説明

水害回避免震建築物

【課題】地震による揺動の加速度を少なくし、高潮水害時に建家が冠水しない水害回避免震建築物の提供。
【解決手段】上面が開口し側壁12および底面11を備えた基礎2を備え、基礎2内に浮体1を収容すると共にその浮体1上に建家9を建造する。浮体1と建家9の間に地震の揺動を緩衝伝達する伝達手段を設けると共に振幅巾を制限するダンパを設ける。浮体1と一体で浮体1より下方に伸縮するアンカーポール15及び基礎底面11に基礎2と一体に係止部材16を備え、前記アンカーポール15と係止部材16が結合し一体となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地震の加速度を和らげ建築物に与える地震災害を極限する免震建築物として、同時に高潮水害時に冠水しない水害回避建築物として作用する安全な水害回避免震建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
1995年1月17日のマグニチュード7.2神戸淡路大震災は、近年日本で発生した地震の中でも古今未曾有の大災害をもたらした。
特に古い木造日本建築物で伝統的瓦屋根築後30年以上の在来工法2階建て長屋で、倒壊後火災の発生した密集地域の人的被害が極めて顕著であった。
それは建家の固有振動数と地震震動の周波数が共鳴したことと、地震の加速度が極めて大で建築物骨組みに大きな力が加わり短時間の内に倒壊に至ったものである。
爾来地震災害防止のための研究や各種提案が建築建設業界からなされているが以下は最近のその一例である。
【特許文献1】特開2004−84189
【特許文献2】特開2004−176348
【特許文献3】特開2005−188043 これらはすべて地震の加速度を和らげ建築物に対する衝撃を少なくする免震装置の提案である。
【0003】
また高潮水害に関しては2004年12月26日マレーシア沖に発生した海底大地震により、インド洋沿岸諸国海岸地域に大津波による大水害が発生し、情報の伝達が遅れたこともあり過去未曾有の十数万人の死者が出た。
また2005年8月29日米国フロリダ州で発生したハリケーン・カトリーナは、ルイジアナ州及びミシシッピー州に上陸しニューオーリンズと周辺地域では、古今未曾有の大水害で死者は数千人に達する可能性があるとメディアから発表されている。
在来海岸地域や一般平野部にも津波や河川氾濫・台風高潮被害に対する避難設備は無く、小山や高層建築物の上階部に避難する以外に方法は無かった。
津波被害に対して現在関係諸国政府や自治体は、大地震の発生予報と津波が発生した場合如何に速やかにそれを検知する検知手段の開発と、多くの国民に伝達する伝達方法等ソフト面の構築に傾注している。
【0004】
如何に早く小山や高層建築物に逃避することが、被害を少なく食い止める方法ではある。
しかし小山や高層建築物が無い平野部の多い田園地帯や、又あっても時間距離が離れて速やかな避難の困難な臨海地帯は極めて多い。
津波発生の情報伝達通信手段の構築と共に、津波に遭遇した場合の避難する手段としての装置や設備等ハード面の開発完備も極めて重要な課題である。
また年間数度も来襲する台風高潮や集中豪雨による河川氾濫被害も、低地に居住する人達は高潮浸水や氾濫冠水により例年莫大な人的物的損害を蒙っている。
【0005】
我が国においても今世紀初頭南海地震や東南海地震が発生する可能性が高いことから、鉄骨構造十数メートルのタワー型避難台の提案がなされている。
【特許文献4】特開2004−339920 しかしながら老若男女多数の人たちが短時間の内に階段を使って、十数メートル高所の避難台に登ることが出来るかどうかの疑問もあり、又津波の高さがタワーの高さ十数メートル以内であるかどうかの保証も無いので未だ普及の段階には至っていない。 また本発明者はこの問題に関し先願にて「浮体建築物」の名称で実用新案登録を出願し登録されている。
