説明

水平宇宙線ミュオン多重分割型検出手段による大型構造物の内部構造情報を得る方法

【課題】強度としては弱いものの、物質透過性が高い水平ミュオンを用いて精度よく大型構造物の内部構造情報を得る方法を提供する。
【解決手段】大型構造物の測定対象部に対向する側方の有限間隔位置に位置敏感検出手段を配置し、位置敏感検出手段は、第1検出板と第2検出板とをもつ位置敏感検出器複合体を2基有し、前記位置敏感検出器複合体の間に鉄部材を配設し、前記測定対象部を貫通して第1位置敏感検出器複合体に到達する前方水平ミュオンが第2位置敏感検出器複合体に到達する際に、それぞれの到達位置をつないだ直線を逆にたどることで、前方水平ミュオンが貫通する前記測定対象部内の経路が特定され、前方水平ミュオンの強度と、第2位置敏感検出器複合体および金属部材を順次貫通して第1位置敏感検出器複合体に到達する後方水平ミュオンの強度の双方を同じ位置敏感検出手段で測定し、前方および後方水平ミュオンの強度比から大型構造物の内部構造情報を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製鉄用高炉、発電用ダム、橋脚、高架道路、船舶、車輌等の大型構造物の内部構造情報を、水平宇宙線ミュオン多重分割型検出手段を用いて得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大型構造物、例えば高炉のような大型構造物は、一旦設置され定常運転に入ると解体でもしない限り内部構造情報を得ることは難しい。
このような内部構造情報を、大型構造物の形態を維持し運転中の状態で得ることができればきわめて有用である。
【0003】
大型構造物の形態を維持した状態で内部構造情報を得るための従来法としては、例えば、本発明者らのうちの一人が提案した特許文献1の方法がある。この方法は、図1に示すように、宇宙から大気を通過して地表に降り注ぐミュオンを利用して、高炉201を貫通するミュオンの強度変化に基づいて炉壁202若しくは炉底部204の耐火物の厚さを非破壊で測定する方法であり、より具体的には、正方形状の測定面をもつ3枚の位置敏感検出器(シンチレーター)211〜213を間隔をあけて互いに平行に配置し、各位置敏感検出器211、212、213には、4隅に光電子増倍管を設置し、位置検出器211〜213の測定面をミュオンが貫通すると、貫通位置で光を発する。この発した光を前記測定面の4隅に設置した光電子増倍管で検知し、この検知した光情報をパルス信号に変換し、これら光電子増倍管で検知するまでの時間の差から、位置検出器211〜213の測定面をミュオンが貫通した位置を特定することができる。平行に配置した3枚の位置検出器211〜213の各測定面での貫通位置を求めることによって、ミュオンが高炉201を貫通したときの経路Hが算出でき、この経路ごとのミュオン強度の減衰を知ることによって、高炉の内部構造情報を得る方法である。
【特許文献1】特開平8−261741号公報
【0004】
しかしながら、本発明者らが上記従来法(アナログ法)についてさらに詳細に検討したところ、各光電子増倍管からのパルス波形が、測定する雰囲気温度等によって変化して長時間安定性が得られない場合があり、かかる場合には、高炉等の構造物の内部構造情報を精度よく得られないことが判明した。
【0005】
また、大気中には、光や電子等のような軟成物宇宙線バックグラウンド成分が、水平ミュオンに対し数10倍程度存在するため、ミュオンを用いて大型構造物の内部構造情報を正確に得るには、3枚のアナログ型検出器211〜213を用いたのでは不十分で、かかる軟成物バックグラウンド成分とミュオンとを区別できるような手段を講じる必要があった。
【0006】
さらに、ミュオンを用いて大型構造物の内部構造情報を得る場合、大型構造物の測定対象部を貫通し位置敏感検出手段に到達するミュオンの強度変化から、大型構造物の内部構造情報を得ることを期待したが、長期安定低バックグラウンド測定が出来ないため、大型構造物の内部構造情報を精度よく得ることができないことが判明した。
【0007】
