説明

歯車装置

【課題】運転時における低騒音と低駆動ロスを同時に実現した減速機などの歯車装置を提供する。
【解決手段】入力軸122に設けたオイルシール150の内部150Nに封入する潤滑剤Aと、減速機(歯車装置)内部126に封入し主として減速部135を潤滑する潤滑剤Bとの特性を、基油粘度については潤滑剤Aを潤滑剤Bよりも低くし、ちょう度については潤滑剤Aを潤滑剤Bよりも大とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された回転を変速し出力する歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、減速機などの歯車装置内部にオイル・グリス等の潤滑剤を封入し、歯車装置の内部を構成する各部材間の潤滑・冷却を行なうことが広く一般に行なわれている。
【0003】
又、図4に示す特許文献1に記載されるように、減速機20はモータ10との間で回転する軸22を介して動力を伝達する構成とされているため、この軸22と、減速機のケーシング24との隙間から減速機内部26に封入した潤滑油が漏れ出ないようにオイルシール28が設けられている。
【0004】
更に、このオイルシール28には、グリスのように粘性が高い潤滑剤を封入配置し、潤滑を行いつつ、減速機内の潤滑油がモータ側へ漏れることを防ごうとした技術も開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2733448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市場においては減速機の運転時における騒音を少しでも抑えたいという要求がある。また、出来るだけエネルギー効率の高い、駆動ロスの低い減速機が要求されている。
【0007】
従来技術として例示した上記減速機20は、これら騒音や駆動ロスの問題点を考慮したものではなかった。
【0008】
本発明は、装置全体として騒動ロスを低減しつつ同時に騒音の問題も解消した歯車装置を提供するべくなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、入力軸と、該入力軸の回転を変速する変速部と、変速された回転を出力する出力軸とを備えた歯車装置において、前記入力軸にオイルシールが設けられ、該オイルシール部の潤滑剤の基油粘度が前記変速部の潤滑剤の基油粘度よりも小さく、且つ、前記オイルシール部の潤滑剤のちょう度が前記変速部の潤滑剤のちょう度よりも大とすることにより、上記課題を解決するものである。
【0010】
これにより、歯車装置の騒音の低減と駆動ロスの低減を効果的に両立させることが可能となる(後述)。
【0011】
ここで基油粘度とは、動粘度のことを意味しており、流動粘度と液体密度の比のことである。一方、ちょう度とは、JIS規定の円錐が規定時間内に試料に進入する深さをミリメートルの10倍で表わした数値のことであり、グリスのみかけ上の硬さを示すものである。
【0012】
又、「オイルシール部」とは、オイルシールとその内部を含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明を適用することで、低騒音、低駆動ロスの歯車装置を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下添付図面を用いて、本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0015】
図1(A)は、本発明の実施形態の一例である減速機(歯車装置)120を備えるギヤドモータGM100の一部展開側断面図であり、図1(B)は、一部展開平断面図である。
【0016】
又、図2(A)は、矢示IIA部付近の拡大図である。
【0017】
ギヤドモータGM100は、減速機120にモータ110が図示せぬボルト等により一体的に連結されたものである。
【0018】
モータ110は、モータケーシング本体112と、エンドカバー114と、フロントカバー116とからなるケーシングの中にモータ駆動部111が納められて構成されている。このモータ駆動部111は、主にモータケーシング本体112に固定されたステータ111Sと、ロータ111Rとで構成されており、ロータ111Rの回転をモータ軸118へと伝達可能とされている。モータ110の略中心部には、前記モータ駆動部111の駆動力をモータ外部へと伝達するモータ軸118が回転可能に設けられている。
【0019】
前記モータ110のケーシングの一部として機能するフロントカバー116は、後述する減速機120の減速機ケーシング本体124と一体形成されている。
