説明

段差乗り越え機構を備えた歩行器

【課題】歩行器を使用する際に障害となる段差を容易に乗り越えることができる歩行器を提供する。
【解決手段】
本体フレーム2と、本体フレーム2の上面に設けられた肘受け3と、本体フレーム2の下部に設けられた少なくとも1つの前側車輪部4及び一対の後側車輪部19とを有する歩行器1において、前側車輪部4は、本体フレーム2の幅方向に延在して設けられた支持軸5と、支持軸5周りの異なる位置に設けられると共に支持軸5の軸線と平行な車軸6に支持された複数の車輪7と、各車輪7に対応して設けられると共に各車輪7を回転自在に支持する複数の支持アーム8bであって支持軸5に支持されて支持軸5の軸線周りで回転可能に設けられた支持アーム8bと、支持軸5を回転駆動する駆動機構9とを有し、駆動機構9は、支持軸5に連結されたモータ10と、接地する車輪7を変更すべくモータ10の駆動を制御する制御装置11,14とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、福祉・医療分野で用いられる歩行器に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行の困難な者の体重を支えてその自立歩行を助ける機器のひとつとして歩行器がある。一般に、歩行器は、歩行器を使用する者(以下、単に「使用者」という。)を囲むように組まれた使用者の体重を支持する枠状のフレームを有しており、使用者は前記枠状のフレームに掴まって歩行器を支えとして自立歩行または自立歩行のためのリハビリ等を行う。
【0003】
なお、シルバーカーと呼ばれる乳母車状の老人用走行車は、自立歩行が可能な高齢者等が歩行や物の運搬及び休息に用いるものであり、高齢者等を囲んでその体重を支持する枠状のフレームを有していないため、本願でいう歩行器とは機能、用途が異なる。また、シニアカー、高齢者用電動車と呼ばれる老人用走行車は、高齢者等を乗せて駆動輪により自走するものであり、高齢者等の自立的な歩行を介助することを目的としておらず、本願でいう歩行器とは機能、用途が異なる。したがって、以下、歩行器といった場合に上記老人用走行車は含まれない。
【0004】
ところで、歩行器には、フレーム下部の接地箇所に車輪(キャスター)を有するものと、有しないものとがある。それらのうち、車輪を有しない歩行器は、使用者がフレームの左右を交互に進行方向へずらす動作、または歩行器を持ち上げて進行方向に置く動作を繰り返して歩行できるように軽量な構造を有している。これに対し、車輪を有する歩行器は、前記動作が困難な使用者を対象としているため、使用者が体重を歩行器にあずけたままの姿勢で歩行できるように、車輪を有しない歩行器と比べて使用者の体重を支える働きが大きく、大型で重量のある構造をしていることが多い。したがって、床面に段差や溝などの障害物(以下、「段差」と称す)があった場合、使用者が車輪を有する歩行器を持ち上げて車輪を床面から浮かせることは困難である。
【0005】
このように、車輪を有する歩行器(以下、単に「歩行器」という。)は、段差のない平坦な場所で使用することを前提として作られており、病院や施設内などの広く、床や地面の整備された場所での使用には適している。
【0006】
しかし、前述のとおり、歩行器に体重をあずけている使用者が車輪を床や地面から浮かせることは難しいため、上記以外の場所、つまり住宅内や屋外(病院や介護施設の庭、自宅の外、公園等)などのわずかでも段差がある場所では、使用者が自身の体重を歩行器で支えながら段差を乗り越えることは困難である。
【0007】
そのため、歩行器の使用場所、つまり使用者の行動範囲が制限されていた。そこで、従来から段差を乗り越える機構(以下、「段差乗り越え機構」という。)を備えた歩行器が提案されてきた。
【0008】
例えば、段差乗り越え機構を備えた歩行器として、特許文献1に開示された従来技術がある。特許文献1に開示された歩行器は、体重を支持する枠体の下面に滑動安定板を有し、前記滑動安定板は前後にそり上がり部を形成し、またその一部が接地可能となっている。
【0009】
そして、段差を乗り越える際には、使用者は、上記滑動安定板のそり上がり部を段差に当てつつ歩行器を押しながら進め、上記滑動安定板の底部を段差上で滑らせることにより、歩行器に段差を乗り越えさせている。
【0010】
このように、特許文献1の歩行器は、段差を乗り越えることは可能ではあるが、使用者の体重の大部分が滑動安定板に掛かっており、段差を乗り越える際、使用者は、歩行器に勢いをつけて歩行器を強い力で押しながら進める必要があり、使用者には負担となる。
【0011】
また、滑動安定板は一部とはいえ常に接地しているため、滑動安定板が床面に擦れることにより床面に傷が付くことが想定される。
【0012】
さらに、上記従来の歩行器は屋内での使用を前提としており、屋外で使用すると、地面との接触により滑動安定板が摩耗し、破損する恐れがあり、屋外での使用が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−236670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明の課題は、歩行器を使用する際に障害となる段差を容易に乗り越えることが出来る歩行器を提供し、使用者が屋内のみならず屋外でも歩行器を使用出来るようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題のもとに、本発明は、段差乗り越え機構を備えた歩行器を以下のように構成した。すなわち、本発明の歩行器は、本体フレームと、本体フレームの上面に設けられた肘受けであって上方から見て使用者の背面側が開放した略「U」字型の形状を有する使用者を支えるための肘受けと、本体フレームの下部に設けられた少なくとも1つの前側車輪部及び一対の後側車輪部とを有する歩行器を前提とし、段差乗り越え機構としての前記前側車輪部は、前記本体フレームの幅方向に延在して設けられた支持軸と、該支持軸周りの異なる位置に設けられると共に前記支持軸の軸線と平行な車軸に支持された複数の車輪と、前記各車輪に対応して設けられると共に各車輪を回転自在に支持する複数の支持アームであって前記支持軸に支持されて前記支持軸の軸線周りで回転可能に設けられた支持アームと、該支持アームを回転駆動する駆動機構とを有している。また、前記駆動機構は、前記支持アームに連結されたアクチュエータと、接地する前記車輪を変更すべく前記アクチュエータの駆動を制御する制御装置とを有している。