さらにまた、宇宙から大気を通過して地表に降り注ぐミュオンの物質貫通力は、地表に降り注ぐ角度、即ち垂直方向に対する角度である天頂角によって異なり、特に、天頂角50〜90°の範囲で地表に降り注ぐ水平ミュオンは、強度としては弱いものの、物質を貫通する力、すなわち透過性が高いため、上記軟成物バックグラウンド成分を除去できる手段があれば、大型構造物の内部構造情報を得る上できわめて有用であり、また、水平に近い宇宙線ミュオンを用いることにより、対象物に対して検出器の設置が容易で、垂直方向のミュオンを用いる場合に必要なトンネル等の構築は不要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、強度としては弱いものの、物質を貫通する力、すなわち透過性が高い水平ミュオンを用いて精度よく大型構造物の内部構造情報を得る方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、この発明の要旨は以下のとおりである。
(I) 大型構造物の測定対象部に対向する側方の有限間隔位置に、測定系として位置敏感検出手段を配置し、宇宙からの1次宇宙線により大気でつくられ地表に降り注ぐ素粒子ミュオンが、大型構造物の測定対象部を貫通して、位置敏感検出手段を構成する測定系に到達したときのミュオン強度を所定時間間隔で測定し、前記ミュオン強度の通過経路ごとの分布を知ることによって大型構造物の内部構造情報を得る方法であって、位置敏感検出手段は、水平方向に沿って所定幅で多数のプラスチックシンチレーターの横長部材に区画された正方形状の第1検出板と、垂直方向に沿って所定幅で多数の縦長部材に区画された正方形状の第2検出板とをもつ位置敏感検出器複合体を2基有し、2基の位置敏感検出器複合体は所定間隔で配設され、各位置敏感検出器複合体は、第1および第2検出板に到達したミュオンを同時計測して横縦のxy座標を特定するため、横長部材と縦長部材が直交するように配置され、前記位置敏感検出器複合体の間に、鉄または鉄よりも重い金属からなる金属部材を配設し、前記ミュオンのうち、天頂角50〜90°の範囲で地表に降り注ぐ高エネルギーの水平ミュオンを用い、大型構造物の測定対象部を貫通して第1位置敏感検出器複合体に到達する前方水平ミュオンが、つづいて第2位置敏感検出器複合体に到達する際に、それぞれの到達位置をつないだ直線を逆にたどることで、前方水平ミュオンが貫通する前記測定対象部内の経路が特定され、大型構造物の測定対象部、第1位置敏感検出器複合体および金属部材を順次貫通して第2位置敏感検出器複合体に到達する前方水平ミュオンの強度と、前記位置敏感検出手段を挟んで大型構造物とは反対側から第2位置敏感検出器複合体および金属部材を順次貫通して第1位置敏感検出器複合体に到達する後方水平ミュオンの強度の双方を同じ位置敏感検出手段で測定し、前方および後方水平ミュオンの強度比から大型構造物の内部構造情報を得ることを特徴とする多重分割水平ミュオン検出手段を用いて大型構造物の内部構造情報を得る方法。
【0010】
(II)位置敏感検出手段は、大型構造物の側方であって、その周りに異なる角度間隔で複数基配設することを特徴とする上記(I)記載の大型構造物の内部構造情報を得る方法。
【0011】
(III)大型構造物の内部構造が時間と共に変化する場合、測定される全てのデータに、コンピューターで記録する際に、絶対時間をマイクロ秒以下の精度で付記することにより、大型構造物の動的内部構造情報を得ることを特徴とする上記(I)または(II)記載の大型構造物の内部構造情報を得る方法。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、大型構造物の内部構造情報を非破壊で正確に得ることができる。
また、この発明では、真上から降り注ぐ垂直ミュオンを検出する場合のように、位置敏感検出手段を穴を掘って配置するなどの空間的制限が少なく、大型構造物の側方の有限間隔位置に配置することができる。このため、位置敏感検出手段の周りに、異なる角度間隔で複数基配設することも可能であり、このように複数基配設すれば、複数の異なる角度での切断面に対する密度長観測が可能で、測定物である大型構造物の3次元断層像を得ること(トモグラフィック観測)ができる。
