説明

殺菌放射線への曝露時に酵素を安定化させる方法

本発明は酵素、例えばオキシダーゼ酵素、亜鉛及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源を含む組成物を提供する。当該組成物は通常、殺菌放射線、例えばγ線に当該組成物を曝露することにより殺菌される。亜鉛及び/またはアンモニウムイオン源と乳酸イオン源、例えばL−乳酸亜鉛を酵素含有組成物に組み込むことにより、殺菌後の酵素活性の改善が生じる。組成物中に亜鉛及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源が存在することにより、従って、殺菌放射線への曝露時に酵素の保護効果が生じ、酵素活性の優れた回復が得られる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は酵素、例えば、オキシダーゼ酵素を含む組成物、当該組成物を含む製品に関し、及び組成物中の酵素の安定化方法に関する。
【0002】
発明の背景
希釈水溶液(例えば、1μg/ml〜10mg/mlの濃度範囲)として人工用途に用いるために抽出及び調製された酵素はたいてい不安定であり、約4℃での保存または凍結は通常行われていることである。また、これらを乾燥状態に維持することにより、例えば、凍結乾燥(リュフィリゼーション)により、または糖“被覆”(sugar “glaze”)(糖ガラス化)中で乾燥させることにより安定した活性ナトリウム状態の酵素を維持することも知られている。もしくは、これらは硫酸アンモニウム飽和溶液中で沈殿させることにより安定化できる場合もある(また、通常はこの状態で低温で維持する)。水に溶解した酵素は通常は、比較的高濃度で冷蔵または凍結させておくことにより、活性状態を維持する。
【0003】
他の手段は添加剤を用いた酵素の安定化である。多数の組成物が文献中に記載されており、ここで溶液中の酵素は添加剤と混合され、例えば熱または化学物質による酵素分解を何らかの方法で防止する。酵素を安定化することが知られる添加剤の適当な例としては、高分子電解質、例えばポリ(メチルビニルエーテル−コ−無水マレイン酸)(ガントレッツ(Gantrez)として知られ、ガントレッツは商標である)、多糖類、例えば、硫酸デキストラン、及び中性水溶性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンの混合物が挙げられる。これらの添加剤の多くは、最終組成物中の酵素が使用強度に希釈される前の凍結乾燥または高濃度で保存されている場合に最も効果的である。酵素が水または水溶液中に溶解されている間、または水と緊密に接触している、例えば、湿潤表面に固定、または水性媒体中の溶解ポリマーまたはゲル形成ポリマーに結合している間、特に酵素が使用強度で存在する場合、すなわち希釈形態の場合の酵素の安定化に効果的な添加剤はほとんど知られていない。
【0004】
従って、特定の環境では酵素を安定化させることは難しく、酵素含有組成物を調製する種々の段階にわたってその活性を維持すること、特に製品の形態で活性を維持することは難しい。従って、酵素が当該組成物の使用時に活性となるようにすることもまた困難である。これは、限定されないが、特に酵素が水和状態の場合である。
【0005】
これらの問題は通常、酵素含有組成物を殺菌する必要がある場合にさらに悪化する。すなわち、当該組成物は望ましくない細菌を排除するために放射線の曝露による殺菌が必要である。
【0006】
水と接触した酵素は種々の放射線に曝露した場合、容易に損傷することは公知である。従って、酵素が例えば、水和状態で組成物中に存在する場合、放射線の使用は避けるべきであることは当業者に知られており、これらの酵素が組成物を使用する際に無傷で損傷を受けていない必要があれば特に避けるべきである。
【0007】
放射線による殺菌は組成物が一般的に高用量の殺菌放射線を受けることが必要である特に攻撃的なプロセスであり、通常は25〜40kGyの領域である。これらの状態は希釈使用強度で組成物中に存在する酵素及び/または例えば固体担体に不可逆的に結合することにより、組成物中に固定されていない酵素を特に損傷する。
【0008】
本発明はこのような安定性の問題を解決しようとするものである。
【0009】
発明の概要
1の側面において、本発明は酵素、乳酸イオン源、及び亜鉛イオン源、及び/またはアンモニウムイオン源を含有する組成物を提供する。
【0010】
本発明は、酵素を含み、限定されないが特に水和状態の組成物が殺菌放射線に曝露された場合、最終的な殺菌組成物の酵素活性が一般的に劣っているという観測に基づくものである。組成物への殺菌放射線曝露により通常、照射後の酵素活性はほとんど完全に失われる。しかしながら、亜鉛及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源を酵素含有組成物中に組み込むことで殺菌後の酵素活性の改善が生じることがわかった。組成物中の亜鉛またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源の存在は殺菌放射線曝露時に酵素の保護作用を有するようであり、従って、優れた酵素活性の回復が得られる。
【0011】
亜鉛イオンの効果はAkhtar M S等(2002)Biochemistry 41,7142−7149の、低濃度であっても、二価カチオンはグルコースオキシダーゼの変性及び酵素活性の阻害を生じるという最近の発見を考慮すると、特に驚くべきものである。
【0012】
本発明はオキシダーゼ酵素、特にオキシドレダクターゼ酵素、カタラーゼ及びラクトペルオキシダーゼなどの広範な酵素の用途を見出したものである。
【0013】