【特許文献5】実用新案登録第3110611号 本発明は前述の免震装置を備えた免震建築物であり、更に高潮水害時には建家が敷地ごと浮上し冠水しない水害対応建築物として共用出来る水害回避免震建築物を新規の特許として出願するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物の構造を強固にすれば地震による倒壊は防止できるが建物内部の器物が転倒し、その転倒による損壊や器物の下敷きになるなど住人の負傷まで防止出来ない。
本発明は地震による揺動の加速度を少なく振幅を縮小して和らげ、建物の損壊を防止すると共に内部の器物転倒や人的損傷を防止する免震効果を備えた建築物を提供することを課題とする。
また津波や河川氾濫及び台風等の高潮水害時に建家が冠水しない安全な水害対応建築物であって、同一の建物でありながら水害被災防止と前記地震災害防止を兼ね備えた安全な水害回避免震建築物を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0007】
建家に対し地震による揺動の加速度を少なくして和らげ、建家及び内部器物の損壊転倒を防止する建築物で、更に高潮水害時に建家が冠水しない建築物であって以下1ないし9の条件を具備したことを特徴とする水害回避免震建築物。
1,上面が開口し側壁および底面を備えた容器構造プール型基礎を備える。
2,前記プール型基礎内に台船型浮体を収容すると共にその浮体上に建家を建造する。
3,前記浮体と建て家の間に地震の揺動を緩衝伝達する伝達手段を設ける。
4,前記浮体と建て家の間に地震の揺動の振幅巾を制限するダンパを設ける。
5,地震発生時に前記浮体は大地と一体で共に地震揺動の加速度が直接伝わるが、建家は前記伝達手段及び前記ダンパを介して揺れが伝わり、建家に地震揺動の加速度を少なく和らげると共にその振幅巾を減少するように構成した。
6,前記プール型基礎内部に連通し高潮浸水が流入する流入口を開口する。
7,前記台船型浮体と一体で、浮体より鉛直下方に伸長するアンカーポールを備える。
8,前記プール型基礎底面に基礎と一体に係止部材を備え、前記アンカーポールと係止部材が結合し一体となるように構成する。
9,浸水状態となった時浮体は鉛直上方に浮上するが、前記アンカーポールが前記係止部材との結合固定により、浮体の流水による水平方向流動を阻止するように構成した。
【0008】
本発明の免震建築物は必要な建設場所に鉄筋コンクリートにより上面が開口したプール形基礎(以下プールとも言う。)を構築し、その中へ台船構造の浮体を収容してその浮体上に建築物を建造したものである。
更に浮体とその上に建築した建て家の間に地震揺動の加速度をスリップさせて減じる緩衝伝達手段を設けるとと共に、地震揺動の振幅巾を制限し浮体を元の位置に還す弾力性を備えたダンパを設けてある。
プール型基礎は地中に埋設されその上のプール内に載置された浮体は、基礎と浮体の素材摩擦によって浮体は地震の揺動がそのまま直接伝わるが、浮体上の建て家には緩衝伝達手段を介して伝わり地震揺動加速度の大なる部分はスリップして伝達される。
基礎と浮体が地震によって一体的に揺動するのは、浮体と一体のアンカーポール下端部が基礎底面のポール穴に一部挿入され、浮体と基礎の連結による係止部材として作用する理由もある。
またダンパは地震揺動による浮体と建て家との相対移動を常に制限し、元の位置に還すように作用して振幅巾を制限する。
従って地震による基礎の揺動は上記緩衝伝達手段とダンパの作用により、建て家には加速度及び振幅巾が減じられ柔らかい揺動となり建家及び内部器物の転倒損壊を防止できる。
【0009】
次ぎに同一の建築物で水害被災については以下の通りである。
その浮体には浮体の底部から下方に突出伸長するアンカーポールを設け、基礎にはそのアンカーポール下端部が基礎と一体に固定される係止部材が設けられている。
津波や台風高潮又は集中豪雨による河川堤防氾濫等の高水位が発生し、高潮浸水が流入口からプール内に流入し浮体の喫水線以上になれば浮体は浮上する方向に水面から浮力を受ける。
水面の上昇と共に浮体は浮上するが、浮体から下方に突出したアンカーポールと基礎と一体の係止部材の固定作用により浮体は浸水流水に流されない。