【0016】
なお、前記制御装置は、接地する前記車輪を変更するための前記支持アームの回転量(回転角度)が予め設定され記憶される記憶器と、接地する前記車輪を変更するための駆動指令信号が入力されることにより前記アクチュエータを駆動する制御器とを含み、前記制御器は、前記駆動指令信号の入力に伴い、前記支持アームが前記記憶器に設定された回転量だけ回転するように前記アクチュエータを駆動するものとして構成されていてもよい。
【0017】
また、前記制御装置は、接地状態にある前記車輪に掛かる負荷を検出する検出器と、前記負荷の許容値が予め設定され記憶される記憶器と、前記記憶器に設定された前記負荷の許容値と前記検出器が検出した前記負荷の検出値とを比較して前記検出値が前記負荷の許容値を超えた場合に駆動指令信号を出力する比較器と、前記比較器からの駆動指令信号を受けて前記支持アームを回転駆動すべく前記アクチュエータを駆動する制御器とを含むものとして構成されていてもよい。
【0018】
ここで、「車輪に掛かる負荷」とは、歩行器使用時に使用者の体重を支える力を指すものではなく、車輪、つまり歩行器の進行方向と反対方向の力及びその力に関連する力を指す。例えば、「車輪に掛かる負荷」として、車輪が段差に接触した時に、車輪が段差から受ける反作用の力などが挙げられる。
【0019】
また、「負荷を検出する」とは、車輪に作用している「車輪に掛かる負荷」そのものを検出することに限らず、車輪に対し負荷が作用しているか否かを間接的に検出することも含む。具体的には、前記支持アームの回転量(回転角度)を検出して、負荷が掛かったことを間接的に検出してもよい。この場合の検出器は、アクチュエータを駆動する制御器に対し駆動指令信号が出力されていない状態にもかかわらず、支持アームに回転が発生したことを検出する回転検出器である。もちろん、前記支持軸に掛かっているトルクをトルク検出器により検出し、負荷の大きさそのものを検出してもよい。
【0020】
前記記憶器は、接地する前記車輪を変更するための前記支持アームの回転量(回転角度)が予め設定され、記憶されると共に前記比較器からの駆動指令信号を受けて前記支持アームが前記記憶器に設定された回転量だけ回転するように前記アクチュエータを駆動するものとしてもよい。
【0021】
前記制御装置は、前記車輪が一輪のみ接地した状態を維持するように前記アクチュエータの駆動を制御するものとして構成されていてもよい。
【0022】
歩行器は、使用者が手動で操作可能な操作スイッチを備え、前記制御装置は、前記使用者による前記操作スイッチの操作に伴って発生する駆動指令信号の入力により、接地する前記車輪を変更させるように前記アクチュエータの駆動を制御するものとして構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の歩行器は、段差乗り越え機構としての前側車輪部を支持軸周りに設けられた複数の車輪を含むものとして構成され、段差を乗り越える時には、接地する車輪を段差につまずいた(引っかかった)車輪から段差を乗り越えた位置にある車輪へと変更するように支持アームを回転させるから、この動作により、段差を乗り越えることが可能である。
【0024】
また、特許文献1の歩行器の滑動安定板のような、車輪以外で常に床面に接する部材を有していないため、歩行器の使用により床面を傷つけることがなく、さらには、屋内のみならず屋外(病院や介護施設の庭、自宅の外、公園など)でも歩行器を使用することにより、使用者の行動範囲を広げることに貢献出来る。
【0025】
なお、接地状態にある前記車輪に掛かる負荷を検出器により検出し、前記負荷が負荷の許容値を超えた場合に前記アクチュエータを駆動するように前記制御装置を構成すれば、歩行器が自動的に段差を検出して、この段差を乗り越えることができるため、使用者は段差を気にする必要がなく、歩行に専念出来る。
【0026】
また、前側車輪部の複数の車輪のうち一輪のみが接地する状態となるように歩行器を構成すれば、二輪が接地する状態と比較して、車輪と地面の摩擦抵抗が小さくなり、歩行器の旋回性能が向上する。
【0027】
また、段差乗り越え機構を作動させる操作スイッチを設ければ、使用者が操作スイッチにより任意に段差乗り越え機構を駆動することができ、車輪に負荷を掛けなくても、使用者の意志でスムーズに段差を乗り越えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例における歩行器1の正面図である。
【図2】本発明の一実施例における歩行器1の側面図である。
【図3】本発明の一実施例における歩行器1の平面図である。
【図4】本発明の一実施例における歩行器1の前側車輪部4の詳細斜面図である。ただし、アーム用ブラケット22を省略している。
【図5】本発明の一実施例における歩行器1の制御ブロック図である。
【図6】本発明の一実施例における歩行器1の制御装置14の内部処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施例における歩行器1の電源オン時の前側車輪部4の動作を示す部分側面図である。
【図8】本発明の一実施例における歩行器1の段差乗り越え時の前側車輪部4の動作を示す部分側面図である。
【図9】図1〜図8で示した実施例の変形例における歩行器1の制御ブロック図である。
【図10】(a)図1〜図8で示した実施例の変形例における歩行器1の前側車輪部4を示す部分側面図である。(b)歩行器1の旋回性を説明する平面図である。
【図11】図1〜図8で示した実施例の変形例における歩行器1の前側車輪部4を示す部分側面図である。
【図12】図1〜図8で示した実施例の変形例を示す正面図である。
【図13】図1〜図8で示した実施例の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1〜図4を参照して、本願発明の一実施例としての歩行器1を説明する。この実施例で示す歩行器1には、前側車輪部4及び後側車輪部19がそれぞれ二つずつ設けられている。歩行器1は、使用者を囲むように組まれた金属パイプ製の枠状の本体フレーム2を有しており、本体フレーム2の上面には使用者が肘、前腕部又は腋を載せて体を支えるための肘受け3が設けられ、本体フレーム2の下部には一対の前側車輪部4及び一対の後側車輪部19が設けられている。