【0013】
さらに、位置敏感検出手段を構成する測定系(計測回路系)について、シンチレーターからの高速パルスに対して、ナノ秒以下の高速電子回路を使用することにより、対象物である大型構造物を貫通する前方水平ミュオンの信号(F)と、丁度反対側の観測角度を持つ「空」の部分を貫通する(、言い換えれば物体を貫通しないで直接到達する)後方水平ミュオンの信号(B)とを区別して測定することができる。また、前方水平ミュオンの信号(F)と後方水平ミュオンの信号(B)とを区別するための他の手段として、ミュオンが地表に対し上方から降り注ぐものに限られ、下方からくるミュオンが存在しないという現象を利用して、各位置敏感検出器複合体を構成する第2検出板を水平ミュオンが貫通するy座標(垂直座標)の位置の上下関係から両信号(FとB)を区別する方法を用いることもできる。この方法の場合、高速電子回路が不要となるという利点がある。かくして得られるF/B強度比をデータとして取り込むことにより、きわめて安定なデータ取得をすることが出来る。加えてマイクロ秒以下の精度で絶対時間を付記してデータ取得を行うことにより、数々の実時間変化の追跡や、周期的な内部構造の時間変動に同期したストロボスコピックな解析を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に従う実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。
図2は、この発明に従う大型構造物の内部構造情報を得る方法に用いるのに最適な位置敏感検出手段の配置構成を示す図である。
図2に示す位置敏感検出手段1は、2基の位置敏感検出器複合体2、3と、鉄または鉄のような重い金属からなる金属部材、図2では、2枚の金属部材4、4とで主として構成されている。
【0015】
各位置敏感検出器複合体2、3は、第1検出板5と第2検出板6とで構成されている。
第1検出板5は、水平方向Hに沿って所定幅W1で多数の横長部材7、図2では10個の1m長10cm幅の横長部材7に区画され、全体として正方形状をなす。
第2検出板6は、垂直方向Vに沿って所定幅W2で多数の縦長部材8、図2では10個の1m長10cm幅の縦長部材8に区画され、全体として正方形状をなす。
【0016】
前記横長部材7および縦長部材8は、それぞれ第1検出板5および第2検出板6の測定面が同一の場合、幅が狭く配設数が多いほど、ミュオンの貫通位置の測定精度が高まるため好ましいが、具体的には検出回路のコストや占有空間率などで制限がある。このため、各検出板5,6を構成する各部材7,8の配設数は、
5〜20個の範囲がより好適である。
【0017】
各横長部材7および各縦長部材8は、1個のプラスチックシンチレーター9と、該プラスチックシンチレーター9の一端に設けられた光電子増倍管10とを有し、図2で示すように、これらのプラスチックシンチレーター9および光電子増倍管10がアルミニウム製のケースに収納されている。
【0018】
金属部材4は、光や電子等のような軟成物バックグラウンド成分を除去するため、位置敏感検出器複合体2および3の間に配設される。
金属部材4としては、軟成物バックグラウンド成分を除去する金属部材であればよく、特に限定はしないが、例えば、鉄または鉄よりも重い金属からなる金属部材が挙げられる。しかしながら、コストの点で鉄部材を用いるのが特に好ましい。なお、鉄部材を用いる場合には、鉄部材の厚さを20〜200mmにすることが好ましい。鉄部材の厚さが20mm未満だと、軟成物バックグラウンド成分除去効果が認められなくなり、200mmを超えると、水平ミュオンの強度が変化してしまう。
【0019】
また、図2では、光電子増倍管10からの情報が、配線を介してNIM高速回路、CAMAC高速回路およびコンピューターに順次送られ、データ処理される場合を示すが、前方水平ミュオンの信号(F)と後方水平ミュオンの信号(B)とを区別するための手段として、各位置敏感検出器複合体2,3を構成する第2検出板6を水平ミュオンが貫通するy座標(垂直座標)の位置の上下関係から両信号(FとB)を区別する方法を用いる場合には、光電子増倍管10からの情報を、配線を介し、時間分解能が比較的低速(例えば0.1〜1マイクロ秒)の電子回路を経て、コンピューターに送って、データ処理すればよい。
