説明

段差に優れたパイル布帛

【課題】長パイル部の平均パイル長が短くても、長パイル部と短パイル部に生じる段差が大きく明確な、段差パイル布帛を提供する。
【解決手段】長パイル部と短パイル部を有する段差パイル布帛であって、短パイル部がアクリロニトリルを30〜45重量%含有するアクリル系繊維であり、パイル布帛の平均パイル長が5〜10mmであり、かつ、長パイル部と短パイル部の段差が平均パイル長の35〜80%であるパイル布帛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外観特性に優れた段差パイル布帛に関するものである。本発明のパイル布帛は、段差パイル布帛において、長パイル部と短パイル部、または、中パイル部と短パイル部の段差がかなり強調された外観特性に極めて優れたものであり、その結果、衣料、玩具(ぬいぐるみ等)及びインテリア用等の広範囲に新たな商品企画を可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維は、獣毛ライクな風合いおよび光沢を有し、ニット分野をはじめボア、ハイパイルの分野に広く使用されている。さらに、近年、これらのアクリル系繊維を用いることで、パイルの外観や風合いをより天然毛皮に近づける要望が高まってきている。元来、天然毛皮は立毛部がガードヘアー(刺し毛)とダウンへーアー(綿毛)から構成される構造を有しているのが一般的である。これにはチンチラの様に1本1本の毛の色相が系の長さ方向に変化しているもの、また、ミンクのように長くて太いガードヘアーと細くて短いダウンヘアーの2層構造となっているもの等、動物によりその特徴は様々である。このような構造をそのまま真似たものが合成繊維からなるパイル製品である。
【0003】
通常、パイル製品は、天然毛皮に近づけるために、ガードヘアー(長パイル部)を非収縮繊維で、ダウンヘアー(短パイル部)を収縮繊維で構成するのが一般的であり、長パイル部と短パイル部との段差が大きく、明確な程、外観特性に優れ、その商品性が向上する。
【0004】
段差を大きく、明確にする技術として、アミノ基を有するオルガノポリシロキサンを繊維表面に付着してなる収縮率15%以上を有する収縮繊維であって、収縮後の繊維−繊維間の静摩擦係数が0.230以下であるパイル用収縮繊維が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この収縮繊維では、長パイル部の平均パイル長を短くすると、段差が小さくなり、外観特性に劣るという欠点があった。
【0005】
長パイル部の平均パイル長が短いパイル布帛は、近年、市場で流行しており、長パイル部の平均パイル長が短くても段差が大きく、明確な、段差パイル布帛が要求されている。しかし、短パイル部に従来の収縮繊維を用い、長パイル部の平均パイル長が短い段差パイル布帛を作成した場合、長パイル部の平均パイル長が短くなるため、プレポリッシング時の熱が収縮繊維に伝わりやすくなる。そのため、プレポリッシング時の熱で先に収縮してしまい、パイル裏面にアクリル酸エステル系接着剤を付着させ130℃で乾燥させる時の熱で収縮する割合が小さくなり生じる段差が小さくなる。さらに、段差が小さくなる事で、短パイル部に、ポリッシャーやブラシがあたりやすくなり、短パイル部が伸びやすくなるため、長パイル部と短パイル部の段差がさらに小さくなるといった問題が生じる。
【0006】
また、長パイル部、中パイル部及び短パイル部を有する段差パイル布帛を作成するために、特許文献2記載の収縮率が15%以上、平均繊維長が15〜25mmの繊維を短パイル部に使用する技術がある。あらかじめ繊維長の短い繊維を短パイル部に用いる事で、中パイル部と段差をつける事が可能であるが、繊維長が短いために、プレポリッシング処理で捲縮が伸ばされず、プレシャーリング処理でカットされないために、段差が不明確になる。
【0007】
これらの問題は、未だ解決されておらず、長パイル部の平均パイル長が短い段差パイル布帛および、長パイル部、中パイル部及び短パイル部を有する段差パイル布帛では、満足のいく物は得られていない。
【特許文献1】特開昭60−21978号公報
【特許文献2】特願平09−316750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、長パイル部の平均パイル長が短くても、長パイル部と短パイル部に生じる段差が大きく明確な、段差パイル布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1は、長パイル部と短パイル部を有する段差パイル布帛であって、前記、短パイル部がアクリロニトリルを30〜45重量%含有するアクリル系共重合体からなる繊維であり、パイル布帛の長パイル部の平均パイル長が5〜10mmであり、かつ、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35〜80%であるパイル布帛である。
【0010】
本発明の第2は、長パイル部と、長パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する中パイル部と、中パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する短パイル部からなる3段パイル布帛であって、前記、短パイル部がアクリロニトリルを30〜45重量%含有するアクリル系共重合体からなる繊維であり、長パイル部の平均パイル長が10〜30mmであって、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35〜80%であり、かつ中パイル部と短パイル部の段差が1mm以上あるパイル布帛である。