【0010】
津波は第一波が到来して水位が上昇し、次に急激な引き潮となり陸上部の破壊した器物等を海へ引き去り、また次に第二第三の高潮が到来することが多い。
高潮の高さがアンカーポールの長さ以内であれば、浮体は流されることなく水位と共に上下動するのみで、水位が下がればまた元の位置に浮体は降下する。
水位が更に上昇し浮体が浮上しアンカーポールと係止部材や浮体鞘部材の固定が外れると、アンカーポールと係止部材で構成されるアンカー装置がアンカー作用しなくなり、浮体は潮流や氾濫水に流される状態となる。
浮体はフリーとなり流れのままに翻弄されるが、浮体は台船形で平面寸法が深さよりもきわめて広く、浮体が構築物等に衝突して破損や浸水しない限り転覆沈没することはなく浮体上の人身人命は救われる可能性が高い。
【発明の効果】
【0011】
建家の建築工事において骨組みを強固にすれば、地震に対して損壊しない建築物は建造可能である。
しかし建家内部の什器備品はすべて建家と一体に連結出来ないものが多いので、震度の激しい地震には什器備品家具類が転倒しそのため人身人命まで被害が及ぶことがある。
地震揺動の加速度が大でその揺れ巾即ち振幅が大きいほど地震被害は大きくなる。
本発明免震建築物の浮体と建て家の間に設ける緩衝伝達手段は、浮体に伝達された地震揺動をその加速度の大なる部分をスリップによって緩衝して建て家土台に伝えることにより衝撃を減縮する。
またその地震の揺動振幅は浮体と建て家の間に設ける弾性ダンパにより、振幅がふれるほど抵抗し元の位置に還す作用で縮小している。
従って上記浮体と建て家の間に設ける緩衝伝達手段と、振幅巾を制限する弾性素材のダンパにより地震波の加速度を和らげ更に振幅を減少させることにより、建て家への衝撃を少なくして耐震効果をもたせたものである。
この地震波の加速度と振幅の減少により建家の倒壊を防止し、内部の什器備品の損壊及び人身への傷害を極限するものである。
【0012】
最近提案されている前述の津波の避難装置は、高さ十数メートルの鉄骨構造のタワーで頂上部に十メートル四方程度の手摺り付きの避難台と昇降用階段を設けたものである。
津波情報を受けて速やかに100人以上の多数の人たちが、十数メートルもの階段を上ることは、非常に困難を伴うものであり相当な時間を要する。
また津波の高さが避難台以下であるとの保証は無くそれ以上の津波であれば効果を失う。
本発明は大部分が地中に埋設されたプール形基礎の中に浮体を収納し、その浮体上に建築物を建造したものであり、浮体の深さとプールの深さをほぼ同一とすれば避難者は建築物に入るため高所に上る必要がない。
また本発明はいかなる高水位の津波であっても浮体は浮上し、アンカーポールの長さ以内であれば流水に流されることもない。
【0013】
更にこの避難用浮体建築物の使用頻度は数十年ないし百年に一度あるかないかの程度であり、このためには津波や台風高潮の避難のためだけでなく、常時は避難以外の用途に使用出来る多目的設備であることが望ましく、土地と設備の有効利用が計られ集会場等公共建築物や安全な一般居住用住宅として使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明にとって最も重要なことは、その発明が目的を現実的に達成出来るかの機能である。 次に重要なことは目的を達成する手段は数多くあっても、最も構造が簡単で資材材料が少なくて加工がしやすく総合コストが安価に製作できることであり、目的を達成する方法手段は無数にある。
以下本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための一態様を例示するものであって、本発明は実施例のものだけに特定しない。
【実施例】
【0015】
図1は本発明水害回避免震建築物の実施例で、(a)は側断面図で(b)はその平面図である。
図2は図1(a)の鎖線区画部分の拡大図で図3(a)および(b)は主要な部品の動作を説明するための図である。
