説明

水中油型微細乳化組成物及びその製造方法

【課題】油溶性薬剤を配合した使用性、安定性に優れた水中油型乳化組成物、および前記組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)エステル油、(B)高級脂肪酸、(C)高級アルコール、(D)ポリオキシエチレンフィトステロール、(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル、(F)油溶性薬剤、(G)水性成分、とを含有することを特徴とする水中油型微細乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中油型微細乳化組成物及びその製造方法、特に油溶性薬剤を含む該組成物の安定性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油溶性薬剤を有効成分として基剤に配合するための製剤開発が盛んに行われている。特に、皮膚表面のセラミド等の角質細胞脂質が、角質層のバリア機能に深く関与していることが明らかにされて以来、これを配合した製剤開発が試みられてきた。しかしながら、セラミド類は結晶性が高く、化粧料に配合する場合に、安定性の観点からその配合量が制限されてしまい、その結果セラミド類の配合効果が十分に得られるものではなかった。そこで、セラミド類の効果を十分に発現可能である量を配合しても、安定性が良好に維持され、結晶析出等の問題を生じることのない化粧料の開発が望まれていた。
【0003】
上記の目的の達成のために、例えば、非イオン性界面活性剤とイオン性界面活性剤とを組み合わせて用いることにより、脂質を微細かつ安定に配合する方法(例えば、特許文献1を参照)、脂質と界面活性剤と油剤により液晶を形成させる方法(例えば、特許文献2を参照)、脂質と界面活性剤を有機溶媒から析出させて、それらの複合体を利用する方法(例えば、特許文献3を参照)、あるいはリポソーム(リン脂質二分子膜からなるベシクル)を用いる方法等が検討されてきた。
【0004】
【特許文献1】特開平4−193814号公報
【特許文献2】特開平6−345633号公報
【特許文献3】特開平11−199462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スフィンガニン等のセラミド類は、一般に油剤への溶解性が悪いため、上記の方法によっても比較的多量の界面活性剤および溶媒の配合が必要とされ、化粧料としての安全性の点で課題が残るものであった。特に、有機溶媒の混入を嫌う化粧料に配合する場合には、脂質と界面活性剤からなる複合体を得るために使用した大量の有機溶媒を完全に除去する技術が必要となり、その製造過程の操作が煩雑なるものであった。さらにリポソームを利用する方法においては、リン脂質が一般的に不安定な物質であることに起因して、化粧料に配合した場合に高温保存安定性及び長期保存安定性を十分に確保することが困難であった。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は油溶性薬剤を配合した水中油型乳化組成物の安定性の改善、および煩雑な操作を必要としない前記組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題に鑑み、本発明者等が鋭意研究を重ねた結果、エステル油、高級脂肪酸、高級アルコール、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル、油溶性薬剤を含む油性成分、及び水性成分を構成成分として、70℃付近で乳化することにより調製される水中油型乳化組成物は、その内油相の乳化粒子径が50〜1000nmと微細なものであり、優れた安定性、優れた使用感を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の水中油型微細乳化組成物は、下記成分(A)〜(G)を含むことを特徴とする。
(A)エステル油、
(B)高級脂肪酸、
(C)高級アルコール、
(D)ポリオキシエチレンフィトステロール、
(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル、
(F)油溶性薬剤、
(G)水性成分。
【0008】
前記水中油型微細乳化組成物において、(A)エステル油として少なくともジイソステアリン酸グリセリルを含むことが好適である。
また、(B)高級脂肪酸として少なくともイソステアリン酸を含むことが好適である。
また、(C)高級アルコールとして少なくともイソステアリルアルコールを含むことが好適である。
さらに、(F)油溶性薬剤が、美白剤、抗肌荒れ剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤、ビタミン類、抗酸化剤よりなる群から選択された一種または二種以上であることが好適である。
【0009】
また、前記水中油型微細乳化組成物において、(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルがポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジメチルエーテルであることが好適である。
