯面と接触する第1歯車の歯における請求項1での円弧状の歯面の形成に加えて行われる。上記第2歯車における円弧状の歯面の形成を通じて、第2歯車の歯における上記減速側歯面と上記加速側歯面とのうち、第1歯車と第2歯車との間の伝達トルクが最大となるときに第1歯車の歯と接触して上記トルクの伝達を行う方の歯面を、その第1歯車の歯に向けて突出し且つ同歯の歯幅方向について湾曲する円弧状とすることが可能になる。更に、第2歯車の歯における上記円弧状の歯面を、その円弧状の湾曲の中心が第2歯車の歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し上記伝達トルク最大時に上記歯面における第1歯車の歯と接触する部分とは逆側に位置するように形成することも可能になる。
【0023】
このため、第1歯車の上記円弧状の歯面、及び第2歯車の上記円弧状の歯面における円弧状の湾曲の曲率半径を過度に小さくしたり、それら歯面における円弧状の湾曲の中心を同歯面の形成された歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し前記歯幅方向に過度に離れた位置にしたりすることなく、請求項1の効果が得られる。従って、請求項1の効果を得るうえで、上記曲率半径が小さくなりすぎることや、上記中心の上記平面に対する距離が大きくなりすぎることを抑制でき、第1歯車及び第2歯車の歯における上記歯面の円弧状の湾曲が、その曲率半径や湾曲の中心位置の点で極端なものとなることは抑制される。
【0024】
なお、第1歯車及び第2歯車の歯における歯面に関しては、請求項4のように加工工具(加工部)を用いた精密加工を施して形成することが好ましい。この場合、第1歯車及び第2歯車の歯における減速側歯面と加速側歯面とのうちの上記円弧状の歯面を上記精密加工を通じて適切な形状に形成することができる。また、それら円弧状の歯面における湾曲が、その曲率半径や同湾曲の中心位置の点で極端なものとはならないことから、上記精密加工に用いられる加工工具における加工部の内形もその曲率半径や湾曲の中心位置の点で極端なものとなることはない。従って、その加工工具を用いた上記円弧状の歯面の精密加工の難易度が高くなることを抑制できる。
【0025】
歯車機構の第1歯車及び第2歯車に関しては、請求項5のように、マニュアルトランスミッションを搭載した車両の駆動系における最終減速歯車とすることが好ましい。ここで、マニュアルトランスミッションを搭載した車両では、運転者の操作ミスにより過度なシフトダウンが行われることがあり、そのときに最終減速歯車である第1歯車と第2歯車との間で伝達されるトルクが最大になるとともに、そのトルクの最大値が極めて大きい値となる。このため、第1歯車と第2歯車との互いに噛み合う部分における歯同士の接触面積が小さいと、運転者の操作ミスにより過度なシフトダウンが生じたとき、上記歯同士の接触部分での荷重の集中が生じやすくなる。従って、そうした荷重の集中を抑制すべく、第1歯車の歯における減速側歯面と加速側歯面とのうち上記最大値となったトルクを受ける歯面である減速側歯面を請求項1のように形成したとき、それによる効果が大きなものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の歯車機構の搭載された自動車の駆動系を示す概略図。
【図2】同歯車機構のドライブギヤ及びドリブンギヤの噛み合い状態を示す略図。
【図3】上記両ギヤの噛み合う部分での歯同士の位置関係を示す概略図。
【図4】上記両ギヤの噛み合う部分での歯同士の位置関係を示す概略図。
【図5】ドライブギヤの歯を拡大して示す概略図。
【図6】ドリブンギヤの歯を拡大して示す概略図。
【図7】ドライブギヤとドリブンギヤとの減速側歯面での接触状態を示す概略図。
【図8】ドライブギヤとドリブンギヤとの減速側歯面での接触状態を示す概略図。
【図9】ドライブギヤとドリブンギヤとの減速側歯面での接触状態を示す概略図。
【図10】ドライブギヤとドリブンギヤとの減速側歯面での接触状態を示す概略図。
【図11】上記両ギヤの噛み合いに伴って生じるノイズの大きさを示した表。
【図12】上記両ギヤにおける互いに接触減速側歯面の歯幅方向の位置と、その位置にて減速側歯面に作用する曲げ応力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図13】上記両ギヤにおける互いに接触減速側歯面の歯幅方向の位置と、その位置にて減速側歯面に作用する曲げ応力の大きさとの関係を示したグラフ。
【図14】(a)はドライブギヤを形成するための素材と同素材を精密加工する加工工具を示す略図であり、(b)は上記加工工具における加工部の形状を示す略図。