建築物を建設する用地に鉄筋コンクリートにより底面(11)及び四方側壁(12)を備えた容器構造プール形ベタ基礎(2)(以下プールとも言う。)を構築する。
その基礎プール内で鋼板製台船構造中空の浮体(1)を組み立てて基礎底面(11)上に収容し、その浮体の上に建家(9)を建築したものである。
基礎(2)底面(11)上に載置された浮体は岸壁等に設置する桟橋台船と同様な構造で、内部が中空の鋼板製または鉄筋軽量コンクリートにより建造されている。
図1ないし図2においてアンカーポール(15)は浮体の四方コーナー部に浮体を鉛直方向に貫通して水密に鞘部材(24)が設置され、その鞘部材の中に円柱形状長尺の鋼管またはコンクリート柱によるアンカーポール(15)が挿入されている。
【0016】
一方基礎(2)底面(11)にはアンカーポール(15)下端部が基礎の中に若干挿入されるポール穴(28)が穿設され、アンカーポール下端部が一部挿入されてアンカーポール下端部とポール穴が一対となる連結部材を形成している。
従って基礎底面のポール穴(28)はアンカーポール下端部が挿入される穴でなく、突起状のものでアンカーポールと一体となる連結部材としてもよい。
また浮体には上部からの加重に耐えるフレーム隔壁(8)上に、防錆力を備え摺動抵抗の少ないテフロン加工金属板等による揺動台座(30)を上向きに張設してある。

建て家はそのすべての重量を支承するフレーム構造の土台(6)の上に一体的に建築され、土台(6)は建て家重量を均一な加重で受けるよう適切に配置され、底面が平滑で摺動抵抗の小さい揺動面(27)を底部に連結した多数の揺動脚(29)によって支承されている。
前記浮体上部の揺動台座(30)上に対応して揺動脚底部の揺動面(27)を載置し、揺動台座(30)と揺動面の間には摩擦抵抗を少なくするため潤滑油膜等が塗布されている。
【0017】
また建て家(9)土台(6)の底部には揺動脚と並列に円柱形のダンパ(4)が土台と浮体上甲板(18)の間を連結して図1(b)においては4本が連結固定設置されている。 上記のごとく構成された免震建築物は地震の揺れに対し以下の通り作用する。
図1(b)の黒矢印方向に地震揺動の一瞬間大地と基礎(2)が移動すると、浮体は基礎の上に載置してありその摩擦力により一体的に基礎と共に揺動移動する。
浮体上の建て家(9)は浮体と一体の揺動台座(30)の上に建て家と一体の揺動面(27)が載置されており、揺動台座(30)と揺動面の間は平滑で摺動抵抗が少なくなるように潤滑油幕が塗布された状態となっている。
そのため地震の揺れは図1(b)平面図において黒矢印方向に浮体が瞬間的に移動すると、建て家土台(6)はスリップして移動が遅れ元の位置に近く残り、相対的に白矢印方向に移動し土台(6)は波線の移動位置(10)となる。
次の瞬間地震揺動は逆方向に揺動移動し建て家土台(6)は黒から白矢印方向のごとく180度の方向に移動し、以下上記往復運動を繰り返す。
円柱形ダンパは合成繊維含有の強靱な合成ゴム塊で、円柱形に整形され図3(b)に示すように点線および鎖線のごとく歪みが加えられても元の形状鉛直方向に復帰するよう構成されている。
【0018】
従って地震揺動によって浮体上甲板(18)の揺動台座(30)が水平方向に往復揺動すると、揺動台座(30)上の建て家の揺動面(27)は、揺動台座の動きに若干の摩擦力によって追従するがスリップが働き遅れが発生する。
すなわち浮体側揺動台座の揺動移動で、加速度が大なる動きはスリップが発生して建て家側揺動面(27)に伝わる。
従って揺動台座の揺動は加速度の大なる部分はスリップによって建て家に伝達されず、加速度の小なる部分のみ伝達されて建て家は加速度の小さい緩やかな揺動となる。
建て家側揺動面(27)の動きは揺動台座(30)より若干遅れると共に、加速度の小さな動きのみが伝達される。
建て家の地震揺動の振幅は円柱ダンパ(31)によって抵抗され、土台(6)が揺動する振幅が大なるほど円柱ダンパが伸長され元の位置に返される方向に力がかかる。従って地震揺動が終了すれば円柱ダンパは元の鉛直方向の位置に返戻される。