また前記水中油型微細乳化組成物において、内油相が液晶および/または界面活性剤物質から構成される層状構造体を含むことを特徴とする。
前記界面活性剤物質が、(D)ポリオキシエチレンフィトステロールおよび/または(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルであることを特徴とする。
また前記水中油型微細乳化組成物において、内油相の乳化粒子径が50〜1000nmであることを特徴とする。
【0010】
本発明は、下記成分(A)〜(G)を含有し、(A)〜(F)を含む油性成分を70℃以上の温度で溶解または分散させる工程と、70℃以上の温度を保持して該油性混合物に前記(G)水性成分を添加しながら混合攪拌する工程と、を備えることを特徴とする水中油型微細乳化組成物の製造方法を提供するものである。
(A)エステル油、
(B)高級脂肪酸、
(C)高級アルコール、
(D)ポリオキシエチレンフィトステロール、
(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル、
(F)油溶性薬剤、
(G)水性成分。
また、本発明は、前記水中油型微細乳化組成物を含むことを特徴とする化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特別な装置を用いることなく、容易に油溶性薬剤を含む安定性に優れた水中油型微細乳化組成物を得ることができる。また該組成物を化粧料に配合した場合には、浸透感やなめらかさ等の使用感に優れ、薬剤が該組成物中に安定に保持されることに起因して、有効成分の十分な肌効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
本発明における「水中油型微細乳化組成物」とは、前記(A)〜(F)から構成される油性成分と、前記(G)の水性成分から調製される「水中油型微細乳化組成物(1)」、および前記水中油型微細乳化組成物(1)を基剤とし、さらに水性成分によって希釈して得られる「水中油型微細乳化組成物(2)」の両者を意味するものである。
(A)エステル油
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)に配合する(A)エステル油は、通常、化粧料等に使用されるものであればいずれのものも使用できる。具体的に示すと、エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸オクチル、ホホバ油、トリエチルヘキサノイン、グリセリルトリオクタノエート、ペンタエリスリチルテトラオクタノエート、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、オキシステアリン酸イソステアリル、イソノナン酸イソノニル、イソステアリン酸イソセチル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、ジイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、イソプロピルラノレート、ジペンタエリトリット脂肪酸エステル、テトラオクタン酸ペンタエリスリット、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール等が挙げられる。本発明において、ジイソステアリン酸グリセリルが特に好ましく用いられる。
【0013】
本発明において、上記(A)エステル油は水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、1〜10質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは2〜8質量%である。1質量%未満であると、油溶性薬剤が安定に保持されない傾向があり、10質量%を超えて配合すると該組成物を化粧料等に用いた場合にべたつき感などの使用感が劣る場合がある。
【0014】
(B)高級脂肪酸
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)に配合する(B)高級脂肪酸は、通常、化粧料等に使用されるものであればいずれのものも使用できる。具体的に示すと、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸等が挙げられる。本発明において、イソステアリン酸が特に好ましく用いられる。
【0015】
本発明において、上記(B)高級脂肪酸は水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、5〜20質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは7〜15質量%である。5質量%未満であると、油溶性薬剤が安定に保持されない傾向があり、20質量%を超えて配合すると該組成物を化粧料等に用いた場合にべたつき感などの使用感が劣る場合がある。