【0030】
歩行器1は、上方から見て使用者の背面側(進行方向後側、以下、単に「背面側」という。)が開放されたフレーム構造を有しており、使用者は、歩行器1の背面側から歩行器1の本体フレーム2の内側に入ることができる。
【0031】
本体フレーム2は、前側車輪部4及び後側車輪部19が取り付けられるベースフレーム2aと、ベースフレーム2a上に立設された四本のスタンドフレーム2bと、スタンドフレーム2bの上端に設けられたアッパーフレーム2eとを有しており、それらは溶接等の手段により互いに連結されている。
【0032】
アッパーフレーム2eは、歩行器1を上方から見て背面側が開放した略「U」字型の形状を有しており、肘や前腕部等で使用者が体重を預けやすくするために、使用者の肩幅程度の幅で形成されている。
【0033】
ベースフレーム2aは、アッパーフレーム2eと同様に、歩行器1を上方から見て使用者の背面側が開放された略「U」字型の形状を有している。また、ベースフレーム2aには、使用者の正面側(進行方向前側、以下、単に「正面側」という。)の二隅にそれぞれ前側車輪部4が設けられ、背面側の二つの端部にそれぞれ後側車輪部19が設けられている。ここで、後側車輪部19は、前後左右方向に自由に方向を変えることが可能な脚輪(キャスター)であり、歩行器1の向きを自在に変えることができるようになっている。なお、後側車輪部19を全方向車輪、いわゆるオムニホイール(登録商標)としてもよい。前側車輪部4の詳細については後述する。
【0034】
四本のスタンドフレーム2bは、前側車輪部4の取付箇所近傍、及び後側車輪部19の取付箇所近傍のそれぞれにおいて、ベースフレーム2aの上面に立設されている。なお、本実施例では、歩行器1の安定性を高めて歩行器1(使用者)の転倒を防止するために、ベースフレーム2aの幅方向の寸法をアッパーフレーム2eの幅方向の寸法より大きくしている。そのため、歩行器1を正面から見ると、左右のスタンドフレーム2bは、その下部が「ハ」の字状の形状を有している。
【0035】
また、本実施例では、使用者の身長に応じてアッパーフレーム2eの高さ位置を調整できるようにするために、各スタンドフレーム2bは、その長手方向の寸法が調整可能に構成されている。具体的には、各スタンドフレーム2bは、ベースフレーム2aの上面に立設されるボトムフレーム2b1であって中空に形成されたパイプ状のボトムフレーム2b1と、アッパーフレーム2eの下面から下方へ伸びるスライドフレーム2b2であってボトムフレーム2b1に対し挿入可能なスライドフレーム2b2とで構成されており、スライドフレーム2b2をボトムフレーム2b1に挿入した状態で、調節ねじ21によりボトムフレーム2b1に対するスライドフレーム2b2の位置を固定する構成となっている。この構成により、調節ねじ21による固定を解除してボトムフレーム2b1に対するスライドフレーム2b2の挿入量を変更し、再度調整ねじ21で固定することにより、各スタンドフレーム2bの長手方向の寸法を変更することができ、それにより、アッパーフレーム2eの高さ位置を調整することができる。
【0036】
また、本実施例では、本体フレーム2の強度を高めるため、正面側に位置する二本のスタンドフレーム2bは、補強フレーム2cによって互いに連結されている。さらに、左右の各側面において、正面側に位置するスタンドフレーム2bと背面側に位置するスタンドフレーム2bとは、補強フレーム2dによって互いに連結されている。
【0037】
さらに、本体フレーム2において、アッパーフレーム2eの上面には、肘受け3が取り付けられている。この肘受け3は、スポンジ等の緩衝部材をビニール等のカバーで覆った構造となっており、使用者が歩行器1に体重を預けても肘、前腕部又は腋に痛みを感じないようになっている。
【0038】
なお、以上で説明した歩行器1の本体フレーム2の構成については、適宜に変更可能である。例えば、本実施例では、スタンドフレーム2bは前後二本ずつ設けられているが、前一本後ろ二本としてもよい。また、補強フレーム2c,2dは省略してもよい。
【0039】
次に、歩行器1の段差乗り越え機構としての前側車輪部4について説明する。なお、前側車輪部4は歩行器1の正面側の左右に一つずつ設けられるが、それら二つの前側車輪部4は左右対称の構造を有するので、以下では二つのうちの一方について説明し、他方の説明を省略する。
【0040】
本実施例の前側車輪部4は、主要な構成として、駆動機構9に含まれるアクチュエータとしてのモータ10と、モータ10によって回転させられる支持軸5と、支持軸5に支持され固定された十字型アーム8と、十字型アーム8の後述する各支持アーム8bにそれぞれ配置された四つの車輪7とを有している。
【0041】
支持軸5は、ベースフレーム2aの下面に固定された一対のアーム用ブラケット22に回転可能に支持されている。より詳しく説明すると、一対のアーム用ブラケット22のそれぞれには図示しない軸受が固定されており、その軸受間に本体フレーム2の幅方向と平行に支持軸5が架設されている。したがって、支持軸5は、本体フレーム2に対し回転可能である。なお、「幅方向」とは、歩行器1の進行方向(前後方向)に対し、直交する方向を示す。
【0042】
支持軸5には、一対のアーム用ブラケット22間において、支持軸5の軸線方向に離間して設けられた一対の十字型アーム8が相対回転不能に組み付けられている。各十字型アーム8は、板材で形成された同形状の部材であり、支持軸5に対する取り付け部分であるハブ部8aと、ハブ部8aから放射状に伸びる四つの支持アーム8bとを有しており、これらが一体的に成形されたものとなっている。また、四つの支持アーム8bは、ハブ部8aの中心周りに等しい角度間隔(90°間隔)を為すように形成されている。
【0043】
一対の十字型アーム8は、それぞれのハブ部8aの中心を支持軸5の軸線に一致させて支持軸5に固定されており、四つの支持アーム8bをそれぞれ対向させた状態で設けられている。このため、十字型アーム8(支持アーム8b)は本体フレームに対し回転可能である。また、各支持アーム8b間には、車輪7を支持する車軸6が架設されている。