【図15】(a)はドリブンギヤを形成するための素材と同素材を精密加工する加工工具を示す略図であり、(b)は上記加工工具における加工部の形状を示す略図。
【図16】ドライブギヤの歯及びドリブンギヤの歯に関する他の例を示す略図。
【図17】ドライブギヤの歯及びドリブンギヤの歯に関する他の例を示す略図。
【図18】第1歯車の歯及び第2歯車の歯に関する従来例を示す略図。
【図19】第1歯車の歯及び第2歯車の歯に関する従来例を示す略図。
【図20】第1歯車の歯及び第2歯車の歯に関する従来例を示す略図。
【図21】第1歯車の歯及び第2歯車の歯に関する従来例を示す略図。
【図22】第1歯車の歯及び第2歯車の歯に関する従来例を示す略図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を、自動車の駆動系でのトルク伝達に用いられる歯車機構に具体化した一実施形成について、図1〜図15を参照して説明する。
図1は、車体前部に搭載されたエンジン1で前輪2を駆動する自動車(いわゆるFF形式の自動車)の駆動系を模式的に示したものである。この自動車においては、エンジン1の駆動によるエンジン回転がトランスミッション3及び差動歯車装置4等を介して自動車の駆動輪である前輪2に伝達される。
【0028】
上記トランスミッション3としては、運転者によるシフトレバーの操作により、自動車におけるエンジン1側の回転速度と前輪2側の回転速度の比である変速比を切り換えるマニュアルトランスミッションが採用されている。このトランスミッション3は、エンジン回転を入力するインプットシャフト3aと、上記変速比の異なる複数の変速段を形成するための変速機構5と、上記インプットシャフト3aの回転速度を変速機構5にて形成される変速段の変速比で変速した後の回転速度で回転するアウトプットシャフト3bと、を備えている。そして、上記トランスミッション3においては、運転者によるシフトレバーの操作を通じて変速機構5の形成する変速段が切り換えられ、その切り換え後に形成された変速段の変速比にてエンジン1側と前輪2側との間での回転速度の変速が行われる。
【0029】
また、自動車には、トランスミッション3のアウトプットシャフト3bと差動歯車装置4との間での回転伝達(トルク伝達)を行うべく歯車機構7が設けられている。この歯車機構7は、上記アウトプットシャフト3bに固定された円筒状のドライブギヤ8と、上記差動歯車装置4の入力軸4aに固定された円筒状のドリブンギヤ9とを備えている。歯車機構7のドライブギヤ8及びドリブンギヤ9の外周部には、それぞれのギヤの中心線に対し傾斜した状態の歯10,11(斜歯)が形成されている。これらドライブギヤ8とドリブンギヤ9とは、図2に示されるように互いに噛み合っており、自動車の駆動系における最終減速歯車として機能する。
【0030】
図3は、図2に示されるドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分での歯10,11同士の位置関係を概略的に示したものである。図3から分かるように、それら歯10,11同士は互いに平行となる状態で歯幅方向(図中一点鎖線の延びる方向)に延びている。すなわち、ドライブギヤ8及びドリブンギヤ9は、それらの互いに噛み合う部分で歯10,11同士が互いに平行に延びた状態となるように設けられている。
【0031】
図3の歯10におけるドライブギヤ8の回転方向(図中の上から下に向かう方向)についての一方の片側(この例では図中の上側)には、自動車の減速時にドリブンギヤ9の歯11と接触してトルクの伝達を行う減速側歯面10aが形成されている。また、上記歯10におけるドライブギヤ8の回転方向についての上記片側とは別の片側(図中の下側)には、自動車の加速時にドリブンギヤ9の歯10と接触してトルクの伝達を行う加速側歯面10bが形成されている。
【0032】
一方、歯11におけるドリブンギヤ9の回転方向(図中の上から下に向かう方向)についての一方の片側(この例では図中の下側)には、自動車の減速時にドライブギヤ8の歯10と接触してトルクの伝達を行う減速側歯面11aが形成されている。また、上記歯11におけるドリブンギヤ9の回転方向についての上記片側とは別の片側(図中の上側)には、自動車の加速時にドリブンギヤ9の歯10と接触してトルクの伝達を行う加速側歯面10bが形成されている。
【0033】