【0016】
(C)高級アルコール
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)に配合する(C)高級アルコールは、通常、化粧料等に使用されるものであればいずれのものも使用できる。具体的に示すと、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、フィトステロール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、セトステアリルアルコール、バチルアルコール等が挙げられる。本発明において、イソステアリルアルコールが特に好ましく用いられる。
【0017】
本発明において、上記(C)高級アルコールは水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、5〜25質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは8〜20質量%である。5質量%未満であると、油溶性薬剤が安定に保持されない傾向があり、25質量%を超えて配合すると該組成物を化粧料等に用いた場合にべたつき感などの使用感が劣る場合がある。
【0018】
(D)ポリオキシエチレンフィトステロール
本発明において、水中油型微細乳化組成物(1)として、非イオン性界面活性剤として(D)ポリオキシエチレンフィトステロールが好適に用いられる。特に好ましくは、5〜50モルのオキシエチレンが付加したポリオキシエチレンフィトステロールである。具体的には、ポリオキシエチレン(5モル)フィトステロール、ポリオキシエチレン(10モル)フィトステロール、ポリオキシエチレン(20モル)フィトステロール、ポリオキシエチレン(30モル)フィトステロール等が挙げられ、市販品としてはNIKKOL BPS−5、NIKKOL BPS−10、NIKKOL BPS−20、NIKKOL BPS−30(日本サーファクタント工業株式会社製)である。
【0019】
本発明において、上記(D)ポリオキシエチレンフィトステロールは水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、1〜15質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは3〜10質量%である。1質量%未満であると、安定且つ均一な乳化粒子が得られない傾向があり、15質量%を超えて配合すると該組成物を化粧料等に用いた場合には、界面活性剤量が多すぎるため安全性上好ましくない。
【0020】
(E)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)には、(E)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルが含まれる。(E)成分は、通常、化粧料に使用されるものであれば、いずれのものも使用することができ、例えば、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体ジメチルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体ジメエルエーテル、特にランダム型であることが好ましい。ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルは公知の方法で製造することができる。特に好ましくは、ポリオキシエチレン(14モル)ポリオキシプロピレン(7モル)ジメチルエーテルランダム共重合体である。
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルは公知の方法で製造することができる。例えば、水酸基を有している化合物にエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドを付加重合させた後、ハロゲン化アルキルをアルカリ触媒の存在下でエーテル反応させることによって得られる。
【0021】
本発明において、上記(E)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルは水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、10〜60質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは20〜40質量%である。10質量%未満で配合すると70℃において微細乳化物が得られにくくなり、60質量%を超えて配合すると該組成物を化粧料等に用いた場合には安定な水中油型微細乳化組成物が得られない傾向がある。
【0022】
(F)油溶性薬剤