グルコースオキシダーゼはオキシダーゼ酵素の一例であり、適当な基質と酸素との反応を触媒して、多くの利点を有する公知の抗菌物質である過酸化水素(H)を生成する。過酸化水素は感染に反応する免疫防御作用の一部として白血球により体内で天然に生成される。細菌がその効果を回避できる適応性のある細菌の回避機構は知られておらず、及び過酸化水素は寿命が短く、組織中の水及び酸素に非常に素早く分解される。従って、危険なレベルまで蓄積することはない。局所的に適用される場合(例えば、ニキビ処理)、肌表面を容易に浸透して感染の根底部分に達するという事実により、その効果が高まる。過酸化水素は非常に有用であるので、生物適合性の一般消毒剤として、及び種々の傷を洗浄するための抗菌物質として長年用いられている。
【0014】
さらに、過酸化水素は基質として用いることができ、包帯中の水への可溶性の効果及び傷内、または傷に囲まれた組織中に天然に存在するカタラーゼによる素早い分解の効果により、含水包帯を通して酸素を運ぶ。
【0015】
酵素は組成物中、水和状態でも乾燥状態でもよい。酵素が水和状態の場合、酵素は組成物中に湿潤、活性状態で存在し、組成物の使用の際に適当な基質に接触した場合すぐに機能し始めることができる。もしくは、酵素は乾燥状態であり、使用の際に最初に水和を必要とする。好ましくは、酵素は組成物中、水和状態で存在する。
【0016】
本発明の組成物での使用に適したオキシダーゼ酵素及び対応基質(例えば、血液及び組織液などの体液中に存在する、及び/または早期酸化を防ぐために別々に供給される、及び/または組成物中に混合される)は以下を含む:

酵素 基質
グルコースオキシダーゼ β−D−グルコース
ヘキソースオキシダーゼ ヘキソース
コレステロールオキシダーゼ コレステロール
ガラクトースオキシダーゼ D−ガラクトース
ピラノースオキシダーゼ ピラノース糖
コリンオキシダーゼ コリン
ピルビン酸オキシダーゼ ピルビン酸
グリコール酸オキシダーゼ グリコール酸
アミノ酸オキシダーゼ アミノ酸

ここで好ましいオキシダーゼ酵素はグルコースオキシダーゼである。これはβ−D−グルコース基質の反応を触媒し、過酸化水素とグルコン酸を与える。
【0017】
オキシダーゼ酵素の混合物を用いてもよい。
【0018】
特定組成物のためのオキシダーゼ酵素またはその他の酵素の適切量は実験により容易に決定できる。
【0019】
亜鉛イオン源は亜鉛イオンまたは亜鉛含有イオンを水中に放出できる任意の化合物である。適当な亜鉛イオン源は、例えば、塩化亜鉛、フッ化亜鉛及び硫酸亜鉛が挙げられる。
【0020】
アンモニウムイオン源はアンモニウムイオンまたはアンモニウム含有イオンを水中に放出できる任意の化合物である。適当なアンモニウム源は、硫酸アンモニウム及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アンモニウム塩(アンモニウムAMPS)(例えば、商標ルーブリゾール(Lubrizol)AMPS 2411モノマーが市販)が挙げられ、後者は都合のよいことに高分子ハイドロゲルのモノマー物質である。
【0021】
乳酸イオン源は乳酸イオンまたは乳酸含有イオンを水中に放出できる任意の化合物である。乳酸イオン(乳酸由来)は光学的に活性であり、2つのエナンチオマー体、L−、及びD−で、及びラセミ化合物として知られる両エナンチオマーの混合物として存在できる。任意のエナンチオマー体、またはその混合物がここでの使用に適している。都合のよい乳酸イオン源は、L−乳酸ナトリウム、D−乳酸ナトリウム、L−乳酸及びL−乳酸亜鉛が挙げられるが、任意の可溶性乳酸が乳酸イオン源として用いることができると考えられる。
【0022】
オキシダーゼ酵素を用いた実験は、良好なレベルの酵素活性が亜鉛イオン源及び乳酸イオン源を含む組成物の殺菌照射後も保持されたことを示した。
【0023】
ここで好ましい亜鉛イオン及び乳酸イオン源は乳酸亜鉛、特にL−乳酸亜鉛である。本発明の組成物において、L−乳酸亜鉛は、組成物の全重量に基づいて少なくとも濃度0.2重量%で存在する場合、酵素の安定化効果を有することを示した。組成物中のL−乳酸亜鉛濃度の増加は安定化効果の増加を生じる。特に、L−乳酸亜鉛が組成物の全重量に基づいて濃度約1.0重量%で存在する場合、良好な結果を得ることができる。しかしながら、L−乳酸亜鉛をそれよりも高い濃度で用いると、溶解性の問題が生じてくる。
【0024】
オキシダーゼ酵素を用いた実験は、良好なレベルの酵素活性がアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源を含む組成物の殺菌照射後も保持されたことを示した。この場合、乳酸亜鉛よりも乳酸ナトリウムを(同じ重量に対して)用いるほうが良好な結果が得られるので、この場合乳酸ナトリウムが好ましい。さらに、乳酸ナトリウムはより水によく溶けるので、乳酸亜鉛と比べてより高い濃度の乳酸ナトリウムを用いることができる。乳酸ナトリウムは組成物の全重量に基づいて、濃度約1.0重量%以上、例えば、約4.0重量%以下で組成物中に適宜存在する。オキシダーゼ酵素、アンモニウムAMPS(例えば、高分子ハイドロゲルのモノマー物質)及び乳酸ナトリウムを含有する組成物は良好な結果が得られた。
【0025】
さらに、カタラーゼ及びラクトペルオキシダーゼ酵素を用いた実験は、良好なレベルの酵素活性が乳酸イオン源及び亜鉛イオン源(例えば、乳酸亜鉛)を含み、及びさらにラクトペルオキシダーゼの場合はアンモニウムイオン源(例えば、アンモニウムAMPS)を含む組成物の殺菌照射後も保持されたことを示した。
【0026】
本発明の組成物において、アンモニウムイオンは組成物の全重量に基づいて、少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、及びより好ましくは少なくとも2重量%の濃度で存在できる。アンモニウムイオンが存在する、そのような組成物において、安定化効果を妥協することなく亜鉛イオンを省略することが可能である。この場合、乳酸イオンを、例えば乳酸ナトリウムの形で、濃度4重量%以下で加えることができる。