極めて緩やかな小さな加速度の揺動は、スリップ無くそのまま土台に伝わるがダンパ(4)の歪みは発生しないのでダンパは作用しない。
【0019】
従って地震の揺動を緩衝伝達する伝達手段すなわち本実施例の揺動台座(30)と揺動面(27)のスリップ作用で地震揺動の加速度を減じ、地震揺動の振幅巾を制限するダンパにより揺動距離を縮小して地震の破壊力を減少するものである。
建て家土台(6)の揺動は浮体揺動台座(30)の動きよりスリップによって加速度が減じられ、さらに円柱ダンパ(31)によってその移動距離が縮小されて破壊力の少ない地震揺動となる。
ちなみにこれまで地震揺動を水平方向のみと仮定して記載したが、地震揺動は水平方向のみでは無く鉛直上下方向およびそれらの入り交じった斜め揺動があるが、動きを分解すれば水平方向と鉛直上下方向となる。
鉛直上下方向の揺れは地球上の建築物はすべて地球の引力すなわち重力を思考して、鉛直上下方向に力が加わることを想定して素材および力学理論により建築してあり、鉛直上下方向の揺れには建て家は水平方向より極めて丈夫であることが証明されている。
地震揺動の伝達手段である浮体揺動台座(30)と建て家土台(6)の動きは、両者の摩擦係数によっても変化する。
これまでの説明では両者は平滑な摺動抵抗の少ない平板で、せいぜい潤滑油幕によってスリップ揺動させたものであった。
【0020】
しかし図5左側に示す伝達手段は、リニアベアリングともいうべき摩擦抵抗の極めて少ない緩衝伝達手段である。
揺動脚(29)下の揺動面(27)が小さなベアリング用鋼球(21)を多数平面状に並べ、揺動台座(30)と揺動面の間に敷き詰めたもので揺動面の側面にカバを設け鋼球(21)の落下を防止してある。
揺動台座の地震揺動の動きはほとんどスリップして伝わらず、揺動台座のみが終端まで移動しダンパを強く歪ませる力が加わる。
ダンパは元の位置に帰る方向に急激に移動するが、揺動台座はすでに逆方向終端まで移動し再びダンパを強く歪ませている。
従って地震揺動の揺動台座(30)の動きは、ダンパによって土台(6)が水平左右方向に交互に引かれて、往復運動することとなる。
地震揺動の動きが極めて加速度が大きい場合は、摺動抵抗が大きくても加速度の大なる動きはスリップするので、上述のリニアベアリング使用と同様にダンパによって土台(6)が水平方向に交互に引かれて、往復運動することとなる。
加速度の大なる動きは例えばハンマーで釘を打つようなもので、釘の頭に堅いハンマーの頭が当たると急激にハンマーは停止し釘の頭に大きな打撃を与える。ハンマーの頭が大きく重くてもゴム塊であれば打撃の効果は無くなり、加速度の小さな破壊力の無い運動となるのと同じである。
【0021】
図1ないし図2においてコーミング(5)は、浮体上部と建て家土台(6)下部との間に入り作業するための作業員の上下方向作業口である。
浮体の揺動台座(30)と建て家の土台(6)下の揺動面は、常に平滑で地震揺動時に円滑に滑動しなければならない。またゴム製ダンパも弾力性を失う等の経年変化がありそのため定期的な保守が必要である。
在来の免震装置は平らなべた基礎の上に揺動台座を敷設し、その上に揺動面と揺動脚を介し建て家の土台に連結してあり、また基礎と建て家土台の間に円柱ダンパも併設してある。それらの保守作業は図示しないが浮体と土台(6)の間に小型ジャッキを挿入し、土台(6)を微少寸法ジャッキアップして部品交換等を行う。
注油または部品交換などの作業で揺動脚(29)やゴム製円筒ダンパの高さはせいぜい40cm程度で、原理構造的にメインテナンスのためにのみそれ以上の高さの高いものは、建て家の外観上又は省資源の立場からも不合理であり、作業員が横になっての苦しい作業しか方法が無かった。
【0022】
従って基礎と建て家土台の高さ間隔は、人がその間に入り移動して作業しなければならないので40cmの苦しい横臥作業であった。
本発明では水害に浮上するため大きな浮体を設けたが、その上に免震装置を介して建て家土台に連結しており、揺動脚やダンパ等の免震装置の保守に浮体内部を利用して移動し部品交換等も楽な姿勢で可能となるメリットが出来たのである。