本発明の水中油型微細乳化組成物(1)には、有効成分として(F)油溶性薬剤を含むものである。油溶性薬剤としては、通常医薬品、化粧料等に配合される油分に対して溶解することが可能である成分のいずれをも使用することが可能である。また、油分に溶解可能な両親媒性の薬剤も使用することができる。具体的には、美白剤、抗肌荒れ剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤、ビタミン類、抗酸化剤が挙げられ、本発明においては、これらの一種または二種以上を選択することが好ましい。
【0023】
前記油溶性薬剤をさらに具体的に例示すると、美白剤としてハクシニン、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド、2−O−エチルアスコルビン酸、3−O−エチルアスコルビン酸、トラネキサム酸、抗肌荒れ剤としてアセチルスフィンガニン、紫外線吸収剤としてオクチルメトキシシンナメート、抗炎症剤としてグリチルレチン酸ステアリル、ハッカ油、ビタミン類としてレチノール、ビタミンA及びその誘導体(例えばビタミンAパルミテート)、ビタミンB6パルミテート等の油溶性ビタミンB誘導体、ビタミンD及びその誘導体、ビタミンE及びその誘導体(例えばビタミンEアセテート)、ビタミンK及びその誘導体、ビタミンH、抗酸化剤としてコエンザイムQ10、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0024】
本発明において、上記(F)油溶性薬剤は水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、0.0001〜10質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは0.001〜5質量%である。0.0001質量%未満であると、油溶性薬剤の有効性が十分に発揮されず、10質量%を超えて配合すると該油溶性薬剤が安定に保持されない場合がある。
【0025】
(G)水性成分
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)を構成する(G)水性成分は、水あるいは水性溶媒を主な媒体としてなる成分であれば特に限定されない。通常、化粧品、医薬品等に用いられる成分を安定性に影響が出ない範囲の配合量で配合してもよい。例えば、水;エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のモノアルコール類;プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール類;アロエベラ、ハマメリス、キュウリ、レモン、ラベンダー、ローズ等の植物抽出液等が挙げられる。これらの水性成分の一種または二種以上を用いることができる。
【0026】
本発明において、上記(G)水性成分は水中油型微細乳化組成物(1)の全量に対して、10〜50質量%で配合されることが好ましい。特に好ましくは20〜40質量%である。0.0001質量%未満であると、油溶性薬剤の有効性が十分に発揮されず、10質量%を超えて配合すると該油溶性薬剤が安定に保持されない場合がある。
【0027】
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)は、前述の(A)〜(G)の成分から構成されるものである。続いて水中油型微細乳化組成物の製造方法について説明する。
前記(A)〜(F)成分を70℃以上の温度で溶解または分散させる。前記混合物に(G)水性成分を、70℃以上の温度を維持して系内を攪拌しながら徐々に添加して乳化を行う。その結果、水中油型微細乳化組成物(1)が得られる。得られた乳化物の内油相の乳化粒子径は、50〜1000nmであることが好ましく、さらに好ましくは50〜300nmである。
【0028】
本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)の調製工程において、界面活性剤物質が油相中で互いに積層して層状構造体を形成している。前記層状構造体は、界面活性剤として用いているポリオキシエチレンフィトステロールが親油基として平面状のフィトステロール骨格を有していることに起因して結晶性が高いために形成されるものと考えられる。ただし、この層状構造体を構成する界面活性剤物質としては、ポリオキシエチレンフィトステロールの他に、成分(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルも挙げられる。
【0029】
前記内油相に含まれる活性剤物質が構成する層状構造体は、電子顕微鏡写真による観察により確認することができる(図1を参照)。
測定条件:ネガティブ染色(酢酸ウラン)
測定機器:透過型電子顕微鏡 JEM-2000EX(日本電子株式会社製)
図1から明らかなように、乳化粒子の油相中には、層状構造体が数多く存在している。そして(F)油溶性薬剤は、この層状構造体の周囲を取り巻く油分、或いは層状構造体中に担持されている。本発明にかかる水中型微細乳化組成物は、乳化粒子の内油相中に存在する層状構造体により、硬い乳化粒子が形成され、熱安定性、さらに油溶性薬剤の内包安定性に優れたものとなる。
【0030】
また、水中油型微細乳化組成物(1)を示差走査熱量計(DSC)によって測定した結果を図2に示す。