【0011】
また、短パイル部が、アクリロニトリル30〜45重量%、塩化ビニリデンまたは塩化ビニルモノマー55〜70重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0〜5重量%からなる繊維で構成され、短パイル部を構成する繊維が、紡糸工程後の延伸工程において、2次延伸倍率を1.8倍以上とし、前記延伸工程後に熱緩和しないことを特徴とし、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の40〜75%であり、短パイル部に、収縮率が40〜75%の繊維を用いる事が好ましい。
【0012】
さらに、プレポリッシング後に、パイル布帛を構成する各パイル部を、請求項1記載の長パイル部の平均パイル長にシャーリングした後、テンター工程で収縮させ、段差パイルを得る事を特徴とする、前記パイル布帛の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のパイル布帛は、段差パイル布帛において、長パイル部と短パイル部、または、中パイル部と短パイル部の段差がかなり強調された外観特性に極めて優れたものであり、その結果、衣料、玩具(ぬいぐるみ等)及びインテリア用等の広範囲に新たな商品企画を可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明でいうパイル部とは、パイル布帛(立毛布帛)の基布(地糸の部分)の部分を除く立毛部分を指すものであり、パイル長とは、前記の立毛部分の根本から先端までの長さをいう。長パイル部の平均パイル長とは、パイル布帛中のパイル部を構成している繊維を、毛並みが揃うように垂直に立たせ、長パイル部を構成している、繊維の根元から先端までの長さ(パイル布帛裏面からの長さではない)の測定を10ヶ所について行った値の平均値である。また、中パイル部、短パイル部の平均パイル長も同様である。さらに、段差パイルの段差とは、上記の方法によって測定された各パイル部の平均パイル長の差である。
【0015】
本発明でいう、段差パイル布帛とは、長パイル部と長パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する短パイル部からなる2段パイル布帛や、長パイル部と、長パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する中パイル部と、中パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する短パイル部からなる3段パイル布帛を示す。2段パイル布帛の長パイル部と短パイル部のそれぞれがパイル全体を占める割合は、長パイル部/短パイル部=10〜90重量%/90〜10重量%の構成であることが好ましく、3段パイル布帛においては、長パイル部と中パイル部と短パイルのそれぞれがパイル全体に占める割合としては、長パイル部/中パイル部/短パイル部=5〜90重量%/5〜90重量%/90〜5重量%の構成である事が好ましい。
【0016】
前記の長パイル部とは、例えば、図1に示すような3段パイル布帛においては、パイル長の最も長い(部分a)、いわゆるガードヘアー部を示し、中パイル部とは、パイル長が長パイル部についで、長い(部分b)、いわゆるミドルヘアー部を示し、さらに、短パイル部とはパイル長が最も短い(部分c)、いわゆる、ダウンヘアーを示す。
【0017】
本発明において、長パイル部の平均パイル長が短い2段パイル布帛とは、長パイル部の平均パイル長が10mm以下のパイルである。
【0018】
長パイル部の平均パイル長が5mm未満では、長パイル部と短パイル部との段差が小さくなり、また、10mm以上では段差が大きくなりすぎるために、外観特性に劣る。
【0019】
本発明の2段パイル布帛において、長パイル部と短パイル部の段差は長パイル部の平均パイル長の35〜80%が好ましい。35%未満では、段差が小さく外観特性に劣り、また、80%を超えると、短パイル部が長パイル部を支えられず、立毛感に劣ったパイル布帛になる。長パイル部と短パイル部の段差は長パイル部の平均パイル長の40〜75%であるとさらに好ましい。
【0020】
本発明の3段パイル布帛において、長パイル部の平均パイル長は10〜30mmが好ましい。長パイル部の平均パイル長が10mm未満では、短パイル部と中パイル部の段差が小さくなり、また、30mmを超えると、短パイル部と長パイル部との段差が大きくなりすぎるため、外観特性に劣る。
【0021】
本発明の3段パイル布帛において、長パイル部と短パイル部の段差は長パイル部の平均パイル長の35〜80%である。35%未満では短パイル部と中パイル部の段差が生じにくく外観特性に劣り、80%を超えると、短パイル部が長パイル部を支えられず、立毛感に劣ったパイル布帛になる。長パイル部と短パイル部の段差は長パイル部の平均パイル長の40〜75%であるとさらに好ましい。
【0022】
本発明の3段パイル布帛において、中パイル部と短パイル部の段差が1mm以上である。中パイル部と短パイル部の段差が1mm未満になると、中パイル部と短パイル部の区別が付きづらく、外観特性に劣ったパイル布帛になる。
