説明

比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット

【課題】ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するための比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%、B:0.5〜8モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットは素地中にCo−Cr−B三元系合金相が均一分散している組織を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するための比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置は一般にコンピューターやデジタル家電等の外部記録装置として用いられており、記録密度の一層の向上が求められている。そのため、近年、超高密度の記録を実現できる垂直磁気記録方式が注目されてきた。この垂直磁気記録方式は、従来の面内記録方式と異なり、原理的に高密度化するほど記録磁化が安定すると言われており、すでに実用化されている。この垂直磁気記録方式のハードディスク媒体の記録層に適用する材料の有力な候補としてCoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜が提案されており、このCoCrPt−SiOグラニュラ磁気記録膜はCrおよびPtを含むCo基焼結合金相と二酸化珪素相の混合相を有するスパッタリングターゲットを用いてマグネトロンスパッタ法により作製することが知られている(非特許文献1参照)。
このスパッタリングターゲットは、通常、二酸化珪素粉末、Cr粉末、Pt粉末およびCo粉末を、二酸化珪素:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coからなる組成となるように配合し混合したのち、真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスすることにより作製されることが知られており、その他に市販のCrおよびPtを含むCo基合金粉末または急冷凝固して作製したCrおよびPtを含むCo基合金粉末と二酸化珪素粉末を二酸化珪素:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coからなる組成となるように配合し混合したのち、真空ホットプレスまたは熱間静水圧プレスすることにより作製されることが知られている。(特許文献1、特許文献2などを参照)。
さらに、前記二酸化珪素:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%を含有し、残部:Coからなる組成にさらにB:0.5〜8モル%を含有する組成のターゲットも知られており(特許文献5参照)、前記二酸化珪素のほかにTiO、Cr、TiO、Ta、Al、BeO、MgO、ThO、ZrO、CeO、Yなどの非磁性酸化物が使用できることも知られている(特許文献3、4参照)。
【非特許文献1】「富士時報」Vol.75No.3 2002(169〜172ページ)
【特許文献1】特開2001‐236643号公報
【特許文献2】特開2004‐339586号公報
【特許文献3】特開2003‐36525号公報
【特許文献4】特開2006‐24346号公報
【特許文献5】特開2004‐310910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この従来の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、強磁性合金であるCr、PtおよびBを含むCo−Cr−Pt−B合金を素地とし、この素地中にSiOなどの非磁性酸化物が均一分散している組織を有するために、非磁性体ターゲットと比較して磁束がターゲット内部を通過する割合が大きく、ターゲット上空に漏れ出る磁束が極めて少ない。このことはターゲット下部に磁気回路を配置し、ターゲット上空に漏れ出る磁束を利用して希ガスの電離効率を高めることで放電を安定化させ、成膜速度を向上させているマグネトロンスパッタリング法にとっては大きな問題となる。すなわち、ターゲット上空に漏れ出る磁束が少ない漏洩磁束密度の低いターゲット(すなわち比透磁率の高いターゲット)を用いてマグネトロンスパッタリングを行なうと、放電が安定しないかあるいは放電できても成膜速度が極端に遅くなるなどの問題を引き起こすからである。
この問題点を解消するための手段の一つとして、ターゲットの厚さを薄くして磁束をターゲット上空へ抜けやすくする方法が取られている。しかし、ターゲットを薄くすると、ターゲットの交換頻度が頻繁になるので成膜効率が悪くなり、コスト的に好ましくない。
また、漏洩磁束密度の低いターゲットは、一旦マグネトロンスパッタリングを行ってエロージョンが形成されると、エロージョン部分から磁束が集中的に漏洩し、その部分だけが益々集中的にスパッタされていくためにターゲットの利用効率が低下したり、成膜速度が経時変化したり、基板面内に膜厚のばらつきが生じたり、さらにターゲット上への再デポ膜の大量付着が生じるなどといった問題を引き起こしやすい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者らは、ターゲットの厚さを薄くすることなく比透磁率の低いスパッタリングターゲットを得るべく研究を行なった。その結果、非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%、B:0.5〜8モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットに含まれる強磁性成分のCoおよびCrをCo−Cr−B三元系合金相となるように分散させ、さらにPtおよび非磁性酸化物をPt相および非磁性酸化物相として分散させてCo−Cr−B三元系合金相、Pt相、非磁性酸化物相からなる組織を有するターゲットを作製し、このターゲットの比透磁率を測定したところ低い透磁率が得られる、という知見を得たのである。
【0005】
この発明は、これら知見に基づいてなされたものであって、
(1)非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%、B:0.5〜8モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットは素地中にCo−Cr−B三元系合金相、Pt相および非磁性酸化物相が均一分散している組織を有する比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0006】