試料の組成
ジイソステアリン酸グリセリル 7.94 5.38(質量%)
イソステアリン酸 15.87 10.75
イソステアリルアルコール 19.05 12.90
POE(30モル)フィトステロール 9.52 6.45
POE(14モル)・POP(7モル)
ランダム共重合体ジメチルエーテル 0 32.26
イオン交換水 47.62 32.26
測定条件:試料20mg、昇温速度2K/min、測定温度範囲30〜110℃
測定機器:示差走査熱量計 DSC8230D(理学電機株式会社製)
図2の結果を基に、(E)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルの配合量と転相温度の相関を図3に示す。
図3の結果から、(E)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルの配合量が本発明に好適な範囲内である場合、その配合量の増加に伴い、試料の転相温度が降下していることが明らかである。
したがって、本発明にかかる水中油型微細乳化組成物を調製する場合、70℃付近での乳化が容易に実施することが可能である。
【0031】
このように、本発明にかかる水中油型微細乳化組成物は、70℃付近あるいは70℃を超える温度において乳化しても、内油相の乳化粒子径が50〜1000nmである微細な乳化組成物を調製することが可能である。さらに内油相中に界面活性剤物質が構成する層状構造体を含むため、高温においても乳化粒子の安定性に優れ、内油相に含まれる油溶性薬剤が安定に保持される。
【0032】
上述の製造方法によって調製された水中油型微細乳化組成物(1)をさらに水性処方により希釈、均一分散しても安定性に優れた水中油型微細乳化組成物(2)を得ることが可能である。水中油型微細乳化組成物(1)の乳化粒子の内油相中に含まれる成分(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルが、添加すされた水性処方に溶け出すことにより、乳化粒子は微細な粒子径が保持される。
【0033】
また、前記水中油型微細乳化組成物(1)を基剤として、通常化粧品および医薬品等に使用される他の成分をさらに配合することにより、各種製剤を調製することができる。また、本発明にかかる水中油型微細乳化組成物(1)を用いて、農薬、食品分野に適用することも可能である。
【0034】
他の成分としては、例えば、水、水可溶性成分、保湿剤、油剤、界面活性剤、増粘剤、各種粉体、色素、被膜形成剤、pH調整剤、褪色防止剤、消泡剤、防腐剤、薬剤、香料等が挙げられ、これらを本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することが可能である。
水可溶性成分としては、前記(G)成分として挙げたモノアルコール類、多価アルコール、植物抽出液等の他、ソルビトール、マルチトール、ショ糖等の糖類、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、乳酸ナトリウム等の電解質類を用いることができる。
【0035】
保湿剤としては、タンパク質、ムコ多糖、コラーゲン、エラスチン等が挙げられる。
油剤としては、動物油、植物油、合成油等が挙げられ、さらに具体的には、固形油、半固形油、液状油、揮発性油などの性状を問わず、炭化水素油、油脂類、ロウ類、硬化油、エステル油、脂肪酸、高級アルコール、シリコーン油、フッ素系油、ラノリン誘導体、油性ゲル化剤等が挙げられる。
界面活性剤としては、化粧品一般に用いられるものであればいずれのものも使用できる。
【0036】
増粘剤としては、グアーガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子等が挙げられる。
粉体としては、板状、紡錘状、針状、球状等の形状、多孔質または無孔質等の粒子構造、粒子径等により特に限定されず、無機粉体、光輝性粉体、積層フィルム末、有機粉体、色素系粉体、複合粉体等の各種粉体を用いることができる。さらにこれらの粉体は、フッ素化合物、シリコーン系油剤、金属石鹸、ロウ、界面活性剤、油脂、炭化水素等を用いて公知の方法により表面処理を施したものであってもよい。
【0037】
被膜形成剤としては(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等のエマルションポリマー形態をとるもの、pH調整剤としては、乳酸、クエン酸等のα−ヒドロキシ酸及びその塩、エデト酸塩等、酸化防止剤としては、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、アルコルビン酸等、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0038】