【0023】
本発明の2段パイル布帛、3段パイル布帛において、短パイル部に、収縮率が40〜75%の繊維を用いる事が好ましい。40%未満では、段差が小さく外観特性に劣り、また、75%を超えると、短パイル部が長パイル部を支えられず、立毛感に劣ったパイル布帛になる。
【0024】
本発明でいう、段差パイル布帛は、長パイル部を非収縮繊維、中パイル部を収縮率10〜40%を有する収縮繊維、短パイル部を収縮率40〜75%を有する収縮繊維を用いる事で作成する事ができる。
【0025】
本発明でいう、非収縮繊維とは、収縮率10%以内の繊維である。
また、収縮率は、収縮前の繊維長をL0、均熱オーブン中で130℃、5分間収縮させた後の繊維長をLとした時に、下記式(1)より求められる。
【0026】
収縮率(%)=(L0−L)/L0…(1)
例えば、3段パイル布帛を作成する場合、短パイル部、中パイル部、長パイル部を構成する繊維を混綿し、これを通常のパイル加工により、基布の表面に植え込んでパイル部を構成し、次いで、120℃でプレポリッシング処理とプレシャーリング処理を行い、パイル長をそろえた後、パイル裏面にアクリル酸エステル系接着剤を付着させ、130℃で乾燥させる。その際に与えられる熱により、収縮繊維は収縮し、長パイル部、中パイル部、短パイル部が形成される。その後、ポリッシャー仕上げ、及びシャーリングを行い、立毛表層部のクリンプを除去することで一定長のパイル長を持つ3段パイル布帛が作成できる。
さらに、平均パイル長の短い2段パイル布帛を作成する場合、短パイル部に従来の収縮繊維を用いると、上記で述べた様に段差が明確な2段パイル布帛が得らない。しかし、短パイル部を構成する繊維に収縮率が高い35〜80%の収縮繊維を用いると、長パイル部の平均パイル長が短くなり、短パイル部を構成する収縮繊維にプレポリッシング時の熱が伝わり、先に収縮しても、収縮率が高い為に、パイル裏面にアクリル酸エステル系接着剤を付着させ130℃で乾燥させる時の熱で、さらに収縮する為、平均パイル長が短くとも、段差が明確な2段パイルを得る事ができる。
【0027】
本発明でいう、短パイル部を構成する、アクリル系繊維の繊度は1〜10dtexが好ましい。短パイル部を構成する、アクリル系繊維は、アクリロニトリルを20〜60重量%含んだ、アクリル系共重合体からなる繊維をいう。より好ましくはアクリロニトリルが30〜45重量%の範囲であり、アクリロニトリルが20重量%未満では、耐熱性が低下し、パイル加工性に劣り、また、60重量%を超えると収縮性が劣るため、段差が大きく、明確な段差パイル布帛が作成できない。
【0028】
前記アクリル系共重合体とはアクリロニトリルと共重合可能な他のビニル系モノマーを80〜40重量%及びこれらと共重合可能なスルホン酸基含有ビニル系モノマー0〜10重量%よりなる共重合体である。
前記のアクリロニトリルと共重合可能なビニル系モノマーとしては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニル及びハロゲン化ビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸に代表される不飽和カルボン酸類及びこれらの塩類、アクリル酸メチルやメタクリル酸メチルに代表されるアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート等に代表される不飽和カルボン酸のエステル類、酢酸ビニルや酪酸ビニルに代表されるビニルエステル類、アクリルアミドやメタクリルアミドに代表されるビニル系アミド類、メタリルスルホン酸やその他ビニルピリジンやメチルビニルエーテル、メタクリロニトリル等公知のビニル化合物があり、これらの1種類あるいは2種類以上を共有して得られるアクリル系共重合体であってもよい。
【0029】
これらの中でも、繊維に加工した時の収縮特性、触感、外観の点から塩化ビニル、塩化ビニリデンが好ましく、特に高収縮率の繊維を得るためには塩化ビニリデンを使用する事が好ましいが、これらを併用する事も可能である。さらに、前記繊維を短パイル部として使用する際に収縮率を得るためには、前記モノマーを55〜70重量%用いる事が好ましい。
【0030】
また、前記スルホン酸含有ビニル系モノマーとしては、スチレンスルホン酸、パラスチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、パラメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはこれらの金属塩類およびアミン塩類等を用いることができる。
【0031】
これらの中でも、共重合時の反応性、繊維への加工性および、繊維に加工した時の染色性の点からスチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸が好ましく、さらに、上記アクリルモノマーならびにビニル系モノマーとの共重合時の反応性よりスチレンスルホン酸を使用する事が好ましく、繊維への加工性、繊維に加工した時の染色性の点から0〜5重量%使用する事が好ましい。
【0032】
