説明

気体軸受

【課題】 軸受全体の剛性を高めること、回転軸の減衰特性を比較的容易に設計・製作時に設定できること、加工機械の特性を左右する回転軸の整定時間を制御できる静圧式の気体軸受を提供する。
【解決手段】 固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間に配される第一の軸受部Aと、前記浮動ブッシュFBと回転軸KJとの間に配される第二の軸受部Bとからなる気体軸受部を備え、前記第一の軸受部Aの減衰係数およびばね剛性を調整することにより、回転軸KJの外乱に対する整定時間を制御する。また、固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間に配される第一の軸受部Aと、前記浮動ブッシュFBと回転軸KJとの間に配される第二の軸受部Bとからなる気体軸受部を備え、前記第一の軸受部Aの減衰係数およびばね剛性を調整する手段として、前記第一の軸受部AへフルイドダンパFDを付加してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、精密測定装置、オプトエレクトロニクスなどにおいて用いられる静圧式の気体軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
静圧式の気体軸受は、高速、高精度の回転軸受部として、超精密工作機械や、超精密測定装置に使用されている。そして、その軸受に対する高速回転性能の要求も高まりつつある。
従来、静圧式の気体軸受において、高剛性、高減衰係数特性両方を兼ね備えた、特性を持つことは自励振動の発生現象などで、限界があり、高剛性、高減衰係数特性を有するために、軸受内部にフルイドダンパを設置するような機構が提案されたりしていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、静圧式の気体軸受機構のひとつに、軸受の回転軸と固定軸受筒の隙間(軸受部)に浮動ブッシュを設ける機構がある。
【非特許文献1】精密工学会誌Vol.63、No.2 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載された技術は、静圧式の気体軸受にフルイドダンパを付加することにより、整定時間の短縮化と不安定振動の発生防止という点で優れているものの、減衰係数を高めるためにフルイドダンパを回転軸に付加すると、ダンパの粘性のために発熱が大きく、高速回転が不可能であった。
また、浮動ブッシュを内蔵した静圧式の気体浮動ブッシュ軸受は、回転軸と軸受との間に補助軸受として浮動軸受を介在させて、その浮動軸受を回転軸の回転数の1/2で回転させることにより、最も少ない消費動力で高速回転させることができ、従って発熱を低減することができるという長所を有しているが、その反面、構造が複雑であり、部品の製作精度が厳しく、製作の困難性が高く、また、回転軸受部の軸剛性、減衰特性が低いことから、全体にコストパフォーマンスが悪く、一般的には商品として使用されていなかった。
【0005】
そこで、本発明は、前述した従来の欠点を改良すると共に、構造としての長所から、浮動ブッシュを内蔵した気体静圧浮動ブッシュ軸受を利用して、さらに軸受全体の剛性を高めることが可能でかつ減衰特性の高い静圧式の気体軸受を提供することを目的とする。
また、本発明は、回転軸の減衰特性を比較的容易に設定可能な静圧式の気体軸受を提供することを目的とする。
【0006】
さらに本発明は、加工機械等に採用してその特性を左右する回転軸の整定時間(応答性)を制御できる静圧式の気体軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、固定軸受筒と浮動ブッシュとの間に配される第一の軸受部と、浮動ブッシュと回転軸との間に配される第二の軸受部とからなる気体軸受部を備え、第一の軸受部の減衰係数およびばね剛性を調整することにより、回転軸の外乱に対する整定時間を制御することを特徴とする。
請求項2に係る発明は、固定軸受筒と浮動ブッシュとの間に配される第一の軸受部と、浮動ブッシュと回転軸との間に配される第二の軸受部とからなる気体軸受部を備え、第一の軸受部の減衰係数およびばね剛性を調整する手段として、第一の軸受部にフルイドダンパを付加してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、浮動ブッシュの付加と、固定軸受筒と浮動ブッシュとの間に配される第一の軸受部の減衰特性、ばね剛性を調整することができる構成としたので、浮動ブッシュの欠点を解消して、かつ静圧気体軸受の長所を合わせ持つ新たな回転型静圧気体軸受を得ることができる。