【0020】
ところで、ミュオンは、宇宙から飛来する陽子を主体とする一次宇宙線がバーン・アレン帯及び大気を通過する際に発生して地表に降り注ぐ宇宙線の一種である。ミュオンは、中性子に次いで寿命が長く、重さは電子の約207倍で、+及び−の電荷を有する素粒子であり、他の粒子との間で電磁気力のみ作用するだけで、強い相互作用(核力)がない。従って、パイオンや陽子、中性子などのように電磁気力と核力の双方の強度減衰をもつものに比べ、物質貫通力が高く、また相互作用の解析も容易である。加えて、電荷があるために、シンチレーターなどの検出器で、100 %の検出効率を持つ。電子は同じ性質を持つが質量が軽いため、物質中ですぐに光に変わり、厚い物体では利用できない。
【0021】
本発明者らは、前記宇宙線ミュオンのうち、天頂角50〜90°の範囲で地表に降り注ぐ水平ミュオンの透過後の強度が、図3に示すように、他の天頂角のミュオンに比べて高いことを見出した。
【0022】
しかしながら、大気中には、光や電子等のような軟成物バックグラウンド成分が、ミュオンに対し数10倍程度存在し、さらに、水平ミュオンは、地表に降り注ぐ量が少ないため、水平ミュオンを用いて測定するには、軟成物バックグラウンド成分を除去する手段が必要である。
【0023】
このため、軟成物バックグラウンド成分を除去する手段を検討したところ、位置敏感検出器複合体2,3の間に、鉄のような重い金属からなる金属部材4を配設すると、1個の軟成分が第1(第2)の検出器複合体2を貫通してから金属部材4を通過すると、複数個の信号が第2(第1)の検出器複合体3に発生するという事実を用いて、軟成物バックグラウンド成分を有効に除去できることを見出し、その結果、この発明では、量が少なくバックグラウンドが大きいものの、透過後の強度が高い水平ミュオンを用いることを可能にした。
【0024】
次に、この発明に従う大型構造物11の内部構造情報を得る方法について以下に説明する。
まず、図4に示すように、高炉等の大型構造物11の測定対象部12に対向する側方の有限間隔位置に位置敏感検出手段1を配置する。
【0025】
位置敏感検出手段1は、宇宙から大気を通過して地表に降り注ぐミュオンのうち、水平ミュオンを用い、この前方水平ミュオンMが、大型構造物11の測定対象部12を貫通してから位置検出手段1を構成する位置敏感検出複合体2、2枚の鉄部材4、4および位置検出複合体3を順次貫通するように配置する。図中、一点鎖線は、前方水平ミュオンMの飛来軌跡である。
【0026】
このとき、前方水平ミュオンMは、貫通した第1検出板5および第2検出板6の位置から入射角αを算出し、この角度αから前方水平ミュオンMの飛来軌跡が特定され、これにより、前方水平ミュオンMの測定対象部での通過位置も特定される。
【0027】
第1検出板5および第2検出板6に到達したときのミュオン強度を色々なαについて、所定時間、例えば500時間で測定する。
【0028】
また、本発明では、前方水平ミュオンMの強度(F)を測定すると同時に、前記位置敏感検出手段1を挟んで大型構造物11とは反対側から、第2位置敏感検出器複合体3および金属部材4を貫通してから第1位置敏感検出器複合体2に到達する後方水平ミュオンMの強度(B)も同様な色々なαについて測定し、これら前方および後方水平ミュオンの同じαについての強度比(F/B)から大型構造物11の内部構造情報を算出することとした。これにより、高精度の内部構造情報を安定に得られる。
【0029】
さらに、2基の位置敏感検知器複合体2,3からなる位置敏感検出手段1は、大型構造物11の側方の有限間隔位置であって、その周りに異なる角度間隔で複数基、好適には90°間隔で2基配設すれば、トモグラフィックな観測が可能で、測定物である大型構造物の3次元断層像を得ることもできる。
【実施例】
【0030】
次に、この発明に従う方法を用いて大型構造物である高炉の内部構造を調べたので以下に状況を説明する。