上記アクリル系共重合体を、有機溶剤、例えば、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等に溶解させて紡糸原液とする。この紡糸原液には、酸化チタン、又は複数の顔料、着色剤、防錆、着色防止、耐光性等の効果のある安定剤を、紡糸に支障をきたさない限り使用することも可能である。この紡糸原液を通常、湿式あるいは、乾式の紡糸法でノズルより紡出し、その後1次延伸、乾燥を行う。得られた糸条を70〜140℃で1.2〜4.0倍に2次延伸し、熱緩和しないことにより、高収縮率の繊維を得ることができるが、2次延伸次の延伸倍率を1.8倍以上とする事で、収縮率が40〜75%の収縮性の繊維を得る事が出来るので好ましい。
【0033】
本発明における、短パイル部を構成するアクリル系繊維の断面は特に特定されないが、通常、湿式又は乾式により得られるアクリル系繊維の断面形状である円形又はまゆ形あるいはそれらを若干変形したもの、更には、扁平又は楕円あるいは中空形断面等の断面を有すものを適用することも差し支えない。
【0034】
本発明でいう、長パイル部と中パイル部を構成する繊維の繊度、断面は特に限定されないが、好ましくは、繊度が1〜20dtex、断面は、円形又はまゆ形あるいはそれらを若干変形したもの、更には、扁平又は楕円あるいは中空形断面等の断面を有すものが良い。
【0035】
本発明でいう、長パイル部と中パイル部を構成する繊維の種類は、特に限定されないが、アクリル系繊維や、ポリエステル系繊維等が好ましい。
【0036】
本発明の目的は、長パイル部の平均パイル長が5〜10mmであっても、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35〜80%の段差が生じる段差パイル布帛を提供することにある。
【0037】
今回その問題を解決するための一つの手段として、短パイル部に、従来の収縮繊維よりもアクリロニトリル含有率を下げ、収縮率を大きくした収縮繊維を作成した。この収縮繊維を短パイル部に用いる事で、長パイル部の平均パイル長が5〜10mmであり、プレポリッシングの際に収縮しても、さらにテンター工程でさらに収縮する為、長パイル部と短パイル部に生じる段差を大きくする事ができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。実施例の記載に先立ち、評価法について説明する。
【0039】
(A)パイル布帛の作成
得られた繊維に対し、油剤付与、機械クリンプ及びカット等の必要な処理、操作を行った。その後、短パイル部、中パイル部、長パイル部を構成する繊維と混綿、調湿した後オープナー、カードを経てカードスライバーを作成し、ハイパイル編織機でスライバーニッテイングを行い、パイル布帛を編成した。次いでプレポリッシング処理とプレシャーリング処理を行い、クリンプを軽く伸ばし、繊維の方向性を揃え、各パイル部を構成する繊維のパイル長を揃えた後、パイル裏面にアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティングを行い、テンター工程の130℃の熱でアクリル酸エステル系接着剤を乾燥させると同時に、その時の熱で収縮繊維を収縮させた。その後、ポリッシャー仕上げ、及びシャーリングを行い、立毛表層部のクリンプを除去し、一定長のパイル長を持つハイパイル布帛を作成した。
【0040】
(B)外観特性官能評価
前記のようにして作成した段差パイル布帛に対し、長パイル部と短パイル部、または、中パイル部と短パイル部の段差が強調された外観特性の程度を視覚的及び感覚的な観点から、3段階評価による官能的評価を行い、以下の基準で評価した。
○:段差パイル布帛において、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35〜80%であり、かつ3段パイル布帛においては、中パイル部と短パイル部の段差が平均パイル長の1mm以上ある、各パイル部の段差が強調された外観を有する。
△:段差パイル布帛において、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35%未満であり、かつ3段パイル布帛においては、中パイル部と短パイル部の段差が平均パイル長の1mm未満である、各パイル部の段差があまり強調されていない外観を有する。
×:段差パイル布帛において、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の20%未満であり、かつ3段パイル布帛においては、中パイル部と短パイル部の段差がみられず、各パイル部の段差がほとんど見られない外観を有する。
【0041】
(製造例1)
(製造例1)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水12000g、ラウリル硫酸ナトリウム54g、亜硫酸25.8g、亜硫酸水素ナトリウム13.2g、硫酸鉄0.06g、アクリロニトリル294g、塩化ビニリデン3870gを投入し、窒素置換した。重合機内温を50℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム2.1gを投入し、重合を開始した。途中、アクリロニトリル1806g、スチレンスルホン酸ナトリウム30g、過硫酸アンモニウム13.8gを追加しながら、重合時間5時間10分で重合した。その後、未反応VCを回収し、ラテックスを重合機より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し、重合体1を得た。得られた重合体1を重合体濃度29重量%になるようにアセトンに溶解し、それに対して、カーボンブラックを主とした複数の着色剤を2.89重量部添加して紡糸原液を調整した。この紡糸原液を0.09mmφ、10000孔の口金を通して25℃、25%アセトン水溶液中に吐出し、この糸条を25℃、25%水溶液中で2倍に延伸後85℃で水洗した後、130℃で乾燥した糸条を得た。さらにその糸条を、100℃で2.0倍に延伸し最終2.0dtexの収縮繊維を得た。得られた収縮繊維の収縮率は、69.5%であった。