また、本発明によれば、固定軸受筒と浮動ブッシュとの間に配される第一の軸受部にフルイドダンパを付加したので、このフルイドダンパの流体粘度を変えたり隙間を変化させて、軸受部の減衰特性、ばね剛性を調整することが容易になり、静圧気体軸受の長所を合わせ持つ新たな回転型静圧気体軸受を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る静圧式の気体軸受を示す一部断面図である。本実施形態に係る気体軸受は、回転軸KJと、この回転軸KJの外側に回転自在に挿入した浮動ブッシュFBと、この浮動ブッシュFBの外側に配した固定軸受筒CJとで構成されている。固定軸受筒CJに対して浮動ブッシュFBは回転自在である。
【0010】
固定軸受筒CJの外周中央部に形成された空気供給口ASから供給された圧縮空気は、固定軸受筒CJの内面側に設置されたオリフィスOL(OL11〜OL14)を通過して固定軸受筒CJとの間の隙間部分で第一の軸受部(軸受部A)を形成し、同時に、ジョイント部を通って浮動ブッシュFBの管路ASDに流入し、浮動ブッシュFBの内径側の軸受面に設置されたオリフィスOL(OL1〜OL6)を通過して回転軸KJとの間の隙間部分で第二の軸受部(軸受部B)を形成して排気口EX(EX1〜EX4)を介して外部へ排気される。図示したように、軸受部軸受部A,Bは、夫々浮動ブッシュFBの内外径側で、ラジアル面とスラスト面(両端側)とに亘って形成されている。これらのオリフィス構造は図示していないが、回転軸KJの全周囲に亘って均等分割位置に例えば8等分のように形成されている。
【0011】
軸受部Aは、前述した軸受部による静圧式の気体軸受を構成していると共に、フルイドダンパ機構FDを設けている。フルイドダンパ機構FDは、軸受部Aと同様に固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間の隙間に形成されており、隙間の一方の面側に装着した磁石MGと隙間に位置する磁性流体JRとの組み合わせにより形成され、本実施形態では、両端側のスラスト面のフルイドダンパ機構FD1,FD4と、ラジアル面に配置したフルイドダンパ機構FD3,FD4の4箇所に設けてある。また、軸受部Bは、従来と同等な静圧気体軸受を構成しており、軸受部Aと同様にスラスト面とラジアル面との組み合わせから構成されている。
【0012】
以上のような構成において、本発明者等は、フルイドダンパ機構FDを除いた浮動ブッシュ静圧気体軸受構造において、図2に示すように、回転軸KJに衝撃(外乱)を与えた場合の応答特性から、固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間の隙間の減衰係数の変化が回転軸KJの応答特性(整定時間)に大きく関わってくることを見い出した。そして、浮動ブッシュFBと固定軸受筒CJとの間の軸受特性を改善するように調整することが、従来実用に供することが困難であった浮動ブッシュ静圧気体軸受の実用化を可能にした。
【0013】
そして、さらに、前述した浮動ブッシュFBと固定軸受筒CJとの間の軸受特性を改善するように調整する方法として、フルイドダンパ機構FDを前述した軸受部Aに設けた。図1に示した構造がそれである。
すなわち、フルイドダンパ機構FDを構成する磁性流体JRの粘性を変化させることにより固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間の隙間の減衰係数の変化につながり、また固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間の隙間量を変化させることにより、同様に固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間の隙間の減衰係数の変化につながり、その調整が回転軸KJの整定時間を改善制御することになる。そして、前述したように高剛性の特性をもった軸受が提供できる。
【0014】
図1に示す構造において、図2に示すような外乱Xを回転軸KJに付加したときの回転軸KJの整定時間は、図3に示すように、軸受部Aの減衰係数を変化させることで変えられることが確認できた。また、軸受部Aにフルイドダンパ機構FD(FD1〜FD4)を用いることで、非特許文献1に記載したような高剛性、高減衰特性をもつ静圧気体軸受けが達成できる。
【0015】
本実施形態によれば、浮動ブッシュFBの設置により、2つの軸受部A,Bが形成され、それぞれ軸受部A,Bの特性が回転軸KJに与える影響が明確になった。そして、特に浮動ブッシュFBと固定軸受筒CJと間に形成される第一の軸受部(軸受部A)の減衰特性が回転軸KJの減衰特性、応答特性に大きく影響を及ぼすことがわかり、この軸受部Aの減衰特性、ばね剛性を調整することにより、回転軸KJの外乱に対する整定時間を制御することで回転軸KJの発熱を抑制しながら高速回転を可能にし、かつ浮動ブッシュ気体軸受の欠点であった低剛性に対し、軸受部Aの剛性を高めることにより気体軸受の剛性を高めることができる。このように、浮動ブッシュFBの付加と軸受部Aの減衰特性、ばね剛性を調整することにより、浮動ブッシュFBの欠点を解消して、かつ静圧気体軸受の長所を合わせ持つ新たな回転型静圧気体軸受を得ることができる。
【0016】