前記(1)記載のスパッタリングターゲットのCo−Cr−B三元系合金相は、ホットプレス中に素地のPtおよびBがCo−Cr−B三元系合金相の外周に拡散侵入し、Co−Cr−B三元系合金相の外周にCo、Cr、PtおよびBで構成されている拡散層により被覆されることがある。この拡散層は無い方が好ましいがこの拡散層は極めて薄い場合は特性に大きな影響を与えるものではなく、前記(1)記載のスパッタリングターゲットのCo−Cr−B三元系合金相の外周にCo、Cr、PtおよびBで構成されている拡散層が形成される場合もこの発明に含まれる。したがって、この発明は、
(2)前記Co−Cr−B三元系合金相は、Co、Cr、PtおよびBで構成されている拡散層により被覆されている前記(1)記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット、に特徴を有するものである。
【0007】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットに含まれる前記非磁性酸化物は、二酸化珪素、酸化タンタル、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化トリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化イットリウムのうちのいずれかであり、このことはすでに知られている。
【0008】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造するには、原料粉末としてCo−Cr−B三元系合金粉末、Pt粉末および非磁性酸化物粉末を用意し、これら原料粉末を非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%、B:0.5〜8モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、混合し、得られた混合粉末を通常のホットプレス温度(1100℃以上)より低い温度(700〜1050℃)でホットプレスすることにより得られる。これはホットプレス中にCo−Cr−B三元系合金粉末に含まれるCoおよびCrが素地に拡散することを可能な限り阻止し、さらに素地のPtがCo−Cr−B三元系合金相に拡散侵入するのを可能な限り阻止するためである。
【0009】
前記Co−Cr−B三元系合金粉末はCr:4.2〜33.3モル%、B:0.5〜13.3モル%を含有し、残部がCoからなる組成を有することが好まく、したがって、この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの素地中に分散しているCo−Cr−B三元系合金相もCr:4.2〜33.3モル%、B:0.5〜13.3モル%を含有し、残部がCoからなる組成を有している。このCo−Cr−B三元系合金粉末の成分組成および素地中に均一分散しているCo−Cr−B三元系合金相の成分組成はこの発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの成分組成によって決定される。
【発明の効果】
【0010】
この発明の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを用いると、マグネトロンスパッタリングを効率よく行なうことができ、コンピューター並びにデジタル家電等の産業の発展に大いに貢献し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
原料粉末として、表1に示される成分組成を有する平均粒径:20μmのCo−Cr−B三元系合金粉末A〜D、平均粒径:25μmのPt粉末、平均粒径:5μmのB粉末、平均粒径:5μmのCo粉末、平均粒径:15μmのCr粉末を用意し、さらに非磁性酸化物粉末としていずれも平均粒径:3μmのSiO粉末、TiO粉末、Ta粉末およびAl粉末を用意した。
【0012】
【表1】

【0013】
実施例1
表1に示されるCo−Cr−B三元系合金粉末A、Pt粉末およびSiO粉末を、Cr:10.8%、Pt:15.3%、SiO:10.0%、B:1.5%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:900℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット1を作製した。さらにこの本発明ターゲット1を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、SiO相およびCo−Cr−B三元系合金相が均一分散している組織が見られ、Co−Cr−B三元系合金相の周囲に拡散層が見られた。この本発明ターゲット1についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0014】
従来例1
先に用意したCo粉末、Cr粉末、Pt粉末、SiO粉末およびB粉末を、Cr:10.8%、Pt:15.3%、SiO:10.0%、B:1.5%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1100℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット2を作製した。さらにこの従来ターゲット2を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt−B合金相中にSiO粒子相が分散している組織が見られた。この従来ターゲット1についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0015】
実施例2
表1に示されるCo−Cr−B三元系合金粉末B、Pt粉末およびTiO粉末を、Cr:13.4%、Pt:15.3%、TiO:9.0%、B:6.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:900℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット2を作製した。さらにこの本発明ターゲット2を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、TiO相およびCo−Cr−B三元系合金相が均一分散している組織が見られ、Co−Cr−B三元系合金相の周囲に拡散層が見られた。この本発明ターゲット2についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0016】
従来例2