【0027】
本発明に従う組成物は任意で酵素を安定化することが公知なその他の成分(以降、簡略にするため“安定化剤”とする)を含むことができる。
【0028】
ここでの使用に適した安定化剤は、糖アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール及びラクチトール;タンパク質、例えばゼラチン;及び中性水溶性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコール(例えば、分子量が約30,000〜100,000)を含む。
【0029】
糖アルコールは通常、組成物の全重量に基づいて、濃度0.5重量%〜4重量%の範囲で本発明に従う組成物中で用いることができる。
【0030】
タンパク質を用いる場合、組成物の全重量に基づいて、濃度少なくとも0.5重量%、好ましくは少なくとも1重量%、及びより好ましくは少なくとも4重量%で本発明の組成物中に存在できる。
【0031】
中性水溶性ポリマーは組成物の全重量に基づいて通常、濃度0.5重量%〜3.5重量%で良好な効果で用いることができる。
【0032】
亜鉛またはアンモニウムイオンと組合わせた乳酸イオンの安定化効果は1以上の上記の任意の成分を用いることにより高められる。特に、ここでの使用に好ましい成分はタンパク質源、特にゼラチンである。
【0033】
本発明に従う組成物は適宜、殺菌放射線で組成物を照射することにより殺菌でき、通常は25〜40kGyの範囲である。従って、本発明は上述の特徴を有する殺菌組成物も包含することが理解される。組成物は例えば、γ線照射、X線照射または電子ビーム照射に曝露することにより殺菌できる。通常は、組成物はγ線により照射される。
【0034】
酵素含有組成物中の亜鉛及び/またはアンモニウムイオン及び乳酸イオンの存在により、組成物の殺菌放射線への曝露が可能になり、乳酸イオン及び亜鉛及び/またはアンモニウムイオンを用いない場合よりも酵素活性の損失がかなり減少される。特に、酵素は実用上有用で経済的に許容できる活性レベルを保持できる。
【0035】
従って、さらなる側面において、本発明は、酵素を亜鉛イオン及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源と接触させることにより、殺菌放射線への曝露時に組成物中の酵素を安定化する方法に関する。
【0036】
本発明の組成物は種々の目的で幅広い範囲の製品に用いることができる。従って、さらなる側面において、本発明は本発明に従う組成物を含む製品を提供する。
【0037】
ここで好ましいオキシダーゼ酵素を含む製品は肌への使用または用途に適しており、特に肌処理製品に適している。このような製品は種々の製品形態に処方でき、例えば、ローション、クリーム、ゲル、スティックまたは包帯(dressings)である。本発明に従う組成物を含む好ましい肌処理製品は肌用包帯、特に創傷包帯である。肌用包帯はヒトまたは動物の肌に適用または配置することにより用いることができ、例えば、外傷上、または化粧または治療目的で、例えばニキビまたはその他の肌状態の治療のため、処理する肌領域上に配置する。当該包帯は、通常はWO03/090800として公開された国際特許出願PCT/GB03/01738に記載の通り設計できる。
【0038】
好ましい実施態様において、包帯は1以上の水ベースまたは水性ゲル(水和ハイドロゲルともいう)を含む。水和ハイドロゲルは水源を提供するので、そのような包帯内で酵素は水和状態を維持し、素早い反応及び結果として抗菌物質の放出または酸素輸送を促進する。
【0039】
各水和ハイドロゲルは適宜、親水性ポリマー物質を含む。適当な親水性ポリマー物質はWO03/090800に記載されており、親水性ポリマー物質の混合物はゲル中で用いることができる。親水性ポリマーの水和ハイドロゲルにおいて、親水性ポリマー物質は当該ゲルの全重量に基づいて、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも30重量%、可能であれば40重量%の濃度で望ましくは存在する。
【0040】
特に、酵素、亜鉛及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源は1以上の水和ハイドロゲル中に存在できる。
【0041】
また、包帯はさらに水和ハイドロゲル(例えば、ポリAMPS)を含んでもよく、当該ハイドロゲルは酵素を含まないが、オキシダーゼ酵素のための基質(例えば、グルコースオキシダーゼのためのグルコース源)を含むことが可能であり、及び/またはヨウ化物イオン供給物(例えば、1以上のヨウ化塩の形態)を含み、及び任意でグリセロールも含む。
【0042】
当該ゲルはWO03/090800に記載の通り架橋できる。
【0043】
水和ハイドロゲル、特に架橋ゲルは機械強化構造、例えば綿ガーゼまたは不活性な柔軟メッシュ周りに成型でき、例えば構造的に強化されたハイドロゲル層または厚板を提供する。
【0044】
もしくは、水和ハイドロゲルは例えばキサンタンガム(例えば、商標ケルトロール(Keltrol)で市販)などの適当なゴムの、非架橋せん断−シニング(thinning)ゲルの形態でもよく、この場合好ましくは、機械強化構造は有しない。このようなゴムはせん断応力に供した場合(例えば、ノズルを通して注ぐまたは圧搾した場合)液体であるが、静止している場合は固体である。従って、当該ゲルは流動性成分の形態であり、ゲル含有包帯の製造を容易にする。また、当該せん断−シニングゲルは上述の通り、成型した機械強化ゲルと組合わせて用いることもできる。