そして、自動車の減速時には、上記減速側歯面10a,11aを介して、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間でのトルクの伝達が行われる。また、自動車の加速時には、上記加速側歯面10b,11bを介して、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間でのトルクの伝達が行われる。ところで、自動車の運転状況によっては、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎ、それに起因してドライブギヤ8の固定されたアウトプットシャフト3b、ドリブンギヤ9の固定された入力軸4a、並びに、それらアウトプットシャフト3b及び入力軸4aの支持部が弾性変形することがある。
【0034】
ここで、トランスミッション3としてマニュアルトランスミッションを搭載した自動車では、運転者の操作ミスにより過度なシフトダウンが行われることがあり、そのときに最終減速歯車であるドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大になるとともに、そのトルクの最大値が極めて大きい値となる。その結果、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが大きくなりすぎ、それに起因して上述したようにアウトプットシャフト3b及び入力軸4a、並びに、それらの支持部が弾性変形する。
【0035】
そして、上述したように弾性変形が生じることで、ドライブギヤ8の歯10とドリブンギヤ9の歯11との相対位置が適正な状態から変化し、それによってドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分で歯10,11同士を歯幅方向に平行に延びた状態に維持することが難しくなる。このため、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分の歯81,82同士が、上述したように平行とならずに、例えば図4に示されるように互いに対し傾斜角θ分だけ傾斜した状態となる。そして、この状態のもと、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分で歯10,11同士が互いに対し傾斜した状態で接触すると、それら歯10,11同士が歯幅方向の端部(正確には図中右端部側)のみで接触するという同歯81,82同士の片当たりが生じるおそれがある。
【0036】
次に、歯10,11の形状について詳しく説明する。
ドライブギヤ8の歯10における減速側歯面10aは、そのドリブンギヤ9の歯11に向けて突出し、且つ同歯11の歯幅方向について図5に示されるように曲率半径R1をもって湾曲する円弧状とされている。更に、減速側歯面10aに関しては、その円弧状の湾曲の中心C1がドライブギヤ8の歯10における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面F1に対し上記歯幅方向について上記伝達トルク最大時に上記歯面におけるドリブンギヤ9の歯11と接触する部分とは逆側にずれ量Z1分だけ離れて位置するように形成されている。減速側歯面10aの上記接触する部分は、この例では図中において平面F1よりも右側に位置する。このため、上記減速側歯面10aに関しては、その円弧状の湾曲の中心C1が平面F1に対し図中左側に離れて位置するように形成されている。
【0037】
また、図3に示されるドリブンギヤ9の歯11における減速側歯面11aは、そのドライブギヤ8の歯10に向けて突出し、且つ同歯10の歯幅方向について図6に示されるように曲率半径R2をもって湾曲する円弧状とされている。更に、減速側歯面11aに関しては、その円弧状の湾曲の中心C2がドリブンギヤ9の歯11における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面F2に対し上記歯幅方向について上記伝達トルク最大時に上記歯面におけるドライブギヤ8の歯10と接触する部分とは逆側にずれ量Z2分だけ離れて位置するように形成されている。減速側歯面11aの上記接触する部分は、この例では図中において平面F1よりも右側に位置する。このため、上記減速側歯面11aに関しては、その円弧状の湾曲の中心C2が平面F2に対し図中左側に離れて位置するように形成されている。
【0038】
このように減速側歯面10a,11aを形成することで、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが通常の値(通常使用でのトルク範囲内の値)であるとき、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分で歯10,11同士が片当たりすることはない。更に、そうした歯10,11同士の片当たりによって、同歯10,11同士の歯幅方向についての接触長さが過度に短くなることもない。これは、減速側歯面10a,11aが上述したように円弧状に形成されているため、歯10,11同士が歯幅方向の端部(詳しくは図5及び図6の左端部)で接触することがなくなるとともに、上記トルクの伝達時に歯10,11同士の接触部分の弾性変形を通じて歯10,11同士の歯幅方向についての接触長さが確保されるためである。上記トルクが通常の値であるとき、具体的には、歯10,11の減速側歯面10a,11aにおける互いに対する接触が図7に示されるように開始され、その開始直後に歯10,11の接触部分の弾性変形を通じて図8に示されるように歯10,11の接触長さX1が確保されるようになる。