化粧料の形態としては特に限定されず、溶液系、可溶化系、乳化系、油性系、水系、またはそれらを併せ持つ二層型、三層型等の様々な形態をとることができる。化粧料としては、スキンケア化粧料、毛髪化粧料、メーキャップ化粧料等が例示されるが、好ましくはスキンケア化粧料である。スキンケア化粧料を調製する場合、配合した有効成分の効果的な発現のために、化粧水、乳液、クリーム等の水性剤型であることが特に好ましい。本発明にかかる水中油型微細乳化組成物を化粧料に配合する場合、剤型に合わせて適宜選択される。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
まず初めに、表1に示す組成(質量%)で、水中油型乳化組成物を配合した化粧水調製時の乳化粒子径、使用感触、安定性について調べた。
化粧水の製造方法、評価項目は以下のとおりである。
製造方法
(1)表中の(A)〜(F)および(B’)、(E’)成分を70℃以上の温度で溶解または分散させる。前記混合物に(G)の水性成分を、70℃以上の温度を維持して系内を攪拌しながら徐々に添加して乳化を行い、水中油型乳化組成物を得た。
(2)この乳化組成物に70℃にてさらに水性処方を添加して冷却した後、各試験例の化粧水を得た。
【0040】
乳化粒子径
(1)工程後に得られた水中油型乳化物の乳化粒子(表中、(1)工程後の乳化粒子径と記す)および、化粧水調製後の乳化粒子(表中、(2)工程後の乳化粒子径と記す)の測定は、光散乱法により実施した。装置はF−PAR−1000(大塚電子株式会社製)を使用した。
使用感触
得られた化粧水の使用感触について以下のように試験した。女子パネル20名に、調製直後の化粧水の使用性について官能評価をしてもらい、次の基準に従って評価した。
a:肌へのなじみが良く、浸透感が得られると感じたパネルが16名以上。
b:肌へのなじみが良く、浸透感が得られると感じたパネルが10〜15名。
c:肌へのなじみが良く、浸透感が得られると感じたパネルが6〜9名。
d:肌へのなじみが良く、浸透感が得られると感じたパネルが5名以下。
【0041】
安定性
(2)工程後に得られた化粧水の安定性は、0℃、室温、37℃、50℃の温度試験条件下に1ヵ月保存した後、以下の基準により判定した。
a:分離や外観変化などの異常が全く認められない。
b:若干分離が認められるものの、振とうにより元の状態に戻る。
c:分離が認められる。
d:分離とクリーミングが認められる。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表1の結果から明らかなように、従来の油溶性薬剤が配合されていない水中油型乳化組成物を用いた化粧水は(試験例3)、安定性、使用感触共に優れているが、同様の組成を用いて油溶性薬剤をさらに配合すると(試験例4)、室温よりも高温における安定性が若干劣る傾向がみられる。
そこで油溶性薬剤の油分への溶解性を良くするために、油分の種類を変更しても、安定性に依然として問題が残るものであった(試験例2)。
一方、試験例5のように用いる界面活性剤の種類をポリオキシエチレンフィトステロールに変えたところ、顕微鏡写真において従来の乳化粒子では見られなかった層状構造体の形成が確認され、安定性に若干の上昇傾向がみられた。そこで、試験例1のように、油分として(A)エステル油、(B)高級脂肪酸、(C)高級アルコールを組み合わせ、界面活性剤としてポリオキシエチレンフィトステロールを用い化粧水を調製したところ、油溶性薬剤を配合しても高温においての安定性も良好である化粧水を得た。さらに、試験例1においても層状構造体の形成が確認された。なお試験例2においては、層状構造体の形成は確認されなかった。
【0044】
また、試験例1〜4に共通に含まれるPOE・POP共重合体を配合せずに、非イオン性界面活性剤の配合量を増やすと、安定性および使用感触の両項目において劣るものとなった(試験例6)。POE・POP共重合体の代わりに水添大豆リン脂質を配合しても十分に満足のいく結果は得られなかった(試験例7)。
以上の結果から、油溶性薬剤を配合した水中油型微細乳化組成物は、特定の界面活性剤を用いた場合に、内油相の液晶の状態が異なるものとなり、それが組成物の安定性に影響を与えることが示唆された。
続いて、特定の界面活性剤の配合量について検討を実施した。その結果を下記表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
上記表2の結果から明らかなように、(D)ポリオキシエチレン(30モル)フィトステロールエーテルの配合量が、成分(A)〜(G)の総量に対して1.0質量%を超えると、安定性に優れたものとなることが明らかである。ただし、試験例13のように、15質量%以上になると、使用感触においてべたつき感が増す傾向が見られた。
また、(D)ポリオキシエチレン(30モル)フィトステロールエーテルの配合割合が組成物中において適当なものであっても、(E)POE・POP共重合体の配合量が少ない場合には、安定性および使用感触の両者において劣るものとなった(試験例14)。
さらに本発明者等は、油成分の組み合わせも重要であると認識し、引き続き油分の検討を実施した。その結果を下記表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