【0045】
吸水性ゲルは、実際のゲル形成ポリマー物質、例えば多糖類である親水性基質の増加した濃度を利用することができ、それ自身または追加基質は吸水目的のみのために混合物内に加えられる。このタイプの機能的混合物の一例としては、ゲルの全重量に基づいて約2重量%の架橋アルギン酸塩及び約5〜10重量%のキサンタンガムとの組み合わせにより形成された混合物である。特に好ましいものはポリAMPSなどの共有結合高分子ハイドロゲルの混合物であり、吸水性が強く、非常に大量の水または水溶液を取り込むことができ、肌用包帯が創傷上に用いられた場合に有用である。
【0046】
酵素は多数の可能なゲル含有形態中に存在でき、遊離分子としてゲル含有溶液中に含むこともできる。ゲル中の酵素保持効果を改善するために、酵素は化学的に他の酵素に共役でき、他の分子(例えば、ポリエチレンイミン)に化学的に共役でき、またはビーズなどの固体担体中に組み込むことができる。
【0047】
異なる種類のゲル、例えば架橋アルギン酸塩及びせん断−シニングは1の包帯内に一緒に用いることができる。使用の際に、せん断−シニングゲルが肌に最も近く、架橋構造強化ゲルを肌から離した場合に優れた結果が得られた。
【0048】
酵素は担持でき、従って放出を防ぐことができ、例えば、望ましくないアレルギー反応(通常は非ヒト源から生じる、例えば、最も入手し易い、真菌アスペルギルス・ニガー由来のグルコースオキシダーゼ)を誘発する可能性がある、及び創傷中に存在するプロテアーゼの効果による分解の影響も受け易い血液循環内への放出を防ぐことができる。酵素はWO03/090800に記載の通り担持できる。
【0049】
包帯は望ましくは、オキシダーゼ酵素のための基質源、例えばグルコースオキシダーゼのためのグルコースを含む。好ましくは、グルコースは純粋な形態であり、医薬グレード物質である。グルコースは、治癒及び抗菌因子などその他の利点を天然に提供する蜂蜜の形態で供給することもできる。基質はWO03/090800に記載の通り、早すぎる反応を防ぐために、包帯使用前はオキシダーゼ酵素から物理的に分離していることが好ましい。なぜなら、酸素は反応に必要であり、提供される酸素供給が制限されると、ほとんど反応が起きなくなるからである。基質、例えばグルコースは通常、包帯の重量の約25重量%以下、例えば約5重量%の量で存在する。基質、例えばグルコースは種々の形態で存在でき、水和ハイドロゲル構造内に溶解した形態、徐々に溶解する固体として存在する形態、または徐放のため他の構造内にカプセル化された形態である。
【0050】
過剰の過酸化水素が存在するように、酵素と基質との相対量の平衡を取ることは有用である。
【0051】
好ましくは、酵素及び基質は別個の水和ハイドロゲル内に配置し、第一の水和ゲル中にオキシダーゼ酵素、亜鉛及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源を配置し、及び第二の水和ゲル内に基質を配置する。包帯は望ましくは重なった層状構造であり、例えば、1のゲルの上(外)側層及び他のゲルの下(内)側層を含む。例えば、第一のゲル(オキシダーゼ酵素、亜鉛イオン源及び乳酸イオン源を含む)は包帯の外側部分の近傍に配置でき、すなわち、酸素レベルが最も高い、使用の際、肌から遠く、第二のゲルは包帯の内側部分の近傍に配置され、すなわち、使用の際、肌に隣接する。この場合、従って包帯は重なった、層状構造であり、第一のゲルの上(外)側層及び第二のゲルの下(内)側層とを含む。
【0052】
当該システムの抗菌効果はさらにヨウ化物イオンを含ませることにより高めることができ、触媒効果の有無に関わらず、過酸化水素の作用により当該ヨウ化物イオンはヨウ素元素(強力な抗菌剤として公知であり、例えばWO01/28600に記載されている)に酸化できる。従って、包帯は望ましくはヨウ化物イオン供給物を含み、例えばヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムである。ヨウ化物イオン供給物、例えばヨウ化物塩は基質ゲル中または追加膜またはガーゼまたはその他の適当な層中に、比較的素早い離脱形態で提供できる。もしくは、ヨウ化物塩供給物は上述の通り、例えば水和ゲル中など、オキシダーゼ酵素のための基質源を用いて配置させてもよい。ヨウ化物塩は種々の形態で存在でき、水和ハイドロゲル構造内に溶解していたり、徐々に溶解する固体として存在したり、または徐放のため他の構造内にカプセル化したりできる。ヨウ化物塩は例えば約2重量%以下の量で存在できる。
【0053】
また、包帯は酸素透過性の第2の包帯(dressing)を含むこともでき、例えば3Mヘルスケア社(3M Healthcare Ltd)のテガダーム(Tegaderm)またはスミスエンドネフュー(Smith&Nephew)のオプサイト(OpSite)であり(テガダーム及びオプサイトは商標)、片側が酸素透過性粘着層でカバーされた薄いポリウレタンフィルムから作られている。
【0054】
このような第2の包帯はWO03/090800に記載のような特徴を有することができる。任意で、当該カバーは窓(またはさらなる窓)を含み、そこから表示手段を見ることができ、例えば包帯化学物質が活性なときを(例えば、色変化により)示す表示シートまたは類似の構造である。
【0055】
1以上の包帯成分は、酸素、水及び過酸化水素は透過性であるが望ましくない物質の移行を防ぐバリヤー材の小袋またはバッグなどの封入物内に含まれることができる。適当なバリヤー材はWO03/090800に記載されている。
【0056】
包帯の吸水性成分は、特に実用的または流動的な形態に形成された場合、創傷または感染部位に容易に適用できる。このような形成を適用する適した配置についてはWO03/090800に記載されている。
【0057】