【0039】
従って、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが通常の値であるとき、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分の歯10,11同士の片当たりが生じて歯10,11同士の歯幅方向についての接触長さが過度に短くなること、及びそれに起因したノイズの発生を抑制することができる。なお、減速側歯面10a,11bにおける円弧状の湾曲の曲率半径R1,R2、及び同湾曲の中心C1,C2の位置(ずれ量Z1,Z2)に関しては、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが通常の値であるとき、歯10,11同士の歯幅方向についての接触長さX1がノイズの発生を適切に抑制し得る長さとなるよう設定される。
【0040】
一方、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大となり、それに起因して上述したようにアウトプットシャフト3b及び入力軸4a、並びに、それらの支持部が弾性変形すると、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との噛み合う部分で接触する歯10,11同士が例えば図4に示すように傾斜角θ分だけ傾斜する。このように歯10,11同士が互いに対し傾斜したときには、歯10,11同士が歯幅方向の端部(詳しくは図中右端部)寄りの位置で接触するものの、それら歯10,11同士の接触面積が小さくなることは抑制される。これは、減速側歯面10a,11aを上述したように形成することで、上記端部寄りの位置で接触する歯10,11同士の歯幅方向についての接触長さを長くして同歯10,11同士の接触面積を大きくすることができるためである。すなわち、減速側歯面10a,11aが円弧状に湾曲し、且つ同円弧状の湾曲の中心C1,C2が上述したように位置するようになると、上記トルクの伝達に際して歯10,11同士の接触部分が弾性変形したとき、歯10,11同士が歯幅方向について長い距離に亘って接触するようになり、それら歯10,11同士の接触面積が大きくなる。上記トルクが最大となるとき、具体的には、歯10,11の減速側歯面10a,11aにおける互いに対する接触が図9に示されるように開始され、その開始直後に歯10,11の接触部分の弾性変形を通じて図10に示されるように歯10,11の接触長さX2が確保されるようになる。
【0041】
従って、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大になったとき、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分の歯10,11同士が上記端部寄りの位置で接触したとしても、その接触の際における歯10,11同士の接触面積を大きくとることができる。このように歯10,11同士の接触面積を大きくとることにより、歯10,11同士の接触部分での荷重の集中を抑制することができる。なお、減速側歯面10a,11bにおける円弧状の湾曲の曲率半径R1,R2、及び同湾曲の中心C1,C2の位置(ずれ量Z1,Z2)に関しては、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大となったとき、歯10,11同士の接触面積がその接触部分での荷重の集中を適切に抑制し得る大きさとなるよう設定される。ちなみに、上記歯10,11同士の接触面積は、図10に示される歯10,11の接触長さX2の増大に伴って大きくなる。
【0042】
次に、歯10,11の減速側歯面を本実施形態のように形成した場合と従来(図18)のように形成した場合との違いについて、図11〜図13を参照して説明する。
図11は、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが通常の値であるとき、例えばエンジン1の減速時にトランスミッション3のインプットシャフト3aに働くトルクが「−20n/m」及び「−40n/m」となったときの両ギヤ8,9の噛み合いに伴って生じるノイズの大きさを示した表である。