高炉の測定対象部である炉床部に対向する側方の位置に、図4に示すように、測定系として、第1及び第2位置敏感検出器複合体2,3と、それらの間に配置した2枚の鉄部材4,4とで構成される位置敏感検出手段1を配置する。各位置敏感検出器複合体2,3は、1m長10cm幅の10枚の横長部材を水平方向に沿って配設した1m角の正方形状の第1検出板と、1m長10cm幅の10枚の縦長部材を垂直方向に沿って配設した1m角の正方形状の第2検出板とを重ね合わせて構成した。各横長部材と各縦長部材は、1個のプラスチックシンチレーター(バイクロン社製、品番BC−408)と、該プラスチックシンチレーター9の一端に設けられた光電子増倍管(浜松ホトニクス社製、品番H7195)とをアルミニウム製のケースに収納することによって構成した。各鉄部材は、それぞれ板厚5mmの鉄板を20枚重ねて総板厚10cmとしたものを用いた。なお、本発明では、位置敏感検出器複合体2,3の間に配置する鉄部材4,4は、1枚で構成してもよいが、1枚で構成すると重量の点から設置作業性が悪いため、上述したように複数枚の鉄板を重ねて構成してなる2枚の鉄部材で構成することが好ましい。第1位置敏感検出器複合体2と第2位置敏感検出器複合体3との配設間隔は1500mmとした。前方および後方水平ミュオンの強度比(F/B)から、透過するミュオンの経路ごとの強度変化をF/B比で表示している。縦横座標を宇宙線経路の角度α(mrad)で表し、図5(a)〜(c)に示す高炉の内部構造情報が得られることになる。
図5(a)〜(c)は、炉底高さが、基準位置から垂直方向位置0cm、−50cmおよび−100cmの位置に変化したときに、位置敏感検出手段1でそれぞれ水平ミュオン強度をシュミレーション計算し、図4に示す高炉の中心線上の直角断面(紙面に対し直交する断面)で見て、垂直方向角度を縦軸とし、水平方向角度を横軸として、高炉の内部構造の変化に対応するF/B比のミュオン経路当りの強度分布を示したものである。図5(d)は、それらをまとめて、平均F/B比と炉底高さとの関係を算出した結果をプロットしたものである。尚、図5(d)中の黒塗り四角印は、実際の高炉の炉底部厚さの測定値をプロットしたものである。
【0031】
図5に示す結果から、本発明の方法によって測定された高炉の炉底部厚さは、実際の高炉の炉底部厚さと一致しており、高炉の内部構造が非破壊で精度よく得られている。
【0032】
尚、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。特に、本発明では、大型構造物として高炉を例にして述べてきたが、高炉だけには限定されず、発電用ダム、橋脚、高架道路、船舶、車輌など、種々の大型構造物の内部構造情報を得ることができるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明によれば、大型構造物の内部構造情報を非破壊で正確に得ることができる。
また、この発明では、真上から降り注ぐ垂直ミュオンを検出する場合のように、位置敏感検出手段を穴を掘って配置するなどの空間的制限が少なく、大型構造物の側方の有限間隔位置に配置することができる。このため、1つの位置敏感検出手段の周りに、異なる角度間隔で複数基配設することも容易であり、このように複数基配設すれば、複数の異なる角度での切断面に対する密度長観測が可能で、測定物である大型構造物の3次元断層像を得ること(トモグラフィック観測)ができる。
【0034】
さらに、位置敏感検出手段を構成する測定系(計測回路系)について、シンチレーターからの高速パルスに対して、ナノ秒以下の高速電子回路を使用することにより、対象物である大型構造物を貫通する前方水平ミュオンの信号(F)と、丁度反対側の観測角度を持つ「空」の部分を貫通する(、言い換えれば物体を貫通しないで直接到達する)後方水平ミュオンの信号(B)とを区別して測定することができる。かくして得られるF/B強度比をデータとして取り込むことにより、きわめて安定なデータ取得をすることが出来る。加えてマイクロ秒以下の精度で絶対時間を付記してデータ取得を行うことにより、数々の実時間変化の追跡や、周期的な内部構造の時間変動に同期したストロボスコピックな解析を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】特許文献1記載の従来法を説明するための図である。