また、本実施形態によれば、第一の軸受部である軸受部AにフルイドダンパFDを付加したことで、このフルイドダンパFDの流体粘度を変えたり隙間を変化させて、軸受部Aの減衰特性、ばね剛性を調整することが容易になり、静圧気体軸受の長所を合わせ持つ新たな回転型静圧気体軸受を得ることができる。
(第二実施形態)
図4は、本発明の第二実施形態に係る静圧式の気体軸受を示す一部断面図である。本実施形態に係る静圧式の気体軸受は、回転軸KJと浮動ブッシュFBとの間の軸受構造Bは第一実施形態に係る静圧気体軸受と同様であるが、圧縮空気の供給口ASを浮動ブッシュFBに設けた点で、第一実施形態に係る静圧気体軸受と相違する。本実施形態では、その供給口ASから圧縮空気を供給し、浮動ブッシュFBが回転しない構成としてある。本実施形態に係る静圧式の気体軸受は、第一実施形態に係る静圧式の気体軸受のように浮動ブッシュFBが回転しなくても同様の効果が得られる。本実施形態に係る静圧式の気体軸受における静圧軸受構造およびオリフィス構造は、第一実施形態に係る静圧式の気体軸受と同様であるから、説明を省略する。
【0017】
本実施形態においては、フルイドダンパ機構FDは、固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの向い合う両面に磁力の高い磁石MG1,MG2を設置して、その間に磁性流体JRを保持させるように構成した。
なお、本実施形態において、固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの向い合う両面に磁力の高い磁石MG1,MG2を設置して、その間に磁性流体JRを保持させるように構成したフルイドダンパ機構FDについて説明したが、このフルイドダンパ機構FDを浮動ブッシュFBの回転止め手段として用いることもできる。要は、軸受部Aが、浮動ブッシュ静圧気体軸受としての応答特性を向上させ得る高い剛性、高い減衰係数を有することで、本発明のように構成することで達成が可能である。
【0018】
(第三実施形態)
図5は、本発明の第三実施形態に係る静圧式の気体軸受を示す一部断面図である。本実施形態に係る静圧式の気体軸受は、固定軸受筒CJと浮動ブッシュFBとの間の軸受部Aにおいて、浮動ブッシュFBは回転しない構造とした。そして、軸受部Aは流体として非圧縮流体である油や水を利用することも可能である。
【0019】
本実施形態に係る静圧式の気体軸受は、固定軸受部CJ側に開口した流体供給口FSから油あるいは水を供給し、軸受部Aが油静圧軸受、水静圧軸受を構成する。浮動ブッシュFBと回転軸KJとの間は、浮動ブッシュFBの供給口ASからの圧縮空気による静圧気体軸受部Bを構成する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る静圧式の気体軸受を示す一部断面図である。
【図2】図1の静圧式の気体軸受の外観図で、外乱Xを与える回転軸の位置を示す。
【図3】図2の外乱を与えたときの、回転軸の整定時間の変化を示す説明図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る静圧式の気体軸受を示す一部断面図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る式の気体軸受を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0021】
A 軸受部(第一の軸受部)
AS 空気供給口
ASD 管路
B 軸受部(第二の軸受部)
CJ 固定軸受筒
EX 排気
FB 浮動ブッシュ
FS 流体供給口
JR 粘性流体
KJ 回転軸
OL オリフィス
Mg 磁石


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸受筒と浮動ブッシュとの間に配される第一の軸受部と、前記浮動ブッシュと回転軸との間に配される第二の軸受部とからなる気体軸受部を備え、前記第一の軸受部の減衰係数およびばね剛性を調整することにより、回転軸の外乱に対する整定時間を制御することを特徴とする気体軸受。
【請求項2】
固定軸受筒と浮動ブッシュとの間に配される第一の軸受部と、前記浮動ブッシュと回転軸との間に配される第二の軸受部とからなる気体軸受部を備え、前記第一の軸受部の減衰係数およびばね剛性を調整する手段として、前記第一の軸受部にフルイドダンパを付加してなることを特徴とする気体軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275281(P2006−275281A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304784(P2005−304784)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人精密工学会発行の「2004年度 精密工学会秋季大会 学術講演会講演論文集」に発表
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000170853)黒田精工株式会社 (81)
【Fターム(参考)】