【0043】
なお、図11の表では、上記ノイズの大きさを一次周波数、二次周波数、及び三次周波数といった周波数毎に示している。ここで、上記一次周波数とは、ドライブギヤ8等の一回転当たりに歯10,11同士が接触する回数に対応した周波数のことである。また、上記二次周波数とは、ドライブギヤ8等の一回転当たりに歯10,11同士が接触する回数の二倍の回数に対応した周波数のことである。更に、上記三次周波数とは、ドライブギヤ8等の一回転当たりに歯10,11同士が接触する回数の三倍の回数に対応した周波数のことである。
【0044】
上記表においては、一次周波数でのノイズの大きさ、二次周波数でのノイズの大きさ、三次周波数でのノイズの大きさとして、本実施形態の減速側歯面10a,11aを採用した場合の大きさと、従来(図18)の減速側歯面を採用した場合の大きさとの両方が示されている。この表から分かるように、いずれの周波数でのノイズについても、本実施形態の減速側歯面10a,11aを採用した場合の方が、従来の減速側歯面を採用した場合よりも小さく抑えられる。
【0045】
図12及び図13は、運転者の操作ミスにより過度なシフトダウンが行われ、それによって最終減速歯車であるドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大になるとき、両ギヤ8,9の噛み合う部分における歯10,11同士の接触部分(減速側歯面)でそれら歯10,11に作用する曲げ応力の大きさを示したグラフである。なお、図12及び図13のグラフでは、横軸を減速側歯面における歯幅方向の位置とするとともに、縦軸を曲げ応力の大きさとしている。
【0046】
図12において、実線L6は、従来(図18)の減速側歯面を採用した場合において、減速側歯面同士が接触した直後の同減速側歯面における歯幅方向の位置と、その位置にて減速側歯面に作用する曲げ応力の大きさとの関係を示したものである。こうした関係を示す実線は、減速側歯面同士の接触開始時点からの時間経過に伴いL6、L7、L8、L9、L10へと順に変化してゆく。なお、減速側歯面に作用する上記曲げ応力は、減速側歯面同士が接触開始した直後(実線L6に対応)に最大値Nを示すようになる。
【0047】
図13において、実線L1は、本実施形態の減速側歯面10a,11b同士が接触開始した直後の減速側歯面10a,11bにおける歯幅方向の位置と、その位置にて減速側歯面10a,11a(歯10,11)に作用する曲げ応力の大きさとの関係を示したものである。こうした関係を示す実線は、減速側歯面10a,11b同士の接触開始時点からの時間経過に伴いL1、L2、L3、L4、L5へと順に変化してゆく。なお、減速側歯面10a,11a(歯10,11)に作用する上記曲げ応力は、減速側歯面10a,11b同士が接触開始した直後(実線L1に対応)に最大値Mを示すようになる。この最大値Mは、図12に示される上記最大値Mに対し、より小さい値に抑えられる。
【0048】
これらの図から分かるように、本実施形態の減速側歯面10a,11aを採用した場合には、上記曲げ応力の最大値Mが従来の減速側歯面を採用した場合の最大値Nよりも小さく抑えられる。このことは、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大となるとき、歯10,11同士の接触部分(減速側歯面10a、10b)での荷重の集中が的確に抑制されていることを意味する。
【0049】
次に、ドライブギヤ8及びドリブンギヤ9における歯10,11の形成方法について図14及び図15を参照して説明する。
図14(a)は、ドライブギヤ8を形成するための素材21、及び、その素材21に設けられた粗加工済みの歯22に対しその歯面を精密加工するための加工部32を備えた加工工具31を概略的に示したものである。ドライブギヤ8は、上記素材21に設けられた粗加工済みの歯22に対し上記加工工具31の加工部32を噛み合わせ、その状態で上記素材21を回転させて加工工具31の加工部32で同素材21の歯22における歯面を精密加工することによって形成される。こうした精密加工を通じて、ドライブギヤ8の歯10における減速側歯面10a及び加速側歯面10b(共に図3)が形成されることとなる。なお、上記精密加工による減速側歯面10aの形成は、ドライブギヤ8の形成時、図14(b)に示される加工工具31の加工部32における上記減速側歯面10aを精密加工する部分である内面32aを、同減速側歯面10aに対応した内形とすることによって実現される。ちなみに、以上の手順による上記精密加工の具体例としては、シェービング加工、ホーニング加工、及び転造といった加工があげられる。
【0050】