上記表3の結果から明らかなように、(A)エステル油、(B)高級脂肪酸、(C)高級アルコールを含む組成においては、全体的に優れた安定性及び使用感触が確認された。これらの中でも特に試験例15において、高温時においても優れた安定性が認められた。
【実施例2】
【0049】
以下により、具体的に本発明にかかる実施例を示す。なお、処方中の数値は、本発明にかかる水中油型微細乳化組成物を用いた最終的な化粧料組成物に対する質量%である。ただし、本発明は以下に限定されるものではない。
処方例1:白濁化粧水
(配合成分) (質量%)
(1)ジイソステアリン酸グリセリル 0.15
(2)イソステアリン酸 0.5
(3)イソステアリルアルコール 0.6
(4)POE(30モル)フィトステロール 0.3
(5)POE(14モル)・POP(7モル)ジメチルエーテル 1.5
(ランダム型)
(6)アセチルスフィンガニン 0.1
(7)イオン交換水 1.5
(8)エタノール 5.6
(9)1,3−ブチレングリコール 7.8
(10)グリセリン 4.8
(11)ジグリセリン 0.4
(12)メチルパラベン 0.15
(13)イオン交換水 残 部
(製法)
(1)〜(6)を70℃にて混合し、これに70℃にて(7)を攪拌しながら添加した後、冷却し水中油型微細乳化組成物を得た。これとは別に(8)〜(13)を混合した水性処方中に、70℃にて前記水中油型微細乳化組成物を攪拌しながら添加した後、冷却し、目的の白濁化粧水を得た。
【0050】
処方例2:白濁化粧水
(配合成分) (質量%)
(1)ジイソステアリン酸グリセリル 0.25
(2)イソステアリン酸 0.5
(3)イソステアリルアルコール 0.6
(4)POE(30モル)フィトステロール 0.3
(5)POE(14モル)・POP(7モル)ジメチルエーテル 1.5
(ランダム型)
(6)コエンザイイムQ10 0.03
(7)イオン交換水 1.5
(8)エタノール 5.6
(9)1,3−ブチレングリコール 7.8
(10)グリセリン 4.8
(11)ジグリセリン 0.4
(12)メチルパラベン 0.15
(13)イオン交換水 残 部
(製法)
(1)〜(6)を70℃にて混合し、これに70℃にて(7)を攪拌しながら添加した後、冷却し水中油型微細乳化組成物を得た。これとは別に(8)〜(13)を混合した水性処方中に、70℃にて前記水中油型微細乳化組成物を攪拌しながら添加した後、冷却し、目的の白濁化粧水を得た。
【0051】
処方例3:白濁化粧水
(配合成分) (質量%)
(1)ジイソステアリン酸グリセリル 0.15
(2)イソステアリン酸 0.5
(3)イソステアリルアルコール 0.6
(4)POE(20モル)フィトステロール 0.3
(5)POE(14モル)・POP(7モル)ジメチルエーテル 1.5
(ランダム型)
(6)オクチルメトキシシンナメート 0.1
(7)イオン交換水 1.5
(8)エタノール 5.6
(9)1,3−ブチレングリコール 7.8
(10)グリセリン 4.8
(11)ジグリセリン 0.4
(12)フェノキシエタノール 0.15
(13)イオン交換水 残 部
(製法)
(1)〜(6)を70℃にて混合し、これに70℃にて(7)を攪拌しながら添加した後、冷却し水中油型微細乳化組成物を得た。これとは別に(8)〜(13)を混合した水性処方中に、70℃にて前記水中油型微細乳化組成物を攪拌しながら添加した後、冷却し、目的の白濁化粧水を得た。
【0052】
処方例4:美容液
(配合成分) (質量%)
(1)ジイソステアリン酸グリセリル 0.45
(2)イソステアリン酸 1.5
(3)イソステアリルアルコール 1.8
(4)POE(30モル)フィトステロール 0.9
(5)POE(14モル)・POP(7モル)ジメチルエーテル 4.5
(ランダム型)
(6)アスコルビン酸グルコシド 1.5
(7)イオン交換水 1.5
(8)エタノール 5.0
(9)1,3−ブチレングリコール 5.0
(10)グリセリン 5.0
(11)フェノキシエタノール 0.5
(12)カルボキシビニルポリマー 0.2
(13)苛性カリ 0.26
(14)エデト酸三ナトリウム 0.01
(15)イオン交換水 残 部
(製法)
(1)〜(6)を70℃にて混合し、これに70℃にて(7)を攪拌しながら添加した後、冷却し水中油型微細乳化組成物を得た。これとは別に(8)〜(15)を混合した水性処方中に、70℃にて前記水中油型微細乳化組成物を攪拌しながら添加した後、冷却し、目的の美容液を得た。
【0053】
処方例5:美容液
(配合成分) (質量%)
(1)ジイソステアリン酸グリセリル 0.25
(2)イソステアリン酸 0.5
(3)イソステアリルアルコール 0.6
(4)POE(30モル)フィトステロール 0.3
(5)POE(14モル)・POP(7モル)ジメチルエーテル 1.5
(ランダム型)
(6)コエンザイムQ10 0.01
(7)イオン交換水 1.5
(8)エタノール 5.0
(9)1,3−ブチレングリコール 5.0
(10)グリセリン 7.0
(11)フェノキシエタノール 0.5
(12)カルボキシビニルポリマー 0.2