【0044】
各車軸6は、ハブ部8aの中心すなわち支持軸5の軸心からの距離が等しい位置で、支持軸5と平行になるようにして、その両端部において支持アーム8bに固定されている。そして、各車軸6には、車輪7が回転自在に支持されている。もちろん、車軸6を支持アーム8bに対し回転自在に取り付け、車輪7が車軸6と共に回転自在な構造としてもよい。
【0045】
以上の構成により、本実施例の前側車輪部4は、支持軸5周りの異なる位置(90°間隔の位置)であって、かつ支持軸5の軸線から等しい距離の位置に四つの車輪7を有することとなる。なお、支持アーム8bの長さは、歩行器1の使用環境で想定される段差の高さに対応できるものに設定すればよい。
【0046】
また、段差や地面の凹凸から歩行器1に伝わる振動を低減させるために、本体フレーム2と前側車輪部4との結合部に、ばねやダンパー等の振動吸収装置を取り入れてもよい。
【0047】
なお、歩行器1の類似技術として、電動車輪で駆動され、且つ屋外で使用できる歩行支援ロボットが存在する。ここで、この歩行支援ロボットの電動車輪が万一制御不能となった場合、使用者の意に反して歩行支援ロボットが移動してしまい使用者に危険が及ぶ可能性がある。例えば、使用者を取り残したまま歩行支援ロボットが前進したり、或いは歩行支援ロボットが後退して使用者とぶつかることが考えられる。しかし、本発明の歩行器1は、前述の通り車輪7は支持アーム8bに対し回転自在(フリー)であり、駆動機構9は接地する車輪7を変更するように支持アーム8bを支持軸5の軸線周りで回転駆動するためのものであるため、万一モータ10が制御不能となり支持アーム8bが回転しても、車輪7及び車軸6が空転するだけであり、歩行器1が前進或いは後退することはない。従って、本実施例の歩行器1は、従来技術の電動車輪で駆動される歩行支援ロボットより使用者にとって安全である。
【0048】
次に、支持軸5を回転駆動する駆動機構9について説明する。駆動機構9は、主要な構成として、支持軸5に連結されたアクチュエータとしてのモータ10と、接地する車輪7を変更すべくモータ10の駆動を制御する制御装置14とを有する。モータ10及び制御装置14は、歩行器1に搭載された図示しないバッテリーに接続されており、バッテリーから電力の供給を受けている。
【0049】
モータ10は、出力軸23を支持軸5に平行にした状態で、モータ用ブラケット24によりベースフレーム2aの下面に取り付けられている。モータ10の出力軸23と支持軸5とは、出力軸23の回転を支持軸5に伝達するための駆動伝達機構25で連結されている。なお、モータ10の出力軸23には、出力軸23の回転角度又は回転量を検出する検出装置28が連結されている。検出装置28には、例えばエンコーダ又はポテンショメータが採用される。
【0050】
駆動伝達機構25は、出力軸23に固定されたピニオンギヤ26と、支持軸5に固定されてピニオンギヤ26と噛合するスパーギヤ27とで構成されており、モータ10の回転を減速して支持軸5へ伝達している。モータ10の回転は、次に説明する制御装置14によって制御される。
【0051】
モータ10の駆動を制御する制御装置14は、図5に示すとおり、主要な構成として検出器15と、記憶器16と、比較器17と、制御器18とから構成されている。なお、図示の操作スイッチ20及び起動スイッチ29については、本実施例では使用せず、後述の本実施例を変形した〔変形例1〕〔変形例2〕において用いる。以下に制御装置14の詳細を述べる。
【0052】
ここで、本実施例の歩行器1は、四つの車輪7のうち一輪のみが接地した状態(図2参照)で使用されるものとする。すなわち、制御装置14は、通常の走行時においては、支持軸5の位相が4つの車輪のうちいずれかに対応したものを維持するように、モータ10の駆動を制御し、支持軸5の位置を制御している。
【0053】
これは、四つの車輪7のうち二輪が接地した状態(図10(a)参照)では、接地面積が一輪のみが接地した状態より大きくなることで、直進安定性が増すが、接地面積が大きくなることで地面との摩擦抵抗も大きくなるため、歩行器1の使用環境(地面の状態等)によっては、旋回するときに一輪のみが接地した状態より強い力が必要となる(図10(b)参照)。したがって、一輪のみで接地した状態の方が使用者には使いやすい。もちろん、二輪が接地した状態でも、歩行器1は問題なく使用できる。
【0054】
検出器15は、その接地状態にある車輪7に掛かる負荷を検出するものであるが、本実施例では、この検出器15は、支持軸5の回転角度を検出(算出)するものとする。すなわち、歩行器1が上記の一輪接地の状態で使用される場合において、車輪7に負荷が掛かると、その負荷が十字型アーム8を介して支持軸5に作用し、その負荷の大きさに比例して支持軸5に回転が生じるため、支持軸5の回転角度を検出することで、支持軸5に掛かる負荷の検出の代替としている。なお、上記の車輪7にかかる「負荷」とは、車輪7が地面の凹凸を通過したり段差に接触したりすることで車輪7がその凹凸や段差から受ける反作用の力である。
【0055】
検出器15は、検出装置28に接続されており、検出装置28から出力されたモータ10の出力軸23の回転角度に基づいて支持軸5の回転角度を算出する。なお、支持軸5の回転角度(検出値)の算出は、モータ10の出力軸23に連結されたピニオンギヤ26と支持軸5に固定されたスパーギヤ27との間のギヤ比を用いて行われる。また、検出器15は、比較器17に接続されており、算出した支持軸5の回転角度を検出値として比較器17に出力する。
【0056】
記憶器16には、支持軸5(十字型アーム8)の位置を制御する際の目標値となる基準値と、車輪7に掛かる負荷の大きさから車輪7が段差に接触したのかを判断するための負荷の許容値とが予め設定、記憶されている。
【0057】