【0042】
(製造例2)
内容積20Lの耐圧重合反応装置にイオン交換水12000g、ラウリル硫酸ナトリウム54g、亜硫酸25.8g、亜硫酸水素ナトリウム13.2g、硫酸鉄0.06g、アクリロニトリル294g、塩化ビニル3510gを投入し、窒素置換した。重合機内温を50℃に調整し、開始剤として過硫酸アンモニウム2.1gを投入し、重合を開始した。途中、アクリロニトリル2166g、スチレンスルホン酸ナトリウム30g、過硫酸アンモニウム13.8gを追加しながら、重合時間5時間10分で重合した。その後、未反応VCを回収し、ラテックスを重合機より払い出し、塩析、熱処理、ろ過、水洗、脱水、乾燥し、重合体2を得た。得られた重合体2を重合体濃度29重量%になるようにアセトンに溶解し、それに対して、カーボンブラックを主とした複数の着色剤を2.89重量部添加して紡糸原液を調整した。この紡糸原液を0.09mmφ、10000孔の口金を通して25℃、25%アセトン水溶液中に吐出し、この糸条を25℃、25%水溶液中で2倍に延伸後85℃で水洗した後、130℃で乾燥した糸条(乾燥糸)を得た。さらに乾燥糸を、100℃で2.0倍に延伸し最終3.2dtexの収縮繊維を得た。得られた収縮繊維の収縮率は、48.5%であった。
【0043】
(製造例3)
製造例2で作成した乾燥糸を、100℃で1.6倍に延伸し最終3.8dtexの収縮繊維を得た。得られた収縮繊維の収縮率は、38.7%であった。
【0044】
【表1】

(実施例1〜2)
製造例1〜2で得られた繊維にクリンプ付与を行った後、44mmにカットした。次いで、短パイル部を構成する製造例1で得られた収縮繊維50重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AH(収縮率5%未満)3.3dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(実施例1)、短パイル部を構成する製造例2で得られた収縮繊維50重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AH3.3dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(実施例2)とを混綿し、平均パイル長が8.5mm(実施例1)と8.3mm(実施例2)のパイル布帛を作成した。この時のパイル布帛の最終目付は870g/m2であった。得られた段差パイル布帛は、表1に示したように、長パイル部と短パイル部の段差がかなり強調された外観特性を有した。
【0045】
(比較例1〜2)
製造例3で得られた繊維にクリンプ付与を行った後、44mmにカットした。次いで、短パイル部を構成する製造例3で得られた収縮繊維50重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AH3.3dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(比較例1)、短パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AHD(収縮率32%)4.3dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AH3.3dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(比較例2)とを混綿し、平均パイル長が8.0mm(比較例1)と8.1mm(比較例2)のパイル布帛を作成した。
【0046】
この時のパイル布帛の最終目付はすべて870g/m2であった。得られた段差パイル布帛は、表1に示したように、比較例1は長パイル部と短パイル部の段差があまり強調されておらず、比較例2は長パイル部と短パイル部の段差がほとんど見られなかった。
【0047】
【表2】

(実施例3〜4)
製造例1〜2で得られた繊維にクリンプ付与を行った後、44mmにカットした。次いで、短パイル部を構成する製造例1で得られた収縮繊維30重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」RLM(収縮率5%未満)12dtex、44mm(鐘淵化学工業株式会社製)20重量部と中パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AHP(収縮率32%)4.4dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(実施例3)、短パイル部を構成する製造例2で得られた収縮繊維30重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」RLM12dtex、44mm(鐘淵化学工業株式会社製)20重量部と中パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AHP4.4dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(実施例4)とを混綿し、平均パイル長が15.3mm(実施例3)と15.5mm(実施例4)のパイル布帛を作成した。この時のパイル布帛の最終目付は1200g/m2であった。得られた段差パイル布帛は、表2に示したように、中パイル部と短パイル部の段差がかなり強調された外観特性を有した。