【0020】
減速機ケーシング本体124の中には、モータ軸118と一体化された入力軸122と、減速部(変速部)135と、出力軸136とが納められており、これら全体で減速機120を構成している。
【0021】
減速機ケーシング本体124の最もモータ側には軸受119が備えられ、入力軸122を回転自在に支持している。本実施形態において、この入力軸122は前記モータ軸118と単一の部材として一体的に形成されているが、別々の部材として構成してもよい。
【0022】
又、前記軸受119と並んでオイルシール150が入力軸122の周囲に設けられ、減速機内部126に封入される潤滑剤(詳細後述)がモータ側へ漏れるのを防止可能な構成とされている。尚、オイルシール150には、リップ部150Lを入力軸122に密着させるためのばね150Bが備わっている(図2(A)参照)。
【0023】
入力軸122の先端部にはハイポイドピニオン123が直切り形成されており、ハイポイドギヤ134と噛合している。このハイポイドピニオン123とハイポイドギヤ134とで減速部135を構成している。
【0024】
ハイポイドギヤ134はドーナツ状の形をしており、その中心部に減速された回転を外部へと伝達する出力軸136が挿嵌され、一体化されている。減速部135にハイポイドギヤセットが設けられていることについては後述する。
【0025】
前記減速部135の上方には、孔139を有するカバー138がボルト140によって減速機ケーシング本体124に固定されている。
【0026】
前記孔139には軸受142が設けられ、図1(A)において、ハイポイドギヤ134の下側に配置される軸受144と共に、前記出力軸136を軸支している。尚、出力軸136の一部は、カバー138の孔139を貫通し外部に露出している。
【0027】
又、図1(A)において前記孔139に備わる軸受142の上部には、オイルシール146が設けられている。
【0028】
次に減速機120に用いられる潤滑剤について説明する。
【0029】
当該減速機120においては、前記入力軸122の周囲をシーリングしているオイルシール150の内部150Nに封入される潤滑剤Aと、減速機内部126に封入され、主に減速部135を潤滑・冷却する潤滑剤Bとが使用されている。
【0030】
潤滑剤Aは、その基油として、鉱物油系、合成炭化水素系、エステル系、グリコール系、エーテル系、シリコーン系、フッ素油系のうちいずれかが用いられ、増ちょう剤としてリチウム石鹸、カルシウム石鹸、アルミニウム石鹸、ナトリウム石鹸、バリウム石鹸、ウレア化合物、PTFE、有機化ベントナイト、シリカのうちいずれかが用いられている。
【0031】
一方、潤滑剤Bは、その基油として、鉱物油系、合成炭化水素系、エステル系、グリコール系、エーテル系、シリコーン系、フッ素油系のうちいずれかが用いられ、増ちょう剤としてリチウム石鹸、カルシウム石鹸、アルミニウム石鹸、ナトリウム石鹸、バリウム石鹸、ウレア化合物、PTFE、有機化ベントナイト、シリカのうちいずれかが用いられている。
【0032】
又、オイルシール内部150Nの潤滑剤Aと減速部135の潤滑剤Bの特性を比較すると、基油粘度に関しては常に潤滑剤Aの方が潤滑剤Bよりも小さく、ちょう度に関しては、潤滑剤Aの方が潤滑剤Bよりも大きい(軟らかい)という関係が成立するように構成されている。これは、減速機120において、運転時の騒音の発生原因となるのは、減速部135における歯車同士の噛合音であり、この噛合音の発生を抑えるためには減速部135に用いる潤滑剤の基油粘度は高いほうが好ましいとの知見に基づいたものである。一方、減速機120の駆動ロスに関しては、伝達されるトルクが減速機全体の中で相対的に小さい入力軸122の部分において影響され易いことに鑑み、オイルシール内部150Nに用いる潤滑剤は基油粘度が低く、ちょう度が大きいほうが好ましいとの知見に基づいたものである。そこでオイルシール内部150Nの潤滑剤Aに関しては、減速部135の潤滑剤Bよりも基油粘度が低く、ちょう度が大きいものを選び、減速機全体の低騒音と低駆動ロスとを両立させている。
【0033】
この結果、オイルシール内部150Nの潤滑剤Aは、潤滑剤Bよりも軟らかいものを使用することとなり、効率よく駆動ロスを低減することができる。更に、オイルシール150と入力軸122との摺動部分においては、元々騒音の発生原因となる程の音の発生がないため、潤滑剤Aのように基油粘度が低いものを用いても騒音上の新たな不具合は発生しない。
【0034】
又、減速部135の潤滑剤Bは、潤滑剤Aよりも基油粘度の高いものを使用することとなり、騒音の原因となる噛合音を効果的に低減できる。更に、オイルシール内部150Nの潤滑剤Aと比べてある程度の硬さを備えているため、運転時にオイルシール150の方向へと強い圧力で押し寄せる可能性を低減できる。