これは緩衝伝達手段と振幅巾制限の揺動脚(29)やダンパを、浮力を得るため一定の高さを必要とする浮体と建て家土台(6)の間に設けた故のメリットである。
図2において土台(6)の端部には土台と一体に土台カバ(7)が設けられ、浮体上に浮体カバ(17)を取り付けているのは土台下に風雨が進入するのを防止するためである。
図3(a)は浮体上甲板(18)と土台(6)の間に取り付けられた緩衝伝達手段すなわち揺動台座と揺動脚および揺動面を示す。
浮体上甲板(18)の左右方向の揺動は揺動台座(30)と揺動面(27)のスリップ伝導で急激な加速度は減じられると共に、(b)図に記載の円柱型ダンパに左右移動距離が制限されて少なくなり(a)図左右の点線および鎖線の通り減縮される。
【0023】
図4は図1の側面図で右方向から高潮浸水が流入した状況を示す。
津波や台風高潮等の水害発生は事前に予測できるので、右端の流入口(20)開閉扉(19)を開放しておけば高潮浸水は流入口(20)からプール内に浸水し、プール側壁(12)と浮体側面(14)の間を通過し浮体周囲全面に浸水する。
浮体底部から浸水に浸漬され浮体側面の喫水の水面線(3)が上昇し、アルキメデスの定理のとおり浮体上の建て家およびすべての積載物の重量と浮体重量の合計重量が、浮体が浸漬された容積の浮力が大きくなれば浮体は浮上し重力と浮力の釣り合った位置が喫水線となる。
水量が増加すれば浮体はその喫水線を保ちながらいくらでも水面と共に高く上昇する。
浸水は右方向から浸水し左方向に流れると、浮体は水流によって左方向に流される大きな力が作用する。
このとき浮体の鞘部材(24)の中を水密に鉛直下方に貫通するアンカーポール(15)は、浮力が無く沈んだままであり浮体は大きな浮力を受けて浮上しているが、アンカーポール下端部が基礎(2)底面の係止部材(16)であるポール穴(28)に挿入されており浮体は流されることはない。
【0024】
図5右側のダンパは雌雄型ダンパ(23)であり垂直面で切れば図のような形状となる貫通リング(25)を、浮体上甲板に図のように取り付けその中へ円柱ダンパ(31)を挿入してある。
その円柱ダンパ下端部は常に牽引力が係るよう重錘を吊すか、または引きバネシリンダ(26)で浮体底部に連結してもよい。
図5に示す揺動伝達手段は浮体上甲板(18)の揺動台座(30)が黒矢印方向右側に地震揺動移動すると、建て家土台(6)は相対的に黒矢印方向左側に移動し円柱ダンパ(31)によって引かれる。
そのため右側白矢印方向に土台(6)は移動し、下の浮体の動きとは逆方向に少し遅れて移動しその往復運動を繰り返す。
その動きの加速度はダンパの伸縮が加わり、ダンパが伸ばされてその収縮力で土台(6)が加速されるので、地震波による浮体上甲板(18)の動きより土台(6)の動きが緩やかとなる。
ダンパはすべてバネでありダンパの動きは弾力性があるので、元の地震揺動より加速度が小となりまたダンパは振幅巾の制限作用があり、従って破壊力の少ない地震揺動のため建築物損壊を防止することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は地震や津波災害に対する避難設備であり、今世紀初頭に南海地震や東南海地震が発生することが予測されており極めて関心の高いテーマである。
台風による河川氾濫及び高潮水害は殆ど毎年各地で発生しており、米国においてルイジアナ州ニューオリンズを襲ったハリケーンカトリーナ等広域にわたる大水害に対応する手段として本発明は極めて有効である。
技術的に完成した装備を提供することにより建設業界及び造船業界にも産業上大きな利用の可能性がある。
2004年12月末のインド洋沿岸地域を襲った大津波は、数時間の内に十数万人の尊い人命を奪い海洋性リゾートを楽しむ人達に大打撃を与えた。
【0026】
大津波に対する何らかの絶対信頼出来る救難施設が完成するまでは、多くの観光客は海岸リゾートに足を向けなくなるであろう。
本発明はその安全性に対する効果が証明され衆知されることにより、この海洋性リゾート産業と臨海地域に居住する多くの人達に安全な生活を保証する大きな糧となる可能性がある。