【0048】
(比較例3〜4)
製造例3で得られた繊維にクリンプ付与を行った後、44mmにカットした。次いで、短パイル部を構成する製造例3で得られた収縮繊維30重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」RLM12dtex、44mm(鐘淵化学工業株式会社製)20重量部と中パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AHP4.4dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(比較例3)、短パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」UHD(収縮率32%)4.3dtex、20mm(鐘淵化学工業株式会社製)30重量部と長パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」RLM12dtex、44mm(鐘淵化学工業株式会社製)20重量部と中パイル部を構成する市販アクリル繊維「カネカロン(登録商標)」AHP4.4dtex、32mm(鐘淵化学工業株式会社製)50重量部(比較例4)とを混綿し、平均パイル長が14.9mmのパイル布帛を作成した。この時のパイル布帛の最終目付は1200g/m2であった。得られた段差パイル布帛は、表2に示したように、比較例3は中パイル部と短パイル部の段差はあまり強調されておらず、比較例4は、短パイル部を構成するUHDが繊維長が20mmと短いため、プレポリッシング処理で捲縮が伸ばされず、プレシャーリング処理でカットされないために、短パイル部が明確にならず、中パイル部と短パイル部の段差はほとんど見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】三段パイル布帛における段差を表した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長パイル部と短パイル部を有する段差パイル布帛であって、前記、短パイル部がアクリロニトリルを30〜45重量%含有するアクリル系共重合体からなる繊維であり、パイル布帛の長パイル部の平均パイル長が5〜10mmであり、かつ、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35〜80%であるパイル布帛。
【請求項2】
長パイル部と、長パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する中パイル部と、中パイル部の平均パイル長より短い平均パイル長を有する短パイル部からなる3段パイル布帛であって、前記、短パイル部がアクリロニトリルを30〜45重量%含有するアクリル系共重合体からなる繊維であり、長パイル部の平均パイル長が10〜30mmであって、長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の35〜80%であり、かつ中パイル部と短パイル部の段差が1mm以上あるパイル布帛。
【請求項3】
短パイル部が、アクリロニトリル30〜45重量%、塩化ビニリデンまたは塩化ビニルモノマー55〜70重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0〜5重量%からなる繊維で構成された、請求項1または請求項2に記載のパイル布帛。
【請求項4】
短パイル部を構成する繊維が、紡糸工程後の延伸工程において、2次延伸倍率を1.8倍以上とし、前記延伸工程後に熱緩和しないことを特徴とする請求項3記載のパイル布帛。
【請求項5】
長パイル部と短パイル部の段差が長パイル部の平均パイル長の40〜75%である請求項1〜4のいずれかに記載のパイル布帛。
【請求項6】
短パイル部に、収縮率が40〜75%の繊維を用いる事を特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のパイル布帛。
【請求項7】
プレポリッシング後に、パイル布帛を構成する各パイル部を、請求項1記載の長パイル部の平均パイル長にシャーリングした後、テンター工程で収縮させ、段差パイルを得る事を特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のパイル布帛の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−2343(P2007−2343A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180736(P2005−180736)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】