図15(a)は、ドリブンギヤ9を形成するための素材41、及び、その素材41に設けられた粗加工済みの歯42に対しその歯面を精密加工するための加工部52を備えた加工工具51を概略的に示したものである。ドリブンギヤ9は、上記素材41に設けられた粗加工済みの歯42に対し上記加工工具51の加工部52を噛み合わせ、その状態で上記素材41を回転させて加工工具51の加工部52で同素材41の歯42における歯面を精密加工することによって形成される。こうした精密加工を通じて、ドリブンギヤ9の歯11における減速側歯面11a及び加速側歯面11b(共に図3)が形成されることとなる。なお、上記精密加工による減速側歯面11aの形成は、ドライブギヤ8の形成時、図15(b)に示される加工工具51の加工部52における上記減速側歯面11aを精密加工する部分である内面52aを、同減速側歯面11aに対応した内形とすることによって実現される。ちなみに、以上の手順による上記精密加工の具体例としては、シェービング加工、ホーニング加工、及び転造といった加工があげられる。
【0051】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)ドライブギヤ8の歯10における減速側歯面10aと加速側歯面10bとのうち、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大となるときにドリブンギヤ9の歯11と接触して上記トルクの伝達を行う減速側歯面10aは、次のように形成される。すなわち、減速側歯面10aは、ドリブンギヤ9の歯11に向けて突出し、且つ同歯11の歯幅方向について曲率半径R1をもって湾曲する円弧状とされる。更に、減速側歯面10aに関しては、その円弧状の湾曲の中心C1がドライブギヤ8の歯10における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面F1に対し上記歯幅方向について上記伝達されるトルクの最大時に減速側歯面10aにおけるドリブンギヤ9の歯11と接触する部分とは逆側にずれ量Z1分だけ離れて位置するように形成される。
【0052】
また、ドリブンギヤ9の歯11における減速側歯面11aと加速側歯面11bとのうち、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大となるときにドリブンギヤ9の歯11と接触して同トルクの伝達を行う減速側歯面11aは、次のように形成される。すなわち、減速側歯面11aは、ドライブギヤ8の歯10に向けて突出し、且つ同歯10の歯幅方向について曲率半径R2をもって湾曲する円弧状とされる。更に、減速側歯面11aに関しては、その円弧状の湾曲の中心C2がドリブンギヤ9の歯11における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面F2に対し上記歯幅方向について上記伝達されるトルクの最大時に上記減速側歯面11aにおけるドライブギヤ8の歯10と接触する部分とは逆側にずれ量Z2分だけ離れて位置するように形成される。
【0053】
上記減速側歯面10a,11bにおける円弧状の湾曲の曲率半径R1,R2、及び同湾曲の中心C1,C2の位置(ずれ量Z1,Z2)に関しては、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが通常の値であるとき、歯10,11同士の歯幅方向についての接触長さX1がノイズの発生を適切に抑制し得る長さとなるよう設定される。更に、上記曲率半径R1,R2、及び同湾曲の中心C1,C2の位置(ずれ量Z1,Z2)に関しては、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大となったとき、歯10,11同士の接触面積(接触長さX2に対応)がその接触部分での荷重の集中を適切に抑制し得る大きさとなるようにも設定される。
【0054】
以上により、互いに噛み合うドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが通常の値となっているときのノイズの抑制と、そのトルクが最大になるときの各ギヤ8,9における歯10,11同士の接触部分での荷重の集中の抑制とを両立させることができる。
【0055】
(2)減速側歯面10aと減速側歯面11aとをそれぞれ上述した形状とすることで、それら減速側歯面10a,11aにおける円弧状の湾曲の曲率半径R1,R2を過度に小さくしたり、その湾曲の中心C1,C2の平面F1,F2に対するずれ量Z1,Z2を過度に大きくしたりしなくても、上記(1)の効果が得られるようになる。従って、その効果を得るうえで、上記曲率半径R1,R2が小さくなり過ぎることや上記ずれ量Z1,Z2が大きくなり過ぎることを抑制でき、上記減速側歯面10a,11aの円弧状の湾曲がその曲率半径R1,R2や湾曲の中心C1,C2の位置の点で極端なものとなることが抑制されるようになる。