基準値は、前述の車輪7が一輪のみで接地した状態を維持するための制御に用いられる値であり、また、接地する車輪7を変更するために支持軸5(十字型アーム8)を所定の回転角度まで回転させるための制御にも用いられる。この基準値は、車輪7一つに付き一つ設定されており、本実施例では、支持軸5周りに90°間隔で車輪7が四つ配置されているので、例えば、ある一つの車輪7が接地した状態を初期位置(0°)とすれば、基準値は、基準値a(0°),基準値b(90°),基準値c(180°),基準値d(270°)の四つとなる。また、検出器15で検出される支持軸5の回転角度は、上記初期位置(0°)を原点とし、そこからの回転角度として求められる。
【0058】
一方、負荷の許容値は、車輪7が段差に接触したか否かの判別を行うために用いられる閾値である。すなわち、地面の凹凸を通過する場合と比べ、段差に接触した場合に車輪7に掛かる負荷が大きいことから、負荷があるレベルを超えた場合は段差に接触したと判断できるため、その閾値として負荷の許容値が設定される。また、前述のように、本実施例では、支持軸5に掛かる負荷を支持軸5の回転角度で代替して検出しているため、負荷の許容値も基準値からの回転角度で設定されている。
【0059】
比較器17は、検出器15から出力される検出値とその時点での接地状態にある車輪7に対応する基準値とを比較し、偏差の有無を判別する。そして、比較器17は、偏差が有る場合は、その偏差と記憶器16に設定された負荷の許容値とを比較し、比較結果に基づいて、制御器18に対し、後述の「一輪接地の状態を維持する動作」または「段差を乗り越える動作」を行わせるための駆動指令信号を出力する。
【0060】
制御器18は、比較器17からの駆動指令信号を受けて、支持軸5を回転駆動すべくモータ10の駆動を制御する。すなわち、制御器18は、駆動指令信号がオンの場合は、モータ10の出力軸23を回転させ、駆動指令信号がオフの場合は、モータ10の出力軸23を回転させない程度の電圧をモータ10に与え、出力軸23が停止した状態を維持する。
【0061】
次に、図5〜図8を参照して、本発明の歩行器1の動作を説明する。歩行器1の動作は、図6に示すとおり、次のA〜Bの三つに大別できる。
A.歩行器1の電源オン時に、車輪7を二輪接地(歩行器の待機状態)から一輪接地(歩行器の使用状態)に変更する動作(図7)。
B.Aの動作の後、一輪接地の状態を維持する動作。
C.Bの状態で車輪7が段差に接触した場合、支持軸5(十字型アーム8)を回転させて、段差を乗り越える動作(図8)。
以下に、各動作の詳細について説明する。
【0062】
<<A.歩行器の電源オン時の動作>>
(1)歩行器1の電源がオフのとき、前側車輪部4は、モータ10に電圧が掛かっておらず支持軸5が自由に回転する状態であるため、図7(a)に示すとおり、四つの車輪7のうちの二輪が接地した状態になっている。図示しない電源スイッチにより歩行器1の電源がオンされると、比較器17が検出器15の検出値(支持軸5の回転角度)を読み込む。次に、比較器17は、読み込んだ検出値に対し、支持軸5の正転方向(支持軸5の回転角度が大きくなる方向)で最も近い基準値を記憶器16から読み込んで記憶するとともに、その検出値と基準値との偏差を算出する。そして、その偏差を解消する位置まで支持軸5を回転させるために、比較器17が制御器18へ駆動指令信号を出力し、制御器18がモータ10への供給電圧を上げて支持軸5を正転方向へ回転させるようにモータ10を回転させる。
(2)次いで、比較器17は、駆動指令信号を出力しつつ順次検出器15からの検出値の読み込み及び前記偏差の算出を行い、支持軸5の回転に伴って偏差がゼロとなったとき、駆動指令信号の出力を停止する。それにより、制御器18によるモータ10への供給電圧が下げられ、モータ10の回転が停止して、支持軸5が前記基準値の回転角度まで回転した一輪接地の状態となる(図7(b))。
(3)前記(2)の後、下記<<B.一輪接地の維持動作>>を開始する。
【0063】
<<B.一輪接地の維持動作>>
(1)歩行器1の電源がオンの状態で比較器17から駆動指令信号が出力されていない状態では、制御器18は、モータ10の出力軸23が回転しない程度の電圧をモータ10に与え、出力軸23が停止した状態、すなわち、支持軸5が回転せずに一輪接地が維持された状態となるようにモータ10の駆動を制御する。
(2)一方、比較器17は、この一輪接地の維持動作中でも随時検出値と基準値との比較を行う。そして、歩行器1の走行に伴って車輪7に掛かる負荷によって支持軸5に回転が生じ、記憶している基準値と検出値との間に偏差が発生した場合には、先ず、その偏差と負荷の許容値とを比較する。この比較の結果、偏差が負荷の許容値以下の場合には、支持軸5の回転角度が現在記憶している基準値の状態で一輪接地となるように、この偏差を解消すべく、比較器17は、制御器18へ駆動指令信号を出力し、それに伴って制御器18は、モータ10に対する供給電圧を上げて前記偏差を解消する方向へモータ10を回転させる。
(3)比較器17は、駆動指令信号を出力しつつ順次検出値と基準値との偏差の算出を行い、偏差がゼロとなった場合、つまり偏差が解消されたとき、駆動指令信号の出力を停止する。それにより、制御器18は、モータ10に対する供給電圧を下げてモータ10の回転を停止させ、前記(1)に戻る。
【0064】
<<C.段差の乗り越え動作>>
(1)前記B(2)において、前記偏差と負荷の許容値とを比較した結果、偏差が負荷の許容値を上回った場合は、制御装置14は、歩行器1に段差を乗り越え動作を行わせるために、接地する車輪7を変更するように支持軸5を回転させる。詳細には、比較器17は、制御器18へ駆動指令信号を出力し、それに伴って、制御器18は、モータ10に対する供給電圧を上げて、支持軸5が正転方向に回転するようにモータ10を回転させる(図8(a)(b))。また、比較器17は、次に接地する車輪7の基準値を記憶器16から読み込み、記憶している基準値を新たに読み込んだ基準値に置き換える。ここで、「次に接地する車輪7の基準値」とは、図8(a)に示すとおり、現在接地している車輪7が車輪7a(基準値0°)ならば、次に接地する車輪7すなわち車輪7bの基準値(90°)を指す。
(2)比較器17は、駆動指令信号を出力しつつ順次検出値と新たな基準値との偏差の算出を行い、偏差がゼロとなった場合、駆動指令信号の出力を停止する。それにより、制御器18は、モータ10に対する供給電圧を下げて、モータ10の回転を停止させる(図8(c))。
(3)以上の動作により、支持軸5が正転方向に回転して接地する車輪7を車輪7aから車輪7bに変更させることで、歩行器1が段差を乗り越える。