せん断−シニング(thinning)ゲルを含む層状構造の包帯は、例えば末端消費者により、所望のゲルの層状組立てを作るために適当な順番で順に重ねてゲルを注ぐまたは落とすことにより容易に生成できる。従って、異なる包帯構成ゲルを別個の容器内に供給でき、例えばチューブまたはボトルなどの容器があり、または複数コンパートメント瓶が可能である。異なるゲルは例えば容易な同定を可能にするため、適当に着色したラテックスを用いてカラーコード化できる。当該ゲルは消費者の肌に直接適用できる。カバーまたは外側層は当該実施形態において必要ではない。
【0058】
包帯(またはその構成部品)は殺菌、密封した、水を通さないパッケージ、例えば層状アルミホイル袋に入れて適切に供給する。
【0059】
包帯は、例えば異なる大きさ及び形の創傷の肌領域の処理用に様々な大きさ及び形の範囲で製造できる。
【0060】
本発明は説明目的のための以下の実施例において、詳述される。
【0061】
確認のための実施例は、微生物殺菌の一般的な条件を用いてγ線照射により組成物中、水和状態において殺菌された場合、グルコースオキシダーゼ、カタラーゼ及びラクトペルオキシダーゼの活性についての多数の成分(L−乳酸亜鉛)の効果を説明する。乳酸イオンにより生じる根本的な安定化を増加できる別の成分の効果も説明する。当該効果はグルコースオキシダーゼを含むポリAMPS及び簡単な水溶液を用いて研究した。
【0062】
ハイドロゲルはまず、モノマー及び架橋剤などの全ての成分を溶解させて水溶液を形成し、それから強烈なUV照明に曝すことによりハイドロゲルの厚板に変えることにより調製した。当該水和ハイドロゲルの厚板は次に、ポリAMPSからなるハイドロゲル厚板用に通常規定される用量範囲を用いて、γ線(業界標準殺菌サービス)を照射した。最後に、γ線照射したハイドロゲル厚板の残った酵素活性について分析した。簡単な水溶液は関連実施例に記載される通りに調製した。
【表1】

【0063】
ハイドロゲルの調製
ハイドロゲルは上の表1に列挙した成分から調製した。特定の成分を当該表中に説明された量で混合し、以下の基本手順を行った:
ナトリウムAMPS及び/またはアンモニウムAMPSの原液(製造業者により供給されたもの)をプレゲル流動体の基礎として、ねじ蓋付き反応瓶の125mlのポリプロピレンに注いだ。グルコースオキシダーゼ及び(必要であれば)任意の成分を混合物に加え、完全に溶解させた。別の容器中で、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを液体Ebecryl 11中に分散させ、当該混合物を徐々に温め(45℃まで)、当該架橋剤中に当該光開始剤を溶解させた。この溶液を次にプレゲル流動体中に混合した。ゲルを成型するために、完全なプレゲル流動体を平底トレーに深さ1〜2mmまで注いだ。当該ゲルは、垂直距離15cmで、25秒間、1KWランプからのUV照射により固めた。当該ハイドロゲルは使用前に冷却可能である。当該ハイドロゲルはγ線に25秒間照射して約100mWcm−1の照射量を与える前に、下記の手順を用いて分析した。
【0064】
γ線照射
ハイドロゲルは、アイソトロン(Isotron)PLCから提供される、業界標準の市販の殺菌サービスによりγ線照射した。この実験で用いるゲルは全ての場合で約30kGyの用量を受け取ったが、コバルト60源を用いると、この標準手順の用量範囲は25〜40kGyに保証される。
【0065】
グルコースオキシダーゼ活性分析
γ線照射する前及び後のハイドロゲルの厚板をグルコースオキシダーゼ活性に関して分析した。以下の手順に従って行った:
50mgのハイドロゲルを30分間、15mLの脱イオン化水中で膨潤させた。膨潤ハイドロゲルを次に、21Gグレード針(0.8mm ID、40mm長)を通して、125mLプロピレンポット(フィッシャー(Fisher))を含む適当な容器中に押し出し、この動作によりゲルを細かく分解した。そして、注射器本体を脱イオン化水の2つの10mLアリコートを含む容器上で洗い流した。容器の体積は脱イオン化水を含んで50mLになった。それから以下の溶液をこの崩壊ゲル懸濁液に加えた:
・10mLの試薬混合物(5部の0.1M リン酸ナトリウム(フィッシャー)、pH6+4部の2% w/wデンプン(溶解性;Sigma)+1部の1mg/mLラクトペルオキシダーゼ酵素1050U/mg;DMV インターナショナル、オランダ;
・5mLの100mM ヨウ化カリウム(フィッシャー);及び
・5mLの40% w/wグルコース(フィッシャー)溶液。
【0066】
これらを一緒に素早く混合させる。時間=0はグルコース添加の時から計算した。5分後、1mLの5M HClを反応を停止するために加えた。次に吸光度を、UV−VIS分光光度計(供給元:CamSpec、タイプ:M302)を用いて630nmで読取った。色強度が大きすぎて正確な読取りができない場合、サンプルを規定体積の脱イオン化水で希釈し、測定上の色を修復させた。結果はγ線照射前のハイドロゲルサンプルについて測定した吸光度を参照することにより、回復率として表現した。
【0067】
実施例1:非常に低い酵素活性回復