【0056】
(3)減速側歯面10aに関しては、ドライブギヤ8を形成するための素材21に設けられた粗加工済みの歯22に対し、その減速側歯面10aを精密加工するための加工工具31の加工部32を噛み合わせ、その状態で上記素材21を回転させて加工工具31の加工部32で同素材21の歯22における歯面を精密加工することによって形成される。そして、上記加工工具31における加工部32の内面32a、すなわち上記減速側歯面10aを精密加工する部分は、その減速側歯面10aに対応した内形とされる。
【0057】
一方、減速側歯面11aに関しては、ドリブンギヤ9を形成するための素材41に設けられた粗加工済みの歯42に対し、その減速側歯面11aを精密加工するための加工工具51の加工部52を噛み合わせ、その状態で上記素材41を回転させて加工工具51の加工部52で同素材41の歯42における歯面を精密加工することによって形成される。そして、上記加工工具51における加工部52の内面52a、すなわち上記減速側歯面11aを精密加工する部分は、その減速側歯面11aに対応した内形とされる。
【0058】
以上の精密加工を通じて減速側歯面10a,11aを形成することにより、それら減速側歯面10a,11aを適切な形状とすることができる。また、上記(2)に示されるように、減速側歯面10a,11aの円弧状の湾曲がその曲率半径R1,R2や湾曲の中心C1,C2の位置の点で極端なものとなることは抑制される。このため、上記精密加工に用いられる加工工具31,51における加工部32,52の内形も、その曲率半径や湾曲の中心位置の点で極端なものとなることは抑制される。従って、加工工具31,51を用いた上記減速側歯面10a,11aの精密加工の難易度が高くなることを抑制できる。
【0059】
(4)歯車機構7のドライブギヤ8とドリブンギヤ9とは、マニュアル式のトランスミッション3を搭載した自動車の駆動系における最終減速歯車として機能する。こうしたトランスミッション3を搭載した自動車では、運転者の操作ミスにより過度なシフトダウンが行われることがあり、そのときに最終減速歯車であるドライブギヤ8とドリブンギヤ9との間で伝達されるトルクが最大になるとともに、そのトルクの最大値が極めて大きい値となる。このため、ドライブギヤ8とドリブンギヤ9との互いに噛み合う部分における歯10,11同士の接触面積が小さいと、運転者の操作ミスにより過度なシフトダウンが生じたとき、上記歯10,11同士の接触部分での荷重の集中が生じやすくなる。従って、そうした荷重の集中を抑制すべく、減速側歯面10a,11aを上記(1)に記載したように形成したとき、それによって得られる同(1)の効果が大きなものとなる。
【0060】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・ドライブギヤ8の減速側歯面10aとドリブンギヤ9の減速側歯面11aとのうちの一方を従来のように形成してもよい。
【0061】
例えば、図16に示すように、ドライブギヤ8の減速側歯面10aを本発明を適用した形状とするとともに、減速側歯面11aを従来形状とすることが考えられる。この場合、ドライブギヤ8が本発明の第1歯車として機能するとともに、ドリブンギヤ9が本発明の第2歯車として機能することとなる。
【0062】
また、図17に示すように、ドライブギヤ8の減速側歯面10aを従来形状とするとともにドリブンギヤ9の減速側歯面11aを本発明を適用した形状としてもよい。この場合、ドライブギヤ8が本発明の第2歯車として機能するとともに、ドリブンギヤ9が本発明の第1歯車として機能することとなる。
【0063】
・自動車の駆動系における最終減速歯車であるドライブギヤ8及びドリブンギヤ9を備える歯車機構7に本発明を具体化したが、同駆動系における他の歯車機構に本発明を具体化してもよい。
【0064】
・自動車に搭載されるトランスミッション3をオートマチックトランスミッションとしてもよい。
・ドライブギヤ8の歯10及びドリブンギヤ9の歯11を平歯としてもよい。
【0065】
・傘歯車を第1歯車及び第2歯車とした歯車機構に本発明を適用してもよい。
・車体前部に搭載されたエンジンで後輪を駆動するFR式の自動車、車体中央部に搭載されたエンジンで後輪を駆動するMR式の自動車、及び、車体後部に搭載されたエンジンで後輪を駆動するRR式の自動車等に、本発明の歯車機構を設けてもよい。
【0066】