(4)その後、制御装置14は、再び<<B.一輪接地の維持動作>>を開始する。
【0065】
以上では、本願発明の好適な一実施例を説明したが、本発明はこれに限らず、以下のような変形例として実施することも可能である。
【0066】
〔変形例1〕
前記実施例では、段差乗り越え動作を前側車輪部4に行わせるための支持軸5の回転に際し、車輪7に掛かる負荷(支持軸5の回転角度)の検出値と負荷の許容値との比較に基づいて比較器17が制御器18に対する駆動指令信号を出力するものとしたが、これに代えて、使用者の手動操作可能なスイッチを設け、この操作スイッチが操作されることに伴って制御器18に対し駆動指令信号が出力されるものとしても良い。具体的には次の通りである。
【0067】
例えば、図5に示すように、歩行器1が、比較器17に接続された操作スイッチ20を備えるものとする。そして、使用者によって操作スイッチ20がオンされることにより、前記実施例と同様に、制御器18に対し駆動指令信号を出力するとともに、記憶器16から新たな基準値を読み込むものとする。より詳しい制御装置14の処理内容は下記のとおりである。
【0068】
(1)操作スイッチ20のオン信号を比較器17が受けると、比較器17は制御器18への駆動指令信号を出力し、駆動指令信号を受けた制御器18は、モータ10に対する供給電圧を上げて、支持軸5が正転方向へ回転する方向にモータ10を回転させる。また、それに伴い、比較器17は、次に接地する車輪7の基準値を記憶器16から読み込み、記憶している基準値を新たに読み込んだ基準値に置き換える。
(2)次いで、比較器17は、駆動指令信号を出力しつつ順次検出器15からの検出値の読み込みと、この検出値と新たな基準値との偏差の算出とを行い、支持軸5の回転に伴って偏差がゼロとなったとき、駆動指令信号の出力を停止する。それにより、制御器18は、モータ10に対する供給電圧を下げてモータ10の回転を停止させる。
(3)以上の制御装置14の処理により、操作スイッチ20をオンすることで支持軸5が正転方向に90°回転して接地する車輪7を変更し、歩行器1が段差を乗り越える。
【0069】
本変形例の場合、前記実施例のように比較器17が車輪7に掛かる負荷と負荷の許容値とを比較する機能を持つことを省略することができる。但し、前記実施例と本変形例の操作スイッチ20とを併用するものとしても良い。すなわち、制御装置14が前記実施例の機能に加えて本変形例の機能を有し、比較器17からの駆動指令信号の出力が、車輪7に掛かる負荷の検出器に基づいて自動的に行われることに加え、使用者による手動操作でも行えるものとしても良い。
【0070】
また、上記例とは別に、図9に示すような、比較器及び検出器を省略した制御装置11を使用し、操作スイッチ20を操作することによって出力されるオン信号が駆動指令信号として出力されるものとしても良い。なお、この場合の駆動指令信号は、前記実施例とは異なり、制御器13に対しモータ31の駆動を開始させるきっかけを与える信号となる。
【0071】
また、制御装置11においては、上記実施例のような検出器が備えられていないため、制御器13は、検出された支持軸5の回転角度に基づく閉ループ制御ではなく、開ループ制御によりモータ31の駆動を制御するものとする。そのため、図9の例では、モータ31をパルスモータとし、制御器13は、上記駆動指令信号の入力に伴い、モータ31を車輪7の基準値に応じた回転量だけ回転させるためのパルス数のパルス列信号を出力するものとする。但し、ここで言う基準値に応じた回転量とは、前側車輪部4が段差乗り越え動作を行うときの支持軸5の回転量であり、前記実施例の前側車輪部4の構成の場合は一定量である90°である。すなわち、制御器13は、前側車輪部4が図4に示す構成の場合には、上記駆動指令信号の入力に伴い、モータ31の出力軸23に連結されたピニオンギヤ26と支持軸5に固定されたスパーギヤ27との間のギヤ比に基づき、支持軸5を90°回転させるためのパルス列信号を出力するものである。
【0072】
制御装置11について、詳細には、図9に示すように記憶器12と制御器13とから構成されており、操作スイッチ20は制御器13に接続されている。この制御装置11の処理内容は以下の通りである。但し、以下の説明では、前側車輪部4の機械的な構成は前記実施例(図4に示す例)と同じものとし、記憶器12には、前記実施例の各車輪7に対応する基準値に代え、支持軸5の回転量(90°)が設定されているものとする。また、制御器13には、モータ31の出力軸の回転量を支持軸5に伝達するためのギヤ列のギヤ比(減速比)が予め設定されて記憶されているものとする。
【0073】
(1)操作スイッチ20のオン信号(駆動指令信号)を制御器13が受けると、制御器13は、記憶器12から支持軸5の回転量を読み込み、その回転量と記憶している上記減速比とからモータ31へ出力すべきパルス数を求め、その求められたパルス数のパルス列信号を出力する。
(2)それにより、モータ31は受け取ったパルス数分だけ回転し、それに伴い、支持軸5が記憶器12に設定された回転量だけ回転する。
(3)以上の処理により、操作スイッチ20を操作することで支持軸5が正転方向に回転し、歩行器1は段差を乗り越える。
【0074】
なお、上記説明では、接地状態にある車輪7がいずれのものであっても段差乗り越え動作を行うための支持軸5の回転量が一定であるため、記憶器12にその回転量を設定するものとしたが、前記実施例と同様に、記憶器12に各車輪7に対応する基準値(回転角度)を設定するものとしてもよい。その場合、制御器13は、接地状態とする車輪7に対応する基準値を記憶可能に構成されているものとする。そして、制御器13は、駆動指令信号の入力に伴い、接地状態にある車輪7に対し支持軸5の正転方向における次の車輪7に対応する基準値を読み込み、現在の基準値と新たに見込んだ基準値との角度差を算出し、その角度差に応じたパルス列信号を出力するものとすればよい。
【0075】
また、図9の例では、制御装置11が検出器15及び比較器17を持たないため、前記実施例で示したモータ10の制御による車輪7の一輪接地の維持動作を行うことができない。したがって、制御装置11の構成では、モータ10をブレーキ付きのモータとしたり、或いは機械的な制動装置を使用したりするなど、車輪7の一輪接地を維持する構成を併用することが望ましい。