(13)2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオ−ル 0.15
(14)エデト酸三ナトリウム 0.01
(15)イオン交換水 残 部
(製法)
(1)〜(6)を70℃にて混合し、これに70℃にて(7)を攪拌しながら添加した後、冷却し水中油型微細乳化組成物を得た。これとは別に(8)〜(15)を混合した水性処方中に、70℃にて前記水中油型微細乳化組成物を攪拌しながら添加した後、冷却し、目的の美容液を得た。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明にかかる水中油型微細乳化組成物の内油相の電子顕微鏡写真図である。
【図2】本発明にかかる水中油型微細乳化組成物を示差走査熱量計(DSC)によって測定した結果を示した図である。
【図3】(E)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルの配合量と転相温度の相関を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エステル油、
(B)高級脂肪酸、
(C)高級アルコール、
(D)ポリオキシエチレンフィトステロール、
(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル、
(F)油溶性薬剤、
(G)水性成分、
とを含有することを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水中油型微細乳化組成物において、(A)エステル油として少なくともジイソステアリン酸グリセリルを含むことを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水中油型微細乳化組成物において、(B)高級脂肪酸として少なくともイソステアリン酸を含むことを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水中油型微細乳化組成物において、(C)高級アルコールとして少なくともイソステアリルアルコールを含むことを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水中油型微細乳化組成物において、(F)油溶性薬剤が、美白剤、抗肌荒れ剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤、ビタミン類、抗酸化剤よりなる群から選択された一種または二種以上であることを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水中油型微細乳化組成物において、(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルがポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジメチルエーテルであることを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水中油型微細乳化組成物において、内油相が液晶および/または界面活性剤物質から構成される層状構造体を含むことを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の水中油型微細乳化組成物において、前記界面活性剤物質が、(D)ポリオキシエチレンフィトステロールおよび/または(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテルであることを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の水中油型微細乳化組成物において、内油相の乳化粒子径が50〜1000nmであることを特徴とする水中油型微細乳化組成物。
【請求項10】
(A)エステル油、
(B)高級脂肪酸、
(C)高級アルコール、
(D)ポリオキシエチレンフィトステロール、
(E)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンランダム共重合体ジアルキルエーテル、
(F)油溶性薬剤、
(G)水性成分、
とを含有し、
前記(A)〜(F)を含む油性成分を70℃以上の温度で溶解または分散させる工程と、70℃以上の温度を保持して該油性混合物に前記(G)水性成分を添加しながら混合攪拌する工程と、を備えることを特徴とする水中油型微細乳化組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の水中油型微細乳化組成物を含むことを特徴とする化粧料。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−137966(P2008−137966A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326971(P2006−326971)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】