表1のコア成分に基づいて9つのハイドロゲルを上述の手順を用いて調製し、照射し、そして分析した。そのうち8つのハイドロゲルは、それぞれコア成分に加えて、熱または化学分解に対してグルコースオキシダーゼまたはその他の酵素上に安定化効果を有するように、文献(例えば、Ahmad A.、Akhtar M.S.及びBhakuni(2001)Biochemistry,40(7)、1945−1955;Akhtar M.S.,Ahmad A.及びBhakuni(2002)Biochemistry,41(22)、7142−7149;Gouda M.D.,Singh S.A.,Rao A.G.T.,Thakur M.S.及びKaranth N.G.(2003)Journal of Biological Chemistry,278(27),24324−24333;及びEremin A.N.,Metelitsa D.I.,Shishko Z.F.,Mikhailova R.V.,Yasenko M.I.及びLobanok A.G.(2001)Applied Biochemistry and Microbiology,37(6),578−586)に示される1の成分を含む。成分は以下の通り:塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、リン酸カリウム、グリセロール、PVA(MW範囲31,000〜50,000)及びPVA(MW範囲89,000〜99,000)。1のハイドロゲルはコア成分のみ含み(すなわち、他の添加物を含まない)、対照として調製した。
【0068】
結果を以下の表2に示す。
【表2】

【0069】
上の表から、対照ハイドロゲル中のグルコースオキシダーゼの活性はγ線照射間にほとんど完全に破壊されたことがわかる。さらに、文献中に熱または化学分解に対するグルコースオキシダーゼまたはその他の酵素の安定化剤として示唆されている一連の化合物は、γ線照射間、ほとんどまたは全く酵素を保護しなかった。試験した安定化剤はグルコースオキシダーゼ活性の回復を改善しなかった。
【0070】
実施例2:軽度の酵素活性回復
いくつかの成分は、γ線照射時に、グルコースオキシダーゼの軽度の保護効果を示すことがわかった。
【0071】
表1のコア成分を含み、及び硫酸アンモニウム(4%)、ゼラチン(1%)またはアンモニウムAMPS(15%)のいずれかを含む3つのハイドロゲルを上述の通り、調製、照射及び分析した。
【0072】
結果を下の表3に示す。
【表3】

【0073】
上記から、アンモニウムイオン(主なゲル成分として、硫酸アンモニウムまたはアンモニウムAMPSのいずれか由来)及び/またはゼラチンの存在がグルコースオキシダーゼ活性の回復を軽度に促進することがわかる。
【0074】
実施例3:十分な酵素活性回復
表1のコア成分を含み、及びL−乳酸亜鉛(0.2%または1.0%)、塩化亜鉛(1.0%)、硫酸亜鉛(1.0%)または乳酸ナトリウム(1.0%)のいずれかを含む5つのハイドロゲルを上述の通り、調製、照射及び分析した。
【0075】
結果を下の表4に示す。
【表4】

【0076】
上記から、乳酸亜鉛がγ線照射時にグルコースオキシダーゼにかなりの保護効果を与えたことがわかる。効果の規模はL−乳酸亜鉛量を増加させることにより増加することがわかった。保護効果は亜鉛カチオンと乳酸アニオンの両方の存在が必要であると考えられる。他の亜鉛塩(例えば、塩化物または硫酸化物)またはその他の乳酸塩化合物(例えば、乳酸ナトリウム)を使用しても、これらの条件下でグルコースオキシダーゼ活性は望ましい回復を生じなかった。
【0077】
実施例4:非常に優れた酵素活性回復
以下の実施例は他の成分を追加して、L−乳酸亜鉛の保護効果を試験した。
【0078】
表1のコア成分及びL−乳酸亜鉛(0.2%または1.0%)を含み、及びPVA(MW89,000〜98,000)(1%)、硫酸アンモニウム(10%または20%)、ゼラチン(4%)またはアンモニウムAMPS(15%)のいずれかを含む5つのハイドロゲルを上述の通り、調製、照射及び分析した。
【0079】
結果を下の表5に示す。
【表5】

【0080】
上記から、L−乳酸亜鉛とゼラチンとの組み合わせまたはL−乳酸亜鉛とアンモニウムAMPSとの組み合わせのいずれかを用いることにより50%以上のグルコースオキシダーゼ活性の回復が達成されたことがわかる。同様に、乳酸ナトリウム(D−、L−またはD,L−型)とアンモニウムAMPSとの組み合わせは50%以上のグルコースオキシダーゼ回復を生じた。L−乳酸亜鉛と硫酸アンモニウムとを組み合わせた効果は約34%のグルコースオキシダーゼ活性の回復を生じた。PVAも0.2%L−乳酸亜鉛の保護効果を増加させることがわかった(しかし、当該増加はより高いL−乳酸亜鉛レベルでは明確ではなかった)。
【0081】
実施例6
本発明に従う確認のための組成物はWO03/090800の図6に示される形態の肌処理用製品であり、当該製品の下層としてグルコース含有ハイドロゲル厚板を含み、及びグルコースオキシダーゼを組み込んだポリAMPSハイドロゲルを含有する上層を含む。
【0082】
ハイドロゲルの下層は重量%で以下の成分を含むように処方した:
水(例えば、フィッシャー、蒸留、脱イオン化、分析用グレード) 54.7%
ナトリウムAMPS(例えば、Lubrizol AMPS2405モノマー) 40.0%
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG400ジアクリレート、例えばEbecryl11として市販のUCBケミカルス) 0.19%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光開始剤、例えばAldrich) 0.01%
無水グルコース(酵素基質、例えばフィッシャー) 5.00%
ヨウ化カリウム(例えばフィッシャー) 0.05%
L−乳酸亜鉛水和物(例えばAldrich) 0.10%
【0083】
当該混合物は成型トレーに深さ約1.5mmまで注ぎ、当該トレーは、面積100mmx100mmのポリエステルスクリム(ポリエステル不織布、オープンメッシュ支持体、HDKインダストリーズ Inc,から製品コード5722で市販)またはポリエチレンネット支持体を含む。ポリエチレンネット支持体は熱結合したポリエステル短繊維からポリエステル樹脂より作られ、キャッスルインダストリーズ(Castle Industries)、Greenville,SC9609、米国から製品コード5722で入手可能である。次に、当該ハイドロゲルはUVランプ下、60秒以下及び出力定格約100mW/cmで照射することにより固めた。それから当該ハイドロゲルを30℃以下まで冷却させた。