【0076】
例えば、ブレーキ付きのモータとしては、非通電時に制動が掛かる無励磁作動ブレーキ付きのモータを使用すればよい。このモータは、非通電時にモータの出力軸が回転しないため、歩行器1のバッテリーの消耗等によってモータが非通電状態となり、モータの出力軸が回転し、使用者が意図せずに車輪7が一輪接地状態から二輪接地状態になってしまうことを防止でき、使用者にとって安全である。さらに、車輪7の一輪接地状態ではモータに通電しないため、歩行器1の省電力化を図ることもできる。
【0077】
また、機械的な制動装置として、例えば、支持軸5や出力軸23、スパーギヤ27、十字型アーム8など、歩行器1の駆動伝達部材のいずれかにブレーキ装置を設け、車輪7が一輪接地を維持する場合は、ブレーキ装置で制動を掛けておく構成としてもよい。
【0078】
なお、上記のブレーキ付きモータや機械的な制動装置により車輪7の一輪接地を維持する構成を、前記実施例の構成に取り入れ、車輪7の一輪接地状態を維持するためのモータ10の制御を省略するものとしても良い。
【0079】
〔変形例2〕
前記実施例では、図示しない電源スイッチによって歩行器1の電源がオンされた時に、電源オンに連動した自動動作により前側車輪部4が二輪接地状態から一輪接地状態となるものとしたが、電源投入後の使用者による任意の操作、例えば、図5に示す起動スイッチ29を設け、この起動スイッチ29をオンする操作を行うことにより、電源投入後の使用者による任意の操作によって前側車輪部4が一輪接地状態となるようにしてもよい。この場合、起動スイッチ29は、比較器17に接続されるものとし、起動スイッチ29が操作された時の制御装置14の制御は、前記実施例における電源オン時の制御装置14の制御と同様である。
【0080】
〔変形例3〕
図1〜図9に示した実施例では、車輪7に掛かる負荷として代替で支持軸5の回転角度を検出するものとし、その検出装置28としてエンコーダ等のモータ10の出力軸23の回転角度を検出するものを採用したが、これに代えて、車輪7を介して支持軸5又はモータ10の出力軸23に掛かる負荷そのものを検出するものとして、検出装置28として支持軸5又はモータ10の出力軸23の駆動トルクを検出するトルク検出器を採用するものとしてももよい。この場合は、検出値及び負荷の許容値はトルクの値となる。
【0081】
さらに、車輪7に掛かる負荷として支持軸5の回転を検出する場合において、検出装置28を、支持軸5の回転位置や支持アーム8bの高さ位置を検出する非接触式センサ(近接スイッチ等)としてもよい。この場合は、車輪7が段差に接触したときの十字型アーム8の傾きによる支持軸5の回転や、支持軸5の回転に伴って変化する支持アーム8bの高さ位置を非接触式センサで検出すればよい。
【0082】
また、車輪7が段差に接触していないにもかかわらず、偶発的に且つ一時的に車輪7に対し大きな負荷が掛かった場合に、前側車輪部4が段差乗り越え動作を行ってしまうことを防止するために、所定時間継続して負荷の許容値を超える負荷が検出されたときにのみ、前側車輪部4が段差乗り越え動作を行うようにさせてもよい。また、この場合において、検出装置28の出力に移動平均処理をかけてもよい。
【0083】
〔変形例4〕
図1〜図9に示した実施例では、前側車輪部4を駆動するアクチュエータとしてモータ10を用い、ギヤ列によってモータ10の回転を支持軸5へ伝達しているが、前側車輪部4を駆動する構成を次のように構成してもよい。
(1)アクチュエータをソレノイドとする。
(2)アクチュエータの駆動力を支持軸5へ伝達する手段をベルト駆動とする。
(3)アクチュエータの出力軸の軸線が、支持軸の軸線と垂直に交わるようにアクチュエータをベースフレーム2aに取り付け、アクチュエータの出力軸の回転をベベルギヤで支持軸5に伝達する。
(4)(3)の構成で、ベベルギヤの代わりにウォームギヤを用いる。
【0084】
〔変形例5〕
図11は、前側車輪部4の車輪7を支持する支持アーム8bの変形例を示している。前記実施例では、車輪7の数を四つとしたが、これに限らず、図11(a)、(c)、(d)に示すように、車輪7の数は適宜に設定し、支持アーム8bの数をそれに応じたものとしても良い。なお、図11(a)に示すように、車輪7(支持アーム8b)が二つの場合おいて、段差乗り越え動作時における歩行器1の上下動を小さくするために、二つの車輪7、7間で支持軸5から半径方向に延びる別のアーム32を設けた方が好ましい。
【0085】
また、各支持アーム8bが支持軸5から半径方向へ放射状に延びる構成に限らず、図11(b)に示すように、「H型」アームによって四つの車輪7を支持するものとしても良い。なお、この場合、各車輪7を支持する支持アーム8bは各々がL字型で形成され、四つのL字型の支持アーム8bが一体形成されて「H型」アームを構成していると言える。因みに、図11(b)の構成の場合、支持アーム8bの構成は異なるが、支持軸5周りにおける四つの車輪7の配置は前記実施例と同じである。
【0086】
さらに、前記実施例では、各支持アーム8bに一つの車輪7が支持されているものとしたが、これに代えて、図11(e)に示すように、各支持アーム8bに支持される車輪7の数を2個とすることも可能である。また、前記実施例及び図11(a)〜(d)の例では、各車輪7が支持軸5を中心とした同一円周上に配置されるような支持アーム8bの構成としたが、これに限らず、図11(f)に示すように、支持軸5から車軸6までの距離が支持アーム毎に異なるようにしたものとしてもよい。
【0087】
以上のように、車輪7の数や支持軸5の周りにおける車輪7の配置は任意に設定可能であり、支持アーム8bは、それらに応じて適宜な構成とすれば良い。なお、複数の車輪7に応じて設けられる複数の支持アーム8bを、上記例のように必ずしも一体成形されたものにする必要は無く、各支持アーム8bを支持軸5の軸線方向に位置をずらして設けるものとしても良い。
【0088】
〔変形例6〕