・自動車等の車両の駆動系以外でのトルク伝達に本発明の歯車機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…エンジン、2…前輪、3…トランスミッション、3a…インプットシャフト、3b…アウトプットシャフト、4…差動歯車装置、4a…入力軸、5…変速機構、7…歯車機構、8…ドライブギヤ、9…ドリブンギヤ、10…歯、10a…減速側歯面、10b…加速側歯面、11…歯、11a…減速側歯面、11b…加速側歯面、21…素材、22…歯、31…加工工具、32…加工部、32a…内面、41…素材、42…歯、51…加工工具、52…加工部、52a…内面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクの伝達を行うべく互いに噛み合う第1歯車と第2歯車とを備え、前記第1歯車の歯における同歯車の回転方向についての一方の片側には減速時に前記第2歯車の歯と接触して前記トルクの伝達を行う減速側歯面が形成され、前記第1歯車の歯における同歯車の回転方向についての前記片側とは別の片側には加速時に前記第2歯車の歯と接触して前記トルクの伝達を行う加速側歯面が形成される歯車機構において、
前記第1歯車の歯における前記減速側歯面と前記加速側歯面との一方の歯面を、前記第2歯車の歯に向けて突出し且つ同歯の歯幅方向について湾曲する円弧状とするとともに、その円弧状の湾曲の中心が前記第1歯車の歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し前記歯幅方向に離れて位置するように形成した
ことを特徴とする歯車機構。
【請求項2】
前記第1歯車及び前記第2歯車は、それら歯車を形成するための素材に設けられた粗加工済みの歯に対し、同粗加工済みの歯の歯面を精密加工するための加工工具の加工部を噛み合わせ、その状態で前記素材を回転させて前記加工工具の加工部で前記素材の歯における歯面を精密加工することによって形成されるものであり、
前記第1歯車の歯における前記減速側歯面と前記加速側歯面とのうちの前記円弧状の歯面は、前記第1歯車の形成時に前記加工工具の加工部における前記円弧状の歯面を精密加工する部分の内形を同円弧状の歯面に対応した形状とすることによって形成されるものである
請求項1記載の歯車機構。
【請求項3】
請求項1記載の歯車機構において、
前記第2歯車の歯における同歯車の回転方向についての一方の片側には減速時に前記第1歯車の歯と接触してトルクの伝達を行う減速側歯面が形成され、前記第2歯車の歯における同歯車の回転方向についての前記片側とは別の片側には加速時に前記第1歯車の歯と接触してトルクの伝達を行う加速側歯面が形成されており、
前記第2歯車の歯における前記減速側歯面と前記加速側歯面とのうち、前記第1歯車の歯における前記円弧状の歯面と接触してトルクの伝達を行う方の歯面を、その第1歯車の歯に向けて突出し且つ同歯の歯幅方向について湾曲する円弧状とするとともに、その円弧状の湾曲の中心が前記第2歯車の歯における歯幅方向の中央にて同歯幅方向と直交する平面に対し前記歯幅方向に離れて位置するように形成した
ことを特徴とする歯車機構。
【請求項4】
前記第1歯車及び前記第2歯車は、それら歯車を形成するための素材に設けられた粗加工済みの歯に対し、同粗加工済みの歯の歯面を精密加工するための加工工具の加工部を噛み合わせ、その状態で前記素材を回転させて前記加工工具の加工部で前記素材の歯における歯面を精密加工することによって形成されるものであり、
前記第1歯車の歯における前記減速側歯面と前記加速側歯面とのうちの前記円弧状の歯面は、前記第1歯車の形成時に前記加工工具の加工部における前記円弧状の歯面を精密加工する部分の内形を同円弧状の歯面に対応した形状とすることによって形成されるものであり、
前記第2歯車の歯における前記減速側歯面と前記加速側歯面とのうち、前記第1歯車の歯における前記円弧状の歯面と接触してトルクの伝達を行う方の歯面は、前記第2歯車の形成時に前記加工工具の加工部における前記第2歯車の歯における円弧状の歯面を精密加工する部分の内形を同円弧状の歯面に対応した形状とすることによって形成されるものである
請求項3記載の歯車機構。
【請求項5】
前記第1歯車及び前記第2歯車は、マニュアルトランスミッションを搭載した車両の駆動系における最終減速歯車である
請求項1記載の歯車機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−236985(P2011−236985A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109372(P2010−109372)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】