【0084】
酵素含有ハイドロゲルは重量%で以下の成分を含むように処方した:
水(例えば、フィッシャー、蒸留、脱イオン化、分析用グレード) 58.6%
ナトリウムAMPS(例えば、Lubrizol AMPS2405モノマー) 20.0%
アンモニウムAMPS(例えば、Lubrizol AMPS2411モノマー) 20.0%
ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG400ジアクリレート、例えばEbecryl11として市販のUCBケミカルス) 0.19%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光開始剤、例えばAldrich) 0.01%
グルコースオキシダーゼ(GOX、生体触媒、Pontypridd、コードG575P) 0.035%
L−乳酸亜鉛水和物(例えばAldrich) 1.0%
Pluronic P65(酸化エチレンとプロピレンとのブロックコポリマー、HO−[CHCHO]x−[CHCHCHO]y−[CHCHO]y−H、平均MW3400(BASF) 0.15%
【0085】
当該混合物は成型トレーに深さ約1.5mmまで注ぎ、当該トレーは、面積100mmx100mmのポリエステルスクリム(ポリエステル不織布、オープンメッシュ支持体、HDKインダストリーズ Inc,から製品コード5722で市販)を含む。次に、当該ハイドロゲルはUVランプ下、30秒以下(通常は25秒)及び出力定格約100mW/cmで照射することにより固めた。それから当該ハイドロゲルを30℃以下まで冷却させた。
【0086】
酵素含有ハイドロゲルとグルコース含有ハイドロゲルとをいずれかをもう一方で覆うようにして接合させた。
【0087】
ポリウレタンなどの酸素透過性及び水分透過性カバーまたは覆いは酵素含有ハイドロゲル上に位置することができ、例えば、当該覆いの下面上に備えたアクリル系接着剤により肌に接着できる。
【0088】
最終的な製品は、例えばシグマ(Sigma)から供給されるラミネートアルミホイル袋(コードZ183407)から作られた、酸素不透過性の袋または封入物中に詰めた。
【0089】
実施例7:乳酸亜鉛の存在下、水性サンプル中の、十分なカタラーゼ活性回復
実験
全体的な実験計画
カタラーゼの2つの水溶液(1mg mL−1)を調製した。使用したカタラーゼは以下の通りである:酵素分類番号EC1.11.1.6.シグマ社、カタログNo.C9322、2,380U/mg。溶液の1つはL−乳酸亜鉛を含み(1%w/w)、他の溶液はいかなる添加物も含まない。それから当該溶液は業界標準殺菌サービスにより、ハイドロゲル創傷用包帯に通常規定される用量範囲でγ線照射した。そして、当該溶液は残った酵素活性に関して分析した。
【0090】
カタラーゼ活性分析
γ線照射する前及び後の溶液をカタラーゼ活性に関して分析した。これは以下の手順に従って行った:
50μLの水性サンプルを50mLのリン酸緩衝液(50mM)中に加えた。過酸化水素(500μL、30%w/w−シグマ)を加え、当該混合物を20分間穏やかに振とうしながら培養させた。次に、以下の溶液を当該混合物に加えた:
・5mLの試薬混合物(5部の0.1M リン酸ナトリウム、pH6+4部の2%w/wデンプン+1部の1mg/mLラクトペルオキシダーゼ酵素)
・5mLの100mMヨウ化カリウム
時間=0はヨウ化カリウムの添加の時から計算した。5分後、630nmで吸光度を読取った。色強度が大きすぎて正確な読取りができない場合、サンプルを規定体積の脱イオン化水で希釈し、測定上の色を修復させた。色強度はサンプル中のカタラーゼ活性に間接的に比例した。結果はγ線照射前のサンプルについて測定した吸光度を参照することにより、回復率として表現した。
【0091】
結果
乳酸亜鉛はγ線照射時にかなりのカタラーゼ保護効果を与えることがわかった(表6)。乳酸亜鉛が不存在の水溶液ではγ線処理後、カタラーゼ活性は回復しなかったが、乳酸亜鉛の存在下ではかなりのカタラーゼ活性回復があった。
【表6】

【0092】
実施例8:乳酸亜鉛の存在下、ポリ−AMPSハイドロゲル中の、十分なラクトペルオキシダーゼ活性回復
実験
全体的な実験計画
ラクトペルオキシダーゼを含むポリ−AMPSハイドロゲル(ゲルg当り1mgの酵素)をグルコースオキシダーゼに関して示した手順を用いて調製した。使用したラクトペルオキシダーゼは以下の通りである:酵素分類番号EC1.11.1.7.、DMVインターナショナル社、オランダ、1050U/mg。当該ゲルは次に業界標準殺菌サービスにより、このポリマーから構成されるハイドロゲル創傷用包帯に通常規定される用量範囲でγ線照射した。そして、当該溶液は残った酵素活性に関して分析した。
【0093】
ラクトペルオキシダーゼ活性分析
γ線照射する前及び後のゲル厚板をラクトペルオキシダーゼ活性に関して分析した。これは以下の手順に従って行った:
50mgのゲルを15mLの脱イオン化水中、30分間、膨潤させた。次に、当該ゲルを21Gグレード針(0.8mm ID、40mm長)を通して押し出した。これにより当該ゲルを効率的に細かく分解した。注射器本体を脱イオン化水の2つの5mLアリコートで洗い流した。体積はリン酸(フィッシャー)/クエン酸(フィッシャー)緩衝液(pH5)を含んで50mLになった。このゲルの2.5mLアリコートを取り、以下の溶液を加えた:
・2μLの過酸化水素(30%w/w−シグマ)
・50μLの3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(シグマ)(1mLのジメチルスルホキシド(シグマ)中に1mg溶解)。