図12は、図1〜図9に示した実施例において、モータ10を一つ省略し、一つのモータ10に連結された1本の支持軸30によって二つの前輪側車輪部4、つまり左右の十字型アーム8を同時に駆動する構成である。本構成では、図1〜図9に示した実施例の構成と比較して、モータ10の数が少ないため、より低コストで歩行器1を製作することが出来る。ただし、本構成では、左右どちらかの十字型アーム8に架設された車輪7のみに負荷が掛かった場合でも、支持軸30の回転により、左右両方の十字型アーム8が回転駆動されてしまう。このため、左右の車輪7に同時に負荷が掛からない状態、つまり片方の前側車輪部4のみが段差を乗り越える場合でも左右両方の十字型アーム8が回転することで、歩行器1の直進安定性が損なわれる恐れがある。したがって、図1〜図9に示した実施例のような左右の支持軸5が独立している構成と比較して、本変形例は直進安定性が劣ることが考えられるため、図1〜図9に示した実施例の構成の方が直進安定性に優れる。
【0089】
〔変形例7〕
図13は、図1〜図9に示した実施例において、前側車輪部4の数を一つとし、つまり前側車輪部4が一輪、後側車輪部が二輪の合計三輪で接地する歩行器1の例を示している。
【0090】
〔変形例8〕
図1〜図9に示した実施例において、支持軸5の回転により、次に接地して歩行器1を支える車輪7は、必ずしも隣り合った車輪でなくてもよい。例えば、図8では支持軸5の回転により、歩行器1を支える車輪7は、車輪7aから車輪7bに変わるが、必ずしも車輪7bではなく、車輪7bをとおり越して車輪7cに変えてもよい。
【0091】
〔変形例9〕
図1〜9に示した実施例では、本体フレーム2に対し回転可能に設けられた支持軸5に十字型アーム8(支持アーム8b)を固定し、支持軸5を駆動機構9で回転駆動することにより十字型アーム8(支持アーム8b)が回転させる構成としたが、これに代えて、支持軸5を本体フレーム2に対し回転不能とし、十字型アーム8を支持軸5に対し回転可能に設けられるものとして、駆動機構9により十字型アーム8を直接駆動する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 歩行器
2 本体フレーム
2a ベースフレーム
2b スタンドフレーム
2b1 ボトムフレーム
2b2 スライドフレーム
2c 補強フレーム
2d 補強フレーム
2e アッパーフレーム
3 肘受け
4 前側車輪部
5 支持軸
6 車軸
7 車輪
7a 車輪
7b 車輪
7c 車輪
7d 車輪
8 十字型アーム
8a ハブ部
8b 支持アーム
9 駆動機構
10 モータ
11 制御装置
12 記憶器
13 制御器
14 制御装置
15 検出器
16 記憶器
17 比較器
18 制御器
19 後側車輪部
20 操作スイッチ
21 調節ねじ
22 アーム用ブラケット
23 出力軸
24 モータ用ブラケット
25 駆動伝達機構
26 ピニオンギヤ
27 スパーギヤ
28 検出装置
29 起動スイッチ
30 支持軸
31 モータ
32 アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体フレームと、本体フレームの上面に設けられた肘受けであって上方から見て使用者の背面側が開放した略「U」字型の形状を有する使用者を支えるための肘受けと、本体フレームの下部に設けられた少なくとも1つの前側車輪部及び一対の後側車輪部とを有する歩行器において、
前記前側車輪部は、前記本体フレームの幅方向に延在して設けられた支持軸と、該支持軸周りの異なる位置に設けられると共に前記支持軸の軸線と平行な車軸に支持された複数の車輪と、前記各車輪に対応して設けられると共に各車輪を回転自在に支持する複数の支持アームであって前記支持軸に支持されて前記支持軸の軸線周りで回転可能に設けられた支持アームと、該支持アームを回転駆動する駆動機構とを有し、
前記駆動機構は、前記支持アームに連結されたアクチュエータと、接地する前記車輪を変更すべく前記アクチュエータの駆動を制御する制御装置とを有する
ことを特徴とする歩行器。
【請求項2】
前記制御装置は、接地する前記車輪を変更するための前記支持アームの回転量が予め設定され、記憶される記憶器と、接地する前記車輪を変更するための駆動指令信号が入力されることにより前記アクチュエータの駆動を制御する制御器とを含み、
前記制御器は、前記駆動指令信号の入力に伴い、前記支持アームが前記記憶器に設定された回転量だけ回転するように前記アクチュエータを駆動する
ことを特徴とする請求項1記載の歩行器。
【請求項3】
前記制御装置は、接地状態にある前記車輪に掛かる負荷を検出する検出器と、前記負荷の許容値が予め設定され、記憶される記憶器と、前記記憶器に設定された前記負荷の許容値と、前記検出器が検出した前記負荷の検出値とを比較して前記検出値が前記負荷の許容値を超えた場合に駆動指令信号を出力する比較器と、前記比較器からの駆動指令信号を受けて前記支持アームを回転駆動すべく前記アクチュエータを駆動する制御器とを含む
ことを特徴とする請求項1記載の歩行器。
【請求項4】
前記記憶器は、接地する前記車輪を変更するための前記支持アームの回転量が予め設定され、記憶されると共に前記比較器からの駆動指令信号を受けて前記支持アームが前記記憶器に設定された回転量だけ回転するように前記アクチュエータを駆動する
ことを特徴とする請求項3記載の歩行器。
【請求項5】
前記制御装置は、前記車輪が一輪のみ接地した状態を維持するように前記アクチュエータの駆動を制御する
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、又は請求項4記載の歩行器。
【請求項6】
使用者が手動で操作可能な操作スイッチを備え、
前記制御装置は、前記使用者による前記操作スイッチの操作に伴って発生する駆動指令信号の入力により接地する前記車輪を変更させるように前記アクチュエータの駆動を制御する
ことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、又は請求項5記載の歩行器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−143488(P2012−143488A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5897(P2011−5897)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】