先に用意したCo粉末、Cr粉末、Pt粉末、TiO粉末およびB粉末を、Cr:10.8%、Pt:15.3%、TiO:10.0%、B:6.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1100℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット2を作製した。さらにこの従来ターゲット2を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、素地中にCo−Cr−Pt−B合金素地中にTiOが均一分散している組織が見られた。この従来ターゲット2についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0017】
実施例3
表1に示されるCo−Cr−B三元系合金粉末C、Pt粉末およびTa粉末を、Cr:13.4%、Pt:15.3%、Ta:4.0%、B:3.5%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:900℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット3を作製した。さらにこの本発明ターゲット3を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、Ta相およびCo−Cr−B三元系合金相が見られ、Co−Cr−B三元系合金相の周囲に拡散層が見られた。この本発明ターゲット6についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0018】
従来例3
先に用意したCo粉末、Cr粉末、Pt粉末、Ta粉末およびB粉末を、Cr:13.4%、Pt:15.3%、Ta:4.0%、B:3.5%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1100℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット3を作製した。さらにこの従来ターゲット3を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt−B合金相中にTa粒子相が均一分散している組織が見られた。この従来ターゲット3についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0019】
実施例4
表1に示されるCo−Cr−B三元系合金粉末D、Pt粉末、Al粉末を、Cr:14.7%、Pt:14.7%、Al:8.0%、B:4.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:900℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する本発明ターゲット4を作製した。さらにこの本発明ターゲット4を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Pt相、Al相およびCo−Cr−B三元系合金相が見られ、Co−Cr−B三元系合金相の周囲に拡散層が見られた。この本発明ターゲット4についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0020】
従来例4
先に用意したCo粉末、Cr粉末、Pt粉末、Al粉末、B粉末を、Cr:14.7%、Pt:14.7%、Al:8.0%、B:4.0%を含有し、残部がCoおよび不可避不純物からなる成分組成となるように配合し、得られた配合粉末を粉砕媒体となるジルコニアボールと共に10リットルの容器に投入し、この容器内の雰囲気をArガス雰囲気中で置換し、その後、容器を密閉した。この容器をボールミルで16時間回転させ、混合粉末を作製した。得られた混合粉末を真空ホットプレス装置に充填し、真空雰囲気中、温度:1100℃、圧力:35MPa、3時間保持の条件で真空ホットプレスすることにより板状ホットプレス体を作製した。
この板状ホットプレス体を切削することによりいずれも直径:152.4mm、厚さ:5mmの寸法を有する従来ターゲット4を作製した。さらにこの従来ターゲット4を切断し、その切断面を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)の面分析法にて観察したところ、Co−Cr−Pt−B合金相中にAl粒子相が均一分散している組織が見られた。この従来ターゲット4についてターゲット面内方向の最大比透磁率を測定し、その結果を表2に示した。
【0021】
【表2】

【0022】
表2に示される結果から、本発明ターゲット1と従来ターゲット1を比較すると、成分組成は同じであるが、Pt相、非磁性酸化物相であるSiO相および拡散層により包囲されたCo−Cr−B三元系合金相が均一分散している組織を有する本発明ターゲット1はCo−Cr−Pt−B合金素地中にSiO粒子が均一分散している組織を有する従来ターゲットに比べてターゲット面内方向の最大比透磁率が小さく、したがって、スパッタリングに際して漏洩磁束密度が大きくなるので効率よくスパッタできることが分かる。同様にして、本発明ターゲット2と従来ターゲット2、本発明ターゲット3と従来ターゲット3および本発明ターゲット4と従来ターゲット4をそれぞれ比較すると、本発明ターゲット2〜4は従来ターゲット2〜4に比べて効率よくスパッタできることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性酸化物:0.5〜15モル%、Cr:4〜20モル%、Pt:5〜25モル%、B:0.5〜8モル%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなる成分組成を有するスパッタリングターゲットであって、このスパッタリングターゲットは素地中にCo−Cr−B三元系合金相、Pt相および非磁性酸化物相が均一分散している組織を有することを特徴とする比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記Co−Cr−B三元系合金相は、Co、Cr、PtおよびBで構成されている拡散層により被覆されていることを特徴とする請求項1記載の比透磁率の低い垂直磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2009−1861(P2009−1861A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163829(P2007−163829)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】