【0094】
時間=0はヨウ化カリウム添加の時から計算した。5分後、630nmで吸光度を読取った。色強度が大きすぎて正確な読取りができない場合、サンプルを規定体積の脱イオン化水で希釈し、測定上の色を修復させた。色強度はサンプル中のラクトペルオキシダーゼ活性に正比例した。結果はγ線照射前のサンプルについて測定した吸光度を参照することにより、回復率として表現した。
【0095】
結果
乳酸亜鉛はγ線照射時にかなりのラクトペルオキシダーゼ保護効果を与えることがわかった(表7)。当該効果はアンモニウムAMPSベースゲル中でのみ検討した。乳酸亜鉛が不存在のアンモニウムAMPS−ベースゲル中でγ線処理後は27.2%のラクトペルオキシダーゼ活性が回復したが、乳酸亜鉛の存在下では3倍以上の酵素活性保持の改善があった。
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素、乳酸イオン源及び亜鉛イオン源及び/またはアンモニウムイオン源を含む組成物。
【請求項2】
酵素が水和状態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アンモニウムイオン源が硫酸アンモニウムまたは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アンモニウム塩(アンモニウムAMPS)を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
亜鉛イオン源が亜鉛イオンまたは亜鉛含有イオンを水中に放出できる化合物である、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
乳酸イオンが乳酸イオンまたは乳酸含有イオンを水中に放出できる化合物である、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
亜鉛イオン源及び乳酸イオン源が乳酸亜鉛である、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
亜鉛イオン源及び乳酸イオン源がL−乳酸亜鉛である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
組成物が、糖アルコール、タンパク質及び中性水溶性ポリマーから選択される1以上の成分をさらに含む、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
組成物がさらにタンパク質源を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が当該組成物に殺菌放射線を照射することにより殺菌される、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
殺菌放射線がγ線である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
酵素がオキシダーゼを含む、先行請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
オキシダーゼがグルコースオキシダーゼを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
乳酸亜鉛を含む、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
乳酸ナトリウム及びアンモニウムAMPSを含む、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項16】
酵素がカタラーゼを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
酵素がラクトペルオキシダーゼを含む、請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
酵素を亜鉛イオン源及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源に接触させながら殺菌放射線に曝露して組成物中の酵素を殺菌する方法。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれかに記載の組成物を含む製品。
【請求項20】
製品が肌処理用製品であり、酵素がオキシダーゼである、請求項19に記載の製品。
【請求項21】
肌処理用製品が肌用包帯(dressing)である、請求項20に記載の製品。
【請求項22】
包帯が1以上の水和ハイドロゲルを含む、請求項21に記載の製品。
【請求項23】
オキシダーゼ酵素、亜鉛イオン源及び/またはアンモニウムイオン源及び乳酸イオン源が1以上の水和ハイドロゲル内に存在する、請求項22に記載の製品。
【請求項24】
オキシダーゼ酵素のための基質源を含む、請求項20〜23のいずれかに記載の製品。
【請求項25】
前記基質が水和ハイドロゲル内に位置する、請求項24に記載の製品。

【公表番号】特表2006−526995(P2006−526995A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516376(P2006−516376)
【出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002392
【国際公開番号】WO2004/108917
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505456506)インセンス・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】