また本発明は一般の居住用建築物や大型のホテルに適用し、高潮被害の発生しやすい海岸低地に建築することにより、その効果が証明されれば建設産業及び住宅産業界に膨大な利用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】水害回避免震建築物の(a)は側断面図(b)は同上平面図。
【図2】図1(a)の鎖線区画部分の拡大図。
【図3】(a)は揺動台座(30)上で揺動面(27)がスリップ往復スリップ揺動するする説明図。(b)は浮体(1)と建て家土台(6)を連結する円柱ダンパ(31)が地震揺動で歪み、元に返る状況を説明する鳥瞰図。
【図4】図1(a)の側面図で右端流入口(20)から高潮が浸水し、浮体(1)が建て家ごと浮上する状況説明図。
【図5】浮体(1)と一体の揺動台座(30)の上で建て家土台(6)と一体の揺動面(27)が往復地震スリップ揺動し、浮体上甲板(18)と建て家土台を連結する円柱ダンパ(31)が揺動を制限する動きの説明図。
【符号の説明】
【0028】
1…浮体
2…基礎
3…水面線
4…ダンパ
5…コーミング
6…土台
7…土台カバ
8…隔壁
9…建家
10…移動位置
11…底面
12…側壁
13…浮体底面
14…側面
15…アンカーポール
16…係止部材
17…浮体カバ
18…上甲板
19…開閉扉
20…流入口
21…鋼球
22…リニアベアリング
23…雌雄型ダンパ
24…鞘部材
25…貫通リング
26…引きバネシリンダ
27…揺動面
28…ポール穴
29…揺動脚
30…揺動台座
31…円柱ダンパ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建家に対し地震による揺動の加速度を少なくして和らげ、建家及び内部器物の損壊転倒を防止する建築物で、更に高潮水害時に建家が冠水しない建築物であって以下1ないし9の条件を具備したことを特徴とする水害対応免震建築物。
1,上面が開口し側壁および底面を備えた容器構造プール型基礎を備える。
2,前記プール型基礎内に台船型浮体を収容すると共にその浮体上に建家を建造する。
3,前記浮体と建て家の間に地震の揺動を緩衝伝達する伝達手段を設ける。
4,前記浮体と建て家の間に地震の揺動の振幅巾を制限するダンパを設ける。
5,地震発生時に前記浮体は大地と一体で共に地震揺動の加速度が直接伝わるが、建家は前記伝達手段及び前記ダンパを介して揺れが伝わり、建家に地震揺動の加速度を少なく和らげると共にその振幅巾を減少するように構成した。
6,前記プール型基礎内部に連通し高潮浸水が流入する流入口を開口する。
7,前記台船型浮体と一体で、浮体より鉛直下方に伸長するアンカーポールを備える。
8,前記プール型基礎底面に基礎と一体に係止部材を備え、前記アンカーポールと係止部材が結合し一体となるように構成する。
9,浸水状態となった時浮体は鉛直上方に浮上するが、前記アンカーポールが前記係止部材との結合固定により、浮体の流水による水平方向流動を阻止するように構成した。
【請求項2】
地震揺動の緩衝伝達手段が浮体上甲板上に設けられた多数の揺動台板と、揺動台板上に載置され揺動台板上を水平方向に滑動する揺動面で、その揺動面が建て家土台と一体であると共に、地震揺動の振幅巾を制限するダンパが浮体上甲板と土台の間を連結するように設置され、地震揺動による上甲板と土台の距離をバネにより縮小するように構成された請求項1に記載したことを特徴とする水害対応免震建築物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−150814(P2010−150814A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330052(P2008−330052)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000251015)
【Fターム(参考)】