【図2】この発明に従う方法に用いるのに適した位置検出手段の概略構成例を示す斜視図である。
【図3】種々のミュオンを用い、物体の透過厚さと透過後のミュオン強度を示すグラフである。
【図4】測定対象物体である高炉と位置検出手段の相対的な位置関係を示した図である。
【図5】この発明に従う方法によって、図4の測定状況での高炉の内部構造の測定のシュミレーションを示す図である。色々な炉底高さに対してのシュミレーション結果で、実験結果との比較から炉底高さが決まる。
【符号の説明】
【0036】
1 位置敏感検出手段
2 第1位置敏感検出器複合体
3 第2位置敏感検出器複合体
4 金属部材
5 第1検出板
6 第2検出板
7 横長部材
8 縦長部材
9 プラスチックシンチレーター
10 光電子増倍管
11 大型構造物
12 大型構造物の測定対象部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型構造物の測定対象部に対向する側方の有限間隔位置に、測定系として位置敏感検出手段を配置し、宇宙からの1次宇宙線により大気でつくられ地表に降り注ぐ素粒子ミュオンが、大型構造物の測定対象部を貫通して、位置敏感検出手段を構成する測定系に到達したときのミュオン強度を所定時間間隔で測定し、前記ミュオン強度の通過経路ごとの分布を知ることによって大型構造物の内部構造情報を得る方法であって、
位置敏感検出手段は、水平方向に沿って所定幅で多数のプラスチックシンチレーターの横長部材に区画された正方形状の第1検出板と、垂直方向に沿って所定幅で多数の縦長部材に区画された正方形状の第2検出板とをもつ位置敏感検出器複合体を2基有し、
2基の位置敏感検出器複合体は所定間隔で配設され、
各位置敏感検出器複合体は、第1および第2検出板に到達したミュオンを同時計測して横縦のxy座標を特定するため、横長部材と縦長部材が直交するように配置され、
前記位置敏感検出器複合体の間に、鉄または鉄よりも重い金属からなる金属部材を配設し、
前記ミュオンのうち、天頂角50〜90°の範囲で地表に降り注ぐ高エネルギーの水平ミュオンを用い、
大型構造物の測定対象部を貫通して第1位置敏感検出器複合体に到達する前方水平ミュオンが、つづいて第2位置敏感検出器複合体に到達する際に、それぞれの到達位置をつないだ直線を逆にたどることで、前方水平ミュオンが貫通する前記測定対象部内の経路が特定され、
大型構造物の測定対象部、第1位置敏感検出器複合体および金属部材を順次貫通して第2位置敏感検出器複合体に到達する前方水平ミュオンの強度と、前記位置敏感検出手段を挟んで大型構造物とは反対側から第2位置敏感検出器複合体および金属部材を順次貫通して第1位置敏感検出器複合体に到達する後方水平ミュオンの強度の双方を同じ位置敏感検出手段で測定し、前方および後方水平ミュオンの強度比から大型構造物の内部構造情報を得ることを特徴とする多重分割水平ミュオン検出手段を用いて大型構造物の内部構造情報を得る方法。
【請求項2】
位置敏感検出手段は、大型構造物の側方であって、その周りに異なる角度間隔で複数基配設することを特徴とする請求項1記載の大型構造物の内部構造情報を得る方法。
【請求項3】
大型構造物の内部構造が時間と共に変化する場合、測定される全てのデータに、コンピューターで記録する際に、絶対時間をマイクロ秒以下の精度で付記することにより、大型構造物の動的内部構造情報を得ることを特徴とする請求項1または2記載の大型構造物の内部構造情報を得る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−284329(P2006−284329A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103681(P2005−103681)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】