【0035】
尚、本実施形態において減速部135の構成として、ハイポイドギヤセットが用いられているのも、騒音の低減と駆動ロスの低減の両立を考慮したためである。
【0036】
騒音を低減するために有効な構成として知られている構造としては、ウォームギヤセットによるものがある。しかし、本実施形態においては減速部135の潤滑剤Bとして基油粘度の高いものを使用している。基油粘度の高い潤滑剤は駆動ロスが大きくなる傾向があるが、ウォームギヤセットの場合、それ自体摺動抵抗が大きく、相乗効果で非常に駆動ロスが大きくなる傾向となる。この駆動ロスの急激な増大は、多くの場合オイルシール内部150Nに低基油粘度の潤滑剤Aを用いた効果を簡単に相殺してしまい好ましくない。この点、ハイポイドギヤセットは、(ベベルギヤセット等に比べて)本来的に低騒音であり、又、潤滑剤Bの基油粘度が高くてもそれ程ロスは大きくなることはなく、好ましい。
【0037】
より理想的な潤滑剤の特性としては、潤滑剤Aについては、基油粘度が100mm2/s(40℃)以下、ちょう度は400以上のものが好ましい。これは、図3(A)に示すように、基油粘度が小さいほど摺動ロス(引張荷重)は小さくなる傾向に鑑みて、オイルシール部の摺動ロスを望ましい程度にまで低減するためである。
【0038】
但し、この場合においても、前述した潤滑剤Aと潤滑剤Bとの基油粘度及びちょう度の関係は成立している必要がある。
【0039】
尚、上記数値が好ましい理由は、例えば大型の減速機に適用する場合など、潤滑剤Bとの関係では低基油粘度、高ちょう度であっても、上記の数値から外れると、効果的なロス低減が必ずしも望めないからである。
【0040】
一方、潤滑剤Bについては、基油粘度40mm2/s(40℃)以上、ちょう度は430以下であることが好ましい。これは図3(B)に示すように、基油粘度が大きい程発生する騒音は小さくなる傾向に鑑みて、減速部の騒音を望ましい程度にまで低減するためである。
【0041】
但し、この場合においても、前述した潤滑剤Aと潤滑剤Bとの基油粘度及びちょう度の関係は成立している必要がある。
【0042】
尚、上記数値が好ましい理由は、例えば小型の減速機に適用する場合など、潤滑剤Aとの関係では高基油粘度、低ちょう度であっても、上記の数値から外れると、効果的な騒音低減が必ずしも望めないからである。
【0043】
次に、減速機120が備わるギヤドモータGM100の作用について説明する。
【0044】
モータ110に通電されると、モータ駆動部111の作用によりモータ軸118が回転する。モータ軸118の回転は一体形成される減速機の入力軸122へと伝達され、入力軸122の先端部に備わるハイポイドピニオン123を介してハイポイドギヤ134を回転させる。このとき、ハイポイドピニオン123とハイポイドギヤ134とは直交して噛合しているため、入力軸122の回転は略90度方向転換されて出力軸136へと伝達される。この出力軸136の回転は図示せぬ相手機械に伝達される。
【0045】
このような動作を行なうギヤドモータでは、特に歯車同士が噛合する減速部135において騒音(主として噛合音)が発生する。しかし、前述したように減速機内部126には、基油粘度が高く、ちょう度の低い潤滑剤Bが封入されていることで騒音レベルを抑えている。
【0046】
一方、入力軸122の周囲に設けられているオイルシール150の内部150Nには、基油粘度が低くちょう度の高い潤滑剤Aが封入されているため、オイルシール150と入力軸122との摺動ロスを抑えることができる。即ち、入力軸122の駆動トルクは、減速機120全体の中では相対的に小さいため、使用する潤滑剤の基油粘度やちょう度の影響を受け易くなる。そこで基油粘度が小さくちょう度の大きな潤滑剤Aを用いることにより、減速機全体としての駆動ロスの低減を実現している。
【0047】
尚、出力軸136に設けられるオイルシール146の潤滑剤については入力軸とは事情が異なる面があり本発明では特に限定されない。
【0048】
このように騒音の原因とはなり難いオイルシール部においては、低基油粘度・高ちょう度の潤滑剤を使用し、且つ、騒音を発生し易い減速部においては、高基油粘度・低ちょう度の潤滑剤を使用することで、低騒音・低駆動ロスの減速機(ギヤドモータ)を実現している。
【0049】
尚、前記オイルシール150の構造は、図2(A)に示すように、いわゆるシングルシール構造を前提として説明したが、これに限られるものでなく、図2(B)に示すように補助リップ、ばねのない補助オイルシール152Sを設けてもよい。このとき、オイルシール内部152Nと補助オイルシール152Sの内部152SNとに封入する潤滑剤の基油粘度やちょう度を適宜変更してもよい。例えば、オイルシール内部152Nに封入する潤滑剤をより低基油粘度・高ちょう度にしてもよい。又、オイルシール152と補助オイルシール152Sとの間に隙間を設けても良い。又、同図(C)に示すようにオイルシール154を2つ並べてダブルシール構造としてもよい。この際にも、2つのオイルシール内部154Nに封入する潤滑剤の特性を異ならせてもよい。このようにすれば、潤滑剤漏れを防止しつつ、更なる低駆動ロスを実現できる。又、オイルシール154間に隙間を設けても良い。更には、同図(D)に示すように、オイルシール156の内部に補助リップ156Sを有し、合計3つのリップ部156Lを備えたトリプルリップ構造としてもよい。このようにすれば、低基油粘度、高ちょう度の潤滑剤を使用したとしても、より確実にオイルシール部からのオイル漏れを防止することが可能となる。
【0050】
又、前述したように、ハイポイドギヤセットの減速機に本発明を適用すれば、より効果は高いものであるが、このタイプの減速機に限られるものではない。
【0051】
更に、1段の減速部を備えた減速機として説明したが、これに限らず、より噛合部分の多い複数段の減速機に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
減速機に適用できることは勿論、増速機などその他の歯車装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】(A)は、本発明の実施形態の一例である減速機を備えたギヤドモータGM100の一部展開側断面図 (B)は、本発明の実施形態の一例である減速機を備えたギヤドモータGM100の一部展開平断面図
【図2】(A)は、図1(A)における矢示IIA付近の拡大図 (B)は、オイルシールの他の実施例を示す図であり、図2(A)相当図 (C)は、オイルシールの他の実施例を示す図であり、図2(A)相当図 (D)は、オイルシールの他の実施例を示す図であり、図2(A)相当図
【図3】(A)は、基油粘度と引張荷重(摺動ロス)との関係を示す表 (B)は、基油粘度と騒音の関係を示す表
【図4】特許文献1記載の減速機
【符号の説明】
【0054】
GM100…ギヤドモータ
110…モータ
118…モータ軸
120…減速機
122…入力軸
123…ハイポイドピニオン
124…減速機ケーシング本体
126…減速機内部
134…ハイポイドギヤ
135…減速部
136…出力軸
138…カバー
139…孔
140…ボルト
142、144…軸受
150…オイルシール
150N…オイルシール内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、該入力軸の回転を変速する変速部と、変速された回転を出力する出力軸とを備えた歯車装置において、
前記入力軸にオイルシールが設けられ、該オイルシール部の潤滑剤の基油粘度が前記変速部の潤滑剤の基油粘度よりも小さく、且つ、
前記オイルシール部の潤滑剤のちょう度が前記変速部の潤滑剤のちょう度よりも大である
ことを特徴とする歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記入力軸にはハイポイドギヤが一体形成されている
ことを特徴とする歯車装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記オイルシール部の潤滑剤の基油粘度は100mm2/s以下である
ことを特徴とする歯車装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記変速部の潤滑剤の基油粘度は40mm2/s以上である
ことを特徴とする歯車装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記オイルシール部の潤滑剤のちょう度は400以上である
ことを特徴とする歯車装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記変速部の潤滑剤のちょう度は430以下である
ことを特徴とする歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−266428(P2006−266428A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87030(P2005−87030)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】